アイテム番号: SCP-576
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-576はサイト19内の電子錠ロッカーに収容されています。ロッカーの開錠コードは毎月二回変更されます。SCP-576を用いた実験はセキュリティクリアランスレベル3以上の職員のみに許可されています。また、いかなる状況であれ試験外でのSCP-576の持ち出しは認められません。
説明: SCP-576はコルク栓を嵌められた底部直径約6cm、高さ8cmの丸底ガラス瓶です。SCP-576の表面にはシンプルな花と葉をつけた交差する枝の飾り彫りが刻まれており、製造者を示す刻印はありません。
SCP-576は透明な液体(SCP-576-1)で満たされており、その液体は分析の結果0.0100M果糖水溶液に近い化学組成であることが明らかになっています。SCP-576-1はSCP-576内にある時にのみその効果を発揮するとの仮説が立てられています。SCP-576以外の容器からSCP-576-1を摂取したところ、特異な効果は得られませんでした。また、SCP-576が減った液体を自己補充する様子が観察されています。再充填速度は遅く、1週間に約2ml増加します。しかし、SCP-576がどのような方法で再充填しているかは不明です。
SCP-576-1は即効性の物質ではなく、被験者がその摂取後眠りについた時、初めてその効果を発揮します。被験者たちは鮮やかで刺激的な夢を見ます。SCP-576-1によって引き起こされる夢はその被験者にとって重要な経験に基づくものであり、液体の摂取量と夢の現実感は相関関係にあるとの報告がなされています。
被験者がSCP-576-1の影響下にある夢を見るとき、彼らは通常と同じステージ(ステージ1、2、3、4)を経て深く眠り、平静状態を保ちます。周期的なレム睡眠を挟みながら、睡眠は8~20時間続きます。この時被験者が自然と目覚める前に起こそうとする試みはすべて失敗に終わっています。このSCP-576-1による何者にも妨げられない眠りは睡眠障害の病歴を持つ、あるいは現在もその症状を抱える被験者にも同等の効果を持っています。
補遺 SCP-576-1: SCP-576は家政婦により死体が発見された████・█████氏の邸宅から回収されたものです。█████氏は生前ストレスと(過労と財政的な困難に由来する)栄養失調に苦しめられていました。SCP-576は█████氏の枕元のテーブルの上、フォトアルバムの隣に置かれていました。その時点でSCP-576の内容物は1/4をわずかに下回る量だったことが記録されています。
補遺 SCP-576-2: 実験の結果により、液体の摂取量と睡眠時間の長さはおおまかな相関関係を示す事が明らかになっています。例外的な実験結果については現在調査中です。
テストログSCP-576-5093-█の抄録
被験者:D-6312、30歳男性
摂取量:一口(約5.1ml)
睡眠時間:8時間
被験者の言葉: 「小さいころにしたことを全部思い出したよ。紙飛行機を作って飛ばしたり、自分でツリーハウスつくったり、家の裏の草原で昼寝したり……そういう時間をもう一度過ごしたんだ。いまよりも時間があった時になにをしていたか、すっかり忘れてたな」
被験者:D-5683、25歳女性
摂取量:二口(約12.3ml)
睡眠時間:13時間
被験者の言葉:「2つ目の職に就く前に飼ってた犬の夢を見たわ。あの子といっしょに公園を歩いた時間。時々私はただそこに座って、あの子が鳥を追いかけるのを時がすぎるのにも気づかずに眺めたっけ。たとえ嫌な一日でも彼女とボール遊びすると、気が晴れたものよ。あの子がいなくなって寂しいわ。」
被験者:D-3473、40歳男性
摂取量:一口(約4.9ml)
睡眠時間:20時間
被験者の言葉:「まだ彼女が笑っていた頃だ。俺たち二人とも笑っていた。俺が彼女に花を買って帰った、あの雨の日だった。まだ俺たちが一緒だった時。彼女がまだ生きていた時の夢だった。」
被験者:D-3473、40歳男性(二度目)
摂取量:二口(約11.5ml)
睡眠時間:27時間
被験者の言葉:「俺たちが初めて会った日の夢を見た。もう一度、彼女に初めて話しかけた時、初めて彼女に笑いかけられた瞬間、それから何もかもを経験したんだ。素晴らしかった。」
被験者:D-3473、40歳男性(三度目)
摂取量:一口(約6ml)
睡眠時間:36時間
被験者の言葉:「色々な事を思い出した。彼女にジャケットを貸した日、一緒に野外コンサートに行った日……もう忘れたくない。二人で過ごした時間すべてをだ。思いだし続けていたい。俺を戻らせてくれ、あそこにいたいんだ。」
補遺 SCP-576-3:20██/██/██、二つの文書が█████氏の記録から発見されました。文書の調査は現在進行中です。
ドキュメント576-█-5の抄録(故█████氏の日記と思われる文章):
200█年、████月██日
もうほんの少しだけ飲んでみた。害にはならないだろう。ここ最近起きたことのせいで、これを飲まなければ眠れない。他の大事な事は全て後で、もう少し休息を取ってから何とかしよう。あまりにもたくさんの数字とデータを順序通りに並べなければならない。やらねばならない事があまりにも多い、多すぎる。
200█年、████月██日
はっきりとあの瞬間に戻れたら、と思うわけではない。ただ一つのことだけではなくて、すべてが懐かしく思われる。私はあの散らばった記憶とほんの少しの夢想をふたたび経験したい。夢の中ではあの顔に射す太陽を感じる時間を持てた日々や、夕ご飯に遅れないよう家に帰る以上のことを思い煩わう必要のなかった日々を完璧にはっきりと思いだすことができるのだ。
200█年、████月██日
「事態はもっと悪くなるかもしれなかった、けれどこれより良くなることも出来たのではないか、もっと良くなるかもしれなかったというのに……」このような考えが頭に浮かび眠ることができない。なによりも、私は恐れているのだ。この先起る事柄を、そして起らなかった物事すべてを恐れている。
一つだけ確かなことがある。私はこの思い出を悔やんではいない。過去に戻ることを後悔してはいないのだ。あの記憶たちは私の人生の最良の時なのだ、諦めるなど到底不可能だった。
200█年、████月██日
はるか昔に撮った写真を見つけた。森の中で鳥の巣を見つけた日、初めて雪を見た日、学校をさぼって池を探検して小さな滝を見つけた日……
200█年、████月██日
もう耐えられない。眠りにつけば、もはや誰にも私を傷つけることはできない。幸福な、よき時代を思いだしているとき、私は安全だ。夢を見るとき、私はすべてを思い出す。何ものもあの記憶を私から取り上げることはできない。
200█年、████月██日
すべて起きてからまた考えればいい。
ドキュメント576-█-5内から発見されたドキュメント576-█-6
Item #████一瓶██
Order #███の█████
落ち着いた時間に心を澄ませ
置き去りにしたもの振り返る時
一口飲めば、憂いは消え去り
一夜の快眠、あなたのもとに!
日頃のご愛顧に感謝いたします。良い夢を。
~Marshall, Carter, and Dark Ltd.
ページリビジョン: 8, 最終更新: 21 Feb 2024 12:33