“オゥ、ダグ!”でフィリップ・ディアリングを演じる俳優、ブルース・ウィリス。
特別収容プロトコル: SCP-6156は標準的な異常オブジェクト収容ロッカーに保管されます。
説明: SCP-6156は、ヴィキャンデル=ニード・テクニカル・メディアによって制作され、サイト-43の正面入口で発見されたVHSテープです。発見当時、SCP-6156には次のようなメモが添付されていました。“フィルへ、私たちはあなたの体験に大いに心を動かされました。この短いエピソードが、あなたにも同じく刺激を与えてくれることを願います!”
SCP-6156に収録されているのは“オゥ、ダグ!”と題されたテレビ番組の1エピソードです。この番組は1950年代後半から1960年代前半に制作されたモノクロ映像のシチュエーション・コメディドラマであり、SCP-5056を主役としていますが、エピソード全体を通してその他のサイト-43職員も登場します。全ての職員は俳優によって演じられており、その多くはエンターテイメント業界の著名人です1。エピソードの筋書きは、フィリップ・ディアリング (SCP-5056-B) がアメリア・トロシヤンに結婚記念日のプレゼントを買おうとする、という内容です。特筆すべき点として、SCP-6156で描写されているSCP-5056の異常性は、実際の性質2と時折矛盾します — SCP-5056-Aはディアリングがいない場面でも度々出現し、他の登場人物もしばしばその声を聞くことができます。
SCP-6156全体を視聴した人物は、SCP-5056-Aに似た実体が自分の近くにある鏡の中に現れ、しばしば財団と関わりを持っていることを叱責されたと報告します。SCP-5056-Aとは異なり、これらの現象は影響者だけが観測可能で、数時間後には終息します。フィリップ・ディアリングのみがこの影響を受けません。
補遺6156.1: 以下はSCP-6156の内容の要約ログです。簡潔にまとめるため、一部のシーンは含まれていません。完全版のログは要請に応じて閲覧可能になります。
[エピソードは“Oh, Doug!”という英語のタイトルカードから始まる。スウィングのリズムが流れ始める。]
ナレーター:3 またやってるのかい、ダグ? 今度はどんな悪ふざけを企んだのかな?
観客:4 オゥ、ダグ! [観客が拍手し、歓声を送り始める。]
[タイトルカードが暗転する。オープニングシーンがフェードインし、サイト43の廊下の一角で抱擁し合うフィリップ・ディアリング5とアメリア・トロシヤン6の姿が映し出される。]
トロシヤン: もうすぐ結婚して5年だなんて信じられない! 素敵!
ディアリング: 君みたいな女性に出会えるなんて思いもよらなかった。ましてや、僕に大切な人がもう1人いても構わないだなんて。
[観客が笑う。トロシヤンはディアリングを放してにやつく。]
トロシヤン: ああ、ダグのことなら大丈夫。私も彼には慣れてきたと思う。それに、ダグ以外にチェッカーで私と互角に勝負できる相手がいる?
[観客が笑う。ディアリングは大袈裟に悔しがる表情に変わる。]
トロシヤン: ごめんなさい、でもあなたはそこまで強くないんだもの! [ウィンクする。] でも、私にとって一番大切なのは、そんなことじゃない。あなたはいつだって私の特別な人。
[トロシヤンはディアリングの頬にキスする。]
観客: うわ~っ!
[ディアリングは目線を下げ、きまり悪そうに微笑む。]
不明: [スピーカー越しに] あー、トロシヤン セクション長、ロビーに来てくれないか? ティロ・ツウィストが来ててね、君に自転車を没収されたとかどうとかずっと喚いてる。どうやら何か言葉絡みのようだし、しかも彼は今じゃ歯抜けなんだ。
[観客が笑う。トロシヤンは呆れた表情になる。]
トロシヤン: 何を言いに来たか知りたくもないけど、仕事だから行かなくっちゃ。
[トロシヤンはディアリングの口にキスする。観客はトロシヤンが離れるまで拍手し続ける。]
トロシヤン: 明日が待ちきれない! きっと私が用意したプレゼントを気に入るはずだよ。
ディアリング: 僕も待ちきれないよ!
[トロシヤンが画面外に歩き去る。ディアリングが慌てた表情になる。彼は壁に掛かった鏡に歩み寄り、それを叩く。]
ディアリング: ダグ! 力を貸してくれ!
SCP-6156の作中におけるSCP-5056-A。
[SCP-5056-A7が鏡の中に出現する。観客が歓声と大きな拍手を送る。]
SCP-5056-A: さて、さて、さて。誰かさんは結婚記念日を忘れてたらしいな?
ディアリング: 記念日は覚えてた! 時が経つのを忘れただけだ!
SCP-5056-A: ふん、もしお前がもっと有能だったら、好きな事に使える時間がもっとあっただろうに。記念日を忘れないための時間とか。
[観客がブーイングし、野次を飛ばす。]
ディアリング: やめてくれよ。僕たちは深刻な事態に陥ってるんだぞ!
SCP-5056-A: お前が深刻な事態に陥ってるんだよ。俺は順風満帆な未婚者だ。
[女性研究員8が通りかかる。SCP-5056-Aは彼女に向かって口笛を吹く。]
SCP-5056-A: ヘーイ、カワイ子ちゃん、何か非倫理的な事でもしに行くのかい?
[観客が笑う。研究員は歩き続けるが、SCP-5056-Aに向かって中指を立てる。]
SCP-5056-A: ああ、独身の素晴らしさよ。
ディアリング: 今のはハラスメントって呼ばれるものだと思うぞ。
SCP-5056-A: そう言うお前は月間優秀職員って呼ばれるものではないと思うね。
[観客が笑う。ディアリングは鏡を拳で叩く。]
ディアリング: この野郎、ダグ! 助けてくれるのか、くれないのか?
SCP-5056-A: 分かった、分かったとも。つまり、お前は自分の嫁さんをよく知らないから、何を欲しがっているのか分からないんだろ。こりゃ働き過ぎか、ただのダメ亭主かのどっちかだな。
ディアリング: [溜め息] そうじゃない。問題はだね、僕がサイトを出るのを皆が許してくれないことだ。店に行って何かしらパッと買ってこられるように、警備員の目を掻いくぐる必要がある。いいかい、計画はこうさ…
[ディアリングがSCP-5056-Aに耳打ちをする。SCP-5056-Aは頷き、考え込むように顎を撫でる。]
SCP-5056-A: 最低の計画だな。
[観客が笑う。ディアリングは両手で顔を覆う。]
ディアリング: あのな、あんたにもっとマシなアイデアが無い限り、これを実行するしかないんだ。
SCP-5056-A: [肩をすくめる。] んじゃ、ご愁傷様。
[観客が笑い、画面が暗転する。]
[サイト-43のロビーに立つ警備員9の映像がフェードインする。ディアリングが登場すると、彼は口笛を吹く。]
警備員: おう、ディアリング。何の用だ?
ディアリング: やぁ、ちょっとサイト外に出たいんだ。ほんの数時間で帰る。
警備員: すまんが相棒、そいつは無理だ。命令を受けてる。
[SCP-5056-Aが壁の鏡に出現する。警備員が悲鳴を上げる。]
SCP-5056-A: おい、こら! 俺はそこまでブサイクじゃない!
[観客が笑う。]
警備員: いつもお前のことを忘れちまうんだよな、ダグ、悪かった。それに全然ブサイクじゃないぞ、心配すんな!
SCP-5056-A: ご親切にありがとよ。じゃあ、実際にブサイクなのは誰か知ってるか? フィリップ・ディアリングだ。
[警備員はディアリングを見つめ、頷く。観客が笑う。]
警備員: ああ、うん。見れば分かる。
SCP-5056-A: でも、もっとブサイクだった時期を知りたくないか? [写真アルバムを掲げる。] 子供だった頃だよ! あいつの恥ずかしい写真を全部見たいだろ?
警備員: おうとも!
[ディアリングがSCP-5056-Aに歩み寄る。]
ディアリング: [大きめの声で囁く。] なんて事をするんだ?
SCP-5056-A: おい、こいつの注意を逸らしてほしいんだろうが?
[ディアリングが呻く。警備員がSCP-5056-Aに歩み寄ると、SCP-5056-Aは写真アルバムを開く。]
SCP-5056-A: よーし、まずここから始めよう! これは高校時代に初めてダンスした時の写真だ、この歯列矯正具を見ろ! 実はな、あいつ、最初の女の子が近寄ってきた時にションベン漏らしててさ…
[SCP-5056-Aの声が遠のく。ディアリングは出口に向かって歩き始めるが、別な警備員10がセット内に入って来る。]
警備員2: おいっ!
[警備員2は拳銃を抜き、ディアリングの胴体を撃つ。ディアリングは胸を掴み、傷口から血が溢れ出すのが見える。観客が笑う。]
ディアリング: うおっ! 何をしやがる!
[警備員2がディアリングの脚を撃ち、骨が折れる音が聞こえる。ディアリングは床に倒れ込む。観客は笑い続ける。]
警備員2: お前、一体全体どういうつもりだ?
ディアリング: お前こそ一体全体どういうつもりだ?
[警備員2がまたしてもディアリングに拳銃を向け、ディアリングは両手を挙げる。]
警備員1: 待て待て、何が起きてる?
警備員2: たった今、ディアリングがサイトから逃げようとした!
警備員1: 何っ!
[警備員1が拳銃を抜き、またディアリングの胸部を撃つ。この時点で、ディアリングの内臓が幾つか零れ落ち始める。観客が笑う。]
ディアリング: ぐあっ! 止めろっ! 頼むからもう止めてくれよ! お願いだ! 殺さないでくれ!
警備員1: えっ、なんで?
ディアリング: なんでってどういう意味だ?
警備員2: だってお前、サイトから逃げようとしたじゃないか。
ディアリング: 逃げるつもりはない、僕はここで働いてるんだぞ!
警備員1: でも、少なくともほら、別に俺たちは管理官とかを撃ってはいないだろ。
警備員2: そうだよ、こう、もしお前を撃ったのが間違いでも、新人を雇えば済むし!
[観客が笑う。画面が暗転する。]
研究員の注記: その後の幾つかの場面を通して、ディアリングはサイト-43を離れようと試み続ける。毎回、彼は重傷を負い、警備員たちは彼が役に立たない消耗要員であることを罵倒する。時折、SCP-5056-Aもこの行為に加わる。簡潔にまとめるため、これらのログは省略されている。
[場面はまたしてもサイト-43のロビーから始まる。警備員は2名ともドアの傍に待機している。幾つかの包帯とギブスを身に付けたディアリングが画面内に入って来る。警備員たちは彼に武器を向ける。]
ディアリング: 待ってくれ。頼む。逃げる気はない。
警備員1: おう、オーケイ。
[警備員は2人とも銃を下ろす。彼らは気まずそうにディアリングを見る。観客が含み笑いする。]
警備員2: 待てよ、だったら何をしに来たんだ?
ディアリング: どうして外に出ちゃいけないんだ? 僕はどうすればいい? ダグを腕時計の盤面にでも引き留めておけば構わないだろ?
SCP-5056-A: [鏡に出現する。] そいつは見込み薄かもなぁ。
[観客が笑う。]
警備員1: なぁ、気の毒だとは思うよ。でも、お前は厳密には収容されてるから、命令無しじゃ外出は認められないんだ。
[ハロルド・ブランク博士11が、異様に巨大なホットドッグを食べながらロビーに入って来る。]
警備員1: どうも、ブランク博士! お食事はどうでした?
ブランク: [口いっぱいに頬張ったまま] よう!
警備員2: 口いっぱいで話すのはどうかと思いますよ。
ブランク: 黙れ。私は君より偉いぞ。
[観客が笑う。突然、ブランクがホットドッグを喉に詰まらせる。]
ディアリング: 博士っ!
[ディアリングが駆け寄り、ブランクにハイムリック法を施す。すぐにホットドッグがブランクの喉から抜ける。観客が歓声を送る。]
ブランク: 君… 君は命の恩人だ。
ディアリング: そうかもしれませんね。
ブランク: 教えてくれ、どうやったら君に恩返しができる?
ディアリング: ええと、明日は僕とアメリアの結婚記念日なんです。彼女にプレゼントを買えるように、ちょっとだけ外出許可を貰えますか?
ブランク: ふふ、冗談じゃない!
[観客が笑う。]
ブランク: しかしね、賞状があるから、君を月間優秀職員として表彰できるぞ!
ディアリング: じゃあせめて、僕のお金を持って、僕の代わりに買い物をしてくれません?
ブランク: うーん、仕方ない。明日、君に渡すとしよう。ただし、お釣りは私が貰うぞ!
[観客が笑う。画面が暗転する。]
[トロシヤン セクション長のオフィスの映像がフェードインする。彼女が書類に記入していると、ディアリングが入って来る。トロシヤンは彼に駆け寄る。]
トロシヤン: ほら、座るのを手伝うからね、いい?
[トロシヤンはディアリングがカウチに腰掛けるのを補助する。彼女はディアリングの隣に座る。]
トロシヤン: ハニー、信じられない。サイトからこっそり出ようとしたって? またダグが何かやらかしたんでしょう。
[SCP-5056-Aが壁の鏡に出現する。]
SCP-5056-A: いや、俺は止めようとしたんだが、こいつは命令に従うってことができないんだ。しょうもない奴だろ?
[観客が笑う。トロシヤンはSCP-5056-Aを無視する。]
ディアリング: とにかく、僕から君にも、記念日おめでとう。
[観客が含み笑いする。]
トロシヤン: 私はあなたが心配なの。そもそも何をする気だったわけ?
[ディアリングは片手を差し出す。彼が手を開くと、精巧なネックレスがある。]
観客: うわ~っ!
トロシヤン: あなたっ…
[2人は抱擁し合う。観客が歓声を送る。]
トロシヤン: 本当に嬉しい、フィル。だけど、まず何より、この記念日は私たち2人のためにあるの。私のために自分を傷付けたりしないこと。プレゼントがあろうとなかろうと、あなたを愛してる。
[ディアリングは頷く。]
トロシヤン: さて、美味しいディナーを食べて、一緒に映画でも観ましょ。
ディアリング: ああ。今日はもう十分に冒険した。
[観客が笑う。]
トロシヤン: とにかく、もう二度とこんな真似はしないで。あなたが射殺されたり、もっと酷い目に遭わされたりしたら耐えられない。
SCP-5056-A: でも他の連中は耐えられる。結局、お前は俺を収容する手段に過ぎないんだぜ。あいつらはお前を友達として扱ってくれるだろうが、いざとなったら必ず後回しさ。お前は役に立つからこそ愛されてるんだ、フィリップ。そして今となっちゃ、お前が財団にとって役立つ道は1つしか無い。自分をごまかすんじゃないぞ。
[観客が笑う。ディアリングとトロシヤンは共に含み笑いする。]
トロシヤン: オゥ、ダグ!
[観客が歓声を送り、画面が暗転する。エンドロールが始まる。]
フィリップ・ディアリングはSCP-6156の視聴を依頼されました。ディアリングは作劇上の奇妙な演出を幾つか指摘しました。彼によると、SCP-5056-Aはヘンリー・カヴィルが自身を演じていることに特に気分を害していました。番組についての感想を訊かれたディアリングは“あまり面白くはなかった”とだけコメントし、インタビューから退席しました。






