SCP-702-JP
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SCP-702-JP

収容中のSCP-702-JP(2020/05/12に撮影)

アイテム番号: SCP-702-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-702-JPは現在サイト-8128の標準的大型異常生物収容室に収容されます。毎日3回、レアの牛ステーキ3000gが与えられ、SCP-702-JP本人からの申し出があった場合はその都度食事内容を変更することが認められます。大島氏の親族には遺族年金の名目で一定額が毎月支給されます。
SCP-702-JPを確認した民間人にはレベルB記憶処理が行われます。

説明: SCP-702-JPは現代日本語にてコミュニケーションが可能な一匹のアムールトラ(Panthera tigris altaica)です。SCP-702-JPは2020/04/29に天王寺動物園から脱走したアムールトラと同一個体であることが確認されています。SCP-702-JPは一般的なトラと比べて比較的温厚であり、生肉よりも調理済みの肉を好むなど人間に近い嗜好を有しています。SCP-702-JPは自身のことを大島 和人おおしま かずと氏であると主張し、これに関して収容後に行われた個人情報を用いたポリグラフ使用下での真偽確認試験では真であると認められています。

大島氏は2020/04/10に当時勤務していた██社の指示により大阪市の支社に出向した後、西宮市の甲子園球場付近で最後に確認されて以降行方不明になっています。1SCP-702-JPは極めて内向的であり、他人と会話をすることをあまり望みませんが、周囲に人が存在しないときにラップのリリックらしきものを呟く様子が確認されています。SCP-702-JPは収容時に行われた精神分析にて中度の鬱的症状が認められましたが、財団側によるSCP-702-JPへのカウンセリングの申し出は拒絶されています。

補遺1: SCP-702-JPの発生原因を探る目的でのSCP-702-JP当人へのインタビューは黙秘により拒否され続けていました。SCP-702-JP発生に対してのさらなる主観的情報を得るために、大島氏の大学時代の友人である袁 嶺史えん れいじ氏によるSCP-702-JPとの面会が行われました。
以下は2020/05/29に行われた面会の記録です。

<録音開始>

袁氏: (若干怯えている様子が確認できる)お……おい、なんだよ、トラが居るんだが。聞いてないぞ、餌にされるなんて。お、おい。

SCP-702-JP: (驚いたような顔をする)嘘だろ。袁さんか?

袁氏: まさか、その声は、和人か?そうなのか?って、おいまさかこの虎がそうとは言わねぇよな?お前ら、コイツをトラに変えやがったのか!?

SCP-702-JP: ……袁さん、落ち着いてくれ。そうだ。俺だ。大島だよ。なんでこうなったかは知らないが、どうやらトラになっちまったらしいんだ。

袁氏: じゃ、じゃあここの人たちはお前を治してくれるのか?多分なんかの病気なんだろ?

SCP-702-JP: ……いや、たぶん俺はもうずっとこのままだ。病気か、病気なんだろうな。心の病だよ。心がトラになっちまったんだ。こんなになってからもう一か月も経つんだ……。

袁氏: ……。

SCP-702-JP: 本当はこんな姿すら見せたくは無かったんだけどな。いい機会だ。聞いてくれよ。急に辞令が下って、大阪の支店に異動が決まってたんだ。左遷だよ。就職が遅かったから出世できないのは覚悟してた、でもやっぱりどうしようもなく落ち込んでな。借りたアパートの外から歓声が聞こえて、頭が割れそうなほど痛んだんだ。きっと殺意だったんだと思う。あの時、世界のすべてを憎んでた。

袁氏: そうか。

SCP-702-JP: ずっと昔からそうだった。うぬぼれてたんだと思う。いい大学に入れば人生バラ色だと信じてた。あのころはラップで自分が世界を変えられると信じてた。友達は少なかったけど充実してた。袁さん、アンタと一緒にリリック考えられてた頃が懐かしいよ。

袁氏: ……。

SCP-702-JP: 俺は自分が日本一のラッパーだと思ってた。才能が、天賦の才が備わってると思ってた。だから練習も熱心じゃなかった。他の人との交流もしようとしなかった。「交流なんかしなくても」って、孤高の自分に誇りを持っていたんだろう。そんなのは誇りじゃなくて、ただの虚栄心と羞恥心の塊なんだって気づいたときにはもう遅かった。それが俺にとってのトラだったんだな、きっと。

袁氏: そんな……。

SCP-702-JP: 焦りだしたのは親に泣かれてからだった。このままじゃダメだとようやく気付いた。でも俺ももう30代だ。雇ってくれるところは少なくて、あっても安月給のブラックな職場だった。袁さん含めた大学の同期は皆社会に出て輝いてるように見えた。そしてそれと比例してますます俺の心は死んでった。俺よりもバカな上司とそれにゴマする年下の同僚に頭を下げながら、なんで俺だけって思う日々だった。袁さん、俺はアンタ達を見下しながら結局は心の底から羨ましかったんだ。だからこれは俺への罰、自業自得なんだ。

袁氏: 和人、お前、まだラップやってるか?

SCP-702-JP: ……もうやめたよ。ただただ苦しいだけだった。

袁氏: ……和人、俺とラップバトルしろ。今のお前の本心を俺にぶつけてこい。(篠崎研究員に振り向く)先生、なんか音楽流してくれ、歌詞ない奴。何でもいいから。

(要求が認められラップ用バックトラックが再生開始される)

袁氏: 俺が先攻だ。胸借りるつもりで来い。

SCP-702-JP: 何のつもりだ。

袁氏: 10年前に、分かれて以来、連絡すらも取れちゃいなかった。

袁氏: それでもお前の成功した未来、俺は信じて疑わなかった。

袁氏: プロを目指してラップ続けて偉大、お前こそ俺の目標だった。

袁氏: 「俺はなるぜNumber one」言いながらいつも食ってたハンバーガー。自信も実力もお前には敵わん。

袁氏: でもそれでも俺は思ってた、全然構わん。いつもそれ聞いて毎回安心。内心羨むが本心から感心。

袁氏: だけど今じゃ、後ろ向きな牙抜けたトラ。そのBig Mouthから出たのはただの腑抜けたホラ。

SCP-702-JP: (数瞬沈黙する)

SCP-702-JP: 袁さん、Shut up、アンタに何がわかる、怨嗟に満ちた俺の人生。そうさ夢見てたさ自分の大成。

SCP-702-JP: でも一度もなかった俺への歓声。世界に強制された生き方の修正。

SCP-702-JP: 生きるために俺はこの先どうする、どうしても俺らは貧すれば鈍する。

SCP-702-JP: ラップなんて棄てたさ、生きるためと、でも周りにしてみりゃやっぱ、ダメと

SCP-702-JP: ついて回った俺へのスティグマ、俺を苦しめるかつてのカルマ。

SCP-702-JP: こうなったのは袁さん、罰かもしれないが、俺はトラになってある意味救われたのかもな。

袁氏: スティグマ?カルマ?ざけんなよ、Re-超2。今のお前はトラっていうよりガチョウ。

袁氏: 夢棄てて、言い訳探して卑怯。そんなことで良いわけ?かくして妥協。

袁氏: そんなに喚いてみっともないよガーガー。そんなんで猛獣名乗れんのかよTiger。

袁氏: 百獣の王じゃないかもしれんが、ガオーって吠えることぐらいはできるだろうが。

袁氏: 牙も爪も使わずにそのStripeキメたリリック、使ってこいよ俺にStrike決めろAttack。

袁氏: お前のそんな腑抜けたライムじゃ、今の俺に勝てる可能性は皆無じゃん。

SCP-702-JP: そういうアンタこそ、未練たらたらじゃねーか。夢を捨てたことに関してはどっちもどっちじゃねーか?

SCP-702-JP: 何をいってるんだか分かんねーよこの馬鹿、本当に俺に強気で説教できる立場か?

SCP-702-JP: 確かに俺は失敗した、一人になって、陰に籠って、うずくまってた。

SCP-702-JP: やっぱり昔は踏んでたさ地団駄、でもそっから脱して解決したジレンマ。

SCP-702-JP: 才能なんて無かったんだ自分は、でも平凡なりにやってくつもりだったんだ。

SCP-702-JP: 袁さん、アンタが何したいのか知らないが、もう俺の事はほっといてくれないか。

袁氏: Re-超、お前自身は感じないかもしれないが、俺は感じてるお前からのファイヤー、

袁氏: クールを気取ってるお前が纏ってた何重ものレイヤー、

袁氏: 剥がして本心見せろっつってんだよ、気取ってるライヤー、それでも今でもお前は生粋のラッパー、

袁氏: 口とマイクに命かける世界一のprayer、名前に負けず再びなってみろよSuper。

袁氏: 姿形はトラになってもお前は俺のダチ、頭も要領も悪い俺だけど今の言葉はガチ。

袁氏: だからお前の持てる全身全霊で、最後にぶつけて来い、これ絶対的命令ね。

SCP-702-JP: ……俺は、もう二度とラップなんてやらない、そう決めて封印してたライム、

SCP-702-JP: でもこんな姿になっても気づいたら、体中で踏んでたリズム。

SCP-702-JP: やっぱり俺はラップが好きだった。必要だったのはガス抜きだった。昔は身も心もガキだった、

SCP-702-JP: お前とラップの腕磨きたかった。 likeじゃなくてloveだった。でも俳句みたいってブラフった。

SCP-702-JP: ずっとdoomに沈むのを無視、皆spoon投げた医師、袁さんしてくれ他山の石に。それがアンタに送る唯一の遺志。

SCP-702-JP: 俺が言えた事じゃないが袁さん、誰しもが登ってる13階段。心のトラに打ち克って、必死に夢追いかけて生きろよ。

(音楽を停止する)

袁氏: (笑いながら)腕は落ちてないな、和人。まあ最後はグダグダだったが。

SCP-702-JP: うるせぇ。

袁氏: まあ、観客もいないし今日の所は引き分けってことにしといてやる。延長戦はまた今度だな。

SCP-702-JP: 袁さんも負けず嫌いなところは昔のままだな。こうして二人でラップすると腹が減るのも昔と変わんねぇな……

袁氏: お、おう。やっぱ、肉食うのか?俺の事も美味しく見えたりするのか?

SCP-702-JP: (自嘲するように笑いながら)いや、まだ俺は人間だよ。そうだよな?

袁氏: (笑いながら)いやいや、どう見てもトラだろ、鏡見ろよ。でも、俺の親友で、ラッパーなことは変わらない。大事なのはそれだけだろ?

SCP-702-JP: ……そう、袁さんの言うとおりだ。トラになってそんな大事なことも忘れていたんだな俺は。恥ずかしいよ、まったく。

袁氏: 楽しかったな、ラップ。

SCP-702-JP: ……ああ、楽しかった。じゃあな。

袁氏: ああ。

<録音終了>

追記: 袁氏の退室直後にSCP-702-JPは13秒間に渡って吠え続けました。袁氏はクラスB記憶処理が行われた後に解放されました。

補遺2:SCP-702-JPの精神状況はこの面会の後に著しい改善を示したことが確認されています。次回のSCP-702-JPのカウンセリングは2020/06/10に予定されています。

補遺3: 袁氏がアマチュアのMCとして活動し始めたことが確認されました。記憶処理の再実施については保留されています。

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