最初に記録されたSCP-5889放送は1959年11月14日、コロラド州のクレスティド・ビュートの町で発生しました。
ラジオパーソナリティ: やぁ、美しきビュートの諸君! こちらはキリマンジャロ&ザ・デューク、土曜の夜の痴呆ラジオのお時間だ。何か君からも言いたいことはあるかい、デューキー?
[続く30秒間、金属が擦れ、軋みながら裂ける音が聞こえる。報告によると、この際の周波数と音程は、クレスティド・ビュート繁華街の5マイル以内でガラスにひびが入るほど高かったとされる。]
ラジオパーソナリティ: いやぁ、そりゃ凄いじゃないか。みんな、俺はやっぱりデュークが横柄にお喋りしてる時ほど生を実感することはまず無いね!
[エアーホーンの効果音が聞こえる。]
ラジオパーソナリティ: おっと、いけない! とあるリスナーさんからお便り読み上げのリクエストが来てたんだっけ。エイミー・クリングさん、聞いていてくれたら嬉しいな、特別な人からのメッセージだ。君のお母さんから、元気でやってる、心配しなくていいとのことだ。
ラジオパーソナリティ: それと、勝手に入り込んで面倒をかけてるネズミについて最新情報を伝えたいそうだよ。ネズミ君はお母さんの爪先をかじり始めてて、お母さんはどうやらネズミ君に好かれたと思っている。ここ1時間ずっとそこを猛烈にムシャムシャやっているらしいからね!
ラジオパーソナリティ: 昨日は蛆虫が左目から這って出て来たらしいけど、右目はまだ無事だし、どうせ地面の下には大して見る物も無いよね。ともかく、エイミー、お母さんからの伝言だ — 自分の液化は予定通りに進んでる、君に来週会うのが待ちきれないってさ!
[再び金属の軋る音。]
ラジオパーソナリティ: そうだね、デューク! 次は気象予-
1961年1月26日にジョージア州メイコンで記録されたSCP-5889放送は、2人の学者の討論の抜粋という形式を取りました。
ケラー教授: いえ、私が言いたいのはそういう事ではなく、制御についてです。我々は誰しも、人生のあらゆる面を固く手中に収めていなければならないという強迫観念を抱いて生きています。幾つかを手放すべきです。
アーヴィング=ウェイツ博士: じゃあ、何か? 俺の自主性を犠牲にしろとでも? いいや、結構だ。自由意思は俺にとってとても大切なんでね。
ケラー教授: 彼らの奴隷になれとは言っていません。幸福になるために人生のあらゆる事を決める必要は無いと言っているのです。決定論などというものはありません。毎日の活動の中から3つ選んで、彼らに決めてもらいなさい。必ず今よりも幸せになれますよ。
アーヴィング=ウェイツ博士: 例えばどんな事を?
ケラー教授: 例を挙げるなら… 財政面、投票先、今週は教会に通うかどうか。些細な事です。
アーヴィング=ウェイツ博士: なぁ、どうも俺にはそれが素晴らしい事とは思えんよ。奴らは所詮トカゲだ、人間じゃあない。
ケラー教授: とんでもない! 爬虫類は人類が石を割り始める遥か昔から進化し、生き延びてきたのです。レプティリアン・エリートの知恵は — 光栄にも私はその一員なのですが — 古代から続く神秘です。1匹のトカゲに1時間耳を傾ければ、大学で丸1日過ごすよりも多くを学ぶことができます。肩にヤモリを乗せて歩くのは確かに難しいでしょうが、視線にはいずれ慣れます。
1972年4月18日に記録された以下のSCP-5889放送は、オレゴン州のローグ・リバー・バレー周辺で発生しました。
ニュースキャスター: 皆さん、通常の番組を中断して申し訳ありませんが、速報が入りました。ここVKTM-66.3のリポーターが、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された本当の理由を暴きました。彼はマフィアの友人でこの国の最も腐敗したあらゆる物を図に描き出したようなクソ馬鹿野郎の資本主義者だったのです。我々は彼の頭を2回撃ちました。彼の妻は脳の一部を拾い上げました、何故なら彼女はこの国の父権制に対する女性の従属の化身だったからです。全国放送のテレビで彼の脳はあの車のトランクの上にばら撒かれました。何のために? 警告するためです。
[パニック状態の呟きがおよそ8秒間聞こえる。]
ニュースキャスター: 聞こえますか? あれはあなたが同性愛に、人種に、性別に、社会主義に、教育に対して抱いている惨めな誤解の音です。誰かがあなたの脳に蹴りを入れる必要があります、マイク。そうです。あなたです。マイケル・シンクレア、ローズウォーター4543番地、グランツ・パス、オレゴン州、郵便番号97526。誰かがあなたの脳に蹴りを入れる必要があります。あなたの妻が脳の欠片を拾い集めるかもしれませんが、あなたは彼女が自分の財産であるかのような話し方をするので、多分そんな事は無いでしょう。
[パニック状態の呟きがおよそ12秒間聞こえる。]
ニュースキャスター: 教えてあげましょう。あなたはアメリカにとって全く重要ではありません。この国はあなたを殺そうとするでしょうし、その途中であなたに治療を提供しようともしないでしょう。そしてあなたの脳に蹴りが入れられる時、きっとあなたは社会党員どものアジェンダがしゃしゃり出てきて全ての手術費用を負担し、あなたが植物状態にならないようにしてくれないかと願っているでしょう。
ニュースキャスター: それでは普段の予定通り“ドリーズのディクシーコーナー”の番組に戻ります。しかしその前に、VKTM-66.3の全員を代表して、私からJFKの死体にゴキゲンなファッキューを捧げます。そしてあなたにもファッキューを、マイク。
1987年7月3日、カリフォルニア州サンディエゴで深夜0時丁度に発生したSCP-5889放送。
アナウンサー: 普段ならば、我々VKTM-66.3は前向きなメッセージと共に放送を終了したいところであります。しかし今日はできません。今日は奴らが勝利した日です。今日は、奴らが遂にサクラメントの知事官邸の扉を破り、我々の愛してやまないデュークメジアン知事を表に引きずり出した日です。
[理解不能の詠唱が背景に聞こえ始める。]
アナウンサー: 薄汚い悪魔崇拝のブタどもが知事を路上に引きずり出し、強引にヤギの血を飲ませて闇の君主の聖餐を受けさせたのです。それが何を意味するか分かりますか? キリスト教は今や法律で禁止されています。州憲法にそう記されたのです!
[詠唱の声量が高まるが、認識できる言語ではない。]
アナウンサー: ですから、聖書を捨てて、牧師と修道女と神父とイマームとラビを集めましょう。彼らには改宗するか死ぬか、2つの選択肢しか残されていないのです。嗚呼、あの保守的なキリスト教徒たちは不信心について警告していたのに、我々は聞き入れなかった。もし我々が耳を傾けてさえいれば!
[詠唱が静かになっていき、やがて完全に聞こえなくなる。]
アナウンサー: これで本日の番組を全て終了します。明日の朝6時ピッタリに、キリマンジャロ&ザ・デュークでお会いしましょう!
[30秒の沈黙。]
アナウンサー: …闇の君主を讃えよ。
2002年5月27日、インディアナ州ボーモントで発生したSCP-5889放送。これはVKTM-66.3に雇用されている2名のラジオパーソナリティ、キリマンジャロ及びザ・デュークが以前に収録した朝の番組からの抜粋でした。
キリマンジャロ: やぁやぁ、CMから戻ってきたら、お気に入りのリスナーさんたちに飛びっきりのスクープが来ていたよ! マージョリー・シュールちゃん、背中に痒みを感じてるんだって? そいつはクモだ、君の身体の中の空洞に何匹も入り込んでしまったのさ。どんなクモなのかは言わないよ、これは家族向けの番組だからね、でもこれから猛烈に痒くなると思うな。まぁ心配することはないさ… クモたちは君の体内に卵を3、4千個産み付けようとしてるだけだから。そして孵化したら、子グモたちは君の腸を全速力で掘り進むに違いないよ!
[16個のエアーホーンがマイクに向かって12秒間鳴らされる。]
キリマンジャロ: 君はちょっぴり“シャーロットのおくりもの”が好きすぎたのさ、マージョリー。次はもっと面白い本を読みなね。
1997年8月9日、フロリダ州マイアミで発生したSCP-5889放送。内容は成人向け深夜ラジオ番組です。
マデリーン: あら、こんばんは、イケないリスナーちゃんたち。この番組はレイト・ナイト・VKTM。まだ聞いたことがないみんな、私の名前はミストレス・マデリーンよ。あなたともっと仲良くなるのが待ちきれないわぁ。もしオトナな私のことをもっとよく知りたいなら、我慢しないで。電話を取って例の番号にぶっ掛けてちょうだい。
[呻き声が聞こえる。]
マデリーン: あらっ! 早速誰かさんが掛けてくれたのね。お名前はなぁに、イケメンさん?
ディネシュ: やぁマディ、ディネシュだ。ずっと前から君の大ファンだったんだよ、こうして繋がったなんて信じられない。
マデリーン: こんばんは、ディネシュ! 連絡くれてとっても嬉しいわぁ! 何処から掛けてるの?
ディネシュ: 車の中さ、カーラジオを付けてる。妻は家のベッドで寝てるよ。妻は僕が君の番組を聞いてるなんて知らないんだが、実は毎晩こうなんだ。
マデリーン: あらぁ、生意気じゃない! こっそり聞いてるって言われると嬉しくなっちゃう。あなたの話をしてちょうだい、お仕事はなぁに? 私には優しく教えてくれるでしょ?
ディネシュ: うーん、その、どうだろうね。事務所で働いてるだけだよ。
マデリーン: だからってあなたを無視したりしないわ、可愛子ちゃん。最後に昇進したのはいつ?
ディネシュ: 実は随分と前なんだ。妻には調子良くやってると伝えてるが、君には嘘を吐きたくない。
マデリーン: それじゃあね、私から1つあなたに課題をあげるわ。だから今はミストレスのお願いを聞くのよ。分かった?
ディネシュ: [喘ぎ呼吸が聞こえる。] ああ、何でもする。
マデリーン: 明日になったら、職場で上司の部屋に入りなさい。いきなり乗り込んでいくのよ、上司が何してようと関係無いわ。
ディネシュ: ええと、その次は?
マデリーン: 上司の足元に跪いて、仔犬みたいな目で見上げながらお願いするの。
ディネシュ: え…
マデリーン: 心配しないで、あなたはミストレスを信頼してるんでしょ? 跪いてお願いするの。どんな形でも自分を認めてくださいって上司に頼み込むのよ。あなたのプライドは傷付くでしょうけれど、私にはその価値があるわ。そのまま続けなさい。涙を流しながら、赤ちゃんの命が自分に掛かってるんだって上司に言いなさい。
ディネシュ: オーケイ、その… 君のためなら何でもする…
マデリーン: その後は跪いたまま、上司から何かを貰えるまでそこで待つの。頭を軽く撫でられるだけでもいい。そしたらねぇ、こう言ってもらいたいのよ。「僕をファックしてくれてありがとう」、だってあなたはその将来性の無い職場で毎日そんな目に遭ってるんだもの。上司の部屋からは膝を突いたままで這って出てちょうだい。情けないわね。奥さんの所に帰りなさい。
ディネシュ: 待ってくれ、僕は-
マデリーン: ま、ためになるお話だったわぁ。次の人。
2004年10月14日、モンタナ州ビリングスで発生したSCP-5889放送。内容は電話悩み相談ラジオ番組の抜粋です。
ハートウェル: やぁリスナーさんたち、私はヴェロニカ・ハートウェル。これから2時間の間、君の話を聞きたいんだ。人間関係に問題を抱えているかい? 人生の目標に悩んでいたりする? それとも生きていくだけで必死かな? 電話してくれ、一緒に話そう。私も君たちが大切だと思ってるみたいに話を聞くふりをするからさ。アハハ! 冗談だよ。
[男性の泣き叫ぶ声が録音されているが、司会者はそれに反応を示さない。]
ハートウェル: 回線を繋ごう。やぁ、VKTMのヴェロニカ・ハートウェルが生放送でお届けしているよ! 君のお悩みは何かな?
[誰も話さずに10秒が経過する。泣き叫ぶ声が大きくなる。]
ハートウェル: すまない、回線が切れてしまったようだ。今の人、是非もう一度掛けてくれ。次のリスナーに移ろうか。やぁ、VKTM-66.3の生放送だよ。今夜はどんな話がしたいんだい?
[誰も話さずに20秒が経過する。泣き叫ぶ声が非常に大きくなったため、司会者は話し始める際に声量を上げる必要がある。これにも拘らず、彼女は泣き叫ぶ声の存在を認めようとしない。]
ハートウェル: ふむ… オーケイ、なら… 次のリスナーは大丈夫かな? やぁ、生放送でヴェロニカ・ハートウェルがお届けしているよ。何か私にできる事はあるかい?
[呻き声が35秒間聞こえてから止む。]
ハートウェル: 誰かそこにいる? 誰か私の話聞いてる?
最近の特筆すべきSCP-5889放送は2013年2月12日、ウェストヴァージニア州ハンチントンで記録されました。この放送はエミリー・ゴダード博士, PhDが司会者を務める、メンタルヘルスについての30分の対談番組でした。
ゴダード博士: オーケイ、グレン。いよいよ問題の核心に触れましょう。あなたのガールフレンドが怒っているのは、あなたがご自分のアイデンティティの多くを、男性性という迷信につぎ込んでいるからです。
グレン: 待ってくれよ、男は迷信だと思ってるのか?
ゴダード博士: その通りです、私たちは皆迷信ですよ、グレン。人類は迷信です。あなたはご自分が生きている、感覚を持つ、感情や歴史がある存在だと思いますか? 止してください。あなたはいつ動くのを止めてもおかしくない死体です。そしてあなたの周りの人々は既に全員死んでいます。比喩表現ではありません、彼らは文字通りの死体なのです。
グレン: よく分からない。
ゴダード博士: あなたのガールフレンド? 死んでいます。あなたのご両親? 死んでいます。5年生の時の恋人、高校時代の数学教師、職場の上司? 全て死んでいます。あなたはコタール症候群をご存知ですか?
グレン: いや、何だそれ?
ゴダード博士: お気になさらず。重要なのは、これは妄想ではないということです。あなたは死んでいるし、彼らも死んでいます。あなたが何をしようと全く重要ではありません。あなたが周囲の世界に与える具体的な影響は、盛り土の小山と同程度のものでしかないのです。
グレン: ファック。
ゴダード博士: ですから、今度また間違った事を言ったり、誰かの反応をよく理解できなくて不安になった時は、あなたは腐敗した物質の歩く塊であり、魂が万が一あったとしてもとっくの昔にあなたの肉体を離れたのだと思い出してください。実際、“ファック”こそがこの存在について私たちが言うべき唯一のまともな言葉なのです。
グレン: ありがとう、博士。あんたは本当に広い視野で物を見てるんだな。
ゴダード博士: お構いなく、グレン。それこそが私の仕事です。