
保護下にあるSCP-642-JP
アイテム番号: SCP-642-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-642-JPはサイト-81-109の水棲生物収容セル内に収容されています。SCP-642-JPは標準的な水棲生物管理手順に基づいて管理・飼育されています。SCP-642-JPを用いた実験や検査の実施には担当職員3名からの許可が必要になります。
SCP-642-JPの異常性が活性化した場合、活性化時間をはじめとした詳細情報の記録を行います。これは調査を円滑にすることを目的としたものであることに留意してください。また、何らかの物品が出現した場合、回収・検査・記録を行ったうえで処分します。
説明: SCP-642-JPは後述の異常性を有するオキゴンドウ(Pseudorca crassidens)です。外見や生態に異常な点はなく、通常時は非異常的なオキゴンドウと同様に振る舞います。現在までに3体のSCP-642-JPが確保されており、各個体ごとに枝番号に指定されています。
SCP-642-JPの異常性は雨天時にのみ活性化します。異常性の活性化に伴い、SCP-642-JPは消失します。消失後のSCP-642-JPを追跡する試みは全て失敗に終わっています。消失時に僅かながら空間歪曲の痕跡が検出されていることから、SCP-642-JPは空間転移に関する異常能力か特性を有していると推測されています。
晴天時になると同時に、SCP-642-JPは消失する以前の地点に再出現します。再出現したSCP-642-JPから異常な点が検出された例はありません。また、SCP-642-JPの再出現に伴い、極めて低い確率で海藻などの海中(主に太平洋)に由来を持つ物品が発生します。これらの物品は非異常性のものであることが確認済みです。
SCP-642-JPは2009/08/19に岩手県盛岡市にある水族館にて発見されました。発見以前よりSCP-642-JPは該当の水族館で飼育されていたことが明らかになっています。
当時、該当の水族館を訪れていた人物らによる「何も展示されていない水槽がある」という証言をもとにして実施された調査と検証によって、SCP-642-JPの存在と異常性の特定に至りました。その後、標準的な水棲生物収容プロトコルに基づいて収容されることとなっています。
補遺642-JP.1: インタビュー記録
SCP-642-JPの収容後、財団は該当する水族館の従業員に対してインタビューを実施しました。以下はインタビュー記録の一部抜粋です。記録の全容はこちらから閲覧可能です。
インタビュー記録642-JP.1
対象: 佐原 新一氏(佐原氏と表記)
インタビュアー: 箕田博士
付記: 当インタビューは旅行雑誌の取材という名目で行われました。
<抜粋開始>
佐原氏: うちはイルカショーが有名で、それに力を入れてるんです。まあ、本当のことを言っちゃえば、それ以外は大したことないんですけどね。
箕田博士: その、イルカ達ってどんな子なんですか? 詳しく知りたくて。
佐原氏: みんな人懐っこくていい子ですよ。ツバサは遊び好きで、アーチは運動が得意。ハナは甘えん坊で、よくスタッフと触れ合ってる。みんな個性的ですし、すぐに覚えれると思いますよ。
箕田博士: なるほど、確かに個性的ですね。それで、ショーはどんな感じなんですか?
佐原氏: ショーでは芸を披露したりしてますね。うちの子達が披露する芸は他と違って、かなりダイナミックなんです。だからこそ迫力が凄くて、最後まで見入っちゃうほど素敵なんです。
箕田博士: ふむ。芸をやるってことはそれなりに信頼関係があるわけですね。
佐原氏: そうそう、芸を成功させるには信頼関係が欠かせないんですよ。心が通じ合わないと披露するタイミングがズレて失敗しちゃいますからね。そうなればスタッフだけじゃなくてイルカにも負担が掛かってしまう。だからこそ、僕達はしっかりと触れ合うようにしてるんです。
箕田博士: いいですね。ああ、そういえば。ショーってどこでやるんです?
佐原氏: ショーを披露する場所ですか? 屋外のショーホールです。屋外なんで雨が降ったら中止になっちゃいますけど、それ以外にやる場所がないんで。急に中止になることもしばしばですが、それでも頑張ってます。
箕田博士: なるほど。……これはちょっと不思議だなって思ったことなんですけど、この前SNSで「何もいない水槽がある」って投稿を見たんですよ。あれは一体?
佐原氏: あー、あれですか。なんでかは知らないんですけど、雨が降るとうちのイルカ達はどっか行っちゃうんですよ。探しても見つからないし、晴れたら戻ってくるし……。そんな訳で探すことはないんですけど、何も知らない人が見たら異様な光景ですよね。
箕田博士: そうですね。初見の時は驚きました。
佐原氏: まあ、でも仕方ないよなって。
箕田博士: 仕方ない?
佐原氏: やっぱり思うんですよね。イルカ達に無理させてないかって考えちゃうんですよ。忙しい日は休む暇もなくショーしてますし、疲れてるんじゃないかなって。人間だって疲れるんだから、イルカも疲れるでしょう。それに、しんどいって思うこともあると思うんです。
箕田博士: なら、ショーの間隔を開けてみてはどうでしょうか?
佐原氏: そうはいかないんですよ。考えてみてください。イルカショーがなければ、今頃ここは潰れてますよ。動物愛護団体とかから「虐待だ」だの「解放しろ」だの言われたりすることもあるけど、僕達だって働いて食ってかないとダメですから。
箕田博士: 間隔を開けようにも開けられないわけですね。
佐原氏: はい。だから、あれはイルカ達にとっての休暇なんじゃないかなと思うんです。ショーがない日は休んでるんじゃないかって。自分達の故郷に戻って、のんびりと過ごしてるんじゃないかなって考えるんです。実際、うちに帰ってきた時のイルカ達は穏やかな表情をしていますからね。
<抜粋終了>
終了報告: 当インタビュー後、佐原氏は記憶処理剤を投与したうえで解放されました。
当インタビューを含めた複数回の聞き取り調査により、該当する水族館の従業員がSCP-642-JPの性質を認知していたことが明らかになりました。これを受け、財団は該当する水族館の従業員全員に対し、記憶処理剤の投与、関連知識の抹消、カバーストーリーの流布などの隠蔽活動の実施を決定しました。
現在、SCP-642-JPは収容手順に基づいて収容されています。異常性の発生原理などの詳細情報に関する調査が現在も進行中です。
補遺642-JP.2: 調査結果
2009/10/11に行われた調査の際に、消失後のSCP-642-JPを追跡することに成功しました。これにより、消失したSCP-642-JPは太平洋上の特定の地点(LoI-642に指定)に転移することが判明しました。これを受けた財団はLoI-642付近に財団の調査船を停泊させ、消失後のSCP-642-JPの様子を観察しました。
観察調査の結果、LoI-642に転移したSCP-642-JPが該当の水族館にてイルカショーを実施する際に用いられる曲芸に似た挙動をとっていることが判明しました。また、この挙動をとっている間のSCP-642-JPがストレス緩和状態にあることが研究チームによる調査によって確認されました。
収容チームは上述の情報からLoI-642地点付近に調査船を停泊させ、転移後の観察を行うプロトコルを策定しました。本項目執筆時点において、プロトコルは問題なく継続されています。