
SCP-5941を (不正確に) 描写していると思われる古代ギリシャの硬貨。
アイテム番号: SCP-5941
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: 財団軍事施設であるサイト-0707が、POI#782が収容違反した場合の予備収容を目的として、SCP-5941の周囲に建設されています。SCP-5941の機能、起源、文化的重要性の包括的な研究が完了するまでは、いかなる職員も無許可でSCP-5941に入場することを認められません。また、現時点でそのような研究は許可されていません。
SCP-5941の研究主任はホレス・ウィーバー博士、PoI#782の収容主任はエージェント マルコ・ストラディバリです。
説明: SCP-5941はギリシャのクノッソス近郊にある地下迷宮です。SCP-5941は一筆書き可能な構造をしており、中心に通じる道は1本しかありません。
その構造を司る一連の正確な寸法と論理的メカニズムによって、一度SCP-5941に入場した者が退出することは不可能です。
SCP-5941は現在、マガルフ・インシデント以前のO5-1であったPoI#782 “マイケル・ゴア” の収容に利用されています。
補遺1: 2019/02/18、O5評議会はPoI#782の回収を要請しました。エージェント ストラディバリは回収試行を5回実施しました。これらの試行の詳細は次の通りです。
試行# | 日付 | 職員 | 結果 |
---|---|---|---|
#1 | 2019/02/22 | D-014224 | 入場直後に映像は途絶した。 |
#2 | 2019/02/24 | MTF オメガ-99、“ボルヘス・エンジェルズ” | エージェントたちはすぐに一連の行動の繰り返しに没頭し始め、幾度も左折しては、自分たちが左折したことを忘れる様子を示した。声は次第に必死かつパニックに陥ったものとなり、7時間後に全ての映像は途絶した。 |
#3 | 2019/03/05 | MTF シグマ-68、“インキュリアス・バスターズ” | SCP-5941が一筆書き構造であるにも拘らず、各エージェントは別々の通路に迷い込んだ。エージェントたちは次第に意気消沈してゆき、5時間後に映像は途絶した。 |
#4 | 2019/03/09 | エージェント ミシェル・オブライエン、非現実領域対応部隊所属 | エージェント オブライエンはSCP-5941の次元的・ミーム的な防御機構に抵抗できたが、迷宮の中心まで2mの地点で巨大な鏡に直面した。エージェント オブライエンは鏡を見てパニックとヒステリーを起こし、映像はその後間もなく途絶した。 |
#5 | 2019/03/14 | D-93819 | D-93819はSCP-5941の次元的・ミーム的な防御機構に抵抗できたが、迷宮の中心まで2mの地点で巨大な鏡に直面した。鏡にはウィーバー博士の姿が映っていた。D-93819は鏡を見てパニックとヒステリーを起こし、映像はその後間もなく途絶した。 |
これらの調査中にPoI#782の痕跡は発見されませんでした。
補遺2: 以下は、2019/03/22に行われたエージェント ストラディバリとウィーバー博士のインタビューです。
ウィーバー: いいかい、マル-
ストラディバリ: 俺はお前を信じた、ホレス。これは成功するはずだ、信頼できる手段だと言ったよな。
ウィーバー: そんな事を言った覚えはない。私は迷宮について判明している事を伝え、君はそれなら上手く行くと考えた。どんな問題が起こり得たと言うんだ?
ストラディバリ: デタラメをほざくな。お前は自分がやってる事を理解してたんだろう。もっと多くのデータを集めるための計画の一部だったのか? 俺にエージェントを次々と送り込ませて、どうなるかを見届けたかったのか?
ウィーバー: 違う! そんなつもりは全く無い。色々と学びがあったのは認めよう、しかし-
ストラディバリ: あれは使うべきじゃない。どれ一つとしてな。それは間違ってる。
ウィーバー: ゴアを回収し、かつ君のチームの命を守りたいのなら、どんなに不愉快であろうと、裁量で使える手段は全て使うべきだ。
ストラディバリ: クソ野郎。
ストラディバリは窓際に歩み寄り、数秒間荒々しく息をつく。ウィーバーはテーブルを見つめ、指で鉛筆を弄っている。
ストラディバリ: 俺はO5から結果を出せとせっつかれてる。ゴアをあそこから出さなきゃならない。
ウィーバー: 彼らは今さらゴアに何を求めている?
ストラディバリ: 恐らく情報だ。奴の地位を剥奪する前に聞き出そうと思い至らなかった何かだ。それは重要な事か?
ウィーバー: そうかもしれない。あの迷宮の真の力は、あらゆるものを自らの構造に取り入れることにあるんじゃないかと思うんだ。
ストラディバリ: どういう意味だ?
ウィーバー: 君はこの問題をもっと人間らしく考えろと私に求めるが、今の君は私たちの上司のそもそもの動機を軽視している。君は-
ストラディバリ: 知ったことか! いいか - とにかくこの件にケリをつけてくれ、分かったな? 迷宮から人を脱出させる手段を見つけろ。他の事に付き合ってる暇は無いんだ。
ストラディバリが退室する。ウィーバーは少しの間テーブルを見つめた後、ポケットからメモ帳を取り出して数行書き留める。彼は数秒間座ったままだが、やがて退室する。
補遺3: 2019/04/07、エージェント ストラディバリは2度目の回収試行の許可を求め、承認されました。これらの試行の結果は次の通りです。
試行# | 日付 | 職員 | 結果 |
---|---|---|---|
#6 | 2019/04/12 | D-61747、次元抑制装置を装備 | SCP-5941に入場すると、D-61747は絶対的な落ち着きを感じると報告した。D-61747は立ち止まることも異議を唱えることもなく、指定された道筋を58時間進み続けたが、SCP-5941の中心には到達しなかった。その後、映像は途絶した。 |
#7 | 2019/04/19 | D-18106、致死量に近い記憶補強薬を投与されている | SCP-5941に入場してから32分後、D-18106は激しい閉所恐怖症の感覚を報告し、パニックを起こし始めた。エージェント ストラディバリの厳命にも拘らず、D-18106は道筋を引き返し始め、やがてエージェント ストラディバリの顔が映った巨大な鏡に遭遇した。この時点で映像は途絶した。 |
#8 | 2019/04/21 | 解体班31-B | SCP-5941は破壊された面積に比例して拡大し、試みは失敗に終わった。 |
#9 | 2019/04/29 | ホレス・ウィーバー博士 | 入場直後に映像は途絶した。 |
#10 | 2019/05/01 | エージェント マルコ・ストラディバリ | 入場直後に映像は途絶したが、5時間後、SCP-5941の中心と思われる場所で短時間復旧した。 |
以下は、2019/05/01にSCP-5941の中心らしき場所で復旧した、エージェント ストラディバリの映像記録です。
ストラディバリ: ああ… いったい…
ウィーバー: この前の会話を続けるのに良い機会じゃないかな、マルコ。数ヶ月前のあの会話だ。もっとも、報告書に書き出されると、ついさっきの出来事のように見えるだろうけれども。
ストラディバリ: …ホレス?
ウィーバー: 私があの時言いたかったのはね、上司たちの動機を軽視することによって、君はこのアノマリーを根本的な構成要素に還元しているということだったのさ。これはパズルであり、解決すべき謎というわけだ。それ以外の全てを排除し、私に“とにかくケリを付ける”ように頼むことで、君はアノマリーの望みを叶えていた。君はこの迷宮を、何かを封じ込めるという機能にまで落とし込んでいた。
ストラディバリ: いったい何を訳の分からん事ばかり-
ウィーバー: それで説明が付く。君は迷宮の中心にいるのに、ゴアの姿は何処にも無い。何故なら、ゴアは収容される物体でしかなかったからだ。このサイトでも、文書記録でも、彼がどんな容姿で、どんな趣味を持ち、どんなものに情熱や愛を抱くのか、言及した者は誰一人いなかった。彼は肉と骨で構成された人間であり、迷宮はそれを嫌う。迷宮は収容するために存在するが、具体的な収容すべきものを与えると、論理的ではない自らの内部にそれを取り込む。ところが、私たちがみんなゴアを忘れてしまったせいで、彼はただの機能でしかなくなった。そして機能は吸収される。
ストラディバリ: じゃあ - ゴアは何処だ?
ウィーバー: 彼はもう迷宮の一部だ。或いは既に必要とされていない。正直に言うと、自分でもよく分かっていないんだ。私の言葉は堂々巡りしてばかりで、多分それが重要なのだと思う。
ストラディバリ: じゃあ… 俺たちはどうやって脱出する?
ウィーバー: 君が愛するものをそれに伝えることによって。君が嫌いなものをそれに伝えることによって。私が紅茶に抱く愛情と君がコーヒーに抱く憎悪を語り合うことによって。ローム建築に、壁の彫刻の宗教的な意義に、ミノア人たちが松明を置きテーセウスが糸を巻き付けた燭台に注目することによって。それを迷宮ではなく、モノとして、物質として、神話と蝋と恐怖として扱うことによって。
ストラディバリ: 簡単すぎるように聞こえるぞ。
ウィーバー: ああ、そうとも。君の顔が鏡に映ったのは何故か? 私が映ったのは何故か? 迷宮は単なる収容の一形態であり、周囲に存在する全てを自らの機能に吸収する。それを使う人々も含めてね。私たちは既に迷宮の一部なんだよ。
ストラディバリ: なん-
映像は途絶する。