SCP-5745-2のつがいの芸術的描写。ウィロビー研究員により製作された挿絵。
特別収容プロトコル: SCP-5745-1の出現が発見された場合、その場所と重大性に応じ、機動部隊パレオ-1からパレオ-7は全てのSCP-5745-2実例の収容のために派遣されなくてはなりません。可能であるならば、捕獲された全ての実例はサイト-5745に移送され、さらなる調査・研究のため大規模環境に置かれます。SCP-5745-2実例が敵対的になる場合、致死的手段の行使が許可されます。
説明: SCP-5745-1は未知の原理により時間の裂け目が出現する、反復性の時空間異常現象です。裂け目は現代と人類が存在する以前の時代(典型的にはカンブリア紀から更新世)を常時接続します。SCP-5745-1の出現場所に法則性は無いように見えますが、過去に出現した場所に再出現することもあります。SCP-5745-1が出現する場所は、裂け目により接続される時代と類似する気候・生態系の存在する場所に限られます。現時点で、SCP-5745とSCP-1265との関連は見出されていません。
SCP-5745-2はSCP-5745-1から出現する生物(典型的には恐竜類・爬虫類・哺乳類の系統群)です。DNAが一致することから、元の時代に実際に存在した個体であると現在考えられています。通常SCP-5745-2は扱いやすく、極力人間を忌避するように見えますが、追い詰められた場合あるいは驚いた場合には攻撃的になります。肉食性の実例はこのような暴走を起こす傾向が極めて強く、食糧源になりうる他の生物よりも人間を優先して獲物として狩ることが多いです。この理由は不明です。一部には娯楽として狩りをするものも知られており、僅かながら意識を有する可能性があります。大気の違いにも拘わらず、SCP-5745-2は現代の環境での生存能力を示しており、現在研究中のパラサウロロフス・ワルケリ(Parasaurolophus walkeri)の群れは以前からアマゾンの熱帯雨林を歩き回ることが認められています。現代で観測されている実例の一部は発見の数ヶ月前から新たな環境で繁栄を遂げており、全てのSCP-5745-2は現代の大気組成および状態に即座に適応すると思われます。
以下は、12/03/2021時点でSCP-5745-1が繰り返し発生した全ての場所の一覧です。
アメリカ合衆国、モンタナ州、ヘル・クリーク
イングランド、オックスフォードシャー州、テイントン石灰岩
オーストラリア、クイーンズランド州、フレーザー島
モンゴル国、ゴビ砂漠、██████
南アフリカ共和国、エリオット累層
南極大陸、南緯69度44分52秒 東経131度12分24秒 · 2.51 km
南太平洋、ポイント・ネモ
注目すべき点として、これらの場所の大半は、化石化した骨格断片あるいは完全な骨格で広く知られています。
歴史: SCP-5745-1の発生が最初に記録されたのは11世紀で、複数の歴史的絵画に当該のイベントが描写されています。当該の絵画には、聖ゲオルギウスがSCP-5745-1から出現したディモルフォドン・マクロニクス(Dimorphodon macronyx)と思われる生物を殺害する様子が描写されています。カバーストーリーが策定され、実体は架空の「ドラゴン」として偽装されました。絵画のうちSCP-5745-1を視認可能な部分は除去されました。SCP-5745-2の描写は歴史的な文書・芸術作品の至る所に存在しています。一例を挙げると、アジアの龍の描写はティタノボア・ケレジョネンシス(Titanoboa cerrejonensis)あるいは他のメガファウナのヘビの種と共通すると推測されています。SCP-5745-2実例への言及が新たに発見された場合、一般的な民間伝承や既存の種の誇張として偽装されなくてはなりません。
1964年、放射線レベルが急激に上昇することから、SCP-5745-1は発生の1時間前に探知可能であることが判明しました。この知見はSCP-5745の収容のための財団の労力削減に寄与しています。探知には現地にガイガーカウンターが必要であり、装置が存在しなければ裂け目を探知できない場合があります。
1450年頃から1890年頃までは当該の異常の発生を支持する証拠が得られておらず、SCP-5745-1が発生しないあるいは休止状態の期間が存在すると考えられています。20世紀および21世紀にかけて、SCP-5745-1は現代の他の時代よりも広く頻繁に出現していると見られています。裂け目の発生には活動期と休止期があり、休止イベントに挟まれて約200~300年持続すると推測されています。現在のところ、SCP-5745-1は活動状態にあります。
裂け目の開く頻度を鑑み、SCP-5745-2の脅威に対処するため特別に7の機動部隊が創設されています。これらの機動部隊のチームは「パレオ部門」に指定されています。パレオ部門を構成する機動部隊およびその詳細の完全な一覧は以下のとおりです。
パレオ-1 "ケーブマン"
所在地: 北アメリカ
構成員: 17名
専門: 恐竜類・哺乳類系統の大型メンバー
パレオ-2 "ACU"
所在地: 南アメリカ
構成員: 8名
専門: 恐竜類系統の中型~大型メンバー
パレオ-3 "沼地を歩む者"
所在地: ヨーロッパ
構成員: 11名
専門: 恐竜類・哺乳類・爬虫類系統の小型~中型メンバー
パレオ-4 "砂漠に棲む者"
所在地: アジア
構成員: 14名
専門: 恐竜類・哺乳類・鳥群系統の小型~大型メンバー
パレオ-5 "パーク・レンジャー"
所在地: アフリカ
構成員: 7名
専門: 恐竜類・哺乳類系統の中型メンバー
パレオ-6 "先史時代の密猟者"
所在地: オセアニア (サイト-5745の防衛も兼任)
構成員: 16名
専門: 恐竜類系統の中型メンバー
パレオ-7 "ケナガマンモス"
所在地: 南極大陸
構成員: 8名
専門: 哺乳類系統の小型~大型メンバー
注記: パレオ部門の全構成員が厳格にSCP-5745に割り当てられているわけではなく、所在地でSCP-5745-1が発生した時にのみ配属される場合もあります。
補遺 5745.1:
回収され、現在サイト-5745内に生息している種を回収順に並べた一覧です(このリストには、出現した時点で終了された様々な種は含まれていません)。
. トリケラトプス・ホリドゥス(Triceratops horridus) 12頭
. パラサウロロフス・ワルケリ(Parasaurolophus walkeri) 6頭
. アパトサウルス・マルシュ(Apatosaurus marsh) 2頭
. プシッタコサウルス・モンゴリエンシス(Psittacosaurus mongoliensis) 13頭
. ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex) 1頭
. サルコスクス・インペラトール(Sarcosuchus imperator) 1頭
. バリオニクス・ワルケリ(Baryonyx walkeri) 1頭
. ディロフォサウルス・ウェテリリ(Dilophosaurus wetherilli) 4頭
. バラウル・ボンドク(Balaur Bondoc) 3羽
SCP-5745-2実例が産卵した卵はいずれもエリアの過密化を防ぐため即座に破壊されなくてはなりません。
サイト-5745はニュージーランドのタラナキ山の周囲に建設され、捕獲されたSCP-5745-2実例の長期収容に利用されます。タラナキ山を取り巻くエリアは猜疑心を刺激しないため観光客に一般公開されますが、財団が運営するツアーのみが許可されるものとし、そのルートはあらかじめ探索済みのものに限定されます。サイト-5745にはSCP-5745-2の食料源として提供される現生の動物および植物の自然な種が数多く生息していますが、畜牛など大型現生生物の群れが週に1回肉食性実例の狩りのためエリアに追加されます。植物食性実例は処置を施さなければ数年で森林を食べ尽くしてしまうため、サイト-5745の小規模なフィールドには週に1回大量の消費用植物が投下されます。SCP-5745-2が他の実例を狩猟対象とする頻度は高くありませんが、時折は捕食を行うことがあり、その場合は次に裂け目が生じた際に新たな実例が入れ替わります。
以下は、サイト-5745で定期環境視察を行った際にウォーカー研究員により記録されたログです。
08:00: 丸一日かけて仕事に取り掛かるため、私とパレオ-6の男性5人が研究棟から出発する。木の枝に突っ込んでしまった。痛い。
09:14: SCP-5745-2実例の最初の痕跡。前を数匹の小型生物が走っていたが、姿を見せてすぐに逃げてしまった。おそらく、隠れるのが上手いバラウルだ。
10:45: ファゴットに似た大きな音が聞こえた。パラサウルスのものと思われる。すぐにその群れに辿り着けるだろう。湖の傍には骨の潰れた大型の死骸が幾つも転がっていたが、おそらくサルコスクスによるものである。
10:56: また聞こえた。今度は大きい。近づいてるぞ。
12:00: 一休みして昼食。
13:01: 偶然にも群れと遭遇した。パラサウルス、アパタサウルス、プシッチカサウルスが大きな群れをなしている。これは予想外だ。3種は全て群れを作るどころか、互いに関わりがなかっただろう(生息した年代が数百万年離れているため)。私が思うに、これは数に頼る生存戦略だ。トリケラトプスの痕跡はまだ見られない。
14:00: 1時間ほど群れを観察していた。他のものを探すため出発。
14:28: 司令部から、あと30分ほどで牛が降ろされるとの注意喚起があった。降下地点に移動する。
14:56: 給餌点に到着。給仕の観察準備に入り、チームは厳戒態勢に。
15:11: 10分前に牛が降ろされ、ティラノサウルスが出た! 木立の中から飛び出してきて、地面から1頭掴んで去っていった。10秒足らずで現場を出入りしていった。その速さに不安を覚える。
15:13: レックスの直後にバラウルが姿を現した。彼らは中型犬くらいの大きさの小型生物だ。彼らの狩りには驚かされた。脚に咬み付いた1羽に牛が気を取られているうちに、他の2羽が首に飛び付いて仕留めてしまった。まるで狼だ。
15:20: 我々に忍び寄るバラウルの捕獲に成功した。おそらくは単なる好奇心によるものだろう。彼らは研究所のフェンス越しに我々の行動を見るのを好む。我々も早く動き出したいのだ。バリオニクスやディロフォサウルスは見られない(サルコスクスもだが、これは今まで観察されたことがない)。
16:00: 休憩を挟みながら40分のトレッキング。
16:12: トリケラトプスの求愛の声が聞こえた。その方向へ向かう。
17:40: しばらくあのトライクを探していたが、基地に戻っても良いかもしれない。暗くなってきた。
18:23: 何が起きたか予想だにしないだろう。トリケラトプスではなかった。ディロフォサウルスのクソ野郎がトライクの声真似をして、我々を闇討ちできる夜になるのを待っていたんだ。音を模倣できる仕組みは知らないが、とてもけたたましい音だった。これはディロフォサウルスがどうやって大型の獲物を仕留めていたかについての完全なる新たな証拠だ。彼らは獲物を罠に誘い込んで忍び寄るんだ(SCP-1265の研究者に知らせてやりたいよ!)。ジェフリーの脚が1頭に噛まれたが、大丈夫だろう。サイト司令部に戻る。
18:45: 我々は後を付けられていた。確かだ。帰路はずっと見られている感覚を味わった。他の皆は困惑していて、私の気の迷いだと言っていた。だが、そこに何かが居たのを私は知っている。
注記: 身体検査を経て、ウォーカー研究員はディロフォサウルス・ウェテリリに噛まれていたことが判明しました。現在、本種は唾液に含有されるある種の向精神性物質を用いて獲物を錯乱させると考えられています。この検証は現在進行中です。
事案記録: SCP-5745-1の出現は財団の設立以降114件記録されているため、以下には2000年以降の出現のみを記録しています。整理のため、1つの文書に纏められています(最終更新日 2020/4/5)。
事案報告 5745-105:
日付: 2000/4/11
裂け目の所在地: アメリカ合衆国ヘル・クリーク(第6反復事案)
派遣チーム: パレオ-1 "ケーブマン"
注記: 出現した3体の生体実例はいずれも敵対的な肉食動物であった。2体は終了され、1体はサイト-5745に回収された。
事案報告 5745-106:
日付: 2001/4/13
裂け目の所在地: 西オーストラリア、ウィルナ
派遣チーム: パレオ-6 "先史時代の密猟者"
注記: 5体出現、5体終了、機動部隊員2名死傷。
事案報告 5745-107:
日付: 2003/10/27
裂け目の所在地: チェルノブイリ立入禁止区域
派遣チーム: パレオ-3 "沼地を歩む者"
注記: 植物食動物を中心に、狩りの最中の小型肉食動物が4体、計9実例が出現。実例は敵対的と判断され、ほとんどの肉食動物が終了された。1体は藪の中に逃げ込み、発見されなかった。
事案報告 5745-108:
日付: 2005/11/19
裂け目の所在地: イングランド、ウーバン・フォレスト
派遣チーム: パレオ-3 "沼地を歩む者"
注記: 7体の小型肉食動物と、1体の大型実例。大型実例は死亡しており、他の実例に被食されていた。裂け目は休日の人気のリゾート地の端に開いており、回収は困難であった。リゾート地は封鎖、全7実例が駆除され、従業員と来場者は記憶処理を受けた。
事案報告 5745-109:
日付: 2010/6/23
裂け目の所在地: ケニア、アラブコソコケ国立指定保護区
派遣チーム: パレオ-5 "パーク・レンジャー"
注記: 出現した2頭の実例はいずれも肉食のネコ科動物であった。両実例は終了された。
事案報告 5745-110:
日付: 2013/5/1
裂け目の所在地: 南極大陸、南緯69度44分52秒 東経131度12分24秒 · 2.51 km(第9反復事案)
派遣チーム: パレオ-7 "ケナガマンモス"、援護として パレオ-6 "先史時代の密猟者"
注記: 11実例が出現。現時点で記録された最大の事案の1つである。9頭の大型哺乳類と、それらを狩る3頭の大型ネコ科動物が出現。大型ネコ科動物は終了され、研究のため2頭の大型哺乳類が研究のため回収された。
事案報告 5745-111:
日付: 2015/4/17
裂け目の所在地: 南太平洋、ポイント・ネモ(第5反復事案)
派遣チーム: パレオ-2 "ACU" および パレオ-6 "先史時代の密猟者"
注記: 4頭の水棲爬虫類が出現。裂け目の探知時に2頭には追跡チップが埋め込まれた。パレオ-2がタグ付きの2実例をコスタリカの海岸まで追跡して捕獲した。パレオ-6は3ヵ月の捜索の末に他の2実例を発見し、終了した。
事案報告 5745-112:
日付: 2017/9/16
裂け目の所在地: ルーマニア、セベス累層
派遣チーム: パレオ-3 "沼地を歩む者"
注記: 4実例が出現。3羽は鳥類様の解剖学的特徴を持つ非常に小型の肉食動物で、1体はそれらが捕食しているらしい小型のトカゲであった。トカゲは3羽に殺害されており、3羽はサイト-5745へ移送された。
事案報告 5745-113:
日付: 2019/6/12
裂け目の所在地: アメリカ合衆国、ミシガン
派遣チーム: パレオ-1 "ケーブマン"
注記: 主要居留区から0.5マイルの地点で裂け目が発生。4個体の大型植物食動物が出現し、敵意を示した。1実例は近隣に突撃した後に終了された。目撃した市民は全員記憶処理を受けた。
事案報告 5745-114:
日付: 2020/4/4
裂け目の所在地: モンゴル国、ゴビ砂漠(第7反復事案)
派遣チーム: パレオ-4 "砂漠に棲む者"
注記: 12実例が出現。7体は小型の植物食動物、5体は小型の肉食動物であり、小競り合いの最中であった。全ての植物食動物および肉食動物3体は駆除され、2体は逃亡。逃亡した実例は未発見。
クリアランスコードは受理されました
1910年以降のSCP-5745-1事例を示すグラフ。
補遺: SCP-5745に関連する事案記録に見られるように、裂け目出現イベントの発生頻度と深刻性は劇的に上昇しつつあります。かつて、裂け目は約5~10年に1回発生していました。過去5年間では、3件のSCP-5745-1が発生しています。過去に発生が多かったのは春から夏にかけての温暖な時期であるため、当該の傾向は地球大気の温暖化による可能性があると考えられています。ウッド主任研究員はSCP-5745研究の未来について以下のパラグラフに示す声明を発表しています。
ウッド主任研究員の声明:
直近の3つの裂け目の出現が短期間で起きていることには気付いたかもしれない。その直感は正しい。現在の仮説ではSCP-5745-1の出現は温暖な気温により活発化しており、おそらく君が気付いたように、より暖かい月で最も頻発する。上昇するCO2レベルは太陽放射を留めてこの星を暖め、これにより裂け目の出現の頻度は上がり、継続時間も伸びている。収容の難度が上がりつつあるのだ。
SCP-5745-1より出現する実例が増えつつあるため、長期的収容のための新サイトであるサイト-5745-2の建設が進行中だ。サイト-5745-2は既存サイトより大規模であり、海棲生物用の巨大な湾を含め、より希少な新生代の種の収容のため広大な地下および地上施設が備わっている。
SCP-5745-1の出現は熾烈化しており、SK-クラス:支配シフトシナリオの可能性も考慮しなくてはならない。これらの生物は彼らの時代において主要な種だ。我々が現在の環境を変え、彼らの時代のものに近づけてしまうならば、彼らによる支配が始まる可能性は高い。もし裂け目の頻度が現在のように指数関数的に上昇するのならば、我々がSCP-5745-2実例の収容に資源を使い果たすのも時間の問題だ。ここ最近のイベントを鑑み、私はSCP-5745のKeterへの再分類を公式に要請する。
心より、主任研究員████・ウッド