D&Dでは日常茶飯事だぜ!
SCP-6467の一般的な媒介物の1つ、“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の進行中のゲーム。
アイテム番号: SCP-6467
オブジェクトクラス: Archon
特別収容プロトコル: その無害性に鑑みて、SCP-6467を収容対象から除外することが決定されました。
SCP-6467の研究を促進するため、財団職員はテーブルトーク・ロールプレイングゲーム (TRPG) に主軸を置く夜間ゲーム交流会の開催を推奨されています。各財団サイトの娯楽室には、職員の利便性を考慮して、人気のあるTRPGのルールブック及びキャンペーン資料の複写が備え付けられます。職員がTRPGに興じている際の映像は、SCP-6467発生の兆候の有無を確認するため、SCP-6467チームによって検証されます。
説明: SCP-6467はテーブルトーク・ロールプレイングゲームのプレイヤーに影響を及ぼす現象です。SCP-6467が発生すると、プレイヤーらは必ず、そのゲームのプロットや全般的な物語においてほとんど重要性を持たない1体のNPC1と遭遇します。プレイヤーらはこのキャラクターに執着し始め、しばしば本来の物語から脱線して当該NPCに焦点を当て始めます。SCP-6467は“ダンジョンズ&ドラゴンズ”、“ブラックムーア”、“パスファインダー”といったファンタジー設定で最も頻繁に発生しますが、“クトゥルフの呼び声”、“キッズ・オン・バイクス”、“ダーク・ヘレシー”などの異なるゲームジャンルにも影響を及ぼすことが確認済みです。
SCP-6467に影響されたプレイヤーらは通常、問題のNPCに対して、生い立ち、信念、無意味かつ無関係な諸々の話題に対する意見などを質問することに強い興味を示します。これは必然的にゲームマスター2を苛立たせますが、プレイヤーらは典型的にその反応を軽々しくあしらいます。記録されたテストケースの68%で、SCP-6467に影響されたプレイヤーらは、戦闘技能の有無に関わらず、執着しているNPCを冒険に同行させようとします。
同行が成功した場合、NPCは次の3つのシナリオのいずれかが出来するまでプレイヤーらと行動を共にします。
- 記録されたテストケースの51%で、プレイヤーらはゲームセッションを通してNPCの個人的な生い立ちや野望を探り続け、可能ならば支援しようとします。この目標が達成されると、ゲームマスターはプレイヤーらの苦情を受けることなく冒険からNPCを排除し、本来の物語を進行させることが可能になります。
- 記録されたテストケースの17%で、ゲームマスターはまだ目標を達成していないNPCの殺害または排除に成功します。このシナリオに至った全ての記録事例は、冒険が早期に打ち切られ、ゲーム外におけるプレイヤーらとゲームマスターの人間関係が険悪化する結果を招きました。
- 記録されたテストケースの32%で、プレイヤーらが他の物事に時間を割く必要が生じた、ゲームマスターとプレイヤーらの間で意見の相違が生じたなどの外的要因によって、ゲームは単純に打ち切りとなります。
特筆すべき点として、制御された環境でSCP-6467を強制的に発生させる取り組みは失敗しています。これには、ゲームマスターに指示して、被影響NPCにありがちな特徴3を持つキャラクターを複数登場させる試みが含まれます。
補遺6467.1: 添付事例ログ
以下に添付されているのは、サイト-55で毎週恒例の行事となっている“ダンジョンズ&ドラゴンズ”ゲームの際、サイト-55の財団職員らに影響を及ぼしたSCP-6467事例からの抜粋記録です。
監視カメラログ 1
場所: サイト-55 娯楽室
日付: 2023/10/07
関係者: ジェイ・エバーウッド博士、レックス・アルケス研究員、メイ・ウォーターズ研究員、チディ・グアイ研究員
[職員4名全員が小さな木製のテーブルを囲み、部屋の中央に着席している。テーブルの大部分は、手振れの跡がある線で描写された幻想的な土地の地図に覆われており、各種のミニチュア人形がその上に散らばっている。エバーウッドはテーブルの上座におり、肩ほどの高さの薄い間仕切りで他の職員らと隔てられている。]
エバーウッド: 背後のゲートウェイは立ち上がろうとしている間に閉じてしまい、君たち3人は見慣れない森に取り残された。銀色の霧が木々の合間を穏やかに揺蕩い、近くの小川からのせせらぎが聞こえる。
森には誰もいないように見える。 はっきりそれと分かる侵入者の痕跡はない。実際、君たちを取り巻く木々の途方もない大きさや、鬱蒼と茂る下草から判断する限りでは、しばらく前からここを訪れた者はいないようだ。どうする?
メイ: アシンシル公爵が -
エバーウッド: アシネシル。
メイ: - あたしたちを雇ったのは測量のためなんだし、手分けして着手するのはどうかな。
レックス: 最高のアイデアだね。視界が限られた完全に未知の場所で別行動だなんて、大成功間違いなしだ、今回も。
レックスはチディを見つめる。
チディ: おい! 僕はただクロッドがやりそうなことを実行しただけだ。知力9の男はそこまで高度な考え方をしないよ。4
レックス: 高度どころか何も考えてねえレベルだろ。
チディ: 失礼な。とにかく、僕はメイに賛成。森は全く安全そうだし、アシンシルの -
エバーウッド: アシネシル。
チディ: - 仕事を終えるのが最優先だ。あの僕たち全員の責任であるダンジョン事件のせいで今は金が要る。トラブルが起きたら叫んで知らせよう。
メイ: そうする。
レックス: 分かったよ。
エバーウッド: 君たちはそれぞれに分かれ、森の中を歩き始めた。
全員が小さな20面ダイスを振る。
エバーウッド: そうこうしているうちに、えーと、チディ、枝葉が次第に疎らになり始めて、君は小さな空き地へと辿り着いた。野営地の残骸がそこら中に散乱している。破れたキャンバス生地、割れた木材、奇妙な赤い塊。この混沌の中心には、ねじくれた異形のゴブリンがいる。君が近付くと、ゴブリンは緋色に染まった歯を光らせながらニヤリと笑って -
チディ: そいつの名前は?
エバーウッド: え?
チディ: いや、だから名前ですよ。 Nombre? 名前が分からなくちゃ話しかけられません。
エバーウッド: あー… 分かった。名前は、ええと、ボブリンだ。
メイ: ボブリン?
エバーウッド: 3人とも手分けしているから、これはチディのキャラとゴブリンの間だけのことだ。
レックス: ボブリンでしょ。
エバーウッド: そう。
チディ: ここで何をしているのか訊ねます。
エバーウッド: …血に染まった歯をしてる異形のゴブリンに、略奪された野営地で何をしてるかを訊ねる?
チディ: はい。
エバーウッド: 君が近寄ると、ゴブリンはただ単にニヤリと笑い、短い湾曲刀を腰から抜いて、必殺の手際で振り回した。
チディ: つまり、答えなかったんですか? やだなぁ、こっちは会話を始めようとしてるのに。説得ロールをして、話し合えるかどうか確かめてもいいですか?
エバーウッド: このゴブリンは -
レックス: ボブリン。
エバーウッド: …そう。とにかく、彼はあまり会話に興味がないらしい。血を求めて襲い掛かってくる! 先制ロールをどうぞ、チディ。
チディ: ちょっと! 今のは別に戦闘に発展しなくてよかったでしょう! なんか誘導されてるみたいで -
レックス: ホールド・パースンで縛り付けてから俺とメイを呼べばいい。
メイ: ナイスアイデア!
チディとエバーウッドはそれぞれ20面ダイスを振る。
エバーウッド: ゴブリンの -
メイ: ボブリン!
エバーウッド: うっ。ボブリンの先制ロール判定は恐ろしく低いぞ。君の目は5より上かな、チディ?
チディがガッツポーズする。
チディ: 13! よっしゃ、こっちが先だ! ホールド・パースンの呪文をボブリンに唱えます。
エバーウッド: 興奮するのは早い、まだ意思力の抵抗判定セーヴィングスローが残ってる。
エバーウッドが20面ダイスを振り、溜め息を吐く。
エバーウッド: 今夜のダイスは君たちの味方みたいだ。
チディ: 大成功! 大声でメイとレックスを呼びます!
メイ: 走って駆け付ける!
レックス: 俺も!
エバーウッド: 2人とも、自分のキャラが森を探索するシーンは無くていいのかい?
レックス: いや、ボブリンの方がもっと重要な発見だと思います。
エバーウッド: そこまで言うのなら… とにかく、君たち2人はチディと、その場に硬直したボブリンの下へ急いで駆け付けた。ホールド・パースンはラウンド制の呪文だから、戦闘と同じように代わる代わる話すことにしよう。先制ロールをどうぞ。今ラウンドのターンは、チディとボブリンの下へ駆け付けるのに使ったと見做す。
レックスとメイがそれぞれ20面ダイスを振る。
レックス: 12。
メイ: 12。
エバーウッド: よし。レックス、君が最初だ。ボブリンへの質問は1ターンにつき1つまで。
レックス: 1つだけ? そりゃないでしょ!
エバーウッド: あのね、各ターンは約6秒なんだよ。
レックス: 了解っす。好きな色を訊きます。
メイが笑い、チディが微笑む。エバーウッドはレックスを凝視する。
エバーウッド: ほ、本当に?
レックス: こいつの好きな色が知りたいです。
エバーウッド: 了解。
エバーウッドが20面ダイスを振る。
エバーウッド: 彼の好きな色は緑だ。
レックス: 自分が緑色だから? それとも単にその色が好きなだけ?
エバーウッド: 質問は1ターンに1つ。チディ、次は君だ。
チディ: それを訊きます。
エバーウッド: は?
チディ: 自分が緑色だから緑が好きなのか、ただ単に緑が好きなのかを訊きます。
短い沈黙。
エバーウッド: 植物の色が好きだから緑が好きらしい。
メイ: 次はあたしですね! 好きな植物を訊きます。
エバーウッド: 本気かい、君たち? 目の前に敵がいるのに丸々1ターンもくだらない質問で無駄にするだなんて。私も軽い気持ちで合わせてきたけど… 勘弁してくれよ、全くもう。
メイ: すいません、これってロールプレイングゲームですよね。あたしは自分のキャラらしい選択をしてるだけです。
エバーウッド: いつからレディ・フィロメナは薄汚いゴブリンに夢中になったんだい?
メイ: 昔からです! これまで物語に関係なかったから話題にしなかっただけですよ。それで? 彼の好きな植物は何ですか?
エバーウッド: ひまわり。ひまわりが彼のお気に入りだ。
レックス: よーし、じゃあ俺はドルイドクラフトの呪文で彼のためにひまわりを咲かせる!
メイ: その調子!
チディ: 良い考えだね、レックス。ひまわりを渡せば、説得して仲間にできるかもしれない。
エバーウッドは明らかに苛立った様子で溜め息を吐く。
エバーウッド: 先を急がないで。今はボブリンのターンだ、ホールド・パースンから抜け出そうとしている。
エバーウッドは20面ダイスを振る。レックス、チディ、メイが歓声を上げる。
レックス、チディ、メイ: ナット・ワン!5
エバーウッド: 彼は失敗した。どうぞ、レックス。君のターンだ。
レックス: ドルイドクラフトを唱え、満開のひまわりを咲かせる。どんな反応を示すかな?
エバーウッド: ホールド・パースンで抑え付けられているので、身動きが取れないようだ。
メイ: でもさっき喋らせましたよね! なんでひまわりには反応を示さないんですか?
エバーウッド: うっ。分かったよ。彼は大好きな花を見て顔を輝かせた。ただし、それ以上のことを望むなら、彼をホールド・パースンから解放しないとね、チディ。
チディ: じゃあそうします。もう僕のターンですよね?
エバーウッド: 他の行動を取らないのかい? ほら、精神集中の解除はターンを消費しないからね。
チディ: その必要はありますかね? 彼を攻撃したくないんです。
エバーウッド: 念のために彼の剣を没収してもいい。敵対してきた場合に備えて呪文の準備をしてもいい。身の安全のために数歩後ろに下がってもいい。可能性は無限大だよ。
チディ: いえ、彼がひまわりを手に入れて喜ぶのを見たいだけです。
エバーウッドは大きく息を吸い込み、素早く吐き出し、手元のメモにざっと目を通してから、突然元気を取り戻す。
エバーウッド: オーケイ、いいだろう。君がゴブリンに… あと一度でも君たちが茶々を入れたら打ち切りにするぞ… ひまわりを手渡すと、彼は嬉しそうに手を伸ばし、それを受け取った。不潔な鼻を奥深くまで押し込んで大きく香りを吸い込み、これ以上無いほど歪んだ笑みを浮かべる。そして君たちに話しかける。「アシネシルの手先か?」 さあ、どうする?
メイ: アシネ… 誰でしたっけ?
記録終了
監視カメラログ 2
場所: サイト-55 娯楽室
日付: 2024/01/15
関係者: ジェイ・エバーウッド博士、レックス・アルケス研究員、メイ・ウォーターズ研究員、チディ・グアイ研究員
エバーウッド: 酒場に入店した君たち3人は、すぐに奥に座っている情報屋を見つけた。小さな巻物のようなものを幾つか持っている。近寄ると、彼は興味ありげに眉を吊り上げた。「お前ら、“報酬”とやらは手に入ったのか?」
メイ: 指輪を渡すのはボブリンに任せてもいいですか?
エバーウッド: …いいよ。ろくに嫌悪感を隠しもしない情報屋に、ボブリンは病変した奇形の指で、柔らかな光を放つ指輪を手渡す。指輪のあちこちに正体不明の茶色いネバネバが付いている。
チディが小さく歓声を上げる。
チディ: 2週間前なら全部ベトベトだっただろうに!
メイ: すっかり成長したよねえ。
エバーウッド: 情報屋の顔には今の私と同じような表情が浮かんでいる。彼はテーブル越しに巻物を滑らせて渡しながら、ボブリンを睨み続けている。次はどうする?
レックス: 巻物を開いて本物かどうかを確かめたいっすね。
エバーウッド: 識別ロールをどうぞ。
レックスは20面ダイスを振り、笑顔になる。
レックス: 15。補正が4だから19か。
エバーウッド: 君に分かる限りでは、文書は完全に正当なものだ。そこには公爵の -
レックス: ちょっと待った! 読むつもりはないです、真偽判定だけ。ボブリンに巻物を渡します。
エバーウッドはレックスに顔を向け、見つめる。
エバーウッド: 本気かい? ボブリンがほとんど読み書きできないのは分かってるだろう? 君のキャラが彼に教えたのはABCぐらいで、法律用語の山を解読する技能じゃないんだぞ。
レックス: ええ、でもタレンは元学者ですよ。割と効率的な教え方をしたはずです。
チディとメイが頷いて賛意を示す。
チディ: リヴァーンズでクロッドが買ってやった読書鏡も役に立つでしょう。
メイ: それに、レディ・フィロメナはゴブリンに“夢中”だから、タレンがボブリンの学習効果を最大限に引き上げるための方法を知ってると思います。
エバーウッドは溜め息を吐き、こめかみを擦る。
エバーウッド: あのね… このチビ助をこんなに遠くまで連れてきた君たちの熱意は、全く正気の沙汰じゃないけど、ある意味尊敬に値するよ。今回だけは、ダイス判定でボブリンに書類を読ませてあげよう - ハンデ付きでね。
レックスが2個の20面ダイスを振る。メイ、チディ、レックスは歓声を上げ、エバーウッドは呻く。
レックス、チディ、メイ: 20の出目が2つダブル・トゥエンティーズ!
エバーウッド: …ワオ。この調子じゃ君たちはギャンブルでも負け無しだな。いいだろう。ボブリンは、未だかつてどんなゴブリンも成し遂げたことがないほど見事に書類を読み通してみせた。彼の読解は芸術の域にまで達した - 大々的な見世物になってしまったほどだ。あまりにも熱心に読み上げるので、酒場の誰もが手を止め、ぽっかり口を開いて呆然とそれに見入っている。二世紀後には、今のボブリンの10分の1程度にでも威厳ある朗読をするにはどうすべきか、大学で講義が開かれるだろう。
レックス、チディ、メイはまだ歓声を上げている。
メイ: レディ・フィロメナはこれまでの人生で一番幸せな気分になってる。
レックス: タレンもな。ボブリンは彼の生徒の中で一番優秀だ。
チディ: クロッドはボブリンの言葉を全く理解できない。でも、いずれにせよボブリンを誇りに思ってるはずだよ。
エバーウッド: 堂々たる朗読を締めくくると、ボブリンはタレンに向き直り、いつもの吐き気を催すような口調で告げる。「これぁつまり、アシネシル公爵がロバの売り買いを隠れ蓑にしてやがるってこった。カネはぜぇんぶ、俺が言った採掘現場に流れてんのよ」。
チディ: 「君が見せてくれた、森の地下にある洞窟か?」
エバーウッド: ボブリンは頷き、話を続ける。「そう、そこだ。どうもあそこじゃ生贄を捧げてるらしいや。働き手はどんどん入るが、出てく奴はろくにいやしねえ」。彼は巻物を置くと、いつものように、爪の下に溜まる泥の塊を弄り始めた。
メイ ボブリンの頑張りをハグでねぎらってもいいですか?
エバーウッド: まあ、可能ではあるけれど、皮膚全体に広がっている爛れた膿疱、何層も重なり合う膿、全体的な変色からすると、ボブリンが少なくとも1つ病気を患っているのは明白だ。ハンセン病かもしれない。
メイ: 手袋を付ければ感染の危険はありません!
エバーウッド: あー、魔法のハンセン病だよ。とにかく、ボブリンが朗読を終えて普段のボブリンらしく振る舞い始めたのを見て、情報屋はテーブルに身を乗り出し、反応を待った。
レックスとチディが頷く。
レックス: 書類は役立ちそうだけど、これだけじゃ不十分だな。情報屋にはこう伝えます。「アシンシル公爵は -」
エバーウッド: (溜め息) アシネシル。
レックス: 「- 権力者だ。確固たる具体的な証拠が無ければ告発できそうにない - 悪く思わないでくれ」。
エバーウッド: 情報屋は頷いて理解を示した。「採掘現場でもっとマシな情報を探すのを手伝うよ。問題は、都を歩くにはちょっとした… 条件があるってことだ。つまり、あんたたちのささやかな“お仲間”は来られない」。彼は軽蔑するような身振りでボブリンを指した。
レックス、メイ、チディが一斉に抗議し始める。
メイ: 「彼はこれまでずっと一緒に」 -
レックス: - 「そういうゴブリン差別の蔓延こそが」 -
チディ: - 「それにこいつの盗み方を一目見れば」 -
メイ: - 「彼の記憶を取り戻す手伝いを」 -
レックス: - 「大叔母のグレブはゴブリンが大好きで」 -
チディ: - 「ある時なんか3人の男を相手にナイフ1本で」 -
エバーウッドが明らかに苛立った様子で深呼吸し、勢いよくテーブルを叩く。レックス、チディ、メイは全員沈黙する。
エバーウッド: 1人ずつ! みんなで一度に喋りまくると、情報屋は何が何だかわからないぞ。順番に行こう。メイ、まずは君からだ。
メイ: どうしてボブリンを連れていけないのか訊ねます。
エバーウッド: 情報屋は都の全般的な反ゴブリン感情と法律について軽く説明した。君たちはその一部を既に知っていたが、公爵がゴブリンの移動を制限する布告を出したことは初めて知った。
レックス: よくあることだ。落ち着くのに良い場所を見つけたと思ったら、知らないうちにゴブリン差別が流行り始める。
チディ: でも、もし彼がゴブリンっぽく見えなかったら?
エバーウッド: 君のターンを待ってくれ、チディ。
メイ: ううん、待って。今の良い考えだよ、チディ。レディ・フィロメナはまだ変装キットを持ってるから、ボブリンを他の種族らしく見せかければいけるんじゃない? ハーフリングとか。
エバーウッド: 情報屋は納得していないようだ。「あいつはきっと厄介事を起こす。ほら、今まさに何をしてるか見ろよ!」 彼はそう言って、近くの泥酔した客から財布をすり取ろうとしているボブリンを身振りで指した。
メイ: あたしたちは彼にそんなこと教えてません。
チディ: 僕“たち”?
レックス: …チディの“教え”については後で話そう。いいか、出会ったばかりの時、ボブリンは何も覚えていなかった。自分がどこから来たのかも、家族がいるのかどうかも、あの野営地で何をしていたのかもだ。覚えていたのは、自分と公爵の名前だけだった。
メイ: あと、好きな花!
チディ: 好きな色のことも忘れずにね!
レックス: 良い指摘だ。覚えていたのはその4つだけだった。俺たちは真相を究明するとボブリンに約束した。今になって投げ出すのは不人情だ。
エバーウッドは頷いて賛意を示す。
エバーウッド: よくぞ言った。説得ロールをやってくれ。
レックスは20面ダイスを振る。
レックス: 12、プラス補正値2で14っす。
エバーウッド: うーん。いいだろう。情報屋は今の言葉を数分間熟考すると、やがて腹を決めたらしく、短くぶっきらぼうに頷いてから立ち上がり、酒場を出て行った。他にここで何かやりたいことがある人はいる?
メイ: ボブリンを呼んでハーフリングに変装させなくちゃ。
エバーウッド: ボブリンはもうちょっとですり取れそうだった財布を無念そうに一瞥して、君たちのテーブルに戻ってきた。変装には30分ほどかかりそうだ、知能ロールをどうぞ。
メイが20面ダイスを振る。彼女は顔をしかめる。
メイ: 7、プラス3で10。
エバーウッド: おおっと。了解だ。レックス、チディ、何かやりたいことは?
チディ: 僕は大丈夫です。
レックス: 俺も無いです。
エバーウッド: では早送りしよう。メイ、君は変装作業を終えた。最高の出来とは言い難い。数メートル離れた場所の人からは見過ごされるだろうが、近くで見ると剥がれた皮膚の塗装やお粗末な装具がどうしても目立ってしまう。
メイ: ボブリンはどう思ってますか?
エバーウッド: 彼は腕の塗料を引っ掻きながら、小声でブツブツ言っている。「ボブリンの肌のお宝、どこ行った? 偽もんの肌と肉 - こんなの大事じゃねえ。ボブリン… だるい」。
レックス: 可愛いねえ。もう1回ドルイドクラフトでボブリンにひまわりを作ってもいいっすか? 元気づけてあげたいんです。
エバーウッドは鋭く息を吐き、こめかみを擦り始める。
エバーウッド: 了解、でも今回っきりにした方がいいぞ、レックス。ボブリンはひまわりを見るとすぐさま活気づき、いつものようにムシャムシャ噛み始めた。君たち4人は酒場を出て、近くの看板の傍らに待機していた情報屋と合流した。情報屋はボブリンを見て、何やら言いたげに口を開いた - だが考え直して、泥道を歩き始めた。
メイ: つまり、変装が上手くいってるってことですよね? ねっ?
エバーウッドは信じられないと言わんばかりの目つきでメイを見る。
エバーウッド: ノーコメント。君たちは無言で市中を歩き続ける。外は真っ暗だ。この時間になると、ほとんどの人は眠っているか、酒で悲しみを紛らわしている。
チディ: 生産地区に着くまでボブリンをおんぶしても構いませんかね?
レックス: …魔法のハンセン病の話を忘れたのか?
チディ: いや。でもクロッドは病原体説を信じてない男だから、どっちみち実行するよ。
短い間が開く。
エバーウッド: (溜め息) オーケイ、分かった。君は、非常に感染力の強い病気に侵された、健康に害を及ぼすゴブリンを道中ずっと背負って歩くことにした。満足かな?
チディ: 大満足です。
エバーウッド: 30分後、君たちは道路沿いの検問所の近くに身を潜めていた。そこには複数の武装した衛兵が陣取っており、彼らの後ろには木材や鋼材の山、夜通し放置された設備、所々に点在する採掘現場が見える。
チディ: 僕はボブリンを下ろして、他に通れる道が無いかを探してみます。
エバーウッド 検問所の少し北方には、中を通り抜けられそうな崩れかけの建物が幾つかある - ただし、地面は緩く、瓦礫が散乱している。
レックス: 上手くいきそうにない。俺のキャラは隠密補正がまるでダメだし、みんな揃って監獄行きなんて二度とごめんだね。
メイが頷いて賛意を示す。
メイ: 案内してくれた情報屋に訊けばいいんじゃない?
エバーウッド: 彼は少し前方にしゃがみ込んで、何かを待っている様子だ。もし望むなら、彼の注意を引いてみてもいいよ?
チディが笑顔になり、両手を擦り合わせる。
チディ: こういう時こそ、僕の -
レックス、メイ: ダメ!
チディ: 最後まで言わせてくれよ!
レックス: 何を提案しようとしたか、ちゃんと分かってるぞ。アンクル・バイターは二度とやらない。
メイ: ボブリンからナイフを取り上げるのがどれだけ手間だったか分かってる? レディ・フィロメナは2回も刺されたんだよ!
チディは宥めるように両手を上げる。
チディ: あの時痛い目を見たおかげで懲りたよ! もう一度だけボブリンに渡させてくれ。今回こそちゃんと成功する。
エバーウッドはメモから顔を上げ、微笑む。
エバーウッド: そのことなんだけどね、メイ。君たちがこそこそ言い争っていると、検問所から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。はっきりとは見えないが、小柄な人影が衛兵たちに尋問されているようだ - そう言えば、ボブリンがしばらく前から随分と静かにしている…
レックス、チディ、メイは慌てて顔を見合わせる。
レックス: ボブリンを探す!
メイ: すぐ横にいた! 絶対あたしのすぐ横にいたのに!
エバーウッド: 君の横にボブリンの姿は無いが、衛兵に問い詰められている小柄な人影からナイフが押収されるのは見えた。
チディ: ナイフが! 彼はナイフが大好きなんだ! 取り返せなかったら大暴れするぞ!
レックス: 衛兵に駆け寄ってこう言います。「何か問題でも、紳士諸君?」
エバーウッド: ボブリンからナイフを取り上げた衛兵の1人が振り向いて言う。「このチビの面倒を見てんのはてめえか? 俺のベルトから小銭入れを盗ろうとしやがったんだ」。
メイ: あたしも駆け寄って、説得ロールで衛兵たちを宥められないか試します。
チディ: 君が有利になるように、僕も駆け付けて支援するよ。
メイは2個の20面ダイスを振る。
メイ: オーケイ、大きい出目は… えーっと。5に補正3で、8?
エバーウッド: 衛兵は君たちがボブリンを上手く扱っているとは思っていないようだ。しかも、1人が松明を少しボブリンに近付けると…
エバーウッドは20面ダイスを振り、レックスを見る。レックスは額に手をやる。
エバーウッド: おやおや。無補正で20ナット・トゥエンティだねえ。彼はボブリンの変装を見破り、剣を抜いた! 「ゴブリンだ! 都にゴブリンがいる!」 彼がそう叫ぶと、他の衛兵たちも抜刀する。さあ、いったいどうする、勇敢な冒険者たち?
メイ: 一か八かだね。ボブリンのためなら命も惜しくない。
レックス: 俺も。
チディ: ここまで一緒に来て死ぬわけにはいかないよ! 逃げなきゃ!
エバーウッド: そのまま衛兵にボブリンを連行させたっていいんだよ。
チディ: ダメです! 今すぐ目の前にフィアーを唱えます。
メイ: あたしはボブリンをどかす。
レックス: 俺は手先の早業ロールでボブリンのナイフを取り返せるかどうか確かめる。
一同が同時に話しながらダイスを振り、場が混乱状態に陥る。エバーウッドは5人の衛兵に対応する5個の20面ダイスを振る。
エバーウッド: オーケイ、みんな静かに。チディ、まずは君の判定だ。君は衛兵たちにフィアーの呪文を掛けることに成功し、彼らは全員抵抗判定に失敗した。
チディ: やった!
エバーウッド: メイ、君は行動を起こし、呪文が当たる前にボブリンをどかすことができた。そしてレックス、君のロールは… 17?
レックス: 16っす。
エバーウッド: 難易度15だから、ギリギリ成功だね。君たちは今や都で指名手配され、情報屋に見捨てられ、衛兵たちの叫び声に応じて増援が急速に接近している。どうする、英雄たち?
チディ: クソッ。マジでヤバいぞ。
レックス: ちょい待ち。さっき、ここの地盤は緩いって言いましたよね?
エバーウッド: うん、言ったね。
メイ: チディ、ファイアボール。
チディ: は?
メイ: 地面にファイアボール。爆発で足元が崩れれば、都の地下にある昔の坑道に落ちるよね。そこから脱出して、後のことはそれから考えよう。
レックス: 俺がモールド・アースを唱えるつもりだったけど、ファイアボールの方が遥かにクールだと思うね。
エバーウッド: 衛兵はどんどん君たちに近付いている。
チディ: どうすべきか、ボブリンの意見を聞いてもいいですか?
エバーウッドは呆れかえった表情になる。
メイ: そうだよね、ボブリンはどう思うかな?
エバーウッド: ボブリンは今すぐ逃げられるなら手段はどうだっていいそうだ。
レックス: オーケイ、モールド・アースを唱えて足元の地面を崩し、全員が地下の古い坑道に落ちるようにします。
エバーウッド: よろしい。下へと落ちながら、君たちはずっと昔、全てが始まったばかりの頃を思い返す。世界に名前を轟かせようと努める一介の冒険者に過ぎなかった日々を。そして今、君たちはちっぽけで惨めな生き物を守るためだけに、地下20mへと落下している。
メイ: 彼を愛してるんです… ボブリンを悪く言わないでください、ジェイ。
レックス: ボブリンは良いバディっすからね、酷い目には遭ってほしくないですよ。
エバーウッド: ともあれ、君たちは落下の衝撃で気絶し、間もなくして目を覚ました。遠くからは叫び声が聞こえる。まるで -
エバーウッドの携帯電話の着信音が鳴り始める。エバーウッドは白衣のポケットから携帯を出し、目をしばたかせる。
エバーウッド: すまない、みんな、アルダー管理官からだ。出なくちゃ。今夜のセッションはこれでお終いにしなきゃいけないな。ごめん。
レックス、メイ、チディが呻く。
エバーウッド: 本当にごめん、でも義務が優先だ。仕方ないさ。
記録終了
監視カメラログ 3
場所: サイト-55 娯楽室
日付: 2024/01/24
関係者: ジェイ・エバーウッド博士、レックス・アルケス研究員、メイ・ウォーターズ研究員、チディ・グアイ研究員
エバーウッド: さてさて、前回どこまで進んだか覚えているかい?
メイ: えーっと、あたしたちを殺しに来た傭兵集団を始末した後、ボブリンを連れて都に辿り着きましたよね。そこでボケナスアスフェイス公爵の -
エバーウッド: アシネシルだってば。頼むよ。
メイ: - そう、その公爵。とにかく、公爵の尻尾を掴むために情報屋に会って、彼を告発するには確固たる証拠が無きゃダメだって言われた。それからボブリンを都の深部まで連れて行こうとしたけど、ゴブリン差別があった。
レックス: 恥ずべきことだ。
チディ: 吐き気がするよ。
メイ: ほんとそれ。都ではゴブリンが差別されてて、あたしたちが話してる間に、ハーフリングに変装させたボブリンがはぐれちゃったんだよね。いつもみたいに衛兵の財布を盗もうとして - マジであの癖だけは勘弁してほしいんだけど - そして捕まった。チディがフィアーで衛兵たちをビビらせて、あたしはボブリンを掴み、レックスはモールド・アースであたしたちをその場から都の地下の坑道へと逃がした。そこでアルダー管理官からあなたに電話がかかってきたんです。
チディ: 遠くで叫び声が聞こえた、みたいな語りがありましたっけね。
エバーウッド: その通り! 実際、遠方からは叫び声が聞こえてくる。荒っぽく耳障りなその響きは、まるでボブリンにそっくりだ。
レックス: ヤバい。すぐにボブリンの様子を確かめます。無事っすかね?
エバーウッド: ボブリンは君のすぐ後ろで意識を失っている。
メイ: あー良かった。怪我してませんか? もし怪我してたら彼にヒーリング・ワードを使います。
エバーウッドはDM用の間仕切りの裏でブツブツと呟き、メイを一瞥する。
エバーウッド: マジ?
メイ: 彼に傷付いてほしくないんですっ!
エバーウッド: 分かったよ。君がヒーリング・ワードの呪文を掛けると、ボブリンはぴょんと飛び上がった。いつものように小さなナイフを握り締め、えげつない顔つきだ。
メイが歓声を上げ、チディとレックスが加わる。
レックス: 周囲を見回してみます。何か見えますか?
エバーウッド: やっと分別のある人が現れた。現在、外は夜中なので暗い。君たちが地面に掘った穴はまだ開いたままで、ごく少数の松明が君たちと、数人の大いに混乱した衛兵たちを照らしている。その他、トンネルの先には揺らめくかすかな光が見え、そちらからボブリンに似た金切り声が聞こえてくる。さあ、どうする、冒険者たちよ?
チディ: じゃあ、僕がトンネルをチェックしようかな。2人ともどう思う?
レックスとメイが頷いて賛意を示す。
チディ: よーし、トンネルの中で何が起こっているのか見に行きますか。
エバーウッド: 君のアプローチを説明してくれ。
チディ: あー… 普通、ですが?
エバーウッド: つまり、身を隠すようなことは何もせずに近付くんだね?
レックス: おい、またかよ。
チディ: 知力9なんだってば。だから小細工は抜きです。
エバーウッド: 了解。近付いていくうちに、ボブリンめいた声が静まり、物がガチャガチャとぶつかり合う音が聞こえてきた。トンネルの幅は徐々に広がり、やがて君は広大な地下洞窟に出た。どうやらここは公爵が所有する鉱坑の1つらしい。どの壁にも、鎖で縛られた労働者たちが取りすがり、神秘的な鉱石の塊を削り取っている。数人の監督役が労働者たちの間を歩き回り、時折立ち止まって鞭を振り回している。
メイ: ボブリンと情報屋の話に出てきた鉱坑ってこれかあ… 酷い。労働者をもっとじっくり観察できますかね? ボブリンみたいな声の出所を見つけたいです。
エバーウッド: 労働者の集団を見つめていると、どことなく覚えがある気がしてきた。まるで全員どこかで見かけたかのようだ。そしてボブリンがゆっくりと目の前に進み出た時、ハッと気がついた。労働者たちは一人残らず、ゴブリンなのだ。
レックス、メイ、チディは息を呑む。
レックス: だから地上では見かけなかったんだな?
メイ: きっとそうだよ。公爵が逮捕したゴブリンはみんな、刑務所じゃなくてこの鉱坑に送り込まれてたんだ。いや、採鉱労働者を確保するために反ゴブリン法を通したって可能性もある。
レックス: でも、なんでゴブリンなんだ? 採鉱者にはできるだけ強靭な肉体を持っててほしいだろ。俺が今まで出会ったゴブリンは - 君は別だぞ、ボブリン - 羽根1枚持ち上げるのがやっとだ。
チディ: 嗅覚かな? 小柄だからとか?
メイが素早くエバーウッドに向き直る。
メイ: 待って。今、ボブリンは前進してるって言いました?
エバーウッドは微笑む。
エバーウッド: その通り。彼は重い足取りでトンネルの出口へ向かっている。このまま進み続ければ、現場監督に見つかるのは時間の問題だ。
レックス: ボブリンに駆け寄って、彼が - そして俺たちが - 殺される前に捕まえます。
チディ: クロッドは自分の命をあまり大切にしない男ですけど、それでもレックスのキャラを支援しに行きます。
エバーウッド: ボブリンは全力で抵抗している。有利付きで、彼との掴み合いの結果をロール。
レックスは2個、エバーウッドは1個、それぞれ20面ダイスを振る。エバーウッドはレックスを見て、少し間を置いてから頷く。
エバーウッド: 最高値は12か。君たちは辛うじてボブリンを抑えているが、一向に落ち着く様子が無い。
レックス: なんでそんなに大急ぎで出ようとしてるかを問い詰めても?
メイ: 可哀想に。仲間があんな風にこき使われてたらそりゃ動揺するよ。
エバーウッド: レックス、ボブリンはいつになく獰猛な顔つきで君を見上げ、こう言う。「思い出した。ボブリンは倒れて頭打った、記憶は切られた喉からの血みたいに流れ出した。考えるの難しい。多すぎる」。最後の一言と共に大きな唸り声を上げて、彼は君とチディを振り解こうとする。
メイが合間を置いて手元のメモをめくり始める。
メイ: あのさ、あたしたち、都に辿り着く前にゴブリンを見かけたっけ?
レックス: ボブリン以外にか? 今だけだ。
レックスは身振りをする。
レックス: 鉱坑の奴らだけ。
メイ: 鉱坑の外にゴブリンは住んでないみたいだね。仮にいたとしても、ほぼ即座に逮捕されて連れてこられるだろうし。じゃあ、ボブリンはどうしてあの野営地にいたわけ? 彼はどこから来たの?
チディ: そりゃあ - あれだよ、きっと - あー、うん。見当もつかない。
レックス: ここまで旅してきたんじゃないか? 種族差別が無い遠くの街からさ。
メイ: だったら、なぜ彼は公爵の名前を知ってたの? なぜこの場所が記憶を刺激してるの? あり得ないよ -
レックス: - 彼がここから来たのでない限りは。
短い沈黙。
レックス: いや、考えてみれば他に説明しようがない。彼はここに閉じ込められて、逃げ出して、その途中で記憶を失ったに違いない。
メイ: それが真実だとして、これからどうする? このままじゃ、ボブリンはあなたたちを振り切って死に直行する。そんなことは認められない。
チディ: どうして認められないんだ?
エバーウッドが片眉を吊り上げる。
レックス: 俺はチディに賛成する。ボブリンは友達だ。記憶を取り戻すのを助けるために遥々ここまでやって来た。俺たちの予想通り、ここが彼の故郷なら、この最後の一歩を踏みとどまるわけにはいかないだろ。ボブリンから手を離す。
エバーウッド: チディ、君はまだボブリンを抑えつけている。そのままにするか、それとも解放するか?
チディ: 解放します。
エバーウッド: ボブリンは直ちに立ち上がり、後ろの地面に点々と汚物の跡を残しながらも歩き続ける。やがて彼は出口へと辿り着いた。君たちが介入できる最後のチャンスだ。
レックス: その気は無いっす。代わりに、ボブリンを追ってトンネルから出ます。
チディ: 僕もだ。
レックスとチディは期待を込めてメイを見る。彼女は溜め息を吐く。
メイ: しょうがないよね。ボブリンのためなら死ねるよ。
3人全員がエバーウッドに顔を向ける。エバーウッドは呆れた表情でメモをめくる。
エバーウッド: 念のため言っておくと、今回のキャンペーンで、惨めなゴブリン仲間が君たちを生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込んだのはこれが4回目だよ。一度でも臨死体験をした人間は普通、自然淘汰の法則に従って賢くなるんだけどね。
メイ: ちょっと! あたしたちはそのゴブリン仲間を愛してるし、これは彼にとって大切なことなんですよ。
チディ: まさにその通り! それにね、今回のキャンペーンは物凄く面白いんです。
レックスとメイは頷いて賛意を示す。
レックス: ボブリンとの冒険は本当に楽しかったです。ここで投げ出したら後味が悪い。
メイ: たまにはこういうちょっとした… 気楽な雰囲気があっても良いでしょう? この冒険では真剣な瞬間も多かったけど、やっぱり私はボブリンと一緒にバカやってるのが好きです。彼はこれからもずっと、あたしたちのささやかな相棒です。
長い沈黙の中、エバーウッドは手元のメモを見つめながら、深く考え込んでいるように見える。やがて、エバーウッドはテーブルにメモを伏せる。
エバーウッド: 現場監督らは君たちが入ってきたことにすぐには気付かなかった。しかし、近くにいた数人のゴブリンは気付いた。彼らはボブリンを指差して隣のゴブリンに耳打ちし、そのゴブリンはまた隣に、そのまた隣に、というように伝言が伝わって、鉱坑全体が数千人のゴブリンの興奮した囁きに満ち溢れた。現場監督らが状況を悟る前に、ボブリンは洞窟の中心に歩み寄り、口を開いた -
エバーウッドはここで口をつぐむ。
エバーウッド: …君たちの中にゴブリン語が分かるキャラはいたっけか?
レックスとチディは首を横に振り、メイに顔を向ける。彼女は恥ずかしそうに目を伏せる。
メイ: いません。
レックス: あー、状況を整理させてくれ。レディ・フィロメナは - 自称ゴブリンマニアなのに - ゴブリン語を話せないのか?
メイ: 彼女が夢中なのはゴブリンであって、彼らの言語じゃないからね。
エバーウッド: (溜め息) まあ、いいさ。君たちには内容が理解できないが、どうもボブリンは演説をしているようだ。良い演説 - いや、情熱とキレのある言葉で綴られる素晴らしい演説だ。洞窟のあちらこちらにいたゴブリンたちが煽り立てられ、熱狂し始める。鎖がジャラジャラと鳴る騒音で、君たちにはほとんど演説が聞き取れない。一番近くにいた現場監督が - ちなみに彼らは今や全員、君たちの存在に気付いているよ - 1歩踏み出した瞬間、ボブリンは飛び掛かってその喉を切り裂いた。
レックス、メイ、チディが歓声を上げる。
エバーウッド: 突然、あらゆるゴブリンが手持ちの道具で近くの現場監督に襲い掛かった - 中には素手で攻撃している者もいる。現場監督らは数人のゴブリンを斬り倒すが、集団で群がられてはお手上げだ。程なく、生き残りの監督らは降伏し、両手足をひとまとめに縛られて近くに転がされた。洞窟のゴブリンたちはお互いの鎖を叩き壊し始め、既に自由の身となった者たちがボブリンの周囲へ集まってきた。
レックス: ワオ。いや、確かにある程度のことは教えたけど、あんな演説のやり方は教えてないぞ。
メイ: 私も。まさにゴブリン革命家だよ! こっちは完全に死ぬ覚悟だったのに、平然と反乱を起こしてあたしたちを救っちゃった。
チディ: クロッドの教えがあの演説を触発したと思いたいなあ。
レックスとメイは呆れた顔つきでチディを見る。
チディ: (唸る) 分かったよ。でもあの喉切りテクニックは絶対にクロッドが教えたものだ。
エバーウッド: 君たち3人がやいやい言っている間に、ボブリンはゴブリン集団をかき分けて近寄ってきた。
メイ: 主役のご到着!
レックス: 彼にこう訊ねます、「どこであんな話術を覚えたんだ?」
エバーウッド: ボブリンは君たちを見上げ、咳とともに毛玉のようなものを吐き出して、共通語でこう答えた。「なに、ごく単純なことです。不運にも記憶喪失に陥る前、私はこの洞窟で反乱分子の指導的立場にありましてね。普段から同じような演説をしていました。記憶が戻った今は、その経験を活かすことができます。正直なところ、あれはまだ気楽なものでした - あと数週間もすれば、哀れな労働者たちは自力で反乱を起こしていたでしょう」。
沈黙。
レックス、メイ、チディがエバーウッドを見つめる。
沈黙。やがて -
レックス、メイ、チディ: はあっ??
レックス: 最初っからちゃんとした共通語を知ってたのか?? じゃあ俺が教えたのは無駄?
メイ: そんなことより、彼の声はどうしちゃったの? あの美しい、ガラガラの、粗削りなアクセントが… 消えちゃったよ!
チディ: 声なんかどうだっていい。彼はまだ犯罪について同じ意見を持ってるのか?
エバーウッド: チディ、ボブリンは何も言わず、ただナイフを掲げて厳粛に頷いた。
チディがガッツポーズする。
エバーウッド: 彼はレックスにこう説明する。「あなたの教えは私にとって大切なものであり、ありがたい思いやりでした。かつての知識がそれを打ち消すことはありません。そしてレディ・フィロメナ、例の言葉遣いは当時の体調の産物ではありましたが、ボブリンはその気になりゃあいつだって切り替えられるぜ」。
メイ: あーよかった。あれを失うなんて耐えられない。
レックス: ありがとう、ボブリン。俺たち全員、とても嬉しいよ。
エバーウッド: ボブリンは洞窟の奥を指差した。そこには暗いトンネルへと続くトロッコと線路が見える。「私が知る限り、あそこを通るのが、ここを出る唯一正しい道です。採掘活動の中心部に通じていて… 残念ながら、公爵はほとんどの時間をそこで過ごしています」。彼はゴブリンたちが採掘していた鉱石の小さな欠片を見下ろす。「この石くれには何か、公爵が欲している特別な力が宿っている。生憎、私はその正体を知りません」。
チディ: いやいや、大したことない。トンネルを抜けて、公爵を見つけて、ボコボコにして、身ぐるみ剥がして、祝杯を挙げるだけだ。僕はトロッコに向かって歩き始めます。
エバーウッド: もう一つ。ボブリンは悲しげに君たちを見て言う。「私は同行できません」。
メイ: なんで! 警備は全員死ぬか無力化して、ゴブリン仲間は全員無事に -
エバーウッド: ボブリンが君の言葉を遮る。「この場にいる私のゴブリン“仲間”だけです。公爵が運営している鉱坑はここばかりではない。私はできる限り早急に同胞を解放するという義務を負っています。機会があればあなた方の戦いに加わりましょう。しかし、今は無理です」。
短い間が開く。
レックス: オーケイ。
エバーウッドが片眉を吊り上げる。
エバーウッド: 私の予想よりもあっさりと受け止めたね。
チディが肩をすくめる。
チディ: もっともな理屈だし、これが今生の別れじゃない。
メイ: うん、それにきっと、もっと沢山のゴブリンを連れて戻ってくるよね!
レックス: そうとも! ゴブリンは多ければ多いほど楽しい!
エバーウッド: まあ、そういうことなら。では勇敢な英雄たちよ、これからどこへ向かう? 都は今や君たちの敵だが、鉱坑の中で身の安全を保てる時間は限られている。
[SCP-6467と関連しない余分な映像を省略。]
記録終了
監視カメラログ 4
場所: サイト-55 娯楽室
日付: 2024/05/15
関係者: ジェイ・エバーウッド博士、レックス・アルケス研究員、メイ・ウォーターズ研究員、チディ・グアイ研究員
チディが20面ダイスを振る。
チディ: 15!
エバーウッド: こうして君たちは死の淵から生還を果たした! しかし、敵は多勢で、アシネシル公爵は依然としてクリスタリウム駆動の頑強な機械の上に無傷で座っている。彼は歪んだ笑顔で君たち3人を見下ろし、こう言い放つ。「奴隷どもを解放すれば計画の妨げになるとでも思ったのか? 愚かよのう。貴様ら3人が現れる前に、必要なクリスタリウムは既に確保してあったのだ。もはや誰も吾輩を止められはしない!」
チディ: もしまだ呪文スロットが残ってたら、今すぐにでもファイアボールをそのバカ面にぶち込んでやるのに。
メイ: 私のターンだね。クソ野郎にガイディング・ボルトを唱える。
レックス: おい! 俺はダウンしてて回復が必要なんだぞ!
メイ: 公爵を始末してからでも間に合う。ガイディング・ボルト!
チディ: あのね、メイ、僕は治癒すべきだと思うよ。クソボケアスファック公爵を殺しても -
エバーウッド: アシ - いや、止そう。こいつは実際クソボケ野郎だ。今回は譲歩する。
チディ: - 衛兵は押し寄せ続けるかもしれない。
エバーウッド: さあ、メイ、レディ・フィロメナはどうするかな?
メイ: ぐぅ。分かったよ。レベル3のヒーリング・ワードをレックスに唱えます。
メイは4個の4面ダイスを振る。
メイ: 体力が12回復。
レックス: ありがとう。
エバーウッド: これでラウンドは終了だ。ちょっと隠し判定をさせてもらうよ。
エバーウッドは20面ダイスを振る。
エバーウッド: 面白い。
チディ: 嫌な響きだなあ。
メイ: なになに。
レックス: 当ててみせよう。邪竜ティアマトが降臨して俺たちを襲うんだ。
エバーウッド: いいや! 何やら、ゴロゴロという音が聞こえてきた。最初は小さく、しかしすぐに音量を増してゆく。突然、レディ・フィロメナは音の正体に気付いた。彼女がゴブリンに夢中だった頃、もしくは私が好んで呼ぶところの“ゴバブー時代”6の知識の賜物だ -
レックスとチディが笑う。メイは腕組みして呆れた顔つきになる。
エバーウッド: ともあれ、君たちはそれを耳にした。ゴブリンの鬨の声だ! それがこの施設の廃墟へと駆け下りてくる! あっという間に、緑色の身体が海となって辺り一面を埋め尽くし、衛兵たちをなぎ倒してゆく。そしてこの大群の先陣を切って進むのは、他ならぬボブリンだ!
チディ、メイ、レックスが一斉に歓声を上げる。
メイ: 嘘でしょ! ボブリンが!
レックス: やるじゃねえか、ボブリン!
チディ: 僕らのボブリン! また会えて嬉しいよ!
エバーウッド: 彼は君たち3人に気付くと立ち止まり、微笑みかけてから突撃を再開した。しかし、アシネシル公爵はゴブリンたちにあまり感銘を受けず、左腕の大砲から電撃の如くクリスタリウム魔術を発射し、相当数のゴブリンを蒸発させた!
メイ: ボブリンは無事?
エバーウッド: 無事だとも! 彼はまだ突撃隊を率いながら、機械の脚を伝って、アシネシル公爵が搭乗しているコックピットへと近づいているぞ!
チディ: 支援できますか?
エバーウッド: 君たち全員、機械によじ登りたいかな?
レックス、チディ、メイ: (声を揃えて) はいっ!
エバーウッド: よし、各々、軽業か運動の好きな方で判定してくれ!
レックス、チディ、メイは各々20面ダイスを振る。
レックス: 22!
メイ: 15!
チディ: 5。あー、体力にもっと割り振っときゃよかった。
エバーウッド: もう一度トライしていいよ。夥しい数のゴブリンがお互いに助け合って登っているんだから、君を助けてくれるのも当然の成り行きだ。それを有利と見做す。
チディはもう一度ダイスを振る。
チディ: んー… 合わせて16?
エバーウッド: 上出来! 君たちは機械をよじ登り始め、公爵はゴブリンたちと君たちをゴーレムから振り払おうとし続けている。やがて、ボブリンがコックピットに辿り着き、ガラスを小さなナイフで突き刺し始めると、小さなひびが入ってゆく。レックス、君が先攻だ。どうする?
レックス: ワイルド・シェイプで猿に変身して素早くよじ登り、コックピットをぶん殴ります!
エバーウッド: 良い選択だ! ガラスはもうすぐ割れそうだぞ! チディ、君の番だ。
チディ: 僕と公爵はどのぐらい離れてますか?
エバーウッド: 4m半ってところかな。
チディ: 僕の位置から公爵は見えますか?
エバーウッド: 見えることにしておこう。
チディ: 完璧だ。奴にライトニング・ルアーを唱えます。
メイ: 天才! どうして今までやらなかったの?
チディ: 十分に近づけてなかったからね。
エバーウッド: よろしい! 公爵が抵抗できるかどうか見てみよう。
エバーウッドは20面ダイスを振る。
エバーウッド: おおっと、いまいちな出目だ。呪文は命中した! 公爵は君たちに向かって引き寄せられ、コックピットのガラスを突き破って墜落してゆく!
チディが3個の8面ダイスを振る。
エバーウッド: ダメージは問題にならない。公爵は死んだ。彼の能力値は普通の市民と同じだったからね。おめでとう、君たちは公爵を倒した! しかし、1つの問題が残っている。彼が征服のために作り上げた機械は今、自爆プロトコルの発動を高らかに宣言している。どうする、メイ?
メイ: ファック! どうしよう、えっと… ボブリンに訊いてみても?
エバーウッドは呆れた表情になるが、微笑む。
エバーウッド: ボブリンは君に頷く。何をすべきかはもう分かっているらしく、口の動きで“ありがとう”と伝える。そしてボブリンは、つい先程までアシネシル公爵が座っていたコックピットに飛び込み、そこを引っ搔き回し始める。何かを探している様子だ。よじ登って彼を助けたいかな?
メイ: もちろんです! だってボブリンですよ、こんな風に放っておけません!
エバーウッド: 登ってゆくと、ボブリンは君を見て言う。「行きなさい。他の者たちにも、全速力で逃げるように伝えるのです。私はできるだけ被害を抑え込みます」。
メイ: ダメ! ボブリン、あたしが手伝うよ!
エバーウッド: 渾身の力を込めて、小柄なゴブリンは君をコックピットから蹴り出し、君はレックスとチディの上に落ちた。突然の重みに耐えきれず、3人揃って倒れ込む。ゴブリン軍団は短い脚が許す限りの速度で撤退している。さあ、君たちはどうする?
メイ: もう一度登ってボブリンを助ける!
レックス: メイ、止せ。ボブリンは俺たちが生きることを望んだ。これは彼が払うべき犠牲だ。
チディ: ああ、彼に任せよう。
沈黙。
メイ: 分かった。ここから脱出しよう。
エバーウッド: 斯くして、あの怪物的な機械が構築された廃墟を逃げ出すゴブリンたちに流されるようにして、君たち3人の気高き英雄が建物から50mほど離れたその時、ついに爆発が起こった。君たちは疲労困憊し、感情的に打ちのめされているが、ひとまずは無事だ。ほんの少し前に君たちを助けてくれたゴブリン軍団も、指導者と目標を失い、君たち3人と同じくらい取り乱している。彼らは共通語をほとんど話せないが、そのうちの1人が、メイ、君に近づいてひまわりの花を手渡した。「これ、あいつのお気に入りだった」。
メイは腕に顔を埋めてすすり泣き始める。レックスが手を伸ばし、彼女を慰める。
レックス: 大丈夫だ。彼はもう反乱を率いる必要も、誰かに採掘を無理強いされることもない。
チディ: ようやく自由になったんだ。
メイ: たかがゴブリンにここまで感情移入させるだなんて!
エバーウッド: ええっ? 彼をどうしても放っておかなかったのは君たちじゃないか!
チディ: じゃあ、まさかあれ全部予定外だったんですか?
エバーウッド: 出だしから台本通りに進んだところはほとんど無いよ。
レックス: ワオ。巧みな即興っすね。
エバーウッド: どーも。ところで、次回のキャンペーンでは誰がDM7をやりたいかな?
レックス、チディ、メイは全員、口々に言い訳を並べ立て始める。
記録終了
以下の添付資料は、メイ・ウォーターズ研究員が自らの冒険パーティと関連するSCP-6467実例を描写したアートワークです。

本ページを引用する際の表記:
「SCP-6467」著作権者: Uncle Nicolini, Rakkran, fairydoctor, C-Dives 出典: SCP財団Wiki http://scp-jp.wikidot.com/scp-6467 ライセンス: CC BY-SA 3.0
このコンポーネントの使用方法については、ライセンスボックス を参照してください。ライセンスについては、ライセンスガイド を参照してください。
ファイルページ: SCP-6467 / D&D
ファイル名: boblin1.jpg
タイトル: Dungeons and Dragons game.jpg
著作権者: Moroboshi
ソース: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dungeons_and_Dragons_game.jpg
ライセンス: CC BY-SA 3.0
公開年: 13 July 2005
ファイルページ: SCP-6467 / パーティ
ファイル名: boblin2.png
タイトル: boblin2.png
著作権者: fairydoctor
ソース: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-6467
ライセンス: CC BY-SA 3.0
公開年: 2023









