SCP-7000
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評価: +196+x

ETTRA.png

注目!

緊急時脅威戦術対応機構

最優先通達


全世界的なLK-クラス “運命の悪戯” 確率破綻シナリオが現在進行中です。この緊急事態の間、ETTRA職員から発せられる一切の要請は、監督司令部の権威を伴う強制指令となります。

未申告の異常体質を有するSCP財団職員が、この期間中にETTRA代表者に申し出た場合は、収容、記憶処理、終了処分のいずれからも免除されます。当組織の存続のためには、あらゆる内部確率ベクトルを特定し、対応策を適宜開発することが不可欠です。当組織の存続は、人類の存続にとって不可欠です。

我々は超常性を支配し、我々の法則はマーフィーの法則に取って代わる。

— ETTRA管理官、ダン・███████博士

アイテム番号: SCP-7000
レベル3
収容クラス:
keter
副次クラス:
inimical
撹乱クラス:
amida
リスククラス:
critical

Lightning.jpg

SCP-7000発生中の典型的なシングルセル型雷雨。

特別収容プロトコル: SCP-7000に関連する全ての収容試行は、緊急時脅威戦術対応機構 (ETTRA) の管轄下にあります。ETTRA以外の職員は、当シナリオに直接関連する収容活動を控える必要があります。.Inimicalクラスの異常存在は、収容試行によって影響が深刻化するため、解体処分する必要があります。

全ての財団職員は、日常業務を行う前にETTRAマニュアルLK-4 (“賭けるなかれ: 業務の確率変動強度の評価”) を参照しなければいけません。監督司令部、ETTRA、またはセキュリティクリアランスレベル4以上の監督職員から直接指示がない限り、確率指数4.9以上の作業の実施は認められません。既知のSCP-7000の影響の完全版報告がSCiPnetで毎日公開される予定であり、追って通知があるまでは、あらゆる種類の実験や任務の実施に先んじて閲覧しなければなりません。

SCP-7000-1は重要度が低く、収容を必要としません。


WettleDeer.jpg

SCP-7000-1。

説明: SCP-7000は、地球上において進行中であり、地球外にも及んでいる可能性がある、確率要因の無作為化と異常な偶然性です。この効果は包括的ではなく — 完全な因果関係の破綻は合意的正常性、SCP財団、人類の速やかな喪失を招くでしょう — 断片的です。各要因は様々に異なる程度、異なる期間、そしてしばしば異なる地理的影響範囲で無作為化され、そこに明確な論理的パターンは見られません。それにも拘らず、以前は予測可能だった行動に対して、数多くの非常識で注目を引きやすい結果が累積しているため、秘匿のヴェールは憂慮すべき速度で劣化しており、世界各地で収容試行を脅かしています。

この因果関係の破綻の原因は、現時点では不明です。

SCP-7000-1は、現在サイト-43再現研究セクション次長を務めている54歳の白人男性、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士です。彼とSCP-7000の関係性はレベル4機密事項です。


クリアランスレベル4+資格情報を確認


当ファイルの続きは、緊急時脅威戦術対応機構またはO5評議会の明示的承認を得た場合のみ公開可能とし、違反者を死刑とする


補遺 7000-1、現象概要: 2022年7月7日、ウェブクローラ I/O LORENZは、普遍的確率の変動の指標となるオンライン上の数字生成サービス RANDOM.ORG の異常な挙動を報告しました。プログラミングコードの予測可能性によって、コンピュータは通常、擬似的な乱数しか生成できませんが、RANDOM.ORGは自然界の大気中に含まれる無線雑音を変換処理して真の無作為性を実現しています。I/O LORENZは、確率破綻の早期警戒信号として、1から10まで、1から100まで、1から1000までの各10個の乱数リクエストを毎日送信しています。2022年7月6日の結果は以下の通りでした。

9, 2, 6, 8, 10, 4, 7, 7, 5, 10
83, 66, 32, 58, 34, 29, 91, 8, 56, 54
37, 190, 581, 848, 63, 767, 166, 668, 564, 932

翌日の結果は以下の通りでした。

1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10
1, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100
1, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900, 1000

気象学的な調査の結果、天候に関係なく、今やあらゆる大気中雑音が識別可能な順序の非乱数を生成することが判明しました。I/O LORENZは直ちにRANDOM.ORGの乱数生成サービスから自らへの強制リダイレクトを有効化し、アノマリーの特定及び抑制が可能になるまで、一般利用者に向けた疑似乱数の生成を開始しました。この事案は緊急時脅威戦術対応機構と解析部門に通達され、後者は迅速に、急速かつ広範囲な現実改変事象の証拠となる、同日発生した統計的にあり得ない事象のリスト (以下参照) を作成しました。

項目: GoI-003 (“カオス・インサージェンシー”) に所属する潜入スパイが、エリア-150で一連の不可解な行為に従事している最中に捕獲された。スパイは、インサージェンシーの最高位工作員 (“エンジニア”) が、正体不明の確率論的予測装置 (“エンジン”) が提供するデータに基づいて作成する作戦概要書 “ステップ・コンピレーション” の一部を所持していた。ステップ22/617では2棟の建造物の間を舗装路で移動するように指示されていたが、スパイは突然の激しい嵐に見舞われ、巨大な雹に打たれて意識を失っていた。

対応策: スパイは拘留され、尋問が進行中である。エンジンの総合計画や最終目標は、個々の反乱工作員インサージェントには決して明かされないため、これが望ましい結果だった可能性は依然として残されている。


項目: 既存の全ての暗号通貨市場の唐突かつ全面的な破綻。

対応策: 無し。この事象は長期的な予測モデルと完全に一致する。


項目: SCP-179が明らかに困惑する様子を見せ、コンパスの主要方位点に対応する8方向の脅威を指差している — ただし、SCP-179は地球上ではなく太陽の近傍に存在するため、方位の関係性は純粋に外見上のものでしかない。

対応策: 太陽探査装置が故障した場合、その交換には莫大な費用を要することから、確率性が安定するまでSCP-179との直接交信は行われない。エリア-08-Cが遠隔監視を担当する。


項目: イエローストーン国立公園の間欠泉 “オールド・フェイスフル・ガイザー” が、少なくとも1870年以来続いていた約65分または91分間隔の2パターンから逸脱し、30分おきに繰り返し噴出している。

対応策: 周辺地域からの退避を呼びかけ、超常科学的調査を隠蔽するために一般科学的調査を装って封鎖。


項目: 異常な保険会社 “ゴールドベイカー=ラインツ・インシュアランス・グループ Ltd.” による複数の低利回り投資の、相互に相関性のないイールドカーブ変動。修正簿価は現在、数億米ドル規模に達している。

対応策: ゴールドベイカー=ラインツ社の代表者たちは全ての問い合わせに次のように回答している: “このような (お客様にとって) 予期せぬ事態が発生したことで、現時点で保険の早期見直しをお望みであれば、喜んで直接お話を伺わせていただきます。” 対応策は取られなかった。翌日、投資は暴落し、それまでの利益を全て帳消しにした。G-R代表者はその後の問い合わせに応じていない。

OldFaithful.jpg

SCP-7000中のイエローストーン国立公園封鎖ゾーン。

緊急時脅威戦術対応機構は7月8日に非常事態宣言を発令しました。現実改変または奇跡論によって当該事象を引き起こしている要因が解明されない場合、シナリオ抑制の努力が複雑化するという仮説を受けて、O5評議会は異常体質を申告していない財団職員への特赦権限をETTRAに付与し、自己申告を促しました。

翌週を通して、サイト-43に勤務する複数の職員が、異常存在としての分類に名乗り出ました。その最後が、7月13日にインタビューに応じたウィリアム・ウェトル博士でした。

インタビューログ

記録担当者: D・ソコルスキー博士 (ETTRA副管理官)
対象: W・ウェトル博士 (サイト-43、再現研究)


<抜粋開始>

ウェトル博士: 今じゃ上層部は君にインタビューをやらせてるのか? 社交的な連中に何かあったか?

ソコルスキー博士: 健康体の職員は全員、できる限り支援せよと厳命されている。俺たちは総力を挙げて対応すべき危機に直面しているんだ。

ウェトル博士: 徐々に危機の間隔が短くなってるのは気のせいか? 去年あったばかりだぞ。

ソコルスキー博士: オーケイ、お定まりのやり取りは飛ばして率直に言う。世界が面白おかしく独創的な終焉の迎え方を見つけやがったせいで、こっちは非常に忙しい。だから時間を無駄遣いさせるな。お前が何かと時間を浪費するのも、おまけに心気症なのも分かってるぞ。すぐにでも否定してやるから簡潔に教えろ。自分にどんな異常性があると考えてる?

ウェトル博士: 運が悪いんだ。

Willie.jpg

ウィリアム・ウェトル博士。

ソコルスキー博士: 大概にしろよ。

ウェトル博士: いや、真面目な話だ。私はとんでもなく運が悪い。良い事は私の身に全く起こらない。現状を打破できるほど悪い事も起こらない。何をやっても上手くいかないサイクルに嵌まり込んでいる。

ソコルスキー博士: ここは隠れ現実改変者向けの予約不要診療所だぞ、分かってんだろうな? 俺は災害対策コーディネーターであって、セラピストじゃないんだ。

ウェトル博士: 話を聞いてくれ。私は再現replication研究の責任者だろう? 言わば、私は自分自身でmyself再現研究をしてるんだ。

ソコルスキー博士: その自己複製self-replication研究とやらは、どうせ自分の部屋に籠って—

ウェトル博士: いいから聞け? いや、そうだな… ちょっと待てよ…

<ウェトル博士は白衣のポケットに手を差し入れ、大きめの綿屑3個、プラスチック製のボトルキャップ、白衣のボタン、画鋲 (親指に刺さっている) 、カナダの25セント硬貨をゆっくりと順番に取り出す。彼は親指を軽く吸ってから、25セント硬貨をその上に乗せる。>

ウェトル博士: こいつが着地する前に結果を予測してみる。

<ウェトル博士はコインを弾く。>

ウェトル博士: 表。

<コインは天井タイルにへばり付く。ウェトル博士とソコルスキー博士が暫しそれを調べる。>

ソコルスキー博士: 誰が天井タイルにガムを張り付けたんだ?

ウェトル博士: 良かろう、大した事じゃない。1から10の間の数字を思い浮かべてくれ。

ソコルスキー博士: オーケイ。

ウェトル博士: 10。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 3。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 5。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 1。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 9。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 8。

ソコルスキー博士: 違う。冗談だろ。

ウェトル博士: 3。

ソコルスキー博士: 3はもう言った

ウェトル博士: 4。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 2。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 6。

ソコルスキー博士: 違う。

ウェトル博士: 7。

ソコルスキー博士: 違う。あぁいや、当たりだ。おいおい。こりゃ何とも心惹かれるね。

ウェトル博士: もう1回やってみよう。

ソコルスキー博士: 止めておこう。他のデータは持ってるか?

<コインがウェトル博士の頭に落下する。彼は手を伸ばしてコインを髪から取ろうとするが、ガムがまだ付着しているため、髪にこびりついている。彼は溜め息を吐く。>

ウェトル博士: 過去20年分のコイントスの記録がある。一度も正しく予測した試しがない。

ソコルスキー博士: 一度たりとも?

ウェトル博士: 一度たりとも。そして、これだ。

<ウェトル博士は身振りで自らの髪を指す。>

ウェトル博士: いつ頃からか覚えていないが、これが私の人生だよ。私が下す決定は全て間違いだ。上手くいかない可能性がある事は全て上手くいかない。数多くの妙なアノマリーに曝露するせいで、1週間のEクラス隔離措置すら取られなくなった。VKTMに誘拐された回数は多すぎていちいち覚えていない。私には主導権も無ければ、制御もできない。誰もが先へ進むのに、私は線路板の間に足を挟まれて立ち往生している。私は負の確率シンクなのさ。

ソコルスキー博士: これは他人にも影響するのか?

ウェトル博士: あり得ると思う。ウチのスタッフには定期的に運をリセットするための活動を幾つかさせているが、それでどうやら彼らは余波から守られているらしい。それに関しては論文を書こうと思っていたんだ。収容室で書くことになりそうだがね。

ソコルスキー博士: なぁ、それについて一言訊きたい。何故、今になって打ち明けた? いつまでも秘密にしておけたはずだろう。ここの連中は、お前をただの不器用なアホだと思っている。俺はお前がただの不器用なアホだっていう実験的証拠を握ってるとばかり思ってた。

Sokolsky.jpg

ソコルスキー博士。

ウェトル博士: もしこのふざけた事態がますます悪化して、無作為なものがもう無作為ではなくなり、予測できるはずの事柄がメチャクチャな方向に転がるようになったら、私はエレベーターで地上に出た瞬間にバスに轢かれてもおかしくないからな。

ソコルスキー博士: この辺にバスは走ってない。

ウェトル博士: 私の悪運と私たちの悪運を掛け合わせたら、例外だって起こり得る。

ソコルスキー博士: ふむ。そうだな… ちょっと待てよ。記録を付けてると言ったな。

ウェトル博士: ああ。

ソコルスキー博士: 先週、何かしらの変化はあったか?

ウェトル博士: いや。予測は全て外れた。一つ残らず。

ソコルスキー博士: 一つ残らずか。

ウェトル博士: ああ。何故だ?

<録音上に沈黙。>

ソコルスキー博士: 記録されている確率関係のアノマリーは136件ある。お前はたった今137件目になった。

ウェトル博士: イェーイ。それがどうした?

ソコルスキー博士: ウィリー、そのしょぼくれた人生で初めて、お前は特別な人間になれるぞ。

<抜粋終了>

ソコルスキー博士は上記の現象を説明付ける暫定的な仮説を立て、ウェトル博士が出した結論の幾つかを即座に却下しました。彼は疑惑を裏付けるため、主にサイト-43の職員を対象とする非公式インタビューを短期間実施しました。

対象: ハロルド・ブランク博士 (サイト-43、記録保存・改定、議長)

ソコルスキー博士: お前はウェトルの友達だよな?

Blank.jpg

ブランク博士。

ブランク博士: イエスと言ったら、彼にもそう伝える気か?

ソコルスキー博士: いや、ハリー、俺はわざわざおチビのウィーウィリー・ウェトルなんかとお喋りしに行くつもりはない。考えてもみろ。

ブランク博士: だとしたら、まぁそうだね。私と彼は友人だよ。

ソコルスキー博士: どういう間柄なんだ?

ブランク博士: ウェトルが私に付いてきて、私は彼をからかい、彼は最終的に転んだり何かにぶつかったりして、私は彼が立ち上がるのを助けたり医療班を呼んだりする。彼が私に頭痛の種を与え、私が彼を小馬鹿にするという、一種のギブ&テイクな関係だね。多分、傍からはおかしなコンビに見えるだろう。

ソコルスキー博士: そうでもないぞ。お前はちょっとあいつに似てる。

ブランク博士: あ?

<ソコルスキー博士は指差す。>

ソコルスキー博士: 頭でっかち、妙ちきりんな髭。ジジむさいメガネ。ファッションセンス無し。

ブランク博士: とっとと失せろ。

ソコルスキー博士: ウェトルだってよく思うはずだ。“私はこの男とほとんどそっくりじゃないか。なのにどうして彼はもっとマシな業務をやっていて、友達に恵まれているのだろう。どうして彼には正真正銘の人間の妻がいるのに、私には代わりに—”

ブランク博士: その台詞がどう終わろうとも聞きたくない

ソコルスキー博士: 要点はだな、幸運の女神から加護を受けているのはお前だということさ。

ブランク博士: ありとあらゆるものから加護を受けていると考えたい。時々ウェトルを気の毒に思うこともあるが、彼は自分の立場に甘んじて生きている。強情なのさ。

ソコルスキー博士: あいつの不手際がアノマリーじゃないかと考えたことは?

ブランク博士: …多分1、2回ある。

ソコルスキー博士: 白状しろSpill

ブランク博士: 零せSpillとは言い得て妙だな。先月、私の結婚式があったろう。

ソコルスキー博士: ああ、成程。水が溢れたっけな。

ブランク博士: 数十年ぶりに作業用ブーツ以外の靴を履いた日に限って。

ソコルスキー博士: で、後の1回は?

ブランク博士: …ウェトルの別れた妻とはもう話したか?


対象: マルゲリータ・ヴィラー (民間人)

ヴィラー: シリー・クラブ・プロダクションズなんて名前、初めて聞きました。

Margherita.jpg

マルゲリータ・ヴィラー。

ソコルスキー博士: これからきっと耳にしますよ! ただ、言ってみれば、まだちょっと浮足立ってます。

ヴィラー: どうりであんなお粗末な専門家を雇おうなんて考えると思いましたよ。あの人の大学時代の成績については聞いてますか? 彼が博士課程に入れたのは、私の父が大学に寄付していたからですよ。

ソコルスキー博士: ウェトルも実はちょっと寄付してる所がありましてね。お分かりでしょうか。

ヴィラーはソコルスキー博士を暫し見つめた後、爆笑する。

ヴィラー: 成程ね、良く分かりました。5分差し上げます。

ソコルスキー博士: ありがとうございます。そんな訳で、彼の経歴を調査してるんですよ。パパラッチに昔のツイートを掘り返されて会社が恥をかいたりしないように、何かマズい秘密を隠してないか知りたいんです。

ヴィラー: 多分Twitterはやってないでしょう。何につけても不器用な人ですけど、特に電子機器はからっきし使えませんから。

ソコルスキー博士: そりゃ良かった、心に留めておきます。では、性格はどうでしたか? あなたの元夫はどんなタイプの男性でした?

<録音上に沈黙。>

ヴィラー: 自分勝手でどうしようもないダメ人間でした、ワシリーエフさん。あれから少しでも成長したかは怪しいと思います。

ソコルスキー博士: おっと。期待していた答えとは少々違いますね。具体的にお聞きしても?

ヴィラー: あの人が新婚旅行でうっかり私のニコンをナイアガラの滝に落とした時、私は平静を装いました。私の父の70歳記念のバースデーケーキに顔を突っ込んだ時も、冷静に受け止めました。勘違いして2週間も別な事務所に通勤し続けたせいで — 誰も気付かなかったし、誰も教えてくれなかったって言うんですよ — クビになって、私が次の職を見つけてあげる羽目になった時も、軽く受け流しました。でもあの交通事故で…

ソコルスキー博士: 交通事故?

ヴィラー: 彼のせいじゃありません。事故は彼のせいじゃありませんでした。私はイライラしながら運転してたんです — 勿論、あの人に対してイラついていました。いつだってそうですよ、あのカーペットにウンコした後の子犬みたいなマヌケ面、私の一番上等なジーンズの裾を草刈機で切り落としたのはわざとじゃなくて、そうなってしまったんだとかいう信じられないようなデタラメ、そして我が家を… 何の話でしたっけ…

ソコルスキー博士: 事故です。

ヴィラー: ああ。事故ですね。彼に対してカンカンに腹を立てていて… もう理由なんか覚えてもいませんが、とにかく目の前が真っ赤になりました — その時ばかりは本当に目の前が赤く染まりました。フルスピードでミニバンに横から衝突してしまったんです。免許を失い、車を失い、職も失いかけました… そして夫を失いました。私が退院した翌日、あの人はただ出て行った

ソコルスキー博士: ええっ…

ヴィラー: 信じられますか? 怪我したのを他人のせいにするなんて。責任感がまるで無いんです。あの人がいなくなってから生活は楽になりましたし、今でもそうですけど、当時はとてもそんな風には思えませんでした。カナダではヘルスケアが無料かもしれませんけど、この国では下手したら一生を棒に振るかもしれないんです。

ソコルスキー博士: 良く分かりました。ご安心ください、今回の話を十分考慮して採用するか否かを決定します。

ヴィラー: 良かった。あなた方がどんなに援助を必要としていても、信頼できる人が必要でしょう。あなた方も、あの人がいない方がしっかりやっていけると思いますよ。


対象: ガブリエル・オコナー (サイト-43、再現研究、研究助手)

ソコルスキー博士: ウェトルについてどう思うか聞かせてほしい。

オコナー研究員: えっと。

ソコルスキー博士: 大丈夫だ、このファイルはあいつのクリアランスレベルより上だから。

オコナー研究員: ワオ。それって何か… 意地悪じゃない?

ソコルスキー博士: ほら、ボスの愚痴を垂れていいんだぞ。俺は今フリーパスを渡してるんだ。

Replication.jpg

オコナー研究員とウェトル博士。

オコナー研究員: うん、まぁ… 別に批判してるわけじゃないけどね。あいつに対して意地悪になるのはごく自然な反応だし。あんなに思いやりのない人間に初めて会ったって言うかさ。コーヒーを最後の一滴まで飲み終わった後、次に飲む人たちの分を作らないで立ち去るのを何回目撃したかもう分かんない。

ソコルスキー博士: きっと自分の時間は価値あるものとでも…

<ソコルスキー博士は笑う。>

ソコルスキー博士: 参ったな、最後まで言い通すこともできない。

オコナー研究員: そうなんだよね。でも、あいつの言い訳はもっと凄かったよ。“私がコーヒーなんか作ったら全員豆中毒になるぞ”。

ソコルスキー博士: 豆中毒。

オコナー研究員: ほらね? そんなもん存在しない。どうせ嫌な奴になるなら、素直に認めりゃいいのにさ。意地悪な奴であるために意地悪をすればいい。都合よく誤魔化すなっての。

ソコルスキー博士: ああ、苦みが売りのコーヒーに砂糖を入れてもどうにもならんな。ウェトルは不運だと思うか?

オコナー研究員: 私は因果応報だと思ってるけど、確かにそうだね。でもその話はバストに訊くと良いよ。彼はそれについて研究してるから。

ソコルスキー博士: バスト?

<オコナー研究員は赤面する。>

オコナー研究員: ルブラン研究員。


対象: バスティアン・ルブラン (サイト-43、再現研究、研究助手)

ソコルスキー博士: ギャビーから、お前がウェトルの特ダネを持ってると聞いた。

WettleSelfie.jpg

ウェトル博士とルブラン研究員。

ルブラン研究員: なんで50年代の新聞売りみたいな話し方するんですか?

ソコルスキー博士: ウェトルはこれまで、自分の運のアノマリーについてお前に話したか?

<録音上に沈黙。>

ソコルスキー博士: あいつは自供した。ETTRAに。特赦があるからな。

ルブラン研究員: 俺、本当に特赦があるなんて正直信じられなかったんですよね。それに彼は俺よりもずっとシニカルだから… きっと相当怯えてたんでしょう。

ソコルスキー博士: あいつには怯える理由があるのか?

ルブラン研究員: あると思います。あの人は自分が悪運を引き寄せると考えてる。他人に悪運を移さないための儀式まで用意してます。

ソコルスキー博士: それも聞いた。妥当な説だと思うか?

ルブラン研究員: 俺に分かるのは、彼がそれを心配してることだけです。

ソコルスキー博士: お前のカノジョは、ウェトルは他人をまるで気に掛けないと思ってるぞ。

<ルブラン研究員は恥ずかしそうな表情になる。>

ソコルスキー博士: ウェトルは部下がデートしてても平気なのか?

ルブラン研究員: 付き合い始めてほんの1ヶ月ですけど、一度もそれに触れてきたことはないですね。触れる理由だって無いでしょう? 彼は… そりゃ時にはろくでもない奴だったりしますけど、残酷じゃありません。

ソコルスキー博士: お前、実はあいつが好きなんだろ?

ルブラン研究員: ええ。それなりにね。彼は悪いパターンに嵌まり込んでいて、そこから脱却しようとしている。一旦知ると、案外そこまで悪い人間でもないのが分かりますよ。

ソコルスキー博士: 少年、俺はウェトルを20年前から知ってる。多分お前はあいつを十分に知らないんだ。あいつはこれまでずっと自分を売り込み、注目を引き付けようとし、周りの連中を凌駕しようとしてきたが、一向に上手くいかなかった。そして今じゃ、変化するには歳を取り過ぎてる。

ルブラン研究員: 変化していると思います。彼はもう何ヶ月もそんな事はやってません! どちらかと言えば、注目を浴びないように、目立たないようにしてます。もしあなたが20年間ずっと彼を見誤ってたとしたらどうします?

ソコルスキー博士: もしウェトルが自分自身を見誤ってたとしたら?

ルブラン研究員: それはどういう意味ですか?

ソコルスキー博士: 今まであいつの悪運を移されたことはあるか?

ルブラン研究員: そんなの、測定しようがないでしょう?

ソコルスキー博士: じゃあ、ここに転勤して以来、お前の運は悪いと思うか、それとも良いと思うか?

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: 割と良いと思いますね。

ソコルスキー博士: ああ、お前のカノジョも元気そうだった。オーケイ、再現研究セクションでは事故記録をまとめてるよな? サイト全体の?

ルブラン研究員: はい…

ソコルスキー博士: 今週の記録担当は?

ルブラン研究員: 実は俺です。

ソコルスキー博士: 何件の事故を記録した?

ルブラン研究員: ええと。今のところ、ゼロです。

ソコルスキー博士: 報告書をまとめてないのか?

ルブラン研究員: 報告書が届いてません

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: 今になってやっとおかしいと気付きました。

ソコルスキー博士: 自分を責めるな。欠落してる傾向は見つけるのが一番難しいんだ。

これらのインタビューに続いて、ソコルスキー博士はSCP-7000とウェトル博士を絡めた実験案を構想し、ETTRA管理官のダン・███████博士に連絡を取りました。確率破綻は進行し続け、その影響は超常コミュニティで最も顕著に感じられるようになりました。

項目: Nx-18 (ウィスコンシン州 スロースピット) の仕組みが物語論理のルールに従わなくなった。Nx-18の主な異常性は事実上確率に基づいている — 物語の類型や文学的仕掛けを利用すると一貫して望ましい結果が得られるというもの — この結果、スロースピットは平凡なアメリカ中西部の町と化した。

対応策: SCP-7000がいずれ無力化され、この効果が逆転することを期待して、ネクサス封鎖措置は続行される。サイト-87の職員たちが、影響を受けた町民たちや神話的存在たちへのカウンセリングを実施している。


項目: マーシャル・カーター&ダーク株式会社のシニアアソシエイトが、折り畳みソファの事故で死亡した。

対応策: 無し。折り畳みソファの事故は、ごく稀ではあるが“自然に”発生し得る。


項目: 地球上で最も地震が少ない大陸、南極大陸で地震が発生した。震央を調査したところ、埋没したカオス・インサージェンシーの戦闘基地ファイアベースが発見され、職員53名全員の窒息死が確認された。

対応策: 将来の利用に向けて発掘。

ダン博士は7月16日にO5評議会への概要報告を行いました。

<抜粋開始>

DrDan.jpg

ダン博士。

ダン博士: 現状をどうにかしなければなりません、このままでは単純に持続不可能です。南シナ海で超大型台風を引き起こしている蝶がいます — そしてエリア-06の鉄格子にそれをぶつけるのは楽しい実験に違いないと思い付いた不届き者がいます。人々の生活を一変させる黒猫、鏡、梯子がそこら中に溢れています。我々は2台の.aicにeBayオークションで〆切ギリギリの落札をさせています… 皆さんがご存知かどうか、eBayでは誰もが何でもかんでも“レア”と銘打って出品するのですが、突然あらゆる商品が本当にレアになりました — 実際にレアであるべき物以外は。今朝私が起きた時には、イエス・キリストの顔が焼き付いたトーストが15枚出品されていましたが、偽物はそのうち3枚だけです。調達・清算部門は、ガレージセールの見回りに出かける全てのエージェントが一握りのアノマリーを持ち帰ると報告しています。世界中の子猫の半数は多指症、つまり指が6本以上ある状態で生まれており、それを説明付けるには科学界全体を洗脳して大気中の要因が云々というインチキ学説を信じ込ませなければならないでしょう。それか、沢山の猫を袋に詰め込んで、その袋を深く暗い川に沈めるかです。

O5-7: 随分と前置きが長いな。解決策を提示できたはずの貴重な時間を無駄にする価値はあったか?

ダン博士: はい。全く以て価値があります。と言うのもですね、この前置きについてですが、今挙げた事は厳密に確率的なものばかりではないのです。多指症は遺伝性の突然変異です。売りに出される貴重な品々は — キリスト印のパンの話ではありませんよ — 偶然性とは何の関係もありません。確率は貴重品を、貴重な人工物をそれまで存在しなかった場所に存在させ始めたりはしません。ならば雌鶏の歯はどうか? これは研究室の外では全く起こり得ない事です。

O5-7: 雌鶏の歯の話などしなかったぞ。

ダン博士: その他の約500種類の事象についても話していません。

O5-1: しかし、つまり君が言いたいのは、これは実は確率破綻ではないということだろう。

ダン博士: いいえ、これは間違いなく確率破綻です。全面的にそうではないだけです。致死毒を含有し得るフグを昨日食べた者は全員生き残りましたが、今日それを食べた者は全員死にました。サイコロの目は、過去24時間には6やら20やらの最大値しか出しませんでしたが、今日は1の目しか出しません。余りにも多くの人々が色違いのポケモンを捕まえているので — スタッフのおかげでポケモンとは何なのか説明することも可能ですが、皆さんにとってはどうでもいい事なのでお気になさらず — 任天堂のオンラインサービス、全てのファンサイト、幾つかのRedditコミュニティをダウンさせ、噂が広まるのを抑止しなければなりませんでした。そしてまた、既存のあらゆる賭博規制委員会にエージェントを送り込んで数字を操作し、もし可能であれば、コロナ禍の最中にカジノを運営するのは危険すぎるという名目で全面閉鎖させています。

O5-12: 正論だな。

ダン博士: 正論ですよ、幸運にも… それはつまり、コロナが明日にも収束し、我々は新しい言い訳を見つける必要に駆られるかもしれないという意味です! その上、ラスベガスが首を縦に振らなかったので、我々はより奇抜な作戦を余儀なくされました。サイト-666はアンダーベガスの悪魔たちとの取引を仲介し、彼らにラスベガス・ストリップでイカサマゲームを行わせ、公正なギャンブルが — そんなものが仮に存在するとして — 最早機能していないという事実を隠蔽させています。悪魔たちは、聞いても驚かないでしょうが、大喜びで支援してくれました。しかし、これは絆創膏を張る程度の一時しのぎに過ぎず、皆さんは私の短期的ではあるものの少しだけ長い目で見た対策を絶対に嫌がるでしょうから、ここで明確にしておきます。我々は今、厳密に確率的かつ迷信的な運の影響が極めて複雑に絡み合った事象に対処しており、より適切な説明が出来ないので単一のアノマリーとして扱っているのです。

O5-1: いいだろう、だったら絆創膏を剥がしてくれ。君のその嫌な解決策とは何なんだ?

ダン博士: 今現在、SCPデータベースに登録された全ての確率関連アノマリーは、死んだも同然の状態になっているか、確立されたパラメータの範囲外で暴れ回っています。一つ残らずです。ただし、皆さんの許可を得て、私がSCP-7000ファイルを更新し、ウィリアム・ウェトル博士を含めるならば、その限りではありません。

O5-10: ウィリアム… ウェトル? ウェトルですって? それは本名ですか?

ダン博士: 彼はサイト-43の下っ端職員なので、皆さんが素性を知らなくとも無理はありません。しかし現時点では、最も重要な人材である可能性を秘めています。彼はずっと負け犬人生を送ってきたと自認しており、実験データはそれを裏付けています。この男には文字通り一時も心休まる時がありません — 悲しむべきことですが、悲しくない一面もあります。彼は未だに異常性を保っている唯一の確率アノマリーなのです。

O5-1: 確かだろうな。

ダン博士: 勿論です。

O5-1: 理由は分かるか?

ダン博士: 勿論分かりません。我々には彼を研究している時間がありません。あるのは継続的に更新されている彼のデータと、私の副官の直感だけです。しかし! そのデータは豊富で、ウェット・ウィリーには嘘を吐くだけの想像力がなく、私の副官は彼がどんな人間かを熟知しています。今この瞬間、地球上に残された信頼できる確率因子はウィリアム・ウェトル博士だけです。

O5-4: こりゃ参った。それで俺たちに何ができる?

ダン博士: パッと見は、大した事ができないように見えます。もし彼が幸運に恵まれているなら、ええ、当然それを利用できるでしょう。しかし、悪運となると? 要注意団体か何かに取り込ませ、彼の善意によって内側からメチャクチャに掻き乱させることはできるでしょうが、それは非常に広い問題領域における非常に限定的な効用でしかありません。

O5-5: そうだね、それは止めておこう。

ダン博士: ただ単に運が悪いだけなら、個人的には、予測可能な確率の基準物以上の価値は無いと思います。

O5-13: 当然、それ以上のもんだと考えてるんだろうな。

ダン博士: その通りです。ウェトル自身の仮説と、ソコルスキー博士の仮説の2種類があります。ウェトルはこう考えています — 悪運は現実改変能力を持つ雲のように彼にまとわりついている。世界は彼の無防備に付け込む隙を逃さない。そして、もし彼が過負荷になれば、悪運は彼の周囲にも流れ込んで混乱を引き起こし得る。これは観測された事実と概ね一致しています。

O5-9: ソコルスキー博士の直感はもっと奥深いのでしょうね。

ダン博士: 遥かに奥深いです。ウェトルの同僚たちへのインタビューに基づいて、彼は解析部門に、全ての財団施設で7000が始まってから発生した負の確率事象を比較させました。その結果分かったのですが、現在、サイト-43は地球上で最も幸運な場所です。依然として無作為な運の影響を受けていますが、良性のものばかりです。そこでソコルスキーは古いデータを引っ張り出しました — まだ調べている最中ですが、どうもこれは全般的な傾向だったようです。時折発生する不可避の天変地異を除けば、サイト-43は常に地球上で最も幸運な場所の一つでした。そして、それはウェトル博士のおかげだと思うのです。

O5-1: 彼の悪運は周囲に降りかからないと考えているのだね。他人の悪運が彼に降りかかるのだと。

ダン博士: 仰る通りです。そして回避不能・予測不能の悪運こそ、7000の影響に立ち向かう際の、現時点での最大の障害です。ある問題を解決しようと駆け付ければ、その途中で更に3つの問題に遭遇する。私は局所治療に当たって、ウェトル博士を安定剤として使用したい。機動部隊を結成し、彼を入隊させ、必要に応じて火事場に急行させるのです。機動部隊ホニャララ-7000 “荒野の七人” とか何とか命名すれば宜しい。

O5-7: それはマズい。

O5-4: ああ、それは絶対にマズい。荒野の七人は半分死んでるんだ。

ダン博士: 単なる思い付きです、物流部門がもっとマシな名前を捻り出すでしょう。この機動部隊をできる限り多くの重要任務に派遣し、確実に成功させます — 6人の熟練した超兵士と1人の歩く時限爆弾。ウェトル博士がその辺をほっつき歩いて悪運を吸収している間に、他の隊員たちが確率的デタラメなど意に介さず仕事を終えるという寸法です。これを“オペレーション・ブラックスワン”とします。

O5-7: 世界が周囲で崩れ去ろうとしている時に、何やかんやと命名する余裕があったらしくて何よりだ。

ダン博士: 命名しなければ不運を呼び込みますよ、サー。それに、私はある時点で幸運が再び我々に微笑みかけるという前提で動いています。それについても仮説はあるのですが、現時点で記録に残したくはありません — ほら、事情が事情ですからね、縁起担ぎというやつです。

O5-1: 編集を認めよう。その理論とは何だ?

ダン博士: [編集済]

O5-3: 冗談でしょう。

O5-1: [溜め息] 冗談に決まってるとも。さっきからずっと指差してるスライドを見れば分かる。

O5-10: 私はてっきり何かのカオス理論かと思っていましたよ… ヒートマップ投影図だろうなと。

O5-4: 俺はいずれ説明してくれるだろうなと思ってた。

ダン博士: 説明していませんでしたか? 失礼しました、これは私の朝食です。

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2022年7月16日のダン博士の朝食。

ダン博士: 今、我が家の全ての卵には黄身が2つ入っています。

<録音上に沈黙。>

ダン博士: 重要なのは、この現象が遠からず、我々の生活のあらゆる面に影響を及ぼすだろうという点です。だからこそ、私は今までの人生でやってきたのと同じように真剣に解決策を練っているのですよ。

O5-1: もう十分判断材料は得られたと思う。君のブラックスワンを投票に付すとしよう、私は承認したいと思う。賛成の者は?

棄権
O5-1 O5-10 O5-7
O5-2 O5-9 O5-13
O5-3
O5-4
O5-5
O5-6
O5-8
O5-11
O5-12
動議可決

ダン博士: お時間をありがとうございました。きっと後悔はさせませんよ。

O5-9: その発言の成功率と失敗率は—

ダン博士: —他のあらゆるものと同様に、現時点では宙に浮いています。ご理解ください、サー。

<抜粋終了>

ダン博士とソコルスキー博士は、確率崩壊が進行する中、速やかにオペレーション・ブラックスワンの準備を開始しました。アンドレア・アダムズ隊長は、機動部隊シータ-7000 (“フォーチュネイト・サンズ”) の隊員として、成績優秀な部下エージェントの中から5名を招集し、過酷な訓練を開始しました。

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訓練中のMTF シータ-7000。手前がウェトル博士。

以前から特殊な収容任務に携わっていたため、高度なサバイバル指導を受けていたにも拘らず、ウェトル博士は全ての機動部隊訓練指標でそれまでの最下位より大幅に低いスコアを記録しました。しかしながら、SCP-7000現象の加速によって、この新たな任務からの解放を求めるウェトル博士の要請と、彼の代理としてアダムズ隊長が提出した同様の要請は繰り返し却下されました。

項目: 一生歯性の歯が生えた状態で孵化するニワトリの雛の数が着実に増加している。

対応策: 陰謀論ウェブサイト Parawatch.org に、“雌鶏の歯のように希少”rare as hen's teethという諺は科学的な不可能性ではなく遺伝的変異を指したものであり、現代の畜産業分野における遺伝子組み換え生物の急増がその現象を再び引き起こしているという内容のスレッドが立てられた。この説は様々な利益重視の情報まとめサイトによって1週間以内に世界中に広められた。


項目: カオス・インサージェンシーのスパイ3名がサイト-91への侵入を試みた。彼らのステップ・コンピレーションにおけるステップ22/624には、最新の保安巡回スケジュールが詳述されていたが、ある巡回ルートの警備員5名全員が靴の中に小石を発見し、立ち止まって取り除いていたために著しい遅延が生じ、武力衝突に至った。財団側に死者無し。

対応策: 全ての大規模収容施設で巡回を増やしたところ、更に11名のスパイが捕獲され、6名が終了された。


項目: ウィスコンシン州スロースピットの名の由来である陥没穴、SCP-4040が底無し穴から深さ可変の穴になった。

対応策: 穴のかつての特性を知る民間人は全員ネクサスの住民であるため、現時点での対応は積極的な監視に留められる。サイト-87所属の奇跡術師 キャサリン・シンクレア博士とモンゴメリー・レイノルズ博士が、無線機器と長期滞在に備えた物資を携えて穴に駐在している。

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Nx-18の底無し穴、底から見た風景。

アダムズ隊長の懸念にも拘らず、ウェトル博士は7月30日を以て正式に実戦参加可能と認定されました。シータ-7000は、カオス・インサージェンシーの施設、ファイアベース-5への突入任務に派遣されました — この施設はサイト-01を狙った認識災害搬送波に手違いで所在地情報をエンコードしていたために発見されました。SCP-7000の影響がカオス・インサージェンシーに対する財団エージェントの専門的優位性を無効化すると予測されたため、この情報はそれまで活用されておらず、それ故に戦力としてウェトル博士を投入するのに最適なテストケースと判断されました。

オペレーション・ブラックスワンの初任務は8月3日に実行されました。

作戦書き起こし

MTF シータ-7000: (“フォーチュネイト・サンズ”)

  • アンドレア・アダムズ隊長 ("ADAMS")
  • ウィリアム・ウェトル博士 ("LUCK")
  • エージェント ダリア・オゾルス ("CHICO")
  • エージェント ブランドン・ブルース ("LEE")
  • エージェント 韓 成珍ハン・ソンジン ("O'REILLY")
  • エージェント ナースチャ・コズロヴァ ("BRITT")
  • エージェント ムラド・クリエフ ("TANNER")

<書き起こし開始>

<シータ-7000は改造チヌークヘリコプターで作戦区域に接近する。>

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シータ-7000空輸支援機。

ADAMS: 号令。

BRITT: レディ。

TANNER: レディ!

O'REILLY: レディ。

CHICO: レディ。

LUCK: こんな所にいたくないっ!

LEE: レディ。

ADAMS: 全員準備良し。降下!

<シータ-7000は屋上に懸垂下降する。ADAMS、BRITT、CHICO、O'REILLY、TANNER、LEEは何事も無く着地する。LUCKは足首を捻る。>

LUCK: クソッ! ファック!

ADAMS: 突破。

TANNER: 突破用意!

<TANNERが屋上に爆薬を仕掛け、チームは外付け空調機器の後ろに避難する。LUCKが支えを求めてLEEに寄りかかる。両者のヘルメットがぶつかり合い、束の間LUCKは呆然とする。>

TANNER: 伏せろ!

ADAMSがLUCKを空調機器の裏に引っ張り込む。突入用の爆薬が爆発している最中に、LUCKはよろけて倒れ、片方のコンバットブーツが脱げる。

ADAMS: ブーツを履かせてやれ。

LUCK: 自分で出来る—

ADAMS: そのリスクは冒せない。ブーツを履かせてやれ。

<LEEがLUCKにブーツを履かせる。>

LEE: できたぞ、坊や。

LUCK: 馬鹿にするな。

ADAMS: 位置に付け!

<シータ-7000が屋根に新しく設けられた侵入口の周りに陣取る。>

ADAMS: 綺麗な穴だ。よくやった。

TANNER: どうも—

<突然、穴の縁にひび割れが生じ、LUCKが立っていた屋根の一部が崩落する。彼は建造物内に転落する。>

CHICO: LUCKがもうロストしたんですけど?!

ADAMS: 突入! 今すぐ突入!

<シータ-7000が屋根の穴 (それ以上は崩れない) から施設内に入る。LEEは、インサージェントと推定される無意識の人物の上に、LUCKが大の字に倒れているのを見つける。>

LEE: あんたの名前も案外意味がありそうだな。

LUCK: 私はこんな事したくないんだよ!

<シータ-7000は連絡通路に立っている。天井には半球状の赤い点滅灯があり、2列に並んだドアを照らしている — 開いているドアも、閉まっているドアもある。ADAMSの身振りで、チームは慎重に各ドアを調べ始める。>

Corridor.jpg

肩部カメラ映像、O'REILLY。

ADAMS: O'REILLY?

O'REILLY: 了解。

<O'REILLYは壁のパネルを見つけ、様々な部品を外して配線を露出させる。彼はベルトから電子マルチツールを取り出し、それに注意深くリード線を取り付ける。O'REILLYが表示を確認する間に、LUCKはもう片方の足首を捻る。>

LUCK: こん畜生。

CHICO: 前方異常無し、隊長。

O'REILLY: 信じられるか、こいつら3種類もガス放出システムを用意してやがった。全て無効化済み。この先にある罠の設計図も入手した。

ADAMS: 幾つある?

O'REILLY: 相手はCIだぜ、ボス。次の数部屋だけで100以上ある。遠隔で作動する罠は全てシャットダウンしたから、足元に注意すれば大丈夫のはずだ。

ADAMS: 分かった。先へ進むぞ!

<シータ-7000は足早に通路を進んでいく。LUCKは追いつこうと走り、2回ほど顔面から転倒する。3回目の転倒時に、彼は空中で向きを変えて背中から床に倒れ込み、起き上がることができない。>

ADAMS: 止まれっ!

<LEEがLUCKを迎えに行く間、ADAMSは屈んで床のグラウト材に埋め込まれた金属帯を調べる。>

ADAMS: 電流を流す配線だ。何故これを見逃した、O'REILLY?

O'REILLY: すまん、隊長。図面には載っていなかった。

ADAMS: CIの下衆どもめ。幸いだったな… 作動していなかったのは。

<ADAMSはLUCKを一瞥する。LUCKがくしゃみをする。>

LUCK: 何も見えやしない。

<シータ-7000は廊下の終端に辿り着く。ドアは半開きである。>

ADAMS: 防御。

<シータ-7000はドアの両側に隠れる。LUCKがLEEの背後にしゃがみ込む際に、布地の裂ける音が両者のマイクに捉えられる。>

LUCK: 勘弁してくれ。

<何発もの銃声が響き、銃弾がドア枠に当たる。チームはどの弾丸も当たらないような位置取りをしている。>

ADAMS: フラッシュ!

<LEEが閃光手榴弾をドアの向こうに投げ入れる。>

LEE: 頭を下げろ!

<LUCKが再びくしゃみをしようとする。彼が頭を上げている最中に閃光手榴弾が炸裂する。>

LUCK: [支離滅裂な叫び声]

ADAMS: 前進!

<シータ-7000が次の区画に入ると、そこは広いT字路になっている。LUCKは叫び続けながら立ち上がろうともがく。>

LUCK: 目が! 目が見えない

<シータ-7000は、戦術装備に身を包んだインサージェント5名を最小限の弾薬で鎮圧する。LUCKはその背後で壁に沿ってよろめき、時折壁に衝突してはくぐもった声で悪態を吐いている。>

ADAMS: メインブレーカーは何処にある?

O'REILLY: 電力消費データから判断する限り、恐らくは階下。

ADAMS: 階段を見つける必要があるな。

<LUCKがドアを抜け、明るく照らされた広い階段の、腰の高さに設けられた手すりにぶつかる。>

LUCK: おうふっ

<LUCKは手すりを乗り越えて転落する。>

Wettlefall.jpg

肩部カメラ映像、CHICO。

CHICO: LUCKがまたしてもロスト!

<作戦上の警戒よりも戦術資産の回収を優先し、シータ-7000は階段に急行する。LUCKのベルトは階下の手すりに引っ掛かっており、彼はズボンが半分ずり落ちた状態でぶら下がっている。>

LUCK: こんな所にいたくない…

ADAMS: 降ろしてやれ。

<シータ-7000が階段とそこに接続された廊下を探索している間、LEEがLUCKのベルトを外す。LUCKは床に落ちる。>

LUCK: 家に帰りたい。

LEE: あんたの家は子供が弄っても安全なんだろうな?

LUCK: ふざけ—

<発砲が再び始まる。シータ-7000は防戦体制を取り、応戦する。>

BRITT: どうやら敵の火器チームは2組。完全に立ち往生です。

ADAMS: ブレーカーはどっちだ?

<O'REILLYは素早く機器を確認し、通路を見渡す。彼はある方角を指し示す。>

ADAMS: LUCKとLEEを連れていけ。我々は奴らを食い止める。

LUCK: こんな—

LEE: いいから黙ってろ。

<ADAMS、BRITT、TANNER、CHICOが援護射撃をしている間、O'REILLY、LEE、LUCKは指し示されたドアを抜けて、新しい通路を走る。発砲音が遠のく。O'REILLYは壁に取り付けられた電気パネルに気付く。>

O'REILLY: こいつだな。

<O'REILLYは一連のブレーカーを落とす。遠くで重々しい音が聞こえる。>

O'REILLY: 正面ドアを開放した。援軍を送り込め。

<ADAMSがヘルメットの通信機越しに返答する。>

ADAMS: 信号が妨害されている。

O'REILLY: 畜生。ここからでは何もできない。外の作戦部隊ならコードを解除できるかもしれないが、CIの暗号解読はかなり運任せだからな。

<LUCKがヘルメットの中に手を入れて鼻を掻く。彼はヘルメットから手を出すことができない。>

LUCK: 助けてくれ。

ADAMS: 信号を発見! 司令部、こちらADAMS。ASVを派遣せよ、激しい抵抗が予想される。我々が援護する。

<ADAMS、BRITT、TANNER、CHICOがインサージェントとの戦闘に入る。>

Insurgent.jpg

肩部カメラ映像、CHICO。

<O'REILLYが突然くしゃみをして、手をブレーカーから離した瞬間、ブレーカーから火花が飛び散り、炎上し始める。LUCKはヘルメットから手を引き抜こうとしている最中に、人差し指を片方の鼻の穴に突っ込んでいる。>

O'REILLY: 危なかった。

<天井のスプリンクラーが短時間作動してから停止する。閃光が走り、階下でくぐもった爆発音がする。>

ADAMS: 今のは何だ? 戻って来い、大至急!

<LEEとO'REILLYは通路を走って戻る。LUCKが緩んだ床タイルに足を取られ、よろめいてガラス張りの壁を突き破る。>

LEE: おい、嘘だろ—

<LUCKが入り込んだ執務室から大きな破砕音が聞こえる。LEEとO'REILLYが割れたガラス壁に駆け付けると、またしても床が崩落しており、LUCKの姿はない。>

O'REILLY: ブレーカーを落とした時、この階の何らかのシステムに過負荷がかかったに違いない。

<LEEは、シータ-7000の他隊員がインサージェントと交戦している方向を親指で指す。>

LEE: あの階段には少なくともあと1階分下があった。

<O'REILLYは溜め息を吐く。エージェント2名は通路を引き返す。チームメイトは通路に併設されたアトリウムに集結し、入口から突入してくる援護エージェントたちに包囲されたインサージェントとの銃撃戦を繰り広げている。>

O'REILLY: アホウドリを捕まえてくるよ、ボス。

ADAMS: 私の代わりに頭を撫でて、良い子だと伝えてやれ。BRITT、2人に同行せよ。

<BRITT、O'REILLY、LEEは慎重に最下階の階段を降り、通路を抜けて広い貯蔵施設に辿り着く。倉庫の中心には意識朦朧としたLUCKがおり、奥の壁にあるドアに向かっているのが見える。インサージェント1名が近くに立ち、LUCKにライフルを向けている。>

O'REILLY: クソッ。

BRITT: 私がやる。

<BRITTが入室し、木箱や鋼鉄製の輸送コンテナの影に隠れて移動する。インサージェントが武器を掲げてLUCKを撃とうとした時、BRITTが物陰から飛び出してその喉を切り裂く — まさにその瞬間、ドアが開き、ライフルを構えた2人目のインサージェントが現れる。>

インサージェント: 運が悪かっ—

<天井が崩落する。落下した建材がインサージェントを直撃し、ヘルメット (そして恐らくは頭蓋骨) を押し潰す。LUCKが瓦礫に埋もれる。>

WettleCollapse.jpg

肩部カメラ映像、O'REILLY。

BRITT: しまった! LUCK! 無事ですか?

LUCK: もう嫌だ—

<LUCKはヘルメットマイクを飲み込み、息を詰まらせ始める。>

<書き起こし終了>


結: ファイアベース-5は財団側の死傷者を最小限に絞って制圧された。ウェトル博士は鎖骨骨折の治療を受けたが、シータ-7000の他隊員に重傷者は出なかった。カオス・インサージェンシー側では合計37名が死亡または戦闘不能に陥り、主要な補給・補修拠点1ヶ所が財団の管理下に置かれた。盗難されたSCPオブジェクト7点、超常工学部品を組み込んだ車両数台、囚人3名が現地で回収された。

解析部門が肩部カメラ映像を検証した結果、アトリウムでの銃撃戦には異常な確率要因がほぼ皆無であったことが判明し、作戦中にウェトル博士がSCP-7000の影響を全て吸収していたことが示唆されました。任務の合間にもSCP-7000は進行し続けました。

項目: サイト-120に爆発物を設置していたカオス・インサージェンシーのスパイ7名が捕獲された。7名全員が捕獲前にステップ・コンピレーションを破棄しようと試みたが、うち1名は携帯ライターから火が出なかったために失敗した。回収されたステップ・コンピレーションには、筆圧による手書き文字の形跡が残っており、別な紙を上に重ねてメモを取ったものと推定された。

対応策: 筆跡を解読した結果、ポーランド国内にあるインサージェンシーのセーフハウス1ヶ所が発見され、ある“下位組織”セルの構成員23名が拘留・無力化された。


項目: ベースライン現実におけるサミュエル・ロイド研究員の多元宇宙個体、SCP-3856-1がハムサンドイッチを喉に詰まらせて窒息死した。

対応策: 現在のK-クラスシナリオの差し迫った激化による地球上の全生命体の滅亡 — ロイド研究員が死亡した全ての宇宙に訪れる不可避の結果 — に備えて、SCP財団は厳戒態勢を敷いている。これまでのところ、シナリオの進行に変化は見られない。


項目: メカニトの上位聖職者3名 (主要3宗教から1人ずつ) が壁面収納ベッドの突飛な事故で死亡した。

対応策: 三頭政治協定に従って、監督司令部は哀悼の意を表し、葬儀費用の一部を負担した。

短い療養期間の後、ウェトル博士は復帰を許可され、シータ-7000は正式に就役しました。その後数週間に及ぶ一連の任務によって、SCP-7000のヴェールを脅かし得る影響のうち、特に深刻なものは緩和されましたが、恒久的な解決策の模索は依然として続きました。代表的な作戦の概略は以下の通りです。

作戦 Θ-7000-4

状況: 蛇の手のエージェントによる、前哨基地-316のDeepwellシステムへの攻撃。

介入: シータ-7000は攻撃者を撃退し、技術者が奇跡論的損傷と破損コードの修復を試みた。ウェトル博士は監督を担当した。

結果: 軽微な問題しか発生せず、作戦は成功と見做された。ウェトル博士は様々な軽傷を負った。

  • 足指の打撲 (2)
  • 歯の破損 (1)
  • 鎖骨骨折 (1)
  • 指爪の破損 (7)
  • 椎間板ヘルニア (2)

現地医療班によって、ウェトル博士は速やかに任務に復帰した。

事後報告: ウェトル博士の反抗的な態度を受けて、ルブラン研究員が事後報告担当者として機動部隊に加えられた。書き起こしの一部を以下に記す。

<抜粋開始>

ウェトル博士: しかし、私は何もやっていないんだぞ。

ルブラン研究員: 破損したコードには700万個の独立変数が含まれていたらしいです。その1つ1つが、微小ながらも修復の成功を阻む脅威でした。あなたはそれを阻止した。膨大な情報が含まれるコンピュータシステムを救っ—

ウェトル博士: 私は。やっていない。何一つとして

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: で、上はどうやら私に調教師をあてがうつもりらしい。

ルブラン研究員: 俺はエージェントだと思いたいですね。

ウェトル博士: もし君が私のエージェントだったら、お払い箱にする。

ルブラン研究員: もしあなたが俺のクライアントだったら、俺の方からあなたをお払い箱にします。

<ウェトル博士が微笑む。>

ウェトル博士: 君ならやってのけるだろうな、少年。

<抜粋終了>


作戦 Θ-7000-7

状況: 異常事件課の専門家による、スリー・ポートランドのフリーポート地区に仕掛けられた即席魔術核爆弾の解除。

介入: ウェトル博士を同席させたSCP財団との合同任務。同日の別な作戦で疲弊していたウェトル博士は、軍用簡易ベッドを提供され、睡眠しながら立ち会った。

結果: 解除後の調査で、3種類の解体防止メカニズムが組み込まれた触発式機構がいずれも作動していなかったと判明した。ウェトル博士は作戦中に3匹のハエを飲み込んだ。UIUの代表者たちとダン博士は、この相関関係を技術者には伝えないことに同意した。

WettleBomb.jpg

ウェトル博士 (中央) 監督下での遠隔爆弾解除。

事後報告: 書き起こしの一部を以下に記す。

<抜粋開始>

ウェトル博士: 私が何をしたって?

ルブラン研究員: ハエのことを訊いているのなら—

ウェトル博士: 爆弾の話をしてるんだ!

<抜粋終了>


作戦 Θ-7000-13

状況: O5評議会はアジア亜大陸の機密指定された場所への護送を要請した。

介入: シータ-7000は、機動部隊アルファ-1 (“赤の右手”) と協力し、輸送を完了させた。

結果: 作戦は支障なく成功した。規定に従い、活性状態のアノマリーであるウェトル博士は可能な限り評議会員たちから遠ざけられた。それにも拘らず、O5-1は3回にわたって、不名誉な状況にいる最中のウェトル博士と遭遇した。

事後報告: 書き起こしの一部を以下に記す。

<抜粋開始>

ウェトル博士: こんな事はやりたくなかった。

ルブラン研究員: 分かってます。

ウェトル博士: この世界はな、バスティアン、私のズボンが上がってるか下がってるかについて何か文句があるらしい。バスティアン、私のズボンが上がってるか下がってるかについて、世界はよっぽど沢山の文句があるらしい。

ルブラン研究員: あの、本当に気の毒だと思ってます。

ウェトル博士: もうこんな事はやってられない。無理だ。無理強いさせないでくれ。

<ウェトル博士はすすり泣く。>

ルブラン研究員: オーケイ。させません。

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: 約束します。させませんよ。

ウェトル博士: え?

ルブラン研究員: あなたにこんな事を無理強いさせません。次の任務は2人で欠席しましょう、彼らが俺たちを追って来たければ好きにすればいい。彼らに一体何ができるって言うんですか、たかが研究員1人と金の卵を産むガチョウを撃ち殺すとでも?

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: 今のネタ、分かりました?

ウェトル博士: バスティアン…

ルブラン研究員: “卵を産む”Laying an eggっていうのは、ドジを踏むって意味のスラングでも—

ウェトル博士: バスティアン! 君の仕事は1つだ。分かるか?

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: 惨めな私にやる気を出させることだろうが! さっさとしろ!

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: ええ。どうも俺はガチョウが噛みつけるってのを忘れてたようです。お供しますよ、ウェトル博士。

ウェトル博士: 唾だって吐くんだからな、せいぜい気を付けろ。

<抜粋終了>


作戦 Θ-7000-27

状況: SCP-682がサイト-45で収容違反し、民俗音楽祭が開催されているオーストラリア西部、オーガスタの町に接近した。

介入: シータ-7000は、メディア関係者を含む約1,000人の詮索を回避しつつ、SCP-682の再捕獲を試みた。

結果: ウェトル博士は作戦区域と音楽祭会場の中間地点に待機していたが、収容試行が失敗し、SCP-682が接近したため、群衆の中へ移動することを余儀なくされた。SCP-682は最終的に会場から100m以内で鎮圧されたが、民間人の注目がウェトル博士と野良カンガルーの格闘に集中していたため、この作戦が気付かれることはなかった。SCP-682は何事も無く収容下に戻され、ウェトル博士がバーベキューグリルに蹴りつけられる動画は速やかにインターネット上で話題となった。

Kangaroo.jpg

ウェトル博士が実現した、民間人によるミスディレクション。

事後報告: 書き起こしの一部を以下に記す。

<抜粋開始>

ウェトル博士: 上手くいってない。

ルブラン研究員: ええ、でも助けにはなってます。

<ウェトル博士は唾を吐き捨てる。唾は髭にへばり付く。彼は白衣の袖で顔を拭う。>

ウェトル博士: 助けだと。私はひたすら生き恥を晒して最低の悪夢を長引かせているんだぞ。

ルブラン研究員: あなたは英雄です。

ウェトル博士: 英雄になんかなりたくない。

ルブラン研究員: あなたはウィリアム・ウォレスに因んで名付けられたんでしょう! ブレイブハート! 史上最も有名な英雄の一人ですよ。他者のために自分の首を危険に晒すことがなかったら、彼が偉業を成し得たと思いますか?

ウェトル博士: どうやら大して有名じゃないらしい。しかも最期は縛り首だ

<録音上に沈黙。>

ルブラン研究員: でも、映画化されましたよ。

ウェトル博士: メル・ギブソン主演・監督でな。君はそれを幸運だと思うか? 私は思わないね。

ルブラン研究員: いいですか。きっとバックアップ計画が用意してあるはずです。あと少しの辛抱ですよ。

ウェトル博士: 何故だ?

ルブラン研究員: はい?

ウェトル博士: 何故バックアップ計画が用意してあると言い切れる? 私が“上手くいってない”と言ったのは、私にとっては上手くいってないという意味だ。あいつらにとってはこれで上手くいってるのさ。

ルブラン研究員: ウィリアム…

ウェトル博士: 私はこの先ずっと、あいつらに丘の上へと転がされていき、そこから転がり落ちるのを繰り返すんだ。シシュポスのようにな。君だってそうだと分かってるんだろう。

ルブラン研究員: まず第一に、その神話は実際には—

ウェトル博士: 素晴らしい! 完璧だ! 私が如何にツイてない無能であるかに話題を変えよう! もう1時間もそんな話をしてなかったからな。いやはや、まるでハリーがすぐ傍にいるように感じるよ。これでたっぷり10人分の悪運を吸い取ったに違いない。バンザーイ!

ルブラン研究員: そんなつもりは—

ウェトル博士: 報告書を書くのは楽しいか? 私も読んだぞ。実にきっちりした表現だった、バスト。ドライ・コメディだ。あっちこっちの冷水器周りで大ウケしているに違いない。しかし、君にはそんなつもりは無いんだろうな?

ルブラン研究員: 俺は一度も—

ウェトル博士: 私がかつて何と言ったか覚えているか? 君が友達になろうと言ったあの時に?

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: ふん、私は今となっては後悔しているよ。だからとっとと43に帰れ、次の笑い話は連中に直接伝えろ。

<録音上に沈黙。しばらくして、ルブラン研究員は立ち去る。>

<抜粋終了>

この時点から、ウェトル博士はSCP-7000が季節性の現象であり、間もなく終息するだろうという自説を提唱し始めましたが、解析部門の研究ではその可能性は低いとされました。ウェトル博士は更に、SCP-6500危機の最中に様々な要注意団体が提起した (信憑性に欠ける) 主張を基に、SCP財団の収容試行こそがSCP-7000の原因ではないかとも提唱しました。この説も同様に却下されました。いずれにせよ、シータ-7000の活動はSCP-7000の無力化や明白な悪化を引き起こしてはおらず、その最も深刻な影響を差し当たり相殺するに留まっていました。

BlueMoon.jpg

SCP-7000発生中の持続的な月の変色。

項目: “経済学”が一時的に現実の経済活動に反映された。

対応策: 無し。市場活動は自然に補正されるものと見込まれている。


項目: カオス・インサージェンシーのスパイ2名がサイト-79への侵入を試みた後、捕獲を免れて逃走した。警備主任は“虫の知らせ”に従って当日のパスワードを変更していた。

対応策: 5日後、財団職員は夢芸夢ユメゲーム郊外の集合住宅から発せられた緊急医療援助要請を傍受し、新型コロナウイルス感染症 (COVID‑19) で重篤な状態にあるインサージェント12名構成の“セル”を発見した。サイト-79でインサージェント2名と遭遇したエージェントは、彼らの逃走後間もなく陽性反応を示していた。集合住宅で発見された一連のステップ・コンピレーションには、日本国内の施設で実行される予定の大規模な破壊工作や窃盗の概要が記されていた。調査の結果、いずれも現地で予期せぬ問題が出来したため、実行不可能であったことが判明した。


項目: ロンダ・バーン著 “ザ・シークレット” で広められた、科学的・超常科学的に一切の根拠が無い荒唐無稽な理論 “引き寄せの法則” が、不可解にも効力を発揮し始めた。

対応策: 無し。SCP-7000以前と同様、“引き寄せの法則”の証拠 (またはその欠如) は、その有効性に対する個々人の信念には何ら影響を及ぼしていない。

8月24日、カオス・インサージェンシーの強化機動アレイから発信された暗号通信を、サイト-01の監督司令部が受信しました。当時、インサージェンシーは多大な損失を被り、影響力が著しく低下していたため、この通信の重要性は低いと判断されましたが、その後の会話で遂にSCP-7000の原因について1つの可能性が浮上しました。

<抜粋開始>

O5-1: 危険性スクリーニングは?

O5-2: 有効カツ先制的ニ展開中。

O5-1: 宜しい。奴の話を聞こうじゃないか。

<白い顔の輪郭が画面に映し出され、輝くカオス・インサージェンシーの記章でその前面が照らされる。>

Engineer1.jpg

エンジニア: 間もなく時は尽きる、友よ。回答はあるか?

O5-1: 何の回答だ? もうすぐ時間切れだと? 別にそんなことは無いぞ。

エンジニア: メッセージへのだ、[削除済]。諸君が決断を下すべき時まであと1時間を切っている。

O5-1: 何のメッセージか教えてくれるかな、[編集済]? 生憎だが、お前の方がよく承知しているようだ。

<エンジニアは暫し沈黙する。>

エンジニア: 我々が送った最後通牒だ。

O5-1: 少々待ってもらいたい。

エンジニア: それは駆け引きのつも—

<O5-1が双方向音声通信をオフにする。>

O5-1: 奴が何言ってんのか分かるか?

O5-5: ここ何ヶ月もインサージェンシーからメッセージなんか届いてないよ。

O5-7: なんかの比喩じゃないのか。

<エンジニアの顔は陰の中に後退し、その表情は読めない。>

O5-1: 文字通りの意味だと思うね。他に思い当たる節は? 無い?

<O5-1双方向音声通信を再度オンにする。>

Engineer2.jpg

エンジニア: —諸君は“収容”という誤り導かれた使命を、破滅的なものと知りつつも尚—

O5-1: 悪い、まだ話し中だったか? 音声を切っていたよ。こちらからお前の口が見えてないのは分かってるんだろ?

<エンジニアの輪郭は目に見えて身を強張らせる。>

O5-1: それでだな、少々きまりが悪いんだが、お前からのメッセージは届いてないはずだ。一度も。

O5-8: 近頃じゃ、君の復讐は随分と間欠性になってる。

O5-3: あなたのその言葉、いつもイライラさせられますよ。“断続的”でしょう。なんで正しく使えない用語をいちいち持ち出そうとするんです?

エンジニア: 今が時間稼ぎをするのに相応しい頃合いとでも思うのか? ほんの数分しか猶予は残されていない。

O5-13: あのな、[編集済]。メッセージなんか受信してねぇってんだよ。いつ送った?

エンジニア: 混沌の日だ。7月の13日!

O5-9: 07/13。これまた都合の良い時に。

O5-1: 13日に抑止された通信の記録はあるか、トゥー?

O5-2: ハイ。既知ノハッカーニ関連スルIPアドレスカラ13件ノメッセージ。ファイルサイズトパッケージングガ、ロシア連邦領内カラノ無差別サイバーテロ攻撃ト一致シタタメ、メッセージハウィルス検出スキャンニ掛ケラレ、イズレモ陽性トイウ結果ガ出タノデ、未読ノママ削除サレマシタ。

エンジニア: 何だと? そんな馬鹿な。IPアドレスは無作為に選んだ!

O5-6: おやおや。

O5-8: おやおや。

<エンジニアが溜め息を吐く。>

エンジニア: もう1回送る。今度はブロックするなよ。

O5-1: なんならお前が直接—

<エンジニアが通信を終了する。>

O5-1: ああいう奴なんだよな。トゥー?

O5-2: ハイ、受信シマシタ。今回偽装ニ用イラレタIPアドレスハ、ムンバイニアル自動音声通話センターノモノデアリ、我々ノアンチウィルスシステムハマタシテモ偽陽性反応ヲ返シマシタ。私ガ個人的ニファイルヲ検査シタトコロ、視聴シテモ安全ノヨウデス。

O5-1: ほう、動画なんだな? 見てみるとしよう。

<部屋の中央のホログラフィック動画スクリーンが明滅しながら起動する。カオス・インサージェンシーの記章が表示される。エンジニアの声が話し始める。>

エンジニア: もしも、かの邪悪なる炎を煽り、活気を吹き込んだ息が、そこに七倍もの激情を吹き込み、我々を業火の内へと投げ込むならば—

O5-1: スキップ。

<動画が10秒先に進む。>

エンジニア: —長き闘争は終焉を迎える。偽りの財団が構成する腐り切った虚言の土塊が遂に瓦解し、彼らがその上に築き上げた全てが崩れ落ちて塵芥と化すだろう。史上初めて数は彼らの側に立たず、史上初めて赤き右手が全ての手札を手中に収めている。

O5-1: 早送りしろ。

<これ以降の演説は倍速再生される。画面上に、巨大な機械の加工処理された画像が表示される。>

KISMET.jpg

エンジニア: KISMETデバイスは今、地球上の運命の流れを完全に制御している。あらゆる偶然と不確実性の働きは決定的に破綻するだろう。敵が張り渡した息をも詰まらせるヴェールは剥がれ落ち、真相が明らかとなるのだ。

O5-1: 毎度毎度やたらと前置きが長い。

エンジニア: しかし、もう一つの選択肢がある。諸君が全人類に投げかけた長き夜を存続させる手段だ。諸君の座を赤き右手に明け渡せ。諸君の忠実な兵士たちを囲いに戻せ。本来あるべき姿となり、大いなる使命を思い起こし、カオス・インサージェンシーの正当なる勝利を認めるがいい。

<記章が再び表示される。>

エンジニア: 我々の聖戦の年、2022年、8月24日の深夜までに返答せよ。さもなくば、我々は行動すべき理由を知り、諸君は不運の意味を知ることとなる。今後、我々デルタコマンドとインサージェンシーのエンジニアは、諸君の迅速なる返答を待つ。降伏するか、それとも掃討されるか。

<動画が終了する。>

O5-4: …やれやれ。

O5-2: コノKISMETデバイスハ、大型ハドロン衝突型加速器ノCMSミューオン検出器ニ胡散臭イホド似テイマス。

O5-1: LKが始まって以来、我々に対するCIの作戦状況はどうなんだ?

O5-7: 推定200人以上の職員が死亡し、装備と施設は壊滅的な被害を被り、完全な無秩序状態に陥っている。

O5-1: 戦場での勝利は?

O5-7: 一度も無い。

O5-8: 奴らはヤケクソで戦端を開くほどに追い詰められてて、ウチの部隊は全面的に優勢だ。分かり切った結果ってやつさ… そんなもんが今日この頃でも存在するならな。

O5-1: そうか、だったらメッセージが13日に届かなくて良かった。実に—

O5-12: 止せ。

O5-1: “思いがけない事だった”と言おうとしたんだ。

O5-12: それも止せ。

O5-1: しかしまぁ、本当に奴らがこの状況を制御しているなら、随分とおかしな形でそれを見せつけているね。

O5-10: 掛け直すべきでしょうか?

<録音上に沈黙。>

O5-1: 止めておこう。

<抜粋終了>

SCP-7000に関するエンジニアの解説は、今後の研究課題として記録されました。しかしながら、最後通牒で示された期限を過ぎたにも拘らず、LK-クラスシナリオの性質に変化は見られませんでした。

項目: フランス、リヨン在住の7歳女性、ステファニー・ベランジェが、22/07/07に初めてチェスをプレイし始めたにも拘らず、チェスの世界チャンピオンになった。彼女は一度も敗北していない。

対応策: 更なる調査で、ベランジェはLK-クラス事象の発生を認知していた[データ削除済]の孫娘であり、彼からチェスを続けるよう奨励されていたことが判明した。また、[データ削除済]は2023年に予定されていた世界大会の開催を繰り上げ、孫娘を出場者枠に加えさせる異例の措置を取らせていた。[データ削除済]が高齢であることを考慮し、本件はこれ以上追及されていない。


項目: 気象予測が (既に大気中雑音に及んでいる変化を超えて) 成り立たなくなった。

対応策: 無し。現時点では、この変化は民間社会から気付かれていない。


項目: サイト-41がカオス・インサージェンシーに占拠された。反ミーム部門に関係する全ての施設・職員に作用する周期的かつ予測不可能な忘却効果が、サイト占拠中のインサージェントを直撃した。混乱したインサージェントたちはサイトを退出し、周辺に配備された警備員によって即座に拘留された。

対応策: 財団の研究員たちは、このアノマリーの更なる兵器化を繰り返し試みているが、その都度即座に同じ症状に見舞われている。

ウェトル博士によってシータ-7000での役割を解任されたルブラン研究員は、この時点でLK-クラスシナリオの独自研究を開始しました。ブランク博士と相談した後、彼は2022年8月24日、アメリカ合衆国フロリダ州ペンサコーラにある財団運営の退職者コミュニティ “サンセット・コーヴ村” にあるウェトル博士の老父母の家を訪問しました。

インタビューログ

記録担当者: B・ルブラン研究員 (サイト-43、再現研究)
対象: ミンディ及びサイモン・ウェトル (民間人、退職済)


<抜粋開始>

<ルブラン研究員は、戦後様式の1階建てランチハウスの居間で、ウェトル夫妻と共に座っている。>

Wettles.jpg

ミンディ及びサイモン・ウェトル。

ルブラン研究員: 息子さんが… 何か重荷を背負っているような印象を受けたことはありますか?

ミンディ・ウェトル: 勿論。あなたもウィリアムを知ってるでしょう。いつも他人のことばかり考えてる。

<ルブラン研究員は笑う。ウェトル夫妻は無言でそれを見ている。>

サイモン・ウェトル: 何かおかしいか?

ルブラン研究員: あ、いえ… すみません。ちょっと… 思い出したことがありましてね。ええ。続けてください。

サイモン・ウェトル: さっきも言った通り、息子は自分の身をまるで顧みなかった。他の人たちの身に何か災難が降りかかるんじゃないか、それを自分がどうにかできないか、ずっと悩んでいたよ。

ミンディ・ウェトル: 自分がどうにかしなきゃいけない、でしょうに。もし何かあって、その時に助ける機会を逃したらと気が気じゃなかったわよね。

サイモン・ウェトル: 20代の頃に始まったと思う。私の兄が'75年に死ぬと—

ミンディ・ウェトル: いいえ、サイモン、違うわ。もっとずっと前よ。私が病気の頃。

ルブラン研究員: 病気?

ミンディ・ウェトル: 肺癌よ。医者は私が助かるなんて思ってなかった。ウィリーは当時まだ12歳だった。

サイモン・ウェトル: そうだったな。その頃に始まった。あいつは夜通し祈り始めたんだ。

ルブラン研究員: 特に信心深い人物とは感じませんでしたけどね。

ミンディ・ウェトル: 宗教云々の問題じゃなかったと思うわ。確か… ダメねぇ。

<ミンディ・ウェトルは苛立たしげにこめかみを指で叩く。>

ミンディ・ウェトル: なかなか頭に浮かんでこないの。勿論、記憶はあるんだけど、そこに至るまでがね。

サイモン・ウェトル: 私も祈りのことは思い出せないな。

ルブラン研究員: 薬を持参しています。思い出すのを助ける効果がありますよ。もし良ければ…

サイモン・ウェトル: 記憶補強薬かい?

ルブラン研究員: 何故それを…?

ミンディ・ウェトル: 前にも飲んだわ。あれは確か… ああ、かなり前よ。職場で何かの事故が起きた後、ウィリアムについて調べに来た人たちがいたの。あの子のせいだった可能性は無いかとか、頼れる人間かどうかとか訊かれた。あの子のことを洗いざらい知りたがった。

サイモン・ウェトル: あの記憶補強薬についてはよく考えるんだ — 思い出せる時はね。皮肉なもんだ。こういう場所であの薬がどれだけ役立つか考えてごらんよ。

ミンディ・ウェトル: 私の友達には、自分の子供たちを覚えてない人がいるのよ。それ以上前から付き合いがある私のことは覚えてるのに。ある時、彼女に記憶補強薬の話をしようとしたけど… ダメだったの。言葉が出てこなかった。

サイモン・ウェトル: 君の職場と関係があるのかい? ウィリアムもそこに勤めているんだろう?

ルブラン研究員: はい。申し訳ありませんが、これ以上の事はお伝えできません… 私にその秘密を明かす権限はありませんし、ウェトル博士もあなた方を危険に晒したくはないでしょう。実を言えば… これは全て、あなた方が仰ったような、他の人々を守る必要性に関わる問題です。彼はあらゆる人を守ろうとしていますが、その理由をはっきり理解してさえいないように思えるのです。彼自身には訊けませんが…

ミンディ・ウェトル: 私になら訊けると言うのね。分かったわ。ウィリアムの為ならそうしましょう。でも、その前に1つ約束してちょうだい。

ルブラン研究員: 私にできる事なら。

ミンディ・ウェトル: できますとも。あの子に、たまには自分のことを考えるように伝えると約束して。

<録音上に沈黙。>

サイモン・ウェトル: どうだい?

ルブラン研究員: ええ。はい。お伝えできると思います。

<抜粋終了>

サイト-43に戻ったルブラン研究員は、ウェトル博士に連絡を取ろうと試みました。ウェトル博士はルブラン研究員の申し出を聞き入れず、更に度重なるシータ-7000の任務のため、サイト-43には滅多に帰還しませんでした。

8月26日、シータ-7000の68回目の任務を終えたウェトル博士は職務放棄しました。彼は私用携帯電話に組み込まれた追跡装置を解除することも、携帯そのものの電源を切ることもできなかったため、機動部隊パイ-43 (“ガベージ・イン、ガベージ・アウト”) によってほぼ即座に確保されました。短い無断離隊の間に、ウェトル博士は以下の動画を撮影しました。

<カメラ視点がズームインして、ウェトル博士の顔を大写しにする。彼は暗い屋外にいるように見える。不適切な色補正フィルターが有効になっている。>

WettleSad.jpg

ウェトル博士: さぁ、これで終わりだ。もう断固として譲るものか。

<ウェトル博士は足を踏み鳴らすように体を動かす。彼の表情が曇る。彼は目を伏せた後、苛立ちと嫌悪感を露わにして顔を上げる。>

ウェトル博士: このメッセージを見たら、君たちは恐らく私にロボトミー手術を施そうとするだろうな。気持ちは分かる。責める気はない… うむ。ちょっとロボトミーについてググる時間をくれ。

<ウェトル博士が画面をスクロールしていると思われる間、彼の手がカメラを遮っている。>

ウェトル博士: [呟く] そうじゃない、手術でどうなるんだ。ポンコツアプリめ。

<彼はスクロールを続ける。>

ウェトル博士: おい、いい加減にしろよ。どうして何一つ出てこないん… いや、うん、オーケイ。無気力か。成程ね。とにかく、君たちが私を無気力にしたいなら、それは理解できる。自分の身に起きる事すら気にしなくなったら、私はもっと愉快なピエロになれるかもしれない。しかしだ、私はこのままドジを踏みまくって世界に笑われ続ける気はない。この先ずっとこんな人生を送るなんて御免蒙る。

<ウェトル博士は携帯を落とす。彼は2回試みてようやく携帯を拾い上げる。>

ウェトル博士: 以前の人生が好きだったわけじゃない。だが今では同じ事の繰り返し… うんざりするほどの繰り返しになっている。地獄の再現実験だ。いいか、私が'98年に財団に参入した時、管理官はこんな事を言った。“私たちの世界は隠された恐怖に満ち、奇妙な…” オーケイ、私の記憶力はゴミだし、しっかり聞いてもいなかったが、確か“君たちの想像を超える奇妙なものが”どうのこうのという話だった。私がどんな所に足を突っ込んだか知らせたかったんだな。私は、大した事じゃない、今まで見てきたものは端から本当に悪い意味で奇妙なものばかりだったし、この先怖いものを見るのが楽しみだと言った。で、どうなったと思う?

<ウェトル博士は首を横に振る。眼鏡が落ち、彼はそれを拾い上げる。>

ウェトル博士: 怖いものと馬鹿らしいものは必ずしも違わないことが分かった。筋は通っていると思う。怖いものは私たちの恐れから、日常のクソ同然の諸々から生まれる。そしてこの世界の全ては既にほんの少し馬鹿らしい。怖いものが例外である理由は何処にも無い。私はね、自分が目にする奇妙な事物がこんなにも…

<ウェトル博士は溜め息を吐く。>

ウェトル博士: こんなにもアホ臭いとは予想だにしなかったんだ。誰もが私の身に降りかかる事を滑稽だと考える。滑稽なんかじゃない。財団に入った時、それももう終わりだと思った。私の災難と君たちの災難を取り換えられると思った。ところが… 結局は全て同じ鍋の中だ。そして今やその鍋は一杯になり、中身は縁を越えて溢れ出し、私はモップ掛けを学ぶには歳を取り過ぎている。この比喩が何処に向かっているかも分からない。

<ウェトル博士は唇を震わせる。>

ウェトル博士: 歳を取ったら多くの事ができなくなった。折に触れて思い知らされる。

<ウェトル博士は携帯を落とす。彼は1回で携帯を拾い上げるが、眼鏡を落としたため、再び屈まざるを得ない。>

ウェトル博士: 再現研究。要点は、一番肝心なのは、いったん何かが真実だと分かったら、それを繰り返すのをすっぱり止めてしまえることだ。なのに、このクソ忌々しい茶番劇は科学的証明云々の段階を遥かに超えた。運命はただ私を諦めさせたいんだろうと思った。だから私は諦めたさ。すると悪化しやがった! 私にどうしろと言うんだ? 私を追い越して進む奴らに手を振って、連中の母さんにでもなったつもりで帰りを待ちながら、自分で勝手に面倒を起こして爪先を1000回ぶつけて死ねとでも? 馬鹿も休み休み言え。

<ウェトル博士は数秒間画面を見つめる。>

ウェトル博士: 私はアノマリーにさえなれなかった。私は自分の物語の主役じゃない。ずっと努力を重ねた末に待っていたビッグチャンスがこれか? 私がどうやって窮地を救う羽目になったと思う? ひたすらバスター・ブラウンばりのドタバタ喜劇を続ける苦行だぞ。バスター・ブラウン?だったよな…? どうでもいいか。とにかく、私はこんな形で記憶されたくはなかった。しかし、それを決めるのは本人じゃないんだろう? 他のあらゆる人々が決めるんだ。そして他のあらゆる人々はクソ野郎だ。

<ウェトル博士は首を横に振る。>

ウェトル博士: 私は54歳だが… いつからだろう。人生の大半を1つの冗談として生きてきた。もううんざりだ。身勝手なのは承知しているが、君たちには私抜きでこの騒動を収める手段を見つけてもらいたい。私は自分にできる唯一の事をする — この手で全てを終わらせる。

<ウェトル博士は画面をタップし、視点が急速に動く。彼は動画撮影の終了を試みて失敗した後、携帯をポケットに入れたものと思われる。>

<視点が突然ウェトル博士の顔に戻る。>

ウェトル博士: オーケイ、今の言い草はマズかった。逃げ出すつもりだと言いたかったんだ。頭の中で反芻したらどう聞こえるかに気付いた。今から本気でトンズラする。

<突然、ウェトル博士の顔が明るく照らし出される。足音が近づいてくる。>

ウェトル博士: えい、クソ。

ウェトル博士は緊急時脅威戦術対応機構の拘留下に置かれ、ダン博士は事後報告のためにエリア-08-Cへの移送を要請しました。

事後報告ログ

記録担当者: ダン・███████博士 (ETTRA管理官)
対象: W・ウェトル博士 (サイト-43、再現研究)


<ダン博士とウェトル博士は財団任務管制室に立っている。技術者たちが、全ての財団探査機、恒星現象、民間の衛星や宇宙飛行を監視している。リチャード・バーナード博士が後方から業務を監督している。>

ダン博士: 君はそろそろ視野を広げた方が良い。もっと広い範囲に目を向けるんだ。

ウェトル博士: 語らずに示してほしい。

ダン博士: いつになく言葉遣いが上品じゃないか。彼女を映してくれ。

ウェトル博士: 彼女?

<技術主任がある探査機の映像をメイン画面に転送する。>

ダン博士: 我々を見守る運命の女神さ。

Sauelsuesor-Redux.jpg

太陽コロナに包まれたSCP-179。認識災害は検閲済。

ウェトル博士: 何だ、この地獄みたいな光景は?

ダン博士: 実際は天国なんだが、相当熱いのは間違いない。彼女の名はサウエルスエソル。星々を見張り、潜在的な脅威に我々の注意を向けさせてくれる。

ウェトル博士: ケイオス・アンディヴァイデッドに注意を向けようとしているように見える。

ダン博士: 何?

ウェトル博士: ウォーハンマー40,000というゲームがあってな。荷馬車の車輪のようなロゴを持つ勢力がいる。君にはどうでもいい事だろう。

ダン博士: まぁ、そうだな。しかし、これを見て“混沌”ケイオスという言葉を連想したのは君が最初じゃない。普段の彼女は腕の数が遥かに少ないし、大抵は特定の方向を指差している。いや、それほど具体的じゃないものを指す場合もあるがね。私の同僚の大半は、LKが彼女の頭を少々狂わせ、彼女はただ困惑のあまりこんな行動を取っていると確信している。

ウェトル博士: こんな所にまで私を連れ出してまで学ばせようとしている重要な教訓が、“人生は複雑怪奇”程度で終わったりはしないだろうな。

ダン博士: そんな事はない。私も、彼女の脅威コンパスは不調になっていると思う。だが、目の前の光景がそれだとは思わない。これが彼女にとっての“死のブルースクリーン”だとは思わない。

ウェトル博士: なぁ、ウチのオフィスでWindows 10を確実にブルースクリーンにできるのは私だけだという話はもうしたか?

ダン博士: 重要なのは、彼女がまだ我々に何かを伝えようとしていることだ。

ウェトル博士: もし基本方位について教えたいなら、そんなのはとっくに知ってると誰かが言ってやるべきだ。

ダン博士: 彼女は“運命の輪”の身振りをしているのだと思う。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: …説明してほしいね。

ダン博士: 運命の輪はタロットカードの1つだ。変化や状況の変遷を表す。成功。宿命。

ウェトル博士: 運?

ダン博士: 運もだ。御し難く無慈悲で非個人的な力が存在し、我々の運命を制約・構築しているのを再認識させるカードだよ。

ウェトル博士: 私にはいつでもかなり個人的な力に思えた。

ダン博士: 宜しい。そこがスタート地点だよ。君は腹を立てている — これを世界との対話として扱うための第一歩だ。さぁ、もっと声を上げてみようじゃないか。前向きな話し合いにしよう。

ウェトル博士: 私はろくでもない災難のループに嵌まり込んでいるんだ、ダン。もし運命が車輪なら、私はそこに縛り付けられている。そして車輪は回っている。そして誰もが、誰もが私にナイフを投げ付けてくる。

ダン博士: 罰を受けていると思うのか? 自分が突然役立つようになったせいで?

ウェトル博士: そうとも。私は無能でいるのが好きだった。無能な人間は放っておかれる。君にはそれがどんな感じか分かるまいよ。

ダン博士: 私は10年間留置されていた。放置されるのがどんな事かを知っている。

ウェトル博士: のけ者になれるのなら私は何でもする。今の私はお笑い種だ。君にはそれがどんな感じか分かるはずがない

<録音上に沈黙。>

ダン博士: 黒塗りに何が隠れているか知ったら、そんな事は言わないだろうよ。

ウェトル博士: え?

ダン博士: 私の名前さ。

ウェトル博士: ああ。ふん。ところでその黒塗りは何なんだ?

<ダン博士は肩をすくめる。>

ダン博士: 戦術だよ。私は2000年代後半にサイト-19にいたが、当時の我々はみんなこの手の虚仮威しで身を固めていた。コンドラキにはカメラと帽子があったし、ジェラルドは君の人生のような危なっかしい運転をしていたし—

ウェトル博士: クレフにはショットガンがあった。

ダン博士: そう、クレフにはショットガンがあった。もしショットガンを持ち歩いていいと事前に聞いていたら、名前をわざわざ黒塗りになんかしなかったんだが。

ウェトル博士: よっぽどマヌケな苗字なんだろうな。

ダン博士: うむ。

ウェトル博士: 君からそいつを聞き出すにはどうしたらいい?

ダン博士: 私を出し抜いてみたまえ。さて、余談はこの辺にしておこう。君が慢性的に他人の注目を我慢できないという話だったね。

<ウェトル博士は顔をしかめる。>

ウェトル博士: 私はもう一生分の“注目”を受けてきた。せめて1回ぐらい、ヘマして痛い目を見ても、周りの連中から指差されたり笑われたりしない立場になりたい。もう誰にも私のいる方を見てほしくない。ブランクとルブランはちやほやされたがるだろうが、勝手にすればいい。

ダン博士: その2人はそれぞれ異なる人物かい?

ウェトル博士: 私から見れば、そうでないのと同じさ。他人は誰もが魅力的で、私は呪われている。

<ウェトル博士は笑う。>

ウェトル博士: 未だに信じられない。

ダン博士: えっ?

ウェトル博士: 嘘じゃない、私は2ヶ月前に声に出してこう言ったんだよ。“これ以上悪くなりようがない”。

<ダン博士は熟考する。>

ダン博士: 残念な話だがね、これが新しい現状ステータス・クオだ。逃げ道は無い。君は当分の間、シータ-7000と共に行動することになるだろう — 少なくとも我々が諦めてヴェールを落とすまで。

ウェトル博士: 私に渡せばほんの数秒で落としてやるぞ。

ダン博士: これは世界との会話なんだ、覚えているね? もっと大きく考えよう。

<ダン博士は再び画面を指差す。>

ダン博士: 宇宙の使者は君に、特に君ひとりに向けてメッセージを送っている。チャンスを掴めというメッセージだ。

ウェトル博士: 彼女がのためにホットヨガをやっていると思うのか? 馬鹿馬鹿しい。

ダン博士: 他に誰がいる? 君はこの事象から除外された唯一の人物だ。君だけなんだよ。地球上にそんな例外は他に誰もいない。

技術者: フレア活動。色収差が発生。DSCOVR-2からの映像が途絶しつつあります。

バーナード博士: 後退させろ。また1機失うわけにはいかん。

ダン博士: 手を振ってさよならの挨拶を、ウェトル博士。

ウェトル博士: 向こうから私の姿が見えるわけないだろうが。

ダン博士: そうだとしても、それが礼儀というものさ。

<ウェトル博士は溜め息を吐き、接続状況が不調になっているメイン画面に向かって手を振る。通信が完全に途絶する前に、SCP-179は8本の腕で手を振り返したように見える。>

Sauelsuesor-Redux-2.jpg

太陽コロナに包まれたSCP-179。認識災害は検閲済。

ウェトル博士: なんてこった。君がああするように躾けたのかね。

ダン博士: 彼女は見張りであって、番犬ではない。これでもまだ自分は特別じゃないと思うか?

ウェトル博士: 宇宙から来た事例証拠だって、所詮は形の無いものに過ぎない。

ダン博士: やれやれ、本当に分かってないんだな。これこそ、世界という舞台への君のデビューなんだ! 君は自分だけでなく、全ての人々にポジティブな変化をもたらしている。我々が知る限り、君はずっと前からこうなるように定められていた! 君の運命なんだ。

ウェトル博士: 世界の終わりに顔面からぶっ倒れることがかね。

ダン博士: 文字通りに表現するなら、そうだ。比喩的に言うなら、君は難局を乗り切ろうとしている。君は今この世で最も重要な人物だ。誰もが君の名前を知っている。

ウェトル博士: そりゃ良かった。私が小惑星の衝突を食い止めるために小便を漏らしたのを誰もが知っているわけだ。町中が私のために乾杯するに違いない。

ダン博士: 聞いて驚きたまえ。人々は負け犬が好きなんだ。同情は共感を呼び、共感は… うん、ありとあらゆる種類の複雑な関係に繋がる。単純なワンパターンを繰り返すのはもう飽き飽きだろう?

ウェトル博士: そうとも、仲間に手榴弾で見事なスラムダンクを決める機会を与えるために馬に股間を蹴られる男は、女性から引く手数多だろうよ。

ダン博士: その通り! 女は繊細な男が好きだからね。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: この状況を楽しむべきだと考えてるんだな。

ダン博士: 最悪の場合でも何が起きると言うんだ? こんな事を言ったって許されるだろう、今や全人類は運命を誘い寄せる力を失った。君以外の誰もがね。

ウェトル博士: …私はこの狂ったナンセンスを受け入れるべきだと。本気でそう思うんだな。

ダン博士: こう考えてほしい。今まで惨めな気分ではなかった時はあるか?

ウェトル博士: 無い。

ダン博士: そこから脱却しようと努力したことは?

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: あれはもしかしたら時計の真似かもしれない。

ダン博士: 時計の目印は12ヶ所だ。彼女には今8本しか腕が無い。

ウェトル博士: おお! 分かったぞ! 彼女は日時計だ! な?!

ダン博士: …日時計はただの時計だよ、君。

ウェトル博士はシータ-7000の任務への復帰に同意しました。アダムズ隊長は、ウェトル博士が落ち着いた様子で職務に専念していると報告しました。ダン博士はO5評議会に対して、SCP-7000の無力化計画が実行段階に入ったと述べましたが、LK-クラス事象はその後2日間発生し続けました。

Clover.jpg

SCP-7000発生中の典型的な六つ葉のシャジクソウ属 (クローバー) 。

項目: SCP-6263 — 綴りや文法の誤りを指摘する全ての試みが、同様の綴りや文法の誤りを誘発する異常現象 — が、退任したイギリス首相 ボリス・ジョンソンが3日間にわたって投獄される結果を引き起こすのに正確に必要な期間だけ、活動を再開した。

対応策: 無し。


項目: マーサズ・ヴィニヤード島で3匹のはぐれサメが発見された。

対応策: アメリカ沿岸警備隊を装ったSCPS船舶によって捕獲・放流され、架空の映画 “ジョーズ5: アミティ島への帰郷” の撮影に関するカバーストーリーが流布された。


項目: ニュージーランドの無人地域、オークランド諸島で戦術核兵器の爆発が検出された。一般的な弾頭の発射は検出されなかったため、財団職員が現場に急行し、カオス・インサージェンシーの強化機動アレイの残骸がカーンリー・ハーバーで炎上しているのを発見した。現場で回収された文書類は、恐らく一部が失われたステップ・コンピレーションだと確認され、サイト-01への核攻撃で締めくくられていた。残骸の状態やアレイの構造に財団職員が精通していないことから、正確には断定されなかったものの、財団所属の技師たちは発射区画ドアの破局故障が事故原因である可能性が最も高いと報告した。更なる科学捜査でクローノン、アンチクローノン、タキオンで満たされた異常な部品が発見されたため、爆発時に“エンジン”がアレイに積載されていた疑いがある。

対応策: 最近の物資・人員の損失を踏まえて、カオス・インサージェンシーの活動レベルは、レベル5 (VARMT) からレベル2 (KULDE) に再評価され、要注意団体に指定されて以来初めて蛇の手、壊れた神の教会の各宗派、Are We Cool Yet?などの組織を下回った。

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強化機動アレイの爆発現場。

ウェトル博士の非協力的な態度に苛立ちを募らせたルブラン研究員は、8月28日の夜、宿舎でウェトル博士と対峙しました。

<抜粋開始>

<ルブラン研究員が寮室に入る。ウェトル博士は下着姿でソファに横たわっている。>

ウェトル博士: そのドアはロックしたはずだぞ。

ルブラン研究員: ええ、多分一人きりになりたいんだろうなと思いました。だから適当な数字を打ち込んだんです。どうなったと思います?

ウェトル博士: ファック。

<ウェトル博士は笑う。>

ウェトル博士: ああ、確かに上手くいきそうなやり方だ。

ルブラン研究員: 実は、あなたのご両親と話してきました。

ウェトル博士: は? 何故だ?

<ウェトル博士はソファの上で身を起こし、その際に両膝をコーヒーテーブルにぶつける。テーブルが倒れる。>

ルブラン研究員: あなたがいつものパターンに嵌まり込んでるからですよ、ウィリアム。それに、そんなあなたを見捨てたら、俺はあまり良い友達とは言えないでしょう。

ウェトル博士: 私はクソ友オリンピックの金メダリストだぞ、君は私に何の借りも無いだろう。ところで、どうしてまた両親に?

ルブラン研究員: シータ-7000に在籍していた頃、俺はSCP-7000のファイルにじっくり目を通しました。“いつ頃からか覚えていないが、これが私の人生だよ”。もしあなたが覚えていなくても、もしかしたら…

ウェトル博士: 無駄足を踏ませて悪かったな。よりによってフロリダくんだりまで。踏んだり蹴ったりとはこの事だ。

ルブラン研究員: 無駄じゃありませんでした。とりあえず服を着てください。

ウェトル博士: 何故だ?

ルブラン研究員: このサイトにもカメラの目が届かない場所はありますけど、それはあちこちを繋ぐ共用通路ですし、誰もそんなのを見たくないからです。

<ルブラン研究員はウェトル博士を身振りで指す。>

ルブラン研究員: 悪気はありません。

ウェトル博士: 悪気が無くてそんな発言ができるか。

<抜粋終了>

ウェトル博士とルブラン研究員は寮室を出て玄妙除却セクションへ向かい、サイト内監視カメラの有効な視聴覚範囲から外れました。再びカメラの視界に戻ってきた時、ウェトル博士は取り乱し、興奮しているように見受けられました。ウェトル博士は一人で寮室に戻ると、数時間にわたって室内を歩き回り、やがてベッドの上から雑多な物品を押し退けて横になりました。

深夜零時過ぎ、ウェトル博士は独り言を言い始めました。

ウェトル博士: そんなに単純なはずがない。

Beddle.jpg

ベッドに横たわるウェトル博士、監視映像の静止画。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: まさかな… そんなに単純なはずがない。あり得ない…

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: “SCP-7000-1は重要度が低く、収容を必要としません”。その通り。まさにその通り。それが全てだ。あいつは大ボラ吹きだ。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: やっぱりあいつが正しいんじゃないか。

<録音上に沈黙。ウェトル博士は49分間、天井を見つめる。>

ウェトル博士: さて、私に何を言わせたいのかね? 教訓を学びましたとか? それとも、人情の温かみにすっかり満たされましたとでも? くたばれバカ野郎。永久にくたばれ。

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: [聞き取れない声]

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: [聞き取れない声]

<録音上に沈黙。>

ウェトル博士: 聞こえただろうな?!

<照明器具が天井から外れて落下し、ベッドフレームに当たって火花を散らしながら砕け散る。>

ウェトル博士: そうか、聞こえたんだな。

<ベッドシーツに火が付く。>

ウェトル博士は翌朝再び任務に臨みました。アダムズ隊長は、ウェトル博士が“清々しい雰囲気で、それでいて悲しげで、しかし何よりもまず少しドヤ顔だったが、理由は良く分からなかった”と報告しました。状況の進展に伴い、最新情報が今後追記される予定です。


O5評議会資格情報を確認


以下のSCP-7000ファイルへの保留中の変更案は監督者のみの機密情報とする。


ダン博士の予測通り、エリア-08-Cで行われたウェトル博士との報告セッションに続いて、SCP-7000現象の深刻度は次第に低下し始めました。8月29日、解析部門の徹底的な調査で、以下の新たな確率効果が認められました。

項目: 検出例無し。

対応策: 無し。

確率性アノマリーは同日中に各々ずれた間隔で本来の活動を再開しました。物語はNx-18に戻り、SCP-4040は以前の深さを取り戻し、SCP-179は5本の腕を消失させて通常の脅威特定ルーチンを再開しました。

Spit.jpg

再び底無しになったSCP-4040。

SCP財団はLK-クラスシナリオの過程で38名の死傷者を出しました。敵対勢力の直接的な攻撃ではなく、シナリオそのものの結果として死亡した者のうち36名は、死後にカオス・インサージェンシーの二重スパイと特定されました。他2名については引き続き調査中です。世界経済の大変動、構造的・物質的被害、そして計り知れないほどの対人関係の破局にも拘らず、SCP-7000に起因する全ての民間人の死は、個々人の道徳心の欠如、もしくは著しく稚拙な意思決定によるものと見られています。以下に挙げるものを含む隠蔽工作には、しばらくの間、大規模な維持管理が必要だと考えられます。

  • 現世代の数学者たちに対する中傷活動。
  • 異常な突然変異や大気効果を説明付けるための不正な科学的言説。
  • 実在しない“いて座流星群”の創作。
  • あらゆる先物市場の全面的な崩壊に関する説明の捏造。
  • 不可解にも復活したプロ野球選手 ルー・ゲーリッグの収容。彼がヤンキースタジアムに突然出現した事件は、悪趣味な成り済ましだと説明された。

しかしながら、当面の危機が終息したように思われることから、シータ-7000は無期限の活動休止となり、隊員たちは本来の拠点に戻りました。SCP-3856-1 (サミュエル・ロイド研究員) の検死解剖でヒューム値の逸脱が確認された後、緊急時脅威戦術対応機構はSCP-7000の暫定的な無力化を宣言し、最優先警戒態勢を解除しました — これは死亡したロイド研究員が実際にはベースライン出身の個体ではなく、従ってベースライン現実の崩壊を招く可能性はほぼ無かったことを示しています。正しいSCP-3856-1個体は、SCP-7000の影響を受けて全般的な混乱状態に陥ったカオス・インサージェンシーからの降伏と離反が相次いだ後、同組織のセーフハウスの1つから健康体で発見されました。

オペレーション・ブラックスワンの正式な終了宣言は8月30日に予定されています。

8月29日の夜、サイト-43近くのカナダ、オンタリオ州グランド・ベンドにある財団運営の飲食店 “サムズ・カナディアン・パブ”にて、ダン博士はウェトル博士と遭遇しました。

<抜粋開始>

<ウェトル博士はバーに座り、ビール瓶を呷っている。大半の客はテレビに顔を向け、世界各地で発生していた7つの大規模な暴風雨が突然消散したことを報じるニュース番組を見ている。>

ダン博士: 我らのウィリー・ニリー! やけ酒で哀しみを押し流すつもりかい?

ウェトル博士: 私の哀しみは泳げる。逆に私を押し流そうとするだろう。

WettleBar.jpg

サムズ・カナディアン・パブにいるウェトル博士。

ダン博士: 誰の受け売りかな?

ウェトル博士: ハリーさ。私の台詞はほとんどあいつが書いている。

ダン博士: しかし、真面目な話、調子はどうだ?

ウェトル博士: 後ろから刺されたにしてはピンピンしているよ。

ダン博士: なぁ…

ウェトル博士: いや、いいんだ。怒っちゃいない。これが君のよく知られた強みだろう? 君はチェスをプレイせずとも試合結果を見通せる男だ。君は全ての駒がどう動くかを予め分かっている。

ダン博士: チェスの駒の動き方は誰だって知っている。基本中の基本だ。

ウェトル博士: ほらな? 少しも動揺していない。これぞダン博士だ。

ダン博士: じゃあ、君も理解したんだろうね。

ウェトル博士: いいや。勿論気付かなかった。私は先日まで人生で何一つ理解した試しがなかった。別な奴が私のために答えを探し出してくれて、私はそいつが正しいことを理解した。またしても忌々しい再現研究だ。

ダン博士: 別な奴とは?

ウェトル博士: 友達さ。

ダン博士: その友達は何と言ったんだ?

ウェトル博士: これは私の問題だと言った。最初から全て私の仕業だった。私があれを引き起こした。これは私の危機だったんだ。

ダン博士: 友達はその原因を突き止めたかい?

ウェトル博士: ああ。

ダン博士: 私が勝ち誇りながら解説しても構わないかい?

ウェトル博士: もうとっくにビールを3本空けたからな、それほど気にならん。

ダン博士: 全てはブランクが結婚し、君の助手たちが付き合い始めた時に始まった。

ウェトル博士: もっとずっと前から始まっていたよ。

ダン博士: いいだろう、しかし君を怒らせたのは恋愛だった。43の職員たちはかなり仲良しこよしで、君が所属している間も大して変化していなかったのに、今や誰もが君から遠ざかってゆく。そして君はキレた。

ウェトル博士: 自力で何かを成し遂げたかった。何者かになりたかった。私は妻を求めた…

ダン博士: 自分が彼女を危険に晒していると考えるまでは…

ウェトル博士: 家族が欲しかった…

ダン博士: 自分の悪運が伝染するかもしれないと考えるまでは…

ウェトル博士: とうとう、私はただ全てが同じ在り方を保つことだけ望むようになり、それさえも叶わなかった。だから、その通り、私はキレた。いつか自分の人生が好転すると本気で思っていた、20年もそう信じていた。皆が私をノロマ呼ばわりするがね、どうやら20年が私の最低速度のようだよ。

ダン博士: 君はもう終わりだと決めた。諦めたんだ。人気者になることも、注目されることも決してない。君は世界に勝ちを譲った。

ウェトル博士: ところが、世界は遊び飽きちゃいなかった。

ダン博士: 君は虚無であることに満足しようとした。だから、君の異常性は考え得る限り最悪の形で、君を財団において最も重要で貴重で有名な唯一の人物に変えた。何故なら、それは君が望んでいたものではなかったからだ。

ウェトル博士: ふん。

ダン博士: SCP-7000は君が切っ掛けで起きたんだ。

ウェトル博士: 何人死んだか知りたくもない。

ダン博士: 解析部門が調べた限りでは、死んだのは全員ゲス野郎かバカ野郎だ。そして大勢の人々が、そう簡単に忘れられそうもない強烈な目覚ましを喰らった。彼らが人生をやり直す第二のチャンスを得たのは、間接的には君のおかげだよ。キーワードは“間接的に”だ。今回の事件は君の責任じゃない。君は別に起きていた事象を制御できたわけじゃない。人生のあらゆる出来事と同様、これはただ君の身に起こっただけだ。そして、私との軽い会話で激励された君が、それなりに状況を甘受し始めた途端、また別の転換点が訪れた。ウェトル博士が何かを存分に楽しむようなことは許されない。だから君の異常性は与えたものを全て没収した。君を虚無に戻したのさ。いや、悪く思わないでくれ。

ウェトル博士: “虚無”だなんて、今まで言われた中で一番優しい呼び名の一つだよ。しかし、確かに尤もらしい説明だ。

ダン博士: 結構気に入っている説だよ。

ウェトル博士: 君はたった一人で私を騙し、K-クラスシナリオを終わらせた。

ダン博士: それが私の仕事だからね。

ウェトル博士: 生憎だがそうじゃない。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ウェトル博士: 君の説は間違っているからな。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ダン博士: 何だって?

ウェトル博士: ずっと昔、私はこの世界と契約を交わした。最低の、しかし最低過ぎない人生を送るという約束を結んだ。そして忘れ、約束を破った。これは復讐だったのさ。

ダン博士: 何を言ってるんだ?

<抜粋再開 — クラスX記憶補強薬の投与から15分後。>

ミンディ・ウェトル: 今、目の前で起きているように覚えてる。ピオリアのストックウェル・ローにあった古い家でのこと。私は寝ようとしていた — ガレージでタバコを吸ってて、サイモンはもう寝てた。ウィリアムももう寝たと思ったのに、部屋の前を通りかかったら、小声で独り言を言ってるのが聞こえたのよ。

ルブラン研究員: 彼が何と言ったか覚えていますか?

ミンディ・ウェトル: 今まさに聞こえる。こう言ってるわ、“何でも好きなものを持ってっていい。僕のものは全部取り上げていい。友達がみんないなくなってもいい。チャンスだって全部あげるよ、良いものは何もかも持ってって仕舞い込んでいいよ… だから…”

<録音上に沈黙。>

ミンディ・ウェトル: “…母さんを連れていかないで。”

<サイモン・ウェトルが妻の肩に手を乗せる。>

ミンディ・ウェトル: “僕の父さん母さんを傷付けないで。代わりに好きなだけ長く僕を痛めつけていい。僕は耐えられるから。約束する。お願い。”

ルブラン研究員: そんな。

サイモン・ウェトル: ほんの小さな男の子だった。そこまで思い詰める必要はなかったんだ。

ミンディ・ウェトル: 二度と喫煙しなかったわ。

<抜粋終了>

ウェトル博士: 君に出会うかなり前、私は世界と会話していたことが分かったんだ。自分をサンドバッグにするように世界に言って、私は眠りに就いた。そういう深夜の気の迷いを翌朝まで持ち越したことはあるか? 私は無い。

ダン博士: すると何だい、君は2回だけ現実改変者になったのか? それとも、天井に向かって祈ったら運命の女神がそれを聞き届けたとでも言うのか?

ウェトル博士: 何かが聞き届けて、申し出に応じた。その後数十年間、そいつは順調に楽しんでいたが… ああ、君は1つ正しい事を言ったな。私以外の皆が前進し、上昇していった。私以外の皆の人生に変化があった。私はそれが欲しかった。それが必要だった。そして、また別の記憶に残らない夜に、生酔いし、下着姿で寮のソファに寝転がった私は、声に出して変化を求めたんだ。友達が監視映像を確認しようと考え付くまで、私は思い出しもしなかったよ。

ダン博士: 話を整理させてくれ。君は自分の行いが異常な悪運をもたらしたと、そして契約違反によって事態を悪化させたと考えていて… それで? これでは状況を甘受したって問題は解決しないじゃないか。

ウェトル博士: そうとも。悪いな、相棒。

<ウェトル博士はダン博士の背中を軽く叩く。>

ウェトル博士: 君の話し相手は幸運ゼロシナリオを打破した男だ。私はあの状況を好きではないと、他人様に迷惑を掛けてまで重要人物にはなりたくないと決心した — 君も時々内省してみたらどうかね、私もまだ初心者だがスカッとするぞ — だから、手を打った。私はデブでマヌケでノロマで、他人の災難を引き付けてばかりだが、無力ではないことが分かったからな。

ダン博士: おい。

ウェトル博士: これは全て私の身に起きている事なんだろう? 立ち往生しているとばかり思っていたが、最初から私が全ての中心にいたんだ! 私の人生はメチャクチャかもしれないが、それでも私の人生だ。私が制御している。私が条件を設定する。ただ、今までそれを知らなかっただけだ。

ダン博士: ウェトル、君は自分の意志で全てを正常に戻したと言いたいのか? もう一度悪魔と取引したのか? 天井に話しかけたら、天井が答えたのか?

ウェトル博士: そんなところだ。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ウェトル博士: しかし、君の演説には助けられた。華々しすぎたが、情感が込められていたよ。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ダン博士: これが何を意味するか、完全に理解しているかい?

<ウェトル博士は肩をすくめる。>

ウェトル博士: 意味は色々とあるだろう。君は何を思い浮かべている?

ダン博士: 君はね、ウィリアム・ウェトル博士、カオス・インサージェンシーを壊滅させたんだ。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

<ウェトル博士が笑う。>

ウェトル博士: どんなピエロにも輝かしい日が訪れるもんだ。

ダン博士: またそうやってあれこれと比喩を持ち出し始める。

ウェトル博士: ああ、うむ、自分で台詞を考えようとする時の悪い癖だな。いや、待てよ。もう一つ意味するところがあったぞ。

ダン博士: と言うと?

ウェトル博士: 君を出し抜いてやった。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ウェトル博士: で?

ダン博士: で、何だ。

ウェトル博士: で、その黒塗りには何が隠れてる?

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ウェトル博士: 約束の—

ダン博士: [聞き取れない声]

ウェトル博士: うん?

ダン博士: [聞き取れない声]

ウェトル博士: 聞こえな—

ダン博士: ダニエルズだっ!

<他の客たちが、両腕を振り上げて立ち上がったダン博士を振り向く。ダン博士は客たちを一瞥し、おずおずと着席する。>

ウェトル博士: ダニエルズ。

ダン博士: ああ。

ウェトル博士: ダン・ダニエルズ博士。

ダン博士: ああ。

ウェトル博士: ダニエル・ダニエルズ博士。

ダン博士: そうだ。さぁ、好きなだけ笑え。

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

<ウェトル博士が手を差し伸べる。>

ウェトル博士: ウィリアム・ウェトル博士だ。

<ダン博士は片眉を吊り上げ、ウェトル博士をしばし見つめた後、握手する。>

ダン博士: 私はO5たちに、君は単なる戦術以上の存在だと言った。全てを見誤ったわけではなかったな。

<ウェトル博士はビールを飲み干す。>

ウェトル博士: ところで、7000を再分類する気だろう? Neutralizedか?

<録音上に環境音のみが聞こえる。>

ダン博士: いやいや、もっと良い考えがある。

ウェトル博士: おお、そうとも。君なら間違いない。

<2名の人物がウェトル博士とダン博士の隣のバースツールに座る。>

ブランク博士: 元気かい、負け犬諸君?

ダン博士: 心を痛めてる最中さ。

ルブラン研究員: 誰の奢りにします?

ウェトル博士: コイントスで決めようか。

ダン博士は翌日、O5評議会に向けてSCP-7000ファイルの今後についての概要を発表しました。

<抜粋開始>

ダン博士: …以上が私の考えです。こうしてLKシナリオを7000-Dに再分類することで、見えざる力も満足してくれるでしょう。

O5-5: 本気でこの説明を記録に残したいのかい?

ダン博士: その通りです。この改定案がウェトルから全ての功績を奪い取れば、彼に影響するアノマリーの嗜虐衝動は収まるでしょうし、CIだって反論できる立場にはありません。もし私が正しければ — 最近の実に不面目な一事件を別とすれば、私は常に正しいのですが — 我々は二度とこんな馬鹿騒ぎを経験しなくて済むはずです。

O5-1: 全てがある意味恐ろしいほど理に適っている。

O5-10: -D分類提言の理由は理解できましたが、新しい7000ファイルを設ける根拠をお聞きしたい。ウェトルに好意を向けることで均衡が崩れ、また別な危機を招く危険性を冒すのではないでしょうか?

ダン博士: いいえ、名声を失うことで相殺されるはずです。この件は解析部門にも相談しましたが、彼らの見解も同じでした。

O5-13: でもよ、何故そもそもファイルを作る必要があるんだ? 奴は大して重要じゃなかったし、今後もそうはならんだろう。

<録音上に沈黙。>

ダン博士: 我々は彼に借りがあると思いませんか? 彼の負けっぷりの良さにね。

<録音上に沈黙。>

O5-1: 改めて、私は全面的に受け入れたい。意見を述べてくれ。

棄権
O5-1 O5-7
O5-2 O5-13
O5-3
O5-4
O5-5
O5-6
O5-8
O5-9
O5-10
O5-11
O5-12
動議可決

O5-1: 決まったな。ウェトルは快くこれに賛成してくれるだろうか?

ダン博士: 十分満足するでしょう。結局のところ、彼も一枚嚙んでいます。7000ファイルの新しい写真をもうご覧になりましたか?

<抜粋終了>

ダン博士の要請に従い、SCP-7000ファイルは2つの新しいデータベースエントリに分割される予定です。以下、審査用の素案が提示されています。

アイテム番号: SCP-7000-D
レベル3
収容クラス:
Decommissioned
副次クラス:
none
撹乱クラス:
none
リスククラス:
none

KISMET2.jpg

SCP-7000-D-1。

特別収容プロトコル: SCP-7000-D-1の残骸はサイト-19で調査中です。それ以上の収容措置は必要ありません。


説明: SCP-7000-Dは、KISMETデバイスという名称の現実改変固有兵器 (SCP-7000-D-1) によって引き起こされ、2022年7月から8月にかけて地球上で進行した確率崩壊でした。KISMETデバイスは戦術核兵器の展開を介してSCP財団に破壊されました (詳細はオペレーション・ネルソンズ・リベンジを参照) 。確率崩壊の影響はその後解消されたため、KISMETデバイスが継続的にベースライン現実に介入しなければ維持できなかったものと推測されています。

SCP-7000-Dの既知の影響や出来事、またはその疑いがある事例の完全な記録については、解析部門に連絡してください。

アイテム番号: SCP-7000
レベル2
収容クラス:
euclid
副次クラス:
memet
撹乱クラス:
keneq
リスククラス:
caution

Replication2.jpg

SCP-7000 (左) と助手たち、2022年。SCP-7000自身が設定したセルフタイマー写真。

特別収容プロトコル: SCP-7000は自らの収容責任を負います。当該アノマリーに関わる実験は、緊急時脅威戦術対応機構、またはSCP-7000自身の明示的な同意が無い限り許可されません。

SCP-7000とSCP-7000-Dの間に関連性はありません。

説明: SCP-7000は、周辺の不運を自分自身 — サイト-43再現研究セクション次長、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士 — に集約させる確率シンクです。


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