SCP-7324

/* These two arguments are in a quirked-up CSS Module (rather than the main code block) so users can feed Wikidot variables into them. */
 
#header h1 a::before {
    content: "SCP Foundation";
    color: black;
}
 
#header h2 span::before {
    content: "Secure, Contain, Protect";
    color: black;
}

カノンハブ » トラッシュファイア » あなたにはその価値がある、誓って言うよ

評価: +8+x
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データベースID: SCP-7324

アノマリークラス: Keter

収容ステータス: Uncontained

収容プロトコル: 一般大衆が認知している範囲において、SCP-7324は変哲のない非異常の裏メニューの1つであり、任意の場所で購入が可能です。SCP-7324を認知している人々の大半は異常性に気付いていないか、または胡乱な主張を行う集団に属してしまっています。

アメリカ合衆国内全てのフードサービスを利用する事業施設を監視することは財団が有する能力の範疇を超えています。そのため、渉外部門と財団内部諜報部門により、可能な限り多くの事業施設に財団の監視機関へ協力するように経済的な圧力がかけられる手筈となります。一部を除き、主要となるフードサービス事業法人は大半が財団の掌握下にありますが、中小企業や個人事業主の多くは未だに監視下にない状態です。SCP-7324それ自体の情報を抑制することは技術的観点からは可能ですが、認知する人口が比較的に少数であることを理由として現時点の優先事項とはされていません。

現在、監視下にない異常団体、具体的にはコカ・コーラ社ないしキューレグ・ドクター・ペッパー社の関連子会社が関与する違法薬物取引の調査に注力しています。

財団ないし関連組織が拘留する異常犯罪者Para-criminalsに対して、異常薬物 — とりわけ麻薬や運動機能向上薬 — の販売・製造に関する定期的な尋問がSCP-7324収容チームにより行われる予定です。当該薬物の使用に関する情報を告発した人物にはその後の処分において全面的な免責が認められます。

説明: SCP-7324はアメリカ合衆国全土 (主としてディープ・サウス1として知られる地域) のレストランおよび娯楽施設で提供されるドリンクメニューです。注文客がメニューの正確な名称を知っている限り、店舗による差異がありますが、SCP-7324はいずれの飲食店においても注文することが可能です。

大抵において、SCP-7324は以下に示す材料から作製されます。

  • 全乳 3/4カップ (177g)
  • ストロベリー・アイスクリーム ディッシャー(大サイズ)3杯
  • ストロベリー・シロップ 小さじ4杯
  • シロップ 小さじ3杯
  • 糖質系甘味料 1カップ
  • 炭酸飲料 (スプライトまたはスターリー)
  • バニラエッセンス 大さじ1杯
  • ホイップクリーム
  • スプリンクル

材料は全てまとめられて30秒~1分間ミキサーにかけられます。その後は冷凍庫ないし冷蔵庫で冷却されるのが典型的ですが、攪拌物が全く固まっていない条件において、冷却のために用いられる機器や時間は多種多様です。

この段階で、材料が一つとなり、注文メニューであるSCP-7324となります。


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前記: 以下の記録はミシシッピ州 ガルフポート所在のマクドナルド店舗の監視カメラで撮影されたものです。SCP-7324が注文されるプロセスの実例説明となっています。

<記録開始>

[1組の父親と娘が店舗正面口付近のボックス席に座る。父親が目の前のテーブルに財布を出して小銭を整理している。娘が店舗ロビーを走り回っている。従業員2名が店舗奥に確認できるが他には誰もいない。]

[娘がボックス席に向かって駆け寄ると父親の片足を引っ張る。父親がテーブルに小銭を落として撒き散らす。父親が固まるが、テーブルから身を乗り出して娘に笑顔と視線を向ける。]

父親: おやおや、これはこれは。何用ですかな?

[娘が父親の膝を手のひらではたいた後、父親の座る横によじ登る。娘が体を前後に揺らす。父親もそれに倣って前後に揺れる。娘が突然動きを止める。同時に父親も動くのを止める。]

娘: おねがい。

父親: "おねがい" できる?

[娘が顔をしかめる。]

父親: ごめんごめん。"おねがい" どうぞ。

[娘が小銭の山に視線を落とした後に父親を見上げる。音を立てずに手のひら同士を合わせる。]

娘: シェイクを買っちゃダメですか?おねがい。

[父親の笑顔が消える。険しい表情で小銭に視線を落とし、それから娘を見つめ直す。]

父親: うーん、ハニー、今ちょっとお金がねぇ、ないんだよねぇ。

娘: おねがい。わたしが自分で注文するから。

父親: [笑う。] どこに出かけてもあのシェイクを欲しがるんだね。ホントに自分でできる?

娘: できる、きっとできるよ— これからはもう何もお願いしないから。

父親: 誕生日でもおねがいしない?

娘: 誕生日まではおねがいしない、じゃダメ?

[父親が顎に手を当て頬を膨らませながら、考え込む様子で背もたれに身をもたれる。店舗内を見回す。その様子を見た娘がクスクス笑う。父親が娘に視線を向け、微笑みながら身を乗り出す。]

父親: よし決まり。はい。[父親が娘に20ドル札を手渡す。] なんて名前か覚えてるかな?

娘: えっと、スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイク。

父親: お上手。あそこに並んだときには、もう少しゆっくり言ってちょうだいね?

娘: うん。センキュー、センキュ、センキュー…

[娘が20ドル札を受け取りながらブツブツ呟き続ける。ボックス席から降りて店舗ロビーを曲がり、カウンターの方へ走っていく。1名の従業員がレジの画面をタップ操作している。娘が近づくのに合わせて従業員が顔を上げる。]

従業員: あら、こんにちは。もう1周したら戻ってこようか?

娘: ちがうよぉ。シェイクを注文したいの。

[従業員が再びレジの画面をタップし始める。娘を見つめ直す。]

従業員: もちろんどうぞ、お嬢ちゃん。どのシェイクかな?バニラに、チョコレートに、イチゴに、あとは、ミントとか…

娘: あの— あの— えっと、スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイク。あの。おねがい。

従業員: えぇ、えぇ…

[従業員が注文を入力する。それから帽子を脱いで額の汗を拭い、また帽子を被る。]

従業員: 15ドルになります、いいかな。

[娘が20ドル札を渡す。従業員がそれをレジに入れ、5ドル札を取り出して娘に返す。娘は驚いた様子である。]

従業員: すぐに出てくるからね。ごひいきありがとうね。

<記録終了>


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前記: 以下の記録はテキサス州 アポパチェ所在のSpicy Crust Pizzeriaスパイシー・クラスト・ピッツェリア の監視カメラで撮影されたものです。

SCP-7324の調理について訓練されていないにもかかわらず、財団フロント企業の従業員が注文客にSCP-7324を提供できることは留意すべき点です。

以下の記録はSCP-7324の調理方法が店舗ごとに異なることを説明する実例です。スパイシー・クラスト・ピッツェリア店舗内でのSCP-7324調理に用いられた材料と方法が記録に含まれます。

<記録開始>

[10代の若者のグループがクスクス笑いながら、ヒソヒソ声で会話しながら入店してくる。カウンターの向こう側の従業員と店舗角のボックス席に静かに座っている家族以外は誰もいない。]

従業員: [笑顔で。] いらっしゃいませ、スパイシー・クラスト・ピッツェリアへようこそ。念のためお知らせしますと、あと30分で閉店になりますんで— 私がお手伝いできることがあれば何でも言ってくだされば。

若者1: えぇ、結構です。

若者3: どうもでーす。

[グループが談笑しながら家族の隣のボックス席に座り込む。若者4・5が若者6の電話画面を一緒に覗いている。スパイシー・クラスト・ピッツェリアのデジタルメニューを見ている。彼女たちがメニューを指差し、同意を求めて互いに顔を見合わせたあとに頷く。]

[若者1が従業員に手を振る。従業員が戸惑いながら見つめ返す。若者1が再度手を振り "こっちへ来い" のジェスチャーをする。従業員がため息をついてカウンター奥から出てきてボックス席に近づいていく。]

従業員: どうも、みなさん。ご注文は?

若者6: えーっと、わたしたち [若者4・6をジェスチャーする。] はダイナソーズ・ディライト2をラージサイズで。

従業員: えぇ。

[従業員が若者1-3の方を向く]

若者2: ナン生地のヴィーガンピザを、ソース多めで。

従業員: はい。

若者3: わたしは、あー、ペパロニピザにスパイシー・クラスト追加を1つ。

従業員: えぇ。

[従業員はメモ帳を取り出し、鉛筆で注文を書き始める。ちらりと顔を上げて微笑む。]

従業員: 以上ですか?

[テーブルの一番向こう端、他の若者の影に隠れてほとんど見えていなかった若者1が手を挙げる。]

従業員: あら、失礼しました、伺います。どうぞ?

若者1: スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイクをいただくわ。

[若者たちが笑い混じりの姦しい黄色の声を上げる。中にはテーブルを叩いて叫ぶ者もいる。若者4は恥ずかしさのあまり顔を隠し、若者2・5は互いの肩を抱き合って揺さぶり合う。若者1が誇らしげな笑みを浮かべながら背筋を伸ばす。従業員が困惑の表情で若者たちを見つめる。後ろのテーブルの家族が一斉に顔を上げる。幼い息子が笑う。]

従業員: あー。[メモ帳に書き込む。] ええ、承知しました。すぐにお持ちしますから。

[若者たちが互いにひそひそ話をしたり、携帯電話をいじったりするのに戻る。後ろにいた家族は食事を終えて、自分たちの食べ残しを捨ててトレイを返却する。その様子に気付くことなく、従業員が背を向けてカウンターの奥の厨房に向かう。2人の調理役がいる。]

従業員: あのー。

[片方の調理役がタバコに火をつけながら裏口から出て行く。残された調理役が従業員を睨む。]

調理役: あんた正気?

従業員: わかってます。わかってますから。

調理役: 閉店まで残り30分なんですけど。

従業員: わかってますって。ごめんなさい。

[調理役がため息をつき、手を差し出す。従業員から調理役に差し出されたメモ帳がひったくられる。それを読むと、彼女はしかめ顔で首を横に振る。]

調理役: シェイクの作り方は知ってるでしょうね?

従業員: この、なんだっけ、ストロベリーなんちゃら?まぁ。

調理役: なら… それを作ってもらって。あのクソアマどものフードはこっちで何とかするから。じゃあ、お願い。

従業員: はい。

[調理役が厨房奥へ去っていく。パチパチとオーブンが燃える音が聞こえる。従業員がため息をつき、顔を撫でると冷蔵庫の方を向く。冷蔵庫を掻き分けて取り出した大量の材料を抱える。バランスを崩さないように苦戦しながらカウンターに向かう。カウンターに乗せられたミキサーのコンセントは抜かれている。ミキサーの横に材料を置く。]

  • 全乳 3/4カップ (177g)
  • ストロベリー・アイスクリーム ディッシャー(大サイズ)2杯
  • ストロベリー・シロップ 小さじ4杯
  • シロップ 小さじ3杯
  • チェリーコーク 1カップ
  • バニラエッセンス 大さじ1杯
  • ホイップクリーム

[初めにアイスクリームを、次に無フレーバーのシロップ、ストロベリー・シロップの順にミキサーに投入する。アイスクリームの上にホイップクリームで円を作り、さらにその上にバニラエッセンスを振りかける。従業員が両手を腰に当てて後ろに下がり、思い出したようにチェリーコークを前述の混合物に注ぐ。]

[従業員がミキサーのプラグを差し込む。ミキサーに蓋をして攪拌時間1分でセットする。攪拌が始まると従業員がカウンター下の引き戸を開ける。]

[おおよそ20秒後、従業員が再度映る。]

  • ブラウニー・チャンク

[従業員がミキサーの撹拌が終わるのを待つ。攪拌が終わり、大型のプラスチック製スプーンを手に取った従業員が容器内のブラウニー・チャンクをほぐしながらかき混ぜ始める。チャンクが容器全体に均等に広げられると、従業員がミキサーボトルを本体から取り外してプラスチックのカップに注ぐ。]

[カップを持って蓋をした後に冷蔵庫に戻る。上段の冷凍室が開けられる。カップを冷凍庫内部に置く。携帯電話を取り出してタイマーを5分でセットする。冷凍庫を閉めてそのドアにもたれかかる。]

従業員: このシェイク、ホントに大っ嫌い。マジで。

[もう一方の部屋から調理役の不満の声が聞こえる。]

<記録終了>


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前記: 以下の記録は、ウィスコンシン州 マリオネットの娯楽施設ShowBiz Pizza Placeショービズ・ピッザ・プレイス (現 Chuck E. Cheese'sチャッキー・チーズ)3 店舗の監視カメラで撮影されたものです。これ以降、当該の店舗では異常性の発現が確認されていません。

当該の遣り取りの前提となる情報は明らかとなっていません。

<記録開始>

[棚にはアニマトロニクスの部品が整然と並べられている。棚の傍には張り紙のされたドアがあるがその文字は判読できない。部屋の中央に置かれたテーブルの上にはヒグマのアニマトロニクス "ビリーボブ・ブロッカリ" の頭が置かれている。足音が聞こえる。]

声: 入りますよーっと、リアム4、おめぇイタズラすんでねぇど—

[ドアノブがガチャガチャと動かされる。多少手こずる様子が見られた後にドアが開く。グレーのオーバーオールを着用した清掃用務員が戸口に立っている。]

用務員: うんうん、素直な良い子ちゃんだ。

[用務員はピンク色の液体が半分ほど入ったプラスチック製のカップを手にしている。曲がったストローが刺さっており、部分的に噛み切られている様子である。用務員が部屋に進入してテーブルに向かって歩く。身をかがめて、テーブルの下からゴミ箱を取り出す。アニマトロニクスの頭を確認し、動作を止める。]

用務員: ちょっと一杯やろうかい?

[用務員がカップを振りながら頭に向かって差し出す。]

用務員: 一杯やるべ、おっきなクマっこ?

[用務員が微笑み、頭の顎部プレートの間にストローを挿入する。カップを前後に動かし、ズズズと啜る音を自身の口で立てる。ケラケラと笑いながらストローを頭から抜く。]

用務員: [ステレオタイプな "田舎者風" の訛りで。] 用務員さぁん、いっつも親切にしてくれてどうもね~。[元の声で。] おうよ、ビリーボブ。おめぇは世界で一番好きなクマっこだよ。

[用務員が声を抑えるように再び笑い、カップを見て黙り込む。]

用務員: おりゃあ一体何してんだ?

[用務員がゴミ箱にカップを放り捨てようと試みるが狙いが逸れる。カップが床を跳ねて蓋が外れる。こぼれた液体によりピンク色の線が3方向に伸びていく。]

用務員: あんれま— ちょっち老いさらばえたかね。リアムが引っ張ったんだか。まったく。

[用務員がアニマトロニクスの頭に背を向け、腰をかがめてカップを拾う。顔をしかめながら両手でカップを持つ。テーブルの方を向き、カップをゴミ箱に落とす。脚を使ってテーブルの下にゴミ箱を戻す。用務員が戸口から出て行き、後ろ手にドアを閉める。しばらくの間、足音が聞こえる。]

["ビリーボブ・ブロッカリ" の両目が細められる。床にこぼれた飲み物を見つめる。監視カメラに視線を向ける。ドアの方を見遣り、そしてこぼれた飲み物に視線を戻す。顎部プレートが軋みながら開き、閉じる。]

ビリーボブ・ブロッカリ: スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイク

[唸る。視線が監視カメラの方に向け直される。約40秒に渡って微動だにしない。]

ビリーボブ・ブロッカリ: このままじゃいけない、少年少女たち。これからの将来、ツケを払わされることになるんだ。

[視線が元あった位置に戻り、顎部プレートが緩む。足音が聞こえる。ドアが開き、シミ抜き剤とピンク色のボロの織物を把持した清掃員が映る。床に屈み、ピンク色の液体でできた3本の線に向かって這っていく。拭い始める。液体が床に飛び散る。シミ抜き剤を吹きかけて再度拭う。液体がタオルに吸収される。拭っては吹きかける動作を繰り返し、液体がなくなる。]

[用務員が身体をひねり、織物をゴミ箱に捨てる。シミ抜き剤を床に置いた後、立ち上がってアニマトロニクスの頭に向き合う。腰に手を当てながら、大きなため息をつく。]

用務員 んじゃあ。おやすみな、ボブ。

[用務員が振り返りながら後ろ手にドアを閉めて去る。床にはシミ抜き剤が残されたままである。カチリと音を立てて店外の明かりが消える。足音が聞こえる。そして何も聞こえなくなる。]

<記録終了>

経緯: SCP-7324は一般生活におけるニッチな関心事として少なくとも20年以上前から認知されており、2003年のジョージア州 カレッジパークのチックフィレイにて最初の注文が記録されています。しかしながら、当該物品周辺であからさまな異常現象が発生しなかったため、その存在に対して正常性機関はほとんど注意を払いませんでした。

2023年現在、SCP-7324からは化学的に中和された "悪魔ドラッグ" が検知されており、当該物質の含量が増加していることを理由に調査対象に指定されました。

"悪魔ドラッグ" は死亡した妖魔界実体 (一般的呼称では悪魔) の臓物ないし身体部から精製される運動機能向上薬の一種です。当該の薬物群はSCP-7324から発見されましたが、運動機能向上成分は取り除かれているようです — 事実上、SCP-7324の飲用者の体内には妖魔エネルギー(または悪魔エネルギー)が蓄積されたままとなりますが、肉体的・精神的な変容や異常能力の形成は見受けられません。

SCP-7324のレシピに "悪魔ドラッグ" を取り込む厳密な方法はその地域や事業施設ごとで異なります。

アメリカ合衆国中西部においてはストロベリー・アイスクリームの代わりに新鮮なイチゴを使用するレストランが大勢を占めており、薬物の有機成分がイチゴ内部で増大、あるいは成分同士が結合していたことが判明しました。この事象がどのようにして成り立つかは不明であるということに加えて、イチゴ産業が全世界規模に跨るという特質から当該のレストラン群へイチゴを調達する農園について調査することは困難であると判明しています。

同様に、アメリカ合衆国南西部においてはペプシコ社からレストランに出荷されるスターリーが妖魔エネルギーに汚染されている事象が多数報告されています。当事象は散発的に発生しており、財団が支援する調査においても、同様に成果はほとんど出せていません。

アメリカ合衆国の他の地域に存在するレストランについては調査中となります。

現在のところ、SCP-7324自体は以前より存在したアノマリーであり、何かしらの実体/団体によって当該アノマリーの性質が改変されているという説が有力視されています。改変の最終目的は明らかとなっていません。


補遺7324.6 | 事案006 (サイト内カウンセリング・セッションの映像記録)

セラピスト: こちらで再びお目にかかれて嬉しく思いますよ。少し心配してましたから。アポパチェは住むには厳しい場所ですし、スパイシー・クラストも働くには辛い場所ですしね。

[セラピストが椅子の背もたれにもたれかかりながら静かに笑う。カチカチと意味もなくペンを鳴らす。]

セラピスト: それで、どのようなお考えで?今日、こちらまでいらしたのは何用です?

従業員: [そわそわと体を動かす。] そのぅ。ややこしいです。他にどなたへ報告すべきか考えあぐねまして。私が知っている一番に身近な財団へのコネクションがあなたでした。

セラピスト: なるほど。

従業員: つまりは、えー、SCP-7324に関してです。

[セラピストが身を乗り出し、興味あり気に両手を合わせる。]

セラピスト: なるほど。内容は収容チームに提供してもよろしいでしょうか?

従業員: えぇ。えぇ、もちろん、もちろんです。

セラピスト: 重畳です。では、お教えていただいても?

従業員: ピザ屋というのは、あー、子供たちがちょっと立ち寄るホットスポット、そんな感じのものでして— たいていの場合は長居しません。料理を注文したら失せていく、そんな具合です。でも最近では何百人もの子供たちが次から次にやってきてやがるんです。さらに、どの子もどの子も同じものを頼みます。

セラピスト: SCP-7324ですか。

従業員: そうです。思うに、ミーム、ってやつみたいです。異常じゃない、普通のミームです。やって来た子供たちはブツを買って、喧しく笑って、大興奮して、滅茶苦茶やって、他にも色々。それで店の外に出てって片手に持ちながらちょっとしたダンスを撮るんです。でもですよ、あー、いいですか。私、ググってみたんです。でも何も出てこないんです、言葉通り何も。スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイクなんてハッシュタグもありません。スーパー・ストロベリー・ダンスもないです。何も出てこないんです。検索されるのはお決まりの妙ちきりんな陰謀論的戯言ばかり。初めは子供たちがなぜこんなことをしてるのか見当もつきませんでした。えっと、怖いというわけではなかったんですが、奇っ怪に思ったのは確かです。

それから— 一度、そう、一度だけ聞いてみたんです。ただストレートに。"TikTokでこれについてなんにも見つけられないんだけど。" さらに、"なんで君たちこんなことしてるの?" って。注文中の女の子へ、その娘はただ目を白黒させました。

返答は確か、"TikTokの流行りじゃない、内々だけのものなの。違うんだ。" とか何とか。それで、どういう意味なのか聞いたら、その娘は、あー、私のことを老いぼれと言うばかりでした。

それでその娘はシェイクを片手に、友達たちも同じようにして外に出て行きました。それで彼女たちは店の前で踊るんです。それで全てです。

あの娘たちは一緒に同じ車に乗り込み、その車は進み出しました。でも、本当に、それはそれはゆっくりと、ゆっくりと進むんです。ワケがわからない。5

それで— それで私は立ち上がってあの娘たちを尾行しました。キッチンのみんなは怒ってました、それはもうあきら様に。どんな具合だったかは先週分のマネージャーレポートで確認済みですよね。それで、私は外に出ていって車の後をつけました。夜ということもあって苦もありませんでした。彼女たちが町中を走っている最中には道路脇の木々や茂みに沿って進み続けました。

ですが、彼女たちは道も何もないところでおかしな左折をしました。だから道から外れて行くなりなんなりする必要に迫られて… 彼女たち私を見ていたと思います、けれどおそらくは誰であるかまでは見分けがつかなかったんでしょう。今となってはそれもどうでもいいことですが。

セラピスト: どういう意味ですか?

従業員: 核心までもう少しです、続けます。

それで、私は森の中を進み続ける車の後を追いました。車は、それでもまだ、車はゆっくりと動いていました。藪を抜けると、あー、そこには橋が、大きな石造りの橋が1つ架けられてました。今まで一度も見たことがありません。自分はずいぶん長いことアポパチェで人生を送ってきたはずなんですけどね。でも、例の車はただそのまま走り続けました。車は橋の下をくぐって行きました。橋の下はくぐるのにギリギリの大きさで、壁面を擦りながら進む車の音が聞こえました。

後を追うのはもう無理なんだと思いました。中に入ろうとしてしまえば完全に見つかってしまうからです、何もかもが狭いもんで、それで私は… 入り口にまで歩み寄りました。茂みでもなんでもいいから身を隠そうと、だけど入り口に到着してみて、触ってみるとそれは… 洞なんてなかったんです。

まさに、クソつまらないルーニー・テューンズって感じでした。クソつまらない岩に描かれた紛い物の橋が1つ。しかも油絵みたいに剥がれかけたやつです。

[従業員が床に目を落とす。セラピスト視線を向け直す。]

従業員: 例えば、年代物の、1920年代風の絵みたいな、レストランにいつも飾ってあるようなやつでした。"ギネスを飲むに最高の日"Lovely day for a Guinness のトゥーカン6的な。

[暫くの間、両名が沈黙する。]

セラピスト: 興味深い。発見次第にすぐにでも財団までいらっしゃるべきでしたね。

従業員: えぇ。すみません。 [従業員が自身の内ももに両手を置く。] 分かっています。でも、えっと、事が起きたのが真夜中の頃で、ですのでほんの2-3時間前なんです。ただ、報告手順を知らなくて。すみません.

セラピスト: なるほど。可能な限り早く監督官にご連携いたします。教えていただき感謝します。それがどの辺りか、向かう道順を教えていただけますか?

従業員: あ、えぇ、必ず。

セラピスト: オーケイ。十中八九、後で収容チームから喚ばれるでしょうから、それまでサイト内で待機していてください。

従業員: しょ、承知しました。

<記録終了>

事後報告: 翌日、フィールドエージェント複数名からなるグループ (当該の従業員含む) が配備され、森に置かれた件の絵について調査がなされました。スパイシー・クラスト・ピッツェリアは7月初週末の祝祭7を理由に休業中であったためにカバーストーリーの流布を必要としませんでしたが— にもかかわらず、先述の従業員はブリーフィングの場に姿を見せませんでした。

グループは2つに分かれ、一方は異常活動範囲と推測される領域内の調査、もう一方は従業員の自宅の調査に赴きました。両チームの調査成果を以下に要約します。

スパイシー・クラスト・ピッツェリア店舗を始点として、エージェントたちは (また、建物の監視カメラ映像も参考にして) 従業員が説明した道を辿りました。結果、町から3マイル程離れた森林に進入しました。

近くを流れる川の中にはレッカー車、及びにピンク色のコルベットが置かれていました。両車両は何年も放置されていた様子であり、車両全体に植物が生い茂っていました。現在、当オブジェクト群は財団の管理下に置かれています。

調査開始から間もなくは問題の絵が発見できないでいました。チームは前述の2車両を調査中でしたが、謝ってアノマリーの主体とは逆方向に進行しており— 引き返す途中の藪の中で、砂利の石材で構成された巨大な立方体を発見しました。立方体の西側の面にはオイルパステルで橋の絵が描かれていました。

それ以上の発見は得られませんでした。絵の描かれた立方体は分解され、他のオブジェクト群と共に財団の管理下に置かれています。その時点でチームはスパイシー・クラスト・ピッツェリアに帰還し、もう一方のチームを待ちました。


アイテム内容: イチゴないしイチゴ風味の食材を主成分とする、粘度のある乳製品ベースのピンク色の液体。妖魔エネルギーを多量に内含し、そのために大半の物質を融解することが可能。SCP-7324事象の各実例でSCP-7324-Primeが指定済み。
回収日: ████-██-██
回収地点: アメリカ合衆国 テキサス州 アポパチェ
現状: 聖遺物エリア-27 H棟(高価値物品保管庫) 内で低温収容状態
注記: ポーランドの "悪魔ドラッグ" 組織の元密売人が尋問のために連行された。財務記録によれば、合衆国ディープ・サウス一帯で不特定多数に取引していたことが判明している。調査に協力することで得られる便益について当該人物は伝えられている。

<記録開始 (ポーランド語からの翻訳)>

尋問官: ミスター・ビアウェツキ、また会えて嬉しいね。

密売人: そりゃ光栄だ。

[密売人が肩を回そうと試みて手錠の掛けられた両腕に力を入れる。テーブルを挟んだ向かい側で直立していた尋問官が失望した様子で腕組みをする。]

尋問官: 貴方はかなりの、価値もない悪事を— 全くもって善良とはかけ離れたことを企ててきたのだから。その扱いもお分かりだろう?

密売人: まぁね。

尋問官: 今この瞬間にも、皆が本当に酷い目に遭っている。

密売人: らしいな。

尋問官: 我々の力になれるチャンスだ。幾つか質問に答えられれば、その両腕の痛みも些かは和らぐことだろう。些かはね。それに、因果応報ともあるように— 幾分かの見返りを君は掴むことができる。自ら進んで力になるというのなら、だがね。どうだ?

密売人: そのために俺はここにいるってもんだ。

尋問官: 大層に要領がいいな。よし、それでは、始めようか。

[尋問官が椅子を引いて座る。左側に書類の束・鉛筆・黒革の本を置く。]

尋問官: 教えてくれ—

[尋問官がSCP-7324実例を取り出して密売人との間に置く。密売人が目を見開き、座り直すが、何も話さない。]

尋問官: —これに見に覚えがあるのならば。

密売人: あー。そりゃ、アメリカの、ドリンクだ。そういう類。だよな?

尋問官: それが貴方の見解か?

密売人: そう。そうだな。あー、返答はイエス。言うまでもなく。アメリカのファストフードはよく知らないもんでね。

尋問官: なるほど、だが貴方の出身にもマクドナルドはあるだろう?

[尋問官が鉛筆を手に握り、それを使ってSCP-7324を密売人に近づける。密売人はさらに距離を置くよう試みる。]

尋問官: ソブトカ8、だったかな?ソブトカにマクドナルドはあるかね?

密売人: えぇ、あー、そうね。あるよ。

[尋問官が鉛筆を置き、近づけるのを止める。SCP-7324はテーブルの縁に置かれ、密売人に触れそうになっている。]

尋問官: ソブトカでこれを注文したことは?

密売人: 一度たりとも。

尋問官: なるほど。アメリカに訪れた際にはこれを必ず注文するか?

密売人: アメリカには行ったことがない。

尋問官: しかしだね、ミスター・ビアウェツキ、貴方はアメリカ国内で悪魔ドラッグを売っていたはずだが?

密売人: あぁ、その通り。

尋問官: だが、アメリカには行ったことがないと。

密売人: あぁ。そうだ。

尋問官: なるほど。貴方の代わりの販売役のどなたかがアメリカ国内にいると。

密売人: あーっと、そうね。

尋問官: ふむ、言いたいことは以上かな。それでは、彼の名前だけでも教えてもらおうか。

密売人: 名前?

尋問官: あぁ、名前だよ。もしよろしければ。

[尋問官が微笑む。密売人が床を見る。両者ともに沈黙して座っている。]

尋問官: 何か問題かね?もしも、あー、若いとか、それとも民間人だとか、自らの行いに自覚がないとかか。例えそうだとしても、手荒く扱うなんてことはしない。我々はUIUとは違う、そう約束しよう。本当だ。

密売人: 違う。もちろん、俺もそれは理解している。

[2人が沈黙して座り続ける。]

尋問官: では一体?

密売人: 俺は嘘をついた。

尋問官: 構わないとも、なぁ。

密売人: この事に関しては言うことができない。

尋問官: だが、それこそ我々が知るべきことだ。

密売人: 力にはなれない。申し訳ない。部屋に戻らせてくれ。

尋問官: なぁ、なぁおい、兎にも角にも、少し待ちたまえよ。あー、情報伝達についてはやりようがあるかもしれない。より安全に思えるやり方でいい、ただし我々のためにそいつのシルエットを描いてくれ。どうかね?

密売人: 近づけすぎかもしれない。

尋問官: どういう意味だ?

[突如として密売人が椅子の上で暴れだす。テーブルを蹴り、足を床に打ち付け、大声を上げながら可能な限り遠ざかろうとする。SCP-7324が足元の床にこぼれる。]

密売人: あんた、近づけすぎだって言ってんだよ!近づけすぎたんだ!

[尋問官が素早く席を立ち、テーブルを周る。片手で密売人の腕をつかみ、空いた手で密売人を組み敷く。奮闘の末、尋問官が密売人の動きを制止することに成功する。尋問官が顔をしかめながら密売人を凝視する。]

尋問官: ボリス・ニエズビッチ・ビアウェツキ、私は甚く失望しているよ。

密売人: 黙れ。このことをあんたに話す奴なんて居やしない。俺たちはもう近づきすぎてる。

尋問官: 私のことを理解してほしい。こいつのせいで多くの人が酷い目に遭ってる。悪魔的エネルギーが至るところに、あらゆる人に溜まっている。子供たちは数十単位でこんな物質を摂取している。子供なんだぞ!貴方の悪賢さというのは、もはや売る相手だけに留まる問題ではない。この物質は皆の至るところに潜んでいる。我々はその手口を解明する必要がある、それに理由もだ。

密売人: 何も話せやしない。神に誓って。

尋問官: 見せたいものがある。驚かせるつもりはないが、暫く明かりを落とす。すぐにでも、これを見せなければ。

[尋問官がドアに向かって手を振る。密売人が振り向く。照明が消え、密売人は息をのみ、身体を震わせている。尋問官がドアに駆けて開ける。部屋外部にいたエージェントがSCP-7324-Primeで満たされたキャニスターを手渡す。尋問官がドアを閉めてテーブルに戻る。]

[尋問官がキャニスターをテーブルの上に置き、密売人の近くまで滑らせる。密売人は黙って見ている。尋問官が慎重に蓋を開けると開口部から紫色の光が漏れ出る。時間をかけて、キャニスターを完全に開けると部屋全体が光で包み込まれる。]

[尋問官が本の横に蓋を置く。]

尋問官: テキサスのアポパチェという街で私の部下が見つけてきたものだ。純度の高い活性型悪魔エネルギーだ。なぜこのように濾過されているのか、なぜあのような場所に置かれていたのか、さらに何を用途としているかについて知りたい。

密売人: 神に誓って、俺はあんたの力にはなれない。

尋問官: 頼む。頼むから、なってみてくれ。

[紫色の光が揺らめき、部屋全体に1つの影がちらつく。密売人が液体を覗き込み、それから天井を見上げる。部屋の隅にあるカメラに気づいた素振りを示す。]

[密売人の息が荒くなる。]

尋問官: どうした?

[突如として密売人の座る椅子が揺れる。密売人が悲鳴を上げる。椅子の脚部が崩壊し始め、各脚部の接地面から紫色の煙が立ち上る。融解した椅子の金属部分が急速にSCP-7324の液体に変化して床に広がる。既にこぼれていたSCP-7324の液体と混合する。]

密売人: 助けろ!助けて、いやだ、お願い、助けてくれ!

[尋問官がテーブルの反対側に駆け寄るが立ち上った噴煙に顔が覆われる。そのため液体で足を滑らせて後頭部を床に打ち付ける。尋問官が呻き声を上げながら壁に手を着いて起き上がる。噴煙は更に大きくなり、水溜まりは更に広がる。]

密売人: いやだ!こんなのいやだ!

[尋問官が噴煙から後ずさりし、部屋の隅に背を向けて身構える。消えた照明が再度点灯するが深紫色に変化している。密売人が叫び続ける。]

尋問官: 誰— だ— 誰か来てくれ、頼むから!早く!

[ドアが開き、警備員数名が進入する。照明が再び明滅するが、紫色が減衰して通常の光に戻る。警備員は尋問官と立ち広がる噴煙との境に防御線を張って銃器を向ける。この時点で密売人は悲鳴を上げておらず、濡れた叩く音とともに呻き声が聞こえる。]

[液体の流量が噴煙を上回る。液体が警備員と尋問官の足元を越えて広がり、そして止まる。新たに生じた粘性物質のために全員が立ち位置を改める。]

[泣き声がやむ。煙が霧散し始める。]

密売人: イチ… イチゴ…

[煙が完全に消失する。椅子が置かれていた床面に密売人の頭が置かれている。複数回に渡って両目で室内を見回し、息を吸おうと試みている様子である。息を吐こうとした際、鼻孔および口からピンク色の液体が噴出する。]

[密売人の両目が細められる。床にこぼれた飲み物を見つめる。監視カメラに視線を向ける。ドアの方を見遣り、そしてこぼれた飲み物に視線を戻す。顎を軋ませながら口を閉じる。]

[密売人の顔が無表情に戻る。尋問官が警備員の列をかき分け、頭の傍に腰を下ろす。慌てふためいて部屋内を見回す。]

尋問官: ふざけろ、こんなのありえてたまるか。

[警備員が退出し始める。状況レポートに際してエージェントが無線で遣り取りする声が聞こえる。尋問官が手を挙げ、指を鳴らす。]

尋問官: 待て、もうひとつだけ—

[退出半ばだった戸口にいた警備員が戻ってくる。尋問官がテーブルを指す。]

尋問官: プライムを失った。

[SCP-7324-Primeがテーブルから消失している。他のオブジェクトに影響は見られない。]

<記録終了>


補遺7324.10 | インシデント008 (不詳インシデントの監視カメラ映像)

<記録開始>

[チューブ素材の遊具と数台のアーケードゲーム機を備えたプレイエリアの傍に複数のテーブルとボックス席が並んでいる。プレイエリアの先にはビロード製の緞帳が掛けられた舞台がある。開かれた緞帳にはアニマトロニクスの "チャック E. チーズ"・"ジャスパー T. ジョールズ"9・"パスクアリー"・"サリー・サッシェイ" が並んでいる。アニマトロニクスたちがワルツを披露する。舞台の端に1人の男性が佇んでいるが、暗闇のために相貌は確認できない。]

チャック E. チーズ:そして囁くこともあるわAnd sometimes, I whisper,私の想うこの心をwhat I'm thinking of

[子供たちがボックス席やテーブルに座っている。チケットを握り締めて走り回っている子供もいる。大人たちは座り、ピザを食べたり話を交わしたりしている。]

[1人の少女が片手を口に咥えながら舞台の前に立っている。チャック E. チーズを凝視し、怯えた様子である。]

チャックE. チーズ:あぁ、あふれる愛で心がこぼれる。My cup runneth over, with love.10 /11

[娘の背後にいる父親が微笑みながらピザを頬張る。父親が席から身を乗り出し、娘の後頭部を軽く叩く。手を咥えたまま、娘がゆっくりと振り向く。]

父親: チャッキーが好き?

[娘がアニマトロニクスを向き、そして父親に振り返る。娘がボックス席に駆け寄り、父親の隣の席によじ登る。]

娘: きらい。

父親: 嫌い?

娘: きらい。

父親: どうして?子供の頃、チャッキーとお父さんとは親友だったんだよ。

娘: こわいんだもん。

父親: どこがそんなに怖いんだい?

[娘がチャック E. チーズの目を指差す。アニマトロニクスが歌い続け、バンドの残りメンバーもドゥーワップの間奏に加わる。]

父親: ふむふむ、彼に仲良しになるための公平なチャンスをあげちゃえば、本当に、チャッキーを本当にいい奴に感じられると思うよ。

[娘が父親の腕に顔を押し当てる。父親は娘の後頭部に手を置いて頷く。舞台を見続ける。"サリー・サッシェイ" の歌唱パートに移ると紫色の舞台照明が次第に明るさを増していき、アニマトロニクスたちを照らし出す。子供たちが走り回り、大声を出し、笑い声を上げ、そして遊び続けている。暗闇に包まれた舞台の袖に1人の男性が佇んでいる。微笑み、覗かせた歯に紫色の光が反射している。バンドがドゥーワップの2回目の間奏に差し掛かると、男性は舞台中央に歩みを進める。注目するように父親が娘を促す。娘が視線を向ける。]

[紫色の舞台照明に直に照らされ、観客の前に現れた男性の姿がこの時点から判然とする。汎宗派主義pan-denominational 米国クリスチャン省Christian Ministries of Americaに長年従事するペンテコステ派のジョナサン・バーカー牧師である。ベージュ色のスーツと赤色のネクタイを着用している。]

[数名の子供たちが物言わず舞台の前に集うが、すぐに親たちが自身の席に子供たちを集めて口を閉じさせる。バーカー氏が両手を握り、一歩前に出る。]

バーカー: やあやあ、少年少女の皆々様。今宵、私たちをおもてなしくれたミスター・チーズと彼の素晴らしいバンドに感謝の念でお返ししたいのです。さぁ皆さん、拍手をどうぞ!

[観衆の後方から拍手の音が聞こえる。]

バーカー: 主は信じ難い程に素敵な1年をお与えくださいました。[観衆である大人たちに向けてジェスチャーする。] 貴方がたは皆、大層誇りにお思いなさい。お若い選手諸君、[舞台の前縁に近づく。] 貴方がた程、懸命に働くチームというものを私は見たことがありません、そう言って差し支えない。CMAユースリーグの理事長としての私の仕事は、子供たちの皆にスポーツや運動へ参加する平等な機会があるように努めること、ですが、まぁ時として、恵まれた機会に感謝されないこともあるのです。それでも、貴方がたは — 貴方がた皆が、ですよ! — 私の期待を遥かに上回り、そしてリーグの設けた期待をも超えてくれました。

[バーカー氏が自身の胸に手を当てて温かく微笑む。]

バーカー: 貴方がたは素晴らしいシーズンを過ごされた、そのことがとても誇らしく思えますよ。さぁ皆さん、ガルフポートの福音派リトルリーグに拍手を送りましょう!手と手を合わせましょう、自身を褒め称えましょう、子らよ、それは自身の手で勝ち得たものですよ。

[店内で拍手が湧き上がる。大人が子供を抱き上げて、抱えたまま回転し、高く持ち上げ、声援を送り、微笑みかけ、抱きしめる。父親が娘に向き直り、娘の髪をクシャクシャにして誉め言葉を囁く。お互いを誇りに思い、子供同士で応援の言葉を交わす。踊ったり拍手を送ったりもする。子供たちがフロアに集い、輪を作って走り回り、歓声を上げる。]

バーカー: どうかお聞きなさい、子らよ、もうひとつ発表がありますよ。

[静寂。]

バーカー: 貴方がたの惜しみない寄付のおかげで、スーパー・ストロベリー・サプライズ・シェイクを皆さんに — 皆さん全員に — お渡しすることができるのです。

[父親が息を呑み、舞台の前面に立つ娘を指差す。娘が微笑みながら父親に振り返る。]

父親: 大好きなやつだ!

娘: やった、やった、やったぁ!

[再び歓声と拍手が沸き起こる。バーカー氏が誇らしげに微笑み、舞台照明から離れる。バンドが曲を続け、チャック E. チーズのアニマトロニクスがボーカリストの役割に戻る。]

[ベージュ色のスーツを着用した複数名の男性がスタッフ用の休憩室から出てきて店舗内奥部に置かれたテーブルの周囲に整列する。バーカー氏が男性たちに近づき、男性たちがピンク色の十字架をあしらったテーブルクロスをかけ始める。やがて、出席者に行きわたる程の、多量のSCP-7324が設置される。紫色に煌めいている。]

[子供たちの行列ができる。1人ずつ、笑顔のバーカー氏が少年少女に握手を求める。自身が子供たちを誇りに思っていることを、そして神も子供たちを誇りに思っていることを子供たちの1人1人に伝える。大人たちはボックス席に座っている、気付いていない。]

[子供たちがストローを吸い、口の中で紫色の光が輝く。子供たちは皆がくたくたに疲れているが、誰もが遊ぶのをやめようとはしない。]

[誰もが独りにはなりたくない。]

[子供たちが舞台の前に集まり、ただ啜っている。毛羽だった動物たちのビッグバンドが演奏する姿を眺める。誰もがもはや恐れていない。あの娘は、彼女は父親を振り返って微笑む。父親が微笑み返す、それは何も知らないから。]

[1つずつ、照明が落とされ始める。カチリ、カチリ、カチリ。]

[子供たちが半透明になる。光が身体を透過している。幽霊のように灰色に霞んでいく。子供たちが微笑み、頭を揺らす。子供たちは気付いていない。大人たちにも同様の事象が生じる。誰もが気づいていない。そしてベージュ色のスーツを着用した複数の男性がやってくる。その後にバーカー牧師がやってくる。]

[舞台を除いて店内はこの時点で暗くなる。床面から吹きつける風でビロード製のカーテンが靡く。チャックが歌う。]

チャック E. チーズ:ただ瞬く間に、僕らふたりは老いていくIn only a moment, we both will be old冷えゆく世界に気づきもせずに…we won't even notice the world turning cold

[娘が再び父親に振り向く。父親が娘に微笑みかけて、そして首を傾げる。娘も微笑み返す。娘が消失する。父親が微笑み続ける。父親は知らない。父親はまだ娘を見ている。娘はまだそこにいる。父親が消失する。]

[ひとり、またひとりと人々が消えていく。子供たちは宙に霧散し、暗中で輝く星々となりカーペットの上の人々を照らし出す。大人たちも皆、姿を消している。ベージュ色のスーツを着用した男性たちの姿はどこにもない。]

[カーテンの向こうから女性の手が伸びる。ジョナサン・バーカーに向かって "こちらにおいで" の手振りをする。魅力的な赤色の爪が見える。バーカー氏が首を横に振る。]

[バーカー氏が暗闇の中へ歩いていき姿が消える。今や、店内は酷く暗く、そこに何があるかも判然としない。世界に残されたのは舞台だけである。彼らはスイングを続ける。女の手はだらりと垂れ下がる。彼らは踊り続ける。]

チャック E. チーズ:あぁ、あふれる愛で心がこぼれる。My cup runneth over, with love.

<記録終了>




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