SCP-6319

評価: +14+x
アイテム番号: 6319
レベル2
収容クラス:
euclid
副次クラス:
none
撹乱クラス:
vlam
リスククラス:
notice

アイテム番号: SCP-6319

Jove.png

自作の曲を演奏するSCP-6319-1

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 財団ウェブクローラは、音楽配信サイト及び動画共有プラットフォームにおけるSCP-6319の偶発的な演奏の監視を行っています。演奏を発見した際は、音声記録を著作権侵害の名目で削除し、機動部隊セディラ-4("音楽仲間")による収容を行い、必要に応じ記憶処理を施します。SCP-6319-1を直接収容する必要はないと判断されています。

説明: SCP-6319はもともと、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーがピアノ曲「月の光」の草稿の一部として書いた旋律です。月明かりが直接当たる場所や、その反射面から5m以内の場所でSCP-6319の演奏を行わない限り、異常性が発現することはありません。先述の条件を満たすと、金管楽器でSCP-6319を演奏する音が反射面から発せられます。面から反射した月明かりはすべて一つに集まり、ホログラムに似た光のスクリーンを構成します。

Sheet%20Music.png

SCP-6319

ドビュッシーによる和声がつけられたSCP-6319

スクリーンには、性別不詳かつ体格の大きな年配の人型実体が現れます。SCP-6319-1と指定された当実体は、相貌がはっきりとせず、銀髪と頭蓋が段階的に混ざり合っています。実体はくたびれた背広を着用し、4本のピストンバルブを持つトランペットのような楽器を持っています。SCP-6319-1はスクリーンを通して目視及びコミュニケーションが可能です。SCP-6319-1とのインタビューによって、SCP-6319-1はコミュニケーション手段の一つとして、SCP-6319を異常発生させたことが判明しています。

初期収容時、SCP-6319-1は身体の約85%が半透明であり、実体がなかったと推定されています。SCP-6319-1は、この状況が「芸術に対するモチベーションの欠落によって引き起こされた消耗性の疾患」と説明しています。

補遺 6319.1: クロード・ドビュッシーの手記からの抜粋

2020年7月、財団はドビュッシーが書いた文書数点の存在を認知しました。当文書をフランス語から英語へ翻訳し、文書内の楽譜を全てデジタル化したフロリアン・デュポン博士に、これらの文書の監督権を委託しています。以下は手記の抜粋です1

1890年4月14日

この日記をまめに書き続けたことなど一度たりともなかった。だが、今宵の出来事はここに書かねばならないことなのだろう。どこから書き始めようか?ほんの2時間前、私はピアノの前に座り、アイデアを練っていた。その時、物悲しく神秘的な旋律が頭に降りてきた。私はこのアイデアの原石をブラッドハウンド2のように丹念に調べながら、洗練していく。そしてついに可能性を見出すことができた!その旋律に、どこか物悲しい伴奏を添えて演奏した。ところが、それを弾き終わると、同じ旋律が寝室のドアの鏡から反響しているのが聞こえてくる。まるでその向こうに仲間がいるかのように。窓から差し込む月明かりが鏡の表面に集まっているように見えた。

私は腰掛から飛び上がった。月明かりの中に、恰幅の良い4人の人物の姿が、写真のように鮮明に見えたからだ。彼らは人ではない。しかし、「自分は人である」という意識があり、手には金管楽器を想起させる物を持っている。フルートのようなもの、ホルンのようでホルンではないもの、あとはとても風変わりな何かが2つ。彼らも驚いていたが、私とは違い警戒心は持っていなかった。それどころか、鏡の中の彼らは非常に興奮しており、大声を上げながら右往左往し、こちらへ手を振っている。自分でも驚いたのだが、私は彼らに手を振り返していた。同時に彼らはさらなる狂乱状態へ陥った。

それから、4人は唇(というよりは唇であろう場所)に楽器をあてがい、演奏を始めた。その演奏に、私のペンは止まる。その音は、梢の間をうねりながら流れるそよ風が、その場所を川に譲ったかのような音、とでもいえば良いだろうか。いや、これは言葉で言い表そうにも、言い表すことができない。

演奏が終わり少し経った後、彼らは振り返り期待のまなざしを私に向ける。私の番なのだと悟った。手が震える中、私は椅子に座り、私の知る最高の作品、シャブリエの「田園組曲」の演奏を始めた。私の指はもたつき、滑った。演奏を終え、恰好がつかないと思いながら顔を上げると、観客である彼らはうっとりとした様子だった。先ほどまでの私が、まさにそうだったように。

それからの2時間、我々は敬虔な贈り物を渡すように、互いに曲のやり取りを行った。私からはムソルグスキーやラヴェル、ショパンの曲、そしてささやかながら私の作品も演奏した。彼らの音楽は底知れなかった。あるものは調が存在せず、またあるものは拍子が存在していなかった。だが、必ず意図が存在していた。この時間が一晩中続くものだと思った。しかし、私がゴルトベルク変奏曲のアリアを弾き終わると、4人組は頭を下げ、一歩前へ進み、数時間前に私が見つけたあのメロディを演奏した。光の壁は溶けてしまった。まるで今宵の出来事などなかったかのように。

まず、五線譜を手に取り、大急ぎであのメロディを記譜した。今、私は眠りに就こうとしている。きっと現実という夢を見るのだろう。これまでの現実は夢になってしまったのだから。

補遺 6319.2: SCP-6319-1とのインタビュー

ドビュッシーの手記には、SCP-6319-1がフランス語を流暢に話すようになったと記載されています。そのため、SCP-6319-1とのインタビューはフランス語で行い、英語に翻訳を行いました。

インタビュー - 2020年7月16日
フロリアン・デュポン博士、インタビュアー
SCP-6319-1、インタビュー相手


デュポン博士はサイト-641の中庭で、電子キーボードを使用しSCP-6319を演奏する。反射面として水を張ったトレイが置かれている。水面にメロディが響き、光のスクリーンが形成される。SCP-6319-1はこの出来事にすぐさま気づき、驚いた様子を見せる。

デュポン博士: ごきげんよう。私の名はデュポン。財団と呼ばれる組織の代表です。

SCP-6319-1: おや…誰かの声?ああ、なんて喜ばしいことだ!私の歌は忘れられ、完全に一人になってしまったと思っていたよ。私はヨン3の鼓動ことジョーブだ。

デュポン博士: やあ、ジョーブ。君のことはドビュッシーの日記で伺っているよ。

SCP-6319-1は頭部に手を置く

SCP-6319-1: ああ、クロード。どんなに彼と会いたいことか。最後に彼と会ってからこんなにも時間が経ってしまった。

デュポン博士: そういえば、君にはお仲間がいただろう?他のヨンのメンバーだ。メリア、ドゥー、あとは、アリ。彼らは今どこにいるんだい。

(動きを止める)

デュポン博士: ジョーブ?

SCP-6319-1は地面に視線を落とし、諦めたように声を漏らす。

SCP-6319-1: いってしまったよ。消えてしまったんだ。私もかかっている同じ病気に負けてしまった。私が消えていっているように、彼らも随分前に消えていった。最後に取り残された私の頭に浮かぶのは、老いとモチベーションの終わり、どちらが先に私の元に訪れるのかということだけだ。

SCP-6319-1は薄くなった体でジェスチャーをする。

デュポン博士: 貴方の容態は、「モチベーションの終わり」によってもたらされているということですか?

SCP-6319-1: 我々は創作欲求が失われると、存在する気力が失われるんだ。私はヨンとともにその意欲を持続させていた。月明かりの下で皆で曲を作った時も、クロードと一緒にいた時も、その希望が続いていた。今はどうだい?ヨンを失った。クロードもいない。私に残されたのは作った曲だけ。だが、それだけでは、意味が無いんだよ。

補遺 6319.3: 実験記録

研究員は、SCP-6319-1は社会的環境内で演奏を行うことで容態が改善されると仮説を立てました。以下は実験記録です。簡略化のため要約されています。

日付: 2020/7/19
職員: フロリアン・デュポン博士
実験内容: デュポン博士はシャルリエの「超絶技巧練習曲より第3番」の楽譜をSCP-6319-1に提供する。SCP-6319-1は楽譜を読むことができず、また読む気力もないと伝える。デュポン博士は、曲の始めの16小節を丸暗記させる方法で教える。
結果 対象の外見に大きな変化はない。


日付 2020/7/21
職員 フロリアン・デュポン博士
実験内容 デュポン博士はSCP-6319-1にジャズのスタンダード・ナンバー「枯葉」を丸暗記させる方法で教える。デュポン博士はピアノでSCP-6319-1の伴奏を行い、メロディの合間に短くソロを演奏する。SCP-6319-1はデュポン博士に、即興演奏のコンセプトについて長時間にわたり質問をしている。
結果 SCP-6319-1の下脚部がわずかに濃くなった。


日付 2020/7/27
職員 フロリアン・デュポン博士
実験内容 デュポン博士とSCP-6319-1は即興演奏の理論について議論している。SCP-6319-1は西洋音楽理論の専門用語を良く知らないにもかかわらず、多くのコンセプトについて機能的な知識を持つことが明らかになった。デュポン博士はスマートフォンを取り出し、マイルス・デイヴィスの「ブルー・イン・グリーン」を流す。SCP-6319-1は録音された音楽という概念に驚く様子を示した。残りの実験時間はデュポン博士が曲を演奏し、それについてSCP-6319-1と議論を交わしていた。実験は予定された終了時刻を45分オーバーし、予定していた実験も行われませんでした。
結果 SCP-6319-1の上脚部及び下脚部がやや濃くなった。


日付 2020/8/10
職員: フロリアン・デュポン博士
実験内容: デュポン博士とSCP-6319-1はアルバム「シカゴ5」「キング・クリムゾンの宮殿」の中の曲をいくつか演奏する。SCP-6319-1は、2人では全ての曲が演奏できないことに対して不満を覚えている。
結果: SCP-6319-1の手及び上脚部がわずかに濃くなった。


日付 2020/8/18
職員 フロリアン・デュポン博士(主任)、エヴァ・リヴェラ博士とテイト・ピンチョン研究員(補佐)
実験内容 デュポン博士とSCP-6319-1はハービー・ハンコックの「カンタロープ・アイランド」の稽古をしている。リヴェラ博士はドラム、ピンチョン研究員はベースで伴奏をしている。デュポン博士は、SCP-6319-1は即興演奏の型の習得度がかなり進展していると述べている。実験は予定されていた終了時刻を58分もオーバーしている。
結果: SCP-6319-1の腕及び脚がやや濃くなった。SCP-6319-1の頭部がわずかに濃くなった。


日付 2020/9/8
職員: フロリアン・デュポン博士(主任)、エヴァ・リヴェラ博士とテイト・ピンチョン研究員(補佐)
実験内容 SCP-6319-1は自作のメロディを提示する。研究員たちはメロディまわりの伴奏を作曲し、曲の形に発展させる。実験は予定されていた終了時刻を1時間31分オーバーしている。
結果: SCP-6319-1の頭部がやや濃くなった。


日付 2020/10/11
職員: フロリアン・デュポン博士(主任)、エヴァ・リヴェラ博士とテイト・ピンチョン研究員(補佐)
実験内容 研究員たちとSCP-6319-1は自作の曲の改良を続けている。お互いに高頻度で「リック」4を使いすぎていると、全員が気兼ねない様子で言い合っている。実験は予定された終了時刻を1時間44分オーバーしている。
結果: SCP-6319-1の頭部がやや濃くなった。SCP-6319-1の腰部がわずかに濃くなった。

補遺 6319.4: 懲戒委員会の転写

懲戒委員会-15 2020年10月15日
参加者:
サイト管理官 J.グレンジャー
デュポン博士
ジュリア・クチュール博士、組合代表を務める


グレンジャー管理官: デュポン博士、クチュール博士、ご足労いただきありがとう。どうぞ掛けてください。

デュポン博士: ありがとうございます。今日何故ここに呼ばれたのか伺ってもよろしいですか?

グレンジャー管理官は咳ばらいをする。

グレンジャー管理官: デュポン博士、君が担当するSCP-6319-1の実験記録を検めさせてもらったよ。君の徹底した働きぶりに文句を言うつもりはない。だが、そのやり方、そして君のプロ意識に心配な点があってね。

デュポン博士: 何故そのように?

グレンジャー管理官: 君が行った直近の実験だが、予定された終了時刻を90分も過ぎている。そして、その一つ前は、ええと、ああこれか、1時間と10分のオーバー。何故これほど長く時間をかけているのかね?

デュポン博士: そうですね、この実験は普段の業務と比べ、厳格さに欠けた質のものです。ですが、時にはー

グレンジャー管理官: さらに、君は「SCP-6319-1の回復を支援する」ことを目的としたこのプロジェクトのために、研究員を追加で2名徴用したようだね。何故このSCPの回復を最優先にしているのかね?

デュポン博士: 至って普段通りです。異常な疾患を治す前に、より多くのことを理解しようとしています。しかし、我々は直接ー

グレンジャー管理官: 博士、本題に入らせてもらいますよ。君はこれを実験だと見ているようだが、私には臨床実験の時間をバンドの練習に使っているようにしか見えないのだよ。

デュポン博士: その考えは、この業務の一面を非常に狭く捉えたものかと。

グレンジャー管理官: 私が昼食から戻る時に、「Flo and the Lunatics」が金曜日の夜にコンサートを開くらしい、という会話が聞こえてきたが。

デュポン博士: ただの噂に過ぎません、管理官。我々はスタジオ内だけでこの業務を行うつもりです。

グレンジャー管理官は自席から立ち上がる。

デュポン博士: ちょっと、待った、待ってください。単なるジョークですよ。考えてみてください、方法論としては理にかなっていますよね。消耗性の疾患は、芸術に関するモチベーションと関係がある。結果を出したいならば、このスキップに音楽の魅力を思い出させることが必要です。偶然にもこれが一番良い方法なんですよ。

グレンジャー管理官: では、君はサイエンスに寄与するためにこれをしていると?

デュポン博士: 仰る通りです。

(動きを止める)

グレンジャー管理官: 実験時間が延びても残業代は出さないからな。

デュポン博士: もちろんです。

グレンジャー管理官: よろしい。下がって良し。

補遺 6319.5

以下は、SCP-6319-1がデュポン博士、リヴェラ博士、ピンチョン博士5とともに書いた曲を2021年3月2日に演奏したものの記録です。当日、SCP-6319-1は完全に実体化していました。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。