SCP-7529


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TO: ヴィンセント・ボハート、サイト-333管理官

FROM: ザカリアス・ハンネマン、サイト-58動物学研究部門 部門長

件名: Re:後ろ半分を発見 — 褒賞は?


ボハート管理官、

メールへの返信が遅れてしまい申し訳ありません。私の回答は主にあなたのメッセージに含められたファイルに関するものなので、参照しやすいようにこの返信にも添付しておきます。

アイテム番号: 7529
レベル1
収容クラス:
safe
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
dark
リスククラス:
notice

BackCat.jpg

SCP-7529 (左) 。


特別収容プロトコル: SCP-7529は当初、サイト-333の動物収容施設にある犬舎に収容されていました。しかしながら、SCP-7529が狭い空間内に収容された各種海鳥にストレスを与えているというレオノーラ・モラレスの懸念と、隣接する部屋からの騒音苦情のため、ボハート管理官は — 職員がSCP-7529を管理官オフィスに入れないことを条件として — SCP-7529にはサイト-333の上階で自由に行動させるべきだと判断しました。

説明: SCP-7529はメインクーン種 ソマリ種 アメリカンワイヤーヘア種 ネコの後半身であり、肋骨の後部、後肢、尾で構成されています。SCP-7529の前端は均一かつ不明瞭な黒い表面で途切れています。目視検査によって、SCP-7529は適切な去勢手術を受けた雌であると断定されました。

SCP-7529はサイト-333の職員に概ね友好的です。SCP-7529は現在の身体を後肢のみで支えることに困難を示していませんが、著しく不器用であり、頻繁に物を倒す、人間や物にぶつかる、歩きながら高所から転落するなどします。SCP-7529の排泄トレーニングはこれまでのところ成功していません。


この資料と、あなたが我々のサイトに郵送した“サンプル”を検討したうえで、私は相応の確信をもって、この“SCP-7529”がSCP-529とは特に関係ないと断言できます。あなたがこれら2つのアノマリーの関連性を非常に強固に主張しているのは分かっていますから、その結論に至った根拠を以下に略述します。
  • 送付された糞便のDNA検査結果は、SCP-529の遺伝子プロファイルと一致しない。
  • SCP-529は現在既に高齢であるため、運動能力が低下しており、この実体に関するあなたの説明と一致しない。
  • 写真に写っているネコの毛皮の模様は、灰色の縞模様であるSCP-529と一致しない。
  • あなたは報告書に記述されている断面の証拠写真を添付していない。

実際、あなたはこれが単に全身揃った非異常なネコの写真を切り抜いたものではないことを証明できていません。これらの状況や、あなたがSCP-529の後半身を発見した者に“賞金”が出るはずだと繰り返し言い張っていることに鑑みて — 私が知る限り、そのような褒賞は一度も明言・提示されていません — あなたは実のところSCP-529の後半身を発見してなどいないという結論に至りました。私が思うに、これは悪ふざけであるか、或いはアノマリーに関する虚偽の主張で財団から金銭を搾取しようという試みです。

どちらであろうと、これは私と私のチームの時間を大いに無駄にしました。この件については私にも部下にも二度と連絡しないでいただきたい。

敬具

ザカリアス・ハンネマン
サイト-58 動物学研究部門 部門長


TO: ザカリアス・ハンネマン、サイト-58動物学研究部門 部門長

FROM: ヴィンセント・ボハート、サイト-333管理官

件名: Re:Re:後ろ半分を発見 — 褒賞は?


ザカリアス、

なぁ、話を聞けよ。お前から見ると多少無理筋かもしれない、でもこawz6e75 x8r6d9h8[i0]vidxhtfrycifu

サイト-333 監視映像:

ヴィンセント・ボハート管理官のオフィス



ヴィンセント・ボハートがデスクに座っている様子が映っている。大きなアイスコーヒーがノートパソコンの横に置かれている。彼はノア・パテルの頭文字イニシャルが記されたプラスチック容器からベビーベル・ブランドの小さなホールチーズを取り出す。彼はチーズの包装をはがし、宙に放り投げて口で受け止めようとする。

ノートパソコンが電子メールの受信を知らせる音を鳴らす。音に驚いたヴィンセントは、チーズが落ちてくる途中で口の位置をずらしてしまい、チーズが気管に引っ掛かる。彼は一瞬スナックサイズのホールチーズを喉に詰まらせるが、咳込んで床に吐き出すことに成功する。

ヴィンセントは気怠げにメールを読み、声を上げて冷笑し、返事を入力し始める。

三毛猫の後半身がデスクに跳び上がり、キーボードの上を走り抜ける様子が映る。SCP-7529はアイスコーヒーにつまづき、コンピュータの上にそれを倒す。物音と液体に驚いたSCP-7529はヴィンセントに向かってジャンプし、彼の膝に勢いよく着地する。ヴィンセントは深い溜め息を吐いてから、SCP-7529の尾の付け根付近を撫でる。

ヴィンセント・ボハート: お前の意見にも一理あるかもな。あんな奴らの世話にはならない、だろ? こうしようじゃないか — 黙って俺の後ろ猫に付いてこい、全身猫を見せてやる。


サイト-333 提出された苦情:

注記: 匿名提出の際には財団従業員IDナンバーを含める必要があります。

申立人: レオノーラ・モラレス、野生動物スペシャリスト。

苦情の概要: ヴィンセント、あれは鳥小屋に近付けないって約束したじゃないですか。後ろ半分だけだろうと関係ありません。カラスたちが躍起になってとんでもない見た目のネコに鉛筆を投げ付けている間に、彼らが異常なほど数学が得意なのか、それとも普通に数学が得意なのかを見極められるものならやってみてくださいよ。

正直なところ、カラスたちの狙いはかなり見事でした。カリキュラムには統計学よりももっと弾道学を入れるべきかもしれません。


苦情ステータス: 解決済

申立人: ノア・パテル、未確認動物学者 兼 博物館学芸員。

苦情の概要: やぁヴィンセント、あなたがこういう苦情を読んでるか知らないけど、例の猫が1階に降りてきた。どうやってあなたが設置したベビーゲートを乗り越えたかはよく分からないんだけど、今朝私が出勤したらギフトショップを歩き回っていたんだ。しかも私が作った実物大のジャージーデビルの張り子模型を引っ掻いていた。

とにかく、もし来客がいたらかなりマズいことになっていただろう。アニマトロニクスとかなんとか言えばごまかせたかもしれないけどね。

もし気になるなら教えるけど、来客はいなかった。それもある意味マズいことだ。私は一日中1階で一人きりなんだよ。もし立ち寄ってくれるなら是非そうしてほしい!

猫を連れてきても構わないからさ!


苦情ステータス: 解決済

申立人: トニー・カタラーノ、経理・観光部門。

苦情の概要: なぁおい、理由はどうあれ、例の猫もどきをガチョウの時みたいにサイト-58に移送できないのなら、それは別に構わないんだよ。でもヴィンセント、いい加減あれを箱の中でクソするようにしつけてくれ。確かに後ろ足がトコトコ歩くのを見るのはちょっと面白かったさ、でもそんなユーモアはあっという間に干からびちまった。コピー機の中の猫のクソみたいにな。

なんでコピー機の中で猫のクソがどうなるかを知ってるかって? 当ててみやがれってんだ。


苦情ステータス: 解決済


TO: ヴィンセント・ボハート、サイト-333管理官

FROM: ロナルド・デュール、サイト-19

件名: SCP-529の移送について


オーケイ、ヴィンセント。

SCP-529を1週間、“研究イニシアチブ”の一環として君のサイトに移送するよう手配した。承認が下りるように、何度か裏から手を回さなきゃならなかった。ここの連中はサイト-333に物を送るのを嫌ってるんだ、大抵壊れて戻ってくるからね — それだってそもそも戻ってくればの話だし。

だから、これで貸し借り無しだぞ? おかしな猫の問題をさっさと解決して、二度とベガスで起きた事件の話を蒸し返さないでくれよな。


サイト-333 監視映像:

従業員休憩室



両腕でSCP-7529を抱えたレオノーラ・モラレスが休憩室に入る。彼女は、冷蔵庫の向かいの折り畳みテーブルに座っているトニー・カタラーノとノア・パテルに歩み寄る。

レオノーラ・モラレス: 三枚翼のカモメにまたしても因縁を付けようとしてましたよ、この子。全くヴィンセントときたら、自分に関係の無い苦情なんて読みもしないんですから。2人ともどうしたんです?

ノア・パテル: 半分猫がいるんだよ。

レオノーラ・モラレス: ええ、今さら気付いたんですか?

トニー・カタラーノ: ノアが言ってんのは前半分猫のことだ。

レオノーラ・モラレス: はい?

トニーとノアは身振りで簡易キッチンのカウンターを指す。そこには、虎猫の前半身 — SCP-529 — が前肢で立っている。SCP-529はバラバラにしたサンドイッチから引き出したスライスチーズを口にくわえ、3人を振り向く。SCP-7529を見て、SCP-529は口からチーズを落とし、背中の視認できる部位を丸めて唸り声を上げる。

ノア・パテル: どうやってあんなことをやってるんだろうね? 二本足で背中を丸めるだなんて。

トニー・カタラーノ: お前、先週ずっと二足歩行する猫を見続けてただろうが。

レオノーラ・モラレス: なんでキッチンに半分猫が2匹も?!

片手にコーヒーカップを持ったヴィンセント・ボハートが入室する。

ヴィンセント・ボハート: おお、こりゃ上々。もう全員来てたか。お前らを集合させるのは猫の群れを集めるようなもんだと思ってたぜ。分かったか、この洒落が?

レオノーラ・モラレス: ヴィンセント、どうして2匹目の猫がいるんですか? 1匹じゃ足りませんでした?

ヴィンセント・ボハート: 同じ猫だぞ。

トニーとノアは、カウンターに乗っている猫の部位と、レオノーラが抱えている猫の部位を幾度も見比べる。体色の違いに加えて、SCP-7529は相対的に見て著しく小柄である。

トニー・カタラーノ: ボス、絶対同じ猫じゃねぇよ。

ヴィンセント・ボハート: 同じに決まってんだろうが。

ノア・パテル: 色が違うように見えるよ。

ヴィンセント・ボハート: 猫には色々な模様がある。ちゃんと調べた。

レオノーラ・モラレス: 1匹の猫は同じ模様ですよ。

ヴィンセント・ボハート: なぁおい、お前らは口を挟まないでもらえるかな? 俺は今何かを掴みかけてんだよ。ウチは猫の後ろ半分を見つけたし、別のサイトには前半分があった。同じ猫に違いないんだ。

トニー・カタラーノ: こいつを連れてきた時、みんな揃ってお前が轢いたんだと思い込んだことへの仕返しか?

ヴィンセント・ボハート: 違うが。

レオノーラ・モラレス: あの件はもう謝ったじゃないですか。仕方ないでしょう、前科があるんですから

ヴィンセント・ボハート: こ、この — いいか。指導者にとって最も重要なスキルは何だと思う? 直感だよ。カリスマとか、意思の疎通とか、統率力とか、そんなもんは全部嘘っぱちだ。自分の勘を信じる必要がある。それができないような野郎は誰も信頼できやしない。

ヴィンセント・ボハート: そして俺は — 俺の勘を信じる。

トニー・カタラーノ: お前をそそのかして冷蔵庫に1ヶ月間放置されてたチーズステーキを食わせたのと同じ勘を?

レオノーラ・モラレス: ヴィンセント、何を思い詰めてるか知りませんけどね、私が抱えてるコレは絶対にカウンターの上のアレの残り半分じゃないという事実は変わりませんよ。

ヴィンセント・ボハート: いいからとっととその半分をよこせ、レオノーラ。ノア、もう半分を持ってこい。

レオノーラは躊躇いがちにSCP-7529をヴィンセントに渡し、ノアはSCP-529を掴もうとして引っ掛かれる。改めて捕獲を試みた後、ノアはSCP-529を宙に持ち上げる。

ヴィンセント・ボハート: さーてと、あとは正しい向きにしてやれば1匹の猫になるぞ。

レオノーラ・モラレス: オーケイ、これが不条理だと気付いてるのは私だけですか?

トニー・カタラーノ: いや、俺も分かるよ。でもマジな話、ちょっと興味が湧いた。ヘイ、ノア、手ぇ貸そうか?

ノアは — 噛み付こうとするSCP-529を避けるのに苦労している — 頷いて受け入れる。トニーが歩み寄り、SCP-529の前肢をその場に固定する。

ヴィンセント・ボハート: よし、3が合図だ。1…

ノア・パテル: あれっ、てっきりカウントダウンかと思った。

ヴィンセント・ボハート: 2… そらっ!

ヴィンセントは前に踏み出し、SCP-7529の穴状の断端を、SCP-529の穴状の断端に向かって動かす。ヴィンセントが接近するにつれて、両方の実体が身悶えし始める。ノアとトニーは把握から逃れかけたSCP-529を押さえ続けようとする。不可視の力がヴィンセントの両実体を統合させる試みを阻んでいるようである。

ヴィンセント・ボハート: もうちょっとだ! 2人とも気張れぇ! 押せぇ!

ノアとトニーはヴィンセントに向かって身を乗り出し、自分たちの半身猫を、ヴィンセントが抱えている半身猫に向かって押し出す。2匹の間が徐々に縮まる。

レオノーラ・モラレス: 何やってるんですか、もう止めてください!

SCP-529とSCP-7529の距離が縮まるにつれて、それぞれの断端から小さな閃光が生じ始める。3人が一斉に押し出すと、2匹の半身猫は互いに近付いていき、やがて突然接触する。閃光が弱まり、トニー、ノア、ヴィンセントが1匹の猫を抱えている様子が映る。猫の前半分は高齢の虎猫の、後ろ半分は小柄な三毛猫の身体で構成されている。

トニー・カタラーノ: なんてこったい、や… やっちまったぞ。

ヴィンセント・ボハート: ほーらな! 分かってたんだよ! “これは2匹の猫だろ、ヴィンセント”。“合うわけがない”。“あなたは後半身を発見してなどいない”。ハ! 俺は正しかった。この俺、ヴィンセント・ファッキン・ボハート様は正しかったんだ! ざまぁみさらせ、アトランティックシティ! お前は俺を打ちのめしたり、消耗させたり、マスタードを付ける時に別料金を払わせたりはできるかもしれんがな、俺は! 正しか—

突然、SCP-529とSCP-7529の連結部分から放出された閃光が部屋を満たし、監視カメラの視界を遮った後、映像は唐突に途絶える。





























黒き月は吼えているか?




路地裏の猫が歌う時のみ。




大深度ディープウェルアーカイブファイルにアクセス中: SCP-(7)529



アイテム番号: SCP-(7)529
レベル4
収容クラス:
esoteric
副次クラス:
maksur
撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
danger

two-half-cats2.jpg

統合前のSCP-(7)529。


特別収容プロトコル: Maksur分類に従い、SCP-(7)529の各構成要素はそれぞれ異なる財団施設に分離されたままの状態に保たれます。現在、2匹のSCP-(7)529構成要素が財団によって個別に収容されています。しかしながら、合理的な仮定から、現時点でSCP-(7)529構成要素は最大4匹存在する可能性が示唆されています。

SCP-(7)529構成要素が特定された場合、関連する財団施設はそれをO5評議会に通知し、O5評議会はSCP-(7)529が統合されることなく個別の確保施設に収容されるように手配します。

説明: SCP-(7)529はイエネコの前半身または後半身のいずれかに似た実体の総称です。SCP-(7)529の身体は胴体中央部で途切れ、独特の黒い均一な表面が断端を覆っています。SCP-(7)529実体は行動面において非異常な同種ネコと類似しており、その生理学的特徴にも拘らず通常の運動が可能です。

未知の理由により、2匹のSCP-(7)529実体を単一の形態に統合する行為は、局所時空間と現実世界の突発的・激甚的な擾乱を生じさせ、KOT-クラスシナリオを引き起こします。これに伴う現象は次の通りです。

  • 全世界的な鳴禽類と齧歯類の大量死に起因する、生態系への深刻な被害。
  • 話し言葉に“ミャオ”meow“ミャウ”miau“ニャー”nyaなどの雑音が意図せずして徐々に頻繁に織り交ぜられることに起因する、言語コミュニケーションの断絶。
  • 重力の変動に起因する、任意の中心点に向かって“落下”する物体の自然な方向転換 — KOT-クラスシナリオの後期になると、この現象は天体をはじめとする大質量の物体にも影響を及ぼし始め、発生頻度も増加する。
  • 中性子と陽子が原子核の内部と外部の間で振動することに起因する、亜原子レベルでの物質の不安定化。
  • その他の軽微な各種現象。

更に、KOT-クラスシナリオはB.A.G.ミーム特性を帯びます。この反ミーム異常性は、対消滅発生以前Before Annihilation Genesis [B.A.G.] に起き、シナリオの誘因となった出来事 — 即ちSCP-(7)529の統合 — を思い出すことを妨げます。

財団大深度アーカイブによると、SCP-(7)529は過去8回にわたってKOT-クラスシナリオを引き起こしています。過去の対応の成功が示されているものの、現時点では、KOT-クラスシナリオを回避、停止、逆転させるSCP財団の能力の信頼度は僅か65%、High C+評価に留まると見込まれています。









サイト-333 監視映像:

従業員休憩室


[…]


ヴィンセント・ボハート: よし、3が合図だ。1…

ノア・パテル: あれっ、てっきりカウントダウンかと思った。

レオノーラ・モラレス: 待って! ちょっと待って! 皆さん止めてください! あれを見て!

トニー・カタラーノ、ノア・パテル、ヴィンセント・ボハートが束の間手を止める。SCP-7529は身をよじってヴィンセントの手から抜け出し、彼の胸を蹴飛ばし、複数の椅子の脚にぶつかりながらテーブルの下に駆け込む。3人がキッチンカウンターに顔を向けると、封書の小山がトースターに立て掛けられているのが分かる。

レオノーラ・モラレス: あんなの、さっきまでありませんでしたよね? ね?

トニーはSCP-529をノアに預け、封書に歩み寄る。彼は束をめくった後、ヴィンセントに手渡す。

トニー・カタラーノ: 全部お前宛てだ。



関係者各位

本書簡は、この地域で最近発生した時間補正に関する自動通達書です。

本書簡の受取人は安定した合意的タイムライン内に存在すると判断されました。逆説的タイムラインの形成を防ぐために追加の行動が必要とされる場合は — もしくは追加の無行動が必要とされない場合は — 近い将来または過去に、時間異常部門またはその他の財団部門の代表者があなたに接触します。

この代表者はもう一人のあなたではありません。未来または過去からやって来た自分自身と遭遇した場合は、相互作用しないでください。そのような異常事態は可及的速やかに時間異常部門に報告してください。我々の緊急電話ヘルプラインは週7日・48時間体制で受け付けております。

本書簡の受取人は、その場にあるアナログ時計、デジタル時計、原子時計などの計時装置を見直し、時間補正後の整合性を確認することが推奨されます。

お時間をありがとうございました。
未来は我らが築くもの。過去は我らが築いたもの!


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保障受領書: クラスK エクストリーム-ブラックスワン



これは、保険提供者であるゴールドベイカー=ラインツ・インシュアランス・グループ Ltd.が、保険利用者であるSCP財団に適用した補償に関する正式な通知です。

クラスK エクストリーム-ブラックスワン保障プランに則り、保険利用者による時間補正後、保険提供者は時空歪曲による物的損害の残存、資産損失、及び/または職員の変位を評価するための正式な監査を実施します。損害が確認された場合、保険提供者は金銭的または物質的な拠出により、関連資産の復旧を支援します。

ネクサス-36: アトランティックシティに関連する異常な影響により、保険利用者が実施した時間補正には複数の時間的エラーが生じましたが、保険提供者によって修正されました。

  • 今回の調整の非包括的リストには以下が含まれます。
    • ヴェイパーウェイヴ・ホテル&カジノの名称及び内装を、ハードロック・ホテル&カジノに修正。
    • シーザーズ・アトランティックシティ・ホテル&カジノからのローマ軍団兵の排除。
    • アトランティックシティを“アトランティ・チーズステーキの発祥地”と表記する広告物の撤去。
    • スチール・ピア遊園地の向きを海に面するように修正。
    • ビートルズの公演鑑賞券として配布された無料チケット10,000枚の無効化。

ゴールドベイカー=ラインツ社はあなた、ヴィンセント・ボハート (以下“無保険者”) が、サイト-333の保険契約の解除を決定したことを受けて、この通知を送付しています。保険提供者は本来、無保険者に対して保障を提供する義務がありませんが、今回のシナリオが広範に及ぼした影響は、保険利用者の保険適用条件を満たすものでした。協議の結果、両当事者は、無保険者が今回のクラスK エクストリーム-ブラックスワン シナリオの免責金額を負担することで合意しました。支払額に関する詳細は添付資料をご参照ください。支払いはアメリカ合衆国ドル、その他の法定通貨、8レアル銀貨、及び/または楔形文字の石板の形態で受け付けております。

ゴールドベイカー=ラインツ・インシュアランス・グループ Ltd.


ノア・パテル: なんて書いてあるんだい、ボス?

ヴィンセント・ボハート: いや、ちょっとな。詐欺だ詐欺。普段受け取る迷惑メールと同じだよ。お前らの誰か1人が置き忘れてたんだろ。

トニー・カタラーノ: ここに戻しとけ、ヴィンセント。前に電気代の未納通知書を詐欺扱いした時のことを忘れたか?

ヴィンセント・ボハート: いやーしかし、長い一日だった。この全身猫云々の作業はちょっと保留にしとくか? また今度にしようぜ。

レオノーラ・モラレス: 猫に関する手紙だったんじゃないですか?

ヴィンセント・ボハート: いや違う。猫って何だ? おぉ、半分猫どもか? いや全然関係なかったが、俺は大事な用ができちまってな。仕事に戻れ、お前ら。

レオノーラ・モラレス: 自分の間違いを認めたらどうです。

ヴィンセント・ボハート: なんで間違ってないことを間違ってたと認めなきゃならないんだ?

トニー・カタラーノ: まだ1通お前宛てのが残ってるぞ。

トニーは残りの折り畳まれた手紙を宙にかざす。手紙は灰色の厚紙に印刷され、清潔な蝋で封印されているように見える。

トニー・カタラーノ: ジーザス、手作りみてぇな紙だ。繊維までしっかり見えるぜ。名前を印刷するのにマジもんのタイプライターまで使ってるのか? まさか文字間を手で調整したりしてねぇだろうな。ノア、見ろよ。こりゃ非の打ち所が無いね。

ヴィンセントはトニーの手から手紙を引ったくり、広げて読み始める。



サイト-333のヴィンセント・ボハート管理官に告ぐ。

君の高慢な野心に突き動かされた最近の行為を諫めるのも、我々の職務の範疇であろう。

また同様に、我々は逸話にせよ作り話にせよ、同種の向こう見ずな試みとその結果について君に語り聞かせることもできる。前以て警告された危険に向かって果敢に飛び立ったのは君が初めてではない。

しかし、運命を受け入れるのを拒むことによってこそ、偉業は成し遂げられるのだ。君はその努力の程度を、たった一つの目的に費やされた精神と肉体の労苦を知らず、また知ることはできないが — 君が始めた恐怖は多大な犠牲と決意によって解決されたという我々の言葉を信用してもらいたい。

我々は君にこれ以上の事情を説明することもできる。しかし、我々は直截に — 非常に直截に — 伝えるのが最善であると判断した。

猫を合体させるな。


読み終えたヴィンセントは手紙を折り畳み、ポケットに入れる。彼はテーブルに歩み寄り、膝を突いてSCP-7529を抱え上げる。

ヴィンセント・ボハート: よっしゃ、お前ら全員仕事に戻れ。座ってボンヤリするために給料を出してるんじゃないぞ。こいつはしばらく俺のオフィスで世話することに決めた。あー、今後を考慮するためにな。

ノア・パテル: 前半分猫はどうする?

ヴィンセント・ボハート: そうだな、ひとまず鳥どもと一緒に突っ込んどけ。

レオノーラ・モラレス: ヴィンセント!

ヴィンセントはSCP-7529を連れて足早に退室し、廊下を進んでオフィスに向かう。

ヴィンセント・ボハート: 気に食わないなら苦情を出すこった!

レオノーラがヴィンセントに追い付こうと後に続く。ヴィンセントは抱えているSCP-7529の位置を調節し、歩調を速める。

レオノーラ・モラレス: そう簡単に逃げられると思ったら大間違いですよ。何が起きてるんですか、ヴィンセント? 手紙には何が書いてあったんですか?

ヴィンセント・ボハート: 何でもない! あいつらが全部元通りにしてくれた!

レオノーラ・モラレス: 全部元通りにしたって誰がですか — そもそもどういう意味ですか?

ヴィンセント・ボハートはオフィスに辿り着き、空いた手でドアを開けようとする。彼がオフィスに近付くと、SCP-7529は猛然と身をよじり、彼の手から逃れようとする。

ヴィンセント・ボハート: 大したことじゃない!お前らも全員落ち着け、全ては順調なんだから!

ヴィンセントがオフィスのドアを開ける。すると、SCP-7529やSCP-529と同一の異常な特徴を有するネコ型実体の前半身と後半身が多数室内にいるのが明らかになる。何匹かはカーペットの上で争っているように見えるが、その他の個体は窓際で日光浴をしている。シャム種ネコの前半身がデスクの上に立ち、毛玉を吐き出してからヴィンセントに顔を向け、またしても別な毛玉を吐く。数匹の群れがヴィンセントを通り過ぎて廊下へ向かう際、無毛であるスフィンクス種ネコの後半身が彼の足に衝突する。ヴィンセントが後ろに飛び退き、SCP-7529は把握から逃れて、逃げてゆく半身猫たちを追いかけ始める。

ヴィンセント・ボハート: [溜め息] 月曜日は嫌いだ。





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