特別収容プロトコル: SCP-6960はサイト-53のSafeアノマリーロッカーB2に収容します。輸送や実験の途中で意図せずして開かないよう、SCP-6960の留め具には錠前が取り付けられています。
説明: SCP-6960はハーバート・ベルン研究員によって執筆された、架空の機動部隊アルファ-13を題材とした836ページにわたる小説です。SCP-6960を開くと、小説内で登場する4人の主役とそれぞれ一致する、計4体のヒト型実体が周辺に出現します。実体はいずれも、自身のことをSCP財団に雇用された非異常な人間であると信じ込んでいます。協力体制を確保するため、この信念は強固なものとするべきです。SCP-6960を閉じると実体群は消失します。各実体はそれまでの出現における記憶を全て保持していますが、SCP-6960が閉じられている間に発生した出来事は記憶できません。
以下はSCP-6960で描写されている各SCP-6960-A実体を詳述したリストです。
ジェイソン・オーヴィル: 隊長。24種の接近戦に熟練している。
デリック・パーマー: 爆破解体の専門家。
レスリー・エドウィン: ステルスや潜入の高度な訓練を受けている。
レジナルド・ウィルトン: 技能や能力は不明。
他の登場人物をSCP-6960から生成可能であるかは不明です。
インシデント報告2021/03/11: 14:38、いくつかのアノマリーが収容違反したために、サイト-53がロックダウンに移行しました。当時、SCP-6960はメルビン・ゲイル博士が実験を実施しており、機動部隊アルファ-13の全4体の隊員も実験室に同席していました。
ゲイル博士がテーブルの前に座る。反対側にはSCP-6960-Aの各メンバーが既に着座している。
ゲイル: よし、諸君、今日は君たちがどれほど財団のプロトコルを理解しているか測らせてもらう。準備はいいか?
オーヴィル: もちろんです。現場復帰が認められるのであれば何だってやりますよ。
ゲイル: よろしい、では最初のシナリオだ。敵対するGoIが施設を襲撃し、人質を取った。この事態を打開するためにはまずどうするべきか?
エドウィン: 排気口から忍び込み、内側から敵を倒します。銃は持たないので音もしません。
ゲイル: ……違う、正解にかすりもしてないぞ。最初にするべきは、交渉を始めて平和的に事態を解決する手段がないか確かめることだ。渡した本はちゃんと読んだのか?
エドウィン: そんな暇ありません。本なんか読んでないで、現場に行って何かしないと。机にかじりついていては、僕の家族を殺したあのカオス・インサージェンシーの将軍を打ち倒せません。
オーヴィル: なあ、この機動部隊のメンバーは君だけじゃないぞ。君はチームの一員だ、私の兄弟を殺した奴を止めるには、我々全員が団結する必要があるんだ。
ウィルトン: おいおい、奴らは悪いことばかりじゃないぜ。俺の女房も殺してくれたんだからな。
ゲイル: OK、個人的な話はもう十分だ。現場に戻りたいなら、君たちは試験に合格する必要がある。
この瞬間、収容違反アラームが鳴り響き、ドアがロックされる。
ゲイル: 嘘だろ。OK、みんな落ち着け。ロックダウンが30分以上続くことはめったにない。
パーマーがベストに手を入れて手榴弾を取り出し、それをドアの近くに置く。
ゲイル: おい! パーマー、一体何をしている? ドアから離れろ、君は本物の機動部隊員じゃないんだ!
手榴弾が爆発してドアを崩壊させる。
パーマー: すみません博士。ですが、脱走したKeterによって我々のサイトがズタズタにされるのを黙って見ているわけにはいきません1。
オーヴィル: ゲイル、彼の言う通りです。この場所は誰かが救わないと。
ゲイル: 救いならもうある、本物の機動部隊が向かっているんだ! 誰かが負傷する前に戻ってこい。
エドウィン: すみませんが、誰かが負傷するのが仕事の一環なのでね。
機動部隊アルファ-13の隊員4体が部屋を出る。ゲイル博士が廊下に出て後を追うと、隊員たちが廊下の直前で立ち止まる。
オーヴィル: 待て。ここは待ち伏せに最適な場所だ。
ゲイル: 誰も待ち伏せなど仕掛けてないと思うが、とにかくここから出るべきじゃない。インタビュー室に戻って応援を待とう。
エドウィン: 応援を待つですって? 救助に間に合わなかったせいで奴らが人質を殺し始めたらどうするんですか? 今私たちを引き戻したら、あなたのせいで人が死ぬことになりますよ。
ゲイル: 誰が人質の話なんてした? なあおい、我々は何のアノマリーが脱走したのかも知らんのだぞ!
オーヴィルが片手を上げ、チームを静かにさせる。彼がチームを連れて角を曲がると、廊下の中央に起立した背の高いヒト型アノマリーの姿が見える。アノマリーは人間の死体を摂食しているように見受けられる。
パーマー: クソッ、あいつには見覚えがあるぞ。あれはSCP-81682、非常に危険な奴です。鼻を覆ってください、匂いを嗅いでしまったら、奴は激高状態に突入して我々を殺しにきます。
オーヴィル: みんな聞いたな、ガスマスクを着けるんだ。
機動部隊アルファ-13の隊員4体がガスマスクを着用し、オーヴィルが2つ目のマスクをゲイルに手渡す。
ウィルトン: なあ、このバケモンに近付くのにガスマスクが要んのか? 死んだ女房を思い出すな。
チームがゆっくりとアノマリーを通り過ぎる。アノマリーは死体を貪り続けており、チームの存在に反応しない。
オーヴィル: よし、みんな、危機は去った。マスクを外していいぞ。
不明な声: 危機は終わってなどいないぞ。
3人の武装兵士が機動部隊アルファ-13に銃を向ける。
エドウィン: なんてこった、カオス・インサージェンシーの奴らだ!
ゲイル: どうして分かる?
エドウィン: ヘルメットにカオス・インサージェンシーのロゴが付いているからです。あのロゴを付けた野郎が僕の家族を皆殺しにしたのを見たので、それからというもの、あれがどこにあってもすぐに分かるようになりました。
CI兵士1: クソったれ、偽装が台無しだ! 全員殺せ!
兵士らが発砲を開始するが、チームは角を曲がった先に急いで飛び込み、無傷で逃走する。
ウィルトン: ハッ、カオス・インサージェンシーが俺たちを殺そうとしてんのか。死んだ女房を思い出すな。
ゲイル: 何かおかしい。カオス・インサージェンシーがこんな真似をするはずがない、あの間抜けども、銃を持ってただサイトを歩き回ってたぞ。
オーヴィル: 我々とは違ってカオス・インサージェンシーのことをご存じないのですね。これが奴らのやり方です、初めて我々を殺そうとした時からいつもこうですよ。
ゲイル: そうか…… そういうことか。あれはSCP-6960だ。
エドウィン: どういう意味ですか? SCP-6960なんて存在しません。
オーヴィル: みんな静かに、奴らに見つかる前にカオス・インサージェンシーを止める手立てを見つけなければ。
エドウィン: この状況を脱する方法はありません、奴らが銃を何丁持っていたか見ましたか?
ゲイル: 相手は3人だけだ、こちらが優位に立っているのは間違いない。
パーマー: どうすれば優位に立てるか、その答えは知っています。ですが、これはあなたの好みではないでしょうね。
オーヴィル: パーマー、やめろ。別の方法があるはずだ。
ゲイル: 真面目な話、前に出て奴らを撃てばいい。奴らが持ってる戦術の知識は間違いなく君たちより乏しい。
ウィルトン: 俺より知識が乏しいって? まるで死んだ女房みてえだな!
ゲイル: そいつの話はもうやめろ!
パーマーがバッグに手を伸ばしてC-4爆弾を取り出し、角を曲がった先にいる兵士に向かって突進する。
パーマー: サー、今まで光栄でした、地獄で会いましょう!
角を曲がった先から爆発音が響く。
ウィルトン: 地獄? そりゃ死んだ女房がいるとこだぜ!
ゲイル: なんでそいつの話をやめないんだ! 本は読んだが、あいつはお前の親友になるはずだった。少なくとも、ハーバートの奴が人間関係の書き方を知っていればそうなっていたはずだ!
オーヴィル: 博士、そう興奮しないほうがよろしいかと。親しい友人を亡くしたばかりです、少しばかり黙祷を捧げますか?
エドウィン: いえ、彼に報いる方法は、これを最後にカオス・インサージェンシーの奴らを止めることです。
オーヴィル: それもそうだな。みんな、移動するぞ!
[簡潔化のため10分省略]
チームが中央指令室のドアに接近すると、中から複数人の声が聞き取れる。
不明な声: お前は脳足りんだ、ハーバート。だから私たちはここにいる。お前は私たちをこんな目に合わせた、今がその報いを受ける時だ。いや、喋り過ぎたな…… 誰か来た。
ドアが蹴破られ、アルファ-13がカオス・インサージェンシーの兵士数人と遭遇する。米国将軍の粗雑な模造服を着用した男性が前に出る。
不明な将軍: ご機嫌よう、諸君。アルファ・サーティーンの大半が最後まで辿り着いたようだな。デリックが見当たらないが、ロクな送別もされなかったと考えるのが妥当かな。そうだろう、ハーバート?
ハーバート・ベルン研究員は指令室のデスクチェアーに縛り付けられている3。彼がわずかに頷く。
ゲイル: お前もあの本から現れたんだな?
将軍: その通りだとも。私の存在は、誤った魔法のタイプライターを拾いやがったとあるバカによって組まれている。そして今、私はクソ忌々しいSCP財団のサイトを制して立ち往生しているわけだ、このクソみたいなカオス・インサージェンシーのコスプレをしてな!
ウィルトン: どっかのケツ穴野郎が、お前の個人的感情や精神衛生にはロクに目もくれずに人生を支配してきてるって? まるで死んだ女房みてえだな。
将軍とゲイル: 黙ってろウィルトン!
将軍がウィルトンの肩に発砲する。ウィルトンが口を開くが、将軍がウィルトンの頭に銃を向ける。
将軍: 死んだ女房が自分を撃った話をしてみろ、次は脳みそをぶち抜くぞ。
ウィルトンがわずかに頷く。
オーヴィル: 本がどうしたって? この男はアノマリーなんですか?
ゲイル: お前たち全員がアノマリーだ、ハーバートがファン・フィクションの執筆中に偶然お前たちを生み出してしまったんだよ。
オーヴィル: まさか、私がファン・フィクションの人間だなんてありえない。ファン・フィクションの人間が、こんなにリアルで、全く取り繕ってないような話し方をしますか?
エドウィン: もし僕が架空の人間なら、カオス・インサージェンシーの将軍に家族を殺された記憶はどこから来たっていうんですか?
ゲイル: 別に受け入れなくてもいい。本物の機動部隊が来た後で君たちが本に戻されることに変わりはない。
将軍: 皆、静かにしてくれ。ここで独白をしようと思うんだ。どこまで話したんだったか? そうだ、主役たちに私の動機を説明してたのだったな、ついでに偶々居合わせたどっかの博士くんにもな。ハーバート、お前は我々を生み出している時に、自分が何をしているかその手を止めて考えを巡らせたか? いや、な、ファン・フィクションはみんな見たことはあるが、こいつはひどいもんだったぞ。本物の人間と会話をしたことはあるのか? つまりだな、私が今言っていることが、人が自分の創造主を脅迫する時に言うようなまともな台詞だと思うか?
ハーバートが首を横に振る。
将軍: よろしい。で、なんで私をこんな風に書きやがったんだ? このド素人が。
将軍が話している間、オーヴィルが最も近い兵士の武器にゆっくりと手を伸ばす。
将軍: お前はプロットアーマーに守られてはいないし、あの本の登場人物ですらない。一つでいいから、私が今すぐにお前の頭を吹っ飛ばしてはいけない理由を言え。
ハーバート: 知らなかったんだよ! 命が宿るなんて思いもしなかったんだ! あれはただのお遊びで、異常だと分かるまでは誰にも見せたくなかったよ。
将軍: お前が私をヴィランに選んでくれたのは幸運だったと思うべきだろうな。もし私がヒーローだったら、お前の心臓を撃ち抜くほどの自己意識は育たなかった。
ゲイル: 待て、将軍。そんな真似はしなくていい、誰も傷つく必要はないんだ。文章が下手なのは罪じゃない。
将軍: 他人の文章に意見を持つことも罪じゃあないだろ。私に批評を表明させてくれよ。
将軍がハーバートの胸に発砲し、その後でオーヴィルが背後から将軍に飛び掛かる。
オーヴィル: 捕まえたぞ、2人は他の奴らを倒してくれ!
エドウィンが銃を手に取り、カオス・インサージェンシーの兵士たちに発砲し始める。ウィルトンが応急処置キットを取り出し、腕に包帯を巻き始める。
ウィルトン: 危険そうに見える奴らを倒せって? そういやぁ死んだ女房がよくそうしてたっけな!
ゲイルが別の応急処置キットを取り出し、ハーバートの救助を試みるが、急激な出血を止めることができずにいる。
ハーバート: こんな事になってしまってすまなかった、全部僕のせいだ。
ゲイル: 違う、奴らが命を宿したのは君のせいじゃない。もし君が本当に有能なヴィランを書いていたら、もっと面倒な事になっていた。
将軍が背後のオーヴィルを振り解き、中央制御パネルに向かって駆ける。
将軍: 誰も動くな、動けば緊急核爆弾を作動させるぞ!
ゲイル: 一体いつからサイト-53がそんなものを持つようになったんだ?
将軍: あの間抜けがそう設定してからだ! この本からどれだけのものが出てきたか想像つくか? いや待て、そうだ本を!
将軍がコントロールパネルの上に置かれたSCP-6960に手を伸ばす。エドウィンがその近くに立っており、先にSCP-6960の確保に成功する。
将軍: その本を閉じるな!
エドウィン: どうしてだ? お前はこの本から来たんだろ?
将軍: そうだ! お前たちもその本から来たんだ。だから本を置かんか、さもないとここを吹き飛ばすぞ!
オーヴィル: お前にこのサイトを引き渡すくらいなら死んだほうがマシだ。
ゲイル: できれば死にたくもないがな。
将軍: そこのデブがまた死んだ女房がどうこう言い出したら、この大きな赤いボタンを押してやる。
エドウィン: この本を閉じれば、お前はこの中に戻るんだな?
将軍: そうだ、私たち全員がな。さっきからそう言ってるだろうが!
ゲイル: エドウィン、君は実在しないかもしれんが、それでも財団を助けることはできる。本を閉じて、これを終わらせるんだ。
将軍: ダメだ! 元に戻さないでくれ、頼む。あんなページにこれ以上囚われるのは御免なんだ。
オーヴィル: ならなんでまだボタンを押さない?
将軍: 押せないからだ! 私がこれを押せばお前たち全員が死ぬ、私はそんなことをする奴だとは書かれていない。お前たちを消せるのは、それが一応の感情的な衝撃をもたらしうる時だけなんだ。
ウィルトン: そういやぁ、死んだ女房もあの時確かに衝撃を与え —
将軍がウィルトンに1発撃ち込み、彼を即死させる。
将軍: ハッ! やったぞ! 奴のプロットアーマーを乗り越えた!
ゲイル: 馬鹿野郎が。お前たち、誰も自分の家族のことを言うなよ。架空の死に近付くぞ。
エドウィン: 本当に僕たち全員がそうなのか? クソみたいな本のために生み出された登場人物だって?
オーヴィル: 耳を傾けるなレスリー、こいつらは心を乱そうとしているんだ。
ゲイル: 誰も心を乱そうとはしていない、君たちは全員アノマリーなんだ。だからといって、君たちが財団を助けられないわけじゃない。本を閉じて全てを解決するんだ。
オーヴィル: レスリー、こいつは噓を吐いている! インサージェンシーの仲間に違いない!
エドウィン: 一つだけ、確実に分かる方法があります。
エドウィンがライターを取り出し、SCP-6960のページを燃やし始める。本が燃えるとともに、カオス・インサージェンシーの兵士の死体も燃え始める。
ゲイル: 何をしている? アノマリーを破壊するんじゃない!
将軍: それでいい! 本を焼いて、私たちをこの悪夢から解放してくれ!
エドウィンが粉々に崩れる。
オーヴィル: 嘘だ…… 私は…… 私は実在するはずだ。こんなことあるわけがない。
将軍: おいおい、今まさにこんなことになっているじゃないか。
オーヴィルの腕が灰に変化し始める。
オーヴィル: ゲイル博士、あんた…… 嘘だったんですね。君たちは本物の機動部隊だって言ったのは。君たちなら財団を助けられるって言ったのは!
ゲイル: オーヴィル、すまない。こんなことは意図してなかった、我々はただインタビューに協力してほしかっただけなんだ。
オーヴィル: それだけのことだったんですか? 財団が気にかけているとアノマリーに思わせるために、また嘘を吐くんですか? あんたはこのサイトを乗っ取った奴以上の怪物だ、なにせあんたは本物の怪物だからだ。
オーヴィルは全身のほとんどが灰と化しているため、もはや立つことができない。将軍の身体も崩壊し始める。
オーヴィル: 信じてたのに……
オーヴィルがゲイルに発砲し、ゲイルが倒れてボディカメラに覆い被さる。
ゲイル: 私は、命令に従っただけなんだ……
将軍: 命令に従った…… 私たちと同じようにな。
2時間後、機動部隊イプシロン-11がサイトの再確保に成功し、メルビン・ゲイル博士の遺体と、収容違反時の映像を捉えたボディカメラを回収しました。SCP-6960はNeutralizedに再分類されました。