事件記録: 568-JP-は-11
日付: 1994年6月16日
場所: ノルウェー海・ヤンマイエン島沖東北東300km
序文: 1994年█月██日のSCP-568-JP発信事例内に存在した会合を示唆する内容の調査のため、財団所属情報収集艦SCPSウービル(当時セヴァストポリ港に停泊)の派遣が決定された。ウービルは補給の遅延や機関故障といったトラブルに見舞われたもののおおむね予定通りに航行し、当任務における指令伝達を担当する第38有人センサ支局との通信態勢を確立。記録開始の時点で、目標区域中心部の会合座標までおよそ██kmの距離まで接近していた。
<23:25>
第38センサ支局(以下支局): こちらCRS38。ウービル聞こえますか?現状報告を願います。
SCPSウービル(以下ウービル): こちらウービル、感度良好。機関の応急修理は完了した。目標区域到着まで20分。既にレーダーにて会合座標周辺に民間船を発見、目下その身元と目的を確認中。
支局: 了解しました。判明しだい報告を願います。
<23:31>
ウービル: こちらウービル、CRS38どうぞ。
支局: こちらCRS38です、どうぞ。
ウービル: 目標区域内に存在する船は8隻。うち5隻はノルウェー船籍、4隻のトロール漁船と個人所有のプレジャーボート。それとロシア船籍の小型貨物船が2隻。皆ラジオを聴いてここに来たと言っている。残り1隻は通信への応答なし、船体長約80mと推測されるがそれ以外は一切不明。
支局: 該当船舶のAISは確認しましたか?
[およそ10秒間沈黙]
ウービル: 発信なし。スカンクは停波しているか、そもそも載んでいないのかもしれない。
支局: 了解。敵対的GoIの可能性を考慮して監視を継続してください。
ウービル: 了解。目標区域到着まであと10分。
<23:38>
ウービル: こちらウービル、CRS38どうぞ。
支局: こちらCRS38です。異状ありましたか?
ウービル: こちらに……会合座標へ向かっている船団が現れた。30m未満の小船が26隻。本艦だけでは捌ききれそうにない。
支局: ウービル、既にドワイトソンがハーシュタから急行中です。予想合流時刻はゼロ・ゼロ・ツー・ファイブ・ズールー。現在は会合座標への到着を優先してください。
ウービル: 了解だ、ありがたい。到着後のカバーにはブラボー・チャーリー・ゼロ・スリーを使用したいが、問題ないか。
支局: ブラボー・チャーリー・ゼロ・スリーですね、問題ありません。ドワイトソンにも伝えます。合流後の偽装交信を忘れないように。
ウービル: [小声で]パイクに泳ぎを教えるな。
支局: もう一度繰り返していただけますか?
ウービル: いや、なんでもない。了解だ、上手くやるさ。
[23:47にウービルは会合座標に到着。翌日00:19にドワイトソンが目標区域に到着し、機関故障のためロシア海軍艦が漂流中というカバーストーリーを流布、区域内の船舶34隻を全て退去させた]
<00:24>
ウービル: KNMトロンハイム、こちら████・████大佐。ソビエト連邦海軍艦艇ユピテルの艦長である。貴船の迅速なる到来と民間船への安全措置に感謝する。
ドワイトソン: こちらはノルウェー海軍████・███・███████中佐、現在KNMトロンハイムの指揮を執っている。ユピテル、援助は必要か?
ウービル: 否定。独力にて修理可能なるも要する時間は未定である。
ドワイトソン: 了解した。本艦は海事法に則り、現位置で警戒に当たる。
ウービル: トロンハイム、貴船の協力に感謝する。安全なる航海を祈る。
[機密保持のため両艦は以後交信せず、秘匿周波数帯を通じて各個に支局より指示を受けて行動する。上記の交信の後、両艦から支局へ15分ごとに定時報告が行われた]
<00:54>
支局: こちらCRS38。ウービル、定時報告を願います。
ウービル: こちらウービル、一点を除き異常なし。
支局: 続けてください。
ウービル: 当直が先程プロペラ機の飛行音を聞いたと主張しているが、レーダーには何も映っていない。
[支局は即座にドワイトソンへ確認を取ったが、こちらの対空レーダーにも機影は捉えられていなかった]
支局: CRS38よりウービル、ドワイトソンもボギーを確認していません。
ウービル:了解した。ワッチの空耳だったのかもしれないが、念のため迎撃の許可を求む。
支局: ウービル、現時点では許可できません。状況の急変に備え即応態勢を維持してください。
ウービル: 了解、引き続きコンディション・ゼブラで待機する。
[両艦から特筆すべき報告のないまま約3時間が経過。この日の日出時刻は03時03分、天候は雨天]
<04:11>
ドワイトソン: CRS38応答せよ。こちらドワイトソン、CRS38応答せよ。
支局: こちらCRS38、ドワイトソンどうぞ。
ドワイトソン: 目標区域上空にボギーが一機出現。"進入"ではなく、"出現"した。レーダーには捉えているがそれ以外では捕捉できない。ウービルはどうか?気付いているか?
支局: こちらで確認します。貴船は引き続き警戒に当たってください。
ドワイトソン: アイ、アイ。
支局: こちらCRS38、ウービル聞こえますか?
ウービル: こちらウービル、何かあったか?
支局: ドワイトソンが目標区域上空でボギーを発見しました。そちらでも確認していますか?
ウービル: ボギー、飛行機か?船ではなく?
支局: 船ですか?そちらでは船舶を確認したのですか?
ウービル: 船だけだ。レーダーでは捕捉しているが荒天のため視認はできない。放射電磁波形から見て到着前に区域内にいた例のスカンクと思われる。真北からレーダー圏内に進入し18kmの距離まで接近してきた。現在は距離を維持したまま、本船を中心に微速で時計回りに周回航行中。
支局: 了解しました。監視を継続してください。交戦した場合は自衛のみを許可します。あくまで情報収集が最優先です。貴船への攻撃を確認しだいドワイトソンが報復を行います。
ウービル: 了解。だがこちらはさらに荒れてきた。肉眼でのワッチは正直厳しい。
支局: CRS38よりドワイトソン、現位置から南南東へ7km移動し、戦闘操艦で待機してください。また、現場海域を不審船舶が航行中とのことです。警戒してください。
ドワイトソン: ドワイトソン了解。南南東へ7km移動し戦闘操艦で待機、ウービルの支援に当たる。
<04:14>
ウービル: こちらウービル。ボギーをレーダーで捕捉した。低速でこちらに接近してくる。
支局: 了解しました。情報収集を続けてください。
ドワイトソン: こちらドワイトソン、目視でボギーを確認。記録のためファイブ・カウントを取る。
[およそ15秒間沈黙]
ドワイトソン: 5、4、3、2、1、ボギー、フライ・バイ。その際に何かを投下した模様。
ウービル: こちらウービル、ボギーが上空を通過。ボギーは赤色のレシプロ双発機、現在撮影した画像を元に機種を識別中。
支局: ボギーが何かをそちらに落としたという報告を受けていますが、被害などありませんか?
ウービル: 現時点ではまだない。ブツは後部甲板に落ちたようだ。こちらも確認しだい報告する。
支局: 了解しました。ボギーの機種と落下物の詳細について、後ほど報告を願います。
ウービル: ああ、待ってくれ、たった今落下物の検分が完了した。ボギーの置き土産は、麻袋。
支局: 麻袋?
ウービル: そうだ。野菜やコーヒー豆を運ぶのに使う無地の麻袋。中にはジャガイモが詰まっていた。
支局: それだけですか?袋本体やジャガイモに特異な点はありませんか?
ウービル: それはまだ分からない。何か判明すれば追って報告[ノイズ]
[6秒間に渡って大音量のハムノイズが入り、交信が妨害された]
ウービル: CRS38、今のは?
支局: こちらではありません。ともかく、早急に分析結果の報告をお願いします。
ウービル: 了解。
<04:26>
ウービル: ウービルよりCRS38、応答願う。
支局: こちらCRS38。分析結果は?
ウービル: ロッキード10・エレクトラの改造機、あるいはその系列機だろう。
支局: 改造の内容と目的は推測できますか?
ウービル: 胴体が若干延長され、客室の窓は一番後ろの一つを除き全て撤去。そして胴体左側に大型ドアが増設されている。みな輸送機として運用するための改造だろう。イモ袋はここから落としたんだな。
支局: 分かりました。ボギーの現在位置は?
ウービル: 西北西へ転針、現在スカンクの方向へ直進中……待て、レーダーからまた消えた。
[この交信の直後、周波数帯3105kHzにて以下の発信が確認された]
<04:27:03>
ボギー: こちらシプヒア(Sciphere)、ユピテルへ。あなた達からの返信が欲しいわ。こちらは高度1000フィートを飛行中。
<04:27:22>
ボギー: ユピテルへ、私達はあなた達の上にいるはずだけれど、あなた達が見えない。無線通信も聞こえない。
<04:27:37>
ボギー: 私達は今[編集済]上を旋回中。6210kcでこのメッセージを繰り返します。聞き続けて。
<04:28>
ウービル: ウービルよりCRS38へ、3105kHzにてボギーからと思われる発信を確認。交信すべきか?
支局: こちらでも確認しました。当面はワッチと記録のみ行ってください。
[支局での分析の結果、ボギーからの通信がSCP-568-JPと同様の異常特性を備えており、かつその声質は『リンディ』と酷似していることが判明。直ちに本局への転送と速記による記録が開始された]
<04:30:12>
ボギー: 怪しいわよね(Questionable)。
<04:30:41>
ボギー: 私達は北から南へ飛行中。
<04:31:18>
ボギー: 私達は北から南へ飛行中。
支局: CRS38よりウービルへ、3105kHzにおいてボギーとの偽装交信を許可します。可能な限り情報を引き出してください。
ウービル: こちらウービル、了解した。ゼロ・フォー・スリー・ファイブより交信に入る。
<04:35>
ウービル: こちらソビエト連邦海軍艦艇ユピテル、シプヒア応答せよ。
[5秒間の沈黙]
ウービル: こちらソビエト連邦海軍艦艇ユピテル、シプヒア応答せよ。
ボギー: こちらシプヒア、シグナル良好よ。初めまして、ユピテル。
ウービル: シプヒア、そちらの所属と発信の目的を述べよ。
ボギー: ここは公海よ、何したって文句言われる筈ないわ。海図古かったかしら?44年のなんだけど。
[この時点でウービルの応答者は通信士から艦長に交替した]
ウービル: 国連海洋法条約109条および110条に基づき、我々は海上警察権を行使して海賊放送を取り締まることができる。貴女のような海賊をね。
ボギー: あら、どうしたの通信手殿?人が変わったみたいよ。
ウービル: 私は████・████大佐。この船の艦長です。
ボギー: あらあら!これは艦長殿!失礼しまして!
ウービル: 手短に伺いたいのだが、あなた方は何を目的として活動しているのですか?
ボギー: こちらシプヒア。やだ、緊張しちゃうわ……。私たちはたまたま通りがかっただけ。旅行中なの。
ウービル: 本船の周囲にいる船は、貴女のご友人ですか?
ボギー: そうね……友人と言うよりは仕事仲間ね。広い意味で。
ウービル: 貴女とご友人はどんなお仕事をしているのですか?
ボギー: 探検とそのお手伝い。私はお手伝い専門ね。まあ、裏方よ。
ウービル: 探検?どこを探検するのですか?
ボギー: まだ見ぬ世界のどこへでも。海にも空にも、謎と未知がいっぱいよ。
[この時ドワイトソンの前をスカンクが横断した。以下は同時刻のドワイトソンと支局の交信]
ドワイトソン: ドワイトソン、スカンクを目視で確認。重武装の水雷艇だ。造りは古いがまるで要塞だな。
支局: 発砲する様子はありませんか?
ドワイトソン: 今のところはない。兵装類は全て沈黙しており、乗員の動きも見られない。
[2分経過]
ドワイトソン: スカンクは12度右転し本船へ船尾を向けた。艦番号や船名は確認できず。
支局: ドワイトソン、現位置で警戒を続けてください。
ドワイトソン: 了解……しかし、あれはひどく揺れていた。今にも横転しそうだった。外洋向きじゃないな。
[交信ここまで]
ウービル: よく分からないな。
ボギー: いいえ艦長殿、貴方とそのお仲間ならきっと分かるはずだわ。だって今ここにいるのだもの。
ウービル: はぐらかすのは止めてほしい。
ボギー: 私は大真面目よ、艦長殿。あなたたちはここに集まったちっちゃな船をみんな追い払ってみせたし、いかにも怪しい私にも声をかけてくれたわね。そうする理由があったからよね?シプヒアはそれを求めているのよ。そんな人こそがシプヒアに相応しいのよ。……あら、あと20分くらいかしら。
ウービル: いったい何を話しているんだ。
ボギー: シプヒアを形づくる71パーセントについてよ、ヴァーニャ。
ウービル: シプヒア、交信を一度中断する。少し待っていてくれ。
ボギー: 了解、あまり時間はないけれど……ごめんなさいね、あと10分だったわ。
[艦長は乗組員5名に記録の複製と回収した麻袋を持たせ、搭載艇でウービルから脱出させた]
<04:53>
ウービル: こちらユピテル、シプヒア応答せよ。
ボギー: そうね、貴方は艦長の務めを果たしたと思うわ。やっぱり貴方は71パーセントよ。あと1分。
ウービル: そのカウントは何だ?何を待っているんだ?
ボギー: 少し揺れるけど、我慢してちょうだいね。
<04:55>
ドワイトソン: ドワイトソンよりCRS38、ウービルとボギーが同時にレーダーから消失した。確認を求む。
支局: こちらCRS38、ウービル応答してください。こちらCRS38、ウービル、応答してください。
<記録終了: 6月16日04時55分08秒>
最終陳述: 同日05時10分よりドワイトソンが会合座標周辺の捜索を行ったが、発見されたのはウービルの搭載艇1隻のみであった。記録類は手提げ金庫に収められた状態で問題なく保管されていたが、ジャガイモ入りの麻袋は発見できず。艇の乗員5名に個別聴取を行ったところ艦長の命で間違いなく麻袋を積み込んだと全員が答えたが、その消失について記憶している者は皆無であった。
対象: 財団船舶SCPSウービル艦長 ショータ・タリエル(彼は唯一の乗船者であった)
インタビュアー: エージェント・カウフマン
<録音開始>
エージェント・カウフマン: お疲れのところ申し訳ありません。どうぞお掛けになってください。
艦長: ありがとう。私も忘れないうちに記録にしてもらいたいと思ってたところだ。
エージェント・カウフマン: それでは始めましょう。まず、あなたは二日間行方不明となっていました。
艦長: そのようだが、私の感覚では一日と少ししか経っていないね。
エージェント・カウフマン: その間に何が起こったのか話していただけますか?
艦長: ああ、多少記憶の抜けがあると思うが。どこから話せばいいのかな。
[エージェントはヘッドセットを通じて別室でモニタリング中の███████博士と協議]
エージェント・カウフマン: 記録と麻袋を積んだ小艇を下ろした直後から説明をしてください。
艦長: ああ……カッターを下ろした後にボギーから「あと一分」というような通信が入って、その後船が突然縦揺れを始めた。そのときブリッジの窓は白ペンキでもぶちまけられたように何も見えなくなって、揺れはしばらく……一分くらいで止まったが、今度はエレベーターのように上へ昇っていく感覚があった。それは私だけでなく、船員はみな感じていたと思う。
[両者はおよそ5秒間沈黙]
エージェント・カウフマン: 続けてください。
艦長: 昇る感覚は数分の間続いた。私はすぐに各部署へ現状を報告させたが、異常といえばトイレの便器と新入りの一人が揃って中身を戻したくらいだった。[苦笑]
エージェント・カウフマン: その後、どうなりましたか。
艦長: 大事なのはここからだ。[テーブルを両手で軽く叩く]上昇感覚は急に消えて、その後すぐに窓のペンキが流れ落ちた。そこは真っ青な……[溜息]境目がわからないくらい青い空と海があって、目の前には大きな船、船といっていいのかな……が浮かんでいた。
エージェント・カウフマン: その時の状況を、詳しく教えてください。
艦長: だから、気がついたら目の前に馬鹿でかい灰色の船が横を向いて浮かんでいたんだ。ああ、正確に言えば目の前じゃなく10時の方向にいた。言うのを忘れてたが、前後両方に同じ形の艦橋が立っていたから左右は判別できなかった。艦番号の類もなかった。船体のちょうど真ん中に煙突が4つあって、その右隣に三脚マストが立っていたが、これも大きかった。クルーの概算ではマストが約120メートル、船体全長はおよそ600メートル。艦橋もだいたいマストと同じくらいだった……話を続けてもいいかな?
エージェント・カウフマン: 続けてください。
艦長: しばらくすると無線に通信が入った。流暢なロシア語で『10ノット以上の速度でそのまま直進せよ』と。私達は従うほかなかった。機器は全て快調に動き、ウービルは11ノットでデカブツの横腹にまっすぐ突っ込む形になった。いや、実際突っ込んだと思う。そのはずなんだが。
エージェント・カウフマン: 何が起きたのですか?
艦長: 気がつけば私は船を下りて一人だった。なんだか随分豪華な部屋にいたんだ。赤い絨毯、金色のシャンデリア、ガラスでできた燭台みたいな置物。ただ窓が丸かったからあれは船室だったと思う、あの船の。すぐに綺麗な女性、君よりも年上かな……が入ってきて、あー、その、とにかく船内を案内してもらって、博物館みたいな大きな区画でいろいろなものを見た。群れてタコみたいに振舞うトルコ石の欠片、脳ミソをドーナツみたいに並べたクソッたれバリア装置、どでかい岩の中を動き回る三葉虫、それと、あと……[艦長はうつむき10秒間沈黙]
エージェント・カウフマン: 船の外には出ましたか?
艦長: [顔を上げる]出たとも!博物館を見たあと食堂に行って、魚のフライのランチと『ヒイク・ブルー』ってカクテルを一杯貰って、それから彼女と甲板の上を自転車に乗って見て回ったんだ。甲板には砲塔や機銃なんかが一切なくて、ただ平たかった。船の中心線上に建ってる艦橋やクレーンの周りだけは数メートル盛り上がってたが、それを除けば木甲板だけがずっと先まで続いている。彼女の話だとあの船は記念艦だと言ってたかな。それで武器を下ろして……そうだ、そのときに見たこともない船を見た!右舷側の後ろに接舷していたんだ。彼女達が造った実験艦だと説明されるまで、私は船のような形に見えるだけの、コンクリートで装甲された水上コンビナートか何かだと思ったくらいだよ。ええと、それは表面の大半がつや消し灰色のもので覆われているんだが、ところどころ切れ目があって、そこから人間よりずっと大きな図太い配管や、アンテナや、円筒形のタンクが見えた。だからコンビナートとコンクリートに例えた。わかるか?
エージェント・カウフマン: はい、続けてください。
艦長: それがなんのために造られたかは忘れてしまったが、船名は少しだけ覚えている。『なんとかかんとかマル』だ。あんなところでマル・シップを見るとは思わなかった![笑い]まあ、私の知る『マル』は全部商船で、戦闘艦は初めてだったがね。ああ、見学したのはこれで全部だったと思う。後は日暮れから少し経って早めの夕食を摂り、ヒイク・ブルーを今度はしこたま飲んだ。そして最初の部屋に戻ってベッドで寝て……目覚めたら海を漂っていた、というわけだ。
エージェント・カウフマン: なるほど。見学の途中、他の乗員には会わなかったのですか?
艦長: 一度も。付き添いの彼女以外、生き物は全く見ることがなかった。海鳥も、ネズミも、羽虫も。今思うとおかしいんだが、その時はまったく違和感を持たなかった。一応私も彼らの行方を聞いたんだが、彼女は『あなたと同じように見学をしている』と言っただけで、裏付けはまるでない。クルーもだが、ウービル自体も見ていないな。あの船に回収されたのか、海上に捨て置かれたのか……
エージェント・カウフマン: あなたはもう一度あの船に乗りたいと思いますか?
艦長: いや、財団に籍を置いてることは私の誇りだし、できればずっとそうでありたい。今回はまあ貴重な経験をさせてもらったが、私が自ら彼らの元へ行くことはないよ。
エージェント・カウフマン: 正直におっしゃってもらって構いません。この質問は形式的なものですから、回答内容は重視されませんよ。
艦長: 不要なことを聞く奴がいるもんかね、録音までしておいて。ただ、気になることは一つある。
エージェント・カウフマン: どうぞおっしゃってください。
艦長: 別れ際に『すぐに迎えをよこす』と言われた気がするんだ。もしもう来ているなら、早いとこ返事をするよう君の上司に言ってくれないか。私の意志じゃなく、組織としての総意を、彼らに。返事を待たすのは失礼になるし、彼らに無礼を働くのは……後々、面倒なことになると思うよ。
<録音終了>
終了報告書: インタビュー中の言動からタリエル艦長はC種特定職員に認定されレベル0に降格、ならびにクラスB、C記憶処置が複数回行われましたが、いずれの場合も本件に関連する記憶のみが72時間以内に必ず復元してしまうため、現在はサイト-81██病棟区画内で無期限の拘留状態にあります。
該当職員への面会およびインタビューを行う場合はレベル3職員2名以上の承認と立会いが必要です。