以下の情報は閲覧用生体コードの入力後、認証を行い開示されます。
許可された職員以外の同席、身分を偽っての閲覧は財団における身分の剥奪や解雇の理由となります。
待機してください。
特別収容プロトコル(追記): SCP-743-JPの発生している区画は該当オブジェクトの特別収容プロトコル、あるいは未解明領域記録のセキュリティプロトコル、Anomalousアイテムの取り扱い方法に準じてください。SCP-743-JP発生中におけるポータル内への侵入は上級研究員3名以上の許可か、担当上級研究員の承認が必要です。SCP-743-JPにおける要注意団体"蛇の手"との協定の詳細においては別紙"対要注意団体渉外記録-JP アルファ-19-0543"を参照してください。
特別移転記録743-JP-ε
以下は20██/██/██、40回目の移転試行の際移転した基底現実世界外空間内において発見された文書です。この文書は放浪者の図書館内における"司書"と類似した特徴を持つ異常存在より譲渡され、譲渡と同時に外部への強制的な転移が行われました。また、文書の形態は譲渡時の状態に準じています。各研究員の所見等を踏まえた改訂版は別紙、"対要注意団体渉外記録-JP アルファ-19-0543-β"を参照してください。
ようこそ。
これはここへ迷い込んだ、彷徨の先に潜り込んだあなたたちへのメッセージです。
私たちは蛇の手です。
あなたが今いた場所はあなたたちの、あるいは私たちの呼ぶ"道"の半ばです。そう、つまりは私たちの図書館に繋がる道の途上です。驚かれたでしょうか? それは私たちも同じなのです。
あなたがたが突然この道に潜り込んできたとき、私たちは即座に図書館の防衛措置が執られるものであると考えました。しかしそうはならなかった、あなた方は緩やかに追い出されはしましたが、攻撃は受けなかった。私たちはその理由を探りました。そしてこの道の、"黄昏の道"の存在を知ったのです。
黄昏の道は本来私たちが過去に捨てた"道"の一つです。その理由をここで語りはしませんが、既に無くなったと思われていた"道"なのです。"道"は多くの場合他の道と集合することはありません。ここはありふれたポータル、世界の間隙であり、これから先もそうなるはずでした。
しかし、今回は私たちの"道"と彼らの、"酩酊街"の"道"が接続していることが分かりました。正確にはその"道"を酩酊の道が侵食していると言った方が正しいでしょうか。いえ、侵食というほどの意図もないのでしょう。薄闇が濃くなるように、夜霧が拡がるように、ただ"酩酊街"はそこに広がり、それらの道を覆ったのでしょう。この"道"は今や混然一体、全ての判断を曖昧にしています。まさしく誰ぞ彼、彼は誰、行き交う人々の顔も進む先も分からないように。
私たちから"酩酊街"の名前が出るのは驚きでしょうか? あれらが自らその名を名乗ったのか、あるいはその名乗りを私たちが付けたのか、それは知る由もありませんが、私たちはあれらについてあなたたちより僅かに多くの知識を有しています。ただし、それらの知識は常に流動し、一定せず、安定しません。あれらはそういう存在なのです。まるで酔漢の視る夢の如く無秩序で、頽廃的で、それでいて次の朝には忘れ去られる、そういった存在なのです。
私たちはあれらと緩やかな緊張関係を維持しています。もっとも、あちらからのアプローチはありません。ですが、あれらの行うことは私たちの理念に対し緩やかに異を唱えています。あれらは異常をあなたたちのように隠すことも焚書者たちのように燃やすこともしません。ただ一切を忘れていくのです。酩酊、忘却、停滞こそがあれらの持つ唯一の理由でしょう。その理由すら忘却していることも否定できません。
この手紙に添えて、私たちの持つ"酩酊街"についての資料を譲渡します。これはあなたがた看守が脱走者を追うための手段です。そして私たちが捕捉するための方法です。私たちは協議の結果、あなた方にこの存在の知識を渡すことを決定しました。その意味を考えてください。念を押しますが、"酩酊街"について確立した理解を得ようとしてはいけません、確立した基準を設けようとしてはいけません、確立した判断を行ってはいけません。それはまさしく酔っぱらいに説教する看守となってしまうでしょう。
最後に、"黄昏の道"についてはいずれ協議を行う必要があります。こちらで改めて日時を指定しましょう。
~ K.
放浪者の図書館にて、20██
酩酊街
Drunkard Street、酔生夢死、停滞と慕情の遥けし地、隣墓リンボ
酩酊街は図書館the Libraryと同様に、魔法を以て行き来することが可能である異空間と推測される存在である。主にその存在は酩酊・忘却・停滞を喚起させるとされる。酩酊街は我々の世界と緩やかな因果律の同調を見せているとされ、酩酊街で起こった事象が私たちの世界に影響を与える可能性も指摘されている。また、一部条件を満たすことで侵食を行う可能性も示唆されている。
"彷徨の書"を初めとした一部の書物には、これらが私たちの世界と独立しつつも重なり合って存在する世界であると断片的かつ詩的に記載されている。その表現は多様な解釈が可能であり、酩酊街は世界の狭間に存在するとも考えられ、一方では集合的無意識の底部に存在するとされ、あるいは何処かの海溝ともされる。
"手"との関係は明確に敵対するとは言えないものの、けっして良いものとは言えない。正確には"手"による緩やかな警戒、情報の収集が一方的に行われている。酩酊街からの接触は現在時点では発生していないが出現する物品に文章が付随することも多く何らかの管理者、何らかの支配者が存在する可能性を示唆している。
特徴: 酩酊街については私たちも確たる情報を持たない。唯一全ての証言、記述において共通する表現は酩酊・忘却・停滞であり、この世界において忘れられたものが到達する場であるという仮説は"手"の内部におけるもっともメジャーな共通認識となっている。
酩酊街は忘却による受動的な到達に加え、"図書館"と同様に魔法的措置を用いて能動的に辿り着くことが可能。ただし、この到達方法は一方的であり帰還は困難である。"道"の段階であれば帰還は許される場合もあるが、内部に侵入した場合の帰還は書物における記述以外で確認されていない。
外見: 酩酊街の主な外観はその一方通行的性質により帰還者の証言、あるいは出現した物品によって推測されるものがほとんどである。また、ごく稀な例として"道"を通り抜け"図書館"に至る際、その一端を目撃する事例が確認されている。しかし、それらは証言の度に変動することから詳細は不明である。以下はそれら断片的な証言、記述により推測される概観である。
- 本体部: おそらくは酩酊街の中心たる地域。明確な基準はないが区分けされているとも推測され、旧暦、十二節季、十干、干支などに対応した名が付けられているとする証言も存在する。酩酊街に関連する存在の一部はここからの出奔者であるとされる。内部には一切の記録が存在していないともされ不立文字の街と称されることもある。
- 道: 本体部と私たちの世界の緩衝地点とされる場所。一部の関係者、知識人はこの場所を隣墓リンボと呼ぶが、多くの場合、単に"道"と呼称される。多くの訪問者はここを経て酩酊街を訪れることになり、一部の地域には案内人が存在している。案内人の存在が"道"の定義となる可能性も示唆されており、"案内人"によってその"道"の性質が決定される説も存在する。
注意、これがこの場所の確たる、正しき全てではないだろう。これらは見る人間によって変わる幻覚のようなものだ。あの場所を確定することは誰にもできない ~ K.
資料の多くには降雪の記述があるが、矛盾する記録もあり、断定はできない。
性質: 酩酊街は現在まで全ての状況、場面においてほとんど能動的な行動、問いかけを発していない。"図書館"における全ての資料内にも酩酊街からの行動に基づいたものは存在しない。酩酊街による唯一と言ってよい能動的な働きかけは、関連する物品の出現時に付随する手紙のみである。この手紙もまた一方的なものであることが多く、何らかの機械的機構であることが予想される。
案内人が存在しない、あるいは酩酊の存在を認識しない世界の空漠を侵食する性質を持ち、"道"のいくつかはこれらの性質により発生しているものであると推測される。これらも能動的なものではなく一種の自然現象に近いものと推測される。
歴史と関連組織: 酩酊街についての歴史、情報は"手"内部においても極端に少なく、"彷徨の書"等の書物に細かな断片が残るのみである。これらの情報もまた、あくまで全体の一部を記述しているにすぎないとされる。その為、酩酊街を理解するにあたって重視することは推奨されていない。
他の団体において酩酊街に関連する情報は存在しないか、あるいは存在していてもごく小規模であるとされる。看守Jailerの元に一部関連物品が存在し、焚書者たちthe Bookburnersによってその一部が破壊されている。
接触: 酩酊街側からの働きかけはないため、此方から接触しない、あるいは酩酊街に起源をもつと推測される物品に触れない限り問題は発生しない。接触手段である"道"は現在時点でいくつかが発見、同定されているが、一方通行の性質上侵入は好ましいものではなく避けるべきである。侵入した場合は最低でも"道"に留めること。"道"内部での偶発的な接触は関心を持たず、関与を避けることが推奨される。
酩酊街についての記録は上記するように一定せず、また全貌は判明していないものであると推測される。
過去、─人間が人間の形を伴う以前の記述においては酩酊街は何らかの卵であるとされることが多い。その表現が用いられる場合、現在の酩酊街は空、あるいは殻であるとされる。すなわち、なんらかの大いなるものが生まれ、その跡地、あるいは残滓に力持つ者が住み着いたとする説である。これにおいてはZ.チョウが『胡蝶、あるいはそれに付随するレムの名の元』において提唱した説が有名である。
また、その空漠を侵食する性質から蔓植物や樹木に例える例も散見される。だが、そこに植物の持つような生存本能、あるいは意図があるとは考え辛く、霧や闇のような自然現象に近いものであると改める説が主流である。
しかし、その一方で泡や夢、煙に例える記述も確認され最終的にその全貌は不明である。これらの説においては酩酊街自体が変化する、あるいは主観者の観測により変化する概念的存在であることも示唆されている。
"芽キャベツの二日酔い"や、"ドードーの踊り"などという詩的な珍説も確認される ~ Q.TT.
酩酊街がそもそも"どういった存在であるか"、といった理由を求めることがすでに無意味であるという小規模な論議は数百年前より散発的に発生し、霧消している。また、酩酊街の正体を解き明かすことが異常存在の忘却を阻止し光の下へ開放する事に繋がるか、といった疑問はこれもまた小規模ながら長きにわたる論争の種となっている。
この論争は全く意味を無さない。無駄の極みだ ~ K.
K. それは少々攻撃的な意見です。確かにこれらが空であれ殻であれ、起こりうることには関係ないやもしれませんが、私たちは敬意を忘れてはいけません - R.K.R.
すまない、R.K.R. 少々攻撃的に過ぎた。私はただこれらは結局"意味のない静物"であり、考えることは酔漢の脳内を察するくらい無意味だと言いたかっただけなんだ。私たちには他にもっと向かうべき課題がある ~ K.
K.の意見に賛成ですかね。ただ、それがどんな存在であれ、僕達の理念とは緩やかながら一致しないってのは覚えておいてもいいかと ~ R.円.
看守たちによって私たちの"道"と酩酊街の"道"が合流する可能性が別の形で示唆された。これに関して看守への情報提供が議案され、決定された ~ C.Ⅹ.
これらの情報を受け、後日、SCP-743-JPに関する協議が行われました。以下は同協議における"蛇の手"との議事ログです。また、この協定に際し機動部隊シグマ-3よりAgt.ミフネ、Agt.ナガオが渉外員として派遣されています。
第一回SCP-743-JP関連事案議事ログ
日時: 20██/██/██
場所: 財団所有フロントビル[編集済み]
出席者: 財団所属 / 鷲尾管理官、Agt.ミフネ、Agt.ナガオ "蛇の手"所属 / C.Ⅹ.、K.、R.K.R.
議題: SCP-743-JPにおける財団と蛇の手の共同管理に対する議論
<再生開始>
(前半部は事実確認のため省略)
鷲尾管理官: C.Ⅹ.、あなた方の要求はSCP-743-JPが発生した地点、オブジェクトの初期権限を譲れ、そしてその上で異常性の一部を処理する。その対価として酩酊街に関する知識を譲渡した。そういうわけですね?
C.Ⅹ.: そういうことになります。シグマ-3に関連するあなた方であれば分かるでしょうが、これは"手"全体の統一された意見ではないことをご了承ください
Agt.ミフネ: 確認させてもらいます。"蛇の手"の目的は何ですか?
K.: 第一にシグマ-3を除く財団が"図書館"へ侵入することをどのような形であれ禁止すること。加えて"酩酊街"からの侵食を停止すること
鷲尾管理官: 質問させていただきます。"図書館"への侵入がどのような形であれ発生するのを避けたいのは理解できます。しかし、酩酊街についてあなた方がそこまで特別視する理由とは何なのでしょうか
C.Ⅹ.: 特別というわけではありません、私たちがあなた方の理念と反している事と同様です。あなた方へ対する警戒と酩酊街への警戒は同一のものです。酩酊街はその性質上、私たちにとっても不可解で理解が及ばない部分がある。それと"道"が繋がることは私たちだけではなく"図書館"全体の不利益ともなりかねません
Agt.ナガオ: 重ねて質問を。SCP-743-JPはとどのつまり酩酊街への通路だったという解釈で構いませんか?
R.K.R.: その解釈は異なります。それは異常性の面からも原義的な面からも。しかし、そこに酩酊街が侵食、この語は妥当ではありませんね。浸透とでもしておきましょうか。紙に水が染みるように浸透するのです。そして世界は揺らぎ、酔漢の夢のように様々な現実が交差する。それが薄闇の頃しか発生しないという事からも自明の理でしょう。現実が揺らぐときにしかあれらは姿を見せないのです
鷲尾管理官: つまり、我々の世界に侵攻してくると?
R.K.R.: いいえ、私たちも全貌を掴んでいるわけではありませんがそういった意図はないのでしょう。申し訳ありません、私たちとしてもあの場所については知識が薄いのです。独自の接触を行う"商人"も存在しているとは聞きますが
Agt.ナガオ: では、"手"はどういった処理を行うつもりなのでしょうか
C.Ⅹ.: あの場所より"図書館"に繋がる道だけを否定し、抹消します。あなた方にとっても無用の諍いを生む必要はないでしょう?
鷲尾管理官: 了解しました、この件は持ち帰り改めて議論させていただいた上で次回の会合において回答を行います。それで構いませんか?
R.K.R.: 承知しました。他に何か確認しておきたいことなどありますでしょうか
Agt.ミフネ: 改めてですが酩酊街が侵食、この場合はあえてそう言わせてもらいますが、それを行うことはないのでしょうか
R.K.R.: 断定はできません。ですがそれにはこう答えましょう、ミフネさん、ナガオさん、あなた方はあの場所をどう感じましたか? 端的にで構いません
Agt.ミフネ: あのポータルを見た感想でいいのであれば青い放射は確認できました。加えて感じたのはそのような放射が確認される場所とは違う。違和感、そうですね、"犠牲なき世界"Not sacrificed Worldとでも言うべきなのでしょうか
Agt.ナガオ: 私も同じです。ただ、私が感じたのは犠牲なきというよりは犠牲が存在しない世界、でしょうか
R.K.R.: そういうことです。あれらはその世界に変えようとしているのではなく、あの世界に収束すると世界そのものが諦めている、だから自ら動くことはなく犠牲すら必要としない。その諦観を愛だというのならば、その愛は私たちの望む変化とは相反する。そう私たちは考えています
<再生終了>
協議の結果、財団はsGoI3-104("酩酊街")に関した"蛇の手"が所持する情報を得る対価としてSCP-743-JP現象、あるいは新たなSCP-743-JP類似現象が発生した場合において、"図書館"への道を封鎖するという目的からその管理権を一時"蛇の手"に移譲することが決定されました。この協定を以て"蛇の手"との乙種協力関係が発生しました。
また、この協定に伴い"蛇の手"代表によりSCP-743-JPを経由した"図書館"への侵入は停止されました。この停止作業に関しては協定上財団による監視は為されておらず方法は不明です。加えて新たなSCP-743-JP類似現象が発生した場合、財団はその管理権を一時"蛇の手"に移譲することが決定されています。