SCP-7034
評価: +78+x

by J Dune

warning.png

アイテム番号: 7034
レベル3
収容クラス:
keter
副次クラス:
none
撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
danger

通達: SCP-7034の説明の情報源はリチャード・バッタリア上席研究員の証言のみです。当ファイルは財団がSCP-7034にアクセスできた時点で適宜更新されます。


6887434169_e2e09a2d38_b.jpg

州間高速道路 I-85

特別収容プロトコル: SCP-7034に通じているとされた出口ランプでは、財団による評価のため、一時的に民間人の通行を禁止しています。更なる措置は、SCP-7034の決定的な入口が発見されるか、入口が存在しないと断定されるまで保留とします。

財団は現在、SCP-7034へのアクセスポイントを特定するため、アメリカ合衆国州間高速道路網の評価を進めています。必要に応じて、この試みは世界規模に拡張される可能性があります。

合衆国州間高速道路網に関わる失踪事件の情報は隠蔽されます。

説明: SCP-7034は長さが不確定で、組成が検証されておらず、特徴が不明な異次元空間です。

SCP-7034の唯一の目撃証言によると、この空間は進入制限中の州間高速道路に類似します。1本の舗装された8車線道路が敷設されており、両側からガードレールで挟まれています。その他の特徴は、ガードレールの向こう側の景観も含め、領域内に立ち込める濃いスモッグに覆われて判別できません。携帯電話やインターネットの電波はSCP-7034内で遮断されているようです。

SCP-7034では様々な製造元・モデルの車両が全車線を占める大規模な交通渋滞が発生しています。渋滞の長さやその終点は不明です。これらの車両をナンバープレートで特定する試みは、程度に差はあるものの、成功を収めています。失踪者報告と一致するナンバーの車両も多数見受けられるものの、その幾つかはSCP-7034のアクセスポイントとされている場所から地理的に離れています。

SCP-7034に進入する手段は未だ不明確なままです。財団がSCP-7034を認知したのは2022年12月3日、州間高速道路I-85で通勤中だった上席研究員 リチャード・バッタリアが、トンネルを抜けた際にSCP-7034に入り込み、失踪した後でした。バッタリアは渋滞に直面した数時間後、自分が異常現象を経験しているのではないかと疑惑を抱き、財団との連絡を確立しました。

補遺.7034.1: 受信された通信

以下は、リチャード・バッタリアが非常用単方向通信機 — 従来の通信が不可能な状況に備えて、選択された一部職員に支給されている超常技術装置 — を介して財団に送信した録音の書き起こしです。

テスト中。


オーケイ、大丈夫そうだな。こちらは上席研究員のリチャード・バッタリア、エリア-179、収容部門所属。本部の誰がこの通信を受け取るか分からないが、非常用キットが幸いした。もう二度と俺がこいつを持ち歩いてるのを小馬鹿にされることも無いな? (笑う)

もしこれがごく普通の交通渋滞だったら、あー、無視してくれ。俺がそっちに戻った時に好きなだけキレ散らかしてくれて結構。

現在地は何処か分からない。クリスマス休暇でゲインズビルに帰省する途中なんだが、この道を通るのは久しぶりだ。あー、それでだ… 州境を過ぎて1時間後、俺がI-85のトンネルを抜けると、いつものように迂回路に誘導された。あの時は“クソ、勿論こうなるよな”なんて思ってたよ。

そこで渋滞に引っ掛かって… もう10時間は経ってると思う。霧のせいではっきりとは言えない。前進してはいるが、辛うじてだ。電話は通じない。もう2回もペットボトルに小便した。ガソリンは半分ぐらいあるから問題ないとは思うが-

(遠くからトラックの警笛が聞こえる。)

改めて言う、こちらは収容部門のリチャード・バッタリア博士。I-85の242番出口から退出した。また連絡する。


朝6時。まだ真夜中と同じぐらい暗い。霧も晴れてない。窓を- (咳込む) クソッ。窓を下げようとしたら、死ぬほどキツい臭いが入ってきた。排気ガスかどうか分からない。やれやれ。 (バッタリアは胸を叩きながら更に咳込む)

ちょっと寝たが、列が1インチ動いたか動かないかってんで、後ろのドアホがクラクションを鳴らしやがった。 (合間) 車がどんどん増えていくのがバックミラーで見える。

I-85の242番出口だ。誰か派遣してくれ。


10時。空は — 誇張じゃないぞ — 空はまだ真っ暗だ。最初は夜だからだと思ってたが- (バッタリアは苛立たしげに呻く)

本当は今頃、息子を抱き締めてるはずだった。飛びっきりの… パパがようやく職場から帰ってくる飛びっきりのサプライズを計画してたんだ。妻もきっと息子をワクワクさせてるはずだ。 (溜め息) 冗談がきついぜ。

…疲れたよ。この渋滞にいる奴らは皆そうに違いない。エナジードリンクと大学時代以来聞いてなかった昔のニューメタルCDで眠気覚ましをしてる。そうだよ、CDを引っ張り出したんだ。路肩に寄せようとしたが、そんなもんは無さそうだ。他の車線と同じくらい混み合った端車線で終わってる。


(警笛の音が聞こえる。バッタリアは、車の音響システムから流れるくぐもった音楽のリズムに合わせて、指先でハンドルを叩いている。)

近くの男が、あー、たった今追突された。きっと眠り込んじまったんだろう。なんてこった。今はそいつも前進してるが、ワオ。ワオ。

もう数時間は平気だと思う。もっと長く起きていた時だってあるし、カフェインも効いてきた。それ以外は… 相も変わらず代わり映えしない。息子は多分もう目を覚まして“サプライズって何なの?”とでも訊いてるだろうな。思うに、ブリーは少なくとも100回は俺に電話してるはずだ。

(掠れた声で) 脚が痛くて堪らないよ。


(咳込む) おい、ふざけんなよ。車から降りることもできやしない。排気ガス。煙。そこら中に立ち込めてる。一息吸っただけで涙が溢れてきて、肺が今にも破裂しそうな感覚に襲われる。しかもドアを開けたら — 隣の車にぶち当てないようにほんのちょっぴりだぞ — 後ろの連中が大暴れだ。クラクションを鳴らしまくり、手を振って俺に戻れ戻れと促す。

(バッタリアはハンドルを殴り、怒りの呻き声を上げる。)

こんなのフェアじゃないよな? いいか、俺は休暇で帰省する途中だぞ。この1年間… ひたすら書類と厄介事にまみれて過ごした挙句、家族と一緒に過ごすことさえ許されないってのか! (吃る) そ- それに、なぁ、水も食料も、一切何も無しでこんな風に身動き取れなくなって- お- 俺にどうしろってんだよ。現場に出たことなんか無い。俺は兵隊じゃないんだ。Uターンしたくたってそれさえできない、そんなスペースが無い。あ- 辺り一面に人がいて、そいつらも皆ここから出られなくて、それで- (過呼吸)

(バッタリアの息遣いが苦しげになる。彼の叫びが途切れる。)


悪かった… 昨日の夜にメッセージを送ったと思う。何を言ったかは忘れた。でも、もう2日経ってる。ピッタリ2日だ。俺は6時間おきに水を一口飲んで生き延びてるが、他の奴らが何を食ってるかは見当も付かない。1時間以上眠ろうとすると誰かが必ずクラクションを鳴らす。それしか気にしてないんだろうな。前進することだけ。

(溜め息) 何よりうんざりするのは、俺たち*全員が*外に出ればお互いに交流できるし… ひょっとしたら何かアイデアが浮かぶかもしれないのに、ってことだ。どうかな。俺は人と話したり、物事をまとめたりした経験が一度も無い。きっと今頃そっちじゃ… 何か動きがあったんじゃないかと想定してるんだろ?

隣の運転手と話せるかどうか試してみる。


(窓を下げる音が聞こえる。続く10分間、バッタリアが別な人物に話しかける声に被さって、風、警笛、エンジンの音が響いている。音声の大部分は重要性が低いか、聞き取れない。窓を上げる音が聞こえる。)

そっちには聞こえたかな。ここ数時間、窓越しに叫んでいた。数分おきに窓を上げたり下げたりして、スモッグを弱めてた。隣の運転手はマイケルっていう年輩の男だ。全く違う高速道路、I-70からここに来た。待ってろ、ナンバーをそっちに伝える。

ともかく、計画はこうだ。俺は右端の車線にいる。もし俺がマイケルと話せるなら、マイケルは左隣の運転手と話せるはずで、以下その繰り返し。最終的には、横1列丸ごとが降車しようって考えになるよな? そして、俺たちが全員停車すれば、後ろの奴らだって車を降りるはずだ。 (合間) 或いは降りずに、俺たちがドアを開けた瞬間、轢き殺しに来るかもしれない。最悪のシナリオが起きたら? 俺は銃を持ってる。

(深呼吸する) 成功させなきゃならないんだ。俺は腹ペコだし… 物凄く怖い。ブリーはきっとこの件で気も狂わんばかりになってるだろう。ああ、どうせあんたたちは、あいつに真相を伝えたりしないだろうからな? 上手くいってくれなきゃ困るんだよ。


さて… マイケルは左隣の運転手に話しかけた。そして、そいつはそのまた左の車に話しかけてる。やってのけられるかもしれないぞ。これが最後のメッセージなら、俺は内臓のはみ出した姿で路上に倒れているか、車内にクソほど長い間座り続けた結果の筋肉痛で死んでいるだろう。でも、きっとそうはならない。ここから抜け出してやる。


(笑う) いやぁ、想定よりも順調だった。俺は今、後部座席に寝転がってるよ。ようやくだ。今から、あー… まず何処から話すべきだろう。 (咳込む)

停車するや否や、銃をポケットに入れて飛び降りた。すぐさま後ろのバカがクラクションを鳴らしたが、マイケルが、そして隣の女が、そのまた隣の運転手がドアを開けるのを見て止めた。やがて俺たちの列の全員が道路に立った。煙で息が詰まりそうだった… しかも外はとんでもなく暑い。それでも誰も車に戻らなかった。

そして、後ろの列からも人が出てきた。俺たちと同じくらい怯えて、疲れて、身なりの汚れた、ごく普通の人たちだった。全く… 心底ほっとしたよ、本当にさ。モンスターが出てくるんじゃないかと半ば覚悟してたんだ。 (笑う)

10分以上は車外に出ていられなかった。もっと短い時間で引っ込んだ連中もいる。空気がよどみ過ぎてるんだ。でも計画は立てた。前に進みたい奴らはそうすればいい。運転し続ければいい。残りの奴らはバリケードみたいに道路沿いに車を並べて、真ん中の車線だけを通過できるようにした。エンジンを切って後部座席に横になれるのはマジで助かる。

それで… まぁそんなところだな。長期的な計画は無い。立てようがない。通りかかったトラクタートレーラーから物資を確保した。ぬるい水とソーダ。でも、それ以外のものはダメだな。冷蔵設備や電気が無いから、せいぜい数日しかもたない。外気も確かに問題だが、解決策を考えるのに苦労してる。狭苦しい車内で窒息するか、排気ガスに喉をやられるか。明日の問題だ。


(バッタリアの声は反響している。別な人物たちの話し声が背景に聞こえる。)

数日ぶりに眠った。いや、ぐっすり寝たって意味だ。18輪車が合流してきたんで、荷台の中で汗だくになりながら録音してる。どういう訳か、外よりも荷台の方が涼しい。

広い空間ができたおかげで、少なくとも多少は皆で話し合えるようになった。ここで何が起きているのか、コンセンサスは得られていない。煉獄だと言う奴らもいる。超自然現象とは納得できない奴らもいる。ある女は全部夢だと思っている。俺は… 頑張ろう、助けはきっと来るって皆に言い続けてるが、もう4日目だし、本当に来るんだろうか。

メッセージが届いてるのは確かなんだが、多分そっちじゃまだ入口が見つかってないんだろうな。それか、見つかったとしても、例のクソ渋滞の遥か後ろにいるから俺たちの居場所に辿り着けないのかもしれない。何とかしてグループを一まとめにしておくよ、ここに来れば俺の居場所はすぐ分かるはずだ。


(咳込む) レッカー車から滑車機構を作ってみた。ほら、ガードレールの向こうには霧ばっかりなんだ、でも… その先に何があるか分かったもんじゃない。畜生、胸が。試す価値はあるよな? 型通りの最終メッセージ、いつものやつだ。大丈夫。煙に慣れなきゃならない。実際、マスクが役に立ってる。筋金入りのコロナ恐怖症の女が箱単位で車に積んでた。少しはマシになったよ。

ここから出たら、1ヶ月はシャワーを浴びっぱなしで過ごすぞ。


(ガサガサという音)

よう。メッセージが遅れたな。今日は忙しかった。ガードレールの向こう側に降りてみたんだ。

ロープは300フィートぐらいあった — それでも底は見えなかった。霧と、下に行くほど酷くなる臭いだけだ。暑さも増す。3回… 4回は吐いた。

正直、フックを外してしまいたかった。霧の中に落っこちて行く末を見届けたかったが、実行に移せなかった。俺はまだここから出たいんだよ。お前たちを愛してる — 違う。ファック。 (声が弱まる) 家族を愛してる。もう一度家族と会うんだ。必ず会える。でも先に進まなきゃ、道路に戻らなきゃ、俺は死んじまうんだ。飢え死にだ。水はあるが… 俺たちは1ヶ所にぐずぐず留まって時間を無駄にしてる。先に進まなきゃいけない。何としてでも。

(バッタリアは長時間すすり泣いた後、気を取り直す。)

引き上げられて、俺が… 下には何も無いって言った時、皆も同じように悟った顔つきになるのが分かった。 (合間) そりゃ、まだ楽観的な奴らもいたさ。入ってくる車の数は、一番奥の車線を問題なく走れるぐらい少なくなってた。車のメーターによると、俺はギチギチに詰まった渋滞の中、2日間で190マイルにちょっと足りないぐらい走ってる。道路が空いていれば数時間で走れる距離だ。出口が、俺たちが迷い込んだ時の道が見つかるかもしれない。誰かさんのバイクを借りて、すぐ出発した。

何時間も走ったが… ここでは何も見分けられない。目印も標識も無い。ただただ永遠に道路が延びてる。何処まで行っても… ここだ。ヘルメットとマスクがあっても、スモッグは強烈すぎた。2回、停車して横にならなきゃいけなかった。死にそうだった。

グループに戻った時、何も言う必要はなかった。数人ぐらい車から降りてきた。ほとんどは窓越しに俺を見つめるだけだった。皆、同じように疲れた無力な表情をしていた。でもその時は、マスクで隠れていても、そこに希望の欠片さえ残ってないのが分かった。


皆は去り始めてる。俺は付いて行くべきかどうか迷ってる。18輪車で会議を開いて、それが最善だと決めたんだ。俺たちは好きなだけ協力できるが、前進するのに使えたはずの時間を無駄にしてる。とにかく1日の大半は車の中にいるんだ。昨日どれだけ煙を吸っちまったことか。

道は先に続いているし、終点には何かが待っているはずだ、例えそれが虚無だとしても。ここに立ち止まって餓死することもできる。ガードレールの縁を乗り越えて身投げすることもできる。

お前たちのために頑張るんだ、ショーン、ブリー。愛してる。きっとまた会おう。


(バッタリアは“マイケル”と推定される別な人物と会話している。彼は当初、装置の録音機能が作動しているのに気付いていないようである。)

バッタリア: 息子の誕生日はクリスマスの1週間後なんだよ。

マイケル: おや、それじゃあプレゼントをケチってしまうのかい?

(2人とも笑う。)

バッタリア: そんな事は絶対しないって、いつも妻に約束するんだ。俺の兄貴が12月生まれだったからね、気持ちはよく分かる。

マイケル: そうかぁ。 (合間) ところで、他の人たちはどうしているか気にならないか? 立ち止まらなかった人たちは、いったい何処で水を手に入れているんだろうね?

バッタリア: 休憩所があるのかもしれない。小さめのタコベルとか。

(マイケルが笑う。)

バッタリア: うーん、正直に言うと、もし俺たちと似たような事を食料調達のためにやらなかったとしたら、きっともうダメだろう。いずれ俺たちも目にすると思う。

マイケル: うん、そうだな。少なくとも渋滞は解消された。

バッタリア: ああ、今のところはな。あれは最悪だったよ。あそこに並んでた時は、次に眠るのはベッドの上、妻の隣だってひたすら自分に言い聞かせてた。

(マイケルが溜め息を吐く。)

バッタリア: おいおい、ガブガブ飲むなよ。もう後ろに1ケースしかないんだ。

(バッタリアは録音に気付き、オフにする。)


やぁ… ようやくまた走り始めたよ。グループのうち4人で出立した。マイケルと、俺と、大学生の2人姉妹。全員一緒の旅だ。同じ車じゃないが… 近くにいる。何かあった場合の備えだ。例えばこのポンコツ車がくたばった時とか。

道は空いてる。渋滞は無い。まだとんでもなく暗いが、着実に前進してる。今日は… 400マイル以上走った。沢山の車が路肩に停まってる。俺たちと同じような事をやったのか — それとも死んだのか。もし水を調達できなかったとしたら、きっと…

この先どんなものが出てくるか分からない。…死体とか、死に様とかに対する準備はまるで整ってない。俺は財団に勤めてきた20年間で、人が死ぬのを見たことは1回も無いんだ。記録破りかもな。でも俺たちにできるのは前進することだけ。終点は必ずある。俺は… できる限り長く持ち堪えてやるぜ。


状況はますます悪くなってる。車線の中心に停まってる車を見た。運転手はハンドルにもたれかかってて、クラクションが鳴りっぱなしだった。あの男が帰宅することはもう二度とない。家族や友達は — 何処に行ってしまったのかと首をひねっているだろうな。あいつが家族や友達に最後にかけた言葉は何だったんだろう。 (声が弱まる)

お前たちが恋しいよ。愛してる。


ガス欠になりそうだ。マイケルか女の子たちの車に移らなきゃいけなくなる。それとも… どうしよう。夜になると、路肩に車が何台も駐車してるから… いや、俺は — 俺はそんな事はしないぞ。


信じようと信じまいと、今日は食べ物を確保できた。スーパーマーケットの配送トラックの目印がついてたトラクタートレーラーのタイヤを、誰かが破裂させたらしい。道の真ん中で横倒しになってた。食べ物は半分持ち去られてたし、ほとんどが腐ってたが… 収獲には違いない。運転手は敢えて探さなかった。


俺はこんな事に対処できる状態じゃないってのによ。ファック、ファック、ファック。女の子たち — 姉妹の1人、ユリアナ。俺たちが寝てる間に自殺した。俺が車を見張ってたら、いきなり車から… 外に飛び出してガードレールを飛び越えた。俺はそれをぼんやり見てやがった。動こうとした時にはもう縁を越えてたんだ。あの子の妹は打ちのめされてる。マイケルが傍についてる。でもユリアナはもう死んじまった。ああ… 畜生。でも誰も気にしない。どうせ誰も全く気にしない。

(録音が続く間、バッタリアは泣き続ける。)


愛してる。おやすみ。


燃料切れになった。今、マイケルと同乗してる。ヴァレンティナは俺たちの後ろだ、彼女の車はまだ走ってる。可哀想に。そうだ、マイケルには俺が何してるか話したぞ。ど — どうだっていいよな? 俺たちが出られたら記憶処理すりゃいい。今さら気にしてられるか。


地形が荒れてきた。事故った車がますます増えて、時々死体もある。死体… あぁ… (声が尻すぼみになる)

タイヤがパンクして車線の真ん中で立ち往生している男を見た。数日前のグループに加わってた1人だと思う。俺たちを合図で呼び止めようとしたけど、かなり体重のある奴だった。俺たちはもう既に燃料で苦労してるんだ。助けられなかったわけじゃない。マイケルは後ろにスペアタイヤを積んでる。機会があれば目につかない場所に移動させないと — この前の夜、スペア目的で襲われた奴を見た。俺たちには俺たちの問題がある、例えばこのオンボロエンジン。ガタガタ音を立てっぱなしだし、俺の膝は熱で丸焼きだ。


あいつ撃ちやがった — 何処ぞのクソ野郎が車の後ろに隠れて発砲した。ライフルみたいに聞こえたが、分からない。奴の車のタイヤを1本撃ち抜いてやったよ。それからは手を出してこなかった。反撃できる相手より簡単に降参させられる標的は幾らもいる。スペアを持ってるか、誰かから奪わない限り、あいつはもうお終いだろうが、それがここの法則だ。自分がクズになった気がする。やった事に後悔の念すら湧かないんだよ。だからこそ、な。ちょっと待て、集中しないと。スモッグが濃くなってる。ああ、マイケルは寝てるよ。駐車して寝る代わりに、今は交代制で運転してる。時間を無駄にはできない。


愛してるよ。お前たちが恋しい。


(叫ぶ) クソッ! ガス欠だ。ヴァレンティナが何処にいるか分からない。き- きっと見失っちまったんだ。数時間前まで後ろを走ってたのに… 煙のせいでよく見えない。食べ物も残らずダメになってる。これからどうすりゃいいんだ。車は探そうと思えばすぐ見つかるが… 畜生。俺はこんな事したくないのによぉ。


燃料を手に入れた。どうでもいい。あいつらだって俺たちに同じ事をやっただろう。俺は誰も傷付けなかった。これからも誰も傷付けない。たまたま俺が銃を持ってただけだ。また例の渋滞に出くわさない限り、あと数百マイル走れる。マイケルは俺を追い出したがっていると思う。俺が銃を持ってる時に何かしでかそうとしたら只じゃ置かねぇぞ。もうマイケルの傍じゃ目を閉じることもできない。俺はあいつをもう信用できない。これは合理的な考えだ、そうだろ?


もう1週間… いや、2週間以上になる。つまり… クリスマスは過ぎちまった。ごめんな。ダメなパパだ。埋め合わせはきっとするよ、約束する。ここから出られたら辞めてやる。カネは十分稼いだ。ちょっと早めに退職して、残りの人生はお前と一緒に過ごす。そう、約束だよ。もう — もう二度とお前をがっかりさせない。お願いです、神様、どうか、俺をここから出してください。お願- 神様、出してください。


動かなくなった。何とかする。


マイケルの車を降りざるを得なかった。用心 — 身の安全のためにな。俺自身のため。別な車はすぐ傍にあった。窓がブチ割れて、死体が放り出されてたよ。5人家族のSUV、全員死んでた。ガソリンは半分残ってる。本当に酷い。路上には死体が転がってる。死体 — タイヤ痕に覆われて、タールまみれで、血塗れの死体がそこら中にある。いいや、あれは俺じゃない。俺はあんな風にはならない。何台かの車は色んなものに覆われてる。生首… ピックアップトラックのグリルにくっついた生首を見た、ただそこに引っ掛かってたんだ。

メチャクチャ喉が渇く。水 — 周りは水だらけだが、俺は — 俺はそんな事はしない。


真っ直ぐ運転するのが難しくなってきた。路上のゴミが多すぎる。誰かを轢いたような気がするが、分からない。分からない。その事は考えない。もう渋滞は無い。そんな余裕が無い。燃え盛る残骸と死体だけ。時々、人とすれ違う。思うに… と- 時々奴らは死体を食ってる。

奴らはあそこでくたばっちまえばいい、でも俺は御免だね。俺はここから脱出する。お前たちを心から愛してる。お前たちを愛してるからこそ、誰よりも遠くまで走れる。きっと埋め合わせをする。


行く手に巨大な… 廃棄物の山がある。自動車。残骸。死体。沢山の死体。何十体もある。それが燃えてる。何が起きたのか分からないが、頂上すら見えやしない。ファック。よじ登るしかなさそうだ。車を降りて先を確かめる。ファック。


(咳込む) ファック。ファック!

酷い目に遭った。頂上に登って (咳込む) クソッ! 残骸の上で気絶してた。うんざりするほど切り傷を作ったよ、傷口に脂の感触があるぐらいだ。 (息を吸う) …乗り越えたぞ。 (咳込む) 前方に車は無い。何も無い。山を越えられなかったんだな。スモッグを通して炎が燃えてるのが見える。別な車を手に入れなきゃいけなかった、それで… また車の中にいる。毎秒、家に帰ることだけ考えてる。生きて脱出することを。今頃には死んでてもおかしくなかったが、俺はまだ死んでない。それが重要だ。今にも気絶しそうだ。


左側に車が見えた。何処から来たのか分からない。おぉ、神様。あの時… 左を走ってた車が停まった。運転手が出てきた。思うに、あいつは… 弱すぎたんだろう。いきなり、1台のトラクタートレーラーが何処からともなく突進してきた。クラクションも何も無い。真っ直ぐ運転手を轢いた。はらわたがタイヤに飛び散った。殺しやがったんだ。もし俺にそんな事をしようもんなら、お- 俺だってそいつをぶっ殺す。


たった今、俺を道から押し出そうとした野郎がいた。そんな真似はさせなかった。誰だったかはどうでもいい。ここにいるのは俺だけのように感じる。俺と死体だけ。


何やら… (笑う)

坂道がある。遠くに。上に、上に向かってる。きっとそうだ。雲の中に入っていく。 (笑う) おいおいマジかよ、大快挙だ! 俺はやってのけた! 俺は… 凄いぞ。


(バッタリアの車のエンジンが轟音を立てているのが聞こえる。)

全速力だ。もう1時間もこの丘を駆け上がってる。見てろよ畜生ども。俺はもうすぐ家に帰るぞ。

報われるって分かってた。感謝します神様、俺はきっと報われると分かってました。


(笑う)

今や俺は雲の中だ、ひたすら高みに上昇していく。スモッグが晴れてきた。黒が減って灰色が増えた。これだよ! まさにこれだ!


道路は夕暮れ時、空も晴れてる。もうすぐ — ちょっと待てよ、別な車があるぞ。

ふざけてんのか?

(エンジンとクラクションの音が、以前よりも大きく聞こえてくる。)

車線が細くなってる… うん、今じゃ1車線まで狭まってるぞ。でも目の前に何台も車が並んでる。今ははっきり見える。ファック、ファック、嘘だ。また繰り返しかよ。あいつら一体どうやってこんな遠くまで辿り着いた? くたばれ。くたばれ、くたばれ、くたばれ! 道が… 道がとても狭い。すぐそこにガードレールがあるからドアを開けることさえできない。これで終わり? これが。まさにこれが。

(バッタリアは過呼吸を起こし始める。)

嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

(バッタリアは20分以上すすり泣き、叫び続ける。叩打音が聞こえる。バッタリアは絶叫し、車の窓を割れるまで繰り返し殴る。簡潔にまとめるため、書き起こしを省略。)


この後、過去最長となる18時間もの間、通信は途絶えました。

(機械的で耳障りな研削音の合間に、周期的な叩打音が聞こえる。)

ハロー? 伝えたい事がある。オーケイ、良いぞ。まだ大丈夫だな。

こちらは… 上席研究員、リチャード・バッタリア。エリア-179、収容部門。これが- これが最後のメッセージになると思う。

スモッグが数時間前に晴れて… 目の前の光景が見えるようになった。道路の終端には… トンネルがある。巨大なトンネルが、雲の中にぽっかりと空いてるんだ。人工物のように見えるが… そんなはずがないよな。中は真っ暗で、詳細は全く分からない… 中からは煙が噴き出してる。そして車線が — たった1本の車線が — ファック! (再び叩打音が聞こえる)

俺たちはあそこに注ぎ込まれてる。俺の車は故障した。そっちにも例の物音が聞こえてるだろ — 後ろの誰かさんに俺の車が押される音だよ。…トンネルの中に待ち受けてるのが何にせよ、そっちへゆっくり近付いてる。俺はもう精根尽き果てた。窓をぶん殴りまくって、手の骨が折れたようだ。もう… 諦めた。あのトンネルが俺の出口となるか、さもなきゃ一巻の終わりだ。完全に希望を捨てちゃいないけどさ、あれは — 畜生、最低だ。これで全てがお終い? 散々努力した結果がこんなものか?

財団従業員権利方針 32.F項。現場での死亡が確実視される場合、財団職員は死亡状況の詳細を親族に伝えることを要請できるものとする。こんな事をブリーに伝えたくはない。でもまだ時間は十分に- (バッタリアの車が前方に押しやられる)

ファック。

ショーン、パパが傍に居てやれなくてすまない。言い訳はしない。お前がこの世に生まれた時に辞めるべきだった。お- 俺はお前が卒業する姿を見られない… 小学校に入る姿も、お前が — (バッタリアは言葉を詰まらせる) お前が初めて妹に会う時の顔も。お前たち2人の成長を見届けることはできない。俺が悪いんだ。愛してる。お前は — 俺を憎んでくれていい。その気持ちは分かる。

ブリー… 知ってたよ。ずっと分かってた。ただ、俺が死んだ後に連れてくる奴が誰であろうと、そいつがお前を愛してくれることを、子供たちを大切に育ててくれることを約束してくれ。勿論お前も承知してるだろうけどさ。おい… お前を愛してる。愛してやまない。

もし向こう側に抜けられたら、こんな場所は燃やしてやりたい。

(また叩打音が聞こえる。エンジンとクラクションの反響音が大きくなり、音声をかき消す。)

今から突入する。



バッタリアの最後のメッセージから1週間後の2022/12/17まで、更なる通信は受信されませんでした。最終通信は合計20回届きましたが、いずれもフィードバックノイズ、激しい歪み、クラクションの音、悲鳴から成るものだったため、書き起こすことはできませんでした。

合計83,000件の不可解な失踪事件が、アメリカ合衆国州間高速道路網と関連付けられています。


特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。