アイテム番号: █CP-684-JP
オブジェクトクラス: █afe
特別収容プロトコル: █CP-684-JPは実質的に収容が不可能な事象であり、致命的な影響の封じ込め、または人体に累積する認識災害的効果リセットの恒久的な実施という形で対処されています。現行に於いては執行プロジェクト-U2が処理を担当しており、詳細情報の申請は当該プロジェクト責任者に対して直接行ってください。
現在は、█CP-684-JPに対する広範囲的なミーム処理による対処が完了しています。しかしながら、処理手順の更新と█CP-684-JP現象の再発防止に要する措置、実験のために本報告書は特殊保護指定されています。█CP-684-JP現象の再発が確認された場合に備え、本報告書の閲覧が、セキュリティクリアランスレベル3以上の全職員に対して義務づけられています。
また、本報告書添付のクリアランス5レベル項は█CP-684-JP現象の大規模な再発が確認され次第、O5権限の自動的な発動に伴い全セキュリティクリアランスレベルに対して完全解除されます。
説明: █CP-684-JPは「アルファベットのエス」が人類に対して及ぼす不可思議な認識災害的現象です。本現象の存在は19██年に開発された、地域ごとの死因環境情報統合プログラムによる統計的データの算出によって、明らかに統計的に不自然な平均寿命データが継続して観察されたことによって調査が開始されました。
そして2█年間に及ぶ実験と統計の採取の結果、本現象が「アルファベットのエス」に起因する累積型の認識災害であると結論付けられ、財団による対処が決定されました。
█CP-684-JPは「アルファベットのエス」を認識する度に人間の記憶容量に累積するダメージです。「アルファベットのエス」の形状に類する認識がなされる度に█CP-684-JPは個人に累積し、累積量が17628回の暴露相当に達した時、その個人の肉体が一切の生命活動を停止します。
これは「アルファベットのエス」を直接視認した場合であっても、形状を正確に83%まで思い浮かべた場合であっても累積します。
この効果は言語としての「アルファベットのエス」に相当する認識ではなく、「アルファベットのエス」の形状そのものに原因があると見られているため、「アルファベットのエス」に似た形状の存在を認識する事によっても効果が累積すると推測されています。
█CP-684-JPの累積が肉体的な死を引き起こすメカニズム、または直接な因果関係は解明されていませんが、生命活動の停止という形で現象が完結する点から、非実在的な効果ではなく何らかの実体的な要因であると見なされています。
█CP-684-JPはその性質から、古来より多くの人類に影響を及ぼしてきたと考えられますが、これまで人間の死に関する情報の統合が困難であった点、歴史レベルでの長期間の暴露が継続してきた点、異常の原因の特定が技術的に困難であった点によって、発見がここまで遅れたものと思われます。
また「アルファベットのエス」が多くの文化に定着し、拡散している状況が常態化していることから、要因の根絶、もしくは情報的な収容は絶望的であるとの見方が強く、収容に拠らない対処法が現在検討されています。
補遺: █CP-684-JPの個人への累積に対抗する手段の研究の一環として、多様な認識効果への暴露実験が行われた結果、特定の視覚もしくは皮膚刺激パターンの認識に█CP-684-JPの累積をリセットする効果が認められました。
この結果に基づき、█CP-684-JPの危険性と影響力を考慮した上で、全人間社会に対する潜在的なミーム撒布処理が実行されました。█CP-684-JP対抗ミームは全人類を対象に撒布され、効果の継続のための執行プロジェクト-U2がO5-6によって組織されました。
執行プロジェクト-U2は█CP-684-JP対抗ミームが人類社会から自然的に、または人為的に消滅することを防ぐ機関として、複数のフロント企業を利用しての█CP-684-JP対抗ミームの各デザインへの埋め込みと流通の監視、潜在的な協力団体への間接的経済支援等を専任業務としています。
端末をスキャンしています……
端末のクリアランスを確認しています…
端末に残留する生体的痕跡を確認中…………完了
執行プロジェクト-U2情報を認証…
アクセス開始………………
アクセスに成功しました
まずは、これを開いてくれた事に礼を述べなければならない。本当にありがとう。
君がこれから知る事は、より多くの人間に知られていなければならない事実でありながら、知る人間が多すぎても問題を招く。
矛盾した物言いである事は百も承知だが、我々が抱えている問題が如何に厄介なものであるかは、君のような人間であればよく知っているはずだ。
これから私は、それら問題の山脈で我々が見出した奇跡についてここに書き遺そうと思う。
君の覚悟は、高く評価されている。
これを読む人間の多くは、我々の仕事を継ぐに値するだろう。
執行プロジェクト-U2は存在しない。
U2の業績報告も、人事記録も、名簿も、全て虚偽のものだ。
執行プロジェクト-U2には誰も存在していない。強いて言えば、私一人ぐらいのものだろう。
全て架空の、更に架空の機関。作られた、精巧なダミーだ。
何故そのようなことをしなければならなかったのか?
多くの予算と労力を注ぎ込んで、我々は何を隠そうとしたのか?
その答えこそが█CP-684-JPである。
我々が並べた嘘はU2だけではない。この報告書のほぼ全てが、偽情報の鋳型に流して固めたようなものである。
端的に述べて、█CP-684-JPに対抗手段は無い。
█CP-684-JPはミーム的な認識災害の蓄積によって肉体的死をもたらすオブジェクトではない。
█CP-684-JPに対する調査の中期に判明した事柄だが、█CP-684-JPは「█」を人生の内で総計17628回認識したことをスイッチにして発現される小規模な現実改変現象である。
その際の現実改変現象の発生源は現在も尚不明とされているものの、現実保護泡内に保存したデータとの照合とヒューム値の計測実験から、この見方は相当に信頼性が高いものと言える。
よって、対抗ミームなど、█CP-684-JPに対しては一切無意味なのである。
被験者は肉体的な死を迎えるのではなく、確率や統計と言った不確実性に対する現実改変によって、被験者の死という結果へと誘導されるのである。
それ故に、被験者の死因はそれぞれ異なったものとなり、それが█CP-684-JPの発見を困難たらしめていた真の理由なのである。
「█」という文字、あるいは記号のどこにそのような現象を引き起こすメカニズムが潜んでいるのか。その謎の究明は、既に行われてはいない。
何故ならば、この事実は、発生の起源への探究心以上に、我々の大きな恐怖を駆り立てたからだ。
考えてみてもらいたい。アルファベットというものが発明され「█」という原始的な記号に行き着いてから現代までの、ひたすら長い間、この地球上の至る所で、ほぼ絶え間無く█CP-684-JPは現実改変を引き起こし続けていた。
その現象が、この現実に、これまでどれ程のダメージを負わせ続けていたか。
小規模な現実改変が起こる度に、僅かずつ、世界の理や摂理は歪められ、本来の秩序だったものから逸れてゆく。
それはまるで、人間に細い針を次々と刺し続け、何本目で死に至るかを観察する実験のように、少しずつ現実を破壊へと導いていた。
それこそ、世界そのものに対する「17628回目」を目指しているかのように、である。
そして実際に、ある時期から急激に、我々が確保し、収容し、保護すべき異常存在の報告数が増加した。
我々は、最早議論の余地無しと判断した。
█CP-684-JPに早急に対処しなければ、事態は人類の死のみに留まらないだろう。
我々は即座に、そして静かに行動し、多くの犠牲と隠匿の廃墟の上に現実を再建した。
具体的に言えば、我々は人類史から「█」を根絶することに成功したのである。
既存のプロトコルを数多く応用し、あらゆる記憶、記録、そして自然界から「█」を根絶やしにした。
そうしてから、我々は代わりのものをプレゼントした。
何の意味も持たない、無害で無作為な「S」という記号である。
新たな世界に似つかわしい、誰もが傷つかぬ文字。我々は、全てをやり直す事に成功した。
しかし、終わりでは無い。
言語というものはある種の普遍性、あるいは人間の根源的本質の表出である。
で、あるならば、我々は█CP-684-JPが「再発明」される可能性を否定できない。
だからこそ執行プロジェクト-U2が、そしてこの報告書が存在するのだ。
█CP-684-JPの再発明を可能な限り防ぎながらも、それが起こってしまった時、その現象が「█CP-684-JPである」と君たちが認識できるようにするために。
我々がどのような手段を用いて█CP-684-JPを根絶したのかについても、有事の際には明らかとなるよう、データベースのダミープログラムの裏に仕込んである。
そのために、我々はとある重要な情報をここに残さなければならない。
根絶された「█」は実際の所、この世界でただ二ヶ所にのみ存在が残されている。
一つはサイト-8100の第三地下機密収容倉庫に保管された、Dクラス職員によって書き遺された一枚の色紙に。
もう一つは、私の頭の中に。
私は常に頭の中で「█」を思い描く事で、「認識する回数」が進まぬように抑えている。
我々の仕事を引き継いで欲しい。
君はそのためにここにいる。
我々の作った世界で、新しい現実を守るのだ。
我々が存在した█CP財団は、最早存在しない。
君の仕事が始まる。
ようこそ、SCP財団へ。
──O5-6