Info
翻訳責任者: Arl-Sphere
翻訳年: 2024
著作権者: Perdoh
原題: SCP-7256 - Stagnation
作成年: 2024
初訳時参照リビジョン: 24
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7256
オブジェクトクラス: Pending
特別収容プロトコル: SCP-7256の正体に関する調査を行って下さい。オーガスト・ジョレル研究員はSCP-7256に関する研究に着手しました。ジョレル研究員がアノマリーに関して収集した全ての情報は、ジョレル研究員が基底現実世界に帰還した際に適切な財団職員に提供されます。
当ファイルのコピーは、異常空間に転送される可能性のある他の対象に通知するためSCP-7256 内に保管されます。
現在の状況及び基底現実世界におけるアノマリーの発現の原因に関する情報の欠如を考慮すると、収容は不可能であると推定されます。
詳細: SCP-7256は基底現実世界の外部に存在する異次元空間であると理論づけられています。SCP-7256は、未知の組成を持つ固体で構成された白い"床"を持つ白色の無限空間として認識されます。
唯一、当空間との識別が可能な目印は、独立した造りを持つ石造の両開き戸です。各扉の高さは約4m、幅は約2mです。どちらも同様に石造の戸口に嵌め込まれており、照明側の表面には「WHO GROWS LEAVES」という文言が刻まれています (SCP-7256内の照明は拡散しているように認識されますが、空間内の物質には認識可能な陰影が発生します。これらの影は地面に対し約80°の位置から発せられた光線によるものと一致しています)。以降、扉及びフレームはSCP-7256-1と指定されます。現在、SCP-7256-1の継ぎ目を通過する光線は観測されていません。
SCP-7256への対象の転移は、未知の手段を通じて発生することが確認されています。
SCP-7256内では地面に対して垂直に重力が働いており、地球の表面で感じる重力と一致しているように見られます。空間内の大気組成は不明ですが、研究対象 (ジョレル研究員) の呼吸は阻害されておらず、健康状態への悪影響は確認されていません。
追記: ジョレル研究員は2022/2/2の14:00から15:30の間にSCP-7256に転移しました。この間、ジョレル研究員はサイト-72の南東棟でセミナーに参加していました。対象はセミナー中に眠りに落ち、転移時に着用していた衣服や物品を保持した状態でSCP-7256内で目覚めました。これらの物品には以下が含まれます。
バックパック1個
ノート1冊
主祷文が記された紙片1枚
芯鉛筆3本
黒マーカー1本
クレジットカード5枚と$50紙幣が入った財布1個
充電が未完全なスマホ1台
メモ: 先日はよく眠れなかった。ちょうど気を失ってしまった。幸いに思うべきなのは、仮に私が別のことをしているときにここに転移させられていたならば、筆記具が一切手元に無かっただろうという事だ。
補遺 7256/1: 以降、ジョレル研究員によるメモの文章量と頻度は制限されます。これはSCP-7256に関連する発見や最新情報を記録するための筆記具及びノートの余白の確保を目的としています。
調査7256/1: SCP-7256には明確な特徴がないように見受けられるが、周囲の状況を確認するため探索を行った。探索はSCP-7256-1を中心に外側へ螺状に広がるよう行われ、推定距離100m地点に到達した。
所見: 重大な発見はなかった。
調査7256/2: 光源の位置を特定するため、光源が落とす影の反対方向、要するに光源の見かけの方向に向かい遠征を行った。遠征中のいくつかの地点で、約10cmの紙片が落とす影の長さを即席の紙定規で測定した。
所見: 調査は少なくとも1kmに渡って行われたが、SCP-7256-1を見失う危険性があったため中断された。遠征中、影の長さに可視的な変化は見られなかった。
実験 7256/1:
説明: | SCP-7256-1を開ける試み。最初に照明がより当たっている側を押し、次に影になっている側を押した。 | ||
結果: | SCP-7256-1は停止する前にわずかに動いたように見えた。これはロック機構またはその他の停止力の存在を示唆している。両側で同一の結果が得られた。 |
実験 7256/2:
説明: | SCP-7256-1に刻まれた質問に返答する試み。音声による回答は口頭で行われた。さらに、回答に対応する絵と単語が書かれた紙片をSCP-7256-1の下に滑り込ませた。 | ||
結果: | 「木」、「植物」、「植物界」、「被子植物界」、「地獄の自殺者」、またはその他の回答による変化は見られなかった。 |
メモ: 私は馬鹿だろう?これは質問じゃない("WHO GROWS LEAVES?"「誰が葉っぱを育てるのか?」)。声明だ("WHO GROWS, LEAVES."「成長する者は去る。」)。これを書いた奴はクソだ。
実験 7256/3: ムキムキになる時だ
詳細: | 身体的活動を実践し、生理的状態の移行の程度を試す。また肉体的筋力の増強と定期的な運動による精神的成長の経験も目的にしている。 | ||
結果: | ストレッチを行った後、30回の腕立て伏せを行った。SCP-7256による生理機能に対する異常性により、肉体疲労の兆候は見られなかった。以降3000回まで続行しそれ以外にやることがないのだから、同様の結果が観測された。 |
メモ: 筋肉の成長には、繊維の損傷と再構築が必要だ。古い格言にある"痛みなくして得るものなし"は生物学的には真実なのだ。いつものように、私は何か間違ったことをしているに違いない。精神的にもかなり参っている。だが、このまま続行する他ない。
説明: | 過去の負の経験を克服することで心理的成長を体感するための試み。過去の感情的な経験は、他害行為、他人から自分への危害、そして自傷行為の3種の科目に分類され口頭で列挙された。「許して先へ進む」努力の一環として、各科目毎に熟考する時間を取った。 | ||
結果: | 施行は中止された。 |
メモ: 申し訳ないが、これは恐らく無効だ。特に私が犯した過ちについては項目が多すぎて、まだ何かを見逃しているような気がする。例えば、私はある時点でとある子供に対して間違えたことをしたのは覚えていたとしても、私は何をしたのかさえ覚えていない。これでは何の助けにならなければ、如何なる結果を伴うこともないだろう。
実験 7256/5:
詳細: | 固形物を摂取する試み。SCP-7256-1による人体の消化活動への影響の範囲を確認することを目的としている。 | ||
結果: | ペンのキャップを経口接種したが、何も感じない。排便は不可能なので、恐らくこのまま腸に留まるだろう。 |
メモ: 私は永遠にここに留まり続けるんじゃないだろうか?
実験 7256/3: SCP-7256-1に対する徹底的な調査は未だ行われていない。上に何かが乗っている可能性も捨てきれない。登ってみよう
無理だった。
実験 7256/6: 生理的状態はあらゆる手段を通じても変化しないのに関わらず、自傷行為は可能だというのには何かしらの意味があるに相違ない。
説明: | ドアに体当たりしてみる。一体、上手くいってドアが開くか、あるいは私の状況を監視する、私の"成長"の審判者を宥めるために自傷行為を続けるか。 | ||
結果: | 右腕を酷く痛めてしまった。恐らく骨折はしていないと思うが、私はこれほど愚鈍な人間ではなかった。左腕を使っているから、まだ筆記は可能だ。当分休む。 |
メモ: 痛い
だがそれが痛覚であろうと、何かしら体感する事ができたのは気分が良かった

補遺 7256/2: ジョレル研究員の精神状態の悪化に伴い、補遺7256/1に記載された措置は無効化されました。個人ログは、当ファイル内に指定された区分間にて実施されます。
個人ログ 1:
ああ、退屈だ。言うまでもなく、ここではすることが殆どない。一人きりでいる時の心境は耐え難いものだ。ありがたいことに、時間を潰すための方法は数多ある。計数に、睡眠に、描画に、祈願に、筆記に、

見たところ私は自殺しない限り、ここで死ぬことさえできないようだ。私はここでは不死身なのだ。大勢が欲していた異能が、個人的な煉獄の一形態としか思えないような形で私が賜ったと思うと、心なしか滑稽だ。

個人ログ 2: あの精神科医のステバン博士がどう口を挟んでくるかは分からないが、私のこの限られた知識の中では、特徴のない空虚な空間に長時間滞在することは脳に良くないと確信している。よって私は退屈する事がないように、何かしらに没頭し自主的に刺激を受けようとしている。静寂が耳障りなので、鼻歌や歌、独り言やその他の雑音で聴覚を満たそうとしている。この孤独感をどうにかしたい。少なくともサイト-72の植物学研究室は白痴どもで溢れかえっていた。


もっとも、奴らが私の孤独を癒してくれたとは言い難いが。
個人ログ 3: 最近は時間の経過を数えている。この場所で時刻にある程度の見当をつける方法の1つだが、実際にどれほどの時間が経っているのかを理解するのは少し恐ろしい。この場所の外でも、時間は同様の速度で流れているのだろうか?奴らは私がいなくなったことを気にしているのだろうか?植物学部門の連中は、同僚が消えたことを喜んでいるのだろうか?私は消えたのか?私は死んだのか?私は私自身が成長するまで、どれだけ待たなければならない?私は一体どうすればいいんだ?
激昂、苦悶
痛苦に対峙し
主の御影を抱く
僅かな肉
主の肉体は再び
我らに与えられたのやもしれない
力を入れろ、立ち上がれ
また1日
そしてもう1度
おい、確かに私は成長した!もういいからドアを開けてくれ!あなたが気になさっていたのだとしても、私はもうこれ以上

不安になる
もう時間を数えるのはやめた方がいいと思う
個人ログ 4: 私はどうすれば成長できる?精神的な変化か?薬は辞めた。主が私を見ていらっしゃったのならば、SSRIが私の精神にもたらす変化をご存知であるはずだ。もっともそれを服用していようがいなかろうが、生理学的にナンセンスであることを考えればここでの違いはないだろう。

その理由がどうであれ、恐らくは私の過ちのせいでしょう?
個人ログ 5: 結局のところ、一度だけ眠ることにした。SCP-7256以外の場所にいる夢を見ている最中は気分がいい。夢の内容については記憶にないが、目覚めた際に精神状態が大きく変化していたことから、現状とは全く異なる内容だったに相違ない。
いつから私はこのような精神状態でいるのだろうか?幾度となく負の感情を膨らませ、幾度となく不埒な事象に考えを巡らせているのだろうか?私は、私の周囲を取り巻き、かつ胸中にトグロを巻く空虚さから私の心を解放する、何かの救済を求めるべきだ。
補遺 7256/3: 以降、睡眠中に観測した最後の夢に後続して睡眠を取り、観測した夢を記録することとする。これは、SCP-7256-1の定義による「成長」を促進する可能性のある潜在意識の心理的洞察を明確にするため行われる。
メモ: これは現実逃避ではない。これは研究者としての義務の延長であり、SCP-7256を去るための努力の一環として行ったことだ。
夢のログ 1: 私は庭園を見た。そこは活気に溢れ、花が咲き乱れていた。まだ新芽の小さな木の側で子供が遊んでいた。私は岩石の多い不毛な丘からその様子を見ていた。私は一本の木の横に立っていた。その木が葉を茂らせ、実を結ぼうとしているのは明確だったが、根が無かった。
あれは私だったのだろうか?
私は私自身が、夢を解析できる聖ヨセフ程の人間であるとは思えない。
夢のログ 2: 残念ながら、私はまた目覚めてしまった。つまり、今からログを取るということだ。
楽しい夢だった。私は、大学時代からの友人が多く集まったパーティーにいた。彼らは卒業時から歳を重ね現在の年齢になっていた。困難な時期に私が助けた奴ら。一緒に笑った奴ら。一緒に成長した奴ら。また会いたいものだ。大学を卒業してから、彼らに最後会ったのがいつだったのかさえ思い出せない。近頃思い出すことといえば、財団での仕事のことばかりだ。
とにかく、私はその場で過去の想い人に会ったのを覚えている。赤いドレスを纏った彼女は非常に美しかった。私は何年経っても彼女のことを忘れられなかった。彼女は私を抱きしめたが、私の耳元で、私は凄惨な間違いを犯したのだと、私が彼らを見捨てたのだと言った。冷静になって考え直すと意味が分からないが、夢の中では私は動揺しそれを認めた。
夢のログ 3: 何故私はまだここにいる?私はしばらくの間、こちらが夢だと本気で思っていた。ともかく私は夢では群衆の中にいて、私に手を差し出してくる人々を避けていたことを覚えている。彼らについて面識があるように感じたが、一切が思い当たらない。どうでもいい。とっとと眠りに戻らせてくれ。
夢のログ 4: 私はここに居たくないのに、今、負の発想と感情からの唯一の逃げ場が奪われてしまった。夢の舞台はまさにこの空間だった。内容については話したくない。
補遺 7256/4: 以降、睡眠と夢の記録は控えるものとする。最後の夢はSCP-7256を舞台としたものであったため、私が起きているのか寝ているのか判別しなければならないという新たな課題が生じている。この問題は睡眠の停止によって回避できるが、SCP-7256内での睡眠の停止は生物学的に悪影響を及ぼさないことが既に立証されている。

自らの大過、性格上の重大な欠陥、誤った選択、そしてそれが私の人生にもたらした悪果によって私は最悪な気分になる。だがそれらに加えてさらに私を酷く傷つける些事がある。孤独感の観点から考えれば、例え後悔しようが時間の浪費とキャリアの低下を誘発する映画鑑賞を諦めるのに比べれば、リームス博士の前で二度と失言をしない方がよっぽどマシだ。恐らくそれはそこに内含される快楽と関係があるのかもしれない。あるいは不快感が広がることに関係があるのやもしれない。誰にも分かるものか。
そうだ、私は悲惨な小男だ。恐らく私はこの孤立に値する存在なのだろう。
お前は私には敵わない
お前に価値はない
地獄の業火にその身を焼かれてしまえ
私はエントロピーだ
私はお前に見えている以上の人間だ
私は万物の終わりだ
だが、私はどうすれば成長できるのだろうか?苦しい。傷つきたくない。別の選択肢としては、延々とここに留まることも可能だと思う。
必ず、私はいずれ成長する。
ああ、主よ
この苦難の内から
私を御守り下さい
潮流と瓦礫の下から
私を御救い下さい
天上から水溜りへと堕落した私を
どうか御許し下さい
そして私をあなたの御翼の陰に、皆が身を寄せ合い身を避けている中に
どうか連れて行って下さい
最悪なのは、俗世のしがらみに囚われることがなく自由かつ平和であるこの世界に、私は満足しなければならないということだ。ここは他の奴らにとっては天国かもしれない。私が財団にいた頃は陰惨だった。職務も職員の奴らも気に食わない。恐らく奴らも私のことを嫌っているだろう。確かにここには映画も植物もないが、正直に言えばほぼ気にもしていない。私は相も変わらず孤独だ。相も変わらず、説明のつかない罪悪感に苛まれている。相も変わらず、途方に暮れている。この世界が私にしてくれたことといえば、私の猶予と気晴らしを全て掠め取り、私の人生が如何に生き地獄であるかを明白にしたことのみだ。
クソみたいな場所だ。

実験 7256/4: 私は考えなければならないのに、このドアを見ていると気分が悪くなるので今から散策に出向く。いつ戻ってくるかは分からない。一体、戻ってくるのかさえも。
私は、もうドアは見つからないと思っていた。どれほど長く歩いたのかは分からないが、今となってはそんな些事は問題ではない。
歩いている間は様々なことを考えたが、その大半は今となっては思い出せない。だが、恐らく私が考えるべき最重要事項は財団から去る事についてだ。
私が最後に見た夢の中で私は怒りに身を任せドアを破壊し、そしてその後には絶望感のあまり自滅した。その光景は私にとって恐ろしいものだった。
だが私は疑問に思った。何故私がこの世界から去ろうとしたのかについてだ。仮に私が元の世界に戻れたとして、何が私を待っている?嫌いな職務?くだらない映画?表世界の安寧のために、暗闇の内に死ぬという誓い?何故私は戻りたがっていたのだ?何故財団を捨ててここに残ろうと思わなかったのか。
そういったことを考えている内に、私はこの感覚に対する既知感に襲われた。普通であればこういった考えは無碍に扱われるものだが、他にする事がなかったため、私はその直感を追求することにした。頭の中に何かが浮かぶことはなかったが、私は何かがあるべき場所に欠落を見つけた。そこには後悔と憧憬の念と、1人か2人かの人型だけが存在していた。
記憶処理剤は存在し、本人が望むか望まざるかに関わらず、財団職員に対して頻繁に使用されている。何故私にはここに留まるという選択肢が思い浮かばなかったのか。何故自分の私生活が思い出せないのか。何かがおかしかった。何かが欠けていたのだ。それが無ければ、私は悲惨なままだ。
私は財団を去る。何処かは分からないが、私にはさらに良い場所があるに違いない。私は神の御許に帰る。
今、ドアが開き、私の前に庭園が広がっているのが見える。葉で茂った木々が成長し、実を結んでいる。そして私は今、その中にいるのかもしれない。
CONGRATULATIONS!!
