クレジット
By Marceline D. Raynes
翻訳責任者: Yukth
翻訳年: 2025
著作権者: Marceline_Raynes
原題: B is for Blood-Borne
作成年: 2022
初訳時参照リビジョン: 24
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7091
特別収容プロトコル
その予測できない性質のため、プロメテウス・ミッションの終了を以てSCP-7091を探査することは禁止されています。財団職員の安全性確保を勘案して生物災害性の異常物質に対する標準予防策1は改正されましたが、SCP-7091-1が分子的改変により絶え間なく進化していることは有機生命体および非生命体にとっての脅威であり続けています。プロメテウス・ミッション最中に収集された人工物と資材の全てはサイト-82の地下に設けられた気密性極低温保管室に保管され、当該の保管庫へのアクセスは遠隔での調査・実験がプログラム化された自動機械にのみ許可されます。
自動機械は調査の終了に際して保管庫に隣接して設けられた焼却炉へ移動し、炉内から焼却機を起動します。財団職員はクラスII感染防護服を着用、また安全距離を維持した状態を維持し、焼却で発生した灰にSCP-7091-1の粒子が存在するかを調査する必要があります。当該の粒子が存在しない場合は灰を地中へ廃棄してください。何らかの形でSCP-7091-1が残存しうる場合、焼却炉を再起動して粒子が消滅するまで焼却し続けなければなりません。SCP-7091-1を内包している職員は遠隔で終了され、本オブジェクトに割り当てられた自動機械と同一の焼却処理が行われます。
SCP-7091の存在を示唆する在野の天文学的報告の信頼性を貶め、報告を行った天体愛好家にタイプB記憶処理薬を投与しなければなりません。SCP-7091の観測を妨害するシールドを地球の全方位に向かって構築するための研究が進行中です。
説明
スペース・フォース・3を使用して撮影されたクリステリアBの座標画像
SCP-7091はアンドロメダ銀河の [座標削除] に位置するダイソン球2であり、地球から186万5000光年離れて存在します。銀河系太陽の85%未満の大きさでありながら、SCP-7091に内包される恒星は24時間当たり約1.23×1035J のエネルギーを生成しており、これは太陽が1年で生成する総エネルギー量とおおよそ同等となります。このエネルギーは太陽光発電アレイを介してSCP-7091に吸収され、当該の恒星を中心とした惑星系の第4惑星 (財団の天文学者によりクリステリアBと名称) へ直接的に転送されます。SCP-7091はクリステリアBと潮汐ロックしていますが、両天体間に存在する距離と相対的サイズの違いが維持されたままにこの潮汐ロックが生じている理屈は明らかとなっていません。
大量発生したSCP-7091-1によりクリステリアBの表面が覆い尽くされたうえに変質してしまっているという仮説が立てられています。宇宙を航行する知性文明体の遺構が崩壊済みの状態でクリステリアBに存在することがこの仮説を支持しています。クリステリアBの表面とその衛星複数にSCP-7091-1が高濃度で存在するため、当該の文明社会の残存物を網羅的に調査することは現時点で不可能とされています。
SCP-7091-1は精神感応力を有する寄生性の黒カビです。SCP-7091-1は通常のカビよりも指数関数的な速度で自身の細胞を再生させると同時に、感染した知的生命体の全ての運動制御機能・自律的体性機能を崩壊させます。ただし、高次認知機能は当該プロセスの影響を受けません。また、SCP-7091-1は有機体と無機物とを原子的に結合させることが可能であり、増殖力を維持した状態であれば複数の無機物を原子的に結合させることも可能です。
探査
クリステリアBのロッシュ限界内を周回する人工構造体の表面、およびにドッキングポート内にSCP-7091-1が微量に存在することが確認されました。この残存粒子量は倫理委員会により設けられた許容リスクパラメータ内に留まるものでした。2087年6月8日、人工構造体への探査 (プロメテウス・ミッションと名称) が異常天文学部門により提案され、O5評議会により承認されました。恒星間探査のベテラン3名から構成されるチームが派遣され、構造体内の調査が行われました。
ルーシー・カボット、ナサニエル・バー、ジャズミン・ギブソンの3名は過去10年間にわたって古代巨大建造物内部の深宇宙探査に参加した経験があり、この人類学的ミッションに志願しました。3名はそれぞれが宇宙服の下にクラスII感染防護服を着用し、焼夷弾と銃弾とを射出する銃器を装備していました。SCP-7091-1の存在量が比較的微量であるためにクリステリアBを住み処とする生存体や研究するのに適した非汚染のオブジェクトを見つけられる可能性があるという仮説のもと、3名の主目的は人工構造体を調査することに定められました。
サリア人の技術をリバースエンジニアリングして実験的に再現されたワープ装置を使用することで、財団はカボット・バー・ギブソンの3名を超光速でクリステリアBに転送することに成功しました。減速酔い防止のための回復時間を僅かに経た後、宇宙船を降りた探査チームはオープンポートから人工構造体に進入しました。
プロメテウス・ミッション ログ.01
以下は、探査チームに搭載されたボディカメラから宇宙船を中継して財団本部に送信された映像記録です。
<ログ開始>
カボット: プロメテウス・ミッションのルシール・カボットより状況報告。超光速からのワープ解除が… 地球時間で2時間前。クリステリアB軌道上のステーションに接近中。現時刻はおおよそにして0200(ゼロ・トゥ・ハンドレッド)。
宇宙船の窓越しに人工巨大構造体が確認できる。宇宙船のビューポートカメラをパンしなければ全貌を確認できないほどに建造物は巨大である。単一の金属合金を用いて建造されており、完成時点から金属板が追加的に溶接されてきた跡が多数確認される。構造体外部には溝が幾つか存在し、この溝により三角形を模した複数の線と模様が形成されている。構造体内部から橙色の光が放射されているのが確認できる。構造体の "頂点" にはアンテナ様の装置が存在し、その先端は赤色に点滅している。
バー: どなたかの住み処って様子ですね、キャプテン。内部から生命体が大量に検知されてます。
ギブソン: クリステリアBからやって来た未感染の生命体か、じゃなきゃS.C.3の残党かもしれないね?
カボット: 5000キロ圏内にディープ・スキャンを探らせて。サリア人どもの偵察艇やフリゲート4をひとつ残らず検知しなさい。
バー: もうやってます。
バーが宇宙船の外部センサーを作動させ、カボットに言われた距離範囲を入力する。センサーが結果を算出するまでに数分が経過する。タスク完了と同時にスクリーン上へ深緑色の円14個が映し出され、複数の輸送船が人工構造体の外側に密集して存在していることが示される。加えて、静止してはいるが、生命体の存在を示唆する小さな円の集合体数十個が人工構造体の内部に確認される。
バー: 結果出ました。随分と検出されましたね、思ってた以上に。センサーはサリア船を複数検知してます、してますが、あまりに近くありすぎてます。
カボット: どういう意味?
バー: つまり、少なくともS.C.の船艇の14隻が、ほとんど同じ空間で互いに重なり合いながら、どういうわけか別個に存在してるってわけです。それにこいつら… 膨張?成長してる?金属じゃこんな挙動は示しません。
ギブソン: 検知器は誤動作してないみたい。多分、これまでに確認されてこなかったアノマリーなんでしょ。
バー: かもしれません。それと並行して問題の場所にヒュームレベル分析を走らせました。どのサリア船も私たちの想定の範疇です、サリア人のテクノロジーから逸脱しない。船のカタマリから存在すると考えられる唯一のアノマリーはSCP-7091-1です。それにこいつら、まるで有機的に成長してる真っ只中って感じです、ある種の、1輪の花みたいに。
カボット: 向こう側からのドッキングは可能?
バー: 否定(ネガティブ)。SCP-7091-1が多すぎです。左舷から試すしかなさそうですね。
ギブソン: AAD5がステーションを一掃してたんじゃなかったっけ?
カボット: 基地まで2光年弱は離れている。サリア艇の一塊やらSCP-7091-1の右舷やらが見過ごされてたとしても不思議はない。(バーに向かって) 彼女6を寄せて。
バー: 了解。
宇宙船が人工構造体の左舷ドッキングベイに接近する。ベイドアはドア枠から外れて僅かに開かれている。ビューポートカメラからSCP-7091-1が確認できる。ベイドアの反対側にはサリア人の船艇の一部が僅かに確認できる。船首はベイドアを貫通しており、索状のSCP-7091-1を介して両物体が結合されている。
カボット: 手動オーバーライドを試行して。
ギブソンが宇宙船の主要データパッドに複数回キー入力する。数分後、人工構造体のメインフレームコンピュータへの遠隔アクセスに成功する。ギブソンがボタンを幾つか押下するが、どれもベイドアの機構を制御するものではない。難航しながらもスクリーン上のダイヤルを回すことでベイドアが開き始める。約1分後、ベイドアの機構が機械的も故障してヒンジから外れる。ベイドアとサリア人の船艇の両方が宇宙空間に漂う。
ギブソン: ありゃ、こいつは… 想定外だったな。申し訳ない。
カボット: わらにもすがるAny port in a storm、でしょ、ネイト7?
バー: ベルト締めててくださいよ、お二方とも。
バーの操縦により宇宙船が構造体に進入する。ギブソンが非常ドアを起動させて船艇格納庫を閉じ、それを追ってバーが宇宙船の出力を下げる。点灯した懐中電灯と銃器を構えた探査チームが下船する。構造体内部は放棄された様相を呈しており、食料品や医療品と思われる大型のクレートが床へ無造作に散乱しているのが確認できる。大型の宇宙航行用フリゲートが2隻存在し、そのどちらもが錆とSCP-7091-1の粒子で厚く覆われている。SCP-7091-1の索状物質がクモの巣の形を成して天井に掛っている。当該の索状物質は天井から壁まで伸びており、そこから床に向かって樹木の根と同様に張っている様子が確認できる。
壁と左側のフリゲートとの間に存在する索状物質の内部に、痩せ細った人型実体の死体複数が床と溶け合った状態で存在しているのが確認できる。死体の皮膚上層はSCP-7091-1と一体化しており、それ以外の露出した皮膚組織は黒色をしている。
死体は長い手足を有しており、平均的なヒトの手足の約2倍の長さをしている。複数の頭部が球根状に肥大しているが、これがSCP-7091-1への感染による壊死によるものか、当該の生命体が有する元来の形状かは判別できない。変容の程度が最も少ない個体の頭部には目が4つ存在し、頭頂付近に大型の目が1対、側頭部両側に小型の目が1つずつ存在する。生命機能が停止したことを示唆するかのように目の色は濁っている。しかし、カボットが照らした懐中電灯の光を追って目が動く様子が確認される。
カボット: こいつは、どう思う?
ギブソン: 活きたままの神経作用が幾分か死体に残ってたってことで相違ないね、それでもって… 生理学的な反応を返してきた。でも、棒でつっついたくらいじゃ、この感染者がまだ生きてるか否かは断定できないでしょ。
ギブソンが格納庫の機構をオーバーライドし、SCP-7091-1のクモの巣で遮られた道に沿って柱様の構造を移動させる。SCP-7091-1が引きちぎられ、人型の生命体がギブソンの目の前に倒れこむ。生命体のうち数体はうめくような音をあげ、他の数体は明らかにぎこちなく発声する様子ではあるもののクレイ語で発話し始める。
カボット: ギブソン、訳せるか?
ギブソン: (咳払いする) 太陽系外の古めかしい方言に関しては修練不足もいいところなんですけどねぇ… へえ… どうやら単語が3つ。吸収と、拡大と、それに… 成長?でも、彼らが話しているのか、SCP-7091-1が話しているのかは判然としないですね。
バー: なににせよ、この人たちはそう上手く対処できなかったみたいですけど。
カボット: どうだか。こいつらの宇宙船の船殻は深宇宙にあるにしてはボロボロが過ぎる。それに、近くに修繕用のツールもオートマトンも一切見当たらない。おそらくはここへ置き去りにされたんだろう。
人工構造体の内奥から衝突音が聞こえる。カボットが内部に通じるドアに接近するとともに探査チームが銃器を構える。カボットがビューポートのガラス越しに内部を覗き、前進して別条がないと判断するとドア脇に設置されたキーパッドを操作しドアを開ける。ドアは上にスライドしようとするがドア枠につっかえる。ギアが回り続け、遂にはレール部分から折れたドアが弾け飛んで後方に倒れる。カボットから離れた場所に落ちてきて、相当な音を立てる。カボットがギブソンとバーへ追従するように合図する。
探査チームは三角型の形状をした通路を進む。格納庫と違いSCP-7091-1は顕著に確認できず、チームの視界内にはほぼ見受けられない。クレイ人の文字に似た記号が壁に確認されるが、筆跡から判断するに急いで書かれたものと判断できる。
カボット: ギブソン?
ギブソン: 広がり、的な意味の文字でしょうか?この文字は定型的には感染やカビを連想させるものですね。おそらくは、SCP-7091-1の感染についての警告かも?
バー: 警告?にしてはちょっと手遅れって感じじゃないですか?
カボット: あいつらへ、じゃない。私たちへ向けてのものなんだろう。
バー: 進み続けるべきでしょうか、キャップ?
カボット: …肯定(アファーマティブ)。
プロメテウス・ミッション ログ.02
次の録画映像は、探査チームが宇宙ステーションを横断した後に再開されました。ログ.01と続くログ.02開始までの間にはチーム内の会話が断続的に発生せず、新規事項のない記録であるという見解で一致しました。そのため本記録から当該部分は削除されています。
関連する映像は前室に入室するところから再開されます。
<ログ開始>
カメラがパンし、蔓状のSCP-7091-1に覆われた大きなスライド式ドアが映る。カボットがドア右側に設置されるコントロールパネルからアクセスを試みる。接続に成功したことを示す緑色のランプが点灯するが、ドアは閉じられたままである。
バー: 爆破しますか?
カボット: 私の頭はその意見に傾きつつあるが、ひとまずは別の選択肢を試し尽くすべきだな。SCP-7091-1が銃弾にどう反応するかわからない。焼夷弾が効くかもしれない、だがやはりこれも確実とは言えない。
ギブソン: 発火したカビとか灰とかが有害かもしれないし。
バー: ごもっともです… どこかに武器かパイプでもあればこじ開けることができるかもしれません。
カボット: 良案だな。探してみるか。
チームは相互目視を保ったまま分散する。SCP-7091-1により焼け焦げた肉片と眼球が結合された比較的に小型の融合物をカボットが調べる。複数の眼球がカボットの姿を追うが懐中電灯の光や他の刺激には反応しない。カボットがSCP-7091-1の集合塊の向こう側へ光を当てるとカビと融合した死体で完全に遮られた通路が確認できる。
ギブソンが天井を調べる。SCP-7091-1を比較的に内包しない、腐った死体複数体で構成される鍾乳石が緩く天井に結合した状態でぶら下がっている。鍾乳石から滴り落ちた筋肉組織の一片が目の前に落ち、ギブソンが後ずさりして飛散を避ける。その "目" は閉じられているが、鍾乳石の根元に配置された死体複数体は顔に似た渦巻模様を形成している。顔はギブソンの立ち位置から宇宙ステーションの内奥へと伸び、塞がれた通路へと消えていく。
バーが柱状の構造体を丸めてその上にアクティブ・ディスプレイを載せている。画面の約50%にSCP-7091-1が表示されているが、それでもなおホログラフィック表面に配置されたダイヤルやボタンを操作することが可能である。バーの操作によりエリア内の照明が点灯し、空調システムが作動する音が聞こえる。
バー: お二方、自分は気付きを得ましたよ。
ギブソンとカボットがバーのもとへ向かう。ギブソンがディスプレイ前に立つバーの位置に代わり、出現した複数の記号を読みあげ始める。
ギブソン: ある種の非常制御機構のようだね。(指差しながら) このシンボルは "バックアップ"、もしくは "もうひとつの" を意味する。(もう一方を指差しながら) こちらのは "玄関口" という意味だ。
カボット: この扉が開かれるんだろう。
ギブソンが "玄関口" の記号の下にあるダイヤルを回す。数秒後、歯車やその他の機構が回転する音が聞こえる。まるで何か異質な物体によって機構が妨害されているかのような、機械がつっかえる大きな音が聞こえる。ギブソンがホログラムのダイヤルを幾つか回す。(後に、この操作で宇宙ステーションの別エリアから当該の機構により多量の電力が流用されていることが確認された。) 約3分後、前室からのアクセスを妨げていた蔓様の構造体が音を立てて剥がれ、ドアが開く。
カボットがギブソンの肩をたたき、前室に繋がるドアを通ってチームを先導する。これまでに観測されなかった異常な密度で床一面をSCP-7091-1が覆っている。カビの質感により床の一部に粘着性が付加され、僅かにチームが動く妨げとなっている。前室に進入すると蔓様の構造体が収縮し始め、背後のドアが閉まる。
バー: クソッ。キャプテン、問題発生です。
ギブソン: ドアのことは後回して構わないよ。まだデータパッド持ってる?
バー: えぇ、自分が。(データパッドをチェックする。) 生命体が2つ、数メートル前方です、どうやら至近で互いに隣接してます。
カボット: 警戒しろ。
前室の壁に沿って金属板が配置されているが、原型がほとんど判別つかない程に捻じれて変形している。SCP-7091-1で構成された短い柱複数が2列を成して平行に並んでおり、非均質金属とSCP-7091-1から構成される球体が柱の上に浮遊している。大型のディスプレイモニターが天井から斜めに吊り下げられており、複数の記号が明滅している。"船舶の建造完了。打ち上げ用意?" と表示されている。
前室の奥側の壁には2体の人型実体の死体が置かれている。身長は3m程度であり、剥離した皮膚の模様がおおまかにヒトの筋肉に視覚的に似通っていることから判断して、恐らくは大量の筋肉組織を有していたと思われる。死体の両手には指が7本あり、左側の死体は片脚を欠けてはいるが残った片脚から趾行性の構造を確認できる。死体は互いに抱き合っているように見える。
片方の死体が探査チームに顔を向けて片腕を伸ばす。口を開閉させる。死体が声を出すが咽喉内にSCP-7091-1が存在するために発話が阻害されている様子である。
ギブソン: 何とも言えないね。ハラすかしてるのかも。
カボット: これ以上バイオ燃料を与えるのは止めとこうじゃないか、なぁ?
死体の足元にはSCP-7091-1が付着していない日誌が1冊置かれている。カボットが日誌を調査してページとカバーにSCP-7091-1が内包されていないことを確認すると、生物災害性物質運搬用コンテナに日誌を封入する。
バー: ボタンを一押し、本当にあとそれだけで宇宙船は打ち上がるところだったんですね、キャプテン。
カボット: ジーザス。
ギブソン: 疑う余地もなく、彼らのための優れた計画を、神は持ち合わせていなかったと。
カボット: そいつを詰め込んで帰るとしよう。ここでやるべきことは全て完了した。
ギブソン&バー: 了解(コピー)。
<ログ終了>
回収された科学日誌
探査チームの宇宙船に搭載されたAIにより以下に示す内容が転写され、分析のためにサイト-83へ送信されました。
宇宙暦: 第900サイクル・アーミス・12th
本当に上手くいったなんて信じられない!セプティマスとあの人が擁する科学者集団の手で完ペキに機能するソーラー・サイフォニング・マシンが創られて、今やクレステニア全域に電力を供給することができている、2デシリオン年後8にこの星が爆発するまでは。月々の久遠の祝福が我々へあらんことを。
しかし問題がまだ1つ残されている。我々はこの星を征服し、12の惑星を意のままに操作し、この銀河系内の最も矮小な惑星に存在する最も小さな砂粒の1つに至るまでをも精緻にマッピングした。だが、手詰まりだ。置き去りの状態にある。この太陽系から隣の太陽系へ、最短距離で移動したとしてもその時間の長さに我々の寿命は全くもって耐えられるものではない。仮に100サイクル分の時間を以て太陽を周航する宇宙船に乗ったとする。私が1人の老いたクレイティアンとしてセラミヌスに到着する頃には私の子は健康なままに300サイクルの年を迎え、そして、彼らの子孫たちもまた自らの子孫を残そうと用意していることだろう。そんな事態は容認しがたい。
先日、この問題についてセプティマスに通達した。理解した彼は気分を害したようだったが、結果、この私に彼の直属で解決策を模索する機会を与えてくれた。このような名誉を与えられるなんて、なんたる幸運か。彼を失望させるわけにはいかない。
我々クレイティアンは結束して全宇宙を征服する!
宇宙暦: 第900サイクル・アーミス・19th
定期的なメンテナンスと日常的な機械部品の交換を代償に、従来の肉体機械化施術により標準的クレイティアンの寿命が15%延びることが証明されている。確かに1つの解決策ではある、だが持続可能なものではない。我々の維持のために、我々の母星と星系内の惑星から得られる資源はいずれ完全に枯渇することだろう。他の星からも資源を見つけることができるだろうが、再生不可能なものが全て使い尽くされた際にどうなってしまうのか?我々という種は滅び、そしてそれは私の過ちによるものとなる。そんなことは許されない。
セプティマスにより、見覚えもない人員で構成されたチームが私の下に付けられた。おそらく彼らは外世界のコロニー出身か、もしくは私の知らない月から来たのだろう。彼らは喜んで働き、言われたとおりにこなしてくれる、であればその出自などは全く問題に思わない。そのうちの1人、メタマテリアルで部分的に体が構成されているアルフという名のとても小さく奇妙な生き物が提案してきた、標準的な機械化部品から太陽を動力源とするバイオメカニカル部品への転換を。吉兆となるとは思ってはいないが任務のためだ、テストしてみるつもりだ。
月々の祝福が我々気まぐれな探検家にあらんことを。
宇宙暦: 第900サイクル・アーミス・45th
アルフ製の設計図に書かれているように、我々は太陽からのエネルギーをバイオメカニカル・クレイティアンに転換している。今のところテストは順調だ。セプティマスは喜んでいる、それは私もだ。我々は見つけ出したのかもしれない!
セプティマスはクレステニアを周回する宇宙ステーションで深宇宙探査船の建造を開始した。14の開拓チームのそれぞれが1隻の船でこの銀河系の方々を探査し、ともすればそれは太陽圏外に至るかもしれない。彼はそう計画している。我々の天体図は我々の征した宇宙で既に満ち満ちて美しいものだ。だが、不死身の探検家軍団により絶えず更新されることになったら、天体図がどのように見栄えるかを想像してみる、そうすると私は興奮を抑えきれない!
だが、セプティマスとともに宇宙ステーションにいられればと私は強く思っている。彼は言った、私の居場所はここクレステニアの研究室にあると、我々の種族が永寧の生を得るための解決策を研究することにあると。それでも、彼の存在を恋しく思っている。
すぐにでも彼が訪ねてきてくれたらと思っている。
月々の導きが我々の永遠にあらんことを。
宇宙暦: 第900サイクル・ヒーリス・1st
昨日、我々は太陽動力式のバイオメカニカル・クレイティアンたちによる宇宙空間飛行の試験に着手した。当初こそ全て順調だった、クレステニアの大気外に出るまでは。未濾過の、直の太陽放射線が彼らの機械部分に溢れて、内部リアクターが限界を超えて加熱された。
誰もが臨界に達して爆発し、星にキスした。
解決策がこんなに簡単であると信じていた私はバカだ。部下を失ったことを嘆き、そしてセプティマスを失望させたことを恥じている。私にはアルフを咎めることはできない、我々が不死となるための手段を研究し、実験し、そして承認する任を預かったのは私なのだから。
私は出来損ないだ。
月々の大赦が我々の浅ましき野心にあらんことを。
宇宙暦: 第950サイクル・ヒーリス・3rd
50サイクルが経過したというのに、問題の発生時から死亡率の解決に向けて前進できていない。希望が潰えているのではないかと恐れている。アルフは私の窮地を救う素晴らしい助け舟であり続けてくれてはいるが、他の部下もまた失ってしまった。
45サイクル前、我々は孵化したばかりのクレイティアンの遺伝子コードを改変する実験に着手した。我々に免れぬ生分解を引き起こす遺伝子配列を特定し、それを除去したのだ。子供たちは最初こそ正常に見えた。想定されていたよりも彼らは早く加齢と成長を示し、変態は70サイクルではなく30サイクルで発生した。しかし、本質的な死のゲノムを取り除いたにもかかわらず、子どもたちは42サイクルで急速な細胞分解を起こした。我々の試験で45サイクルを迎えた者はいない。
胸が張り裂けそうだ。自分が子殺しになるだなんて、これまで一度も思ったことはなかった。セプティマスは彼の御両親に折り合いをつけるべく宇宙船の建造を一時中断した。御両親とはもう二度と会うことはなかった。突破口に近づいているとアルフは私に断言している。そうあってほしい。
このような犠牲を払う必要がなければいいのだが、もはや避けることができないのも明らかだ。
これはより大きな善のためだ。
宇宙暦: 第1075サイクル・アーミス・14th
今日で私も275サイクルだ。初めて老骨に痛みを感じた。本当に年を取った。
おおよそ100サイクル前、アルフと私はクレイティアンのごく一部に改良型のザンタンウイルスをばら撒いた。改良型の育種には困難を伴った。非致死型とはいえ、安定したザンタンウイルスは我々にとって更に多大な負担となることが判明した。それでも育種し、今度こそやり遂げた。
激しい咳、皮膚の剥離、四肢の欠損など、年を取ったクレイティアンは予測されていた症状に斃れた。だが、我々の愛おしいウイルスへの抗体を若い者たちは生得的に有しているように見えた。初めこそ彼らには何の影響も見受けられなかったが、サイクルが経過し成長するにつれて目に見える老化や劣化の兆候を示さなくなった。変態を終えた日のように彼らの皮膚は滑らかだった。彼らは頭の回転が早く、用心深く、反応が素早かった。私とは違って。
これだったのだ!追い求めていた解決策だ!セプティマスにこの知らせを伝えるのが待ちきれない。
月々の久遠の歓びが我々へ齎されんことを。
宇宙暦: 第1075サイクル・アーミス・30th
セプティマスは "彼の" 10隻から成る艦隊を完成させた。"彼の" と書いたのは、実際にはクレステニアのダークサイドに遺棄されていたサリアンの輸送艦を転用しただけだからだ。だが、彼の成果に異議を唱える資格が私にあるのか?
彼に見せるべく、アルフと私は感染済みのクレイティアンから1人連れていった。彼らは太陽放射線への免疫があることが証明されており、現に、この感染者は宇宙航行を大いに好んでいるようだった。セプティマスは我々の成果に満足していた。私も満足している。
しかし、件の感染者をクレステニアに連れ戻すや否や腐敗が始まった。頭痛と、星の重力で内臓が圧し潰されるような体の痛みを訴えた。これは全て致死的な減圧症の病徴だ。
混乱している。どうして下船してから甚く時間が経過したというのにこんなことが起きたのか?訳がわからない!どう解釈しても改良型ザンタンウイルスに感染した者はクレステニアや何処ぞの惑星からも発つことができず、悲惨な結末を免れることなく帰還はできない。これは確実に大きな後退だ。だが、ここから巻き返すことができるはずだ。
私は突破口に近づいている。
月々の導きが我々の薄弱な追求にあらんことを。
宇宙暦: 第1214サイクル・ヒーリス・4th
最後の船が完成間近となるにつれてセプティマスも老いていく。私もだ、私も年を取った。そろそろ子を残すべき年だし、他の者も次世代のクレイティアンを産み育てているはずだ。それなのに、私はアルフとここにいる。この地獄のような研究室の中で八方ふさがりで、どうして私たちを死の運命という楔から解放できないのか理解することを試みている。私は314サイクルで、それなのに何も成し遂げていない。
宇宙暦: 第1300サイクル・アーミス・16th
この銀河系と更にその先を探訪する希望は別のクレイティアンの手に落ちた。新たな実験材料を求めて洞窟を探し回るうちにアルフは真菌の類に感染してしまった。この時点で我々は見捨てられたも同然だ。私が町を歩けば、皆が私を指差して嘲笑して、私と私のチームの失敗を馬鹿にしてくる。クレイティアンの皆が私と同じ苦境を味わえばいいのに。20サイクルか、それにも満たずに彼らの精神は壊れるだろうに!
私は研究室に残されていた医療品でアルフを治そうと試みた、しかし、真菌の除去に成功するより前に、私が作成しこれまで挿入してきた全てがアルフに封入されてしまった。驚くべきことに、明らかに外見が変容したというのに、アルフは自らの体調を申し分ないほどに良好であると述べた。錯乱状態に陥っていなければいいのだが。
ここ最近のセプティマスは沈黙を貫いている。宇宙ステーションにいる彼に近づく勇気はない、他のクレイティアンたちと同じ眼差しを彼から向けられてしまっては堪らないから。私が貴方のために解決策を見つけます、セプティマス。さもなければこのアレーニャの名が廃る。
宇宙暦: 第1389サイクル・ヒーリス・14th
アルフは加齢しない。アルフの内部構造にある真菌だと私が思っていたものは、実際にはカビで、色が黒く… 生きている。アルフの同意の上で内部構造を調べたところ、アルフの各器官が、生命維持に重要な器官も含めた全てが機能を停止していた。それらはカビに取り込まれ、もはやカビの命令で動いていた。アルフの身体は死亡しているが、それでもなおアルフは自律し、健全な精神状態にある。
酷い咳と時たまに黒色の液体を喀出することを除けばアルフは元気だ。
これだ!明日、宇宙ステーション行きの船に乗り、セプティマスにこの知らせを伝えよう。ついに我々は不死身だ!
観察を通して理解できたことは、カビは肉体を再生する以上の機能を有しているということだ。宿主の意思に適応する。セプティマスと彼の建設作業員は感染後から新たな力を顕わにし、機械の補助なしにオブジェクトやメタマテリアルを持ち上げることが可能だ!食料収穫員はより早く原料を集められるようになり、身体競技のチャンピオンはより容易により迅い反応速度で運動能力を発揮できるようになり、私を含む科学者たちは知能の向上を示している。このカビはまさに月々からの贈り物だ。発見してくれたアルフに感謝している。
船は完成間近であり、まもなく我々は不死の肉体で探検が可能となる。それ以外のことは考え難くなっている。興奮しているのかもしれないし、盲目的になっているのかもしれない。いずれにせよ、我々の探検がどうなるのか楽しみでならない。銀河が待っている。
第1450サイクル・アーミス・40th
時々、私の心は彷徨う。日々のそのほとんどで私の思考は私自身のものだが、それでも時々気づくことがある、私の体から… 私が… 存在しない。私がここにいない瞬間、私の体が勝手に動いているような感覚があるが、私自身これに確信が持てていない。アルフも同じ感覚を経験したと述べたが、内々で確認した限りでは同様に感じた者はいない。おそらく、クレイティアンという種族の拡大と成長に対するストレスが原因となり、我々に引き起こされているものなのだろう。
しかし、我々自身を対象に実験を試みると、その尽くで決まってある状況に陥る。我々手ずからセットアップした記録機器は我々の手で撤去され、実験の開始と同時に外部のオブザーバーは興味を失い撤収してしまう。
それにセプティマスからの返事もない。彼に会えればいいのだが、私は船に乗ることができないようだ。
今日聞こえた。声だ。私に語りかけてきた、成長しろ、拡大しろ、吸収しろと。それは小さな声で、私が知りたくもない場所から発されているものだ。サイクルを経るごとに、私は自身の心を律しようとより苦悶する。周囲が見えず、目に映るのはカビしかない日もある。
私の体内でゆっくりと成長しているのが感じられる。瞳の奥に、歯の中に、鱗の下に、毛羽立った繊毛の刺され跡が感じられる。アルフにも私と同じような病徴を感じたことがあるのか質したかったが、私の口から出てきたのは "成長" という言葉だけだった。
今やクレイティアン皆が同じ様子でいる。瞳は黒一色でどんよりとしている。鱗片は繊毛でできている。肉体はカビでできている。彼らが私に話しかけているのが聞こえる、だがその口は動いていない。暗闇について、飢えについて、拡大について、私の耳元で彼らが囁く。
そんな暗い場所に私は行きたくない。
カビが驚異的速度で広がっていく。
今ではこの惑星の4分の1が覆われている。セプティマスは深宇宙に向かう船の操縦を補助するオートマトンを作製している最中だ。我々がカビから逃れるには不十分だ。成長し、拡大し、吸収する。止めることはできない。
我々は不滅だ。我々はひとつだ。私の思考はもはや私のものではない。仲間たちの思考がより強く私の心に響いて聞こえる。時に圧倒されることもあるが、彼らの声が凪ぐ瞬間もある。だが、決して止むことはない。そうだ、声だ。彼らは叫喚して私を責め立てる、この… 集合意識による苦痛を齎したがために。彼らは自由を求めている。私は彼らに自由を与えることはできない。
私は常に飢えている。
拡大。宇宙ステーションでの感染。
手が痛む。心が痛む。もはや、そう長くは律することもできない。セプティマスが気がかりだ。
私は元気だ。私はひとたびにあらゆるところに存在する。私はクレステニアで。私は月で。私は私自身で。
飢えは耐え難い。
私はクレイティアンの1人を食らい、彼らの黴びた体を私の内に吸収した。満ちを感じた。また食わねば。
広がり。成長。
宇宙は盛られた皿の1口であり、私は捕食者の1つだ。
私に吸収されるのを待っている。
私は星々を飲み込むだろう。
今、私はあの暗い場所にいる。日々過ぎゆくサイクルの中で自分自身が更なる深みに転がり落ちていくのを感じる。飢え以外の思考の形成は為しえ難い。船が近づいてくる音が聞こえる。デザインはわからない。
どうか誰か私を救ってくれ。
全て順調だ。



