クレジット
タイトル: SCP-574 - お前の家は俺の家
翻訳責任者: C-Dives
翻訳年: 2024
著作権者: Ruskied
原題: SCP-574 - What's Your Home is My Home
作成年: 2024
初訳時参照リビジョン: 9
元記事リンク: ソース
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特別収容プロトコル: SCP-574が存在する土地は、財団フロント企業 “スン・コントラクター・プロパティーズ” (Seung Contractor Properties) によって買収されています。SCP-574のドアと窓は全て板張りされています。警備員2名が境界線を巡回して民間人の侵入を阻止し、収容違反の発生時には初期対応者として行動する必要があります。
SCP-574の外部に駐在する警備員は、SCP-574-1の発生を防ぐため、24時間ごとに2頭の鎮静されたブタ1をSCP-574に供給します。SCP-574には現在、東側の壁に設けられた搬入口からのみ入場可能です。給餌の際を除いて、この搬入口は二重施錠されたチェーンとキーパッドで封鎖する必要があります。
SCP-574-1実例の発生時には、機動部隊プサイ-7 “リフォーム屋”が全実例の解体を担当し、生存者にはスン・コントラクター・プロパティーズから代替の住居を提供します。
説明: SCP-574は韓国の浦項ポハン市にある6階建ての商業施設です。SCP-574の内装は、建造物全体に無作為に配置された雑多な家具類から成っています。建造物に電気が通っていないにも拘らず、内部にある全ての家電製品に電力が供給されています。
SCP-574の内部に30分間連続して留まった動物は、床や壁と融合し始めます。影響を受けた動物はまず関節がこわ張り、次に不随意的な筋肉痙攣を起こしますが、被影響者はこの痙攣を“心地良い”ものだと主張します。この感覚が表出してから4分後、被影響者は干渉不可能な磁力によって床、壁、もしくは天井に対して平坦に押し付けられます2。その後2時間かけて、被影響者の身体は表面全体へと広がり、その化学組成も木材、コンクリート、プラスチックなどの周辺に見られる材質へと変化します。
24時間ごとに700kgの生きた動物が供給されない時、SCP-574は他の建造物に“感染”し、SCP-574-1実例へと変換することによって栄養を得ようと試みます。
補遺-01: SCP-574-1
SCP-574-1は、SCP-574の特徴を取り入れるように改変された既存の建造物です。SCP-574-1実例になった施設は、SCP-574本体と同じ異常性を発現させます。その後、SCP-574-1はSCP-574の付属施設として機能し、取得した栄養をSCP-574に転送します。どのように施設間で資源の転送が行われているかは、現時点では不明です。
SCP-574がSCP-574-1実例を生成できる範囲は判明しておらず、最大で約1000kmと考えられています。記録上最も遠距離に発生したSCP-574-1実例群は、中国の麟遊県南部の少数民族居住地区に密集していました。SCP-574は自らの半径10km以内にある建造物を標的にしたことがなく、これは自己防衛の一形態だと仮定されています。
低所得地域は、不動産価格、家賃、関連する税金の急激な高騰のため、SCP-574の蔓延に対して最も脆弱であることが確認されています。放置されると、SCP-574-1実例は拡大してコロニーを形成し、周辺地域の住民に更なる経済的負担を掛けます。
SCP-574-1への変容プロセスは30秒から10分程度で完了します。結果として生じる内装は常に商業店舗の形を取り、記録されている例にはヘアサロン、ノレバン3、屋内屋台市、インターネットカフェ、チェーンレストラン、ホテル、整形外科クリニック、自動車ディーラー4、ストリップクラブ、旅館、バー、鍼灸院、カラオケ店などがあります。

SCP-574の3階。
SCP-574-1変容プロセス中に建造物内にいた人物は、不可逆的に“ウプシロン”実体へと改変されます5。ウプシロン実体は完全な機能性を有する自律装置であり、外見上は平均的な人間と同一です。全てのウプシロン実体は所属施設と合致する商業活動用の制服を着用しています。ウプシロン実体の体内組成は、水銀を混ぜた楮紙で作られた一連の折り紙の網で構成されています。SCP-574-1から除去されると、ウプシロン実体は恒久的に全ての機能を喪失します。
ウプシロン実体は普通の人間と類似する行動パターンを示します。性格は擬態している職業によって大きく異なり、幅広い強要戦略を用いて来客をできる限り長くSCP-574-1の店内に留めようとする様子が度々記録されています。ほとんどの事例で、ウプシロン実体は、訪れた顧客が“幸運”であり、娯楽サービスの割引または“デラックス待遇”に当選したと主張します。現在まで、ウプシロン実体が人間に暴行を加えたり、その他の手段で身体的危害を及ぼそうとしたことはありません。
補遺-02: 回収された映像
次の映像は、2015年10月14日、あるSCP-574-1実例の解体初期段階で、MTF プサイ-7によってiPhone 6 Plusから発見された。内部ログは2015年3月2日に録画されたことを示している。
<映像はミョン家にある10代少年の寝室から始まる。カメラは部屋の隅を向いており、前景には乱れたベッドが映っている。2つの枕が床に落ちてベッドの側面にもたれている。大きなクモが隣接する壁を這い上がるのが映ると、カメラがかすかに震え、ヒョンが軽い悲鳴を上げるのが聞こえる。>
ヒョン: ほら、姉ちゃん! 早く来てこいつ殺してよ! 卵を産むかもしれない! も - もし毒があったらどうすんの!?
<階段を上がる足音が聞こえる。>
ジェ: この辺に毒グモなんかいないわよ、バカじゃないの。落ち着きなさい。
<カメラ視点が移動して寝室のドアを映す。ドアは半ばまで開くが、クローゼットのドアに引っ掛かる。半開きになったドアの向こうに、ナプキンと大きな本を持ったジェの姿が映っている。彼女は唸り、カメラを睨みつける。>
ジェ: ねぇ! 母さんもあたしも、クローゼットは閉めとけって何回も言ったよね!? 火事になったらどうすんの!?
<カメラ視点が揺れる。ヒョンは2枚のドアに歩み寄って調節し、寝室のドアが完全に開くようにする。ジェが入室し、回転しながら室内を見渡してから、カメラに視線を向ける。>
ジェ: オッケー、例の虫けらは何処? あたしもうすぐ出かけなきゃいけないんだけど! ちょっと待って、なんか撮ってる?!
<ジェを指差すヒョンの右手がフレーム内に映り込む。>
ヒョン: あそこだよ! ベッドの近く! 早くやっつけて、お願い! 逃げちゃう前に!
<ジェは大袈裟な呻き声を上げて背を向け、ゆっくりとベッドに近寄る。枕の上にクモを発見すると、彼女は一瞬硬直する。ジェはゆっくりと本を持ち上げ、クモの上に降り下ろす。カメラが振動し、ヒョンが恐怖で息を呑む声が聞こえる。ジェはまた本を持ち上げ、枕を調べて微笑む。>
ジェ: ハ! 仕留めた!
<ジェはヒョンに向き直り、カメラに向かって空のナプキンを差し出す。>
ジェ: オッケー、後始末はよろしく。
ヒョン: え? 俺が?! やだよ!
ジェ: あのさぁ! クモはもう死んでるんだから咬んだりしないっての。いつかは自分でこういうことをしなきゃいけない日が来るのよ! あんた来月で16歳なんだから… だから… いい加減… に…
<ジェは視線をカメラから逸らし、眉をひそめる。>
ヒョン: な、何だよ?
<カメラが180度回転し、寝室の反対側を向く。黒い大きな机が4脚、部屋の隅に並んでいるのが見える。赤と黒のゲーミングチェアが2脚、机のうち2脚の隣に置かれている。68cmのHDモニターが寝室のドアに近い3脚の机の上にあり、うち2脚の下には大きなゲーミングPCもある。>
ジェ: ねぇ、あれはどういうこと? クローゼットに何が起こったの?
ヒョン: わ - 分かんない。俺、あんなのどれも絶対買ってない。
<3脚目の赤と黒のゲーミングチェアが机の正面に自然に実体化する。汚れた衣類の山が床に溶け込み、代わりに床板から新しい机がせり上がってくる。追加2台の68cmモニターが既存の机の上に出現し、マウスがモニターの中から机の上に落ちる。>
<カメラが小刻みに揺れ、ヒョンとジェの悲鳴が聞こえる。一瞬、叫び続けながら寝室から走り出るジェの姿が映る。>
ヒョン: あっ! 何処行くん - 待って! 置いてかないで!
<カメラがヒョンのズボンのポケットに入れられる。足早に移動する2組の足音が聞こえる。ジェの叫び声が聞こえるが、やがて何かの衝突音で遮られる。>
ヒョン: うわ -
<iPhoneがヒョンのポケットから滑り出し、画面を伏せた状態で床に落下する。木造の天井の色合いが顕著にくすむ。>
ヒョン: なん - 何が起きてるの? 姉ちゃん! 階段は?!
ジェ: 知らないけど!? 勝手にせり上がって床に変わっちゃった!
ヒョン: は?! どういう意味?!
<ヒョンがカメラ視点に入り込んでくる。彼は青ざめており、目の端に涙を浮かべている。彼はiPhoneを拾い上げ、垂直に構える。ジェが膝を突き、両手で床を擦っている様子が映る。2台の自動販売機がジェの正面に出現し、彼女を飛び退かせる。>
ヘヨン: いらっしゃいませ。イーグルPCカフェでのご滞在はご満足いただけるものでしょうか?
<ヒョンの悲鳴が聞こえる。カメラが荒々しく揺れた後、視点が振り向いて、カメラから僅か数センチメートルの位置に立っているミョン・ヘヨンを映す。ヒョンが数歩後ずさりすると、ヘヨンが“イーグルPCカフェ”という名称とロゴが入った紺色の仕立てスーツを着ているのが分かる。彼女の顔は化粧で覆われ、頭髪はブロンドに染められている。>
ヒョン: か - 母ちゃん?! それ - その服どうしたの?
ヘヨン: 軽食はいかがですか? 本日はドリンクが全品無料となっております。
<ヘヨンは微笑み、カメラに向かって踏み出す。>
ヒョン: な - 何を言ってんの? 母ちゃん…
<ヒョンはヘヨンから後ずさりしたらしく、携帯のカメラ視点が震える。>
ヒョン: 姉ちゃん、助けて。
<動画の焦点がぼやける。カメラが振り返り、身体を丸めて床に横たわるジェの姿を映す。彼女の肌は顕著に青ざめており、両手で顔を覆っている。>
<ジェは著しくこもった呻き声を発する。>
ヒョン: 姉ちゃん! どうしたんだよ!
<ジェは呻くのを止めてカメラに顔を向ける。彼女が顔から手を放すと、両目から紺色の液体が顔に流れ落ちているのが分かる。ジェが口を開くと、そこから紺色の液体が大量に噴出する。>
<ヒョンが悲鳴を上げるのが聞こえる。ジェは床の上で激しく痙攣する。>
ヘヨン: 大丈夫ですか、お客様? 非常に緊張していらっしゃるようですね。こちらへどうぞ、休憩できる場所をお探しします。
<カメラが荒々しく揺れ、焦点が完全にぼやける。>
ヒョン: うわぁ! 触るな!
<大きな衝突音に続いて、ヒョンが先程と同じ廊下を走ってゆく。動きが速いため、この時点からの映像は不鮮明になっている。2組の足音が聞こえ、両者ともに駆け足であることが分かる。>
ヘヨン: お客様、どうなさいました? お客様! 何処へ行かれるのですか?! 大丈夫ですか?!
<ヒョンは開いている戸口を走り抜け、背後でドアを勢いよく閉める。彼は施錠し、ドアに背中を預けて床にへたり込む。>
<部屋の大きさは建造物自体の直径を遥かに上回っており、奥行きは50m以上ある。室内には10列のゲーミングPCが並び、天井から吊り下げられた鈍い多彩色のLEDライトで照らされている。部屋の反対側、乱れたベッドの上に大きな窓がある。>
<何者かがドアをノックし、ドアノブを弄る音が聞こえる。>
ヘヨン: お客様?! 大丈夫ですかお客様?! 何かお手伝いすることはありますか?! 医療スタッフをお呼びしましょうか?! 一体どうなさったのですか? お客様?!
ヒョン: や - やめろ!
<ヒョンの喘鳴が聞こえ、カメラが揺れる。カメラは伏せた状態で床に置かれ、続いて床面に擦りつけられる。これが1分ほど続いた後、カメラが持ち上げられ、ベッドフレームと窓枠を映す。>
<携帯電話はカメラを上にして、窓枠の方を向いた状態でマットレスの上に落ちる。ヒョンの頭髪の根元は鮮やかなブロンドで、残りは濃い黒である。彼の目、鼻、耳からは紺色の液体が少量漏れ出ている。彼の肌は青ざめており、目は血走っている。彼は激しく身震いし、枕に顔を埋めて大声で叫ぶ。>
ヒョン: 助けて、姉ちゃん。
ヒョン: お - お願いだよ、戻ってきてよ姉ちゃん… クモは俺が片付けるから… や - 約束するから…
<ヒョンが枕から顔を上げると、クモの死骸が右頬にへばりついているのが映る。彼はベッドによじ登り、窓を開ける。彼は窓の向こうに頭を突き出そうとするが成功しない。ヒョンは叫び、開いた窓に向かって頭から突っ込む。彼の頭は、そして腕も同様に、見えない障壁に接触したかのように窓を抜ける途中で止まる。>
<ヒョンはヒステリックに泣き喚き、窓を腕で叩く。彼は痙攣し、窓枠に頭を預ける。彼は腕と窓枠に向かって紺色の液体を嘔吐する。ヒョンの呼吸はかなり弱まっており、空気を求めて苦しげに喘いでいる。>
ヒョン: な - なんで…
<ヒョンは窓枠にすがりついた状態で身震いし続け、やがて目を開ける。彼の頬にへばりついていたクモが顔からずり落ち、Tシャツと置き換えられた紺色の制服に落ちる。クモの死骸は、紺色になったシャツの生地に沈み込んでいくように見える。>
<目から紺色の液体が大量に流出しているため、ヒョンの強膜はもはや確認できない。ヒョンは開いた窓によじ登ろうと幾度か試みるが、足に力が入らず、マットレスの上に押し戻される。彼はベッドの上で片腕をあてもなく動かし、携帯を掴む。ヒョンは携帯を顔の高さまで持ち上げ、弱々しく画面をタップする。>
<ヒョンがカメラレンズに向かって嘔吐し、レンズが紺色に覆われる。携帯は窓の向こうに落下し、カメラを上に向けて屋根の上に着地する。一瞬、ヒョンが紺色の液体を窓枠に大量に嘔吐しているのが映った後、視界から消える。>