
SCP-5624の非異常なコピー
アイテム番号: SCP-5624
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-5624はサイト-59の標準的な収容ロッカーに保管されます。実験はネイスミス管理官の承認を受けて許可されます。2021/5/20以降、如何なる状況でも、SCP-5624を写真と重ね合わせてスキャンすることは認められません。
説明: SCP-5624は眼鏡をかけた男性の小さな戯画がグレースケールで描かれた2cm×6cmの切り絵です。SCP-5624の分析結果は、この画像がインクジェットプリンターで印刷されたことを示しますが、SCP-5624のインクジェットコピーはオリジナルの異常性を帯びません。
SCP-5624をコンピュータスキャナーで別な画像に重ね合わせると、そのスキャンは本来の内容から改変されます。
この効果は新聞連載漫画などの、最低でも2体の“キャラクター”が描写されている画像において最も顕著に表出します。SCP-5624が存在する画像では、キャラクター間の争いが打ち消されるか、健全な展開や感謝の念などの新しい要素が導入されます。この効果を発現させるには、SCP-5624を画像の空白部分に重ねる必要があります。
回収ログ: SCP-5624は、その異常性によって改変された一連の新聞連載漫画を掲載していたTumblrのウェブコミックブログ “グッドタイムズさんと多元宇宙の平和の探求” が切っ掛けで財団の注意を喚起しました。調査に続いてブログは閉鎖され、運営者は記憶処理され、SCP-5624は押収されました。
補遺1 — 当初のウェブサイトにおけるSCP-5624改変の例
漫画シリーズ | 本来の内容 | SCP-5624の配置 | 結果 |
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ロックホーンズ | リロイ・ロックホーンがリクライニングチェアに座っている。妻のローレッタ・ロックホーンはそれに文句を言っている。コマ下のキャプション: “この彫刻の題名は「くつろぐ失望」ってところね。” | ローレッタのすぐ右側の空間。 | リロイとローレッタは抱擁し合い、微笑みながら泣いている。ローレッタが発言している。コマ下のキャプション: “ああ、私たちってダメな夫婦よね? でも他にどうしようもないんだわ。” |
カルビンとホッブズ | カルビンの父親が冬場に帰宅する。庭先には、幾つかの殺害されたような形状の雪ダルマと、熱狂的な表情で笑う魔法使いの雪像が配置されている。カルビンの父親は心の中で思う: “どうやら学校じゃカルビンに十分な宿題を出してないらしいぞ。” | 自家用車の隣の雪の中。 | カルビンと父親は協力してより陰惨な死にざまの雪ダルマを作る。カルビンが発言する: “内臓を忘れないで。スノーストラダムスは敵を見せしめにするのが好きなんだ。” カルビンの父親は心の中で思う: “何が足りないのか分からなかったよ!” |
ガーフィールド | ジョンは交際相手の1人に電話を掛ける。拒絶されたジョンは電話を切ってすすり泣く。ガーフィールドが心の中で思う: “407回目の電話はやり過ぎだったんじゃないかな。” | 中央のコマ、ジョンの背後。 | ジョンは1コマ目で電話に向かって“…いや、気にしないでくれ、興味無いんだ”と発言する。電話を切った後、ジョンはガーフィールドを抱きしめ、“女の子と付き合う必要が何処にあるんだ? 僕が求める愛は全部ここにあるよ”と言う。ガーフィールドは微笑み、“その通りだ”と思う。 |
ピーナッツ | スヌーピーが犬小屋の屋根に座り、第一次世界大戦でドイツ軍のエースパイロット “レッドバロン” と戦っているふりをしている。 | スヌーピーの横の空。 | スヌーピーはピッケルハウベを被った同じ容姿の犬と握手し、ナレーションをしている。“ついにドイツ皇帝ヴィルヘルム2世との和平を成立させ、僕らの英雄は明るい未来への希望を胸に故郷へ帰る。ヨーロッパを呑み込んだ無意味な血みどろの年月が終わりを迎えたことに、世界中が喜んでいる。” 背景では、ルーシーがチャーリー・ブラウンにフットボールを蹴らせているのが見える。 |
補遺2 — 財団実験下におけるSCP-5624改変の例
画像 | 本来の内容 | SCP-5624の配置 | 結果 |
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アルテミジア・ジェンティレスキの絵画 “ホロフェルネスの首を斬るユディト”の写真コピー。 | ユディトと侍女が協力し、眠っているホロフェルネスの首をナイフで切断している。 | 背景。 | 涙を流し、悔い改めた様子のホロフェルネスがユディトの前に跪き、武器を彼女の足元に置いている (ユディトの故郷であるベトリアの町を滅ぼそうとしたのを謝罪していると推定される) 。ユディトもまた涙を流し、ホロフェルネスの肩に慈悲深く手を乗せている。 |
第一次世界大戦期のプロパガンダポスターの写真コピー。 | “この狂獣を打ち倒せ” — 唸り声を上げている表情の類人猿が“軍国主義”と記されたヘルメットを被り、“ドイツ文化”と記された血まみれの棍棒を持ち、半裸の女性を腕に抱えている — “入隊せよ - アメリカ軍” | 背景。 | “お猿さんに優しくね” — 笑顔の類人猿が“おさるぼうし”と記されたヘルメットを被り、サブマリン・サンドイッチを持ち、半裸の女性から毛づくろいされている — “彼らは最善を尽くしています” |
D-59183及びD-29387を映した写真。SCP-5624の実験のため、21/5/19にサイト-59で撮影。 | D-59183とD-29387は指示に従い、何も無い部屋に並んで立っている。 | D-59183の左側の空間。 | D-59183は死んでおり、D-29387は死体の横に跪いてすすり泣いている。 [補遺3を参照] |
補遺3 - 写真を用いた実験の一時停止
21/5/20、写真がSCP-5624と共にスキャンされた直後に、D-59183が独房で死んでいるのが発見されました。死因は黒インクによる溺死と断定されました。D-59813は発見の2時間前に他の実験に参加していたという報告が確証されているにも拘らず、死体の腐敗状態はD-59813が少なくとも17時間前 — 写真が撮影された時刻 — には既に死亡していたことを示しました。
日付: 21/5/20
質問者: チャールトン研究員
回答者: D-29387
<記録開始>
チャールトン: 昨日の写真について幾つか訊きたい事があります。
[D-29387は写真と聞いて身震いするが、無言のままである。呼吸が速くなる。]
チャールトン: もし協力の意思が無いようであれば-
D-29387: 失せろ。何が起きたか知ってるはずだ。お前は撮影の時あそこに居たんだからな。
チャールトン: 居ましたが、写真には写っていません。あなたは写りました。あなたが見たものと、私が見たものは、全く異なっていると信じる理由があります。
D-29387: 俺がイカれたと思ってるのか?
チャールトン: 私はその判断を下せるような学位を持っていません。ここであなたを裁くことはありません — とは言え、あなたの身に起きた出来事の話をするまでは、この部屋から出られませんよ。
D-29387: クソがよ。オーケイ、分かった。何処から話せばいい?
チャールトン: 写真に写ったあなたたち2人のうち-
[D-29387が泣き崩れる。]
チャールトン: …D-59813に何があったかを知っていると取っていいのでしょうね。
D-29387: ブラッド。
チャールトン: Dクラス職員の本名は機密扱いです。
D-29387: あいつから聞いた。
チャールトン: 記録によると、あなたとD-59 — ブラッドが知り合ったのは写真撮影の時で、それ以前の接触は無かったそうですね。それなのに — 親しかったのですか?
D-29387: あいつがいたから俺はあそこを出られたんだ。
チャールトン: 写真が撮影された部屋を?
D-29387: 違う。俺たちが引きずり込まれた場所だ。少なくともそこまではお前だって見てたかと思った。
チャールトン: だからこそ、あなたが見たものを知りたいのです。
D-29387: どれだけの時間が流れたか分からない。脱出した時には、ほんの一瞬しか過ぎてなかった — でも最低でも数ヶ月は過ごしたに違いないんだ。どうもあの湖に居た奴らの何人かは、グッドタイムズさんが“認めてくれる”まで自力で脱出するのを先送りにしてたみたいだ — ブラッドは代わりに道を切り開く方法を俺に教えてくれた。あいつは出る時にグッドタイムズさんを攻撃しようとすらしたんだ — 勿論、上手くいかなかったけどよ。
チャールトン: その“湖”についてもっと詳しく教えてもらえますか?
[D-29387はためらう。]
D-29387: …少し時間をくれ。まだ記憶が生々しい。
チャールトン: 急がなくて結構です。話題をちょっと変えてみましょう — “グッドタイムズさん”とは何者ですか? 眼鏡を掛けた男性でしたか?
[D-29387は頷く。]
チャールトン: もしかして、彼の見た目は-
D-29387: -漫画のキャラみたいだった。怒ってる声ではなかった、ただ“助けに来たよ”って言って俺たちをあの小さい湖に引きずり込んだ — その間もずっと笑顔だった。湖は… 冷たかった。湿ってた。地面は黒い泥で分厚く覆われてて、俺たちの服を汚した。空は真っ白だった。新聞紙とか血みたいな臭いがした。地平線は無くて、ただただ黒と白が続いてるんだ。足元の泥の感触はしっかりしてたが、先に行けば行くほど飲み込まれていって、腕が次々に伸びてきて…
[D-29387はためらい、冷や汗を流し始める。]
…あのな、俺はこんな目に遭うまでブラッドを知らなかった。だけど、あれだけ長い間、誰かと一緒に湖から出ようと頑張ったら、その誰かはそれこそ兄弟同然になるのさ。湖の外側で抱えてた問題は全部どうでも良くなる。あそこにあるのは逃げるための戦いと — 脱出できたらどうするかって夢だけなんだ。
こんな言い方をすると、まんまとグッドタイムズさんの教育方針に乗せられちまった気もするけどな。
チャールトン: 教育方針?
D-29387: “お互いに仲良くしなさい。嫌なら死ね。”
<記録終了>