キリストの遺体が数多く発見されています、であるならば、過去に纏わる大いなる謎は解き明かすことのできないものとなりました。
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クレジット
翻訳責任者: Yukth
翻訳年: 2025
著作権者: FLOORBOARDS
原題: Melitzah [3:13.30:33.14:43.20:30.97:19]
作成年: 2023
初訳時参照リビジョン: 31
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-6109
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特別収容プロトコル: 別れてよかったんだって、わたしはそう思ってる。あなたはもう、わたしが婚約を願う相手じゃなくなったんだから。
うん、後悔してることもたくさんあるよ。もっと上手くやれたんだってことも思い当たるし、どうして言っちゃったんだろうってこともある。踏み越えるべきじゃない一線もわたしは越えてしまった。だけど、どうか分かってくれたらって思ってる、わたしのしでかしたこと全部、あなたを恐がってたのが原因だっていうことを。
追い詰められたみたいな気分は好きじゃないのに、あなたのせいで今はそんなつらい気持ちになる。違う関係でいられたらよかった。あなたが対処しなきゃってことを、わたしも応じられるようならよかった。わたしに受け止める余裕があればよかった。でも同時に — あなたからも歩み寄って — 大勢の前で怒鳴り声を上げないでほしかった。何もしないでって私が頼んだときにも泣き出さないでほしかった。同棲してたったの数日で、あなたのこと何でもかんでもわたしに打ち明けてくるのもやめてほしかった。"虫唾の走るような自分だけのヒミツの世界に心閉ざしてる嘘つき女" だって、あなたはわたしのことをそう呼んだけど、だけど、あなたのほうがずっと酷いよ。わたしは言えることはちゃんと伝えてきた。でも、あなたは自分のしたことを誇ってただけでしょ。
だから、関係解消の電話があなたから掛かってきてくれて嬉しく思ってるよ。今にして考えてみれば、わたしのほうからもっと早くに切り出しておくべきだったんだ。でも同時に、あなたとの関係を恋しく想い始める度に、私は思い出すようにしてる。あなたといっしょにいる時のわたしは… つくづく惨めったらしいサイテーの存在だったってこと。
だからもう、わたしたちの間に一世一代のプロポーズなんて決してありはしない。それがクールcoolなんだって、わたしはそう納得してる。でもいつか、20年、30年後にでも、またあなたと偶然に出逢うことがあったなら? そのときはわたしから片膝をついて、あなたにこう訊けたらいいなって思ってるよ。
説明: SCP-6109は合計で、3体 13体の 30体 33体の 未確定の数量の同一人物に由来する白骨死骸群であり、これらはイェホシュア・ベン・ヨセフ (歴史的にはイエス・キリストとして神格化された人物) の遺骸であることが確定しています。SCP-6109実例群は世界各地から発見されてきました。
日本青森県新郷村で撮影。右側遺骸がSCP-6109実例であり、左側遺骸は身元不詳の女性に由来する。
遺骸群は同一の身体的・遺伝的特徴を共有していることに加え、同一の異常性を示しています。特徴・異常性には以下が含まれます。
- 破壊耐性
- 骨単位内部に空洞を内包する解剖学的特徴 (鳥類の含気骨に類似)
- 後頭部内部で発生する現実改変性事象 (眼窩を介して視認可能な、五芒星状または星型の超高温ガス球として発生するのが典型的)
- 両手掌に存在する大きな刺傷痕から萌出した歯 (犬歯のみ存在しない)
- 両足底部に存在する大きな刺傷痕から萌出した歯 (犬歯のみ存在しない)
- 接触した粉塵を金粒子へ即時に変換する異常性
- 胸郭の内部に位置する、より小型の第二の胸郭 (両胸郭は互いには接触していない)
- 14.43 の環境中アキヴァ放射レベル (当該の放射レベルは観測された最高レベルに比肩する)
各実例により死因は異なりますが、全実例が2030~1997年前の期間に逝去しています。簡易表を死亡年に基づいた年代順で以下に示します。
| 発見地 | 死亡年 (推定) | 死因 (推定) |
|---|---|---|
| 無標の墓 — ベツレヘム (パレスチナ) | 紀元前8年 | 頭蓋部の痕跡は棍棒による殴打痕に一致。 |
| 砂地に浅く掘られた穴 — エル・マタレヤ (エジプト) | 紀元前8年 | 長期間にわたる水への曝露に一致する摩耗痕。溺死の可能性あり。 |
| 洞窟 — エルサレム (イスラエル) | 紀元27年 | 磔刑に一致する痕跡。肋骨の一部が持ち去られている。 |
| 秘匿された神殿 — カナ (レバノン) | 紀元29年 | 病死の可能性あり。 |
| 砂地に浅く掘られた穴 — エルサレム (イスラエル) | 紀元30年 | 頸部を骨折。絞首刑に処されたことが示唆される。 |
| 洞窟 — エルサレム (イスラエル) | 紀元34年 | 磔刑に一致する痕跡。 |
| 墓所 (聖パトリック大聖堂地下) — マンチェスター (アメリカ) | 紀元34年 | 病死の可能性あり。 |
| 茨叢の地中 — グラストンベリー (イングランド) | 紀元43年 | 後頭部の陥没から棍棒による殴打が示唆される。 |
| 洞窟 — サマセット (イングランド) | 紀元43年 | 焼死。近傍から微量の金粒子の堆積を確認。 |
| 廃寺 — ツェタン (チベット) | 紀元50年 | 病死の可能性あり。死後の焼損痕を確認。 |
| ヒンドゥー教系墓地 — プリー (インド) | 紀元83年 | 自然死の可能性あり。死後の焼損痕を確認。 |
| 鉱山坑道 — マラジオン (コーンウォール) | 紀元90年 | 不明。鎖帷子およびに鉄製甲冑を着用した状態で発見。外傷痕は認められず。 |
| 墓所 (ソルトレイククリスチャンセンター地下) — ソルトレイクシティ (アメリカ) | 紀元95年 | 内分泌攪乱化学物質への曝露。骨格全体に顕著な腐敗を呈するも形態は保持。 |
バチカン遺物回収局により、最初の遺骸13体が1962年~1965年に発見されました。第二バチカン公会議の終了直後、パウロ6世の判断により保護管理を理由に当該アノマリーは財団へ移管されました。当時、13体以外の実例の存在は未確認ではありましたが、イェホシュア・ベン・ヨセフの旅にまつわる伝承が広く存在していたため、1997年12月まで追加の調査が継続されました。調査終了時点において、発見された実例数は指定された収容チームの収容限界を超過していました。
以降の収容方式は能動的方式から受動的方式へと移行されました。これにより、外部組織によりSCP-6109の追加的発生が言及された場合にのみその調査・収集が行われますが、財団が当該アノマリーを積極的に追跡調査することはありません。
SCP-6109実例が一定割合で継続的に回収され続けている事実から、逆因果的操作が発生しうるという懸念が提起されています。いずれの遺骸もイェホシュア・ベン・ヨセフに帰属することが証明されていますが、それぞれが異なるタイムラインで死亡した形跡を有しており、現時点で各遺骸が同時に存在しているという事実から時間的アノマリーの存在が示唆されています。
その後、以前の収容プロトコルが再施行され、本プロジェクトの管理権は時間異常部門に与えられることとなりました。(特別収容プロトコルを参照)
人類史における当該人物の重要性から、歴史上のイェホシュア・ベン・ヨセフの生涯に干渉することは時間操作においての原則的な禁止事項とされています。しかし、外部勢力による干渉を既に受けているため、当該規定は一時的に保留されています。
戦術神学部門の前部門長であるムハンマド・アル=タキーが時間異常エージェントとして当該アノマリー役に復職しました。彼が選出された理由は、宗教史分野での専門的知識を有していること・複数のミズラヒ=ヘブライ語ないし聖書ヘブライ語の方言へ習熟していること・関連する神格群と意思疎通した過去を有していることに起因します。
アル=タキーはイェホシュア・ベン・ヨセフの磔刑からおおよそ1日が経過した時点へと転移され、まだ生前にあるSCP-6109実例群の出現位置を特定することとその追跡に着手することを使命とします。彼には1年分の食料が支給されており、財団との超時間的情報伝達用の葦ペンとパピルス巻物がこの物資群に含まれています。
アル=タキーが任務達成を示した時点で回収作戦が実行に移されます。当該作戦の具体的内容については現在協議中です。
補遺: フロリダ州フォート・ローダデールに所在するディアナ・ドゥイサーの自宅にて、SCP-6109実例が地下室の床下に出現した旨の報告を受け、秘密裏の調査がバチカン遺物回収局により行われました。
ディアナ・ドゥイサーが巻物を発見した場所。
実例は探知できませんでしたが、2枚のガラス板に挟まれて布で封がされたパピルス巻物が1つ発見されました。巻物はおおよそ1998年前に作成されたものであり、前文と結びの部分が聖書ヘブライ語で、一方で本文はユダヤ=イエメン系アラビア語で記されていました。
当該の巻物は研究のために回収され、居住者には記憶処理が施されました。
当該の巻物は当初、真贋判定・崇敬目的の調査のためにバチカン遺物回収局により回収されたと推定されています。その調査の正確な詳細内容は不明ですが、巻物が財団により製作されたか、少なくとも財団が関与しているという結論に当局は至りました。この結論を受けて、当局は財団に対しての悪感情を表明しました。
その反感を抑え込むべく財団の代表者としてシェルドン・カッツ法務官が努めたにもかかわらず、財団の対処能力不足の証拠として広範な正常性維持コミュニティに当該巻物を提示するとして、遺物回収局は財団への脅迫を行いました。財団が巻物の回収・公開の阻止をするにあたり、当局は以下の要求を提示しました。
- 財団の調査で判明したイェホシュア・ベン・ヨセフの生涯に関する全情報の公開
- 紀元34年に殺害されたSCP-6109実例の遺骸の返還
- ローマ教皇宛ての正式な非公開謝罪文
O5評議会はこれら要求への対応を時間異常部門へと委任しました。3日間の協議の結果、時間異常部門は一切の変更なく要求を受諾しました。
要求にあったSCP-6109実例はバチカン市国へとヘリコプター移送中となります。シェルドン・カッツ法務官には当該の巻物が手渡されており、時間異常部門へと直接提出される手筈となります。また、同氏により教皇宛ての書簡が現在起草中です。
当該の巻物は英語に翻訳され、電子化されたうえで本ファイルに添付されています。
1 管理官殿 — 以下に記す陳述の後に本節は草されたものである。私は現在、泥沼の深みに在る。此処は暑く、忌まわしく、翠の川に張り出す樹葉の天蓋の下に私は漂泛している。此処には虫も多く、故郷が恋しく思われる。閑話休題。現下の我々の窮状、その根源たるを発見したと強く確信するに至った — されば、この身に語るを許そう。
2 二年にわたり彼の人の後を追った。徒歩にて、ついで駱駝に跨りて、三つの国を行き渡った。ローマ属州の果てからレバノンの深奥に至るまで、遂に、ある波止場にて彼の人を追い詰めた。彼の人は船出を意図してはいたが、その行き先については誰一人とも言葉を交わさなかった — 船を借りた男に曖昧な面持ちを見せたのみであり、彼の人は次のように述べた。
3「汝は何を我より見出さんと欲するや。」
4 男は、今にして悟るにこの男こそガリラヤの漁師であったのだが、彼の人の顔ばせに笑いを投げて述べた。「人の子よ、あなたは何処を行き先と定められるのか。」イェホシュアも笑みを以て応じ、そして述べた。「我が再び来る時に汝へ告げよう。」漁師はこれに頷き、彼の人は問うた。「<判読不能>」漁師は彼の人の肩に手を置き、受諾の意を示した。
5 当該アノマリーの目的こそ理解したが、未だその方法を理解し得ず — ゆえに、彼の人の追従を私は続けた。
6 イェホシュアは船に諸物を置き、それらは私も知らぬ品ではあったが、その後に船乗りを求めんとして近くの村に赴いた。まさにこの時、私は彼の人の許へ身を潜め寄せた。彼の人は掠奪者や漁師や怠惰なる酔漢どもと語らい酒を酌み交わす最中に居り、私は彼の人の許へ歩み寄り、その旅に与ることを求めた。彼の人は私に問うた、彼の人が此の地に在るその所以を悟りいるや。否と私は答え、ただ彼の人の復活の光輝に与りたいと述べた。彼の人は首を横に振り、私の言を信じなかった。直接に乞うたところ、彼の人は初めこそ私を退き払い — かと思えば身を捩じらせ振り返り、私に語りかけた。彼の人への同行を私は許された。彼の人は続けた、さりとて私は真の信徒には非ず、と。彼の人の天授の精髄がやがては顕わになろう、されど私の心を見通せば私は彼の人の輩に非ず、と。
7 この言葉は私の心を刺したが、幾許かは首肯せざるを得なかった。やがて彼の人は私を含む十三名だけの従者を得て、明日の船出が定められた。
8 明くる日、我々は船に乗った。しかして彼の人が持つ諸物を検めんとして、彼の人の室を見つけられず。彼の人が何処かを寝所とするか密かに問うたところ、船首で床に就くのだと選ばれし第一の従者は答えた。
9 この答えに私は困惑したが論ずる暇はなかった。速やかに旅立つべしと彼の人は我々へ命じ、能う限りに急ぎ我々は船を漕ぎ出した。その秘された行き先へと、彼の人を能う限りに急ぎ送り届けねばならなかった。
10 幾月にわたり我々は身を労したが、彼の人も絶えず共に働いた。作業の折に我々が歌えば、また彼の人も声を合わせた。書に記されている通りに彼の人は慈悲深くあったが、我々からその身を退いて置くためにその隔たりに私は不安を覚えた。私もまた彼の人から身を退いていたことこそ認めるが、故に彼の人を強く断ずることはせず、されど彼の人が甲板の下に入り、景色から姿を没する折には幾許かの狼狽を禁じざるを得なかった。
11 或る夜、彼の人は甲板の下に赴き、幾日にわたり戻らなかった。海況は霧けぶってはいたが穏やかであり、我々は正しい航路に在ると信じていた。
12 私は澄み切った静寂の内に目覚めた。潮水すら動くことを止めてしまったが如き静けさにあった。
13 私は居室を出でて船倉に踏み入れ、その内奥を探った。誰の姿も在らず、されど肝要なるはこの船の造りに馴染みもなく — 私は船の区画を曖昧模糊に認識していた。それらはそこに在るという事実ではなく、在って然るべしという私の思い込みの上に認識されているに過ぎなかった。さながら船が最小限の機能のみに還元されたが如く — 甚く削がれた有様であった。
14 上方より鳴る軋り音を耳にした。幾許か躊躇いつつ彷徨い、やがて甲板へ続く階段に至った。
15 甲板に上れば、彼の人が独り佇んでおり、顔ばせは私より背かれていた。彼方の一点に霧の寄り集うのを私は目にした、嵐に非ず、純然たる気化なり。私からの呼びかけに彼の人は振り向き、述べた。「ムハンマドよ、舳に出で来て我と共にせよ。近づき来る王国を視よ — 汝は何を見出だすのか。」
16 私が海を望めば霧の他に見える物は無かった。これを述べると、彼の人は頷き私の背を撫でた。
17 彼の人は述べた。「霧とは水の聚まりなり。千万無量の水沫が上天へ立ち昇り、空際へ散り広がる。我もまた斯くの如し。」
18 当惑を抱きつつ私は彼の人へ向き直り、その光景に身は凍りついた —
19 私は目にした — 彼の人は船首にその両腕を広げ、宙へと踏み出し、そして二つに裂かれた。それを二たび、三たび、裂かれ、また裂かれた。見晴らす彼方の霧のさなかでは船々が顕れる。その船々もまた二つに裂けるを繰り返す。やがて空と海と大地とは彼の人とその船々に覆われ、数知れぬ岸辺と数知れぬ大洋へ向かいそれらは漕ぎ出した。
20 天上より、彼の人の声が告げる。「我は何処へも至るためしなく、また何処にも在るためしなし。不在より我が存在は齎される。汝の歩む処を我は歩まず、我は歩みを残さず、我は渡らずが故に。汝が我を見出す処なし、我は在らずが故に。我は無と化さん。」
21 「我は水面を歩む、真なり、大海は記憶なき処なるが故なり。大海はそれを渡る者を仰ぎ見ず。大海はその直黒なる底を覗き込み、その深黒の虚無を眼下に望む。しかして大海は忘却す。波に足跡は残らず。その波の底、光も届かぬ底に在るは何ぞ。何も在らず。我、その無に為らん。」
22 彼の人は倒れ伏し — 否、彼の人の悉くが崩れ落ち、旗々は艶を失い黒く曇り、船々は無人となる。舵を取る者はなく、私の乗る船は霧中を漂泛した。容を同じくする船々の合間を辛うじて掠め渡った。その船々は皆が等しく朽ち果てていた。
23 彼の人へ私は叫んだ。「主よ、如何なる御意を示しなさるのですか。何処へ赴かんとなさるのですか。」
24 雨嵐の姿に身を装った彼の人は応えた。「汝は何を我より見出さんと欲するや。」
25 私は叫び返した。「あなたの行き先を!」彼の人は応えたが、その声も幽かに消えていく。「何処もなし。」
26 心挫けた私は彼の人と視線を交わしたのだろう、上天の何処かで。その折、彼の人は最後の言葉を私に告げた。「<判読不能>」
27 否、と答えることを望んだ。されど、我々は然もありぬ、と現下の私は心の内より信じている。
28 彼の人の声は途絶え、残されしは雨のみであった。眼下に望べば、確かに、大海のさなかに暗黒を見た。
29 私はこの船が次に赴く先を知らない。ただ辿り着くであろうことをのみ理解している、亡骸を一つ携えて到着するということを。これは救済の渡しであり — いずれの船々も渡しを担う、贖いの積み荷を運ぶ船なのである。
30 彼の人が何処に届けられることを望むのかは分からない。ただ、私はその御意に追従せねばならない。
31 本書簡は行き着く処に埋め置く。願わくば、あなた方にとって有益たらんことを。
32 ムハンマド・アル=タキー
33 永遠に掲ぐ — 確保、収容、保護。
ムハンマド・アル=タキーの所在は不明ですが、既知のSCP-6109発見地点に対する偵察任務が承認されています。
インタビュー対象: ムハンマド・アル=タキー (PoI-6109)
インタビュー担当: シェルドン・カッツ法務官エスクワイア (戦術神学部門代表)
前記: PoI-6109を民間人身分へと転置し直す前に、記憶処理後に生じた変化の有無を確認するため、標準的移行判定検査が再実施されました。
<ログ開始>
カッツ: — では、始めようか、ゴホン。黒き月は吠えているか?
PoI-6109: なんと?
カッツ氏が頷き、手元のクリップボードに書き込む。
カッツ: シナイ半島を眺めたことは?
PoI-6109: いえ、直接には。
カッツ: 赴かねばという義務感は?
PoI-6109: あんまり、まぁ、行ってみたいなぁとは思いますがね。
カッツ氏が頷き、手元のクリップボードに書き込む。
カッツ: ウィリアム・ウィン・ウェストコットの著作についてはどう思う?
PoI-6109: 聞き覚えのない名に思えます。
カッツ: 過去にいた神学者だ。
PoI-6109: 成程… それでも、やはり覚えにありません。
カッツ氏が頷き、手元のクリップボードに書き込む。
カッツ: ウリエル計画に問題が生じている。
PoI-6109は目に見える反応を示さない。カッツ氏が頷き、手元のクリップボードに書き込む。
PoI-6109: これは、あとどれ位続けねばならないのでしょう? 家に帰りたいのですが。
カッツ: まぁ… 最後にもう一問だけ。もしも私が神の預言者だと宣ったのなら、あなたは信じるか?
PoI-6109は苛立ちを含めた微笑みを向ける。カッツ氏が微笑み返す。両名が声を出して笑い出す。
カッツ: ありがとう、ムハンマド。以上で終いだ。
PoI-6109: どうも。
付き添いを伴ったPoI-6109が取調室から退室する。カッツ氏はしばらく前方を見つめ、それから机上で両腕を組む。顔を伏せ、そのまま動かない。
<ログ終了>
終了報告 PoI-6109はアルゼンチン ブエノスアイレス所在の自宅において錯乱状態で発見されました。強化尋問およびに記憶処理を施したにもかかわらず、PoI-6109は自身が財団に雇用されていた過去を思い出しません。
PoI-6109の住居。当該人物の一次移行判定中に時間異常部門エージェントにより撮影されました。
PoI-6109の経歴に関して、政府の記録と財団内部の記録とで大きな食い違いが存在しています。即ち、戦術神学部門の管理者とされていた数年においても民間人として生活していたように見受けられます。"現実再構築" 耐性データベースから取得された記録から、事象の整合性連鎖により当該の民間人身分が発生したことが示唆されています。事実上、PoI-6109が財団に雇用されていたことを示す証拠は財団内部の記録にのみ限られます。
差し当って、PoI-6109は保護的監視下に置かれています。当該人物の自宅の対向する建造物は財団エージェントにより購入・改修され、監視のために利用されています。
当該人物が回収されて以降、新たなSCP-6109実例は発見されていません。既に収容下にある実例群には構造的崩壊の兆候が現れ始めています。
磔刑に処されたSCP-6109実例の遺体について、偽物であると判断されたことを根拠にバチカン市国は当該の遺体を返還しました。財団が管理する全実例は玄妙除却セクションへ移送されています。
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Author: Christopher Michel
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