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コンテンツ警告: この記事はグロ描写、肉体変容系ホラー、昆虫、死に言及しています。もしここに無いけれども注意に相応しいと思う要素を見つけたら、ディスカッションページのコメントで指摘してください。
アイテム番号: SCP-6915
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: さて、保安上の都合とか色々あるから、俺は居場所を教えてもらえないんだが、もしこれを読んでるなら、あんたたちは自分が何処にいるかきっと分かってるんだろう。とにかく、あんたたちが一番やっちゃいけないのは、俺について話すことだ。ここの人たちは、奴には分からない特別な手話を考え出してくれたが、言葉にするのはダメだ。俺の耳が痛くなっちまう! 書くのも良い考えじゃないから、来る前に少し訓練を受けるべきだ。
何か言ってしまったら、その時は… すまんね、友よ。部屋を封鎖して、完全に自分を隔離して、周りの人たちはそれを受け入れよう。助けを呼んだら、辛抱して待つんだ。無駄なあがきかもしれないが、仕方ない! パニックを起こして騒ぐよりかは、気を落ち着けて、瞑想しながら人生を振り返って、星を見る準備を整えた方が良い。
俺はKeter棟に住んでいる、どういう意味かは分からない。あまり多くは求めないが、十分な待遇を受けている。ヴァレリー・ウィテカー博士が収容と研究の (俺は別に気にしてないよ!) 責任者だ、あんたたちも彼女を知ってるだろう。背が高くて、色黒で、イギリス訛りの素敵な低いハスキーボイスで話す人さ。いや、こんな言い方は失礼か? そうでないことを願うよ。ヴァルは今ここで、俺が何か忘れたりしないように監督してくれているが… 少しぐらい楽しむぐらいは問題ない、よな?
説明: ジェレミア・オシェイってんだ、お近付きになれて光栄だよ。ここの人たちは俺をSCP-6915と呼ぶ。いや、あんたたちも多分察しているだろうが、普段の彼らは俺を何とも呼ばない。ハハ、まぁそんな感じだ。俺はごく普通の男だ。古き良きミズーリ州にある小さな町で生まれ育った。車を修理し、惚れた女にことごとく振られ、教会の説教には欠席したことがなかった。平凡な男だ、本当に。
俺の頭の中に住んでいる奴がいる。住んでくれと頼んだ覚えはない、でもそうなっちまった。奴は俺の脳みそを食う。
うーん、ドラマチックだろ? たった今、ヴァルに大分きつく睨まれたが、まさかこの程度でベッドを取り上げたりしないよな? 多少は楽しんでもいいじゃないか。とにかく、奴はある種の蛆虫だ。天才たちはどうして俺が“無反応”でいられるのか全く分かっていない、そのぐらい俺の頭の中身は削られちまってるんだ。奴が俺を動かし続けてるんだろう。それほど悪い野郎じゃないと思う。
でも、奴は俺の話をしちゃいけない理由でもある。つまりだな、奴はあんたたちの頭の中に入り込むんだ。比喩じゃない。最初は1匹のちっぽけな蛆から始まる。無害だ。でも発想ってのは初めはそういうもんだろう? ちっぽけで無害なままじゃいられない。成長して、膿んで、繁殖する。奴も同じだ。蛆どもが落ち着きを無くすまで長くはかからない。頭の中でのたくり、食って、食って、食って、あんたたちの鼻の穴からこぼれ出るまで増える。そしてその度に、俺の頭の中では奴がほんの少し大きくなって、俺自身がほんの少し小さくなるんだよ。
俺に言える限りじゃ、そうなったらもうお終いだ。ヴァルは早めに奴を見つけ出せれば脳みそから追い出せる、チビ蛆どもを全部掻き出せると言ってるが、どうも俺にはパニックとヒステリーを起こさせないため、あんたたちを大人しくさせるためみたいに聞こえるね。
ヴァルがまた俺を睨んでる。すまん、今のは後から戻って消しておく。でも今は流れをぶった切るのが嫌なんだ。
どうして俺がこんな目に? そうだな、全ては教会から始まった。世間の人たちは気付いていないが、彼らはとても… 満たされている。愛と恐怖と希望と夢が広がって肥え太り、やがて頭蓋骨を突き破り、赤い旋律になって目の穴から滴り出す。その全てが魂なんだ。そして時には、もっと多く蓄えるための空間を作る必要がある。
ヴァルが最高に面白い表情をしてるよ! あの人にはまだ魂があるんだろうかね。時々、彼女にはそれしか残ってないような気がするんだ。
うちの教会は… 小さかった。お手製って感じか。牧師様は大事なことを最後まで俺に教えてくれなかった。つまり、いったん空所を作ったらちゃんと自分で埋め戻さなきゃいけないってことをさ。さもないと、虚ろなままになる。そして何か別なものが潜り込んじまう。
正直、俺がいなくなって奴だけが残ったらどうなるかは分からない。奴はそこまで悪い野郎じゃないと思う。長い間ずっと独りぼっちで寒かったから、プライバシーを尊重してほしいだけなんだ。事によると、奴の方が俺よりもこのヨボヨボの身体を上手く使いこなせるかもな。いずれ分かるだろうさ。
以上! 終わり! いやはや、あんたたちとお喋りする機会をくれたヴァルには心底感謝してるよ。こいつが役立つことを願ってる。じゃあな、お元気で!
最後にもう一つだけ。
以前、俺はある男と知り合った。トミー。あんたたちも多分知り合いだったろう、あいつはEuclidに取り組んでた。小柄な金髪の男さ。いつも笑顔で、ジョークが達者だった。良い奴だった、うん。
俺が検査を受けてる最中、あいつは誰かに何かを言った。それが何だったかは分からない、可哀想にな、きっと考えもせず口に出したんだろう。気が付くと、もう俺たちだけだった。鳴り響く警報、赤ランプ、卒倒したトミー。トミーは床で身体を揺らしながら泣いていた。何か呟いていた、祈りだったかもしれない。あの時のあいつには間違いなく祈りが必要だった。
俺はそこまで信心深い男じゃない。でも気の毒な迷える魂を見たら、背を向けるわけにはいかなかった。だから俺は隣に座って、手を取って、あいつの言葉に耳を傾けたんだ。神経を尖らせて、一生懸命、全力で耳を傾けたが、どうしても聞こえなかった。
あいつには聞こえていたんだろうか。聞こえたはずだ。頭の中の、あのぐちゃぐちゃって音が。湿ったものがぶつかり合い、腹を空かせながら噛む、絶え間のない、止められないあの音。それに気付くぐらい大きな音になった時、それを聞き届けられるほどのあいつは残っていたんだろうか。それを思うと悲しくなっちまう。
いや、すまん。今の話はちょいと重すぎたかもしれないな、え?