SCP-6630
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アイテム番号: SCP-6630 レベル4/6630
オブジェクトクラス: Keter 機密指定

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初期収容の際のSCP-6630。MTF-ε9-02 (故人) への"付着"を試みている。


特別収容プロトコル: 1999/10/9に発生した事案以降、SCP-6630の追跡、収容、長期的な研究努力は、新たに設立された財団 防火部門 (Fire Suppression Department) に割り当てられ、機密指定されています。

説明: SCP-6630は火炎に酷似した捕食性生命体です。SCP-6630は視覚的にも機能的にも一般的な燃焼に類似しており、熱と光の両方を生み出しますが、以下の違いによって識別することが可能です。

  1. 炎の先端が下向きに僅かに湾曲している。
  2. 炎の中間部が分離または均一化し、"スラット"または紙のような扇形になる。
  3. SCP-6630が燃焼しているように見せかけている物質や構造物が全く燃焼していない。

SCP-6630は狙う獲物が近づくまで、通常の炎に擬態し、見せかけの燃料源の上で静止浮揚します。獲物には社会性動物や営巣動物、特に火に関し特別な行動を示すもの、即ち、暖を取るために近づいたり、巣や群れを守るために火を消したりする動物が含まれます。獲物が接近すると、SCP-6630はさらに誘引、待ち伏せ、攻撃的な戦術を駆使して、獲物に確実に"付着"します。

SCP-6630が焼却可能である、もしくはその対象として選択するのは生きた生物のみです。

この "摂食プロセス"は通常の燃焼に比べ非常に遅く、獲物の総体積に応じて数時間から数日間継続します。脂肪やワックス状組織等の燃料となる有機物の存在はSCP-6630に影響を与えないようです。その代わり、SCP-6630は獲物の生命機能が完全に停止することでのみ、摂食と付着を停止します。摂食中、SCP-6630は表皮の可能な限り広い面積を、明るく、熱く、全く音のない強度に発火させます。獲物の苦痛に満ちた声と動きは、光と熱と相まって、その救助や消火を試みる新たな獲物を引き寄せます。通常の身体燃焼の過程では、被害者は痛みに耐えられず失神しますが、SCP-6630は摂食プロセス中の30~40%、数時間に渡って、獲物の意識を維持することができるようです。

獲物が意識を失った場合、SCP-6630は小さな燻りへと縮小し、身体の狙った部位のみを燃焼させます。この行動は、摂食の時間を最大化し、また、危険の少ないうちにSCP-6630を消そうとする獲物を誘うことにも繋がります。しかし、その試みは必ず失敗します。

SCP-6630を消火する方法は知られていません。SCP-6630は通常の燃焼とは異なり、酸素や熱を必要とせず、生きた燃料源のみを必要とします。そのため、水やハロンなど従来の消火方法は、SCP-6630に対して全く効果がないことが証明されています。


補遺 | 収容違反 - 1999/09/10: SCP-6630は、これまでに確認されていない能力によってエネルギー出力をほぼ完全に低下させ、レベル2設備保守職員であったN.リーズの防護服の股下に種火を埋め込むことで、サーマルイメージング検出を回避し、収容違反事案を発生させました。

その後、SCP-6630の拡散により、198名の財団職員が死亡しました。

サイト-96のすべての生存者は、レベル3エンジニアのヘンリエッタ・ブーンの機転と協調によって保護されたことが公式に記録されています。彼女は、SCP-6630の燃料が完全に焼失するまで、自分と18人の同僚を無人のアノマリー収容セルに封じ込めました。ヘンリエッタには財団勲章が授与されました。



























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FIRE SUPPRESSION DEPARTMENT - 機密指定

以下の情報は退職防止部門 (Fire Suppression Department / FSD) 内部業務課にのみ閲覧が許可されています。無許可でのアクセスは硬く禁じられています。

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違反者は特定されます。


ヘンリエッタ・ブーン SL-01: 機密セラピーセッションのデジタル記録、1999/12/22


マローン博士: よく眠れていますか、ヘンリエッタ?

ブーン: ええ。

ヘンリエッタ・ブーン SL-02: 自宅ベッドルームの監視映像、1999/12/21


3:24AM - ヘンリエッタ・ブーンは部屋の隅に座り、膝を抱え、寝室のドアをじっと見ている。

ヘンリエッタ・ブーン SL-03: 機密セラピーセッションのデジタル記録、1999/12/22


マローン博士: 悪夢は見ますか?

ブーン: あー、見てない。最近は全く。

ヘンリエッタ・ブーン SL-04: 自宅ベッドルームの監視映像、1999/12/21


4:36AM - 隅で眠っていたヘンリエッタ・ブーンが突然目を覚まし、寝室のドアに向かってランプを投げつける。

ブーン: やめて! やめて! 入れないから! やめて! 悲鳴を上げないで! 悲鳴を…止め…て…

ヘンリエッタ・ブーンが床に倒れ込む。

ヘンリエッタ・ブーン SL-05: 機密セラピーセッションのデジタル記録、1999/12/22


マローン博士: 処方された薬は続けていますか? 毎日ポジティブな思考を声に出してますか? 瞑想は-

ブーン: まだ報告書が改定されてない。

マローン博士: (…) 何と?

ブーン: 報告書 - あの火の。6630のよ。改定されていない。昨夜、新規改訂版を送信したのに。

マローン博士: ヘンリエッタ、我々はそれについて議論しました。アーキビストたちがリストを更新するはずで-

ブーン: 私が言いたいのは- いえ、機械的に言って、あれが水中でも燃えることは記載すべきよね? あるいは、あれは熱く、速く、正確な燃焼ができて、誰かの頭に飛んでいく弾丸を溶かすほどだってことはどう? それか-

マローン博士: ヘンリエッタ-

ブーン: それか- ほら! 6630は本物の炎と共存できないってことは!? それが炎に包まれて何時間もかけてジワジワと燃やされて死んでいく人たちを助ける唯一の方法ってことは? だって私たちはそれを身を以て学んだもの! でしょう!? あのクソッタレな報告書にはそういうことを載せるべきよね?

マローン博士: ヘンリエッタ、落ち着いて

3秒間沈黙

マローン博士: 貴女が今経験している事象は、遡及的補償と呼ばれるものです。 サバイバーズギルトに苦しんでいる方にはよく見られるものです。特に、貴女のような、その問題を解決した人に。貴女は、元のトラウマの原因となった問題を全て解決することを望んでいます。しかし、それはできません。それはもう起きてしまったことです。それを受け入れて、前に進み始める必要があるのですよ。

ブーン: そうね- でも- …周りを見てよ! 私は何から前に進んでいるって言うの? そうでない皆- …生き残った皆は、何もなかったみたいに過ごしてる! 毎日、全員に会うわ。休憩室でコーヒーを飲みながら談笑して、あの時の廊下を歩いてる… 床の燃え滓と人の脂の跡は綺麗に掃除されてるけどね。何も変わっていないの! 198人も死んだってのに、何も変わってない! ただ、人員を補充しただけ! ここにいたら気が狂いそうよ! あのクソ報告書を更新さえしないの!

マローン博士: ヘンリエッタ、貴女はすぐに何らかの外的な検証をしたいようですが-

ブーン: いや、違うわ。いい? 貴方は全面的に正しいわ、リヴァ。私も前に進まなくちゃ。私、そう、私が言いたいのは、一体いつからこんな所で怪物の檻の設計なんかして過ごしてるの? ってことよ。ここにいるままで、何が変わるっていうの? 私は問題解決者、そうよね? 私はエンジニアよ! 問題があるなら、私が解決しないと。

マローン博士: (…) 分かりました。では、その計画はあるのでしょうか?

ブーン: ステップ・ワン? このオフィスから出て行く。

マローン博士: (…) ステップ・ツーは?

ブーン: 財団から出て行く


報告: ヘンリエッタ・ブーンは人事部門に辞表を提出しました。

応答: グレード1の福利厚生手当の提供。更新後の賃金の15%のボーナス。

報告: ヘンリエッタ・ブーンはグレード1手当を拒絶しました。

応答: グレード2の福利厚生手当の提供。更新後の賃金の20%のボーナス。昇進。


報告: ヘンリエッタ・ブーンはグレード2手当を強く拒絶しました。

応答: 対象の生活改善の開始。サイト異動の全承認。有給休暇の付与。


ヘンリエッタ・ブーン SL-06: 財団への電子メール、2000/02/05


メッセージを受け取っていない人へ。

辞職することにしました。

ありがとうございました。
ヘンリエッタ・ブーン博士、収容セル工学セクター (元) 職員


報告: へンリエッタ・ブーンがサイト-96を出ました。

応答: 刺激プロトコル: "一時休暇"を適用。


ヘンリエッタ・ブーン SL-07: デニス・ホワイト宛ての電子メール、2000/02/05。



こんにちはデニス!

久しぶりだよね? ケンドラはどうしてる? 子供は元気? 洗礼式に行けなくてごめんなさい。仕事が忙しくて。UofAにいた頃が懐かしいと思わない? あの頃、少なくとも徹夜の後は、仕事じゃなくてビールやボードゲームを楽しんだわ。もう戻れないけどね。

本題だけど、実は、連絡した理由も仕事についてなの。勿論、長く会ってない寂しさもあるけどね。ただ、今少し困った状況で。久しぶりに新しい仕事を探しているんだけど、就職難なの。今、景気は最悪なんでしょうね。それで、貴方と貴方のコンサルティング会社のことを思い出したという訳。自慢じゃないけど、私は大きな戦力になれると思う。クラスのミス・トップクラスをチームに迎え入れるのはどう? なーんて、UofAでのことは忘れて。この数年で、私が身につけたエンジニアとしての技術を見れば、きっと驚くはず。勿論、仕事が貰えるなら、コーヒーを出す係でも何でもやる。プライドはないから。

正直なところ、これを言うのは貴方だけだけど、ちょっと心配になってきたの。こんなに長く仕事を探すことになるとは思っていなかったから。返事を待ってる。それかMSNのフレンド申請を受理してね。

ブーンより


報告: 刺激プロトコル: "一時休暇" — 成功。エンジニア求職119件、コンサルタント求職43件、一般業務求職31件、小売業求職24件、派遣社員求職5件が却下されました。

応答: 刺激プロトコル: "補填"を適用。


ヘンリエッタ・ブーン SL-08: ジョアンナ・ブーンからの電話メッセージ、2000/06/14。



ヘンリエッタ、ジョアンナよ。突然電話してごめん。ママから貴女の仕事のことを聞いたから、ごめんね。きっと立ち直れる。貴女はいつも賢い人だった。だから… 本当はこんなこと頼みたくない、だけど、トムと私は貴女の助けが必要なの。実は、うちの医療保障が打ち切られてね。会社は新しい経営陣? がどうだとか…保険業者を変えた? とか色々言ってる。もうすぐ元に戻るとは思ってる… けど、トムは事故の後まだ歩けてないの。お医者さんはもう脛は治っているって言っているのに。現場の連中は彼のせいだって言ってるけど、チェーンが緩んでたんじゃなくて、切れてたの。切れてたのよ、ヘンリエッタ! 彼の失業手当はもうすぐ無くなっちゃう。まだ住宅ローンもあるし、今年は子供を作ろうと思っていたのに! それに…

[2秒間の沈黙。続けて深呼吸する音。]

ああ、神様、ヘンリエッタ、ごめんなさい。このメッセージは1分くらいしか送れないのよね? よく聞いて、貴女は今、自分の問題で手一杯だし、お金のことで困ってるのも分かってる。ただ… 電話を頂戴、お願いね? 愛してるわ、貴女は大切ないも - ビープ音


報告: 刺激プロトコル: "補填" — 成功。対象はジョアンナ・ブーンに資産を贈与しました。対象の財政状況は悪化し続けています。雇用状態に変化はありませんが、不安・苦悩水準においては将来への希望を示しています。段階引き上げを推奨します。

応答: 刺激プロトコル: "破産"を適用。

ヘンリエッタ・ブーン SL-09: 財団緊急連絡窓口との通話記録、2002/11/14。


14秒間のチャープ音とビープ音。録音、盗聴、複製を防ぐ財団のディスラプション・ソフトウェアによる音。

オペレーター: こんにちは、ブーン様! ご用件は?

ブーン: ああ、ええ、調子はどう? 早速で悪いんだけど、私のクソったれ銀行口座が空になってるのは何故なのか教えて。

オペレーター: これは緊急用窓口です、ブーン様。急を要する事態のための-

ブーン: 私は暖房費が払えなくて、外は-10℃、立派な緊急事態よ! これがあんたたちの仕業だってのは分かってるの! 私が財団を辞めてから、ずっとクソみたいな嫌がらせが続いてたけど、今回のはあんまりよ! 私のお金を返せ!

オペレーター: 貴女のお金ではありませんよ、ブーン様。我々は給与をお支払いしていません。

ブーン: は?意味がわからないんだけど?

オペレーター: 財団は正式に法人化された組織ではありません。ブーン様、まずはそのことをご理解ください! 我々は身を粉にして働いてくださる従業員の皆様方に追跡可能な法定通貨で給料をお支払いするため、何層ものフロント企業を運営しております。そして、残念ながら、これは非常に高コストで繊細なプロセスです。もちろん、財団は貴女が別の職を探す間、 2年以上にわたって、貴女の法的に非正規な財産を喜んで有効化してきました-

ブーン: 何よそれ… 私のお金でしょ! 貴方たちのために働いて、私が稼いだのよ!

オペレーター: その通りでございます! 貴女は我々のために働きました。財団、何者もその存在を知りえない影の組織のためにです!

ブーン: そんな… 私の給料を取り上げるなんて! あり得ないわ、このクソ女!

オペレーター: ブーン様、先ほども申しましたように、それは実際には貴女のお金ではありません。ご存知の通り、正常性を維持し、ヴェールを守護するため、財団は完全に外部から孤立している必要がございます! 財団で働くと、"雇用条件付俸給"が支給されますが、これは実際にはお金を貸しているようなものでございまして-!

ブーン: 何なの? ふざけるな、もういいわ。財団からの給料なんてこっちから願い下げ。だから、他の仕事を探すのを邪魔しないで。私を前に進ませて。

オペレーター: おや! ブーン様、財団は元従業員の将来のキャリア志向を邪魔することはございません。新しい職を探すのに苦労されているようで、ご心労お察しします。今の経済状況は酷いものだと思います。

[4秒間の沈黙。]

オペレーター: もし財団に復帰されたいということであれば、ご用意できる素晴らしい職位がございまして-

[大きな破裂音。後にブーン氏が携帯を投げた音と判明。 ]

[歪んだ泣き声。]

[通話終了。]

報告: 刺激プロトコル: "破産" — 成功。段階引き上げのため、刺激プロトコル"消耗"、"塩土化"、"裏切り"、"全面的危機"を推奨します。

応答: 待機せよ。

ヘンリエッタ・ブーン SL-10: 観察 | ブルーメドー公園、2002/12/13。


ヘンリエッタ・ブーンが公園のベンチに座っている。強い吹雪のため、視界は限られている。ヘンリエッタ・ブーンは薄いジャケットしか着ていないため、大きく震えているのが観察される。ヘンリエッタ・ブーンは立ち上がろうともせず、雪を凌げる場所も探そうとしない。

無地のスーツだけを着た[記録抹消済]が東の道から現れ、ヘンリエッタ・ブーンの隣に座る。ヘンリエッタ・ブーンは混乱しながらも警戒して[記録抹消済]を見る。

[記録抹消済]: 中に戻った方がいいですよ。

ブーン: (…) 大丈夫よ、ありがとう。失礼するわ。

ヘンリエッタ・ブーンは立ち上がり、歩き去ろうとする。

[記録抹消済]: 座って下さいよ、ブーンさん。

ヘンリエッタ・ブーンの身体が固まる。彼女は[記録抹消済]に目を向け、直ぐに周囲の全方向を確認する。数秒後、彼女はゆっくりと席に戻る。[記録抹消済]は彼女にタバコを差し出す。

ブーン: (…) それで何? 私を殺しにでも来たってわけ?

[記録抹消済]はタバコを見つめ、笑い出す。[記録抹消済]はタバコに火を点け、吸い始める。

ブーン: 貴方は何者なの?

[記録抹消済]: ああ、まあそれはどうでもいいことです。私はメッセージを伝えに来ただけですので。

ブーン: (…) 私は戻らないから。

[記録抹消済]は肺一杯の煙を吐き出し、ベンチの背もたれに腕をかける。.

[記録抹消済]: さて、私が働く部署 - 名前はさして重要ではありません - そこには2種類の戦術書があります。白の書、それと黒の書。貴女は辞める時、白の戦術書を見事に破っていきました。全く、素晴らしい決断力でした! 多くの人は、もっと長い時間、じっくりと考えます。その時間はたっぷり与えられますからね。

ブーン: それで何? 拷問でもされるって?

[記録抹消済]はもう1本のタバコを吸いながら、頭を振る。

[記録抹消済]: ふむ、ふむ。いえ、違いますよ。まずはの戦術から。実際、それが私たちの仕事の9割を占めます。財団で働くことがなぜ世界で一番素晴らしい仕事なのかを思い出させるのです。増額される給与の半分も私たちの部門から出ています。なぜなら、「相応しい人にはその価値がある」からです。これは私たちのモットーでもあるのですよ。誰かが2週間の猶予を与えてくれたなら? それで13日後には、なぜ辞めようとしたのかさえ思い出せないほど、彼らの人生を豊かにできます。仕事だけじゃありません。経済的な不満、個人的な悩み、寝室の問題まで、あらゆる問題を解決するのです。

[記録抹消済]はタバコを見つめ、その先をベンチの板に押しつける。

[記録抹消済]: ですが、中には貴女のような人もいます。秘密の研究所で働き、世界を救い、他所の3倍の収入を得るという幸せを望まない人々です。その時、黒の戦術書が取り出されます。

ブーン: これがそうなの? 貴方が来たのは私を脅すため?

[記録抹消済]: いいえ。私は貴女を見てきたから来たのです、ブーンさん。貴女は賢い人のように見えます。これは新鮮なことです。もうお分かりでしょうが、私の仕事は大抵、科学者を相手にしています。彼らは賢い人々だと思うでしょうか — 実際そうですよ、科学的にはね。ですが人間としては、彼らは愚かです。本や研究室や奇妙な研究プロジェクトの中で一生を過ごし、常識や社会的な賢さを学ぶことはありません。さらに悪いことに、彼ら、科学者は移動する生き物なのです。一箇所に長くは留まれません。プロジェクトからプロジェクトへ、特許から特許へ、助成金から助成金へと移動します。猫の群れのようなものですね! ですが、財団を見渡してみてください。30年、40年、50年、職を続け、世界の安全のために働いている人たちがいるでしょう。それは、私のような人間が、野良猫になった彼らを呼び戻したからなのです。ですが貴女は、貴女のような現実的な女性は… 戦術書に背いてでも、直接話す価値があるかもしれないと思いました。

ブーン: (…) 私は戻らないから。

[記録抹消済]は膝についた雪を払いながら、溜息をつく。

[記録抹消済]: ブーンさん、私は貴女を脅すために来たのではありません。それを理解してほしいんです。黒の戦術書は、小説に例えるなら、まだ第3章と言ったところですかね。私たちは今まで貴女に対して非常に軽いタッチで接してきましたが…

ブーン: ああ、そう? そうなのね!? 私を飢えさせて、凍えさせて、私の家族の医療給付にまで手を出しておいて — 貴方たちは、それでまだ前戯だったって言うの!?

[記録抹消済]: (即答して) ええ。

2秒間の沈黙。

[記録抹消済]: ブーンさん、別の言い方をしましょうか。こんなに寒い日には、貴女の義兄さんのような脛の悪い人は、私道を雪かきしている間に滑ってしまうかもしれません。物忘れのひどいお母さんは、台所の換気をした後、窓を開けっ放しにして、ソファで昼寝をして、寒くて長い眠りについてしまうかもしれませんね。ですが、これらは一般的な危険性です。貴女は、この世界にどんな種類の怪物がいるのか、実際に見てきましたよね。昔の貴女は、奴らを閉じ込める仕事をしていました。貴女がいなければ… 怪物たちの中の1匹が、貴女の姪のベッドの下に住み着くことだってあるかもしれません。

3秒間の沈黙。

[記録抹消済]: おや… お姉さんからまだお聞きでなかったのですね。おめでとうござ-

ブーン: ふざけるな。このクソ野郎

[記録抹消済]は溜息をつき、立ち上がってスーツの皺を直す。

[記録抹消済]: お好きなだけどうぞ、ブーンさん。 電話のオペレーターに悪態をつくのもいいですし、貴女自身の生命を危険を晒すのもいいでしょう。我々のロゴを車にペイントして、財団のことを叫びながら運転しても構いません。ですが、何をしても何も変わりません。次の日にはそのことを覚えている人はいないでしょうし、貴女の車は綺麗に清掃されているでしょう。しかし、もしも貴女が現実的なことをお望みなのであれば…

[記録抹消済]は肩をすくめ、ポケットに手を入れて、東の小道へと歩き始める。

[記録抹消済]: 早く中に戻った方がいいですよ。外は寒くなる一方ですからね。

ヘンリエッタ・ブーンは[記録抹消済]を追うために立ち上がるが、彼は吹雪の中に姿を消す。タバコも、ベンチに付けられたはずの跡も消えている。

報告: 維持工作 — 成功。ヘンリエッタ・ブーンは財団に連絡し、以前の地位に再就任しました。

応答: 再発の恐れがないか監視を継続せよ。ボーナスを除くグレード1の福利厚生手当の提供。休止期間を最小限に抑え、危険な行動がないか注意深く観察せよ。対象の気をそらす必要がある。

大規模プロジェクトに参加させよ。


























ヘンリエッタ・ブーン SL-761: 観察、2022/03/01



ヘンリエッタ・ブーンをはじめとする6ダースもの技術者、研究者、熟練の技師が、特定の深宇宙異常脅威を検知するために設計された「アルゴノーツ超空間アレイ」の組み立てを完了する。ヘンリエッタ・ブーンを含む集団が、ニューメキシコ州の砂漠に建設された幅90mの受信アンテナの中に立っている。シャンパンが注がれる。

黒いバンが受信アンテナの横に止まり、身なりの良い人物と大きな人物2人が降りてくる。3人が近づくと、複数のスタッフがグラスを掲げる。

O5-10: 皆さん、私のことは気にしないで下さい!20年の歳月を経て遂に実った我々の成果物を見に来ただけなんですから!本当に、皆さんはこのことを誇りに思うべきです。

O5-10は近くにいた管理官からシャンパングラスを受け取る。O5-10はワインを掲げる。

O5-10: アルゴノーツに乾杯!

一同は礼儀正しく歓声をあげる。会話が再開し、O5-10は1人1人に面会して賛辞を述べ始める。ヘンリエッタ・ブーンの順番が訪れる。

O5-10: 貴女は本当に素晴らしい仕事を為しましたね、ブーン博士。

ブーン: ブーンさんで結構です、監督者殿。私の博士号は工学ですから。

O5-10: これは失礼しました。報告書でしかお名前を見たことがなかったもので。ほら、書類の記載は肩書きを重要視しますから。貴女は私に似ている。肩書きではなく、自分の仕事に誇りを持っている。それは、とても良いことです。

O5-10が手を差し出す。ヘンリエッタ・ブーンがそれを握り、2人は握手をする。

数秒経つが、ヘンリエッタ・ブーンは手を放さない。

O5-10: (…) すみません、他の方にもお祝いを言いに行かなければ-

ブーン: 私を解雇してください。Fire me.

2秒間の沈黙。

O5-10: 今何と?

ブーン: 私を解雇してください。もう財団で働きたくありません。私をクビにして欲しいんです。

O5-10: (…) ふむ、貴女は財団にとって必要な人材です、ブーンさん。もしどうしてもと言うなら、まずは人事担当者に連絡を…

O5-10は微笑み続けながら、その手を強く引き離そうとする。ヘンリエッタ・ブーンは放さない。

ブーン: いや、駄目なんです。監督者殿、私をクビにしてください。「もう辞めてもいい、十分やった」と、そう仰ってはいただけませんか。

O5-10: ブーンさん-

ブーン: 貴方は財団を運営している存在でしょう? 大物中の大物です。だから出来ますよね? 貴方はただ… 私を解雇して、それで全て終わり、そうですよね?

ヘンリエッタ・ブーンの手が震え始める。彼女はO5-10と目線を合わせることができず、代わりにその靴をじっと見つめる。

ブーン: お願いします。クビにしてください。

数秒後、ブーンは再び顔を上げる。O5-10は微笑みを止めないが、発話の際に声を落とす。

O5-10: 私にそれが出来ると、本当に思っているのですか?

O5-10は次の人のところへ歩いて行き、明るく挨拶をする。その間、ブーンはO5-10の手があった場所を見つめ続け、手を下ろせないでいる。

O5-10 (別の人物に対し): 本当に、素晴らしい仕事です。


報告: 標準的な20年間の監視期間が終了しました。ヘンリエッタ・ブーンは生産性と非閉塞性を維持しています。

応答: 良い結果だ。更に20年間、監視を継続せよ。


ヘンリエッタ・ブーン SL-762: 機密セラピーセッションのデジタル記録、2022/07/09


マローン博士: よく眠れていますか、ヘンリエッタ?

ブーン: 快調よ。ありがとう。

ヘンリエッタ・ブーン SL-763: 自宅ベッドルームの監視映像、2022/07/08


2:15AM - ヘンリエッタ・ブーンは寝室のドアに背を向けて座っている。

ヘンリエッタ・ブーン: (…) うるさいな。あんたたちの方が幸運じゃないの。

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