SCP-6775
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アイテム番号: 6775
レベル3
収容クラス:
keter
副次クラス:
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撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
danger

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記録上最初のSCP-6775-1実例の指導者、ジャン・J・ローランの唯一既知の写真。

特別収容プロトコル: 既知の全てのSCP-6775-1実例を監視し、容認できないほど選挙での勝利に近付いていると判断されたならば、あらゆる必要手段を以て排除します。後の疑惑を最小限に抑えられるような行動計画が優先されますが、それが現実的でない場合、SCP-6775-1実例の重要人物の一斉暗殺が認められます。

SCP-6775-1実例が選挙に勝利した場合、問題の町、都市、または国家は喪失したものと見做されます。

説明: SCP-6775は緩やかに定義された政治哲学です。様々な名称で呼ばれますが、ほとんどの事例において文字 “E” のみから成る、もしくはこの文字を中心とした名称を掲げています。

SCP-6775は“単一主義”という観念を重視しているようです。この観念の厳密な意味は一貫していませんが、多くの場合、社会構造内の特定の一点に資源と労働力を自発的に集中させることを指します。通常、この特異点はニッチな高級産業や、人口集団から一見無作為に選ばれた人々の自己啓発運動など、他の全てを投げ打って労力を注ぎ込んでも大きな利益を生まないものです。この主たる目的を除けば、SCP-6775の他の要素は往々にして実現不可能か、矛盾しているか、完全に無意味であり、更には頻繁に変化します — 変化には数年かかることもあれば、 1 回の会話の最中ですら定まらないこともあります。

財団がSCP-6775のあらゆる痕跡を抹消しようと試みているにも拘らず、この政治思想を信奉する新たな団体が世界中で独自に勃興し続けています — 以降、これらの団体をSCP-6775-1実例と呼称します。SCP-6775の解釈は実例ごとに様々ですが、彼らは機会さえあれば必ず公職に立候補しようと試みます。

この間、SCP-6775-1実例以外の人々は、SCP-6775哲学に対して、異常な認識の変化を示唆するような反応を示すようになります。人々がSCP-6775に無条件に賛同し、支持することは決してありませんが、その支離滅裂な思想を通常考えられないほど真剣に考慮し始めます。このため、特にカリスマ的な人物を構成員に抱えるSCP-6775-1実例は、実際の当選に危険なほど近付く場合があります。

現時点では、SCP-6775-1実例が公職に就任した時に何が起こるかは不明です。


補遺 6775-1 (過去のSCP-6775-1実例群)

以下は、過去に存在したSCP-6775-1実例の記録であり、各組織間の共通点や相違点の例示を意図しています。ここに記録された実例はいずれも財団によって解体されたか、或いは選挙に破れた後に自然解散したため、既に活動していません。

SCP-6775-1-1

団体名: E
結成年 (推定): 1974年
指導者: ジャン・J・ローラン
立候補した役職: フランス大統領

重要な政策: Eは国家予算をパリの“緊要なる発展”だけに集中させるという公約の下に立候補しました。その他、以下のような多数の小政策も掲げられました。

  • フランス国民に“身勝手税”を課し、各個人が有する対人関係1つにつき10%ずつ増税する。
  • 公衆の関心を代わりにフランスの学校制度に向けさせるためと称し、エッフェル塔を解体する。
  • 前フランス大統領のジョルジュ・ポンピドゥーを、同氏が在任中に死去したにも拘らず、公開処刑する。

注記: 当初の E は指導者 ジャン・J・ローランを取り巻く個人崇拝団体として設立されたと考えられており、ローラン氏は多数の構成員との間に公然と性的関係を結んでいました。 E が結成される前のローラン氏の記録はごく僅かしか現存しませんが、それらの発見された記録からは、知名度の低いパリ在住のピアニストだったことが示唆されています。1974年の選挙戦に敗北した後、ローラン氏はフランス国外に出国したと思われ、それ以降目撃されていません。E の他構成員は全員、2年以内に数々の無関係な原因で死亡しました。

SCP-6775-1-9

団体名: Eの制定を大義とするシガゴ1集会
結成年 (推定): 1989年
指導者: ハリー・ノートン
立候補した役職: アメリカ合衆国、シカゴ市長

重要な政策: Eの制定を大義とするシガゴ集会は、“シガゴ”市民の“モラルの退廃”と“性の影響力”を抑制するという公約を掲げて立候補したものの、具体的な方法は一度も詳しく語られませんでした。これらの手段について質問を受けると、彼らは代わりに全く無関係な政策について説明しました。例として以下が挙げられます。

  • “シガゴ”の下水道設備を解体・廃止して、労働力をニューヨークにあるクライスラー・ビルディングの実寸大レプリカの建造に向け直す。それ以降の排泄物の問題にどう対処するのかを訊ねられると、ノートン氏は腹立たしげにインタビュアーを共産主義者だと非難し、インタビューを打ち切った。
  • 犯罪組織のボス、アルフォンス・ガブリエル・カポネに死後恩赦を与える。ノートン氏はカポネが“人生で脱税したことは一度も無い”と主張した。
  • その時点で“10年以上”発行されていたため、市内で唯一の価値ある出版物であるという理由で、“シガゴ”・サン・タイムズ紙を民営化する。その他の新聞は全て非合法とする。

注記: Eの制定を大義とするシガゴ集会は、これまでのところ、SCP-6775-1実例の記録上で最も不首尾に終わった団体です。例によって、彼らの政策を認知した人々は必ずしもそれらを奇妙とは見做しませんでしたが、指導者であるハリー・ノートンの率直かつ辛辣な態度が有権者の多くを遠ざけ、落選に繋がりました。

選挙の2日後、ハリー・ノートンの妻は、ノートン氏が行方不明になったと届け出ました。1 週間後、警察はノートン氏の切断された頭部、胴体、右脚、左脚、性器がシカゴ市庁舎の地下室に散乱しているのを発見しました。Eの制定を大義とするシガゴ集会の他構成員は全員、この直後に行方不明となり、それ以来目撃されていません。

SCP-6775-1-21

団体名: Eの不可欠
結成年 (推定): 2012年
指導者: “上田伍郎”
立候補した役職: 日本、佐賀県知事

重要な政策: Eの不可欠党は独自のウェブサイトと様々なオンライン広告だけを通して立候補したため、政策に関してはそれらに記載された通りの情報しか得られず、詳しい問い合わせは不可能でした。これらの政策は主に以下のような内容から成っていました。

  • “指定人間”法の制定。この法律は、各世帯が家族の中から“指定人間” 1 名を選ぶことを義務付けるものである。それ以降、世帯の全ての給与、職場の福利厚生、奨学金などは全て“指定人間”が受給者として扱われる。
  • 東京タワーの解体。この理由は開示されなかった2
  • “余分な子供を持つという身勝手さ”を理由として、佐賀県内における双子の妊娠を非合法化する。

注記: 奇抜な選挙戦略や有権者との交流の欠如にも拘らず、Eの不可欠党は当選に危険なほど近付き、財団エージェントとウェブクローラの積極的な努力によって辛うじて阻止されました。

落選後、Eの不可欠党は、52分8秒にわたって続くヒステリックなすすり泣きの音声ファイルをウェブサイトに投稿しました。正確に5分後、ウェブサイトは閉鎖されました。

SCP-6775-1-22

団体名: E 制定党
結成年 (推定): 2019年
指導者: エドガー・カーライル
立候補した役職: イギリス、バース市議会議員

重要な政策: E 制定党の政策の大多数は、バース市内の建築基準や住宅を中心とするもので、しばしば制約を課す内容でした。例として以下が挙げられます。

  • 1 世帯が6部屋以上を所有することへの厳しい禁止令を発出する。カーライル氏はまた、自身の在任中に、許容される部屋数を 1 年ごとに 1 つ減らす意向を表明した。
  • 窓の構築に関わる全ての物資に75%増税する。
  • 全ての“身勝手な”ドアに対して公的な懸賞金制度を設ける。

注記: E 制定党はこれまでのSCP-6775-1実例の中で最も懸念された団体の 1 つであり、カーライル氏の暗殺が成功して後任者と入れ替わるまでに多くの関心を集めました。これは、多くの先行団体と異なり、E 制定党が積極的にメディアと関わったことに起因します。その一例として、バース・エコー紙のジャーナリストであるマリア・レーンと、E 制定党の指導者 エドガー・カーライルのインタビューの一部を以下に掲載します。


<記録開始>

レーン女史: ところでですね。近頃、E については色々とそそられるものがあります。沢山の好奇心、沢山の興味… しかし、一方で沢山の不安もあります — 多分、用心と言い換えたほうが良いでしょうね。あなたは公職に就いた経験が無いということで宜しいでしょうか?

カーライル氏: (頷く) ええ、私の — あー — この選挙の前まで、私は肉屋として働いていました。

レーン女史: それは大変な変化だと思いませんか? 肉屋から市議会議員を目指すのですよ。多くの人々が… あなたがその役職に必要とされる類の経験を積んでいないのを、心配してはいないでしょうか。

(カーライル氏は首を横に振る。)

カーライル氏: それは… いいえ、私はそうは思いませんな。実際、この2つは非常に似通った職業だと考えています。

レーン女史: どの辺りがでしょうか?

カーライル氏: どちらの観点でも、いや、どちらの職業でも、失礼しました — 脂肪を切り落とすことが重視されます。不要なものを取り除かなければ、本当に必要なもの、自分たちの利益となるものに集中できません。そして私の — ビッグ・ベンを解体するという私の提言こそ、それを完璧に物語っていると思います。

レーン女史: 何故そう思われますか?

カーライル氏: 何故なら、今の人々は本当に大切な物事よりも、あのような物に気を取られているからです。いいですか — 私は陰謀論者ではありません。新世界秩序がどうの、イルミナティがこうのという戯言を喚き散らすつもりはありません。私が言いたいのは、ペプシがイギリスの石炭産業の13%を支配しているということだけです3。誰かがどうにかする必要があると思うのです — 多くの人々が当然の懸念を抱いているのですから、今そこで何が起きているのか、誰かが探り出さなければいけませんな。

レーン女史: 確かに多くの人々が抱える懸念ですから、あなたがそこに注目してくださったことに、きっと彼らも感謝するでしょう。

カーライル氏: (笑う) 私は今ではあらゆるものに注目しています — 優先順位を付けるというのは、そういう事なのですよ。

<記録終了>


補遺 6775-2 (事案6775-1)

2020/07/11、財団はアメリカのサウスダコタ州にある知名度の低いミクロネーション4 “グリーン・スプリングス”の創設者 ジョン・ベラーマンが、グリーン・スプリングスの公式ウェブサイトを更新し、2020/07/19付で同ミクロネーションの法律に多数の変更を加えると発表したことを把握しました。これらは以下のような内容でした。

  • ミクロネーションの名前を“グリーン・スプリングス”から“E キャッスル”に変更する。
  • 共同生活の実施 — まず最初は全ての国民が同じ家に住むことを義務付けるが、ベラーマン氏は国民が時間と共に順応し、いずれは同じ部屋に住むことを期待していた。
  • “俺たちは今あるゴミの処理さえできていない!”という理由で、生殖行為を全面的に禁止する。
  • あらゆる出入国を全面的に禁止する。

グリーン・スプリングスは小規模で、収容が比較的容易であるため、SCP-6775-1実例が実際に就任した場合の結果を観察する目的で、財団はこれらの新しい法律の制定を看過することに決定しました。2020/07/20、研究者とエージェントのチームが、結果観察のためにグリーン・スプリングスへ派遣されました。

連絡途絶から2時間後、この遠征の唯一既知の生存者、ロバート・トゥワイン博士がグリーン・スプリングスのすぐ外の領域を無傷で徘徊しているのが発見されました。財団に拘留された後、彼は嘔吐物で以下の筆録を残しました。

自分の体験をどう表現すべきかよく分からない。これがとても混乱する体験だったのを理解してほしい。

違和感は敷地内に車を停めた時から始まった。資料を読んで、そのミクロネーションが3つの世帯とその家族で構成されているのは分かっていたが、私には 1 軒の家しか見えなかった。それに、ごく普通の家とはとても呼べなかった — 色々な建築様式のごちゃ混ぜだ。まるで誰かがそこら一帯をバラバラにして、ひとまとめに縫い合わせたようだった。空気までそんな感じだった。余りに酷いので、チームの 1 人、軍人肌の奴が車を降りた途端に体調を崩したほどだった。

調査のため、家の中に入った。最初は誰もが沈黙していた。これがとても混乱する体験だったのを理解してほしい。何が起こるか、誰にも予想が付かなかった。最初の2つのキッチンを通り過ぎた後、そこがまともな家庭でないのは明白になった。

一番の見物は居間にあった — 天井近くに浮かんで、ミラーボールのように回転していた。あそこでは12人暮らしているという話だったが、100%その通りだった。岩が寄り集まって私たちの地球を形成したように、彼らがお互い押し潰されて、1 つの球になって宙に浮かんでいるのを見た。みんな圧迫され、圧縮されたような姿だった。私たちがそれを見ながら発言している間、彼らはしつこくひび割れるような音を立てていた。そんな風に13人が一塊になっていた。この時点で私たちは3人しか残っていなかった気がする?

私のパートナーが仕上がった後、私は残る 1 人の隊員の方を向いて、電話を取るように指示した。彼はほぼ同じ事を言い返し、私はそれに賛同して、自分の身勝手さを詫びるしかなかった。これがとても混乱する体験だったのを理解してほしい。

私は電話に出た。通話相手は威厳ありげだった — 母音が伸びていたり、滑舌が悪かったり、そんな感じだ。私は彼にそう言った。

「もしもし?」 私は言った。
「もしもし?」
「もしもし?」
「もしもし?」
「もしもし?」

そう言われて電話を見下ろすと — これがとても混乱する体験だったのを理解してほしい — 私は自分の皮膚に向かって話しかけていたことに気付いた。私にとっては非常にショックだったので、電話でそれを話した時にもそう言った。こんな身勝手さを経験したことは今まで無かった。そう認めざるを得なかった。しかし私の皮膚でも何かの役に立つのが嬉しかったから、そう言って、注意深く返事に耳を傾け、その返事にショックを受けた。これがとても混乱する体験だったのを理解してほしい、しかし私は誰もがようやく一緒になったのが嬉しかった。誰もがようやく一緒になれたのだ。

そして私は家で目覚めた。

私は彼らに投票する!

この事案に続いて、グリーン・スプリングスの周辺地域は完全に封鎖されました。現在の収容プロトコルはその後間もなく制定されました。


補遺 6775-3 (インタビュー6775-2)

事案6775-1は、SCP-6775哲学が現職公務員にも発生する可能性があり、従ってSCP-6775-1が選挙に勝利する必要性は全く無いことを示すものとして、研究者たちに強い懸念を抱かせました。SCP-6775-1実例の心理をより良く理解し、今後の展開を予測するために、関連資料の広範な捜索が行われました。

その際、マリア・レーンとエドガー・カーライルの間で2019年に行われたインタビューの未使用部分が、バース・エコー紙のメディア史料庫で発見されました。内容は以下の通りです。

<記録開始>

レーン女史: ありがとうございます。では — 最後になりますが — これだけは訊かせてください。“E”とはいったい何を意味しているのでしょう?

(カーライル氏は座ったまま居心地悪そうに身じろぎする。)

カーライル氏: ええと、それはですな、あー…

レーン女史: ただの個人的な好奇心です。もし問題なら…

カーライル氏: いやいや、大丈夫、全く構いません。“E”とは… 私はね、昔から数秘術に興味を抱いていました。我々のやる事為す事は全て、我々の制御が及ばない力によって支配されているという、非常に刺激的な観念です。多くの自由を与えてくれる思想です — そしてそれに、それに私は大いに共感しているのです、例えそれが私にあまり当て嵌まらないとしても — しかし敢えて言うのなら、ここだけの話、私は割と頻繁に自慰をするのですが、それと似たような — 身を任せる感覚、だと思いますな。“E”とは要するにそういうものです。そういう共同体、精神のようなものです。

(レーン女史は頷く。)

レーン女史: ありがとうございます。あなたとお話しして、このような形でお考えを窺い知る機会をいただけたことに感謝します。非常に興味深い内容でした。

カーライル氏: (笑う) ご心配には及びません。来たるべき選挙の日には、きっとあの中でまた皆さんとお会いできるでしょう。

<記録終了>

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