SCP-6710
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右上に見えるのがSCP-6710。機動部隊デルタ-9がサイト-32へ移動する途中に撮影された写真。

アイテム番号: SCP-6710

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-6710の出現は機動部隊デルタ-9 (“カトレドスコープ・クラウド”Katledoiscope Cloud) によって監視されます。出現が多数の人物に目撃された場合、必要に応じて偽情報流布プロセスや関係者の記憶処理を実施しなければいけません。

SCP-6710が頻繁に出現する地域には、保安境界線を確立し、民間人がSCP-6710出現事象を目撃できないようにします。

説明: SCP-6710は白色系の毛皮を有する巨大なイエネコ (Felis catus) に似たネコ型実体であり、地球の対流圏に生息しています1。異常な手段で無期限に浮遊し、雲の集まりの上に留まり続ける能力があります。SCP-6710は非実体化して“不活性状態”と称される状態になり、それを約1~2年維持できることが確認されています。“活性状態”に入ったSCP-6710は自ら選択したと思われる場所に出現します2。過去50年間に70件の出現事象が検出されています。

消失を引き起こさずに接近することができないため、SCP-6710の正確な体長は断定できませんが、1.3kmに及ぶ可能性があると推定されています。対流圏上空から人工衛星などを用いてSCP-6710を観測しようとすると、不鮮明で利用できない画像が撮影されます。複数回の意思疎通試行を通して、SCP-6710は周辺環境やその影響をある程度認識していると断定されました。

SCP-6710は人口の多い地域に接近する時、自らを視認できる人物を選択し、その他の人物には通常“普通より長い”と表現される雲としてのみ知覚させる能力を実証しています。SCP-6710がこれらの人物を選択する手段は未だ調査中です。

財団の記録やアーカイブによると、SCP-6710の最初の目撃例は1950年頃、ある船員がイギリス沿岸で“雲の中の巨大な猫”を見たと報告した時のものです。船員仲間はこの証言を否定し、目撃者は“大海原の孤独の中で長く過ごし過ぎた”のだと説明しました。その他の目撃証言も記録されたものの、1992年にフロリダ州からスペインのマドリードへ飛行機で移動していた研究者の一団が太平洋の只中でSCP-6710と遭遇するまでは、異常事象とは見做されませんでした。SCP-6710は飛行機の乗組員らを見つめ続け、やがて消失しました。

この事案に続いて、機動部隊デルタ-9 “カトレドスコープ・クラウド” が設立され、SCP-6710に関する証言を見つけるための調査が実施されました。唯一存命だった最近の目撃者は、アルゼンチンのティエラ・デル・フエゴ州にある孤立したエクレルール灯台に22年間駐在していた元・灯台守、ハコボ・アコスタでした。アルゼンチンの某町にある老人ホームに入居したアコスタ氏は、幾度も“雲の中に棲む猫”と共に暮らした経験があると語っていました。2000年4月5日、SCP-6710とアコスタ氏の関係性を突き止めるため、エマ・エイロス研究員がインタビューに派遣されました。

補遺 6710-1: エイロス研究員は老人ホームでハコボ・アコスタと面会し、彼が関わった事件を記録したい記者であると自己紹介しました。インタビューはスペイン語から翻訳されています。

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ハコボ・アコスタ、85歳。エマ・エイロス研究員撮影。

回答者: ハコボ・アコスタ

質問者: エマ・エイロス研究員

<記録開始>

E・エイロス: おはようございます、アコスタさん。インタビューの申し出を快く受けてくださり、ありがとうございました。

J・アコスタ: どういたしまして、エイロスさん。俺ぐらいの歳になると、たまには若い人の顔を見ないといかん。最後がいつになるか分からんからな。

E・エイロス: 宜しければ、早速インタビューに入らせてください。いつ頃から灯台守のお仕事を始められたのですか?

J・アコスタ: ああ、うん。俺は'60年代に船乗りを辞めたんだ。当時45歳ぐらいだったかな、それから数年後にあの職に就いた。ちょっと静かで、それどころか単調ですらあった。だが、荒海に向き合ってきた俺には長めの休養が必要だった。

E・エイロス: そうですか、そんなに昔からお勤めだったとは驚きましたね。いつ退職なさったのですか?

J・アコスタ: '85年に引退した。勤続22年だ。30年にしたかったんだがね。

E・エイロス: 灯台守の仕事はお好きでしたか?

J・アコスタ: 俺は役立たずにはなるなと教わって育てられた。でもまぁ、あれが一番愛着のある職だったのは確かだな。

E・エイロス: では、灯台での生活はどのようなものでしたか?

J・アコスタ: 灯台での生活? そうだな、同じルーチンを何度も何度も繰り返してると飽きることもあるが、午後には椅子を引っ張り出して、パイプを持って海の前に座り、穏やかな水面を眺めてたもんだ。

アコスタは椅子に沿って指を動かしながら溜め息を吐く。短い間が空く。

J・アコスタ: 懐かしいよ、本当に。

E・エイロス: 成程。灯台に駐在していた時期、幾度か風変わりな体験をなさったとお聞きしていますが、その時の話をお聞かせいただけますか?

アコスタは当惑した様子で研究員を見つめ、緊張した面持ちで薬指の指輪を弄る。

E・エイロス: もし、この質問がお気に召さないようでしたら、省略することもできますので-

J・アコスタ: いや、いいんだ、続けよう。

E・エイロス: 分かりました。

J・アコスタ: さて、あんたは町の連中が俺の物語をどう言ってるか、既に知ってると思う。あいつらは俺が見たものを見たことがないから、俺の言葉に耳を傾けようとしない。あんたはせめて話を聞いてくれるか?

E・エイロス: 信じてください、私はこの人生で数多くの物を目にしてきました。だからこそ、あなたへのインタビューに伺ったのです。

J・アコスタ: こりゃ驚いた。

アコスタはエイロス研究員の助けを借りてゆっくり立ち上がり、彼女を本棚まで連れて行き、フォルダ類を漁り始め、やがて古いスケッチブックらしき物を取り出す。表紙には黒い文字で“1970 -1972”と記されている。

E・エイロス: おや、あなたがスケッチをするとは知りませんでした。

J・アコスタ: 学校で軽く習ったんだ。その後は暇な時間に練習して少し上達した。ほら、これだ。

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ハコボ・アコスタによるSCP-6710のイラストレーション。

アコスタはエイロス研究員に16ページを見せる。SCP-6710の様々な行動を描写した一連のスケッチが見て取れる。原本のあるページのスキャンが横に添付されている。

E・エイロス: とても可愛らしい猫ですね。

J・アコスタ: 唯一無二の仲間だからな、それに相応しく細部まで描けるように勉強もするさ。

E・エイロス: それで、あなたとこの猫はどのように出会ったのですか?

J・アコスタ: あぁ、ある晩にいきなりやって来て灯台を見つめてたんだ。俺はその数日前から寝つきが悪くてな、起きて星を眺めようと外に出た。すると、あいつが雲の間に見えるじゃないか。あいつの目が俺を見ていたのか、それとも灯台を見ていたのか、もう正確には覚えてない。

E・エイロス: 彼はあなたにどんな態度で接してきましたか?

J・アコスタ: あぁ、ただしばらく俺をじっと見て、それから近づいてくる船に目を移したよ。

E・エイロス: それだけですか?

J・アコスタ: いつもとても穏やかな猫だった。時々水遊びをするのも好きだったけどな。水面近くに広い浅瀬があると、小舟大の前足を突っ込んで水をかき回してたもんさ。

アコスタは溜め息を吐き、手にしたスケッチを眺める。2、3分の沈黙が続く。

J・アコスタ: たまに、子供たちが大はしゃぎして、音楽がやかましく響く祝日になると、俺も町に足を運ぶ。雲を見つめて、その中にあいつの姿が見えないかと探すんだ。

アコスタはスケッチブックに手を置き、猫の顔を最も詳細に描いた絵に指を添えたままにしている。数秒間の沈黙が続く。

J・アコスタ: もう何年もあいつを見かけてない。

E・エイロス: 成程、またいつか会えるといいですね。彼とコミュニケーションを取ろうとしたことはありますか?

J・アコスタ: 猫と? いやぁ、勿論無いよ、俺はただあいつを見ながら時間を潰してただけさ。雲を跳び越える姿を描いてやった時は、一瞬だけこっちを向いて、前足を振ってから跳んで行っちまった。たまに鳴くんだが、それがまた凄くてな! あいつがニャーと鳴くと、辺り一面が振動するのを感じるし、雲が動くのさえ見える。ちょっと驚いたが、すぐ慣れた。

E・エイロス: 面白い話ですね、もっと… 壮大な内容を期待していましたけれども。

J・アコスタ: 大した事は無かったよ。

アコスタはスケッチブックを注意深く閉じる。

J・アコスタ: だけど、良い猫だった。

E・エイロス: 猫の正体を知る切っ掛けになるような、奇妙な出来事はありませんでしたか?

アコスタはスケッチブックの端で軽く自らの顎をつつく。

J・アコスタ: 2年ばかり顔を見せなかった時期があったな。再会したのは'82年の夏だった。怖がってるような目つきをしてたよ。深い青色の目で俺をじっと見つめた。昔やってたように水面に降りようともしたが、あの時は… 何かが違った。海に映る自分の姿を見ていたんだ。暫くすると、あいつは怯えた様子で、水面の影を思いきり叩こうとした。パンチで水しぶきがそこら中に飛び散り、あいつは大声で怒ったように鳴いて、すぐに逃げちまった。

E・エイロス: 何らかの恐怖反応でしょうか?

J・アコスタ: 分からん、いつもより疲れてるようには見えた。俺があいつの爪を見たのもあの日が初めてだ。

E・エイロス: 実に興味深いですね。

アコスタはエイロス研究員にスケッチブックを手渡す。

J・アコスタ: ほら、あんたの調査に役立つはずだ。ただ、大事に扱ってくれよ。

E・エイロス: ありがとうございます、アコスタさん。最後になりますが、猫を最後に見かけたのはいつですか?

J・アコスタ: 最後はいつだったかな、ある日突然現れなくなって、今まであまり考えなかった。職を解かれた時、目の端にあいつの姿が映ったのは確かなんだ。ほんの一瞬だったが、強烈に記憶に残ってる。

アコスタがエイロス研究員をお茶に誘う。これ以降の会話は無関係なデータのため、省略。

<記録終了>

結: ハコボ・アコスタは高齢であるため、今後の研究における有用性は無いと判断され、クラスB記憶処理が施された。エマ・エイロス研究員は、SCP-6710との似通った交流経験がある人物の捜索プロトコルを開始することを提言した。機動部隊デルタ-9がこの任務に割り当てられた。

SCP-6710と関連する別な人物を発見する取り組みは、決定的な成果を得られていません。





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