アイテム番号: SCP-584-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル:現在、███山に野生のSCP-584-JPは存在していません。収容設備は撤去されました。
現在24羽のSCP-584-JPが生物サイト-8102へ収容されており、完全な防音処理が施された小型生物収容房で飼育されています。分類のために各個体の足首へ識別番号を記載したタグを取り付けてください。収容房内部に侵入する際は必ず標準的な防護服と防音用装備を着用し、SCP-584-JPを刺激しないよう慎重に行動してください。それ以外の特別な取り扱い手順は不要です。
説明: SCP-584-JPは██県の山岳地帯に存在する███山にのみ生息するスズメ目ホオジロ科シラガホオジロ(学名: Emberiza leucocephalos)の近縁種です。 本稿執筆時点でおよそ164羽のSCP-584-JPが███山中に生息しています。 SCP-584-JPの生態と習性は、渡りを行わず本地域に定住していることと、1つの異常性を除いて通常のシラガホオジロと一致し、その他の異常性は見られません。
SCP-584-JPは猛禽類などの天敵を発見した際、あるいは大きな音を聞いて身の危険を感じた際、約30度という鋭い指向性を持つ、異常に大きな音量のアラームコール(警戒声)1を警戒対象に向けて発します。音圧レベルは平均して140dB2に達します。
SCP-584-JPのアラームコールに晒された生物は騒音によって聴覚器官に損傷を受け、混乱または気絶します。この隙にSCP-584-JPは逃走します。しかし、このアラームコールはSCP-584-JP自身の鳴管を始めとする発声器官に強い負担を与えることが判明しています。個体の年齢や体調によってはアラームコールの発声と同時に気絶または死亡し、概してその他の野生動物に捕食されます。
SCP-584-JPが発するディストレスコール(遭難声)3の音量は最大で150dBにも達し、アラームコールに存在していた指向性が大きく失われます。SCP-584-JPの個体を襲った捕食者は騒音によって気絶、または逃走しますが、この個体自身も音圧の負担に耐えられず気絶します。また、このディストレスコールが他のSCP-584-JP個体によるアラームコールを一斉に誘発し、捕食者と共にショック死するケースも観察されています。
種に共通する臆病な気質と異常性に起因し、SCP-584-JPは最大で8羽程度の小さな群れで行動します。群れが1つの警戒対象へ一斉にアラームコールを発した場合、複数の音波が一箇所に集中することで著しく音圧が高まります。これに人間が晒された場合は確実に鼓膜を損傷して気絶し、毛細血管の破裂・強い吐き気・蝸牛神経の損傷による難聴・耳石器の損傷による目まいといった症状を呈します。また、被害者の健康状態によってはショック死の危険性も考えられます。
補遺1: SCP-584-JPの駆除計画に関する議論のデータログより抜粋
2007/06/11
君から提案があったSCP-584-JPの駆除計画は却下する。わざわざ危険を冒して減らさずとも、SCP-584-JPはあの本末転倒な生態によって個体数が安定している。たかだか150dBそこらの"怒鳴り声"も対策は容易だ。何かの要因で財団の収容が無効化され、何かの要因で連中が一斉に彼方へ飛び去るという最悪のケースが起きたとしても、果たして何が起きる? あの声ばかり大きい臆病者が人間という天敵の巣に近づくだろうか?知っての通り財団の関心はSCP-584-JPそのものよりもこの地域の行方不明者数に向いている。対象は人間から聴力を奪いはするが、真っ直ぐ人里へ降りる程度の判断力までは奪わない。どこかに"戻らず山"なる悪名を作った要因があるはずなのだ。この件の結論が出るまで完全な収容への移行は見合わせる。
過剰に恐れる必要はない。規則と手順を守り、これまで通り職務に励んでくれ。
-能重博士
2007/06/12
申し訳ありません。配置の変更を申請いたします。
確かに彼らは臆病です。大きな音どころか、書類が風でふわりと飛んだだけで頭が弾けそうな悲鳴を上げるほどに。復帰以来、小屋の周りに市販の鳥よけグッズを置くようになりましたが、1個3000円の超音波発生器でも彼らを追い払うには充分でした。
ですが、頻繁な目まいに苦しみながら空に怯える生活は耐え難いものがあります。囀らない小鳥の静けさを分かっていただけるでしょうか? 同僚がドアを閉める音、食卓で箸を落とす音、今の私には全てが衝撃です。祖父の戦争話が蘇り、身に沁みました。
収容対象に愛着を抱いてはいけない。エージェントとして当然の心構えを守れなかった私はこの任務に不適格です。
-エージェント杉伊
補遺2: ███山近辺における行方不明事件の調査報告書
2007/07/03
███山近辺の調査により、新たに4体の行方不明者の遺体を回収した。服装と装備からうち3名はグループの登山者。1名は警察官である。
遺体はいずれも死亡から10年以上が経過して完全に白骨化し、共通して頭蓋骨に鈍器で殴打したと思われる陥没が見られた。遺体が簡易的に土葬されていたこと、拳銃を含む所持品が奪われていたことから殺人と断定。SCP-584-JPとの因果関係は不明だが、かつてこの地域を徘徊していた連続殺人犯の存在は疑うべくもない。
この殺人犯を追跡対象として調査を継続する。仮に行方不明者の大半が犯人の手に掛かったのだとすれば、活動期間は最低でも50年を越すことになる。我々の発見するものがあと1体分の白骨であることを願うばかりだ。
-エージェント白早
2007/07/24
███山の収容地域から東北東3kmの山間部で一軒の小型木造家屋を発見した。
内部は無人。家具の数から一人暮らしだと推測される。住人が痕跡を抹消した後に引き払った様子で、指紋や毛髪などの個人に繋がる証拠は検出できていない。
裏手側に並んだ複数の小さな土山を掘り返したところ、白骨遺体を多数発見。いずれも死後数十年が経過して風化が進行した古い遺骨だった。この内およそ半数の頭蓋骨に山中で回収された遺体と同様の損傷が見られた。以後この家屋の住人を追跡対象と見なす。
追跡対象があえて残したものだと思われるが、軒先に空の鳥カゴが1つ吊るされていた。内部からSCP-584-JPと特徴が合致する羽毛を検出。加えて古い字体の文章が書かれたメモ用紙が収めてあった。文面は以下。『目視ニ依リ慎重ニ選別スルコト望マシク 巳ムヲ得サレハ粟ニ毒ヲ混入スヘシ』
追跡対象の生存と筆跡、SCP-584-JPとの関与が判明した。以後はホオジロをSCP-584-JP-1、この人物をSCP-584-JP-2と呼称することを提案する。██県警に潜入したエージェントと連携し、対象の身元と足取りの調査を続行する。また、彼らへの防音装備の支給を申請する。
-エージェント白早
補遺3: 新規取り扱い指示書
2009/03/15
まずは上記の文書を一読されたい。一連の経緯から、全ての責任が私にあることが分かるはずだ。紛れもない異常生物に向かって『危険性が低い』などという評価を下した私の油断が収容違反を招き、8名の監視員と初動対応に当たった機動部隊員のうち4名4を犠牲にしてしまった。
先日の███山一掃作戦によって収容違反は完全に収束し、SCP-584-JP群の駆除が完了した。財団が把握しているSCP-584-JPは生物サイト-8102に収容された24羽のみとなり、危険性を鑑みて雌雄を含む6羽ずつをA・B・C・Dの生物収容房に振り分けた。当面の間は現状の個体数を徹底して維持する。例外を除いて絶対に増やすな。
これまでの観察データから、5月から7月にかけての繁殖期(特に抱卵期と育雛期)は最も警戒が必要な期間だと思われる。SCP-584-JPの給餌を担当する職員は、以下に記述する手順を定期的に行うこと。杉伊君の事例を振り返るに、この識別法はおそらく確実だ。まず手のひらに餌を乗せる。
餌台になったつもりでじっと待つ。
やがて人に慣れたSCP-584-JPが食べに来るだろう。
君をじっと見つめたのはSCP-584-JP-3だ。
タグ番号を記録し、収容房E以降に単独で隔離せよ。指揮官の存在は奴らを一変させる。群れの規模次第では防音装備すら無意味となることを覚えておくように。
-能重博士