クレジット
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アイテム番号: SCP-654
オブジェクトクラス: Neutralized (旧 Keter)
特別収容プロトコル: ボーリング協定に則り1、SCP-654の直接的な収容はGoI-446 (ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズ) に委託されます。
SCP-654は、約-1.8°Cに保たれた塩水を常時循環させる特殊構造の生息域に収容されています。この水棲生物囲い場を囲む部屋の壁には、絶縁性のセラミック複合材が貼り付けられています。
説明: SCP-654は雄のイッカク (Monodon monoceros) です。外見において同種個体と異なる点は、今日までに確認された他全てのイッカクでは反時計回りに伸びている特徴的な螺旋状の牙が、SCP-654の場合は時計回りに伸びている点のみです。SCP-654は牙の先端から瞬間的に放電することが可能です。この放電は雷を連想させるもので、大きな破裂音を伴ないます。それほど正確ではないものの、牙は放電の方向性を指定できます。
発見: ティックル・クリークで活動していたウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズの従業員が、“季節外れの落雷”を記録し、森林火災の可能性に備えて消火活動に派遣されていました。現場では大量の解けた氷とクマ3頭の焼け焦げた死骸だけが発見され、事案報告書の提出後、財団が異常存在の収容支援に乗り出しました。
SCP-654は川に浮かぶ流氷の間に挟まれた状態で発見されました。短時間の捕獲試行の後、SCP-654は鎮静され、イルカ用担架で公園の滑走路まで空輸されました。その後、SCP-654は鎮静状態のままでウィルソン水棲センターまで移送され、飼育域の構築が完了するまでは標準的な海洋囲い場で飼育されました。
補遺 654-1: ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズのSCP-654関連文書
SCP-654はイッカクにしては珍しく1頭だけで発見された。SCP-654と同じ異常性を持つ可能性がある群れの他個体を探すために、発見地域をくまなく捜索するための小規模チームを結成したけれど、きっと収穫は無いだろう。
ところで、新しい囲い場の建造に使った建築資材費や工賃は払い戻してもらえるだろうか? 途方もない費用が掛かって、こちらの予算にも収まりきらなかったけれど、あの生き物のためにできる限りの力を尽くしたかった… あれでもまだ狭すぎるんじゃないかという不安はある。
敬具、
フェオウィン・ウィルソン
サンダーホーンは近頃、空を飛ぶ鳥を撃ち落とすために能力を使っている。悪意なのか退屈しのぎなのか見当も付かないが、こんなに狭い囲いに閉じ込められていれば、誰でもサイコパスになってしまうのかもしれない。サンダーホーンのリハビリは遥か遠い目標なので、今の居住区を拡張できるか検討したいと思う。私たちが面倒を見ている生き物たちの中でも、彼は決して友好的とは言えない — もしかしたら群れが恋しいんだろうか? 世話役たちからは、きっと囲い場のサイズに不満があるんだろうと聞いている。
ところで、彼の現在の囲い場を作るのに掛かった工賃や資材費を払い戻してくれないだろうか? あれから数ヶ月経つけれど、まだ返信を受け取っていない。厚かましい言い方はしたくないが、これはちょっと馬鹿げていると思わないか?
敬具、
フェオウィン・ウィルソン
私たちがサンダーホーンの世話を始めてから7ヶ月経つが (ちなみに私が資金援助の要請をしてから6ヶ月になる!) 、彼とスタッフの間で敵意が高まっていることに気付いた。サンダーホーンは食べ物を持たずに住処に近寄る人間にはほぼ確実に電気を浴びせる。食べ物を持って来た相手にさえ、住処にご飯が投げ込まれるまでの間しか関わりたくないのをはっきり示している。何がいけないのか調べようとはしているが、ボランティアたちを怪我させるリスクを冒したくはない。
念のため伝えておくけれど、資材費や工賃の払い戻しの額や、サンダーホーンの囲い場のメンテナンス費用を試算してみた。少なくとも15,321.12ドルになるだろう。せめてこの程度の金額なら出してもらえるはずだ。君たちがサイト-64でどういう物を扱っているか見たことがある。
敬具、
フェオウィン・ウィルソン
今日、サンダーホーンの世話役は、彼が背中に火傷を負っているらしいと気付いた。過去2週間の監視カメラ映像を見直してみたけれど、誰かがサンダーホーンに危害を加えた証拠は無い。その代わり、彼は何度か自分自身の雷に打たれているように見えた。サンダーホーンは放電能力に耐性があるとばかり思っていたが、明らかに間違いだった。もしかしたら、野生では能力を使える空間が広いから、自分の身を傷付けずに済んでいたんだろうか? やはり彼の囲いを拡張するべきかもしれない。もしかしたら、それでサンダーホーンは怪我をしなくなるかもしれない。もしかしたら、本当に仮定でしかないが、それで私たちは彼を抑制できるかもしれない。
とにかく、明日からLAIM獣医たちと一緒に、彼の怪我を治療するための活動を始めるつもりだ。
敬具、
フェオウィン・ウィルソン
サンダーホーンは死に物狂いで抵抗したが、どうにか鎮静剤とクレーンとイルカ用担架で抑えつけることができた。LAIM獣医によれば、絶えず監視しながら経腸投与法で栄養を与える必要があるけれど、いずれ回復するそうだ。私たちの限られた予算にとってはかなりの痛手だ。サンダーホーンが回復するまでの間、君たちとの間に、何か負担を軽減できるような金融協定を結べることを願っている。
金融協定の話が出たついでになるが、サンダーホーンの住処を拡張する提案を改めて検討してもらえないだろうか? もう1年になるが、何を要請しても君たちから返事が返ってきた試しがない。私のやり方が間違っているのか? どうか助言してくれ。
敬具、
フェオウィン・ウィルソン
サンダーホーンの近況を報告したい。彼はここ2週間、元々の囲い場を建造する時に使った資材の余りでどうにかでっち上げた特殊な囲い場で生活している。体調は改善しているけれど、世話役たちによれば、彼は今の住処にますます不満を募らせているようだ。このせいでまた事件が起こるんじゃないかと思う。
このメールを管理している誰かが応じてくれれば、こんな事態は全て避けられたはずだった。とは言うものの、本当にこのメールを見ている人はいるのか? まるで虚空に話しかけているような気分だ。
誰か、そこに居るのか?
フェオウィン・ウィルソン
サンダーホーンは死んだ。センターもこれで終わりだ。
Fuck you,
フェオウィン・ウィルソン
補遺 654-2: SCP-654とウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズの無力化後評価
ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズ従業員の職務怠慢によるSCP-654の無力化に続いて、財団はボーリング協定の再評価を求めました。以下は、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズ代表取締役 フェオウィン・ウィルソンと、GoI連絡員 ジャスティン・エバーウッド博士の間で行われた会議の議事録です。
<記録開始>
エバーウッド: こんにちは、ウィルソンさ-
ウィルソン: ついにやったな。
エバーウッド: すみません、今何と?
ウィルソン: これは全て君たちのせいだぞ! 監督者たちが数千ドル捻出してくれれば、サンダーホーンの死は完全に防げた。
エバーウッド: それは私ではどうにもできない事です、ウィルソンさん。私には上層部の決定を左右する力はありません。私はあくまで、あなたと私の組織を繋ぐ仲介役として居るだけです。
ウィルソン: じゃあ… どうして彼らは何もしてくれなかった? どうして私の要請に一度も答えなかった? 理解できない。
エバーウッド: 残念ですが、まだ悪い知らせがあります。財団はSCP-654の死に対して、あなた方に制裁金を科すことを望んでいます。
ウィルソン: 信じられない。
エバーウッド: 私もこれは不公平だと思っています。
20秒の沈黙。ウィルソンは静かにすすり泣いている。
ウィルソン: 最初は父さん、次はこれか2。センターは失われる。私たちが築き上げたものは何もかも失われる。
エバーウッド: … あの-
ウィルソン: 何もかも君たちがメールに応えてくれなかったからだ。どうすれば君たちの注意を引けた? どうやら、世話している生き物を1匹死なせればよかったらしいな? ボーリング協定はどうなったんだ? 必要な時は支援してくれると聞いていたのに、実際は冷たくあしらわれただけじゃないか。
エバーウッド: 申し訳ありませんでした。私自身、時として財団が行動を起こすのはやや遅いと承知しています。官僚主義が隅々まで行き渡っていますからね。私がここ20年間で何か学んだとすれば、時には大声を出さなければ気付いてもらえないということです。
ウィルソン: もうどうでもいいさ。センターも従業員たちもこれで終わりだよ。
エバーウッド: いえ… 100%悪い事ばかりで終わらせる理由は無いでしょう。
ウィルソン: どういう意味だ?
エバーウッド: あなた方が上層部の関心を集めた今、それを良い方向に利用できるかもしれません。
ウィルソン: ここからどう良い方向に持っていけるのか分からない。
エバーウッド: ふと、ボーリング協定締結時のことを思い出しましてね。あの当時、ウィルソンズにはごく小規模な、或いは簡単に収容できるアノマリーしかいませんでした。記憶が確かなら、SCP-654はあなた方にとって初めてのKeterクラスアノマリーです。
ウィルソン: どういう意味なのかがまず理解できない。
エバーウッド: “Keter”は私たちが収容困難なアノマリーの分類に用いる用語です。私たちでさえ封じ込めに苦労するという意味です。
ウィルソン: 君たちでもサンダーホーンには手こずっただろうって?
エバーウッド: ええ。大きくて扱いにくく、雷を召喚し、動物ですから予測が困難です。きっとKeterの要件を満たすでしょう。どっちみち、近頃はオブジェクトクラスの扱いもかなりいい加減になっていますしね。
ウィルソン: つまり、何を言おうとしているんだ?
エバーウッド: まぁ、これは単なる思い付きですが、この一件はウィルソンズにKeterアノマリーを収容する手段が無かったからとも言えます。今まではSafeとEuclidだけでした。そこで、ボーリング協定を改定し、ウィルソンズにはSafeとEuclidアノマリーしか収容されないように働きかけることができます。
ウィルソン: そ… それなら上手く行くかもしれない。すまない、ちょっと今混乱してる。
エバーウッド: ご心配なく。あなたが落ち着きを取り戻すまでの間に、私が上層部にこの件を伝えるのはどうでしょう?
ウィルソン: でも、制裁金はどうすればいい?
エバーウッド: あなた方には5年分の完璧な収容記録があります。最初の違反には目を瞑ってもらえるでしょう。
ウィルソン: ありがとう、エバーウッド博士。
エバーウッド: どうか、私のことはジェイと呼んでください。
<記録終了>
ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズと財団の会議の後、ボーリング協定は以下のように改訂されました。
ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズは、Safe及びEuclidクラス異常存在のみ収容を許可される。全てのKeter分類異常存在は、財団に再割り当てされ、更なる収容の対象となる。今後の事件を回避するために、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズへの資金提供は25%増額される。
今後、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズ職員の怠慢によって異常存在が無力化した場合、無力化した異常存在ごとに50,000米ドルの制裁金が科せられる。
なお、様々な反論が提出されましたが、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズは、SCP-654の無力化に対して50,000米ドルの制裁金を科せられました。