By Marcelles D. Raynes
特別収容プロトコル
SCP-6757の現在のホストは、サイト-83の標準的なヒト型生物収容チャンバーに収容されます。SCP-6757は要望に応じて財団職員に手品を披露することを認められていますが、職員がSCP-6757と物理的に接触する必要がある手品は厳密に禁止されます。このプロトコルに違反した職員は、前任のホストと入れ替えられます。
説明

SCP-6757とSCP-6757-1
SCP-6757は52枚のトランプカードに宿っている集合意識生命体の総称です。SCP-6757の各構成要素は、それを物理的に所持する生物の意識を完全に消去するという同一の異常性を有します1。しかしながら、この上書きは一時的な現象であり、SCP-6757の影響を受けた生物は、オブジェクトが所持されなくなると通常の挙動に復帰します。
SCP-6757は自らのホスト、以下SCP-6757-1を媒介として使い、主に様々な手品を披露することから成る目標を達成しようとします。SCP-6757はホストにクラスII現実改変能力を付与しますが、あくまでもそれらの能力はパフォーマンスの補助にのみ活用する意思を見せています。
補遺.01: 収容
SCP-6757は、“グレート・マンボ・ジャンボ”を自称するストリートマジシャンが、本来不可能なはずの手品を観客に披露し、大好評を博しているという多数の報告に続いて収容されました。これらのパフォーマンスの録画がメディア共有サイトに幾つかアップロードされ、財団の高度監視技術によって、対象者はニュージャージー州北東部を本拠地としていると推定されました。
2016年11月4日、対象者を撮影している動画のライブ配信が発見され、機動部隊ラムダ-5 (“ウォークメン”) がショッピングモール “ガーデン・ステート・プラザ”の調査に派遣されました。以下の映像は動画サイト“Twitch”の配信からキャプチャーされたものです。全ての目撃者は発見、記憶処理されました。
<記録開始>
関連映像は、フードコートにあるチポトレ・メキシカン・グリル・レストランの前に、およそ15~20人ほどの小さな人だかりができている光景から始まる。群衆の中心では、黒のセーターとジーンズを着た男性が、プラスチック製牛乳運搬ケースの上に立ち、トランプカードを振りかざしている。幾つもの息を呑む声や驚愕の表情から判断する限り、観客はパフォーマンスに没頭しているようである。手品師は見たところ、観客の反応に満足している。
マンボ・ジャンボ: さぁご覧ください、私は素手で時間を操ることもできます。紳士淑女の皆々様がかつて一度も見たことのない光景を披露いたしましょう。ご注目を…
対象者はカード2を空中に放り投げてばら撒く。カードが落下する中で、対象者は自分を中心として反時計回りに大きく円を描く身振りをする。カードが突然落下しなくなり、数秒間空中で静止した後、対象者が広げた掌に向かって浮揚し、互いに積み重なって束を形成する。群衆が拍手する。
マンボ・ジャンボ: ありがとうございます、皆様、ありがとうございます。もう一ついかがでしょう?
群衆の中から激励の言葉が同時に幾つか発せられる。この時点で、モールの警備員を装ったMTF ラムダ-5の隊員が現場に到着する。対象はエージェントたちに気付くと、カードを身体の前で扇のように広げ、ラムダ-5 アルファに近付く。
マンボ・ジャンボ: カードを1枚引いてください、ご婦人、どのカードでも構いません!
アルファはカードを1枚選んで調べる。対象者は山札を指でめくり始める。
マンボ・ジャンボ: では、そちらを山札に戻していただきたい。何処でも好きな所に。
アルファ: 実は、我々と一緒に来ていただきたいと—
マンボ・ジャンボ: ほんの少しだけ時間を割いていただけますか、ご婦人。
アルファは溜め息を吐き、山札にカードを戻す。対象者は山札を数秒間かざした後、その上に手をかざす。手を離すと、山札は1枚のカードを除いて消えている。彼はアルファにそのカードを見せる — 手品の始まりにアルファが選んだカードと同じである。
マンボ・ジャンボ: ジャジャーン!
SCP-6757-13: うわぁ、すごい! あなた、本当に素晴らしい手品師ですね。それにハンサムですし。
マンボ・ジャンボ: これはどうも、ご婦人。神から授かった才能を使ったまでのことです。さて、最後の手品になりますが、このカードを取り、ポケットの中を検めてください。
SCP-6757-1はカードを取り、ポケットを確認する。SCP-6757-1は山札の残りをポケットから引き出し、欠けていたカードを頂点に戻す。SCP-6757-1と観客たちが拍手する。対象者は目に見えて困惑している。
マンボ・ジャンボ: えっ、な、何だこれは?
SCP-6757-1: すみませんが、ご同行願えますか。フードコートへの手品師の出入りは禁止されています。
マンボ・ジャンボ: 手品師? いや、僕は—
SCP-6757-1: 確保!
ベータとデルタが対象者の左右に動いて捕縛し、フードコートから連れ出す。偽装した財団エージェントの増援が現場に到着すると、観客は解散し始める。カメラの所持者は、他の財団エージェントたちに囲まれたアルファに焦点を合わせ続けている。
SCP-6757-1: さぁ、紳士の皆さん、魔法の手品はいかがですか?
<記録終了>
補遺.02: インタビュー 1
以下は、SCP-6757-1の初期収容中に、ロウ博士が実施したインタビューです。
質問者: ロウ博士
回答者: SCP-6757-1
<記録開始>
序: 収容の過程で、この時点までに、SCP-6757の所有者はアルファから収容スペシャリスト マーカス・ブレインに変わっている。
ロウ: すると、あなたは手品師なんですか?
SCP-6757-1: ただの手品師A magicianじゃないぜ、兄ちゃん。超一流の手品師The magicianだ。グレート・マンボ・ジャンボ!
ロウ: ああ、例の手品師さんですか。私も以前あなたの話を聞きましたよ、大ファンです。
SCP-6757-1: えっ、マジで? まさかそこまでとは…
ロウ: 勿論です、あなたはサイト-83で大評判ですよ。誰もがあなたの話を耳にしていますし、全員筋金入りのファンです。
SCP-6757-1: なんかちょっとオーバーだな、あんた。
ロウ: 失礼しました。その、あなたがどうして… (曖昧な身振り) こうなったのかと少し不思議に思っているんです。
SCP-6757-1: 体外離脱した幽霊って意味だろ。
ロウ: はい。
SCP-6757-1: 実は面白い話なんだ。こう、俺は昔から手品師になりたくてさ。陸上部の活動とか宿題みたいな高校生にありがちなのを済ませたら、夜は何時間も手品の練習をした。我ながら上手かったと思うよ。母ちゃんは間違いなく上手だと思ってたけど、あの人は俺が何をやっても上手にこなせると思ってんだ。人を傷付ける前向きさってのかな、どういう感じかあんたも分かるよな。
ロウ: ええ。
SCP-6757-1: だよなー。でさ、えっと、どういう質問だっけ?
ロウ: どうして体外離脱した幽霊になったのかと訊きました。
SCP-6757-1: あー、それね。
沈黙。
ロウ: で?
SCP-6757-1: 手品師は絶対にタネを明かさないんだよ。
<記録終了>
補遺.03: インタビュー 2
最初のインタビュー以降、SCP-6757-1は収容以前の私生活やその他の情報開示を促す質問に対して、財団職員への協力を拒否していました。自分自身に直接関わる質問を受けると、SCP-6757-1は代わりに様々な手品の披露やホストの切り替えを試みました。この挙動は、サイト管理官チンの要請を受けて、ジャック・ブライト博士がサイト-83に招聘されるまで数週間続きました。
質問者: ジャック・ブライト博士
回答者: SCP-6757-14
序: ブライト博士は、彼女自身の異常性が平衡を生み出すだけでなく、SCP-6757-1との共感的な繋がりを容易に構築できるという作業仮説に基づいて、サイト-83へ特別に招聘された。
ブライト博士: こんにちは、SCP-6757。グレート・マンボ・ジャンボと呼んだ方が良いのかい、それともマンボで構わないかな?
SCP-6757-1: マンボで構わないよ、親友。なぁ、いつもの尋問を始める前に、手品はどうだい?
ブライト博士: (肩をすくめる。) 悪くないね。
SCP-6757-1: 最高! じゃあ早速だけど、カードを1枚引いてくれ、どのカードでも構わない。あんたの心を読めるってのを証明してやるよ。
SCP-6757-1はブライト博士の前でSCP-6757を扇のように広げ、その上で曖昧な手ぶりをしつつ“シューッ”という音を何度か立てる。ブライト博士はカードを取ろうとして手を伸ばす。
SCP-6757-1: おっとっとっと! ゆっくり頼むよ、ミセス…
ブライト博士: ブライト。
SCP-6757-1: そうそう、ミセス・ブライト。じっくり考えず、しっかり選んで、ぐっすりお休み! (笑う)
ブライト博士は中央のカードを取って調べる。
SCP-6757-1: よし、じゃあ俺は目を閉じるぜ。あんたのカードは — 口には出さないで — クラブのジャックだ!
ブライト博士: 正解だ。
SCP-6757-1: そりゃ勿論正解さ、でも… あんたはまだあんただな。
ブライト博士: どういう意味だい?
SCP-6757-1: いや… だって… どうして俺になってない?
ブライト博士: (カードを返却する) 君の想像以上に、私たちには共通点があるらしくてね。さて、挨拶も済んだところで、インタビューを続けさせてもらおうかな。
SCP-6757-1: どうやったのか教えてくれ。俺のマインドコントロールに抵抗できる訳が知りたい。
ブライト博士: おいおい、マンボ。手品師は絶対にタネを明かさないんだよ。
SCP-6757-1: ふん。確かにその通りだ。じゃあ取引にしないか? 禁断の知識の交換、手品師の掟。俺がトリックの仕組みを教える代わりに、あんたは自分のタネを俺に教える。それで手を打とうぜ?
ブライト博士: いいだろう。もう既に同僚が訊いたと思うけど、君はいったいどういう経緯で… (メモを確認する) 体外離脱した幽霊になったんだい。もし可能なら説明を頼む。
SCP-6757-1: 分かったよ。まず第一に、あんたたちも予想はついてるだろうけど、俺は元々はトランプのカードデッキじゃなかった。昔は人間で、手品師を気取るイカした奴だった。GSP5で働いてた頃は、町中が俺の噂で持ちきりだった。ウェッツェルズ6でも、スケッチャーズ7でも、ホットトピック8でも、それこそそこら中で女の子たちを虜にしたよ。あのモールでは誰もがマンボ・ジャンボの名前を知ってて、誰もが俺を愛してた。でも…
ブライト博士: でも?
SCP-6757-1: 俺を少し愛しすぎた子がいた。
ブライト博士: ほう? 何が起きたんだ?
SCP-6757-1: それを今から話そうとしてんだろうが。名前はコートニー、美人だった。生きてた頃に何回か手品を披露してみせたけど、あの子はそれに驚いた。つまり、心底から驚嘆してくれたんだ。俺たちは、その… 恋に落ちた。初恋じゃないぞ、ディズニー映画じゃあるまいし、でも、うん。やがてあの子は段々と変になってきた。
ブライト博士: 変とはどういう意味で?
SCP-6757-1: 束縛。四六時中俺を束縛するようになった。嫌だったけど、どうしようもないだろ? あの子に惚れてたんだから。だから、コートニーがもう手品は止めてと言い始めた時、俺はそうしたんだ。あの子も限界なんだろうから気持ちを尊重したかったけど、パフォーマンスを止めるのは本当に、本当に苦痛だった。魚を水から出して、地上で泳ぐように頼むのと一緒だ。死ぬほど辛かった。そしてそのせいで実際死んだ、つまり俺は自殺した。
ブライト博士: ご愁傷様。
SCP-6757-1: 何がご愁傷様だよ。埋葬された後、俺はきっと空に浮かぶ手品師の殿堂に向かうんだと思ってたけど、違ったね。気が付いたらセオリー11ブランドのトランプに縛られて、コートニーの手の中にいた。ありゃ多分、俺の遺品を全部捨てようとしてたんだろう。
ブライト博士: ヒトの制約を受けずに存在できるのは、かなり気楽だろうね。しかし、君はなぜ手品を続ける?
SCP-6757-1: 泳ぐ機会を与えられた魚がそれ以外の事をすると思うか?
ブライト博士: ふむ。思わないかな。
SCP-6757-1: さぁ、次は俺が質問する番だ。あんたはいったいどうしてマインドコントロールに耐えられたんだ?
ブライト博士は一瞬首飾りに触れた後、立ち上がって収容チャンバーの出口へ向かう。
ブライト博士: 生憎だけど、そいつは機密情報なんでね。
<記録終了>