

SCP-6666
配属サイト | サイト管理官 | 研究責任者 | 担当機動部隊 |
パラゴン SAFOS | シャノン・ランカスター管理官 | オスモン・アイルズ博士 | ATF 𐤇-1 “ロンギヌスの槍” |
プロジェクト・パラゴン

プロジェクト・パラゴン
SCP-4840の発見後にO5-7の依頼で発足したプロジェクト・パラゴンの主たる目的は、“空中都市アウダパウパドポリス”由来の奇跡論事象によって、近年まで一般社会から秘匿されていた新興の異常活動を研究し、可能ならば封じ込めることにあります。SCP-4840-Aから得られた情報は、現時点で理解されている化石記録よりも遥か昔、大洪水以前のヒト及び他種族の社会の存在を明らかにしました。
プロジェクト・パラゴンと監督評議会の最大の関心は、太古の実体である4体の“魔” — ラハイア、ランスロット、ヘクトール、オジエ — と、3体の“冒涜者” (現在SCP-4812に指定) に向けられています。これらの7実体はいずれも、世界オカルト連合の機動部隊 オムニ-045が"EROS"実体を発掘するまで休眠状態を維持していました。このEROS実体は、不可思議で寂しい森と、数十万年前にダエーバイト文明と併存していた古代人間社会の双方に関連していると考えられています。

専門機動部隊 ヘート-1 "ロンギヌスの槍"
特別収容プロトコル: SCP-6666の収容はSCP-2254、SCP-4812、SCP-4840と同様に、プロジェクト・パラゴン及び専門機動部隊 ヘート-1 “ロンギヌスの槍”の特別監督下にあります。SCP-6666が終末論的影響を及ぼし得る可能性に鑑みて、SCP-6666がプロジェクト・パラゴン収容下の他実体と接触しないように特殊な予防措置を取る必要があります。
パラゴン・南アメリカ前線サイトSouth America Forward Operating Site (SAFOS) がSCP-6666に通じるシャフトの周囲に確立されています。如何なる状況であれ、無許可の職員がSAFOSに立ち入ることは認められず、SCP-6666の周辺1kmの立入禁止区域に侵入を試みる職員・団体に対しては致死的武力の行使が承認されています。
定期的に、焼灼チームがSCP-6666周囲の厳重立入禁止区域に入場し、焼夷兵器でSCP-6666根系構造の成長を鈍化させなければいけません。これらの焼灼チームに所属する職員は、15分間までならばSCP-6666の根系への接触継続を許可されます。SCP-6666を直接観察する職員は必ず航空ドローンか、観測塔アルファ、ブラボー、チャーリーのいずれかから行ってください。観測塔デルタは航空ドローンの発着にのみ使用されます。
収容覚書: 如何なる時も、職員がSCP-6666の1km以内に接近することは許可されません。SCP-6666-Aの観察は全て遠隔から実施されます。
パラゴン・SAFOS 主要連絡先:
ソフィア・ライト管理官 - 西部地域司令部管理官
ケイン・パトス・クロウ管理官 - 財団技術部門管理官
シャノン・ランカスター管理官 - プロジェクト・パラゴン管理官
コリン・マルサス管理官 - 大洪水前時代研究部門管理官
オスモン・アイルズ博士 - SCP-6666研究責任者
アレクサンドロ・フレイタス指揮官 - パラゴン・南アメリカ前線サイト参謀長
セシリア・エストレイ指揮官 - 専門機動部隊 ヘート-1 隊長

SCP-6666を調査するマークVII “ユリシーズ” ドローン。
説明: SCP-6666はアマゾン熱帯雨林の南緯4°51'29.4" 西経67°44'12.6"近隣に位置する巨大な植物型実体です。SCP-6666は樹木のように、太い幹と中心部から周囲に伸びる数千本のアーチ状の枝で構成されていますが、同じ生物学的構造を有する既知のどの植物種にも似通っていません。SCP-6666の幹は直径およそ380mで、全長は約9.2kmに及びます。SCP-6666は細胞レベルで生命活動の兆候を示しません。
大まかな現地の地図

SCP-6666岩石圏空洞の地図
SCP-6666はその著しく成長した根系によって、地球の地殻内にある広大な岩石圏空洞の天井に逆さまに固着しています。この空洞は最も広い所が52km、最も深いと思われる所 (“ターミナル・ゼロ”地点) が約43kmで、4億5000万年~5億6000万年前に自然形成されたようです。洞窟の壁が前述したSCP-6666の根でほぼ完全に覆われていることから、研究者たちは、過去のある時点までSCP-6666根系は地中に向かって伸びており、現在のように上下反転してはいなかったと仮定しています。
洞窟の底面は、SCP-6666側面にある亀裂状の開口部から流れ出す厚さ200mの有毒な濃霧に包まれています。この霧の成分は不明です — 霧を吸引した生物はほぼ即座に神経機能を喪失します1。当該物質の分光学的解析で決定的な結果は得られていません。
SCP-6666の最も古い時期に成長した根系が静止しており、SCP-6666それ自体も生物学的観点では不活性であるにも拘らず、新たな成長部位には活動性と敵意があります。地上に突出した根は近隣のあらゆる物体を — 人間、動物、機械などを問わず — 土を通して洞窟内に引きずり込もうとします。この活動は、被害者が身動きを完全に止めると一時的に緩和されます。この根系の一角に閉じ込められた職員は、速やかに横たわってできる限り動かないようにすれば、根の成長を押し戻す焼灼チームの到着まで生存できる場合があります。しかしながら、根の成長率が急速であるため、焼灼チームの到着が遅れた場合、根系の攻撃を避けようとした被害者が周囲で成長する根の塊に呑み込まれ、窒息死する可能性は残されています。
SCP-6666には、その反転した基部から約7.5km離れた位置にある、巨大な円筒形の石造シャフトからアクセスできます。シャフトの側面には階段が設置されていますが、洞窟の天井から少し突き出した所で、本来はもっと下へ続いていたかのような途切れ方をしています2。洞窟の底のレーダースキャンは、高く、太く、暗い色合いの樹木から成る広大な森林が底面の大半を覆っていることを示します。毒性の霧で部分的に包まれた広い古代遺跡のネットワークが、森の東端を囲み、洞窟の壁の一角を這い上がるように構成されています。

SCP-6666-Aは、SCP-6666側面の亀裂から一部だけ突出した、漠然とヒト型の実体です。身長は約23mと推定されており3、6本の腕と、縦一列で3個ずつ両側に並ぶ合計6個の目を有します。SCP-6666-Aの皮膚には無数の傷痕や火傷があるように見えます。6本腕のうち1本は、他の5本よりも目立って大きく、少なくとも一部が長さ約18mの巨大な鉄槍と手首部分で融合しています。この槍はSCP-6666の側面を突き刺し、こじ開けるための梃子として使われているようです。
SCP-6666-Aには耳・鼻・口がありませんが、現時点で未知の言語を用いた発声が可能です4。SCP-6666-Aは刺激に反応しますが、絶えず苦痛を受けていると思しき自らの現状から気を逸らす様子を滅多に見せません。SCP-6666-Aは局所的な肉体再生能力を有するらしく、SCP-6666の開口部に曝露した結果の表面的な身体崩壊と自己再生の間で常に揺れ動いています。SCP-6666-Aは財団が加える刺激にも反応するものの、現在まで財団職員やドローンとの意思疎通を試みていません。SCP-6666-Aがそもそも財団側の意思疎通試行に気付いているかは不明です。
太古の魔

古代の戦士の描写5。
俗に“太古の魔”と呼ばれる4実体 (SCP-2254、SCP-4840-B、SCP-6666-A) は、SCP-4840-Aによると、有史以前に栄えた人間社会の王に仕えていた戦士たちが、奇跡論的な手段で財団が現在知る漠然としたヒト型の姿に変えられたものです。各戦士は奇跡論能力を有する有史以前の別な実体から呪いを掛けられ、表向きは人類全体に何らかの荒廃をもたらすような任務の遂行を強要されました。
これらの“魔”はかつて仕えていた王国の滅亡後も長期間活動していたと考えられますが、最終的にはSCP-4840-Aの影響を受け、数十万年にわたって、他幾つもの古代の場所・存在と共に一般社会の認識から秘匿されていたようです。この努力の重圧からSCP-4840-Aは著しく弱体化し、古代の実体の多くは再び知覚されるようになりました。
4体のうち、最初に発見されたのはSCP-2254 (“魔性のラハイア”) でしたが、発見当時は他の如何なる異常実体との関連性も知られていませんでした。
SCP-6666-Aは、SCP-4840-Aへのインタビューで得られた情報によると、ヒト近似知性体群の滅亡した古代文明を起源とする太古の4実体の1体、“魔性のヘクトール”です。SCP-4840-B6、SCP-22547、まだ発見されていない第4の実体8と同様に、SCP-6666-Aは数百万年、或いはそれ以上にわたって生きている可能性があります。SCP-6666-AとSCP-6666はどちらも、既知のあらゆる人類文明に — そして恐らく、地球そのものの大部分の存在に — 先立つものです。
補遺 6666.1: 発見
SCP-6666に関する有史以前の記録はごく僅かです。幾つかのソースから得られた情報によると、SCP-6666アクセスポイントの中や周囲には多数の人間が居住していたようですが、特定の民族集団をSCP-6666周辺領域に関連付けるような遺物はほとんど残されていません。これらの民族集団に関する財団の現時点での理解を詳述するため、プロジェクト・パラゴン上層部に提出した提言書において、上席研究員のオスモン・アイルズ博士は調査チームの発見を以下のように述べています。
“ニガヨモギ”の通称で知られるアノマリー、 SCP-4008の存在は、私たちが知っている歴史の全てに疑念を投げかけています。有史以前のSCP-1000文明が開発した兵器であるニガヨモギは民族を、その都市を、歴史を丸ごと呑み込み — 事実上、歴史上の記録から文明を抹消することが可能でした。SCP-4008の研究は幾度も1つの起源を指し示しました — 土に埋もれた痕跡さえも発見できない、歴史のブラックホールです。
アマゾンは住民たちの記録を大切に守るような環境ではありません。土と湿気によって石も骨も風化してしまう。しかし、ある一角において、私たちは全く何も発見できませんでした — 人類文明の跡も、人間が住んだ記録も無い、虚無そのものです。そしてこのブラックホールにこそニガヨモギが育つ根源がある、私たちはそう確信を抱きました。
パラゴンに先立つ取り組みのアトラスは、40年前にアマゾン熱帯雨林のマッピングを開始し、私たちの知識が及ぶギリギリの地点から螺旋状に奥へと切り込んでいきました。樹下の暗闇に隠れていたのは、私たちを抗し難い力で引き寄せる真空でした。人間の痕跡の欠如が1m見つかるごとに、それは開かれたドアへと向かうパン屑になりました。最終的に私たちはそれを発見しました — 人類史の真ん中に空いた暗い穴を。
かつて私たちは、一体どんな樹がニガヨモギの実を付けるのかと首を捻っていましたが、今ならば分かります — 枯れ木です。
SCP-6666の公式収容は、既に廃止されたオペレーション・アトラス、SCP-4840、SCP-4840-Aから得た情報を基に、SCP-6666が存在する地下空洞に通じるシャフトが発見された後、プロジェクト・パラゴン発足と共に始まりました。
補遺 6666.2: パラゴン指導層会議 書き起こし I
以下は、プロジェクト・パラゴン管理官 シャノン・ランカスター、大洪水前時代研究部門管理官 コリン・マルサス、SAFOS参謀長 アレサンドロ・フレイタスが2019年4月23日に開催した会議記録からの抜粋です。
内部音声記録転写
出席者:
- プロジェクト・パラゴン管理官 シャノン・ランカスター
- 大洪水前時代研究部門管理官 コリン・マルサス
- SAFOS参謀長 アレサンドロ・フレイタス

プロジェクト・パラゴン管理官 シャノン・ランカスター
ランカスター管理官: まず初めに、境界線問題の指揮を取ってくださったことにお礼を言わせてください。また同じ事をしなければならない時は、私のオフィスに連絡を入れるには及びません。
フレイタス: 止むを得ない状況でした。根の成長を撃退するのは次第に困難になっています。昼も夜もシフトを切り回して対応しています — 辛うじて。
ランカスター管理官: 境界線を再び動かす必要性が出るまで、どれだけ持つでしょうか?
フレイタス: 大体… 2週間?
ランカスター管理官: マズいですね。アクセス代替案はどうなってます?
フレイタス: ひとまず保留です。試験地点はどれもこれもあっという間に行き詰まりました。下では根が網のように張り巡らされていて、手ごわいんです。石で出来ていると言われたら信じてしまいそうだ。
ランカスター管理官: 了解です。クロウのチームが現地に到着したら再度見直しましょう。待たせてすみませんね、コリン。
マルサス管理官: 構わない。
ランカスター管理官: 報告書は読ませていただきました。どう思います?
マルサス管理官: 全般的にかね? あの穴の下にある物は何もかも古い。数十万年か、事によると数百万年前の環境だ。ドローンを送り込んでまだ間もないが、今のところマッピングは非常に捗っている。
ランカスター管理官: 洞窟の底はどうなっていますか? 霧の下は?
マルサス管理官: 何とも言えんな。これまで得られた情報は、外周部にある建造物群の、断片的で画質の悪いレーダー反響像だけだ。それだけで詳しい情報は掴めないが、興味深い点もあるにはある — 建造物はどれも南米のものじゃない。
ランカスター管理官: どういう意味です?
マルサス管理官: 我々は本来ここで失われた文明を探してたのを覚えてるかね? 最初に穴に降りた時、我々はまず霧の奥からそれが見つかるはずだと考えた。ところが実際に見てみれば、過去1万年間にヒトの手で建造されたどんな建物とも一致しないのが遠隔からでさえ分かる。正体が何であれ、我々が今理解している人類より前の文明だよ。森の中に関しては、君と同様、私にもさっぱり分からん。
ランカスター管理官: ではそこから始めましょう。次は何を目指すべきだと思います?
マルサス管理官: もっと情報を集める必要がある。展望台を作って日がな一日あれを眺めたって、答えが出て来るはずもない。地下で起きている事象を探り出すには、より多くのリソースが不可欠だ。
ランカスター管理官: では何処から手を付けますか?
マルサス管理官: SCP-1000ファイルが最適だろう。SCP-2932について聞いたことはあるか?
ランカスター管理官: 近隣にありますからね。何故そんな事を?
マルサス管理官: 多分アレサンドロの方が詳しく説明できる — SAFOSはしばらく前にあそこでかなりの情報を収集したはずだ。掻い摘んで言うと、SCP-1000、夜闇の子ら、もしくはビッグフットと呼ばれる実体が存在して、SCP-2932を牢獄として使っていたらしい。私にはそこでどんな奴らが幽閉されているかを知るクリアランスは無いが、そこを稼働させ続ける魔法の核が巨大な赤い宝石なのは知っている。あそこで暮らす怪人によれば、それはティターニアなる女神の心臓で、夜闇の子らを安全に保つために与えられたとの話だ。しかし — これは研究者として教え込まれてきた全てに反しているだろうが — 私はシェイクスピアを十分読んできたから、ティターニアがビッグフットの女神ではないと知っている。あれは妖精の女神だ。
ランカスター管理官: 確かにそうですね。では、樹はどうです? あれについて何か分かりましたか?
マルサス管理官: 枯れているね。見たところ、枯死してから随分経つようだ。細胞レベルでさえ、あらゆる観点で死んでいるように見える。我らがヘート-1の友人たちも、根に絡め捕られて地中に引きずり込まれた犠牲者たちも、そう聞いたらきっと驚くだろう。サンプルを採取したどの部位でも生物学的な活動は発生していないが、例の煙は間違いなく何処かから湧き出しているはずだし、根は未だに動いている。つまり全く理解できない。
ランカスター管理官: 煙について詳しく教えてください。
フレイタス: ああ、失礼ですが、あれは煙のように見えても実際にはそうじゃないんです。非常に微細な花粉と言う方がまだ近い。我々がこうまで手こずっているのは、あれが極めて強力な神経毒だからですよ。ほんの少量でも身体に付着したり、体内に入ったりすれば — 全身の神経系が数秒で停止します。影響者を長期的な中枢神経抑制から回復させる手段はありません。気密服があれば隊員を霧の内部に派遣できるかもしれませんが、直ちに処置を施さない限り、ごく僅かな曝露でも命取りです。あれが探索用スーツのポリシェルをすり抜けるかどうか、まだ素材試験が続いています。
ランカスター管理官: ですが、洞窟の地面を探索するのは可能だと思っているのですね?
フレイタス: 現在、兵站の調整中です。マルサス管理官は、我々があの霧を抜ける時まで全体像は把握できないだろうと強く主張しています。
ランカスター管理官: 分かりました。それまではどうしましょうか? 何かしらの行動を起こすことは可能ですか?
フレイタス: 私が今取り組んでいます。すぐ近場のマッピングが完了すれば、何かしら考えも浮かぶでしょう。あの根っこは遥か昔からここいら一帯の物を地中に引き込んでいる。きっと手掛かりが見つかるはずです。
ランカスター管理官: では、私にも情報共有をお願いしますね。マルサス管理官、私ならあなたにご希望のクリアランスを付与するよう申請できます。他に要る物は?
マルサス管理官: Eshuチームに所属する者を連れてくる必要がある。
ランカスター管理官: コリン、それは無理だと分かっているでしょう。
マルサス管理官: 君は無理だと考えているらしいが、他にどうしようもない、管理官。私が考え出せるアイデアには限界がある — こいつは何一つ歴史として書き残されていない。ヨーロッパじゃ何でもかんでも思い付きを書き留める文化があったから幸運だったが、アマゾンでは事情が違う。実際の体験談を得るのが一番だ。土着実体の誰かと話して、できる限りのことを聞き出さなければいけない。土埃と当て推量しかない今現在の私たちより、ここで何が起きたかを詳しく知っているはずだ。もし私に権限さえあれば、今頃には10人以上の妖精にインタビューしていただろうが、それを実現するリソースが無い。
ランカスター管理官: (溜め息) 結構。努力してみますよ。他には?
マルサス管理官: カインと話す必要がある。
ランカスター管理官: ご冗談を。
フレイタス: カイン?
マルサス管理官: 冗談じゃないとも。アベルは大してお喋りじゃないし、セスは岩の上に過去数百万年座りっぱなしだ。人類が歴史を書き残そうと決める前の事件を直接経験した奴が求められている、そして当時存命かつ写真記憶の持ち主と言えば、財団には1人しか心当たりが無いんだよ。
(沈黙。)
ランカスター管理官: 分かりました。そちらもどうにかしましょう。これで全部ですか?
フレイタス: 多分お伝えすべき事がもう1つだけ。近頃、観測基地に駐在したエージェントたちが、軽い精神の不調を抱えて戻ってくるようになりました。全般的な不安、胸騒ぎ。睡眠障害を起こした者も若干名います。先日はリース博士がスタッフの転換率を知りたがっていました。恐らく次回の職員派遣日時を早めるべきでしょう。
ランカスター管理官: そうしましょう。クロウ管理官は来週到着します。それまでしっかり状況を把握しておくように。
マルサス管理官: いいだろう。クロウ管理官が来る頃までにしっかり準備しておくよ。
フレイタス: 職員の問題も我々が対処します、ランカスター管理官。
ランカスター管理官: ありがとう。お二人とも随時連絡をお願いします。
補遺 6666.3: Eshu実体インタビュー
通達: 本インタビューの特定の要素はプロトコル4000-ESHUに従って編集または改変されている場合があります。
以下は古き森林で名誉と羽毛ありし代表者 に対して行われたインタビューです。インタビューは朴 大聲パク・デソン博士によって、命令O5-4000-F26が規定する年1回の観測任務中に実施されました。
朴博士: お話の時間を割いていただき、ありがとうございます。お手間は取らせません。

土着ヒト型実体。
"なぁに、良いって事さ。俺にとっちゃ何の問題も無い。道からこれだけ離れてると、旅人なんて滅多に訪ねてこないんだ。嬉しい驚きだよ。茶でも淹れるか? タバコはやるか? ここいらじゃあまり手に入らないんだが、こういう機会のために少しばかり貯め込んでいるんでね。"
朴博士: いえ、遠慮させていただきます。残念ですが今日は仕事の都合がありまして。
"そうかい、お好きにどうぞ。俺の取り分が増えるからな! さて、どんな話が聞きたいって?"
朴博士: 少し前に、私たちのエージェントが、南方の広大な森林の奥深くで奇妙な構造物を発見しました。放棄されて久しいようでしたが、私たちはある種の監獄だったと考えています。残されていた幾つかの印は、こちらで我々が目にするものとよく似ていました。ご存知ですか?
鳥めいたインタビュー対象者は緊張した様子で居住まいを正す。
"おぅ。ああ、まぁね。いつも話には聞いてたよ。自分で見たことはないが、話だけは聞いた。悪臭のする黒い石で築かれた高い壁。絶叫。でも今頃はほとんど瓦礫になってるだろう。かなり経つからな。"
朴博士: 夜闇の子らとは何者なのでしょう?
有翼協力者が目を見開き、突然立ち上がって近くの窓に歩み寄り、日除けを降ろす。
朴博士: 不適切な話題であったならば、申し訳ありません。
"いや、いい… あんたは何も悪くない。ただ本当に、少なくとも愉快な集まりで話すようなことじゃあないってだけさ。"
朴博士: 彼らは何者なのでしょうか?
"そう… 最初はな、あんたや俺と同じだったよ。夜闇の子供たちも、俺たちと同じだった。あいつらも俺たちのように森で目覚めたが、樹上でじゃない。樹々の上に居た俺たちには星が見えたけれど、その下で暮らす夜闇の子供たちはほとんど完全な暗闇で生きていた。俺たちは… いや、あいつらは樹下に留まっていた。その方が好みなんだろうと、俺たちはそう思っていた。"
朴博士: 彼らは何処からやって来たのですか?
"よ- よく分からない。随分と前の話だ、多分ここにはもっと詳しく知ってる奴もいるだろう。俺は関わらないようにしてた。大昔の俺は、海岸沿いの由緒ある白い街で店を開いてた。夜闇の子供たちは、南の暗い森の中だ。でも噂話は聞こえてきた。"
朴博士: 彼らは監獄にとある遺物を吊り下げていました。牢番はそれを“ティターニアの心臓”と呼びます。何かご存知-
穏やかな飛べない友は軽く息を呑み、ポケットに手を入れてロケットを取り出し、少しの間それを見つめている。
朴博士: この“ティターニア”について教えてはいただけませんか?
"俺たちは彼女をイアIýaと呼んだ… 嗚呼。星々の中に眠る者。暗い夜には彼女の息遣いが世界中で聞こえると語られていた。彼女は星明りの女神、地上を歩んだ何物にも増して素晴らしい女神だった。"
嘴付きの仲間はロケットを片付ける。
"俺たちはティターニアを誰よりも、地母神ガイアよりも愛していた。とても美しいお方だった。
朴博士: この監獄に住む実体はカスパンと名乗っています。この実体について何かご存知でしょうか?
身震い。
"ああ。夢紡ぎカスパン、ってのが昔の呼び名だ。カスパンはかつて芸術家だった。夢の中で物語を語り、夢に生命を吹き込むことができたんだ。捕まった時、カスパンは命と名前だけは勘弁してくれと懇願した、そしてナイトストーカーどもは… どちらも見逃した。"
朴博士: ナイトストーカー? 夜闇の子のことでしょうか? 何故彼らはカスパンを捕まえたのですか?
"あいつら… 夜闇の子供たちは好奇心旺盛な生き物だった。高く聳える樹々の下、真っ暗闇の中に広い円陣を組んで座って、一斉に身体を揺すりながら悲しげな歌を口ずさむ。俺たちは — 傲慢、だったんだろうな — あいつらを見たいようにしか見なかった。天蓋の下の暗闇でこそこそとゴミ拾いばかりしている、惨めな地面住まいの民。奴らが植物に陰気臭い歌を聞かせる時、草木が歌に向かって身をよじるのを、俺たちは見ようとしなかった。樹々の枝にぶら下がる死体を見たくなかったから、見ないふりをした。最初に旅人たちが、次に俺たちの仲間が姿を消し始めた。俺たちは長い間、夜闇の子供たちを無視してきた。注意を払い始めた時には、奴らはもう… 腐っていた。"
朴博士: そして、カスパンは?
"怖かったんだろうよ。あいつらはカスパンを見つけ出し、暗闇に引きずりおろして、色々と… 恐ろしい物事を自分たちに教えさせた。夜闇の子供たちは好奇心旺盛だった、そして次第にその好奇心は - いや、すまない。"
朴博士: 大丈夫です。無理にお話をせがむつもりはありません。
"き、気にしないでくれ。ここであの話をする奴はもう誰もいないし、時間と共に多くが忘れられていく。"
沈黙。
"あいつらの好奇心も、初めのうちは俺たちと変わらなかった。でも、俺たちが空の星々を見て感嘆してる間、夜闇の子供たちを慰めるものは闇だけだった。時が経つにつれて、あいつらの好奇心は残忍なものへと変化した。実はな、あいつらは俺やあんたのように夢を見ることはできなかったんだ。でも夢を見たかったから、夢紡ぎカスパンを暗闇に連れて行って、無理やりその方法を教えさせた。だけど無理な相談だった、分かってくれ、あいつらと俺たちは違うんだ… だから、カスパンが夜闇の子供たちに教えたのは… 暗闇でカスパンが何を見たか、あいつらが奇妙な歌を歌っている間にどんな恐怖を知ったか… 俺には想像もつかない。その後、俺たちを裏切れと頼まれたカスパンは一も二もなく従った。"
朴博士: 裏切りとは?
"夜闇の子供たちは願い事をしたかった。カスパンはあいつらをティターニアの下まで案内して、願掛けをさせた。"
沈黙。
"話によれば… ナイトストーカーたちは、長い一列縦隊で、のろのろと静かに暗い森の中を抜けてやって来たそうだ。あいつらは、俺たちの尊いティターニアを、そこに居るはずと伝えられたまさにその場所で見つけ出し、カスパンの手を借りて… 願った。"
沈黙。
朴博士: その、願いとは?
[機密データ削除済。詳細は補遺 6666.13を参照のこと]
朴博士: 宜しければ、これで終わりに致しましょう。
"そ- それが一番だな。すまなかった、ただ… 申し訳が立たないんだ。"
沈黙。
"おお、イア、俺たちは貴女に何という事をしてしまったのでしょう。"
インタビュー終了。
補遺 6666.4: SCP-073インタビュー
以下はSCP-073へのインタビューです。インタビューはSCP財団西部地域管理官 ソフィア・ライト管理官によって実施されました。
SCP-073: ライト管理官、これは驚きましたね。私のようなクラス3如きに割く時間などもう無いとばかり思っていました。

SCP-073ファイル用の資料写真。
ライト管理官: 生意気言うじゃない、カイン、でもソフィアと呼んでちょうだい。ライト管理官は私の父親よ。
SCP-073: いいでしょう、ソフィア。私たち2人が顔を合わせることは滅多に無い。用件は何でしょう?
ライト管理官: プロジェクト・パラゴンを知ってる?
SCP-073: ああ、教えていただいた事だけです - つまりこの場合、ほとんど知らないと言うべきですね。皆さん非常に口が固くていらっしゃる。あなたたちは私に数多くの秘密を預けましたが、それでも尚、隠し持つことを選んだものがあるようです。
ライト管理官: まぁね、何事もそういうものよ。ともかく、私たちはここ数年間、幾つかの激甚化し始めた異常活動を追跡調査しているの。それについての疑問に、あなたなら幾つか答えられるんじゃないかと期待しているわ。
SCP-073: ふーむ… あの、ふと思ったのですが — 日常的に数多くの“異常活動”に対処し続けていると、しばらくすればそれは… ごく普通の活動のように感じてはきませんか?
ライト管理官: あなたにはピンと来ないでしょうね。
SCP-073: かもしれません。ご質問にはできる限り答えるよう努めますが、わざわざ私を訪ねなければ解けないとなると、どんな事を聞かれるかという不安はあります。
ライト管理官: 夜闇の子たちについて知っていることを聞かせてほしいの。
沈黙。
SCP-073: 夜闇の… 子。もう随分と長い間、その名を耳にしていませんでした。 (合間) それは古い秘密です、ソフィア。どういう成り行きでそれを知りましたか?
ライト管理官: かなり前から、ごく少数の生き残りを機密扱いにしているわ。アメリカで目撃された個体の短い動画がアマチュアの未確認動物学者たちを虜にしてる。財団は文書記録を残しているけれど、彼ら自身は現在まで捕獲を逃れ続けているの。動機や出自は私たちにとって謎のまま — まるで彼らの歴史全体が、何かに呑み込まれて消えてしまったようにね。
SCP-073: ええ… ええ、恐らくそれが肝心な点でしょう。
ライト管理官: 続けてちょうだい。
SCP-073: 何からお話ししましょうか? 夜闇の子ら — まず明確にしておきますが、私自身は一度も彼らと遭遇していません。彼らは大昔に一度だけ、私の側の世界にやって来たのですが、私は… 当時所用で忙しかったのですよ。夜闇の子らは、仕えている主たちの要望で、とある忌まわしい罪を犯した人物を探しに来ました。実を言えば、最初の罪です。
ライト管理官: それは“アセム”と呼ばれる実体と関係がある?
SCP-073: ライト管理官。 あなたは口に出す以上の事情を知っておられるはずだ。
ライト管理官: いつもそうよ。続けて。
SCP-073: はい。アダム・エル・アセムは… 私の父でした。母はリリスです。アセムは最初の人間ですから、厳密には私たちは全員彼の子供なのですが、私と弟たちがまず初めに生まれました。長男の私、次男のアベル、そして末弟の… (合間) 失礼しました、何せ昔の事ですから。そう、アセムが犯した罪の話でしたね — 彼は手を伸ばすべきでない場所からある物を奪い、それに対して夜闇の子らはアセムを裁くために海を渡りました。
ライト管理官: 彼の身には何が起きたの?
SCP-073: 私には明言できません。アセムが空から引き下ろした星を鉄冠に載せた後… 私の家族は最早同じものではありませんでした。私は追放され、アベルは殺され、末弟は失踪しました。王国は放棄されてアセム1人だけのものとなり、夜闇の子らがアセムを捕えに来て、去った時にはもうアセムはいなかった、私はそれしか聞いていません。
ライト管理官: どうして彼らは“夜闇の子ら”と呼ばれているの?
SCP-073: 私たちとは対照的だから、だと思います。私たち — 全体としての人類は、私の父という輝かしい太陽の下に生まれました。あの頃の人類は違っていました — その荘厳な光の中でなお輝き続ける、燦爛たる存在でした。そこを追われてからは、少しだけ、劣ってしまいましたが- (身振りで自らの身体を指す) 今でも当時の姿のままです。たとえ — 私たち全員が — かつてと同じような長寿を享受できないにしてもね。ですから、私たちは太陽の子だったのです。
空中都市アウダパウパドポリス

SCP-4840の古代遺跡。
アウダパウパドポリス (SCP-4840) は、SCP-4840-Aが提供した情報では、人類が地球上に建設した最初の都市とされています。構造物の炭素年代測定結果は決定的ではありませんが、得られている証拠は、この都市が実際に既知のあらゆる人類文明 — そして恐らく、既知の地質学的な歴史の大半 — よりも以前から存在することを示唆します。
SCP-4840-Aによると、アウダパウパドポリスの階級構造は、“アセム”ないし“アダム・エル・アセム”という名の、絶対的権威を有する1体の男性ヒト型実体を中心に構成されていたようです。証明されてこそいないものの、各所でその実在が示唆されるこの人物は、同時代の文書で“最初の男”、“最初の人間”、または“最初の人類の王”と述べられており、アブラハムの宗教において言及される同種のヒト祖先の描写にも影響を及ぼしたと信じられています。アダム・エル・アセムに何が起こったかは不明ですが、SCP-4840はこの人物の失踪後間もなく荒廃し始めたと考えられます。アダム・エル・アセムがいつ頃失踪したかは明らかになっていません。
SCP-4840-AとSCP-073は共にアダム・エル・アセムとの親族関係を認めています。SCP-076はこの人物についての知識を一切認めていません。これらの3実体はいずれもアダム・エル・アセムについてこれ以上の情報を明かす意思や能力を示していません。
ライト管理官: アウダパウパドポリスでは誰もが太陽の子だったの?
沈黙。
SCP-073: 今、何と?
ライト管理官: アウダパウパドポリス。知ってるわよね?
SCP-073: あの都… その名を聞かされたら私が驚くだろうと分かっていましたね — 実際その通りですよ — しかし…
合間。
SCP-073: いいえ、私たちのような者ばかりではありませんでした。あの都には私より遥かに偉大で恐るべき存在もまた居ましたが、私の父よりも偉大で堂々たる者はいませんでした。都は父に護られ、私たちの民やそこにある秘密は安全に保たれていたのです。父が消えた時、都は衰退し、秘密は暴かれ易くなりました。秘密を守る手段、隠されたままにする策を見つけようと熱心に取り組み続けた人々もいますが、もしそれが再び露わになったならば… ええ。あなたが私を訪ねてきた理由がようやく分かりました。
ライト管理官: いまいちよく分からないわね。
SCP-073: 1つ理解していただきたい。夜闇の子らはあなたとも、私とも、海の向こうの妖精たちとも違うのです。
ライト管理官: どういう意味?
SCP-073: 私の知識はあくまでも伝聞です — 先程申し上げた通り、一連の事件の大方を通して私は不在でした。言い伝えによると、生まれたばかりの夜闇の子らは皆、子供のような好奇心を持ち合わせていたそうです。そして、主たちの星明りで十分に関心を満たせなくなった時、彼らはより暗い性質の神々に祈るようになりました。それらの神々は、夜闇の子らの欲求を成就させる力と引き換えに肉を捧げよ、その肉を人類史から調達せよと求めました。夜闇の子らが文明に群がって大地に引き込むと、その文明のあらゆる記録は存在しなくなる — それこそが彼らの債となる。
ライト管理官: さっきも同じ言葉が出たわ。夜闇の子らの主たちって何者?
SCP-073: ああ… 妖精たちが夜闇の子らを作ったのです。と言うよりもむしろ、彼らの誕生を願った — 私はそう聞いていますよ。星明りと願いの女神ティターニアを崇拝していた妖精たちは、私の父が… (合間) 父は… 確かに美麗であり雄大でした。しかし、ある1人の幼子の何気ない頼み事が、父の心に羨望の種を蒔き、彼の光はただ一つの欲望に向けられ、それが世界最初の罪となった。それは妖精たちにとって大いに冒涜的な罪だったので、行動を起こす以外の選択肢は無かったのです。
ライト管理官: つまり、妖精たちはあなたの父親を殺すために夜闇の子らをこの世に生み出した?
SCP-073: 恐らく、或いは自己防衛のためか。私の父の光が東方に昇るのを見て、星辰の子らはティターニアに救いを求めて祈りました。彼らが何を願ったか、どんな代償を支払ったかは分かりませんが、程無くして、旅人たちは遥か彼方の海の向こう、暗い森林を越えたすぐ先で身を寄せ合う背の高い生き物たちの物語をするようになりました。やがて、彼らは人間の世界を訪れましたが — その時には既に自らの主たちにも牙を剝いていました。夜闇の子らは滅ぼす者です。再びこの世界に台頭すれば、私たちを地の底に引きずり下ろす日まで休むことはないでしょう。簡単に戦車や銃で殺せる種族ではない — 彼らは天与の例外なのです。
ライト管理官: 彼らには何が起こったの?
SCP-073: 花の日について聞いたことは? ご存じないかもしれませんね。当時、私は人間の治める土地から遠く離れていましたが、この星の全ての花々が一斉に咲き誇り、雨が降り始めました。何年も経ってから洪水が引いた後には、ほとんど何も残っておらず — 夜闇の子らは消えていました。
ライト管理官: 色々とあり過ぎて大変だけど、貴重な情報だわ。ありがとう。
SCP-073: もっとお話しできる事があれば良かったのですが — 悲しいかな、人類の古代史を大概留守にしていたのが、今の私にとっては明らかに不利です。
ライト管理官: 成程ね。 (合間) あなたは何歳なの、カイン?
SCP-073: ハ。ソフィア、正直に言うと、私も分かりません。時間の感覚を見失ってから長い時が流れました。年月はただ過ぎ去り、どんな人生も広がりゆくばかりの記憶の大洋の中では一滴の雫です。これまで私は数えきれないほどの異なる生活を送ってきました — 異なる名前を使い、異なる場所でね。年齢など覚えていませんよ。
ライト管理官: 永遠に生き続けるの?
SCP-073: 私の長命は父の祝福として今まで続いてきましたが、永遠ではないでしょう。私もまた暗黒へと静かに吞まれてしまう前に、例えば夜闇の子らのような、私たちの犯した過ちを正したい。それが私の何よりの望みです。
ライト管理官: そう。もし他に何か考え付いたら、その時は私に-
SCP-073: お待ちを。
ライト管理官: 何?
SCP-073: その… いいでしょう。見込みは薄いかもしれませんが、事情を訊ける人物がまだいるかもしれません。
ライト管理官: 誰?
SCP-073: 古ダエーバイト文明のマリドラウグ家に、1人の年老いた魔術師が仕えていました。もし皆さんがアウダパウパドポリスを発見したならば、間違いなく、定命の人間たちが築いた古王国の真実を幾つも明らかにしたでしょう。
ライト管理官: その通りよ。
SCP-073: 何よりです。メトシェラという名前の魔術師でした。死の床に臥したダエーワの女王から、血の魔術で寿命を引き延ばす術を学んだ男です。彼はそれ以来、歴史のあちらこちらに顔を出しています — 権力の座、或いはそのすぐ傍に。その当時の真の秘密が論じられていたアポリオン家でメトシェラが歓迎されたかは分かりませんが、彼がアポリオン家に自分を売り込もうとしていたのを疑う余地は全く無いと思いますね。彼は… 誇大妄想の気がありますが、本物の魔法を使いこなす力量は確かです。
ライト管理官: そいつが今何処に居るか心当たりは?
SCP-073: はっきりとは言えません… 今頃はかなり高齢のはずです。間違いなく数十万歳には達しているでしょう。それが彼の精神にどう影響するかは分かりませんが… まだ生きてはいるはずです。彼ならば夜闇の子らをもっと詳しく知っているでしょう。
ライト管理官: 成程。 (合間) カイン。あなたには映像記憶があるわね?
SCP-073: はい。
ライト管理官: そのメトシェラって男の面を見たらすぐ分かると思う?
SCP-073: 無論です。
ライト管理官は携帯端末を取り出す。数秒後、彼女はその画面をSCP-073に向ける。
ライト管理官: こいつかしら?
SCP-073: そうです。何処でこの写真を入手しました?
ライト管理官: 信じてもらえるか疑わしいけど、このサイトの別棟に居るわ。
SCP-073: (笑う) 思いがけない幸運じゃないですか、ソフィア。ええ、私があなたなら、この男と話しに行くでしょう。私ほど長生きしてはいませんけれど、私が見聞きしなかった事件と同時代の人物です。彼の見識はきっとあなたたちにとって貴重ですよ。
ライト管理官: もしかしたらだけど、アベルが-
SCP-073: (片手を上げる) もう仰らなくて結構。弟は… 弟はもう長年にわたって苦しんでいます。既にご承知でしょうが、彼は怒っていますし、歴史の謎を直に目撃しても興味など全く抱いていないでしょう。そして何より、弟は遥か昔から例の石棺に閉じ込められたままです。よしんば皆さんに協力する意思があったとしても、話せる事など何もないはずです。
ライト管理官: ありがとう、カイン。とても助かったわよ。
SCP-073: お気になさらず。ただ…
ライト管理官: ただ?
SCP-073: これは分を弁えない質問かもしれませんが、アウダパウパドポリスで… 人間に出会うことがあるかもしれません。恐らく男が1人だけ、或いは… 或いは、その死体。仮に… 仮にその男が見つかったなら、私に知らせてはいただけませんか? その — かつては私とアベルだけでなく、末の弟もいました… とても長い月日が流れました、だからもしも…
ライト管理官: ごめんなさい、カイン。もし私にその気があっても、許可できないのは分かってるでしょう。
SCP-073: ええ、そうですね。勿論です。り- 理解しています。 (合間) 彼に、弟に… 謝ることができればと思っていたのです。嗚呼。しかし、人間は誰しも後悔を抱えている、そうでしょう?
補遺 6666.5: ウィンストン・J・コニントンの日誌の抜粋
以下は18世紀イギリスの超常考古学者/オカルティストであるウィンストン・J・コニントンの日誌からの抜粋です。コニントンは大洪水前時代の出来事や人物への言及を含む多数の物品や文書を集め、“コニントン・セット”と呼称される収蔵品群にまとめていました。日誌の別な抜粋が補遺 4812.1で閲覧可能です。
コニントン・セット

ウィンストン・J・コニントン, Esq.
ウィンストン・J・コニントン卿は1752年、ホレス・コニントンとエリザベス・ブロウリー=ヘリマンの息子として誕生しました。コニントンは若くして地質学や考古学への興味を示し、1769年にはオックスフォード大学の王立地質学研究コンソーシアムに参入しました。彼はここでオックスフォード・モーグレイヴ協会の会員であるアール・スキッター伯爵と出会い、古代のオカルト的遺物の追求にあたって財政支援を受けるようになります。
これらの努力を経てコニントンは最初の画期的成果を挙げました — 大洪水前時代の文書で“三柱の冒涜者たち”と呼ばれる実体群のうち1体と後に判明するSCP-4812-E、“ヴィニュヴィネクス”Vinuvinexが封じ込められていた、オーストリア・アルプス山脈にある裂け目状の噴火口を発見したのです。これを契機に、コニントンとスキッター伯爵は多額の資金を投じて現代のウクライナに位置する遺跡へと遠征し、無数の遺物を発掘しました。この遠征で回収されたアイテムは“コニントン・セット”と呼ばれるコレクションとして収蔵され、コニントンが1797年に肺炎で死去した後は、多数の裕福な収集家やオカルティストの手に渡りました。
コニントン・セットは1936年、オランダ人美術収集家 マルクス・デ・ウィーズの邸宅に収蔵されました。1948年にデ・ウィーズが死去すると、セットは3つの小規模なコレクションに分割されました — うち1つは1950年にアムスコット・カーターに売却され、もう1つはドイツ国立博物館のドイツ史展示物の一部となった後に無名の個人収集家に売却され、最後の1つはオークションで財団傘下のクリアリングハウスに競り落とされました。アムスコット・カーターに売却されたセットは、カーターの共同事業者の協力を得て財団に回収されましたが、1951年に無名収集家に売却された最後のセットはそれ以降現れていません。
大いに努力を重ねて歴史上最古の忘却された地を調査した結果、私はヨーロッパやアラブの諸王国よりも遥か昔、恐らくはノアと大洪水にさえ先立つであろう人間の古い王国に関する幾つかの文献に遭遇した。その多くを日誌の各所で詳述してきたが、中でも最も捉え処のないものこそ、“ノドの息子なるゴム”と称する人物が著した寓話であろう。これは古代に君臨した“空の王者”の統治の終焉間際に起きた事件を述べているものと思われる。私はこれまでもアポリオン家の四騎士の物語を幾度も書いてきたが、その出自は未だ明らかになっていない。
しかし! 私はオスマン帝国のスルタン、ムスタファ3世より、塩漬けで保存された一片の羊皮紙を賜った。スルタンはこの文章を判読できないと語っていたが、似通った古代文献の幾つかで見かけるものと同じ雑な暗号で記されている。羊皮紙の文字は歳月のために薄れているが、我が従僕ゲールハルトの助けを借りつつ、この地上に残されたノドの息子ゴムの寓話の唯一つの複製として、文章を正確に転写できたものと信じるところである。
ノドの息子なるゴムの言葉。私は今此処に太古の世界の物語を語る。
かつて美しく頑健な、緑の目と鳶色の髪を持つ戦士がいた。彼の笑いは打ち寄せる波のようであり、彼の怒りは雷鳴のようであった。彼は広く愛され、彼を目にした者たちはその技巧に感嘆し、「確かにこれは遥か昔に生きたアセムの最初の子孫に違いない」と言った。
彼はあらゆる人々に愛されていたが、万軍の主にして天空の君主たる王からは誰にも増して寵愛された。王が最も助力を必要とする時、彼は戦士とその力を求め、戦士は剣や[文章破損]を以て応じ、王の敵が塵芥と化すか、彼の[文章破損]まで闘い続けた。彼の献身への返礼として、王は戦士に一つの好意を示し、次のように言った。
「汝、勇士の中の勇士よ、我が声を此処に明らかにしよう — 天と地に境界無し、また生と死に障壁無し。汝が望むものは、何であれ汝のものとなる。」
すると戦士は言った。
「万軍の主、君主の中にありて最も愛されし者よ — 私はただ貴方様に尽くすことを、人の世が終わりを迎えるその日まで貴方様にお仕えできることを、私が躊躇いなく我が心を貴方様に捧げ、太陽が消える時まで貴方様のお傍に居られることのみを望みます。」
王は言った。
「ならばそれは永遠となろう — 汝は余に仕えるであろう、最も忠実にして高貴なる騎士よ。汝の槍は余の槍であり、汝の声は余の声である。汝の心は永久に余の心であり、その献身が終わりを迎える時には、汝は我が先祖の館にて余の隣に眠ることになろう。」
斯くして偉大なる戦士は彼の王に仕えたが、[文章破損]
それは、王が年老いて尚、最後の征服のために海の向こうへ目を向けた時の事であった。[文章破損]の後、[文章破損]
[文章破損]
… 病が王の騎士たちを冒し、冒涜が彼らの内に植えられた。狂気と苦悩に駆られた騎士たちは、一人また一人と不吉な暗黒の神々に苦難からの救いを求め、一人また一人と心の内に植え込まれた邪悪に屈した。
全ての者が屈した後、偉大なる勇士のみが残った。彼は王に心を捧げており、その王が今や海の最も暗い深遠で眠っているにせよ、彼の忠誠は揺るぎなかった。彼は醜く歪められた姿で王の息子の前に馳せ参じ、こう叫んだ。
「我が主、我が主よ! どうか私をお救いください。私が長年、貴方様の御父上と王家に見返りを求めず仕えてきたことを思い起こし、私の有様を憐れんでください。この邪悪から私を解放してください、然らば私は再び貴方様に仕えることができるのです。」
すると王の最後の息子は言った。
「騎士よ、汝は余の王家に忠実に仕えてきた — しかし、汝が成り果てたその醜い姿は、余の父の高貴なる館を穢している。この病が汝に宿っている限り、この神聖な場所に住まうことも、余の王家の戦士を名乗ることも認めぬ。我らの敵が崇める邪神に背を向け、この恐怖の花を咲かせる暗黒の根を見つけ出せ。それを切り捌き、その悪しき従者どもを眼前から追い払い、その忌まわしい変身に屈するでない。然らば王家の館は再び汝に開かれよう。汝の浅ましい心にも余の父への忠誠が残っていると言うならば、時を無駄にするでない — 海を越えた先の黒い森へ、余の父が我らの悲運を招いた地へと赴き、汝の救済を探し求めるがよい。かの恐るべきティターニアを地から引き抜かずして、我らに救済など残されてはおらぬ — 行け、そして汝の名誉を取り戻すがよい。」
この悲劇を呪い、嘆きながら、戦士は這い進む獣のようにして、苦悩と恐怖の嵐のようにして、高貴なる館から逃げ出し、彼の王の王国の民たちは、かつて王の横に控えていた彼が様変わりしたのを見て涙を流し、歯軋りした。やがて戦士は目からも心からも通り過ぎてゆき、彼の名がその古代の国で語られることは二度となかった。王の息子が敵の道具に打ち壊されて闇へ落ち、宝冠が失われた時、彼は敵と父に仕えた騎士たちを呪ったが、中でも最も下劣な批難は、王家に仕えたこの偉大な戦士と彼が抱えた闇に向けられたと [文章破損]
補遺 6666.6: 遠隔偵察ログ
以下はSCP-6666の下にある洞窟の無人探査試行の映像の書き起こしです。問題のドローン — 財団支給 4.5kg マークVII オクトコプター、コードネーム “ヒーロー” — は8時間分のバッテリー寿命を有し、最長距離23kmまで操作可能でした。ヒーロー・ドローンは改良された人工知能コンスクリプトモジュール (AIC) 、コードネーム “ヴァロール” によって、操作範囲外でも自律活動が可能でした。ヴァロール・モジュール自体に知覚力は無いと見做されていますが、基本的な問題解決・危機管理能力があり、より複雑な任務目標もこなすことが可能です。
また、ヒーロー・ドローンには小型の遠隔操作クワッドコプター、コードネーム “チャンピオン” が搭載されており、著しく大型のヒーローでは侵入できない区域の探索も可能になっていました。
プロジェクト・パラゴン
南アメリカ前線サイト
探査機偵察記録
マーク VII ドローン “ヒーロー” はデルタ・タワーの展望台に配置され、発進を待機している。任務開始に先立ち、技術者が飛行前点検を実施する。間もなく、ヒーローに発進許可が送られ、展望台から飛び立つ。ヒーローは北に向きを変え、SCP-6666に接近する。
ヒーローのセンサーが完全にオンラインになり、SCP-6666が中央フレームに表示される。ヒーローがSCP-6666に接近すると、機体に搭載された投光ランプが起動する。ヒーローはSCP-6666がフレーム全体を占めるまで接近し続けた後、僅かに上昇する。SCP-6666-Aがもがきながら咆哮する声が、ヒーローのローター音に混ざって遠方から聞こえる。
20分後、SCP-6666-Aが視界に入る。SCP-6666-AはSCP-6666の幹に半ば埋没するような形で捕えられている。過去全ての探索任務と同様に、SCP-6666-Aはドローンを完全に無視し、無我夢中でSCP-6666の亀裂から脱出しようとしているように見える。濃密な緑色の煙がSCP-6666から溢れ出し、SCP-6666-Aの皮膚に火傷や疱疹を生じさせる。SCP-6666-Aは激しい苦痛を感じているらしく、右側最上段の腕に固定された金属の長槍でSCP-6666を攻撃し続けている。
観測を30分間継続した後、ヒーローは降下してSCP-6666-A及びSCP-6666から遠ざかる。カメラ視点が傾き、観測塔のスポットライトが届かない完全な暗闇となっている下方を映す。ヒーローに搭載された暗視カメラに決定的な映像は捉えられない。ヒーローは機体のスポットライトを更に数基起動し、下降を続ける。目標高度に達したヒーローは東を向き、洞窟の最も近い壁に向かう。
更に21分間飛行を続けた後、操作範囲外に出たヒーローの制御をヴァロール・モジュールが引き継ぐ。程なくして、洞窟の北壁が視界に入る。壁の表面は主に岩と土で構成されており、SCP-6666の太く曲がりくねった根系で大部分覆われている。壁のほとんどはSCP-6666が放出する緑色の煙で不鮮明になっているが、ヒーローが接近すると煙は吹き散らされ、暗闇の中に構造物が見えて来る。

ヒーローの目の前に、著しく荒廃した大規模な石造りの構造物がある。瓦礫が主構造の周囲に散乱しており、かつて塔だったと思しき大きな円筒形の石造遺跡が2つ、やや離れた場所に見える。瓦礫の配置や構造の状態から、過去のある時点で建造物全体が相当な高さから、しかし石壁が完全に崩落するほどではない速度で落下したことが伺える。ヒーローが洞窟の中心を向くと、煙が至近距離から吹き飛ばされ、別な建造物が現れる。
ヒーローの周囲の遺跡には、明確な特定起源を指す要素の無い建造物、モニュメント、装備品などが混在している。風変わりなシンボルが外壁に描かれた大きな石造りの宗教施設、茅葺き屋根の長い木造家屋、骨らしきアーチ状の支持構造に固く張られた奇妙な肉質の膜などが注目される。地面には工具、調理器具、荷車、武器、神類などが散乱している。微風が検出され、地面に落ちていた物品の多くが、洞窟の底に向かって岩だらけの斜面を滑ってゆく。
ヒーローは若干高度を上げ、斜面を更に下る。下方には破損した家屋、粗末な造りの倉庫、倒壊した粉挽き場などが見える。大半の建造物は明らかに古いものの、遺跡は不自然なほど良好な状態に保たれている。ヒーローは高度を下げ、黒いインクで何らかの文字が書かれた革の巻物を映す — インクは明らかに色褪せていない。
ドローンは東に向きを変え、より見通しの良い場所に向かって斜面を更に下る。ヒーローの赤外線カメラがオンラインになり、洞窟の壁を振り返ると、洞窟の壁と斜面全体が見渡す限り、何万棟もの建造物で覆われていることが明らかになる。これらの建造物の多くが — ヒーローのすぐ近くにある、頭部の無い牡鹿の巨大な石像も含めて — SCP-6666の根系に絡め捕られ、ゆっくりと地中へ引きこまれているように見える。
幾つもの建造物を観察する中で、ヒーローが1棟の崩落した家屋を通り過ぎた際、生体識別警報が作動する。ヴァロールはヒーローを家屋の近場に着陸させ、軽量偵察クワッドコプター “チャンピオン” を屋内調査のために発進させる。チャンピオンはヒーローから分離し、落ちている瓦礫を慎重に回避しながら廃墟に入る。家屋の奥へ接近したチャンピオンは — これは半ば崩れた屋根を通してヒーローのカメラにも映っている — 極度に衰弱した小柄なヒト型実体の死体を発見する。実体は胎児のような姿勢でうずくまり、手に顔を埋め、身体を部屋の隅に向けている。薄い布服だけを着用したこの実体に、チャンピオンは熱画像スキャンと電気化学スキャンを行い、生命反応の無い完全な死体だと判断する。チャンピオンは廃墟の他区画を軽く探索した後、屋根の穴から退出する。
ヒーローに戻る代わりに、チャンピオンは他幾つかの近隣の建造物に入り、内部を調査する。かつて輓獣を飼育していたと思しき建造物で、チャンピオンは数頭の馬の痩せ衰えた死骸を発見する — 死骸の多くは大きな穿刺傷に覆われている。馬の顔は死骸の状態ゆえに歪んでいるが、恐怖やパニックを非常に明白に示している。建造物の奥には1匹のイヌ科生物の死骸がある — その爪と前足は骨が見えるほど擦り減っており、建造物の裏口ドアの木板には必死に引っ掻いた跡がある。
チャンピオンは建造物を離れ、ヒーローと合体する。ヒーローは再発進して西に向き直り、洞窟の岩壁を離れてSCP-6666の方角へ移動する — 観測塔の明かりは上空及び周辺の煙でほぼ完全に遮られている。ヒーローは洞窟斜面を下り、多数の廃墟を通り過ぎるが、瓦礫によって引かれた明確な一線で廃墟は唐突に途絶えている。岩だらけの斜面は続いているが、煙の中に他の建造物は見当たらない。ヒーローが前進し続けると、再び生体識別警報が作動する。
ヒーローのメインカメラは、下方の地面に横たわる大柄なヒト型実体に焦点を合わせる。この実体もまた衰弱しており、斜面をよじ登る最中に死亡したと思われる。ヒーローが当該実体に接近すると、ローターで更に煙が吹き飛ばされ、ヴァロールが幾つもの生体を検出して警報が再び鳴る。ヒーローのメインカメラが周囲を見渡し、似通った数十体のヒト型実体群が映る — 斜面に顔を伏せ、身動きしていないが、いずれも斜面を登ろうと試みていたようである。ヒーローが死体の上を飛び、斜面を更に下ると、死体の数の規模が明らかになって来る。
ヴァロールによる機体上からの算出は、極端に劣悪な照明条件と濃霧のために妨げられているが、ヒーローは数十万体もの衰弱したヒト型生物の死体を映しており、その全てが斜面の下にある何かから這って逃げようとしていたように見える。死体は子供並みから成人と同等の大きさまで様々であり、男性型と女性型が混在し、中には動物型や、ヒトと動物の特徴を両方併せ持つ不明確な生命体の姿も見られる。
ヒーローが長く不毛な斜面で死体を数え続けている間に、チャンピオンは親機から分離し、死体に接近する。近付くにつれて死体の状態が明確になってくる — どの死体も淡い緑色をした煙の残渣が薄く付着しており、背後の何かから這って/走って逃げた形跡があり、必死に逃走を試みる過程で自己防衛した結果、周囲の実体たちを負傷させたようである。全ての死体の顔には衝撃を受けた、またはパニックを起こしている様子が見られるが、多くは胎児の姿勢で地面に横たわり、顔を手で覆っている。
チャンピオンはヒーローに戻り、ヒーローは凡そ0.87km2の領域内の死体を約283,824体と算出する。ヒーローが斜面を下り続けると死体の密度も増すが、洞窟底面に至った時点で死体の数と密度は減り始める。ヒーローは洞窟の中心に向かって飛行し続けるが、障害物近接警報で停止する。外付けの投光ランプは全て前方を向いており、高さ100mの暗色の樹々がヒーローの正面およそ14mの地点で左右に広がっているのを照らしている。樹々の下層には、より短く細いものの、生い茂る植物のために密集して見通しが利かなくなっており、ヒーローは進入できない。
チャンピオンが再度ヒーローの背面から発進し、僅かに上昇してから慎重に森に入る。チャンピオンも強力なスポットライトを搭載しているが、樹々の著しい密集によってその効果は期待できない。チャンピオンが森の中を進み続ける一方、ヒーローは62%まで低下したバッテリーを節約するため、樹木限界線の外側に着陸する。バッテリーが55%を切ると速やかに基地に戻る必要があるため、ヴァロールは任務計画を調整し、チャンピオンが森の偵察を終え次第デルタ・タワーに帰還することを決定する。

鬱蒼と茂る森の中を3分間飛行した後、チャンピオンは計器のエラーを報告する。チャンピオンは異常なコース修正を行っていないが、上下逆さで南方面へ横向きに高速移動していると思われる。チャンピオンは移動速度を修正しようとするが、樹に激突して墜落する。大きく甲高い遠吠えが聞こえ、チャンピオンは地面に落下する。計器は機能し続けているが、メインカメラが衝撃で破損する。チャンピオンは回収を促すアラームを鳴らし始め、ヒーローに搭載されたマイクにそれが検出される。その後5分間、チャンピオンの回収アラームが響く中で、ヒーローはデータ収集を続ける。
地面への墜落から5分16秒後、チャンピオンの回収アラームの音は、ヒーローから遠ざかるようにして次第に小さくなっていく。これにも拘らず、搭載されたセンサーは全く何の動きも検出していない。これが8分47秒続いた後、チャンピオンの回収アラームはヒーローに検出されなくなる。
ヒーローは事前の設定どおりにチャンピオンの帰還を30分待つ。既定の時間が過ぎ、チャンピオンがテレメトリーデータのみを送信するようになると、ヒーローは再び飛び立ち、デルタタワーへ向かう。ヒーローは6km上昇した時点で、チャンピオンのデータ中継範囲から離脱し、チャンピオンの存在を検出できなくなる。1時間9分後、追加のテレメトリーデータを収集するための停止を2回挟んで、ヒーローはデルタタワーの展望台に着陸する。
補遺 6666.7: パラゴン指導層会議 書き起こし II
以下は、プロジェクト・パラゴンの指導層が2019年5月2日に開催した会議記録からの抜粋です。
内部音声記録転写
出席者:
- プロジェクト・パラゴン管理官 シャノン・ランカスター
- 財団技術部門管理官 ケイン・パトス・クロウ
- 大洪水前時代研究部門管理官 コリン・マルサス
- SCP-6666研究責任者 オスモン・アイルズ博士
- 専門機動部隊 ヘート-1 隊長 セシリア・エストレイ
リモート参加
- トビー・ミルズ - パラゴン管理
- ロドニー・グティエレス - パラゴン管理
- コーリー・ピーターズ - パラゴン管理
- ジョセフ・ウォール - パラゴン管理
- リンジー・フレイジャー - パラゴン管理
- 浩子ヒロコ・ルドゥー - パラゴン財政
- ジャニス・メンデス - パラゴン財政
- アール・マッカーシー - パラゴン物流
- 趙 清照ザオ・クィンザオ - パラゴン科学
- ブレント・グラント博士 - パラゴン科学
- ドミンガ・レイニー - パラゴン調査
- レン・ロッサー - パラゴン調査
- ミーガン・ワイルズ博士 - 西部地域司令部管理
- ジーン・ヴァン・ブランク博士 - 西部地域司令部管理
- アイリーン・トーレ - 西部地域司令部管理
- 管理官補佐 許 小玲シュウ・シャオリン - 技術部門
- キャメロン・サンピエール博士 - 倫理委員会連絡員
- ローマン・ホール博士 - 倫理委員会
- 仁 甄ジン・ゼン博士 - 倫理委員会
- パトリシア・デーン博士 - 倫理委員会
- サム・オラウェ博士 - 倫理委員会
- ジョン・ジャーマン博士 - 倫理委員会
- 管理官 カーライル・アクタス - 分類委員会
- クイントン・ペイジ - 監督評議会連絡員
- O5-1
- O5-3
- O5-12

大洪水前時代研究部門管理官 コリン・マルサス
ランカスター管理官: おはようございます、皆さん、お集まりいただき感謝します。クロウ博士、わざわざお越しいただきありがとうございました。
パトス・クロウ管理官: いやいや、招待してもらって光栄だよ。
ランカスター管理官: それでは、マルサス管理官、後はお任せします。
マルサス管理官: ありがとう、ランカスター管理官、そして紳士淑女の皆さん、名誉あるプロジェクト・パラゴンと財団上級職員の皆さん、ご参加いただきありがとう。ご存じない方々もいるだろうが、私はコリン・マルサス、財団の最新にして最古の部門… (合間を取って笑う) 大洪水前時代研究部門、通称DoARの管理官だ。我々は歴史家であり、長らく時の砂に埋もれていた情報の収集者であり、何もかも手遅れになる前にこの歴史をできる限り多く目録化し、鑑定することを目標に掲げている。
マルサス管理官は年代リストが表示されたプロジェクターの画面を身振りで指す。
マルサス管理官: 我々が学んできた事柄とは裏腹に、現代人類史というものが過去30万年間にしか該当しない一方で、真の歴史はその何十万年も前、もしくはそれ以前から続いていたことが判明した。では30万年前に起きたのは何かというと、洪水の収束後に我々の先祖が定住していたアフリカ及び“肥沃な三日月地帯”からの大々的な移住だ。
マルサス管理官: 洪水? — きっと心の中でそう思っただろうね。今こいつは洪水と言ったか? 既に気付いた者も大勢いるだろうが、部門名“大洪水前時代”antediluvianの“diluvian”とはまさしく大洪水を意味している — これは40万年から50万年前のある時点で発生したと考えられる全世界的な異常気象災害であり、当時存在したあらゆる社会を壊滅させ、地球上の自然な支配秩序を大きく揺るがすことになった。DoARの我々が研究している場所、出来事、人物の存在を示す証拠のほとんどは、100年かそれ以上続いたとされるこの天災で失われた。高地に避難したり、適当な船を建造したりしなかった人々は、お察しの通り、水が押し寄せてきた時に洗い流されてしまい、彼らが存在したという歴史さえも消えてしまった。
マルサス管理官: しかし、我々の研究はそれよりも更に過去へ — 世界の始まりまで遡る。SCP-4840 — 空中都市アウダパウパドポリスは、数百万年前にこの惑星に築かれた最初の都市の廃墟だ。“アセム”と呼ばれる原人がその最初の王であり、種としての人類がそこで誕生したと言われている。これら初期の人間は — 我々は現在“永久なる者”Eternalsと呼んでいるが、本当に永久に生きられるかは議論の余地がある —身体構造面では現代の我々と似ているが、長寿命を除いても重要な点が数多く異なっている。例えば、SCP-073とSCP-076は共にこれらの初期人類の一員であり、各々の形式で何百万年も生きてきた。
マルサス管理官: でも待てよ、と思っただろう。その前には何が起きた? 簡潔に答えると、分からない。長い時間を掛ければ翻訳可能な文字として歴史を書き残してきたのは、地球上でただ人類ばかりだから、当時どんなものが他に在ったかはどうにも見当がつかない。しかし、当時も他の実体が確かに存在していた — ここから先は、私の言葉を信じて一緒に崖から飛び降りる気分で聞いてもらいたい。と言うのも、神々について話す必要があるからだ。そう、神々は存在する — 財団に勤務していて未だにそれを信じられないなら、今こそその時だ。神々は実在するし、強大だし、彼らの働きは今でも我々の日常生活の中で感じられる。おっと — トーレ君、何か質問かな?
アイリーン・トーレ: ありがとうございます、博士。あなたの仰る“神々”というのは具体的にどういう種類の実体を指すんですの?
マルサス管理官: 素晴らしい質問だね。凄まじい力を持ち、大抵の人々から“神のようだ”と見做される実体は数多くいるが、ここで指す神々とはもっと根源的な実体だ。 (合間を取ってスライドを調整する) その昔アウダパウパドポリスに住んでいた神々の一部を我々は把握している — 彼自身も“永久なる者”であるSCP-4840-Aの助力によるところが大きい。残骸がブマロの教会によって崇拝されている“壊れたる神”ことメカーネ。特にダエーバイトから熱心に崇拝され、現在はサーキック・カルトによって力を吸い上げられているヤルダバオート。これら2柱の神格はどちらも古代の文献で人類と結び付けられている — しかし、人類と同時代には、その数百万年も昔から生きていた別な生き物もいたんだ。フェイfae、フェアフォーク fair folk、フェアリー faeries、クィアピープルqueer peoples、要するに妖精と呼ばれる者たちだ。彼らは概ねヒト型知性体であるという意味では我々に類似するが、それ以外の観点では人間とは程遠い。そんな彼らもまた神々を崇拝していたが、君たちはそのほとんどの名前すら知らないはずだ — 夜の神、昼の神、日の出と日の入りの神、そして地球そのものの女神であるガイア。中でも妖精たちは、星明りと願いの女神、イアを最もひたむきに崇拝していた。
マルサス管理官: さて、古代の伝説によれば、イアは妖精たちが住む大いなる森の林冠を歩きながら願いを叶え、世界が黄昏を迎える時には妖精たちのために歌ってくれるとされる女神だった。彼女は妖精たちが崇める神々の中で“最も美しく”、最も愛されていた。最初期に妖精族と遭遇した人間たちからはティターニアと呼称されるようになるイアは、大体において妖精そのものの姿だと語られるが、星、一筋の月光、また場合によっては妖精族の暗い森の中心に生えた巨木のように描写されることもある。
マルサス管理官: それは我々を1つの仮説へと導いた。我々は、足元の洞窟に逆さにぶら下がっている枯れ木こそが、妖精の女神ティターニア、或いはそうだったものだと考えている。SCP-2932の中心にある臓器から採取したサンプルは、決定的な結果こそまだ出ていないが、SCP-6666との否定し難い類似性を帯びており、しかもSCP-2932-Aはその遺物が妖精たちの崇める同じ女神に由来するのを信じて疑わないようだ。Eshu実体の誰かをここに連れてきて直に見てもらわなければ絶対的な確信は持てない — 実のところ、我々の研究において、妖精たちは例の女神についてまるで語りたがらないことが分かっている。それでも、我々には相手の正体を知っているという自信がある。はいそこ、グティエレス君?
ロドニー・グティエレス: この樹の女神サマはもうすっかり死んでいると仮定していいのかな?
アイルズ博士: ええ、私たちはそう信じていますよ。
ヴァン・ブランク博士: その原因は分かるんですか?
マルサス管理官: 残念だが、現段階では推測しかできない。ほぼ間違いなく、SCP-2932内の臓器がSCP-6666から取り除かれたのが原因だが、SCP-6666が死んだ後に臓器が摘出されたと考えてもおかしくはない。
浩子・ルドゥー: でも実体はまだ動いているのですよね? 焼灼チームが新たな成長部位を焼き払わなければならないと聞いていますが?
ヘート-1隊長 エストレイ: その通りよ。
マルサス管理官: この理由に関しても幾つか憶測を立ててはいるが、あの樹は神の死体であると言えば十分だろう — 本来なら樹木にはどんな事が可能であり、また不可能であるか、という従来的な理解を大真面目に受け取らない方が良い。
アクタス管理官: それで、SCP-6666にめり込んでいるヒト型生物だが、あれの出自は分かっているのか?
マルサス管理官: そう、次はその話をしようと思っていたんだ。アイルズ博士、任せてもいいかな。
アイルズ博士: ありがとうございます、管理官。樹の中の実体は、私たちが“太古の魔”と呼ぶ、古代から生きている4体の強大な存在のうち1体だと考えられます。大洪水以前には、数多くの人類文明が数万年にわたって勃興しましたが、最も長く存続したのが“アポリオン家の空の王者”です。SCP-4812実体群の調査で得られた情報から、我々はこれら4体の“魔”が同時期にアポリオン王国に住んでいた4名の戦士であり、王国の崩壊間際に発生した未知の奇跡論事象で各々の性質を改変されて、現在のような怪物の姿になったことを突き止めました。この4名の戦士は — ラハイア、ランスロット、ヘクトール、オジエ — いずれも初期人類史において極めて重要な人物だったため、何千年もその名が後世へ伝えられていき、最終的には現代の民間伝承にも組み込まれています。
マルサス管理官: SCP-4840-Bの発見以来、我々はこれら実体群の研究・収容方面でランカスター管理官とプロジェクト・パラゴンを支援している。財団はしばらく前から、その正体を知らずに“魔性のラハイア”ことSCP-2254を収容していた。常の如くSCP-4840から集められた情報は、2254と4840-B “魔性のランスロット”の起源を含む数多くの事に光を投じてくれた。古文書によると、4名の戦士は妖精の姫にそれぞれ異なる呪いを掛けられたという — ラハイアには情欲、ランスロットには憤怒、オジエには絶望、そして我々の下に居るヘクトール君には苦悶。
ランカスター管理官: プロジェクト・パラゴンが発足されたのは、これらの新興の実体群が及ぼす影響を軽減するためです。世界オカルト連合は2002年、とある古代の墓所を発掘しました… この墓所には4体の魔に掛けられた呪いと何らかの関連性があり、更に3体のSCP-4812実体群とも接点を有する何者かが封じられていたと考えられています。全ての実体は、古文書で妖精の姫に対する神聖冒涜と描写される同一の事件との繋がりを持ちます。私の間違いでなければ — マルサス管理官は私の見解を支持していますが — GOCがあの墓所で発見した“EROS”実体こそ、SCP-4812、SCP-2254、SCP-4840-B、SCP-6666-A、そして発見されていない最後の魔であるオジエを創造した妖精の姫本人であると思われます。
マルサス管理官: まさしく。
O5-1: では、次の一手をどうする?
マルサス管理官: よくぞ聞いてくれました、監督者。SCP-6666の下には広大な森林があり、SCP-6666によって洞窟内に引きずり込まれた大洪水前時代の遺跡があると思われる。恐らく異常と思しき手段で保存された情報の宝庫であり、今後の我々の活動にとって想像を絶するほどの有用性を秘めている。
ランカスター管理官: プロジェクト・パラゴンは4812実体群の影響や、4体の魔が及ぼし得る被害の緩和に取り組んでいます。GOCがEROSを掘り起こしてから17年になりますが、その間に4812-Kはますます好戦的になってきました。事態は逼迫しつつあると思われます。入手できるデータが多ければ多いほど、この種の脅威に対処する準備を整えることが可能になります。
マルサス管理官: そこで、この森林の有人探査を提言したい。我々のドローンは森を通過できないが、ヘート-1の武装選抜部隊、そして数名の研究者や補助スタッフならば、お目当ての物が見つかるかどうかを確認できる程度まで奥に入れるはずだ。
O5-3: 制限要因は?
パトス・クロウ管理官: デルタ・タワーの発射台から空洞底面までは35km以上離れているんだ。現行の計画では探査チームをケーブルカーで降下させる予定になっている。安全な速度で移動できる最速モデルなら、必要な全ての人員・装備を6時間強で着陸地点まで運べるだろう。もう1つの問題は空気圧にある — 洞窟の底の空気は非常に濃い。呼吸は可能だと思うが、減圧症を避けるには帰還ルートを長旅にせざるを得ない — 24時間以上必要だ。
アイルズ博士: 最大の障害はあの煙霧です。SCP-6666は側面の亀裂から粒子状物質を放出するのですが、これが非常に強力な神経毒でしてね。短期曝露でもほとんどの神経系プロセスが完全に停止し、長期曝露すれば中枢神経系が抑制されて死に至ります。
パトス・クロウ博士: 財団の探査スーツはこの物質を空気中から濾過できるが、移動中にスーツ外面の残留粒子に軽く曝されただけでも致命的だという懸念がある。そこで、この物質の影響を和らげる案を用意した — 少なくとも短期間なら効果が見込めるだろう。こちらに- (クロウ管理官は身振りで新しいスライドを指す) 危険性を制限する2段階の計画がある。まず、ヘート-1の隊員2名は軽量火炎放射器を携行し、進路を確保すると共に、空気中の“花粉”の量を減らす。そして- えー、この一時的な発泡密封剤を使ってSCP-6666の亀裂を塞ごうと思っている。
O5-12: その計画をどう達成するつもりだ?
パトス・クロウ管理官: 我らが財団プラスチック部門の協力を得て、マークVIIドローンに搭載し、遠距離から吹き付けることが可能な高密度発泡ポリエチレンを開発した。ほんの数分で完全に固まる。SCP-6666の亀裂が塞がれたら、大気中の粒子が下に落ちるのを20時間ほど待てば、探査チームは思い通りに行動できる。実は、私のチームはここ数ヶ月間、“オペレーション・コタライズ”と称してこいつの開発に掛かりきりだったんだ。密封材はSCP-6666本体には持続的な害を及ぼさないし、5週間程度で剥がれ落ちるだろうが、固まっている間は頑丈だぞ。
O5-1: SCP-6666-Aが面倒事を引き起こす見込みは?
ヘート-1隊長 エストレイ: 特に予想されてないわね。仮にあいつが妨害を試みたら鎮静剤を打ち込むし、それでもダメならチャーリー・タワーに設置されたケーブルランチャーで拘束できる。
パトス・クロウ管理官: 実際のところは、泡の準備が整うまで6666-Aを何かに夢中にさせておけばそれで済む。あれは固まると岩のように硬いからね、奴を自動的に割れ目に閉じ込めてくれるだろう。
O5-1: 宜しい。ランカスター管理官、私のオフィスと逐一情報を共有してくれたまえ。洞窟の底にいつ降りるかを知りたい。
ランカスター管理官: はい、サー、勿論です。
マルサス管理官: もう少し質問を受け付けるつもりだが、他に無いようならこれで解散としよう — クロウ管理官とエストレイ隊長にもっと準備すべき事が色々あるからね。 (沈黙) 良し、諸君、お時間をどうもありがとう。作戦後にまた改めてお会いしよう。
補遺 6666.8: 職員心理評価報告
注記: 以下は、パラゴン割当職員が2018年1月から2019年5月までに訴えた精神的症状を、心理学者のリッチ・アーノルド博士がまとめたログです。
名前 | 日付 | 症状 | 注記 |
---|---|---|---|
サイモン・キャントレル | 2018.2.13 | 不安、抑鬱 | 職場環境が原因と思われる症状 — 対象は高所恐怖症である。別なサイトへの転属を推奨。 |
リカルド・バロス | 2018.3.24 | 抑鬱 | 対象は配属期間が長引いていることへの全般的な不満を訴えた。 |
ナタリア・ベゼラ | 2018.3.26 | 被害妄想 | 対象はSCP-6666洞窟内での作業中、何者かに見られているような感覚がすると報告した。 |
レオナルド・ネヴェス | 2018.6.4 | 抑鬱 | 対象は全身の倦怠感を報告した。 |
サム・アリソン | 2018.7.13 | 不安 | 対象は目覚めた後の全般的な不安心を報告した。 |
ヴィクター・クロス | 2018.9.9 | 悪夢、不安 | 対象は全般的な不安心と悪夢を報告した。 |
ヴィヴィアン・デルガド | 2018.9.23 | 自殺念慮 | 対象は全般的な絶望感を表明し、専門医に紹介された。 |
セザール・ロウレンソ | 2018.10.2 | 抑鬱、悪夢 | 対象は全般的な抑鬱症状と不穏な夢を報告した。 |
アントニオ・ルイス | 2018.11.14 | 不安、悪夢 | 対象は悪夢を報告した。 |
ベニチオ・チャベス | 2018.11.18 | 不安、悪夢 | 対象は怪物が母親を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
ジャニス・デ・キャンポス | 2018.11.28 | 不安 | 対象は目覚めた後の全般的な不安心を報告した。 |
クレベール・アントゥネス | 2018.12.28 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が娘を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
アントニオ・コルデイロ | 2019.1.3 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が妻を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
アニタ・ウェルズ | 2019.1.4 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が兄を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
パロマ・メイレレス | 2019.1.15 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が娘を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
ジェラルド・浜村 | 2019.1.23 | 恐怖心、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が自分を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
リー・ウィンスロウ | 2019.2.3 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が息子を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
アルノルド・エステベス | 2019.2.12 | 不安、悪夢 | 対象は叫ぼうとしているのに声が出ない鮮明な夢を報告した。 |
ダニエル・デ・アスンソン | 2019.3.15 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物がSAFOSにいる全ての人間を殺害する鮮明な夢を報告した。 |
カイル・ウィリアムソン | 2019.3.23 | 不安、悪夢 | 対象は6つの目を持つ怪物が自分を貪り食う鮮明な夢を報告した。 |
ルーカス・オリベイラ | 2019.4.28 | パニック、不安、悪夢 | 対象は任務中に常に激しい不安心を感じており、6つの目を持つ怪物が家族を貪り食う鮮明な夢を複数回見たと報告した。 |
アウグスト・ブラガ | 2019.5.3 | パニック、悪夢 | 対象は激しいパニックを感じると述べ、自傷行為の兆候を示し、6つの目を持つ怪物が自分の心臓を食べている鮮明な夢を複数回見たと報告した。 |
ディエゴ・ダ・コスタ | 2019.5.11 | パニック、悪夢、自殺念慮 | 対象は全般的かつ圧倒的なパニックを感じると述べ、最近になって幾度か自殺を試み、自分が穴の中に囚われている間に6つの目を持つ怪物が母を貪り食う鮮明な夢を複数回見たと報告した。 |
補遺 6666.9: オペレーション・コタライズ 事後報告
2019/5/24 11:45:54 AMT — マークVII ドローン “ユリシーズ”、“ヒーロー”、“アスター” にスプレー式の高密度発泡ポリプロピレンが各機45kgずつ搭載される。
2019/5/24 12:00:04 AMT — ユリシーズ、ヒーロー、アスターはデルタ・タワーから発進し、SCP-6666へ向かう。
2019/5/24 12:16:21 AMT — ドローンがSCP-6666に到着する。
2019/5/24 12:23:55 AMT — ドローンはSCP-6666開口部で定位置に付いたことを報告する。SCP-6666-Aは異常行動の兆しを見せていない。
2019/5/24 12:26:42 AMT — ドローンがSCP-6666開口部に発泡剤を噴射し始める。異常な活動は検出されていない。
2019/5/24 12:27:52 AMT — SCP-6666-Aがユリシーズ・ドローンに顔を向ける。ドローンはSCP-6666-Aに機銃掃射を加え、その認識能力を確認するように指示される。
2019/5/24 12:28:15 AMT — SCP-6666-Aはユリシーズ・ドローンを目線で追う。
2019/5/24 12:30:49 AMT — 最初に噴射された発泡剤が固化し始める。
2019/5/24 12:31:03 AMT — SCP-6666-Aがまだ固化していない発泡剤に触れる。数秒後、SCP-6666-Aは自らの身体から発泡剤を剥がそうとし始める。
2019/5/24 12:32:00 AMT — ヘート-1は鎮静の試みを承認する。ユリシーズ・ドローンは3本の鎮静剤ダーツをSCP-6666-Aの胸に撃ち込む。
2019/5/24 12:32:01 AMT — SCP-6666-Aはユリシーズ・ドローンが反応する前に、槍でドローンを破壊する。ヒーロー及びアスター・ドローンは安全な距離まで退避する。
2019/5/24 12:32:15 AMT — SCP-6666-Aは腰回りから発泡剤を除去する試みを再開する。
2019/5/24 12:32:52 AMT — ヘート-1はチャーリー・タワーから3本の鋼索ボルトを発射する。第1のボルトはSCP-6666-Aの槍が固着した腕に命中し、身体に巻き付ける。第2、第3のボルトはSCP-6666-Aの脇腹に命中し、SCP-6666の幹に固定する。
2019/5/24 12:33:12 AMT — SCP-6666-Aが自らの拘束を引っ張り始める。鋼索がねじれ始めたのが注目される。
2019/5/24 12:33:21 AMT — 第2ケーブルが断裂し、アスター・ドローンを掠める。
2019/5/24 12:33:44 AMT — ヘート-1は太さ3インチのケブラー樹脂製の張り綱をSCP-6666-Aに発射する。
2019/5/24 12:33:48 AMT — ケブラー樹脂の張り綱がSCP-6666-Aに命中し、その身体を完全にSCP-6666の幹に固定する。SCP-6666-Aは引き続き、比較的細い2本の腕でケーブルを掴もうとしている。
2019/5/24 12:34:12 AMT — ヘート-1は追加2本の鋼索ボルトを発射する。1本目はSCP-6666-Aの中腕に命中し、脇腹に固定する。2本目はSCP-6666-Aの中腕と下腕の間にある溝に嵌まり込み、SCP-6666-AをSCP-6666に対して横向きに抑え付ける。
2019/5/24 12:35:05 AMT — アスター及びヒーロー・ドローンがSCP-6666に再接近する。SCP-6666-Aは拘束を振り解こうともがいているが、身動きが取れない。SCP-6666-Aは大声で発声するが動かない。
2019/5/24 12:35:36 AMT — アスター及びヒーロー・ドローンはSCP-6666に発泡剤を噴射し続けている。定期的に、両ドローンはチャーリー・タワーに帰還し、使い切った発泡剤の容器を交換する。
2019/5/24 12:52:58 AMT — アスター及びヒーロー・ドローンは最後の容器の中身が枯渇したのを確認する。SCP-6666側面の開口部は完全に覆われたと見做される。近隣の観測ドローンは、開口部からの煙の放出が完全に停止したと報告する。
2019/5/24 12:53:12 AMT — アスター及びヒーロー・ドローンがデルタ・タワーに向けて出発する。
2019/5/24 13:06:54 AMT — アスター及びヒーロー・ドローンがデルタ・タワーに到着する。
補遺 6666.10: SCP-343インタビュー
以下は財団上級スタッフ アルト・クレフ博士とSCP-343のインタビューの書き起こしです。クレフ博士は異常な改変に対して生来の抵抗力を有するため、本インタビューの実施を承認されました。

SCP-343ファイル用の資料写真。
SCP-343: おぉ。若きアルト少年よ。よく来てくれた。座りなさい! それとも新しく椅子を用意しようかね?
SCP-343はクレフ博士の隣に1脚の椅子を出現させるが、クレフ博士は立ったままである。
クレフ博士: 結構。よく聞け、お前も分かってるだろうが、私が今回来たのはインタビュー中にお前にふざけた真似をさせないためだけだ。こういう役回りは大嫌いだから、聞いたことは包み隠さず白状してもらうぞ。一日中こんな場所に居たくはない。
SCP-343: おやおや、アルト。私は君と話すのをいつも楽しみにしているんだよ。
クレフ博士: こっちは違う。とにかく、最近になってお前に関する興味深い新情報を幾つか入手した。
SCP-343: (笑う) さぁて、謎めいた神の本質を知っていると真に言える者が果たしているかね?
クレフ博士: まず第一に、お前の年齢が分かった-
SCP-343: 宇宙の如く永劫不変。
クレフ博士: -違うんだなこれが。名前も掴んだぞ。秘術師メトシェラだろ? 古代ダエーバイト文明のマリドラウグ家で宰相をやってたな?
SCP-343: あ- (合間) -何だって?
クレフ博士: かなり簡単な質問だぞ、さっさとイエスか-
SCP-343: いやその、は? 何故それを知ってる?
クレフ博士: カインが全部バラした。もしお前がここで暮らしてるのを知ってたら、とっくの昔に我々に警告してたそうだ。お前は伝説的な誇大妄想狂のイカサマ山師だとも言ってたぞ。
SCP-343: なぁおい、妄想狂は少しばかりキツすぎやしないかね。そうかい、カインが。流浪人カイン。平原歩きのカイン。奴め。
クレフ博士: で、イエスかノーか?
SCP-343: あぁ、そりゃ… イエス、だろうな、しかしその名を最後に使ってから… やれやれ、また随分と長い年月が過ぎたもんだ。正直な話、カインに素性を知られていたのがまず鬱陶しい — 努力に努力を重ねてあいつやその同類から距離を置いていたというのに。あんな太古の昔から生きてる埃を被った老いぼれどもはな、本当に私らの幸せを思うなら最初の男と枕を並べて死んじまえば良かったんだ。
クレフ博士: じゃあ、お前は何処の出身なんだ?
SCP-343: いいかね… よかろう、分かった。協力しよう、しかし聞いてほしい! 我が偉大なる頭脳でさえ完全無欠ではない、アルト。カインならあらゆる事を覚えていられるが、私は、えー — それと全く同じ形式では記憶していられないのだよ。とは言え、取っておきの思い出も少々あるし、もしかすると… 君たちにはそれなりに役立つかもしれんね。
クレフ博士: 出身地は何処だ。
SCP-343: おいおい、落ち着きたまえ。オーケイ、出身地だな。いや全く、歴史は繰り返すというのは面白いものだ。あの当時の世界はもっと不思議に満ちた場所だったが、その神秘的なエネルギーのおかげで何もかも今と同じように見えたよ。今と言ってもこの瞬間じゃない、ここ数千年間という意味での今だ。私は遥か昔、海がせり上がった時に存在しなくなった土地に生まれた。本名はマテュー、というより… 君は最初の言語が何かを知っているかね?
クレフ博士: エジプト語かな?
SCP-343: あぁ、そう考えるだろうが、実は違う。カナン諸語だよ — まさしくあのやくざ者のカインに因んで名付けられたんだ、恐らく奴は何かを書き記した一番最初の人間だからな。当時はそれほど差異も無かったが、フェニキア語に似ていた、少なくとも文字体系はそうだ。私らは単に“カインの舌”と呼んでいたがね。ともかく、私の本名はマテューで、母の名はマイラだった。父は… どうも、父の名は覚えているか怪しいな。 (合間) 変わったこともあるもんだ。父は谷間の王者、𐤀𐤋𐤌 - ウレムに仕える王室付きの役人だった。私はその王宮で育った。 (笑う) 笑えるほどあっさり思い出せたな。私がカインの舌で話していた時期からどれだけ経ったか分かるかね? 奇妙だねぇ。
クレフ博士: アポリオン王家とは何だ?
SCP-343: あぁ、彼らは空の王者だ。最強にして最古の人間の王国だと自称していた。人々はアポリオン王が神々の宮殿から大いなる財宝を盗み出し、それによって王国を支配するようになったと噂していた。そこにどれだけの真実が含まれていたかは知らんが、巷ではそう言われていた。
クレフ博士: そいつらに何が起きた?
SCP-343: アポリオン王家にかね? さて、それは… 口で言うのは難しい。彼らは世界一の勢力を誇っていたが、ある瞬間から… そうではなくなった。確か戦があったはずだ… アポリオン王は若者たちを徴兵して軍に入隊させ、全ての豪族たちは応じなければならなかった。何かの戦役があったのははっきり覚えている。その後… 王が死んだか殺されたかして、王子も死んで… 少し考える時間をくれ。
合間。
SCP-343: おぉ、そうそう、すまん。寓話だと一番良く思い出せる。4人の騎士にまつわる物語があった。3人は王を裏切り、最後の1人は愛する王を喜ばせるために破滅へと向かった。名前は何だったかな…?
合間。
SCP-343: 君らがどう翻訳するかは知らん、しかし私の記憶違いでなければラハイア、ランセルト、エジエ、ヘクテルだ。最初の3騎士が裏切り者で、最後の騎士が王を愛した。そんな感じの話だ。呪いがどうのこうのという件もあったと思う。何にせよ、騎士たちに何があったか私は知らん。ある日、連絡が途絶えたと思うと、次の日にはアポリオナの山々を越えて煙が立ち昇った。時と共に、旅人たちの口から、無数の顔を持つ怪物やら、姿を見た物を殺す生き物やらの断片的な情報が入るようになった。
合間。
クレフ博士: どうした?
SCP-343: その、こうして話していると、色々込み上げてくるものがあってな。私はまだ… そう、多分まだ幼い少年に過ぎなかった。あの… どう言葉にしたものか… あの荒れ狂う戦慄、6つ目の怪物 — 山のような巨体。叩き壊し、叫びながら、身体を引きずるように海から遠ざかって北方へと向かっていった。思わずゾッとする姿だった。ある男が、あの怪物は旧世界の生き物で、何か奇妙な出自なのだと教えてくれたのを覚えている。当時はどういう意味か分からなかったが、時期的にそれで良かったのだろう。アポリオナから来た怪物だったに違いない。確か、恐ろしい鉄鎖が腕に巻かれていて… そうだ。間違いなくアポリオン王家には破滅が訪れたが、具体的にどういうものだったかはもう分からんよ。
クレフ博士: いいだろう。じゃあ、夜闇の子らについては何を知ってる?
沈黙。.
クレフ博士: おいっ、大丈夫か?
SCP-343: あ…
クレフ博士: おい司令室、医療-
SCP-343: いや、いやいや、失礼した。大丈夫。ただ… 彼らは確かにそう呼んでいたよ。つまり、妖精たちがだ。もしかしたら、奴らを生み出すためにどんな冒涜に手を染めたにせよ、それを受け入れやすくするための呼び名だったかもしれん。 (合間) すまん、アルト、私は…随分と長生きしてきた。歳月と共に忘れた出来事も数多い。あの血を身体に入れた時 — 延命のためにな、もう分かっとるだろうが (引きつった笑い声) — 私はそこまで考慮していなかったが、良くも悪くも忘れてしまうことはできる。だが… 無理だ… 忘れられるものか。奴らを忘れることはできない。
クレフ博士: 奴らってのは?
SCP-343: 奴らは… その当時の私はまだ若い魔術師で、人生も始まったばかり、せいぜい60か70歳だった。母が病死して間もなく私はウレムを去り、砂漠を旅して、マリドラウグ家のダエーワ、魔術師レリヴァインに師事していた。海から遠く離れた地だから、誰も奴らが来るとは予想していなかったろう…
クレフ博士: 何が起きたんだ?
SCP-343: 私には… 奴らが何故存在するのか、本当に分からない。物語だけがあった — 物語は常にあった。妖精の王が竜から自分を護ってくれる騎士を求めて祈ったら、その騎士は魂の無い人間だった、とか何とかそういう話がよく語られた。ほとんどの人々が妖精族を見たことがなくても、私らは妖精について知っていた。妖精は海の向こうに住んでいて… 名前は忘れたが、海岸に白亜の都があり、そこに行けば星の良く見える夜に妖精たちと取引できる — 物語ではそうだった。奴らはな、アルト、ブギーマンやグールのようなお伽噺の怪物だった。母親が夜な夜な子供に警告するような怪物。暗闇で何かが動く音を聞いた時に連想するような怪物。時と共に失われる恐怖に過ぎなかったはずなんだ。
合間。
SCP-343: 初めて奴らをこの目で見た日を覚えている。あれは夏の夜のことで、西には城塞よりも高くそびえる砂丘があった。遠く離れていても奴らの姿は目に付いた — 図体がデカくて、人間より遥かに長身で、身体じゅうが黒と灰色のもつれた毛に覆われているんだ。まるで… 一度も直に人間を見たことの無い誰かが、人間とはこういうもんだと描いたような姿だった。目は暗闇で輝いていて、それで奴らは… 大体50匹ほどが1列に肩を並べて突っ立っていた。私らは近寄って話しかけようとしたが、奴らはただこちらを見つめるばかりだった。そしてあの… あの身の毛もよだつ声、子供がくすくす笑うような、半ばキィキィと鳴くような人間味の無い声で笑って… 薄気味悪い歌を甲高い声で歌うんだ。私の師匠は大判事でもあり、相当な実力のある魔術師だった。師匠は奴らを追い払おうとして、奴らは…
クレフ博士: 奴らはどうした?
SCP-343: 奴らは… 師匠を八つ裂きにした。まるで玩具のようにゆっくり掴み上げて… 師匠の魔法から全く影響されていなかった。彼の身体を引っ張り始めて、笑いながら裂いたんだ。で、私はそこまで見て逃げようとしたが、結局は無理だった。奴らはどんな人間よりも素早く、逞しかった。槍で突いても刃が通らず、秘術の効果はまるで無かった。どうやら奴らは火を嫌うようだったが、それで傷付くわけではなかった。奴らは私らを一網打尽にすると、黒い鎖に繋いで、海岸に停泊した船団まで引きずっていった。私は… 歳取った農夫の身体の上に横たわってどうにか生き延びた。農夫は三日三晩ずっと泣きながら命乞いをしていたよ。私らが海岸に着いた頃には、彼はもう動かなくなっていて、私が身体を裏返すと中身が全部零れた — 松材を紙やすりで擦るように、地面との摩擦で身体が半分になっていた。
沈黙。
SCP-343: 奴らの長船には、横になる隙間もないほど大勢の人間が積み込まれた。最初の1週間が過ぎると、状況はまだマシになった — 大勢死んで、そいつらの倒れた屍の上に座れるようになったからだ。侵略者どもは私らに何を食わせていいか分からなかったらしい — 生肉と海水が与えられたが、少なくとも私はどうにか海水を飲み水に変換できた。1ヶ月後、私らは妖精族の古い森がある岸辺に辿り着いたが、そこは物語に聞く様子とは違っていた。奴らは生きた者も死んだ者も鎖に繋いだまま暗闇に引きずり込んで… そして…
沈黙。
SCP-343: 覚えているのは、そこが酷く暗かったことと、まるですぐ傍で見下ろされているかのように、奴らの不潔な体毛が身体に擦れるのをいつも感じていたことだ。1匹が闇の中でひっそりと傍を通り過ぎるたびに、いよいよ自分の番かと覚悟した。奴らは鎖に繋いだ私らを樹々から吊るし、時たまやって来ては熟したリンゴを摘むように誰かの手枷を外して… 弄んだ。胴体に穴が空くほど勢いよく指で突いたり、眼球が顔から飛び出すほどの力を込めて揉んだりした。ある時… おお… 今思い出した、あの女は妊娠していた — 死んだ母親の肉を食って船旅を生き延びた女だ、それを奴らは… 真っ二つに引き裂いた。アルト、まるで君がポテチの袋を開けるのと同じようにな… 何でもない事だった。奴らはほとんど反応もせず、ただ例の忌まわしい笑い声を軽く発してから血まみれで遊び始めた。奴らは彼女を裂き、そして押し潰した… 奴らは…
沈黙。
SCP-343: 奴らは眠らなかった。一度もだ。私らは寝ようとすれば寝れたが、奴らは目を釘付けにして見張っていた。そして眠ると… ますます酷い目に遭わされる。現実世界で起きている間、奴らが私らにできる事は限られていた。だが奴らは夢の中にも現れるんだ。しばらくして、私らは… どうやら奴らはそうやって意思疎通しているんだと気付いた。奴らは悪夢の中でお互いに話しあう。だから私らを森に繋いでおいて、私らが見る悪夢の中でお喋りしようという魂胆だったのさ。奴らは悪夢の中に自分たちの歴史を全て記録していた、私らはそこで… いつでもある決まった光景を目にした。1人の妖精の女が、他の小さな妖精たちに囲まれていて、ふと振り向くと、目の届く限り遥か遠くまで続く侵略者どもの行列が、ただその妖精女を見ている。奴らはいつも… 惨めそうで、悲しげで、そしてどうにも人間を憎んでいるようには感じられなかった。奴らはただ、私らと考え方が違うんだ。
クレフ博士: どうやって逃げた?
SCP-343: 逃げた? ハッ。誰も逃げられやしない。逃げられるのは死ぬ時だけ、そして奴らはその死体を… 自分たちの神に捧げるために穴に投げ込む。私らは… 穴に放り込まれた人々は悪夢の一部になるんだと噂していた。時々、寝ている間に、友人たちの顔を見ることがあった — だが彼らの顔はいつもねじれて… かつての顔を不気味に真似たような有様になっていた。そして何よりも目 — 目だよ、アルト、目を通して彼らの心が見えた。妄想の仮面の裏側で、彼らは怯えていた。 (合間) しかし、私らは孤独じゃなかった。人間の他にも、あの森に住んでいた妖精たちが同じ黒鉄で縛られていた。彼らは何処か様子がおかしかった — 具体的にどう、とは思い出せないが、彼らからは言葉にできない何か、口に出せないような何かを感じた。妖精たちは誰もが精神的に参っていた。こう、つまりだな… 彼らはこういう扱いに対応できない種族だった。いやその、私らもそうだが、中には計画を立てたり策を練ったりする者もいたさ。悪夢から逃れたいと望む者たちだな。ところが、妖精たちはただ心を折られていた。
合間。
SCP-343: しかし… 確かに逃げたと言うこともできる。旧家であるラメント家に生まれた、ノアという名の魔術師がいた。彼が全てを成し遂げたんだ。侵略者どもは私らを必要としていた — 奴らの文化は何もかも私らの恐怖心に依存していたから、奴らは私らのために恐怖を作らなければならなかった。私らの悪夢が無ければ、奴らは仲間同士でまともに話すことさえできない。ノア爺さんはいつも、私らを助け出す計画があると言っていたが… ある時、姿を消した。皆、ノアは侵略者どもに連れていかれて、残酷な終わりへ引きずられていったと思った。ところが… ある日、太陽が林冠から顔を覗かせ、全ての花々が一斉にあらゆる場所で咲き乱れた。
合間。
翌日は雨だった、そしてその次の日も。雨は1週間降り続け、それが1ヶ月になり… 私らが遂にノア爺さんを見つけた時には、彼の身体は秘儀のシンボルに覆われ、完全に使い果たされて煙を上げる抜け殻に過ぎなかった。それでも雨は降り続け、谷には水が満ち始めた。初めて、初めて1匹の侵略者が死ぬのを見た時を覚えている… 足を滑らせて、水が流れ込み始めた穴に落ちたんだ。穴の中にいた人間たちは水位が上がると泳いで逃げたが、その侵略者は穴底にぴったり足を付けたまま立ち尽くしていた。浮かびもせず、水位が上がるのを見つめていた。他の侵略者どもは穴の周りに集まって、ただ落ちた奴を見下ろしながら歌ったり鳴いたりしていて、そこでようやく私らも気付いた… 私らが誰も眠っていないから、侵略者どもには落ちた奴の助けを求める声が聞こえないんだと。そいつは… まぁ、終いには少しバタついたが、とうとう穴からは上がってこなかったし、水かさは増し続けた。
クレフ博士: お前自身はどうやって逃げ延びたんだ?
SCP-343: 終わりが近付き、海が海岸線を越えて寄せて来た時、奴らは森中から私らを集めて — きっと数百万人はいただろうな — 奥地へ引きずっていこうとした。そこに奴らの神がいた。だが奴らに手抜かりがあったか… 或いは気付かなかったのかもしれないが、私らはこっそりと逃げ出すことができた。人間だけじゃない — まだ機転の利く妖精たちが一緒だった。南の山々を目指して走り… 通った道は森を何マイルも遠くまで見渡すことができた。森の境界を脱出した時、いよいよこれで見納めだと振り返った時、それを目にした。
クレフ博士 何を見たって?
SCP-343: 奴らの恐るべき神だ、アルト。醜怪で、膿み爛れ、太陽の下の死体のように膨れ上がっていた。あの時は空が黒雲と雨ばかりで暗かったが、それでも見えた。根元には赤い光があり、枝からは人々が吊られていた。一緒に来た妖精たちの中には — あれを見た時に — すすり泣き始めて、森に駆け戻った者たちも何人かいた。それだけでなく、聞こえたんだ — それが呻き、歯軋りし、叫ぶ声がな。しかし、残りの者たちは走り続け、やがて世界は水没した。私らは南の山で、敢えて言うなら100年ばかり暮らし、水が引く頃には世界は様変わりしていた。侵略者どもは姿を消し、妖精族は古い森に帰り、私ら人間は… 私らなりの生活を始めた。
合間。
SCP-343: アルト、ちょっとだけ、心底から真面目な話をさせてほしい。今更気付いたが、私にこんな事を訪ねに来たからには、間違いなく君らには答えを探す理由があるに違いない。侵略者どもが大洪水の底で、奴らの屍神に縛り付けられた哀れな人々と一緒に溺れ死んだというのは、長らく私の… 私の希望であり… 信念だった。だが、もし… もし君らがそうではないと… 例えば… 奴らが生き延びたという証拠を握っているのなら… アルト… 私はもう嫌なんだ。これだけの時が流れた後でそれは無い。もしそうなら… 私はここを出て行く。正直に話してくれ。お願いだ、アルト。教えてくれ。もう二度とあんな目に遭いたくない。あの暗闇に戻りたくない。
クレフ博士: 心配するな、そんな事を信じるだけの理由が無い。
SCP-343: 君を信用できればどんなに良かったかね、アルト、だが君の目には嘘が見える — わざわざ現実を曲げなくても見通せるぞ。頼む、聞いてくれ — あの獣どもを探すんじゃない。見かけたら逃げなければいかん、君らの飛行機でさえ十分ではないかもしれないと肝に銘じろ。奴らの文明は人間の恐怖に頼っている、アルト。その意味が分かるか? 奴らが地に埋もれているのなら、埋もれたままにしろ。頼む、どうか理解してくれ。奴らは埋もれたままにしておかなければいかんのだ。
補遺 6666.11: 探索ログ
以下はSCP-6666が存在する洞窟の底に位置する森林の探索遠征中に得られた映像・音声の書き起こしです。洞窟底面への移動は、アルファ・タワーの展望台から、森林まで約1.2km離れた探索開始地点まで、改造した居住モジュールを34km降下させて行われました。
探索チームの隊員たちは、フィルター付き呼吸器を備えたクラスCポリシェル陽圧探査スーツを着用しました。各スーツには大気監視システムが搭載されており、SCP-6666神経毒の濃度が危険なレベルまで上昇したのをシステムが報告した場合は、緊急時用の予備酸素タンクが利用可能になる仕組みでした。
探査映像ログ書き起こし
日付:2019/5/26
補佐チーム: 機動部隊 ヘート-1 "ロンギヌスの槍"
対象: SCP-6666
部隊長: 1-𐤇 エストレイ指揮官
焼灼チーム: 1-𐤇 キャリアー / 1-𐤇 ホライゾン / 1-𐤇 トリプル / 1-𐤇 プレッシャー / 1-𐤇 グラス
研究チーム: ビショップ博士、ムーア博士、グティエレス博士、習シー博士

N/A
[記録開始]
1-𐤇 エストレイ: 通信オンライン。 (合間) 司令室、聞こえるかしら?
SAFOS司令室: 聞こえている、指揮官。映像も今オンラインになった。
映像通信がオンラインになる。1-𐤇指揮官 エストレイは森林の端近くに立っており、隣に1-𐤇 キャリアー、ホライゾン、トリプル、プレッシャー、グラスが並んでいる。監督役のビショップ博士と、彼女が率いる調査チームのムーア博士、グティエレス博士、習博士が傍に控えている。
SAFOS司令室: 指揮官、こちらからははっきりと見える。信号は良好だ。他の皆にも信号テストをしてもらえるかな?
1-𐤇 エストレイ: ええ。ざっと済ませちゃって。
1-𐤇 ホライゾン: ホライゾン、チェック。
1-𐤇 グラス: グラス、チェック。
1-𐤇 キャリアー: キャリアー、チェック。
1-𐤇 プレッシャー: プレッシャー、チェック。
1-𐤇 トリプル: トリプル、チェック。
ビショップ: こちらビショップです、チェック。
グティエレス: グティエレス、えー、チェック。
SAFOS司令室: グティエレス、もう一度頼む。
グティエレス: チェック、司令室。こちらはグティエレス。
SAFOS司令室: 受信した、オーバー。
習: 習です、チェック、チェック。
SAFOS司令室: 了解、全員良好のようだな。位置確認を。
1-𐤇 エストレイ: エレベーターからおよそ1km、樹木限界線からは大体200m。
SAFOS司令室: 了解、指揮官。大気清浄度はどうだ?
1-𐤇 エストレイ: グラス。
1-𐤇 グラス: 現在地の数値は2.3から6.1 ppmの間であります、司令室。
SAFOS司令室: 了解、グラス — こちらの数値と一致する。チーム、諸君を森の中でどこまで正確に追跡できるか定かでないのを心に留めてほしい — 我々のカメラでは樹々の隙間から熱を検知するのが難しいから、弾道支援が必要な場合は迷わず照明弾を撃つか、葉に火を点けてくれ。
1-𐤇 エストレイ: 了解、司令室。でもあまりウチの部下に余計なアイデアを吹き込まないであげて。坊やたちは火炎放射器を装備できてテンション上がってるみたいだから。
1-𐤇 キャリアー: 今のは無視してくれ、司令室、俺たちは何も問題ない。厄介事が起きそうになったらすぐにでも放火できる。
SAFOS司令室: 分かったよ、指揮官、彼らをしっかり紐に繋いでおくように。
1-𐤇 エストレイ: そちらも了解、司令室。 (合間) オーケイ、準備できたと思う。皆、用意は? (合間) 良し。行きましょう。
チームは森の境界に接近する。1-𐤇 エストレイは事前に偵察された侵入ポイントを身振りで指し、チームは森に入る。
森の中は極めて暗く、観測塔の投光ランプや、アクセスシャフトから差し込む太陽光が遮られているため、洞窟そのものの内部よりも視界が悪い。チームが移動可能な空き地はあるものの、森の内部空間は大部分が太い暗色の枝葉に覆われている。
1-𐤇 プレッシャー: で、ここで何が見つかると想定してるんだ、ビショップ博士?
ビショップ: 何とも言えません。マルサス博士が我々の研究にとって貴重だと考えそうなものは、本当に千差万別ですからね。ニガヨモギか例の樹木そのものによって、非常に多くの物が洞窟内に引きずり落とされていますから、我々が収集・翻訳できるなら何であれ有益ですよ。
1-𐤇 キャリアー: 確かその名前は前も聞いたな — ニガヨモギ。ニガヨモギってのは何だ?
ビショップ: それは — ああ、習、あなたは担当チームに在籍していましたね?
習: ええ、はい。一昨年の配属先でした。ニガヨモギは… そう、そもそもはダエーバイトの兵器でした。ダエーバイトも大洪水前時代の種族の1つですが、空の王者やジャー・ジャーテリZha Zhateriとは違って — 彼らは血の魔術師でした。ダエーバイトは歴史上のある時点で、夜闇の子らが文明を丸ごと地中に引きずり込める兵器を所持していると知りました。ダエーワはこれに原始的な原爆相当の価値を見出し、自分たちの物にしようと海を渡って森へ… ふむ。もしかしたらこの森かもしれませんね?
ビショップ: ちょうど同じことを考えていました。
習: ともかく、ダエーワは10万の犠牲を払ってニガヨモギの種を入手しました。敵の陣地の地中に1粒でも埋めると、それは密かに成長しながら土壌を動かし、ある日地上の人々を呑み込んでしまうのです。ダエーワは更に独自の魔術で種を強化しました — 都市が地中に消えると、人々が即座にその存在を忘却してしまうようにね。
1-𐤇 キャリアー: でもって、その種はあの大木から来た、と。
習: そうだと思います。今はもう根っこ以外何も育っていませんが、多分この辺りの何処かにもっと種があると言っても過言ではないでしょう。
1-𐤇 トリプル: どうして奴らはわざわざこんなに沢山の物を洞窟に引き込んだんだろう。
ムーア: さぁね… 073が言うには、夜闇の子らは最初の人間を殺すために創られたらしい。他にやり方を知らなかっただけじゃないかい?
1-𐤇 ホライゾン: ふざけた話があるもんだ。
チームは森の中を2時間歩き続ける。無関係な会話を除去。
SAFOS司令室: エストレイ指揮官、注意せよ — 現在、位置情報に若干の問題が生じており、諸君から届く信号が徐々に散発的になっている。これは技術的な問題だと思うが、追って通達するまで、こちらからは諸君の居場所を継続追跡できない。
1-𐤇 エストレイ: 了解、司令室、その場で待機してほしいなら伝えて。
SAFOS司令室: 前進を許可する、指揮官。状況の変化は何であれ我々に知らせてくれ。
1-𐤇 エストレイ: 了解。
1時間分の無関係な会話を除去。
グティエレス: すごく静かだ。
1-𐤇 プレッシャー: ああ。
ムーア: 普通なら、森があれば鳥やら虫やら… 何かしらいるもんだがな。ここには何もない。
1-𐤇 トリプル: しっかり前を見据えろ。
1-𐤇 エストレイ: 見えた。
チームは正面の小さな空き地の奥に生えた1本の樹に接近する。垂れ下がった大枝が、先端の尖った長い耳と大きな眼窩を有する、痩せ衰えた小柄なヒト型実体の身体に突き刺さっている。
1-𐤇 キャリアー: こいつは何だ?
ビショップ: 妖精ですね。見てください—
ビショップ博士は死体に歩み寄り、その頭部に付着した毒煙の残渣を手で拭い取る。チームの肩部装着式トーチの明かりで、死体の頭髪が明らかに銀色であることが分かる。
習: ビショップ、あれを — 後ろです。
ビショップ博士は死体の背中側に手を伸ばし、死体と樹の間に挟まった小さなポーチを取る。彼女がポーチの口を緩めて引っ張ると、小さな布袋が出て来る。ビショップ博士は布袋を開け、小さな棒と葉の束を取り出す。
1-𐤇 グラス: それは何でしょう?
ビショップ: これは多分… ああ。人形ですね。
1-𐤇 グラス: ああ。
ビショップ: 中身はただ… はい。玩具しか入っていません。彫刻された小石や小物。
1-𐤇 エストレイ: 回収する必要はありそう?
ビショップ: グティエレス、写真を何枚か撮ってください。ええと、ここに留まる必要はなさそうです。先へ進みましょう。
チームは先へ進む。1時間分の無関係な会話を除去。
1-𐤇 エストレイ: そろそろ位置を確認しましょう。司令室、聞こえる?
SAFOS司令室: 聞こえている、指揮官。
1-𐤇 エストレイ: 位置情報を確認してもらえるかしら? 私の見積もりでは、現在アルファ・タワーの下にいるはずよ。
SAFOS司令室:了解した。少々待ってくれ。
沈黙。
SAFOS司令室: エストレイ指揮官、こちらでは現在も技術的問題が続いており、君のチームのどの隊員の位置情報も受信できていない。
1-𐤇 プレッシャー: マズいな。
1-𐤇 エストレイ: 了解、司令室。そっちの問題が解決するまで、当分ここで野営する。
SAFOS司令室: 了解。こちらからも随時連絡する。
1-𐤇 エストレイ: プレッシャー、トリプル、HABテントをあの2本の樹の間に張ってちょうだい。空気清浄器を出してスーツの埃取りをしましょう、少しの間ここに腰を下ろして問題が解決するのを待つわ。
探索チームは膨張式陽圧居住テント (HAB) と空気清浄器を使ってキャンプの設営を開始する。無関係な会話を除去。数時間待機した後、チームは監視シフトを決めてから眠る。
時間が経過する。無関係な会話を除去。
現地時間の03:51。1-𐤇 ホライゾンが監視を担当している。ムーア博士が突然叫びながら飛び起きる。
1-𐤇 ホライゾン: おいどうした? 何があった?
ムーア: み… 見た… (荒い呼吸)
1-𐤇 Aエストレイ (目覚める) 何が起きてる?
ムーア: すまない、その… (深呼吸する) たった今、夢を見た。誓って — 誓って言うがあれは現実だった、ここに今座ってるのと何も変わらなくて、ただ…
ビショップ: 何を見たのですか、アリスター?
ムーア: それが… 森の中に続く小道があって、そこを歩いていたら… 例の樹に刺さっていた妖精の姿が見えたんだ、次にその傍の溝に倒れてたもう1人の妖精、そして… 暗闇の中でもはっきりと、昼間のように周りが見えたけれど、全て恐ろしく赤い色合いだった。ここを通り過ぎて、HABを見た… その後は歩き続けて、やがて… 何だろう、林冠か、その真ん中に穴が空いていて、誰かの声が「悪魔は20マイル下に居るが、更なる深部には何が居る?」と言うのを聞いた。僕は穴の縁から覗き込んで、そこから落ちて… でもね、ビショップ、あの感覚は今ここで君と座ってるのと全く変わらなかった — ちょっと説明できない。
ビショップ: 大丈夫、あなたは無事ですよ。私もよく眠れませんでした。
1-𐤇 エストレイ: 司令室、こちらエストレイ。聞こえる?
SAFOS司令室: 聞こえているよ、指揮官、続けてくれ。
1-𐤇 エストレイ: ムーアがアーノルド博士の報告書にあった心理的な影響を受けているの。私たちが取るべき予防措置を確認してくれないかしら?
SAFOS司令室: 了解した、指揮官、少々待ってくれ。
ムーア: 指揮官、すまない、僕は元気だから心配する必要は無い。
1-𐤇 エストレイ: いいのよ、ムーア博士、安全が第一だからね。
SAFOS司令室: エストレイ指揮官、それらの精神影響は森の中心に近付くほど重症化すると信じるに足る理由がある。
1-𐤇 エストレイ: それは前以て分かってたの? どうして事前に説明が無かったのか気になるわね。
SAFOS司令室: 現時点では確証できないからだ、指揮官。
1-𐤇 エストレイ: 了解、司令室。他にも知るべき情報があるなら、もっと早く伝えて、お願い。
SAFOS司令室: 了解、指揮官。
1-𐤇 エストレイ: 荷造りしましょう。必要以上にここで時間を無駄にしたくない。
探索チームはHABモジュールを畳み、キャンプ地から南西に向かって出発する。2時間分の無関係な会話を除去。
チームが森の中を進み続けていると、1-𐤇 トリプルが停止の合図を送る。
1-𐤇 トリプル: 指揮官、見てください。ビショップ博士、これは何だと思います?
1-𐤇 エストレイ: これは… 階段?
1-𐤇 トリプルは近くの巨木を身振りで指す。1本の階段が幹から突出し、上に向かって螺旋状に伸びているのがはっきりと分かる。
ビショップ: そうですね。
1-𐤇 ホライゾン: 俺の思い込みじゃなきゃ、この樹の幹のど真ん中から生えてるように見えるな?
1-𐤇 グラス: 指揮官、ビショップ博士。上をご覧ください。
1-𐤇 グラスが上方を指差し、チームの他メンバーが照明を上向きに調整する。遥か頭上の林冠に、木材や樹々の枝から形成されていると思しき、ねじれた奇妙な構造物がある。構造物の形状は森そのものとは調和しておらず、あたかも森の外にある廃墟が樹上に複製されたように見える。
チームが周囲を調査していると、習博士が一同に沈黙を促す。
習: シーッ… 聞いてください。
沈黙。
1-𐤇 キャリアー: 俺にも聞こえたぞ。ありゃ何だ?
習: 風でしょうか?
1-𐤇 グラス: 風は吹いていません — 他の何かであるはずです。何処から聞こえてくるのでしょう?
1-𐤇 エストレイ: あっちだわ。付いて来て。
チームが森を進み続けるにつれて、建造物や、論理的な終点を見せずに樹々の間を通る奇妙なカーブした小道が密度を増してゆく。空気の動く音が徐々に明瞭に聞こえてくる。
1-𐤇 エストレイ: 司令室、こちらエストレイ。私たちの位置確認をしてもらえる?
沈黙。
1-𐤇 エストレイ: 司令室、聞こえる?
沈黙。
1-𐤇 エストレイ: グラス、通信回線は繋がってる? 何が起きてるの?
グティエレス: おい、あれを見ろよ。空き地だ。
ビショップ: 中心に何かありますね。
1-𐤇 エストレイ: 勘弁してよ。グラス、お願い、もし可能なら-
1-𐤇 グラス: 今取り組んでおります、指揮官、ご辛抱ください。
チームは密集する樹々の隙間を抜け、グティエレス博士が指した方角に向かう。程なく、チームは隙間を抜けて広い空き地へ入る。
ムーア: ここだ。嗚呼、なんてことだ。
1-𐤇 プレッシャー: こいつはいったい何だ。
チームが辿り着いた空き地はほぼ完全な円形で、背が低く太い草が一面に生えている。頭上には周囲の森よりも遥かに大きな樹々がアーチ状に覆い被さり、互いに絡み合って、森の中に巨大なドームを形成している。頭上の樹々のアーチからは数千体のヒト型の死体が吊るされており、その一部は明らかに人間だが、その他はチームが樹の枝に突き刺さっているのを見つけた実体に似ている。全ての死体は、ドームの最頂点に取り付けられた太い黒色の鎖に、何らかの形式で繋がれている。
空き地の地面は下に向かって傾斜しており、チームのおよそ110m前方にある最下点には、約30m×50m×2mの特徴に欠ける巨大な石板がある。
ムーア: ここは… 僕が夢に見た空き地だ。でも底には穴が空いていたはずで、あの… あんな物は無かった。
1-𐤇 ホライゾン: ふん、見た目からして全く気に食わんな。
1-𐤇 エストレイ: 気を引き締めなさい、チーム。ビショップ、あなたが探してたのはあの板?
ビショップ: ええ、多分そうだと思います。
習: これがオスモンの言う“暗い穴”だと思いますか?
ビショップ: ええ。我々が求める答えはこの下にあります。
1-𐤇 プレッシャー: そいつは素晴らしい、だがどうやってあれの下に潜り込むつもりなんだか、俺にはさっぱり分からないね。6,000トンはあるに違いないぞ。
1-𐤇 グラス: 動かす必要はありません、あそこをご覧ください。入口です。
1-𐤇 グラスは石板の最も遠い角の近く、かなり大きく破損している部分を指す。割れた石材の破片は、近くの草むらの中に50cmほどめり込んでいる。
1-𐤇 エストレイ: 行くわよ。
チームは石板の破損部分に接近する。1-𐤇 エストレイは割れ目に近寄り、中を見下ろす。
1-𐤇 エストレイ: かなり深そう。ホライゾン、発炎筒を貸して。
1-𐤇 ホライゾンは自身のパックから発炎筒を取り出し、1-𐤇 エストレイに手渡す。1-𐤇 エストレイは発炎筒に着火し、割れ目から下へ落とす。発炎筒は約12m落下した後、石の上に着地する。
1-𐤇 エストレイ: あら。そこまで深くなかったわね。梯子を設置して、この岩に固定しましょう。
1-𐤇 キャリアー: (石板の破片を調べながら) なぁ、この欠片だけでも2、3トンはあるんじゃないか? それがどうしてこんな離れた場所にある?
グティエレス: 例の風みたいな音、聞こえるか? この下からだ。
1-𐤇 エストレイ: ええ、私も聞こえる。ビショップ博士、撤収まで30分ぐらい地下で過ごすことになるわよ。理解してる? 通信は途絶えてるし、エレベーターに戻るまで最低でも6時間は歩かなきゃならないし、わざわざこの穴を開けてくれたのが何者にせよ、ぶらぶら歩きながらそいつを待ち受けるのは正直気が進まないのよ。
ビショップ: 理解しています。それで構いません。
1-𐤇 エストレイ: 分かった。キャリアー、グラス、私と一緒に来て。ホライゾン、プレッシャー、トリプル — あなたたちには待機してこのエリアを見張ってもらう。
ビショップ: アリスター、パブロ、あなたたちはフィールドチームと一緒に待機です。この空き地で何か見つけられそうかを確認してください。
ムーア: はい、マム。
グティエレス: ああ、勿論だ。
ビショップ: 習、私に同伴してください。
習: 了解です。
1-𐤇 エストレイ、1-𐤇 キャリアー、1-𐤇 グラス、ビショップ博士、習博士は梯子で石板の地下へと降りる。空気の動く音は地下洞窟ではより明瞭に聞こえるようになる。
1-𐤇 エストレイ: 投光ランプを使いましょうか — どういう訳だか、上よりも暗いわ。
洞窟探索班の5名全員が各々の投光ランプを点け、周囲を完全に照らし出す。石室の壁は滑らかな灰色の石で造られており、石室自体は一辺が約5mで、上の石板まで垂直に延びている。壁に沿って岩に凹みが生じている — 多くは空洞だが、鎖で縛られた木箱が置かれている凹みも幾つかある。壁には太い金属の鉤が取り付けられ、天井からは更に多くの鎖がぶら下がっている。北壁に1枚の扉がある。
ビショップ: あそこですね。行きましょう。
チームは扉を抜けて長い廊下に入る。廊下の壁にはより多くの凹みがあり、木箱が入っているものもあれば、様々なヒト型生物や動物の骨が入っているものもある。幾つかの凹みは厚い結晶質の蝋で封印されている。1-𐤇 キャリアーが身振りで1つの凹みを指す — この凹みの中には、岩に彫り込まれた壁画がある。壁画は、数百体の暗い影が、中心に赤い物体を内包する巨木の下に立っている様子を描写している。
繁茂する根で塞がれた数本の廊下を通り過ぎながら進むにつれて、ヒト型の姿が鎖で縛られたり、死体が詰まった穴に落とされたり、火を点けられたりする様々な情景を表す壁画が増えてゆく。ほぼ全ての壁画に同じ樹木と赤い物体が描写されている。廊下は西に向かって湾曲しており、1-𐤇 エストレイは身振りで角を曲がるように促す。廊下が再び直線路になると、チームは終端に大きな石造りの扉があり、その表面全体にまた別の壁画が描かれているのを見る。この壁画には、身を丸めている漠然と女性的な巨大実体の足元に、黄色の目を有する暗い影の集団が身を寄せ合う様子を描写している。頭上に暗雲が立ち込める中、女性型実体は影の集団を無数の腕で包み込んでいる。1-𐤇 エストレイが近寄って手前に引くと、扉はあっさりと開く。チームの他メンバーたちを一瞬振り返った後、1-𐤇 エストレイは頷いて扉を抜ける。
チームは2つの階段 — 左側に上り、右側に下り — がある円形の部屋に入室する。上り階段は完全に塞がれており、石や瓦礫が上方から落ちてきたかのように吹き抜けを埋め尽くしている。1-𐤇 グラスは速やかに大気モニターを手に取り、室内で有毒微粒子の濃度が高まっているのを確認する。ビショップ博士は下り階段に近付き、自分に続いて降りるようチームに促す。チームはおよそ20m降りて踊り場に至った後、向きを変えて更に20m降りる。階段の最下部には大きなアーチ型の開口部がある。アーチをくぐり抜けたビショップ博士は突然立ち止まり、片手を挙げる。1-𐤇 エストレイが横に並ぶ。
チームの前方には、広大な石室が全方位に目が届く限り広がっているが、天井は低い。アーチ門を取り巻き、またその周囲にも同心円を描くようにして、全身に滑らかな黒い体毛が生えた大柄なヒト型生物群が身動きせずに石造りの床に座り、胎児のように身体を丸めている。どの生物もSCP-6666から放出されていた有毒微粒子で覆われている。1-𐤇 グラスは自らの耳に手を添え、他のチームメンバーも頷く — 空気の動く音は、この身を丸めた無数の生物たちがゆっくりと、一斉に呼吸しているためである。
一方、上方の林冠に包まれた空き地では、グティエレス博士とムーア博士が石板の外観を調査しており、プレッシャーとトリプルは森を見張っている。突然、何かが樹々の間で動く音が響き、プレッシャーは空き地の東端に目を向ける。
1-𐤇 ホライゾン: 今のは?
1-𐤇 プレッシャー: 何かが森の中で動いたな。耳を澄ませ。
ムーア: 何かって?
1-𐤇 プレッシャー: シーッ、耳を澄ませ。
沈黙。
唐突に、空き地で待機していたチームメンバー5名全員が奇妙な音を聞き取る。それはまるで子供の笑うような声だが、不自然に間延びし、遠く離れた場所から聞こえるかのように反響している。ムーア及びグティエレスは石板の端からプレッシャー及びホライゾンのいる方へと動き、トリプルは空き地の端へと進む。先ほどの笑い声が、今度は待機メンバーたちの背後にあたる西側から再び聞こえる。チームメンバー5名全員が空き地の西端に目をやると、笑い声は上方から聞こえてくる。
ムーア: いたぞっ! 森の中! 樹間で動いた! あそこ!
振り向いたチームは、巨大かつ不鮮明な物体が暗い森の中を素早く移動し、姿を消すのを一瞬だけ目撃する。再び奇妙な笑い声が聞こえるが、唐突に止む。
1-𐤇 ホライゾン: 何処に行きやがった?
急に先程とは違う別な音が聞こえる。長く甲高い鳴き声で、不自然な音調を伴なって響き、何処かチームの頭上が音源であると思われる。鳴き声は15秒続いてから唐突に止む。
1-𐤇 プレッシャー: 何だってんだ?
突然、チームの足元の地面が揺れ、地形の動く音が洞窟全体に響き渡る。頭上でアーチ状に絡み合った樹々が葉擦れの音を立て始めた後、軋みながら互いに離れ合い、その上に広がる漆黒の闇が露わになる。遥か遠くに、観測塔の強力な投光ランプによるぼんやりとした光が見える。樹々が離れ合い、直立体勢になると、無線機から通信音が聞こえる。
SAFOS司令室: エストレイ指揮官、聞こえるか? ヘート-1チーム、誰か聞こえるか?
1-𐤇 プレッシャー: こちらプレッシャー、続けてくれ。
SAFOS司令室: エストレイは何処にいる?
1-𐤇 プレッシャー: ビショップと隊員の半数を連れて地下に潜ってる — 降りられそうな地割れがあった。
SAFOS司令室: プレッシャー、警戒せよ、正体不明の実体が諸君の所在地にいる。
1-𐤇 プレッシャー: 司令室-
甲高い鳴き声がプレッシャーの声を遮り、洞窟の地面が6秒間揺れてから収まる。
1-𐤇 トリプル: さっきから一体-

活性化事象中のSCP-6666。チャーリー・タワーから撮影。
突然、洞窟全体が鮮やかな赤色光に包まれる。待機チームが見上げると、頭上高くにぶら下がるSCP-6666が、その根元から放出される赤い光で照らされている。再び笑い声が聞こえる。
同時刻、地下の石室では探索チームが身構えており、振動が止まりつつある。地面の揺れが収まると、1-𐤇 エストレイは他のメンバーを見回す。
1-𐤇 エストレイ: 全員無事?
ビショップ: 大丈夫です、ありがとう。
1-𐤇 キャリアー: ああ、俺もだ。
1-𐤇 エストレイ: 良かった。そろそろ引き上げ時ね、ビショップ博士。
ビショップ: ええ-
習: 風の音が止んだ?
1-𐤇 エストレイ: 確かに。あれは-
ビショップ博士が息を呑み、1-𐤇 エストレイの言葉が遮られる。ビショップ博士が見つめるアーチ門の向こうの石室では、身を丸めた生物たちが全て黄色く輝く目を見開き、入口を凝視している。大きなボキッという音と共に、後ろから5列目に座っている生物のうち1匹が突然左腕を上げ、続けてまた別なゴキッという音を伴ないながら右腕を上げる。当該個体が立ち上がろうとするかのように身を屈めた瞬間、石室全体に生物たちの身動きの音が響き渡る。
1-𐤇 エストレイ: 走れ。 (他メンバーを振り向く) 走れっ!
チームは階段を上へと逃げ戻り、再び地面が揺れる中でバランスを取ろうとする。チームは廊下を引き返し、梯子が設置された石室の扉へと向かう。
1-𐤇 ホライゾン: エストレイ指揮官、聞こえるか? 何処にいる?
1-𐤇 エストレイ: 今向かってるところよ、ホライゾン。そちらの人員を退避させて。帰らなきゃ。
1-𐤇 ホライゾン: 指揮官、急いでくれ。
1-𐤇 エストレイ: 分かってるわ、ホライゾン。ほら、皆も走って!
チームは側室に入り、急いで梯子を上がり始める。背後で風の吹き付ける音が聞こえた途端、有毒な粉塵が空気中に立ち込め、チームを通り過ぎて石板の開口部から吹き出していく。チームは梯子や岩壁の凹みに掴まって耐えるが、梯子の頂点にいた習博士は空中に5m吹き飛ばされ、勢いよく石板の上に落下する。落下した際、習博士のヘルメットのプレキシガラス製マスクにひびが入る。スーツ破損警報が鳴り響き、習博士の探査スーツは陽圧を維持するために酸素の放出を開始する。
1-𐤇 エストレイ: 早く、早く! 行って! ホライゾン、彼の手助けを! もう行かなきゃ!
地下深くから重たげな足音が聞こえる。チームの他メンバーたちは石板の下から脱出し、ホライゾンとキャリアーは習博士の身体を掴む。習博士はパニック状態で周囲を見回す。
習: ま、待ってくれ。気分が-
習の身体が痙攣した後、完全に力が抜ける。
ビショップ: 趙チャオ!
1-𐤇 エストレイ: 畜生。畜生っ! 彼は置き去りにするわ、ビショップ。もう助からない。
ビショップ: ダメです! そんな馬鹿なことが — 彼はまだ —
1-𐤇 エストレイ: ビショップ、聞いて。私たちは逃げなきゃならない。ごめんなさい、もう無理なのよ。
ビショップ: お… おお…
1-𐤇 エストレイ: さぁ、早く!
チームは森へ入り、来た道を戻ってゆく。またしても甲高い笑い声が周囲から聞こえる。
1-𐤇 エストレイ: 司令室、こちらエストレイ。今すぐに位置情報を教えて。ここから出る最短ルートを知りたい。
SAFOS司令室: 了解、指揮官。ちょっと待ってくれ。
1-𐤇 エストレイ: 今すぐって言ってんのよ、司令室、頼むから!
SAFOS司令室: 確認できたぞ、指揮官。最短の脱出経路は諸君の現在地から約14km北東だ。
1-𐤇 エストレイ: 分かった。皆、頑張りどころよ。キャリアー、ホライゾン、援護お願い。
1-𐤇 キャリアー: 了解。
キャリアーとホライゾンは後ろを向き、周囲の樹々を火炎放射器で攻撃する。森が炎上し始めると、頭上で材木の軋む音が聞こえ、樹々から造られた巨大構造物を支えている支柱の多くが倒れ始める。2人がチームの後を追おうと向きを変えた時、ホライゾンが突然後ろに引っ張られる。キャリアーは立ち止まり、振り返る。
1-𐤇 キャリアー: 指揮官!
数秒後、ホライゾンの絶叫が聞こえるが、すぐに途絶える。何かを裂く湿った音に続いて、湿った暗い塊がキャリアーに向かって飛んでくる。キャリアーは物体の進路から飛び退き、振り返る — それは、2つに引き破ったかのように下半身から分断されたホライゾンの上半身である。ホライゾンの目は急速に瞬きし、口は何かを呟くが声になっていない。キャリアーは再び叫び、銃を抜いてホライゾンをヘルメット越しに2回撃つ。血がホライゾンのヘルメットを満たし、彼は動かなくなる。
1-𐤇 エストレイ: キャリアー?
1-𐤇 キャリアー: 指揮官、正体が何であれ、ここの怪物はホライゾンを仕留めた — 俺は… クソッ!
1-𐤇 エストレイ: キャリアー、ダメ。行きましょう、早く!
キャリアーは再びホライゾンを見下ろしてから、チームを追って走り始める。
生き残りのヘート-1隊員、ビショップ博士、グティエレス博士、ムーア博士は、それ以上の混乱に見舞われることなく走り続け、息を整えるために4回だけ小休止を挟む。1時間34分後、チームは森の境界を抜け、以前ヒーロー・ドローンがマッピングしたヒト型実体群の死体が散らばる区域に出る。チームは北に向かって2km進み、約1時間46分後にエレベーターに帰還する。
補遺 6666.12に詳述されている事件が原因で、ヘート-1隊員や研究チームはいずれも、習博士の音声・映像通信機が、損傷してはいるものの、彼らの退却から1時間後に再び送信を開始したことに気付かなかった。
習博士は激しく咳込み、仰向けになる。彼の頭上には明るい赤色に輝くSCP-6666が見える。習は数回深呼吸して周囲を見渡す。彼はふらふらと立ち上がり、石板にもたれかかる。彼は酸素がヘルメットのひび割れから流れ出す音を聞き、探査スーツのグローブをその上にあてがう。
何処か近くから、探索チームの他メンバーが聞いたものと同じ、間延びした笑い声が聞こえる。習はゆっくりと石板から歩いて遠ざかり、森に近付き始める。森の中に入り、よろめきながら前へ進む習の呼吸はますます荒くなってゆく。彼は更に数歩踏み出してから立ち止まる。習のマイクが笑い声を検出し、彼は空き地を振り返る。

習が振り向くと、音声・映像通信機の動作が不安定化する。これが技術的な故障か、習の近傍空間に及ぼされた変化なのかは不明である。動作不良にも拘らず、彼のカメラは身長およそ6mの実体が2本の樹の間に立ち、SCP-6666の赤い光で背後から照らされている歪曲した映像を数フレーム分捉える。2秒後、習のカメラは完全に機能停止し、電源がオフになる。
習が森の中を素早く歩く音と、ますます苦し気になっていく彼の呼吸が聞こえる。彼のすぐ後ろからまた笑い声が聞こえた後、低く力強い単調な音が響き渡る。音源は頭上のSCP-6666である9。更に多くの笑い声が聞こえ、習が走り始めると、再び単調な轟音が響く。3度目の単調音が聞こえた後、大きな叫び声が上がり、習の記録装置は完全にオフになる。
習の送信機はその後16分間、彼の位置信号を送り続ける。彼は100m後方に引きずられて静止する。その後、激しい空電によって送信機との通信が途絶える。
習の音声送信の最後の38秒は以下で聴取可能である。
[記録終了]
補遺 6666.12: SCP-6666-Aの反応
補遺 6666.11に詳述されている探索試行中に、SCP-6666は異常行動を示し始めました。地上の根系は急速に拡張し、焼灼チームはSAFOSの安全境界線を引き戻すことを余儀なくされました。SCP-6666本体は上部構造の幹の継ぎ目から赤色光を発し始め、発光する球形の嚢が枝全体に現れました。また、この間に、何処か洞窟の下方に起因する地質学的な現象も記録されました。
しかしながら、SCP-6666がこの活性化状態に入ると同時に、SCP-6666-Aが自らの拘束を引っ張り始めました。チャーリー・タワーは、ケブラー樹脂製の太い張り綱がほつれ始め、やがてSCP-6666-Aによって真っ二つに引き千切られたと報告しました。拘束を振り解いたSCP-6666-Aは発声を開始しました — 最初のうちは単なる叫び声でしたが、その後、SCP-6666-Aは話し始めました。事件の音声記録はSCP-6666-Aが未知の言語で発話していたことを示しますが、当時洞窟内にいた人物らは各々の母語でSCP-6666-Aの言葉を明確に認識できたと報告しました。SCP-6666-Aは過去にそのようなミーム効果を示さなかったため、この現象のメカニズムは不明です。
当該事案の発生中に、その重要性を認識したアイルズ博士は、音声テキスト化ソフトウェアを使って発話を全て書き起こしました。完全なSCP-6666-A発声内容の書き起こしは以下の通りです。
我が声を聞け。
我が声を聞け。
我こそはホラスの息子ヘクトール、北空の絶叫する槍、オールド・エウロプの最後の子、人の世界を統べる君主にしてアセムの鉄冠の継承者たる空の王者サルース・フォン・アポリオンに永遠に仕える従者である。
我が声を聞け、悍ましきティターニア。我が声を聞き、震えるがいい。
遥か遠く過ぎ去ったあの日、俺がせり上がる海を渡って貴様を見つけた時のように震えるがいい。貴様の流血する胸に俺が槍を叩き込んだあの時と同じように、貴様が既に己の存在意義に背いていたことを俺が知ったあの時と同じように震えるがいい。
俺は貴様を打ち倒したのだ、太古の悪魔よ。俺は貴様の身体をこじ開け、破壊した。
貴様は既に仕えるべき主を裏切った、悍ましきティターニアよ、しかし俺を裏切らせはせぬ。
俺は貴様を服従させる。貴様は俺の願いを聞き入れ、己の毒をこの墓所に注ぎ込むだろう。貴様は己の侵略者どもが築いたこの屍都を包み込み、地の底に葬るだろう。
貴様はそうするだろう、悪魔よ、何故ならば俺が貴様にそう求めるからだ。
我こそはヘクトール、我が主の完全なる意志の聖炎である。俺に応えよ、悍ましきティターニア。
我が声を聞き、震えるがいい。
SCP-6666-Aはこの発声の直後、SCP-6666開口部を塞ぐ発泡密封剤と、SCP-6666本体の双方を猛然と攻撃し始めました。SCP-6666-Aはその後、SCP-6666の幹に手を突いて支えとしつつ、力任せに残り3本の腕を幹の内部から引き抜きました。SCP-6666-Aは自由になった5本の腕と槍を梃子代わりにして、SCP-6666開口部の両側を掴み、左右に引き離しました。大きなひび割れる音と共に、SCP-6666の幹に裂け目が生じ、有毒微粒子から成る濃密な煙を再度下方の洞窟へと放出し始めました。同時に、SCP-6666から放出されていた赤色光は薄れ始め、14分以内に完全に消えました。
SCP-6666-Aはその後も6時間にわたってSCP-6666の側面を攻撃し続けた後、幹に槍を突き刺して身体を預け、休眠状態に入りました。
補遺 6666.13: 編集済
以下のファイルはレベル5/6666機密情報です。