SCP-7186
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評価: +4+x
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研究前哨基地から眺めたSCP-7186

アイテム番号: SCP-7186

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: その大きさと位置のため、SCP-7186の直接的な収容は維持不可能であり、収容の実現可能性はジュリエット・グレイ博士の指示の下で将来的に再評価されます。SCP-7186が最初に発見された周辺地域は鉱山関連の化学物質漏出を装い柵で囲まれます。間接的な収容は、様々なカバーストーリーの流布を通じて維持されます。財団ウェブクローラーMetatron.IOはSCP-7186の言及や議論がないか、地質学、火山学、海洋学に関連するフォーラムや会議を監視します。現在流布されているカバーストーリーに反論する人物には極秘にクラスC記憶処理を施し、現在のカバーストーリーはその人物のSCP-7186に関する既存の仮説に埋め込まれます。

更新2026/03/19: SCP-7186をめぐる議論のために記憶処理され、Metatron.IOにフラグ付けされ続けている人物はジュリエット・グレイ博士の指示により質問のため連行されます。

説明: SCP-7186は南オーストラリア州クーバーペディの北西約200kmに位置する、14.3km3の黒曜石の鉱床です。初期試験で黒曜石は非異常であることが判明しましたが、現在受け入れられている地質モデルによればアノマリーの見かけの年代と位置は不可能なはずです。

周囲の岩石は白亜紀に起源を有し、脆く非結晶質の黒曜石は形成以来オーストラリア構造プレートが数百万年に渡り受けてきた活発な沈み込みに耐えることができないはずです。黒曜石が周囲の岩石より新しいものである場合、最も近い既知の活火山地域から1500km以上離れた地点に存在することを説明する既知のメカニズムはありません。

発見: SCP-7186は2023年4月下旬、南オーストラリア州中央部のオパール鉱山労働者が最初に発見し、特異な発見をジオサイエンス・オーストラリアに報告しました。その後のジオサイエンス・オーストラリアによる重力調査によって異常な鉱床の範囲が確認され、その時点で潜入エージェントによりアノマリーの存在が財団に警告されました。

初期の調査票を没収しその作成に関与した人物に記憶処理を施すという財団の取り組みにも拘らず、調査票のコピーが数部不明な数の人物に送信されていました。アノマリーによってもたらされる混乱のリスクが低いことを考慮すると、コピーを回収する大規模な活動は不要な出費であると判断され、現在の収容プロトコルが策定されました。

サイト-220の管轄下で、最初の発見場所付近に一時的研究前哨基地が設立されました。研究員のジュリエット・グレイ博士は現在オーストラリア国内のサイトに配属されている財団の地質学者の中で最高位であることが確認され、その後SCP-7186の主任研究員に指定されました。

補遺1:
2024/3/13、SCP-7186研究チームが執筆した最初の論文が、初期のカバーストーリーとして財団フロント組織の堆積物・結晶化定期刊行(Sediment and Crystallisation Periodical)を通じて発表されました。論文の概要は以下の通りです。

グレート・ビクトリア砂漠(Great Victoria Desert, GVD)重力異常(27° 22': 131° 27')1はグレート・ビクトリア砂漠南東、南オーストラリア州クーバーペディ付近に位置する最近確認された地域である。GVD重力異常に典型的な物質の特定は、この地域での産業採掘事故の存在により複雑化している。この地域で利用可能な重力調査が証明しているように、本異常内の物質は周囲の花崗岩とは区別される。

グレート・ビクトリア砂漠周辺の古地質学の既知のデータに基づくと、異常に典型的な物質は貫入性で珪長質の火成岩である可能性、したがって花崗岩である可能性が最も高い。物質内に存在する正長石と斜長石の正確な長石割合は現時点で特定できていないが、概ね等しいと仮説づけられている。記録された比重は、異常に典型的な物質の大部分が細かな粒子状の斑状岩からなることを示唆している。

本異常は、周辺地域よりもシリカ密度の小さい貫入によって形成された石英モンゾナイトの、これまで未特定の鉱床である可能性が最も高い。

補遺2:
補遺1で言及された論文の発表の後、グレイ博士とサイト-220管理官アレックス・アンダーソンの間で以下に記録されたメールが交わされました。

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: 不十分
日付: 2024/3/17

このカバーストーリーがもつはずがありません。私のチームはできる限り最善の仕事をしましたが、そのほとんどは地質学者ですらありません。ほんの少しでも専門的な信頼のある人の前には、我々の思い付きなど易々と粉々にされてしまうでしょう。

プロジェクトにもっと多くの人員を割り当てるようお願いします。願わくば我々の研究分野について実際に教育を受けた職員であると助かります。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: 不十分
日付: 2024/3/18

グレイ博士、

前回あなたが資金の増額を要求したときに伝えたように、SCP-7186プロジェクトは違反がヴェールの完全性に呈する脅威に見合った十分な資金とリソースを受け取っているというのが私のオフィスと監督評議会の意見だ。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: Re: Re: 不十分
日付: 2024/3/18

前回あなたが定型句で返したときにもお伝えしましたが、監督評議会は間違っています。彼らはこれが巨大で馬鹿な殺人モンスターではないためにヴェールに対する危険ではないと考えていますが、そのような考え方は許しがたいほどに間違っています。このことについて噂が広まり始めれば、実際そうなるでしょうが、それはきっとここ数十年で最も重大な地質学的発見になるだろうと断言します。真に説得力あるカバーストーリーを構築できる人材が不足しており、それができなければ更に注目を集めてしまいます。

もしかすれば、これがどういうものなのか本当に理解できていればもっと上手く隠蔽できたかもしれません。私のチームに仕事を任せられるよう、本物の地質学者を何人か雇わせてください。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: Re: Re: 不十分
日付: 2024/3/20

グレイ博士、

あなたの人員配属に関する不満は記録され、管理・監督セクションに伝えられた。私は最近SCP-7186研究チームに追加された人物が与えられた任務に適正な資格を持っていることに気が付いた。あなたはアノマリーに関する知識が、利用可能なリソースを与えられた財団職員の手に独占的に収まるようにする必要がある。現在のカバーストーリーが不十分と考えるならば、そちらのチームが新たなカバーストーリーに取り組めばよいというのが当オフィスの意見だ。

自分の手元にあるものでやってほしい、グレイ博士。これ以上与えられるものはない。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: Re: Re: Re: Re: 不十分
日付: 2024/3/20

適正な資格? ウォード次席研究員は人文地理学で文学士を取得し、アメリカ・インディアン研究を専攻しているんですよ。彼がチームのためにしてくれた全てのことには感謝していますが、それは前例のない地質学的現象の研究に「適正な資格」とはいえません。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

このチェーンにおいて以降のメールは記録されていません。

補遺3:

上記の論文を広めるSCP-7186研究チームの試みにも拘らず、SCP-7186の黒曜石鉱床としての性質の認識はオンラインや学術地質学コミュニティ内で高まり続けました。必要な記憶処理剤は2024/3/1から2024/9/30にかけて186%増加し、収容コストの増大要因となっています。複数の誤った言説が事実を不明確化し、関心のある人々が真相を解明する可能性を下げるという考えの下、SCP-7186研究チームは第二のカバーストーリーの公表に全ての努力を注ぐよう指示されました。

更新された指示を受け取った後、ジュリエット・グレイ博士のアカウントから以下のメール通信が回収されました。

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: 冗談ですか?
日付: 2024/10/5

別のカバーストーリーを発案してほしいと? 私の目に狂いはないですか?

私はあなたにどうなるか警告して、実際そうなりました。我々は前に7186をアダメロ岩として取り繕おうと最善を尽くしましたが、皆受け入れてはくれませんでした。地質学を仕事にしてる人の全員が脳が石でできているわけではないので。嘘情報の波でごまかそうとしても効果はありません。新しいアプローチが要ります。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: 冗談ですか?
日付: 2024/10/7

より良い解決策があるのなら提案を出してくれれば考慮しよう。当面は、あなたがSGTSG 20242に先立って6週間以内に次の論文を広める準備を整えてくれることを期待している。我々はあなたとそのチーム用に招待講演者の枠を既に手配してある。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: Re: Re: 冗談ですか?
日付: 2024/10/7

結構、これが私の提案です。最も声の大きい批判家たちを連れてこさせてください。我々の仕事を困難にしている人たちに働いてもらうのです。記憶処理剤のコストが減りますし、実際に何が起きているのかの解明に必要な人員を持ってくるのです。まさにwin-winですが、どうですか?


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: Re: Re: 冗談ですか?
日付: 8/10/2024

6週間だ、グレイ博士。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

このチェーンにおいて以降のメールは記録されていません。

補遺4:

SCP-7186研究チームの第二の論文の発表後、グレイ博士はSGTSGでゲストスピーチを行いました。主催組織のAV機器の技術的問題により転写は利用不可能です。代わりに、グレイ博士のスピーチメモを以下に示します。

  • 開始: フォーマル、時間を割いてくれたことに感謝
  • キーワード: 堆積物・結晶化定期刊行
  • 疑問: 明白なこと述べる、どうしてそこにある?どうしてまだそこにある?
  • キーワード: 不規則、脆い、安定
  • 提言: 声張り上げ、不意をつく、脚色ないこと保証、緊張して笑わないように
  • キーワード: 原地溝帯、天変地異説、もっともらしく
  • 根拠: スライドとグラフに集中、チームに深く感謝
  • キーワード: もっともらしく、もっともらしく、もっともらしく
  • 終わり: また感謝、謙虚に、チームと組織へ感謝で〆、深呼吸
  • キーワード: 感謝、チーム、光栄

会議場の退出時、グレイ博士は通用口で床に座って泣いている姿が監視カメラに映っていました。カメラに音声は記録されていませんでした。ウォード次席研究員と特定された人物が接近し、グレイ博士の隣に座りました。彼らは1分34秒間会話したように見え、グレイ博士は立ち上がり、白衣の袖で目元を拭ってから、ウォード次席研究員が立ち上がるのを手伝ってカメラのフレームから出ました。

サイト-220への帰還時、グレイ博士のscipmailアカウントから以下のメールが送信されました。

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: 一つだけお願いです
日付: 2024/11/19

一つだけ要求があります。チームのために私はこの地獄にこの身を置き続けるつもりですが、その代わり一つお願いしたいのです。

彼らの一人を連れてこさせてください。我々が黙らせようとしている相手の一人と話をさせてください。それだけが要求です。

お願いします、アレックス、それだけですので。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: 一つだけお願いです
日付: 2024/11/22

メタトロンが常習犯に接続したら通知が入るはずだ。その時に公式インタビュー要求を取り付けてほしい。考慮しよう。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

補遺5:
2025/2/6、財団ウェブクローラーはフォロルンソ・ファトゥカシ博士が現在広まっているSCP-7186のカバーストーリーに反論する論文を新たに発表したことを特定しました。ファトゥカシ博士はアノマリー関連の以前のインシデント以降4回の記憶処理を受けており、ジュリエット・グレイ博士は状況について通知されていました。彼女の主張により、グレイ博士はサイト-220でファトゥカシ博士にインタビューを許可されました。

ジュリエット・グレイ博士によるフォロルンソ・ファトゥカシ博士へのインタビュー転写は以下の通りです。

<記録開始>

ファトゥカシ博士はサイト-220のインタビュー室27で座っている。グレイ博士はクリップボードを抱えて入室するが、扉を閉じると同時に手から滑り落ちる。彼女は慌ててクリップボードを拾い上げて立ち上がり、目に見えて狼狽した様子でファトゥカシ博士に手を伸ばす。

グレイ: あぁ、失礼。このミーティングに同意いただきありがとうございます、ファトゥカシ博士- あー、少々我々のやり方が常道から逸れていることは理解しています。

ファトゥカシ博士はグレイ博士と握手する。グレイ博士は慌てて向かい側に座る。

ファトゥカシ: 全然、あなたの組織は大変親切だよ…… グレイ博士、だったかな?

グレイ: はい。以前にもあったことが…… あー、いえ、恐らく覚えてないでしょう- まあ間違いなく同じ会議に1か2回は出たことがあります。

ファトゥカシ博士は片眉を上げるが、それ以外は反応しない。

ファトゥカシ: 確かに。グレイ博士、このミーティングの目的を正確に教えてもらえないだろうか? 私の受け取ったリクエストは著しく詳細に欠けていたものでね。

グレイ: ええはい、もちろん。えっと、我々はあなたのSC- グレート・ビクトリア砂漠黒曜石鉱床に関する研究について話したく、我々にはいくつか…… 上手く言葉にしづらいのですが。

グレイ博士は数回テーブルを叩き、クリップボードをこめかみに押し当てる。一方ファトゥカシ博士は両眉を吊り上げる。

グレイ: 我々はあなたのアプローチの隙間を埋められると- ああいやアプローチに間違いがあるというのではありません! あなたは優秀な地質学者です!-が、あなたではどうしても気付けないことがあり、その隙間を埋める手伝いをしたいのです。

ファトゥカシ博士は当惑しているようだが、指を組んで前かがみになる。

ファトゥカシ: それは…… 面白い意見だが、私の書いたものに興味を持ってくれる人を満足させられないというなら失礼になってしまう。私の知らない何を知っている?

グレイ: まだ- まずこちらの質問にいくつか答えていただかなければそれは教えられません。申し訳ありませんが、それに納得いただけなければこのミーティングを途中で切り上げることになりますが、よろしいですか?

ファトゥカシ: そうなのか。では何でも聞いてほしい、知りたいことは何だ?

グレイ: ありがとうございます、ではその。まず最初に、何があなたをグレート・ビクトリア砂漠黒曜石鉱床に惹き続けて- 惹きつけているのでしょうか? あなたは格別それに興味を抱いていらっしゃるようです。

ファトゥカシ博士は明らかに面食らったように見える。

ファトゥカシ: 格別?-GVD黒曜石鉱床は恐らく率直に言って、その…… その…… ああ、プレートテクトニクス以来最重要な地質学的発見だ。私が格別興味を抱いているとしても、それはあくまで他の誰も自分が何を見ているのか気付いていないだけに過ぎない! これは火山学、ひいては地質学全体で我々が知っていると思っていた全てを書き換える可能性がある!

ファトゥカシ博士が生き生きとすると共に、グレイ博士はテーブルの上に寄りかかる。

グレイ: ええ、ええ! あれは-

グレイ博士は咳払いをし、目を閉じて座り直し、ゆっくりと息を吐く。

グレイ: 失礼、非プロフェッショナル的でした。ではファトゥカシ博士、GVD黒曜石鉱床に関して最も広まっている仮説についてどう思われますか?

ファトゥカシ: それは本当に訊きたいことではないだろう? あれはナンセンスで、単純かつ安直で全くあり得ない。あのような戯言に同調するたくさんの同僚たちに私は失望してきた。はっきり言ってあのアイデアがどこから出てきたものかはわからないが、確かにこれ以上注目を引くジャーナルもないだろう。よく知っていなければ、私は陰謀論だと叫んでいたことだろう。

グレイ: それもそのはずです。

グレイ博士は気分を落ちつけた様子で、表情を硬くする。

ファトゥカシ: ああわた- 何だって?

グレイ: 陰謀論だと叫びもするはずです。いやえっと、うーん、我々としてはそうでない方がいいんですが、しかしあなたは正しいです。

ファトゥカシ博士は立ち上がり、手をテーブルの上に置いてグレイ博士の近くに身を乗り出す。

ファトゥカシ: はっきりと言ってくれ、一体何をほのめかしている?

グレイ: 私は財団として知られる組織を代表しています。上層部は私があなたに大袈裟な口上を述べるのを望んで- 言ってしまえば私が黙っておくことを望んでいるのですが- しかし私は率直に言います。我々は陰謀論です。あなたの鉱床に対する意見は正しく、これは存在すべきでなく、その場所に存在し得るはずはないのですが、それなのにそこにあり、そしてこれは唯一のものではありません。この世界には存在すべきでないものが多数あり、我々は世界がそれを見つけるのを食い止めています。

ファトゥカシ博士は一歩後ずさる。

ファトゥカシ: そんな馬鹿な、そんな-

グレイ: 申し訳ないのですがファトゥカシ博士、まだ話は終わっておりません。席についていただけるとありがたいです。

ファトゥカシ博士は躊躇うものの椅子に戻る。

グレイ: ありがとうございます。私はあなたをこのような不名誉な状況に陥らせてしまいました。お詫び申し上げます。私の言ったことを知ったままここを出ることは許されず、我々はそのリスクを取れません。そこで選択肢を提示します。ここを出ても構いませんが、そうするとあなたは全てを忘れることとなります。このミーティング、GVD黒曜石鉱床、そしてきっとあなたの研究分野一通り。現状況では、あなたが再び鉱床に興味を持つ可能性が高すぎるため、我々は許容できないのです。あるいは私と一緒に働いて、何故鉱床が存在するのかの答えを、そして他の人がそれに巡り合わないようにする方法を見つけ出すのを支えるという選択もあります。

ファトゥカシ: わ- これは- 一体どうやって-

グレイ博士は立ち上がる。

グレイ: 一度に受け止めるにはあまりにも多いとは理解しています。外出は許可できませんが、この日の残りの宿泊設備は提供しますので、時間をかけてご決断ください。こういうと予定運命的かもしれませんが、あなたと共に働けることを楽しみにしております。

グレイ博士はファトゥカシ博士に弱弱しく微笑んで部屋を出る。扉が閉じる前に、彼女が震えて息を吐く音が聞こえる。ファトゥカシ博士は座ったまま残り、黙考する。

<記録終了>

上記インタビューの後、グレイ博士はサイト警備員にサイト-229管理官アレックス・アンダーソンのオフィスへと連行されました。

以下はオフィス内で記録された監視映像の転写です。

<記録開始>

アンダーソン管理官は、ダークウッド製でオーストラリア中のマイナーな観光名所の小物がちりばめられた机を前に座っている。左には背の低い鉢植えのヤシの木がある。他には部屋に飾りはない。ドアが開いてグレイ博士が入ってくる。ファトゥカシ博士とのインタビュー中に結ばれていた巻き髪の大部分はほどけており、彼女は震えているように見える。アンダーソン管理官が向かいの椅子を身振りで示すと、グレイ博士は座りに動く。彼女は目を閉じて、呼吸を遅くしながら席につく。目を開くとともに体の震えは止まる。

アンダーソン: 貢献に対する感謝を込めて、あなたをこの研究プロジェクトから外して、せいぜい、降格にするようO5評議会に正式に勧告する前に、自分のしたことを説明するチャンスを与えよう。

グレイ: あなたを管理官として全面の敬意をもって言いますが、私は指示されたその通りのことをしています。

アンダーソン管理官は深く腰掛けて頭を少し左に傾け、当惑した表情を浮かべる。

アンダーソン: ではどういうことだと?

グレイ: あなたの指示をそのまま引用すれば、私の任務は「アノマリーに関する知識が、利用可能なリソースを与えられた財団職員の手に独占的に収まるようにする必要がある」ことであり、まさしくそれが私のやっていることです。その知識を収容し続けるための唯一の倫理的かつ効果的な方法は、ファトゥカシ博士をヴェールのこちら側に引き込むことだと強く信じています。複数回記憶処理を施しても、彼のアノマリーへの関心をくじいたり逸らしたりすることには何一つ繋がりませんでした。現在の収容プロトコルは彼を外に出しておくことにすぐに失敗しており、私のチームにはその目標の達成に必要なリソースが不足しています。この時点で、我々には彼を引き入れるか、ヴェールの完全性を維持できないことを受け入れるかの二者択一です。どちらがお好みですか、管理官?

アンダーソン: それは命令への恐ろしい誤解であるし、あなたもわかっているだろう。好きな言葉で潤色しようとも、そのような無鉄砲な自信を認めるわけにはいかない。残念だがあなたを後任と-

グレイ博士はテーブルに手を叩きつけ、ビッグロブスター、ビッグパイナップル、ゴールデン・ガムブーツのミニチュアを倒す。

グレイ: 誰が後任になるんですか、アレックス? 私を誰と取り換えると? オーストラリア中の全財団職員の中でこの私が地質学の学位を持つ最高位の職員でありながら、上級研究員ですらありません。誰が私に代われるというんです? 辺鄙な場所の「最低優先度」の研究プロジェクトを監督しに-19から誰か派遣されてくるとでも本気で期待してるんですか? あなたもよくご存じだと思いますが、彼らは文字通り鳥頭の天文物理学への理解度と同じくらいしか7186の重力を理解してない無名のイエスマンにバッジをくっつけてくるんですよ。

アンダーソン管理官は眼鏡を外し、親指と人差し指で目をこする。

アンダーソン: 仮にあなたの仮説を受け入れるとして、私に何を期待している? 経理は7186の周辺の週例検査の予算すら割り当てようとしない中で、新しい研究員を採用して雇用するリソースを見つけるよう頼めと?

グレイ: どう頼もうとも気にしません、必要であれば私の賃金から引いてくれと伝えても- 別に使う機会があるでもないですし- しかしそうしなければ、私は退職してヴェールが崩れ落ちるその時まで豪勢に暮らす他ありません。

アンダーソン: グレイ博士、我々は誰も火急鎮静を関わらせたくは-

グレイ: そうでしょうね、だからそうはしないとわかっています。時間を見つけて、資金を見つけて、これを実現してください、アンダーソン。あなたには私が必要であり、私にはファトゥカシが必要です。

グレイ博士は立ち上がって去ろうとし、アンダーソン管理官は憤慨してため息をつく。

アンダーソン: あなたとは一緒に働きにくいと言われたことはないか?

グレイ: しょっちゅう。

グレイ博士は、震える手を白衣のポケットに入れたまま退室する。

<記録終了>

サイト管理官オフィス退出から間もなく、隣接する廊下の監視カメラには両手で顔を覆いうずくまるグレイ博士の姿が映っていました。くぐもった叫び声が記録されました。

補遺6:

サイト-220管理・監督セクション長ドナ・グユラとサイト-220管理官アレックス・アンダーソンとの間での懲戒措置に関する議論の後、ジュリエット・グレイ博士の雇用ファイルに以下の注記が追加されました。

サイト管理官アンダーソンの勧告に従い、ジュリエット・グレイ博士の賃金は最低2会計年度の期間80%削減される。サイト-220管理官オフィス及びサイト-220管理・監督セクション長の合意により、この懲戒処分はこれら懲戒手続きの対象者が犯した契約違反に対する十分な処罰であり、この件に関してこれ以上の処分は不要である。

補遺7:

2025/3/11、研究員のフォロルンソ・ファトゥカシ博士が研究副主任としてSCP-7186研究チームに配属されました。以下のメールがジュリエット・グレイ博士のScipmailアカウントのごみ箱から回収されました。

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: RE: 十分な命綱
日付: 2025/3/11

私が間違っていたと証明してみてくれ。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

補遺8:

2025/12/17、グレイ博士とファトゥカシ博士の共著論文が財団内部査読に提出され、SCP-7186の存在と継続的な安定性の説明を提案しました3。本論文の仮説の核心は、ファトゥカシ博士による、SCP-7186がオーストラリアプレートの束縛から解放されているように見えることの発見です。

オーストラリアプレートは年間6.9cm北に移動しますが、SCP-7186の緯度は最初の発見以来一定であるようです。この観測結果は、ジオサイエンス・オーストラリアによる重力調査の年次評価の際にファトゥカシ博士によって発見されました。SCP-7186が所定の位置で固定されたままであり、SCP-7186周囲のプレートが移動しているように見えるメカニズムは現在不明ですが、ファトゥカシ-グレイ et al.は最初の説明として固定地質点仮説を提案しました。更なる研究が進行中です。

補遺9:

2026/1/4、サイト-220会計部門と解析部門による支出と収容成功率の四半期ごとの共同レビューにより、2025/1/1以来、SCP-7186プロジェクトにかかるコストは9%減少、違反インシデントは23%減少したことが判明しました。支出の主な削減内容は機動部隊の配備と記憶処理の使用の顕著な減少の結果と特定され、解析部門は主にファトゥカシ博士の雇用と仕事によるものと判断しました。このレビューを知り、グレイ博士はO5評議会による判断のためにアンダーソン管理官に以下の提案を提出しました。

From: grey.juliet@220.scp.int
To: anderson.alex@220.scp.int
件名: ご検討のため
日付: 2026/1/25

SCP-7186をSafeからRadixに再分類し、自身の収容のためにプロトコルに組み込むというチームの案を添付しましたのでご確認ください。

簡単に言えば、現在の収容プロトコルを始めとした不明化の層を突破する意欲と能力のある人物を私の裁量でSCP-7186研究チームへ、そして全体としては財団に加わるよう招くことを提案します。

完全な提案書には、研究副主任フォロルンソ・ファトゥカシ博士のケーススタディと彼がSCP-7186の収容と研究の双方にもたらした多大なる利益を使用した、本プロセスの推定費用便益分析が含まれています。彼の雇用がチームに示してくれた成功の再現こそが、問題のアノマリーの進行中の収容への最も効果的かつ生産的なアプローチであると私は強く信じています。

お時間をいただき、そしてご検討いただきありがとうございます。


ジュリエット・V・グレイ Phd.
研究員

アンダーソン管理官はこの案をO5司令部に転送し、SCP-7186プロジェクトをサイト-220の管轄から外して独立した研究部門とする独自の勧告を付け加えました。アンダーソン管理官は以下のメールをグレイ博士に返信しました。

From: anderson.alex@220.scp.int
To: grey.juliet@220.scp.int
件名: Re: ご検討のため
日付: 2026/1/26

グレイ、あなたはもう何年も私にとって靴の中の小石のような存在だ。おめでとう。私のが君より先に折れた。私が間違っていたと証明した。あなたの勝ちだ。あなたはこれまで共に働いた中でも最悪の従業員で、せいぜいご多幸を祈る。


アレックス・A・アンダーソン博士
管理官、サイト-220

補遺10:

O5評議会による投票の後、ジュリエット・グレイ博士はこれより新たに設立された地質学部門の部門長に任命されました。本部門はSCP-7186上の拡張された研究前哨基地を拠点とし、これは以降研究収容サイト-46と改名されます。SCP-7186研究チームの職員全員は地質学部門内の職位に再配属され、更なる追加の職位はSCP-7186研究収容プロジェクトにおいてグレイ管理官が判断した優秀な人物が就くこととなります。

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