SCP-719-JP
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SCP-719-JP実例に共通する表紙のデザイン
タイトルの“犀”は中表紙に記されている。

アイテム番号: SCP-719-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-719-JPの発見と回収/削除は、機動部隊さ-1(“言ノ葉猟友会”)およびWeb走査Bot-31("ヴァン・ペルト")に割り当てられています。SCP-719-JPの実践によってポータルが作成されてしまった場合は即座に現場を封鎖し、可能な限り非致死的に関係者を無力化して、ポータルの拡大とSCP-719-JP-A個体の逃走を防いでください。SCP-719-JP-A個体に直接遭遇した人物や対処に当たった機動部隊のメンバーは、クラスB記憶処理を施した後、2週間の隔離観察下に置きます。汚染が第4段階に達しているミーム罹患者は即時終了されます。

SCP-719-JP-1の探索は既に打ち切りが決定しています。接続されたポータルは可能な限り鉄筋コンクリートを用いて恒久的に埋め立て、影響領域が広大な場合は周辺に境界線を設けて民間人の侵入およびSCP-719-JP-A個体の外部進出を阻止します。封鎖に用いたコンクリート壁は、SCP-719-JP-A個体による内側からの損傷が無いかを3日に一度点検しなければいけません。

SCP-719-JPの異常性の原理の調査と、PoI-5796(“來野彩造らいのさいぞう”)および/または2013年以降の当該人物と交流があった超常芸術家の捜索が進行中です。

説明: SCP-719-JPは、日本国内全域の書店・劇場・図書館・イベント会場のフリーペーパー配布コーナーなどに、見たところ自然発生的な手段を介して不定期に出現する異常な演劇台本です。本稿執筆現在までに回収された全てのSCP-719-JP実例は、出現場所に照らし合わせて適切な装丁が施されていました。

SCP-719-JPの内容は、ルーマニア人劇作家のウジェーヌ・イヨネスコ(Eugène Ionesco, 1909-1994)が1959年に発表した全三幕の不条理戯曲、“犀(Rhinocéros)”を日本語に訳し、一部を改変したものです。SCP-719-JP実例には原作者のイヨネスコの名前と併記して「翻案: 來野彩造」という記述があります(詳細は後述)が、著名は常にオリジナル版と同一の“犀”です。

SCP-719-JPとオリジナル版の“犀”の相違点は以下の通りです。

  • SCP-719-JPの舞台は明治時代初期の日本をモチーフにしたと思われ、登場人物名などはそれに合わせて変更されています。これにも拘らず、登場人物が“ラヂオ”に言及するなどの時代錯誤な描写が含まれます。
  • 登場人物らの台詞には、しばしば韻を踏む独特な言い回しや言葉遊びの応酬がふんだんに追加されています。このため、上演を行った場合は三幕全てがオリジナル版より15~20分程度長くなることが予想されます。
  • SCP-719-JPは小道具の配色や材質、劇中で用いられる効果音、演者の立ち居振る舞いや台詞のテンポなどといった、ストーリーの大筋に絡まない要素を異常なまでに細かく指定しています。この指示を遵守した精度は、後述するSCP-719-JP-1へのポータルの影響規模との間に正の相関性を持っているというのが、現在有力視されている仮説です1
  • 上記とは対照的に、SCP-719-JPには、ストーリーの根幹をなす“犀”の登場シーンの演出に関する記述は殆どありません。舞台外からの出現場面では任意の位置に照明を当てることのみが要求されており、演者が犀に姿を変える場面では角などの小道具が指定されていません。
  • SCP-719-JPの主人公である“辨次郎”は、オリジナル版の“ベランジェ”が人間として生き抜き徹底抗戦を決意するのに対し、最終的には犀の群れに屈したことが示唆されます。

SCP-719-JPは読者に対して微弱な精神作用を齎し、通常であれば過度に冗長と見做されるであろうその内容を肯定的に評価したいという意見を植え付けます。これは周辺人物の反対意見を押し切るほどに強い感情ではなく、またSCP-719-JPを実際に上演したいという発想には直結しない点に留意してください。精神作用は、一幕から三幕までの全てが物理的に一纏めにされている紙媒体のSCP-719-JP実例のみに見られる特性です2

SCP-719-JPの最たる異常性は、少なくとも20名の観客が存在する状況において最初から演じられることで発現します。条件が満たされた場合、演者たちのいる舞台空間には、SCP-719-JP-1に指定される異次元空間へのポータルと、SCP-719-JP-Aに指定される生命体が姿を現します。


SCP-719-JPの公演が進行するのに伴い、SCP-719-JP-Aは作中の展開に合わせてSCP-719-JP-1から現実世界へと姿を現し、段階的にポータルの影響領域を拡大していきます。この間、SCP-719-JPの演者・裏方・観客たちは明瞭に異常な事態を認識しているにも拘らず、演技/鑑賞を続行しなければならないという抗し難い脅迫衝動に駆られます。関与者のおよそ90%が外部干渉によって意識を喪失した時点で、SCP-719-JPは中断されたと見做され、それ以上の領域拡大は抑えられます。
 
作中展開 発生する事象 -A個体
1 舞台はある田舎町。主人公の辨次郎(ベランジェ)と友人の甚平(ジャン)は、1頭の犀が街中を走り抜けてゆく様子を目撃する。奇妙な出来事に町の人々が議論し合う中、別な犀が現れ、住民の一人が飼っている猫を踏み殺して去る。住民たちは犀の出自について意見を戦わせるが、概ねその存在に不賛成である意を表明する。 舞台上にポータルが出現。2頭目の719-JP-A個体が出現する前に上演を中断した場合、ポータルは約25日間で消失する。第一幕で出現した個体2頭は公演会場の外へ退出しない傾向があるため、往々にして事態の発覚が遅れる。 2頭
2-1 舞台は辨次郎の職場。犀の目撃証言を巡って職員の意見が割れる中、欠勤を続けていた猪之助(ブゥフ氏)の妻が犀に追われて職場に逃げ込んでくる。混乱の渦中、猪之助夫人は自分を追ってきた犀の正体が猪之助であることを悟り、共に去ってゆく。 ポータルは拡大し、客席を包括する。出現した719-JP-A個体は、猪之助夫人を演じる役者を背に乗せたまま劇場を退出し、屋外でやみくもに破壊行為を繰り返す。現在まで、劇場外で夫人役が再度発見されたことはない。 1頭
2-2 舞台は甚平の長屋。甚平は体調を崩しており、やって来た辨次郎にそっけない対応をする。2人は人が犀に変身するという事の道徳性を巡って話し合うが、徐々に甚平はヒューマニズムに対する否定的な立場を公言し始める。最終的に甚平の姿は犀と化し、辨次郎は犀の群れが町を蹂躙するさまを長屋の窓から見て恐怖する。 第一場で劇場外に出た719-JP-A個体が騒ぎを引き起こすため、財団が干渉したほぼ全ての事例は第二場が完結する前に抑えられている。完結した場合、ポータルは劇場全体を包み込む規模まで拡張され、劇の中断後も719-JP-A個体が積極的に719-JP-1から出入りするようになる。第二場半ばで中断に成功した場合も、甚平役の演者が719-JP-A個体に変異するのを阻止することは出来ない。 20~40頭
3 舞台は辨次郎の長屋。町の人々は続々と人間を辞める道を選び、ついには“ラヂオ局”さえもが犀に占領される。最後に一人残った知人のお菊(デイジー)も去り、今さら犀になることも出来ずに辨次郎は絶望する。ラストにおいて辨次郎は力なく床に倒れ込み、舞台の奥から“何百頭もの犀が、怒涛の如く”押し寄せてくるという場面で幕が降りる。 現在まで財団が確認しているのは、20██年に██島で発生した1例のみ(事後に発覚)。██島は現在“有害汚染物質流出”のカバーストーリーを以て封鎖され、周辺海域には非常警戒線が設けられている。推定されるポータルの規模は、上演会場だった███氏の別荘を中心とする█.█平方km。現在まで719-JP-A個体群による島外進出の試みは18回行われ、全て水際で阻止された。 未確認

発見ログ: SCP-719-JPはまず20██年11月、機動部隊び-1("美術館")に所属していた超常舞台芸術専門の研究者である鷲岡博士の自宅マンションに未完成原稿の形で送付されてきました。鷲岡博士はこれ以前に異常な芸術作品を扱う要注意団体との直接交流歴を持っておらず、如何にして彼女の住所が特定されたのかは不明です。

原稿は無地の封筒8に入った状態で届けられており、その他に筆跡の異なる2枚の文書が同封されていました。

上記文書の回収からおよそ14ヶ月後、宮城県にある██ヶ所の図書館10で最初のSCP-719-JP実例の完成版が発見されました。以来、財団は現在までに█████冊のSCP-719-JP実例を回収しています。

補遺: 財団の画像認識ソフトウェアは、SCP-719-JP実例の表紙の犀と來野氏の間に100%の一致を示しています。


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來野彩造の既知の最後の写真
撮影日時は未特定だが、GoI-2601解散後と想定される。

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