| SCP-7010 |
By: Arl-Sphere |
| Published on 03 May 2025 01:27 |
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| アイテム番号: SCP-7010 |
Level 3/7010 |
| オブジェクトクラス: Thaumiel Neutralized |
Confidential |
ダグザ・マク・オェングスの所有地であり、SCP-7010(SCP-7010-α)の旧所在地。
特別収容プロトコル [旧式]: SCP-7010の収容及び管理は、Site-03の維持を認める運用条約によりハイ・ブラジル政府に一任されています。Site-03はリスクヘッジの策としてSCP-7010より受益していますが、SCP-7010の監督については、直接的また即時的な責任を負いません。
説明: SCP-7010はNx-03に位置する奇跡論的結界であり、島上で発生するあらゆる事象に対する確率を異常的な手段で変化させます。一般的には好ましい結果となる可能性が上昇し、好ましくない結果は可能性が著しく減少します。これらの保護は島内の生活水準を高めると同時に自然災害や大量殺戮事件等の極端に不利な出来事に対する防衛手段として機能しています。
ネクサス番号: Nx-03
民間呼称: ハイ・ブラジル
概観: アイルランド西部に位置する島国であり、トゥアハ・デ・ダナーン(Homo sapiens tumuli)として知られる異常なヒト科亜種が定住している。Nx-03は7年につき1日間基底現実世界に存在し、その間は異常存在のみが到達可能である。財団は島内の変局に対する規制を援助するため、Site-03を設立していた。
財団は — SCP-7010の機能性が認められていた期間中 — Site-03の立地によりこれらの保護の恩恵を受けていました。それにより、当サイトは最も安全な施設であり深刻な収容違反の危険性は事実上皆無であると広範的に見做されていました。SCP-7010内には合計7個の結界が存在し、それぞれSCP-7010-α、β、γ、δ、ε、ζ、ηに指定されていました。
SCP-7010は短期間の不安定状態の後、1988年6月13日に壊滅的な崩落を起こしています。崩落直後、世界オカルト連合にLTE-0851-Cetusとして知られる身長100m、5本の腕及び5本の後部触手を持つ水棲生物が島を攻撃しました。この襲撃とGOCがNx-03の防衛中に惹起した損傷により、建築物及びインフラに大規模な損害が発生し多くの民間人が犠牲になりました。
LTE-0851-Cetusの攻撃で上級王ヌアザ・アガートラーム7世及びモー・リアン皇太子妃が共に死亡したことにより、 — ヌアザの甥である — デルバエス王子が上級王として即位しました。崩落後の結界に関する調査の一端を担った彼は、結界が自国の滅亡と近親者の死の原因であると見做し、今後の使用を禁じています。
詳細
ケネディ・コリンズ博士の個人ログより抜粋
1988年 2月11日
妖精族との二重任務で私はトゥアハ・デの伝統的な構造を持つ優雅なスクーナー船に乗船し、伝統的な話や通り一遍のジョークで交互に私を口説く甲板員らの話に耳を傾けながら船上を過ごした。後者は驚くほどに下品だったが、それが気にならないほどに彼らの話は非常に興味深かった。前者は本当に魅力的だった。私は平凡な大学に通い、最初の学士号を民俗学で取得していた。ものの、ハイ・ブラジルの伝承は史実とは思えぬほどに非現実的なものだった。
まずトゥアハ族の乗組員が乗っている船でもって初めて島に辿り着くことができる。一度その機会を逃せば、恐らくまた5年待たなければならなくなるだろう。.予想通りハイ・ブラジルは1993年7月7日午前0時0分(GMI+1)丁度に再度観測されるようになり、完全にアクセス可能となった。
到着してすぐにアタッシェらは私の降船を手伝い、そこからSite-03の警備区域まで連れて行ってくれた。私の前にある、城山に築かれた石灰質の邸宅が向こう6ヶ月の私の住まいとなる。
明日は金曜日だが、私は夜のお祭り騒ぎには参加しない。事務仕事があるのだ。
1988年 2月15日
私は今日、ハイ・ブラジル王室の新任宮廷魔術師であるミディール・マク・ルーという青年と面会するために宮廷の臣下らの元に招かれた。ここでの若さとは相対的なものだ。彼らは通常200年以上にわたって生きる民族であり、彼の40歳という年齢は、その観点から見れば子弟のものに過ぎなかった。(偶然にも私より少しだけ年上だった。)反面、名誉職に就くには十分な年齢であるようだ。
私はこれまで宮廷魔術師に会ったことが一度もない。
私は新参者という身でありながら貴族の下を訪れることから、使用人が同行するようになっていた。しかし若き宮廷の臣下らは、私が重要な任務を受けて町を訪れていることを聞き同行を名乗り出た。上司は断るように言ってきたが、1番と2番の王位継承権を持っている者を相手に断ることができるほどの勇気は私にはなかった。
彼らについて私が得た情報は簡潔的なものだった。年齢は私とミディールの間である。偶然にも2人は — 王女のモー・リアンを先とした — 1日違いの生まれであり、彼女を長女とした双子の姉弟のように振る舞う傾向があった。2人は若い頃にICSUT.国際統一奇跡論研究センター(The International Center for the Study of Unified Thaumatology): 世界最高峰の魔術大学であり、モー・リアン皇太子妃とデルバエス王子は他のキャンパスにて留学プログラムを修了したものの、同校のハイ・ブラジルキャンパスに通っていた。に通っており、ミディールほどでは無いにしろ優れた魔法使いだった。
私がハイ・ブラジルに到着してから初めてSite-03を離れた時、2人は外で私を待っていた。
ビデオログ
ケネディ・コリンズ博士
モー・リアン皇太子妃
デルバエス王子
[ログを開始]
モー・リアン皇太子妃: ああ!いらしたわ。可愛らしい人間の外交官さん。
デルバエス王子: ごきげんよう、お嬢さん。
コリンズ博士: [どもりながら。] ああ、その、どうも。[彼女は2人に頭を下げた。] 皇太子妃陛下、王子陛下。お2人がこちらにいらっしゃるとは想定しておりませんでした。ミディール氏との会談は明日になると思っておりまして。
デルバエス王子: いや、違う。
モー・リアン皇太子妃: 私たちはただ自己紹介をしたかったのよ。食事にもお連れしたい。通りの向こうに素晴らしいレストランがあるの。ロンドンの不死商人.翻訳注: MC&Dにおけるパーシヴァル・ダーケの意と推定が経営していらっしゃるのだけど、腕は確かなのよ。
デルバエス王子: 彼がロンドンの不死商人となる前から、そのレストランは彼の手によって経営されていたんだ。100年以上も。
モー・リアン皇太子妃: なってからよ。ただもしかすると、そうだったかもしれないわね。
コリンズ博士: ああ、それなら。 喜んで。
3人はサイト-03から前述のレストランまで歩き、中に入ると屋上のプライベート席に案内される。注文せずとも料理が運ばれてきた。
デルバエス王子: もちろん、事前に連絡しておいた。私たちにとって最高のものだけを用意している。
モー・リアン皇太子妃: それで!あなたは私たちの友人であるミディールにお会いする予定だとお聞きしましたわ。私たちは彼と同じ学校に通っていましたのよ。まずはあなたのことを聞かせていただけるかしら?
コリンズ博士: 彼と会うためのテストですか?返答次第で会談の予定を取り消されることはありますか?
デルバエス王子: あなたが随分と見当外れな回答をしない限りは、そのようなことはない。
コリンズ博士: 分かりました。まず私はSCP財団のエージェントで、外交部門に配属されています。財団はあなた方の奇跡論的活動への関心を高め、宮廷魔術師と会談をさせていただくために私は島に派遣されました。
モー・リアン皇太子妃: これはそんな風に呼ぶものではありませんのよ。どうか、あなたが感じたままにおっしゃってみて?魔法、と。
モー・リアンは弧を描くように手を振り、虹のような軌跡を空中に浮かべた。
コリンズ博士: そのようなことをすれば、私は恐らく解雇されるでしょう。叱責に留まるかもしれませんが。陛下のお考えには同意しますが、私は何年もかけて正しい用語を頭に叩き込まれてきているのです。私は10年以上に渡って財団に勤務しています。何しろ、財団は私が大学院で学位を取得するのを支援してくれたので。
モー・リアン皇太子妃: あなたを型に嵌めて、押し込んで、それで財団の方々はあなたを忠実な下僕に仕立て上げたという訳かしら?
コリンズ博士: 私は、その。何にせよ、そこまで言うつもりはありません。私は多くの点で財団に同意しますが、問題点も理解しています。ただ、財団のような職務を果たす人間はほぼ存在し得ない。その単純な事実のためだけに、私は財団を離れるつもりはありません。
デルバエス王子: 私たちは、仮に私たちと言わずとも私たちの先祖は、長年に渡って様々な人にお会いしてきた。この島にやってくる様々なグループ、君が所属する財団、GOC、蛇の手、教会らに残りの全て、それらに所属するあらゆるエージェントらとな。だから第一に、私たちは君と話す必要がある。一体、何が君を突き動かしているんだ?
モー・リアン皇太子妃: それで、外交官さんは何故ここにいらしたの?
コリンズ博士: ここに来るよう命じられたためです。
モー・リアン皇太子妃: ここにいらした際、あなたはどう思われましたの?
コリンズ博士: 興奮しました。現実とは思えませんでした。伝説から抜け出したような、魔法と妖精に満ちた島…このような様相は想像もしていませんでした。先ほども申し上げたように — このような仕事は世界には他に存在し得ません。
モー・リアン皇太子妃: 私たちの世界ではともかく、あなたの世界には存在し得ないでしょうね。ミディールとの会談がどうなるか様子を見ましょう。あなたは無限の可能性を秘めたお方かもしれないわ。
[ログを終了]
1988年 2月16日
以下は宮廷魔術師ミディールとの一連の王室面会の一部で、その中で彼は私にSCP-7010の実例の1つを直接見せてくれた。ものの当ログ内で発生した出来事のためにこの予定しかこなすことができなかった。
今後と同様に、今日の出来事は私(コリンズ博士)が付けた視聴覚機器と付近に置かれた国立裁判所が認証した機器によって記録された。
ビデオログ
ケネディ・コリンズ博士
モー・リアン皇太子妃
デルバエス王子
ミディール・マク・ルー卿(宮廷魔術師)
[ログを開始]
王子と皇太子妃はコリンズ博士の両脇におり、3人は浮遊する宮廷魔術師の前に立っている。
彼の背後では地面が区分けされており、平坦なローム質土壌の狭い帯が、畑とそれ以外の地域を区切っている。土壌の中には低く厳かな生け垣が植えられており、その間を通り抜けられるようになっている。
コリンズ博士: 沈黙を破ることをお許し下さい。[彼女は咳払いをした。]今日、私がここに来たのは…ええと。
コリンズ博士: 申し訳ありません、陛下、あなたのご芳名を誤って発音したくなかったのです。
ミディール卿: 今度の愚行は許そう。だが、次はどうなるだろうな?[彼は喉仏を彼の親指でなぞった。]
全員が笑った。
コリンズ博士: ああ、陛下の御冗談については既に聞いておりました。覚悟はできております。信じて下さい。
ミディール卿: 私の予定を入れても構わないだろうか?今日はまだ一服していない。今すぐにでも吸おうと思っているのだが。
コリンズ博士: 生憎、私は今日は仕事で忙しいのです。陛下。
ミディール卿: 大いに結構。結界は丁度この丘を超えた所にある。お見せしよう。
4人は土壌を横切り、その奥に位置する手付かずの野原に入る。
コリンズ博士: 陛下。お尋ねしますが、この土地の所有者はどなたなのですか?
ミディール卿: 博士、あなたは自覚なく他者を侮辱している。
コリンズ博士: いえ私は、つまり — 誰も周辺にいない時には、誰がここら一帯を世話するのですか?
ミディール卿: まあ時折、蛇の手の奴らが勝手に侵入してきては彼ら自身を監視官だと偽ることがある。しかし実際には、我々の先祖こそがこの土地の真の監視者だ。彼らがこの土地を見守り、世話をして下さっている。
コリンズ博士: では、誰かに侵入され、干渉されるのをどのように防ぐのですか?ご存知のとおり — 結界に対してです。
ミディール卿: この結界は如何なる干渉者も寄せ付けることはない。博士、あなたにはまだ学ぶべきことが多いようだな。
4人は勾配の緩やかな坂を登る。3人は登っているが、ミディールは浮遊している。
コリンズ博士: 島全体にはいくつの結界があるのでしょうか?
ミディール卿: 島にか?7つだ。
コリンズ博士: そして、その全てが、その…このような目立つ場所にあるのですか?結界こそあれど、この島にはそれに縛られているものもあります。そして仮に結界が守られていたとしても —
ミディール卿: 残念ながら、あなたの質問は全て見当違いだ、博士。あなたとあなたの組織は、収容の教義にあまりに固執しすぎている。私はあなたを責めることはできない。だが、これだけは覚えておけ。物質に作用する物理的な力は取るに足らないものだ。我らの魔術による保護の威厳はお分かりか?結界は我々の街、それを囲む新緑、足元の大地、海岸の海、そして上天までも支配している。これらはトゥアハ・デの魔術の勝利だ。
コリンズ博士: そうですね。あなたはこの結界に非常に大きな信頼を寄せていらっしゃるようです。詳細の調査をご検討願えますでしょうか。
ミディール卿: これはガイドツアーに似合う単なる誇示ではない。誓って、全く、これは事実だ。
コリンズ博士: 私がこれまで読んだ中で最も衝撃を受けたのは、これらの結界の年季 です。島の奇跡論的結界の多くは、住民の大半が生まれる遥か以前から存在していました。そして特にこれらの結界は — 半千年以上も機能し続けています。にわかには信じがたい!
モー・リアン皇太子妃: [彼女が割り込んだ。]失礼だけど、博士、どういう意味なの?
コリンズ博士: 類推でご説明します。この島の建物は絢爛で、芸術作品であることは誰もが認めるところでしょう。あなた方島民も、非常に長期間ここに住んでいらっしゃいますが、最も優れた建築家でさえ、何世紀にもわたる時間の経過を想像するのは困難です。しかしそれでも、世界中のあらゆる遺産は維持される必要があります。
ミディール卿: しかし学者であれど — 特に学者であれば — そうした機構の宏壮さはわかるだろう。違うのか?
コリンズ博士: 私は理解しようと努めていますし、実際理解しています。ですが、陛下は論点を逸らしていらっしゃいます。あなた方はそれらの建築物をいかに管理するのです?そして修理の時期をいかに判断なさるのですか?
ミディール卿: 話を戻そう。結界を完成させるために過去には多大な犠牲が払われている!そしてハイ・ブラジル建国以来、結界は毅然として存在し続けている。「維持」などという陳腐な言葉では、保護魔法には及ばない。
コリンズ博士: それは意味論です、陛下。
ミディール卿: 博士には何を言っても無駄なようだ。どうしようもない。文献に目を通しているという割には、明らかに根本的な誤解をしている。
コリンズ博士: 別の観点からご説明させて下さい。一体、都市が成長するにつれて、これらの結界の効力も比例して強大になるのでしょうか?前のオカルト戦争以来、ハイ・ブラジルの人口は既に10倍に膨れ上がっています。ここは地球上で最も重要な異常的都市であり、多様な住民を抱え、未来に残す価値のある歴史と文化があります。私は現実を見ているのです。結界による保護をいかにして維持し続けるのです?
4人は丘の頂上にある、海を見下ろす薄葉の木立に到着した。その中央には、SCP-7010-δを封印する記念碑的な埋葬石が置かれている。
その時、突然モー・リアン皇太子妃の足元が崩れ、地表に崩れ落ちる。彼女は悲鳴をあげ、視界から消えた。
デルバエス王子は彼女を振り返り、大声を上げると、生きた影となり丘を駆け抜ける。崖に着くと彼は人型に戻り、末端で心許ない表情をしている。
ミディールとコリンズ博士は崖までその後を追った。
モー・リアン皇太子妃が立っていた地面には5メートルにわたる変形が見られる。なんとかなったようだった。彼女は立ったままだったが、壁に押し付けられた状態である。
ミディール卿: リアン様、早く — ああ、よかった。
モー・リアン皇太子妃: [彼女は息を切らしており、胸に手を当てている。]私に不可能なことなどありませんのよ。
モー・リアン皇太子妃は崖の側面を登ろうとし、デルバエス王子は彼女を頂上まで引き上げようと待っている。
ミディール卿: よかった。無事だった、のか。本当によかった。コリンズ博士、私はこれまでの立場を改める必要があるかもしれない。
コリンズ博士: はい?
ミディール卿: 崖のこの部分は — 結界で守られている区域のすぐ外にある。そして外側に進むにつれて、引っかかれるような、押しつぶされるような酷い感覚が私の周りに広がってゆくのを感じる。世界が少し冷たく、暗く感じられるのは私だけなのだろうか?博士もそう感じただろう?
コリンズ博士: ミディール卿、その…おっしゃっている言葉の意味が理解できません。
宮廷魔術師はすり足でコリンズ博士に近づき、低い声で話しかける。
ミディール卿: 災難は街の外側に蓄積され、結界に悪影響を与えている。この境界では、我々はほぼ呪われているようなものだ。そしてその不運が、女性が足を踏み入れた途端に崖が崩れ落ちるほどに強力であるならば…災難が結界を蝕んでいるというのは確かだろう。
どこもかしこも不穏な兆しに満ちている。私は宮廷の残りの人員が集まり次第速やかに彼らに対処を働きかけるつもりだが、我々が行う手続きの前に、博士には覚悟を決めておいていただきたい。あなたが重要な役割を果たすことは想像に難くない。
コリンズ博士: 陛下、信じてください。私は十二分に理解しています。私の —
ミディール卿: 私のために、是非完遂してくれるだろう?
コリンズ博士: はい。解決に向けて全力を尽くします。
ミディール卿: よろしい。他の奴らにも確認しよう。
コリンズ博士はよろめきながら背後を振り返り、 — そのあまりの運気の偏移に — 嘔吐した。
ミディール卿: 私たちの仕事は山積みのようだ。
[ログを終了]
1988年 2月24日
王子陛下と皇太子妃陛下はすぐにこの重要な調査の指揮を取ると言ったが、意外なことに、ミディール卿はそれを却下した。彼は自分自身で問題を解決するつもりであるようだ。必要な審査が終わり、準備が整えば解決策を持って帰ってくるだろう — 彼はそう言った。
結果として、私の人生で最も長い1週間は、難解な奇跡論体系の安心感に左右された。元の世界とは違う不安定な新しい現実を強く認識したのは、島にケーブルテレビが存在しないことに突如として気づいたことによった。ハイ・ブラジルの根底にある魔術こそがこの点で事態を複雑にしているのだ、と私は告げられた。幸運なことに宝庫を彷彿とさせるほどに多くの映画がこづまれている場所を見つけたため、読書の合間にチェビー・チェイスのバックカタログのコメディを視聴した。
ある朝早く帰ってきたミディールは、私たちをとある王室魔術師の下へ連れて行った。彼はミディール卿の部下であり、ダグザ・マク・オェングスといった。彼の隠れ家は街を見下ろす崖の上に位置し、そこには島に存在する結界の内の1つがあった。
彼を形容するならば、自意識過剰なクラーク・グリスウォールドが最も相応しい。.[RAISA通知 — 編集済み]記録から文章が削除されました。
ビデオログ
ケネディ・コリンズ博士
モー・リアン皇太子妃
デルバエス王子
ミディール卿(宮廷魔術師)
ダグザ・マク・オェングス卿(王室魔術師)
[ログを開始]
ダグザ卿: どちら様ですか?ああ、はい、どうぞお入り下さい — さほど重要なことはしていませんので。
ミディール卿: Maidin mhaithおはよう .翻訳注: アイルランド語における朝の挨拶を意味する。。お客が来ているのだから、そうでないことを願う。
コリンズ博士: 初めまして、ケネディ・コリンズです。財団で博士として働いていて、今度からSite-03に新しく配属されました。お会いできて光栄 —
ダグザ卿: 新入りか!ちょうどいい、今朝急いで祖母のトフィーを作っていたんだ。
ミディール卿: ダグザ、お前は散漫になっているようだな?私の公報は受け取っているか?
ダグザ卿: はい。
ミディール卿: それについて何か言うことは?これは危急だ。
ダグザ卿: 今朝は特に幸運な予感はしません。つまりは、結界は正常に機能しているという訳です。過去18万9000日あまりの間そうであったように。
ミディール卿: 馬鹿を言うな。兵舎に入って兵士らに前線の状況を尋ねるようなことはしない。敗北を喫する直前になるまで、市民は誰も、何も感じることはない。
ダグザ卿: ではあなたは?どうして正しく結界の現状を知っているというのです?
ミディール卿: 島の郊外に出向き、ヌアザ・アガートラーム1世の墓所を訪れたことがあるからだ。崖の端から金色の海を覗き込んだ時、私は人生で一度も感じたことのない違和感を覚えた。我々の先代は、何世代にもわたって我々を助けてきた結界を築いた人々は、悪運には特定の予兆があるとの言葉を遺している。私はずっとそれが迷信であると信じ全く取り合わなかった。だがその日の午後、私はそれを鮮明に感じ取った。腹の中に石があるような感覚があり、私に落下を誘っているようだった。
ダグザ卿: 海を見つめていたらお腹を下した?それほどまで水に飢えた陸上生活者には会ったことがありませんでしたが。
ミディール卿: 教えてもらおう。お前が最後に外出したのはいつだ?
コリンズ博士: [余談。]ええと、彼らは何をしているのです?
デルバエス王子: [余談。]互いに自尊心を満たしているだけだ。
モー・リアン皇太子妃: [余談。]彼らなりの愛情表現よ。
ダグザ卿: 私の領地は確実に安全です。もしあなたが私を説得に来ていたのであれば、お粗末な仕事ぶりですね、陛下。
ミディール卿: 今お前の前にいる3人は、当時そこにいた者らだ。彼らの感覚は私ほど鋭敏でなく、訓練されてもいないかもしれないが、彼らも確かに証言が可能だ。だが私が本当に求めているのは、お前の信頼だ。それさえあれば、王宮の総力を挙げて本格的な調査に踏み切ることができる。
ダグザ卿: 私が引き下がるとでも思ったんですか?部屋に押し入られた挙句にそんなことを言われてしまうとは、私はどうも恐ろしい。分かりました。それで、その次は何をするんですか?王を解任しましょうか?月に陰謀を企てましょうか?
ミディール卿: お前には、起こりうる緊急事態について考えて欲しい。私が望むのはそれだけだ。
ダグザ卿: 結界は正常ですよ。そうでないとあなたに言われるのは小っ恥ずかしい。私と共に遅めの朝食をとるか、理性を取り戻してくるかのどちらかにして下さい。
ミディール卿: 分かった。じゃあな。
[ログを終了]
1988年 3月16日
ヌアザ上級王に謁見するまでにはさほど手順を踏まなかった。また、彼と面会をする約束を取り付けるのも同様だった。というのも、モー・リアンは皇太子妃であり、彼に毎日会っていたのだ。宮廷の1人であるミディールの後ろ盾もあり、面会は容易に手配してもらえた。
私の仕事は、私たちが手配した面会にサイト管理官であるウォルシュを出席させることだった。幸運なことに、モーはハイ・ブラジル王家の紋章が入った招待状を用意してくれていた。それがなければ彼の気を引くほどの影響力があったがどうか定かではないが、王族である彼女の計らいにより彼の参加を取り付けることができた。
私たちが国王陛下とウォルシュに会うのは、ダグザ卿との会談から3ヶ月後のことだ。事態を進展させるにはもうこれが最後のチャンスで、失敗は許されない。私たちはこの3週間を結界の調査に、証拠集めに、実験に費やしてきたのだ。
ビデオログ
ケネディ・コリンズ博士
モー・リアン皇太子妃
デルバエス王子
ミディール・マク・ルー卿(宮廷魔術師)
ヌアザ・アガートラーム上級王7世
ブレントン・ウォルシュ管理官
[ログを開始]
ヌアザ上級王は会議に出席する6人の中で最後に到着した。彼は会談室に入り、上座に歩み寄る。モー・リアン皇太子妃は彼の右に、デルバエス王子は彼女の隣に、ミディール卿は彼の左に座っている。サイト管理官のウォルシュとコリンズ博士は、彼らと相対するように隣接した席に座っている。
ヌアザ上級王: どうやら私が最後に到着したようだ。これは真剣な取り組みだと見える。財団にまで連絡させていただいたが、これは国家の問題らしいな、娘よ。
モー・リアン皇太子妃: ええ陛下、それがコリンズ博士の助力を得て私たちが出した結論です。そしてウォルシュ管理官の助力を元に、また私たちは計画を進展させようとしているのです。
ヌアザ上級王: なるほど。まあ、私は君の祖父のように外部からの助言を一切受け付けない訳ではない。私は財団を高く評価しているからこそ、彼らにあの素晴らしい要塞の建設を許可したのだ。
ウォルシュ管理官: 私たちは陛下から受けた恩を一生忘れることはないでしょう。
ミディール卿: 私たちが国王陛下にお伝えしたいのは重要なことです。私たちがここに住み始めて以来、何世紀にもわたってハイ・ブラジルを守ってきた幸運の結界に関してです。
ヌアザ上級王: 幸運の結界なき生活は想像し難い。考えることもできない。
デルバエス王子: それも視野に入れる必要性があるかもしれません。
ミディール卿: 結界は機能不全に陥っているのです。私たちはこの1ヶ月間、調査や実験といったあらゆることを行ってきました。私たちはその調査結果を持ってダグザ・マク・オェングスの説得に向かいましたが、彼は私たちの言うことを信じませんでした。
コリンズ博士は3つの大きな黒いバインダーをテーブルの上に置いた。彼女は1つをウォルシュ管理官に、もう1つをヌアザ上級王に、最後の1つをミディールに渡す。
ミディール卿: このバインダーには、結界の強度を測定するために行なった、私たちに考えうる限りのあらゆる調査の結果をまとめています。その結果は否定できません — ハイ・ブラジルの外側には不幸が蓄積し、それが結界を削り、欠けさせようとしているのです。未だ崩落こそしていませんが、そうなる可能性はあります。
ヌアザ上級王: ほう。確かに、それは悪い予兆だ。
ヌアザ上級王はウォルシュ管理官と同様に、目前のバインダーを捲り始める。
ヌアザ上級王: 何故このようなことが起こると思っているのだ?結界の欠陥か?施工上の欠陥だろうか?経年劣化か?
ミディール卿: 私は、結界に根本的な問題があると考えています。結界は運を制御するものですが、運とは本来制御が不可能なものです。結界の目的は無意味な行為なのです。
ヌアザ上級王: では、それを解決する方法はないと考えているのか?
ミディール卿: はい。そうです。
ヌアザ上級王: それで、どれくらいで境界が完全に機能しなくなると見ているんだ?
ミディール卿: 恐らく2年もかかりません。ですが、島内がいかなる状況にあるかに関わらず、境界は最悪の瞬間に崩落するでしょう。疫病を、あるいは強大な嵐を引き寄せるかもしれません。天候に対する確率論的操作に関しては、変数が多すぎるために野暮な行為であると悪名高いのはご存知でしょう。もしくはあなた方3人が何らかの理由で病を患うような — 単に宮廷における継承の危機であるかもしれません。詳細の予見は不可能です。
ヌアザ上級王は引き続きバインダーの書類に目を通し、数分間にわたり口を開かなかった。集められた人々は、会議室の中で彼の返答を待っている。
ヌアザ上級王: 忠告には感謝しよう、ミディール。だがこれを裏付ける証拠が見当たらない。お前の言うように結界が欠陥品であったのならば、何故今まで効能が続いていたのだ?
ミディール卿: 本来ならば、もっと早くに崩壊しているはずだったのです。何故未だに存在しているのかは分かりかねますが、今は崩落の危機に瀕しているのです。その証拠となる出来事には心当たりがあります…が、詳細についてはお伝えしかねます。
モー・リアン皇太子妃: これまで結界は悲劇を待ち望んでいたのよ。真の災害を。将来、私たちが生きている内に体験するでしょう悲劇の20年前じゃなく、その到来の瞬間に私たちを見放そうとしているのよ。
ヌアザ上級王: もっともな理論だ。だがこれほど長期間にわたって結界の運用が続いていたことは、その理論に反している。私の治世において第七次オカルト大戦をはじめ、この地に災難が降りかかろうとしたことは幾度もあっていたが、結界がそれを防いだのだ。お前たちは誰もそれを知らないだろう。お前たちが生まれたのはその後だったのだから。
ミディール卿: 過去に結界が機能していたのだとしても、それが今後も機能し続けるとは限りません。私はこの問題に関するあなたの主任顧問として、私たちが致命的な危機に瀕しているということを申し上げたいのです。
ヌアザ上級王: 先代の宮廷魔術師の霊に話を聞こう。それが最終決定だ。
モー・リアン皇太子妃: お父様!お父様はこの島を、私たちの命を危険に晒すおつもりですか!結界が崩壊してしまったら、私たちは死んでしまいます!
ヌアザ上級王: 落ち着きなさいモリガン。私たちは強大な種族だ。私たちには乗り越えられぬ試練も、勝てぬ争いもありはしない。たとえハイ・ブラジルに苦難が訪れようと、私たちは力をもってそれに立ち向かい、征服する。何も恐れることはないのだよ。
会議は以上だ。解散。
[ログを終了]
ヌアザ上級王は会議で仰られた通り、かつての宮廷魔術師らの霊とお話をなさった。彼らは皆ミディール卿の判断に同意することはなかった — だが、彼らが結界の現状を知ってさえいれば意見は変わっていただろう。彼らは宮廷の霊廟に幽閉されていたために、結界の現状を知り得なかったのだ。
島を救うには、また別の方法を探さなければならない。
1988年 4月1日
1日の午前9時、私たちは都市中央部に位置するICSUTのキャンパスに向かった。
そこにはミディールが通ったICSUTの教授ら — ケタリー、ベラクアという名の高名な奇跡論学者ら — がおり、私がこの島での最初の面会に備えて調べていた数々の論文の著者であった。科学的な魔術について軽く読んでおいても損はないだろうと思ったのだ(私はエルフらと面会していたのだ)。そしてまさに今、私たちはその当人に相談を持ちかけている。もしかすると、私たちが今不如意な懐疑主義に陥っているのと同じように、私たちの進む道は初めから運命付けられていたのかもしれない。
この時点でバインダーは3冊から7冊 — 各結界につき1冊に増えていた。
ビデオログ
ケネディ・コリンズ博士
モー・リアン皇太子妃
デルバエス王子
ミディール・マク・ルー卿(宮廷魔術師)
アンドレア・ケタリー教授
ライリー・ベラクア名誉教授
[ログを開始]
[特筆性がないため1時間33分にわたる会話を省略]
全出席者6人の内4人がアッシュ材の巨大な会議机の周りに座っている。コリンズ博士は教授らの右、王子と皇太子妃の向かいに立ち彼らの研究を見つめている。左端ではミディール卿が胡座をかいている。
現在7冊あるバインダーの中身が、机上の四方八方に散らばっている。
ケタリー教授: [彼女はバインダーの内容に注意深く目を通す。]妖精族を起源とする運命操作の技術は非常に高度なものです。その構造の難解さを理解するためには、実際に結界の実物を見る他はありません。ものの、この結界の崩落予測?はどうしても現実に起こり得るとは思えませんが…
ケタリー教授はようやく顔を上げた。
ケタリー教授: 面白いですね。この奇跡論的結界の設計仕様書を見ていて、ふと思い出したんです。1950年代、私たち奇跡論学者らはPHYSICS部門の方々と契約して仕事をさせていただいていました。.PHYSICS部門: Global Occult Coalition内部に設置される部局の1つ。私たちは一連の奇跡論的確率操作の内の、膨大なオーバーヘッドの削減を受け持ちました。仕事にはかなり長い期間を要しましたが、私たちの仕事が世界の役に立つとは思っていませんでした。
最終的に、その技術は誰かに高額で落札されました。恐らく、アメリカ政府の秘密組織でしょうか。いずれにせよそれは対ソ連の封じ込め政策の一環として東欧圏に配備されていたものと同じもので、最先端の魔法技術でした。
ですが、奇妙な点は。[彼女は散らかった机上を指し示す。]これが何世紀もの歴史を持つ今の結界に替わるものになりうるのですか? 島全体を守っている7個の結界に?話になりませんよ。
ミディール卿: 当然、仮に我々がトゥナハ族の結界の代わりを考えついたとしても、後進の機能は現状の100分の1にも満たないでしょう。[彼はコリンズ博士にウインクする。]
ベラクア教授: もっとも、尊大な傲慢さの表れにはなるでしょうがね。
ケタリー教授: いやはや?ミディールさん、あなたの研究の成果を見ることができて、私は報われた気分です。相変わらず尖っていますね。
デルバエス王子: 失礼。なぜ私たちがその情報を公にすることが重要だと思っているのかお分かりいただけましたか?
ケタリー教授: [彼女は無心にバインダーの内容を読み続けている。]まあ、結論は明白です。いずれ結界は崩落する — 問題は、その有無ではなく、それがいつ起こるか — です。そして結界が崩落すれば、確率的な反動によってハイ・ブラジルは未曾有の事態となるでしょう。
デルバエス王子: …それで?
ケタリー教授: あなた方の研究は確かに —
ベラクア教授: [彼が話に割り入った。] このデータからはまた別の結論も導き出せる。
ケタリー教授: [彼女は偏狭的かつ思索に耽るような視線をベラクア教授に向けた。]私も何か妙だとは思っていました。詳しく説明して下さい。
このあたりで、未だ危機は去っていないという直感が湧いてきた。
結界が崩落するであろうことは既に分かっていた — 奇跡論学者らは正しかった。ミディールが当初予想していたように、現状の結界は非常時に頼れる状態になかったものの、その代替品の作成には宮廷の許可が必要だった。これは危機的な問題だった。
だが、他に何か問題があったのだろうか?ただでさえ困難な現状の軌道をさらに歪める何かが?
一体、どれほど事態は難解なものになるのだろうか。
ベラクア教授: 結界の崩落は、あなた方の言うように単に外部の不運によるものではありません。あなた方はその証明に苦労してきたようですが、間違いなく別の力が内部に蓄積されていることによるものです。
コリンズ博士: それは私たちの安全に関して重要な事項でしょうか?管理官に報告した方が良いでしょうか?
ベラクア教授: [彼は力強く首を横に振った。]それ自体は不幸を拡大させることはなく、脅威ではありません。ただ、それが懸念する事態を惹起する可能性があるのです。生命力についてはご存知ですか?
コリンズ博士: 専攻してはいません。ですが、関連文書を見つけ出すのにはさほど時間を取らないと思います。
ベラクア教授: 生命力は統一奇跡論の構成要素であり、魔術理論を実践的に応用するための原動力となります。ですが、生命力が発現する方法は他にもあります。例えば、全ての生物は生命活動を続ける活力 — 身体的衝動や人間で言う欲望 — を保持しています。生物はそれを”生命エネルギー”と呼ばれる微粒子として放出しているのです。
ケタリー教授は眼鏡を外し、保持具に下げた。そして目を擦る。
ケタリー教授: 要は、私たちはそれが計測可能であるということです。
コリンズ博士: なるほど。電気化学測定イメージング法ですね。恐らくは住民全員、島全体が7月のユール.翻訳注: ノルウェーでのクリスマスを指す。のように輝いているでしょうね。
モー・リアン皇太子妃: 天才ですわね、博士。
コリンズ博士は誤った膝折礼をした。2人は笑った。
ベラクア教授: 正しくはありますが、粗野な認識です。全生物が保持する生命力は価値的には大同小異ですが、より大量の生命エネルギーを放出する源が存在します。そして確かに、奇跡論的実体は全体的に生命エネルギーの排出量が多い傾向があります。
ミディール卿: [彼は笑った。]我々のことか。
ベラクア教授: しかし、源はそれだけではありません。特定の信仰形態が微粒子の、奇跡論的に重要な放出源となっているという説も長年唱えられてきました。
ケタリー教授: ここで仮説を立ててみましょう。あなた方は上級王の主権について考えたことはありますか?彼の家系は過去520年間王位を維持しており、その間トゥアハ・デはの王政の下に正当な政治を享受してきました。彼らは非常に膨大な人口を抱えながら、ただ全員が上級王らに忠誠を誓うだけでなく、君主制の理念に対してもほぼ生来の忠誠心を示しています。これは妙だと思いませんか?
ミディール卿: 重要な詳細が複数抜け落ちているように感じられるが。
深遠な沈黙が部屋を包む。
コリンズ博士が沈黙を破った。
コリンズ博士: ハイ・ブラジル王家が独自に生命エネルギーを蓄積しているのが崩落の原因だと仰っているんですね。
再び沈黙が続く。ベラクア教授は突如としてオフィスに向かい、会議は終了した。
ケタリー教授: 私たちは皆、探究心を刺激されました。必要なものは全て揃ったと思います。ミディールさん、そして王子・王女様、私はあなた方の発見に確信を抱いています。私は博士と共に皆さんの分析をまとめ、季刊誌に掲載できるよう努力します。良い会議でした!
デルバエス王子: それでは。今日はありがとう —
ミディール卿: ああ、そんなに急がなくても。ベラクアの説明で、また新たな探究の道が開かれたというのに。
モー・リアン皇太子妃: どうするの…?
ミディール卿: 無論、季刊誌の出版を待ちます。
モー・リアン皇太子妃: …それから?
ミディール卿: 我々の計画を一歩前進させましょう。
[ログを終了]
今になって考え直してみると、それは会議中半分は空中浮遊していた人間による風刺的な発言だった。
1988年 4月29日
統一奇跡論季刊誌にて論文を発表してから僅か数時間後、私たちは既にその反響を感じていた。
しかし、それは結界に関するものではなかった。
むしろ上級王が私たちを王宮に召喚したのだ。
サイトには使用人の一団が現れ、私を他の王族一行との即時的な会合に私を案内する準備を整えていた。私は、前回の会合のフォローアップに呼ばれたのだと思っていた。しかしミディールに追いついた時、彼は痛々しいほどまでに冷静だった。彼は、私たちが季刊誌に掲載した論文について上級王が知り、彼には大学側に発行差し止めを命じる権利がないために私たちとの面会を宣言したのだと教えてくれた。
それは結界に関する会議などではなく、公的な懲戒だった。
王族らは彼らの行為に対して罰を受けたのだ。
デルバエスは単なる従犯と見做され、3人の中では最も軽い刑罰を受けた。彼は単に — 今後数年間、非公式に — 王宮から追放されただけだった。王室は自分らの家族がこのような恥辱を受けることは耐え難いものだろうが、彼はしばらくの間、島を離れることになるだろう。
一方、ミディールは辞任を受け入れることとなった。彼はもう宮廷を統括することはない。この決定を受け、かつては彼の副官であったダグザがその後任となった。ミディールが諫言を受けている間、終始ダグザは部屋の後部を徘徊していた。彼の顔には自己満足の表情が深く刻まれており、それは彼の人間性の肖像だった。
モー・リアンは王宮での職務を剥奪された。処分が言い渡された瞬間私は彼女の顔を見たが、彼女がどのような感情を隠しているのかは分からなかった — 取り乱していたのか、安堵していたのか。どちらにせよ、彼女は決定に反抗することなく、速やかに従った。
「お前達の行動は、」と上級王は彼らに告げた。「非常に傲慢だ。我々の先祖が何世紀にもわたって隠蔽に苦心してきた機密事項を、お前達はお前達自身の勝手な憶測を正当化するために公にした。そして、その過程でお前達は我々の街全体を危険に晒したのだ。」
ウォルシュ管理官もその場にいた。彼は私と肩を並べて立っていたが、私たちは一言も言葉を交わさなかった。
上級王からの言葉が終わると、ウォルシュ管理官は私を私室の控えに連れて行った。そして私は、私が受け持っていた任務から正式に外されることを告げられた。その代わりとして、3ヶ月間の休職処分を受ける。その間私は家に帰ることも、この島に残ることもできる。
私は決心した。
私はこの島に残る。それが今の私の任務だ。
1988年 5月2日
ヌアザ上級王は今朝、全てを公表した。彼が公開した内容は以下の通りだ。
FÓGRA.翻訳注: アイルランド語における知らせ、掲示の意。 / 掲示
ハイ・ブラジルの公正なる民衆へ
禁止されている資料の違法開示に関する声明
Lá maith.ごきげんよう。
金曜日の正午、王室は国際統合奇跡論研究センターのハイ・ブラジルキャンパスにて機密資料が流出したことを確認した。流出した資料はハイ・ブラジル全土の運勢を司る大結界に関するものだ。だが公正なる民よ、噂に先駆けて言わせてもらおう。我々の勇敢なる都市にも、その都市が佇むこの島にも脅威はありえない。
この前例のなき情報漏洩は、かつて非常に高位にあった集団によるものである。彼らはトゥアハ・デ・ダナーンとその同盟者らの間に不和をもたらそうとしたのみならず、大結界の安全な運用の妨害をさえ企てていた。
はっきりさせておこう。彼らの悪事の程度は明かされ、その罪に見合った裁きが下された。今や彼らは全く脅威ではない。
巷の不穏な空気に図書館での密やかな声、街中ではあらゆる不安がひしめいていることだろう。だが安心して欲しい。大結界は我が国の治安を維持する上で非常に貴重な存在だった。大結界が保証する繁栄により、我が国はかつてないほど強大になっている。たとえ大結界の効能が弱まったとしても、ハイ・ブラジル国民の偉大さは揺るがない。
高大なる先祖は我々を見守っている。我々が試されるのであれば、どのような嵐も切り抜けてみせよう!
Nuada Airgetlám VII
どのような苦難にも耐え抜いてみせよう
なんということだろう。
王族らと私が次に会うのがいつになるかは分からず、またトゥアハ族の人々から報復を受ける可能性もない訳ではない。私は市内に宿を見つけ、しばらくは身を潜めるつもりだ。
ここに書いておく必要があることは他にはない。今のところは。
1988年 5月5日
私には未だに理解できていないことがある。
私はこれまで財団に勤務する中で多くの外交交渉に関わり、超自然的コミュニティ、様々な要注意団体、財団と親密な関わりを持つ国々の環境下で、多くの有力者に接してきた。そして彼らには一貫した共通点があった。
彼らは皆、確かに普遍的な存在だった。それを痛切に感じる。けれど私は彼らの足元にも及ばず、正面を切ることもできない。
残念ながら、それはハイ・ブラジルでさえも同様だった。
こうした考えに耽っていると、ホッブズと彼の著作であるリヴァイアサンを思い出す。これは啓蒙主義が現れる以前、イングランド内戦の終わりに記された論文だ。寓話的な意味では、人類がかつて不公正な原初の自然状態から脱出しようとしたことを前提の核にしている。
半ば無意識に、私はその前提について幾度となく解釈する。私は疑問を抱き始めた。
個人的には、人間の自然状態という旨の考え方は全くの屁理屈だと思っている。だがもし、そのようなものが存在するのであれば、私たちがその状態から脱するのを邪魔するものは一体何だろうか?その答えは — 万人の万人に対する闘争、様々な形の情熱によって引き起こされる対立だ。
この対立を解決しうる方法はただ1つしかないとホッブズは考えた。市民社会の頂点に立つ主権者の命令に全てを委ねることだ。これは文字通りの意味だ。社会が身体だとすれば、主権者はその頭だ。彼らは自分の権力を保持するために四肢を必要な方向へ向けることで、支配体制を維持することができた。
頭に、胴体に、付属肢の集合体。彼はそれを — リヴァイアサン、と名付けた。
だが、事はそれほど単純ではなかった。ある種の情熱は非常に破壊的で、君主をさえ困惑させるほどだった。それは市民社会全体を荒廃させる可能性を秘めていた。無論、支配者は自身への害を最小限にするため必要性に応じて社会を操縦することはできる。しかしそれでも完全に根絶することはできなかった。
その答えは。
虚栄心だ。
本来の実力を自覚することなく、自身が勇敢な存在であるという妄想に慢心するような — 衒った人間は、誇示に傾くことこそあれど実際に挑戦してみせることはない。なぜなら危機や困難に面した際、彼らは自身の能力不足が衆知となることを嫌うためである。
自分自身について知ろうとせず、他者の世辞や実力を伴わない成功事例に基づいて自身を過大評価するような — 驕傲な人間は軽率な行為に走りがちであり、同時に危機や困難に直面した際には踵を返す傾向がある。というのも、彼らは身の危険に直面する中で、換えが効かない命よりも、言い訳によって挽回が可能な名誉を危険に晒すであろうためである。(ホッブズ, 1651) .ホッブズ, T. (1651). チャプターXI: Of the Difference of Manners. リヴァイアサン (p. 124). Penguin Books, Inc.
ミディールはただ、真実を知りたがっていた。何世紀に亘ってハイ・ブラジルの結界を蝕んできたものの実態を追い求めていた。様々な意味で彼はこの壁に正面から立ち向かい、自身のなすべき事を決められる勇気を持った唯一の人物だ。そしてその勇気をもって、彼は調査に許された限りの不幸を遡上し、調べ上げた。トゥアハ族の魔術師にとって、この功績はひどく途方もない。
ハイ・ブラジルの人々は、今のところは危機に晒されてはいないのかもしれない。だが正確にはあとどれほど彼らは保護され続けることができるのだろうか?数ヶ月?あるいは来年までだろうか?
私たちが何も行動を起こすことなく、ただ成り行きを見守っているのは当然間違っていると理解している。なぜなら、もし私たちが結界を無視すれば — もし私たちが現状をより理解しているとすれば — 私たちだけが、将来に起こりうる結果を知っていることになるからだ。
Quod fors feret. “何が起ころうとも。”
ハイ・ブラジルの人々に対して、私は彼ら自身の保身以外は何も求めない。私はこれまで、今後どのような事態も起こりうると私自身を脅嚇してきた。そして、その恐怖と共に疑念が湧いてくる。無数の微細な疑念が私の頭の中をうごめき、私たちが出したデータには欠陥があるはずだと告げている。これは夢で、私たちが結界の調査に費やした数ヶ月はただの茶番劇だったのだと。きっとただの杞憂だ、と私は私に言い聞かせてきた。
けれど、もし私たちこそが正しいのだとすれば — もしそうならば、上級王は間違っていたのだろうか?
私は人のせいにしているわけではない。教訓にあるように、優れた支配者は常に国民の利益のために行動する。そして私は、ヌアザ上級王がそのような存在であると思っている。国際的にも、確かな指導者であると。
だがそれでも、ヌアザ上級王は彼らの先祖の視点で物事を考えている。陛下と話しているときにも、その思想は陛下を通じて現存に付きまとう。彼が彼らの支配下にある時、彼は結界の設立に必要だった、犠牲という観点からしか結界を認識できない。
「彼らのみで十分だ。これまでずっとそうだったのだ。」
ようやく理解できた気がする。
実際にはハイ・ブラジルの敵は不運ではなく、それはSCP-7010を脅かすこともなかったのだろう。
ハイ・ブラジル王国の本当の敵は虚栄心だ。一度冒されてしまえば、国家は腐敗し、リヴァイアサンは未知の海域をよろめきながら突き進むこととなる。
だがこれまでのことがあってもなお、私は彼らを助ける手段があると信じている。それにはある種の謙虚さ、ハイ・ブラジル国民の生徒たろうとする決意が必要だ。そして、生徒がいるところには教師がいなければならない。
私たちは、より学ばなければならない。私たち自身の責務を果たし、ハイ・ブラジルの人々に真実を明らかにしなければならない。そうすれば、正確な考えに基づいて、新たな、幸運な未来を築くことができるだろう。
ある意味では、私たちは既にこれを行なっている。
私たちは発見した情報を公表し、トゥアハ・デ・ダナーン族らに、国王を説得する材料を提供した。
私たちはより良い未来への種を蒔いた。
それが発芽し、実を結ぶことを祈る。
私たちがしたことは十分だったのだろうか。
あとどれほど猶予があるのだろうか。
1988年6月13日
その瞬間は唐突に、ある日の正午に訪れた。突如として風が吹き荒れ、世界が揺れた。
吹き付ける風は冷たく、凍えそうなほどだった。突然雲が黒くなり、太陽を遮るように膨らんでゆくのが見える。島の状況が一変しているのは明確だった。全く悪い方向に。誰もが足を止め水平線に目をやった。私たちは皆、それがどこから来ていたのかを知っていたのだ。
ハイ・ブラジルにて嵐が起こるはずはなかった。
水平線に浮かぶ暗い影が、次第に徐々に大きくなってゆく。そして一定の大きさに達した瞬間、頭の一部をもたげる — 暗闇の中に光る5つの目は、鱗に覆われた頭部を照らすのに十分な光度を持ち合わせていた。ある地点で泳ぐのを止めると、徐々に水面から姿を現す。それは5本の腕に5本の触手をもつ、ドラゴンとクラーケンを掛け合わせたような獣だった。
「海底からの悪客、フォモール族だ!」
ミディールは私の横で悪態をついた。彼は私たちが座っていた机から立ち上がり、憎悪に満ちた目で、獣 — クラーケン — を見送る。彼は私の方を振り向き、既に立ち上がっていたモーを見た。気がつくと、私も席を立っていた。
「宮殿へ戻りましょう。こいつらはいずれ—」
ミディールは言い終えることができなかった。獣が放った火魔術 — 恐ろしい蒼白の炎 — がプラズマ状の一撃として宮殿に放たれたのだ。さも獣が、彼の考えを知っていたかのように。宮殿の半分は即座に消失し、残存部は衝撃派と炎に覆われた。獣は向きを変えると、炎を街に広げ、触れたもの全てを消し去った。
2人のトゥアハ族は一斉に悲鳴をあげ、その声は私たちが座っていたカフェと周辺の道路を粉々にした。彼らは皆恐怖に震えながら、煙に包まれた廃墟と化した宮殿を見た。宮殿にいた人々は、もう誰も生きてはいないだろう。私は手で空いた口を押さえた。何も言葉が出てこなかった。
モーは意思のこもった目でミディールを見据えた。
「私は今から宮殿に、父上を助けに行きます。ミディール・マク・ルーよ、この街と人々を救いなさい。この島の女王として、あなたに命じます。」
彼女は隣の建物の屋根にたおやかに飛びのると、空中に飛び上がり、宮殿へと向かって行った。そして私は二度と彼女に会うことはなかった。
ミディールは私の方を見ると溜息をついた。
「ここを離れろ。サイトに向かえ。攻撃に耐えられる掩蔽壕や施設がある。そこなら安全だ。私はこの街を守り、義務を果たさねばならない。私以外の宮廷魔術師が死に絶えた今、街の防衛は私にかかっている。」
そう言うと、彼はクラーケンと戦うため走り去った。彼の周囲では既に呪文が空中でパチパチと音を立て、指先からは閃光が迸っていた。私は通りを走りながら、彼とクラーケンの様子を見ていた。彼はGOC軍が到着するまで空中に留まり、クラーケンと対峙し続けた。クラーケン相手に彼一人がどれほど持ち堪えられたのか分からず、彼はクラーケンに有効打を与えることすらできなかったと思う。それでも彼は空中に留まり続け、街を守っていた。
誰にも手を差し伸べることなく、地下深く、財団の隠蔽豪に逃げ隠れた私とは違って。
1988年 6月22日
デルバエスは騒ぎが収まるなりすぐに島に戻った。何が起こったのか、そして今彼がどんな立場に置かれているのか誰もがすぐに知るところだったが、彼は叔父と従兄弟の死が正式に確認されるまでは戴冠式を拒否した。
彼らの遺体は、襲撃から3日後に城跡から回収された。この島の魔術師の能力を全て使ったとしても、死者を生き返らせることはできない。その後デルバエスは我を折り、戴冠式の準備を始める時期であることを認めた。王宮に残された残党は、数少ない生存者の1人であるミディールの指揮の下、すぐにその準備に取り掛かった。
宮殿はくすぶる瓦礫の山と化し、島の大部分は — クラーケンによってか、クラーケンを殺すために用いられた核兵器によってか — 破壊されていたため、戴冠式に使える場所はほぼ無かった。デルバエスは南の獣による破壊から離れた、北の北岸にある劇場にて戴冠式を執り行うこととした。戴冠式が行われるだけでも、恐らく多少は新しい歴史が形作られ、人々は破壊を過去のものとすることができるかもしれない。
式は非常に美しいものだった。私はウォルシュ管理官の隣、最前列の席を与えられた。ミディールが儀式を主導し、四つの宝物 — ファルの石、ルーの槍、ヌアザの剣、ダグザの大釜 — を用いてデルバエスを聖別した。式典には哀愁の空気が広がっていた。人口の多くが失われてしまったため — 式典の規模が本来のものよりも小さかったことは明白だった。
それからの日々は目まぐるしいものだった。
街は煙を上げる廃墟と成り果てており、その再建は不可能だと多くのトゥアハ族は感じていた — そしてそれはミディールも同様だった。戴冠式の3日後、彼は大規模な呪文を唱え、何千人もの生存者を霧の中、ハイ・ブラジルが滅んでいない別の世界へと連れて行った。その呪文の一環として、また彼が急いで呪文を唱えていたがために、彼の申し出を受け入れた者は、二度と私たちの世界に戻れない呪いをその身に受けることとなった。
財団はすぐにSite-03から撤退を始め、島を後にした。どうやら、この島はもはや彼らにとって重要な作戦センターではなかったようだ。私は、島に留まりサイトの維持を望む数少ない者の1人としてサイトの官僚機関の中で次第に昇進した。
せめてもの救いは、デルバエス上級王II世が初めの職務として幸運の結界の運用を正式に禁じたことだ。彼が国王として君臨し続ける限り、ハイ・ブラジルは運命の動きを嘲笑したり、自ら破滅を呼び寄せることはない。
ヌアザが彼と同じくしていなかったことが悔やましい。
[ファイルの終了]
O5-1は会議室の中に1人で座っている。コリンズ サイト管理官が入室した時、彼はSCP-7010の報告書を読んでいた。彼女は彼の向かいに腰を下ろす。
コリンズ管理官: 問題点はないでしょうか?
O5-1: ああ。そうだな。君はこのファイルに君自身の日記を添付しているようだが、それは財団内の基準に準じていない。サイト管理官としての職権の濫用に見受けられるが。
コリンズ管理官: それは補足資料であり、適切であると判断しました。報告書の形式に関するガイドラインには目を通しましたが、補足資料についてはこちら側に完全なる裁量権があります。
O5-1: そうだな。なるほど。
コリンズ管理官: あなたはこのファイルを読むためだけにSite-03を訪れた訳ではありませんよね?その文書は既にデジタル化されていて、何時でもアクセスが可能なのですから。
O5-1: ああ、君の言う通りだ。私は君とSCP-7010について話すために来た。君はいわば…それについて最も経験が豊富な人間だ。君がこの文書に君の日記を添付していたことには感謝しなければならない。いずれにせよ、私は近くにこれを要求していただろうからな。
コリンズ管理官: SCP-7010についてはどうお考えですか?
O5-1: 財団は、最も危険な場所や施設の保護手段として部分的に復活させることを検討している。ただし、使用目的には制限をかける。
コリンズ管理官は身を固くする。
O5-1: 君は納得しないだろうな。
コリンズ管理官: 結界。防壁。これらは単純にメンテナンス不足による老朽化で機能しなくなった訳ではありません。それは理由の一部に過ぎません。結界は根本的に悪い発想だったのです。崩落したのは、そうなるよう 運命づけられていたから なのです。
O5-1: 君らの調査結果の裏付けは十分でない。ケタリーとベラクア — 先ほど君に伝えた通り未だ生存しており、今は教職を退き財団職員となっている訳だが — 彼女らは君らの意見に同意していない。それは君とミディール、そして新国王が共有しているであろう空論に過ぎず、証明もされていない。
コリンズ管理官: 結界のせいで島が燃えたんです!あんなことがあったのに、どうしてこんな無駄な研究を続けるのですか!デルバエスは国の長とならなければならなくなって!ミディールもいなくなって!モーも死んでしまって!
O5-1: だが私たちは調査員に調査を依頼した結果、何も問題点は見つからなかった。いわゆる崩落の原因は存在せず、新しい結界のプロトタイプも全て問題なく作動している。
コリンズ管理官: あなたが財団にもたらした危険は計り知れませんよ。
O5-1: 私たちは自分が何をしているのか確かに知っているさ。この島の白痴なレプリコーンら .翻訳注: アイルランドの伝承に登場する妖精全般を指す。が知るより遥かにな。
コリンズ管理官: あのエルフたちは、何世代も前から彼ら自身が何をしているのか知っていた!彼らには彼ら自身の義務を果たすための生涯があって、呪文の唱え方も知っている!
O5-1: 君を守った幸運の結界を見つけることはできなかったようだがな。
コリンズ管理官は机上に拳を握りしめたままO5-1を凝視する。
コリンズ管理官: 私はもう失礼します。どうぞごゆっくり。どうぞ、お一人でご勝手になさって下さい。ご存知の通り、あなたはこのサイトをご自由にご利用いただけますので。
O5-1: 時間をとってくれてありがとう、ケネディ。
コリンズ管理官は会議室から退出する。O5-1は彼女の背を見送り、ポケットから携帯電話を取り出す。彼は携帯電話を起動し、短縮ダイヤルの番号を押した。
電話越しにO5-10が応答した。
O5-10 (COM): それで?
O5-1: 彼女は同意しなかった。
O5-10 (COM): それは既に予想できていたことだ。けれど計画は進める、それで良いか?
O5-1: ああ。そうしよう。SCP-7010による利益の広大さは無視できない。それに、私たちは今自分が何をしているのか理解しているのでな。
O5-10 (COM): ハイ・ブラジルの繰り返しになることはないだろう。私は長年を研究に費やし、改善も行ってきた。我々はトゥアハ族には全く成し得なかった、完全なる運の制御を可能にするのだ。
O5-1: 私たちがこれまでそうしていたようにな。Control制御は私たちの得意分野だ、そうだろう?
O5-10 (COM): そうだな。我々の理念の内の”Contain”に変更を加えておく必要がありそうだ。
O5-1: ハハハ。
O5-10 (COM): ハハハ。
O5-1: 結界は私が戻る頃には動かせそうか?
O5-10 (COM): 既に動かしている。君がよいと言った瞬間に展開した。ケネディがそこにいないのは残念だったな。
O5-1: 彼女もいずれ気が変わるだろう。それまでの辛抱だ。
O5-1は電話を切り、携帯をポケットにしまった。彼はしばらくSCP-7010の報告書を確認した後、席を立ち会議室を後にした。