[ログ開始]
司令部: マイク感度良好。続行せよ。
エージェント・ポールソン: オーケー。メインロビーに進入します。
エージェント・リチャーズ: おいおい、まるでつまらん場所だな。見ろよ、飾りも何もありゃしねえ。曲もかかってねえしよ。
エージェント・ブレンドン: 曲ってどういうことだよ?
エージェント・リチャーズ: ライトはちゃんと機能してんだろ。見つかってから2週間ぶっ通しでビル中照らしてんだからよ。なら、なんでこいつが転移する前にかかってた音楽が流れてねえんだよ。前に行ったことのあるサイトじゃほぼやってたぞ。
エージェント・ブレンドン: 俺が転属前にいた所じゃかけてなかったが。
エージェント・リチャーズ: マジか、サイト-17ってのはさぞかし退屈なんだろうな。
エージェント・キャメロン: まあ、ここの雰囲気に合わせてるんじゃないか?
エージェント・リチャーズ: 確かに、がらんどうだからな。こいつはいわゆる「別世界からやってきた」みてえなやつの一種なんじゃねえか、だなんて思ってたんだが、ホントにつまらんな。ロクな特徴もなけりゃ原因っぽいモンも見当たらねえ。
エージェント・キャメロン: ちょうど向こうの壁に時計があるぞ…11時59分59秒で止まってやがる、半端だな。
エージェント・ポールソン: 移動しましょう。
エージェント達はメインロビーを退出し、電灯の点いた通路に進入する。複数の部屋の前を通過するが、注意を引く物は見られない。エージェント達は広いカフェテリアに進入する。テーブルと椅子が整然と並べられ、トレイには様々な料理が載っている。
エージェント・リチャーズ: ほう。食いもんは新鮮だな。ほら、湯気だって出てるやつもあんぞ。ここに俺達が入るまで、何の動きもなかったはずだよな?
エージェント・ポールソン: ええ、出現当初から何も起こっていません。キッチンを確認しましょう。
エージェント達は複数のテーブルの横を通過する。料理は財団のサイトで提供される標準的なメニューのものと一致している。調理台には電源が入っており、手付かずの料理が残っている。エージェント・ブレンドンはキッチンに進入するが、人の姿は見られない。
エージェント・ポールソン: オーブンとコンロを確認してください。
エージェント・ブレンドン: 全部冷めてるな。天板にも熱は残ってない。となると、どうやって向こうのを温めたんだ?
エージェント・キャメロン: こっちを見てくれ。冷蔵庫も冷凍庫も空っぽだ。氷1つ残ってない。棚の方も空だな。どの段もそんな感じだ。
エージェント・リチャーズ: 時間はここでも同じか。
壁の時計は11時59分59秒を指し示している。
エージェント・ポールソン: 時が止まってしまったのでしょう。料理の方も、少なくとも2週間はこの状態で、ひたすら食べられるのを待っていたということですか。
エージェント・ブレンドン: 次は上のオフィスに行こう。
[不要なデータを削除]
エージェント達がオフィスに進入する。カチカチという音が聞こえる。
エージェント・リチャーズ: ここも時間は同じか?秒針は動いてねえが…だとすると、どこでチクタク言ってんだ?
エージェント・ポールソン: どこかのデスクからかもしれません。何か特徴的な物がないか探してみましょう。
エージェント・リチャーズ: どれも丸っきり同じに見えるがな。
エージェント・ブレンドン: ああ。17の会計事務所とそっくりだ。
チームは二手に分かれ、エージェント・ブレンドンとエージェント・キャメロンはパーティション付きデスクを、エージェント・ポールソンとエージェント・リチャーズは付近の事務室を調査する。全てのデスクは同一のコンピューター、椅子、書類棚を備えている。コンピューターのモニターには電源が点いており、通常のデスクトップや白紙のドキュメントが表示されている。最終的に、エージェント・ブレンドンとエージェント・キャメロンは、あるデスクのパーティションに3枚のポラロイド写真がピンで留められているのを発見する。
エージェント・ブレンドン: ようやく何かあったか。
全ての写真には、同一人物と見られる白髪で薄毛の中年男性が写っている。1枚の写真では、男性の隣に同年代の女性、及び少女が並んでいる。背後にはエッフェル塔があり、全員微笑んでいる。別の写真では、男性は「イエローストーン国立公園」と書かれた看板の横に立ち、虚ろな目でカメラの方を見つめている。3枚目には、男性と複数の人物がオフィスに集まっている様子が写っている。天井には「メリークリスマス!」と書かれた横断幕が吊るされており、大半の人々はクリスマスを祝っている一方、男性は明らかに疲弊しており顔をしかめている。
エージェント・キャメロン: 待った。これを見てくれ…
エージェント・キャメロンは3枚目の写真を注意深く調べる。写真の人々の中にエージェント・キャメロンが存在している。
エージェント・ブレンドン: どういうこった?
エージェント・キャメロン: こりゃ、前にサイト-17でやった2009年のクリスマスパーティーだ。俺は全部覚えてるぞ。お前、飲み過ぎて外にほっぽり出されてなかったか?
エージェント・ブレンドン: 関係ないだろ。ただ、こんな奴は知らないな。デスクのネームプレートには「ロナルド・クリスチャン」って書いてあるが。何か心当たりはないか?
エージェント・キャメロン: まあな、この写真を撮る時にポーズを取ったんだ…今思い出す、こいつは確か-
エージェント・キャメロンの動きが止まる。
エージェント・キャメロン: おかしい。この男を思い出そうとしても、何も浮かばん。こいつの立ってる場所には誰もいなかった。
エージェント・ブレンドン: なるほど、妙だな。体調は大丈夫か?
エージェント・キャメロン: ああ、問題はない。とはいえ、後で2人とも認識災害の検査を受けることにしよう。
一方、エージェント・ポールソンとエージェント・リチャーズは複数ある事務室のドアを調査する。ほとんどの部屋のネームプレートは空欄だったが、「サイト管理官 ウィリアム・デブリ」と書かれたものを発見する。エージェント達はその事務室に進入する。中には1組のデスクと椅子、隅に鉢植えがあり、その他の一般的な物品も置かれている。デスクの上にフォトフレームがあり、少年とサイバネティックな腕を持つ男性の写真が飾られている。少年は男性の腕を見て興奮しており、男性は大きく笑っている。
エージェント・ポールソン: ふふっ、可愛らしいですね。
エージェント・リチャーズ: その男、間違いなくストック写真で見たことあるぞ…
エージェント・ポールソンはデスクの引き出しを開け、中に1冊のみ入っていたファイルを取り出す。表紙には「SCP-XXXX」[ママ]と印刷されている。彼女がファイルを開くと、中には数枚の書類が確認できる。全体を通してほとんどの文章が黒塗りや「[編集済]」「[データ削除済]」のような語句で検閲されている。ファイルに挟まれていた写真には金属製の巨大な扉が写されており、取り付けられた小窓の一部分が検閲されている。下部のキャプションには「SCP-XXXX収容チャンバー」と書かれている。
エージェント・ポールソン: 「XXXX」。特殊な番号なんでしょうか?
エージェント・リチャーズ: こっちに収容プロトコルがあるぜ。「SCP-XXXXは専用の収容チャンバーに収容されます…収容チャンバーは-(間)…サイト-XXの立入制限収容区域に設置されます」?残りは長すぎてここじゃ読んでられん。
エージェント・ポールソン: この建物の名前は確認できましたね。2人を呼んで移動しましょう。
エージェント・リチャーズ: どう見てもありえねえ番号だがな。
[不要なデータを削除]
チームは人気のない通路を歩く。カチカチという音が聞こえるが、周囲に時計は存在しない。
[不要なデータを削除]
エージェント達はエレベーターに進入する。ほとんどの階数ボタンには何も書かれていないが、最下部に「00」と書かれたものが存在する。他のボタンは反応しない。「00」を押すとエレベーターが動きだす。
録音された音声: ゼロ階 - 立入制限収容区域です。
エージェント・リチャーズ: クリアランスもいらなかったな…
エレベーターは低い駆動音と共に動き続け、2分後に停止する。ドアが開き、細長い通路と複数の収容室の扉が確認される。
エージェント・ポールソン: マイクチェック。司令部、聞こえますか?
司令部: はっきりと聞こえる。ノイズはない。
エージェント・ポールソン: よし、進みましょう。
チームは通路を移動していく。多種多様な収容チャンバーが存在し、その正面にはアイテム番号が書かれているが、既存の如何なるものとも一致しない(SCP-????、SCP-、SCP-####など)。幾つかのチャンバーには、室内を確認するためにマジックミラーの小窓が取り付けられているが、内部には特徴のない収容室しか見られない。エージェント・ブレンドンが扉の1つを調査する。
エージェント・ブレンドン: ビクともしないな…いや。
エージェント・ブレンドンは扉の下部を綿密に調べる。その後、ドアノブを捻って引く行為を何度か繰り返す。
エージェント・ブレンドン: こいつは本物のドアじゃない。壁にくっ付いてるだけだ。
エージェント・リチャーズ: こいつら全部そうなんじゃねえの。
エージェント・キャメロン: いや、待った。向こうを見てくれ。
ある小窓から、1つの蛍光灯に照らされたテーブルが見える。テーブルの上には、ライフル銃に似た形状の大型銃火器とクリップボードが載っている。ライフル銃には複数の詳細不明な武装が増設されている。クリップボードに挟まれた書類には「SCP-++++ - チェーホフの銃」と書かれている。
エージェント・リチャーズ: 地味すぎて気づかなかったな。
エージェント・ブレンドンはドアノブを回そうとするが、鍵が掛けられている。
エージェント・ポールソン: 後で戻ってきましょう。行きますよ。
エージェント達は更に複数の通路を通る。全て同様の形状であり、特筆すべきことは無い。最終的に、チームは「SCP-XXXX収容区域」と書かれた両開きの扉をくぐる。内部には巨大な地下トンネルに続く移動用トロッコが存在する。トロッコのコントロールパネルには大きな赤いボタンが付いている。
エージェント・ポールソン: 進入継続の許可を。
司令部: 行ってくれ。
エージェント・ポールソンがトロッコを起動し、「SCP-XXXX」の収容区域に向け動きだす。
エージェント・キャメロン: ここについて、今の所どう思う?
エージェント・ブレンドン: 別の現実世界から来たもう1つの財団って所か?どっかが狂った、みたいな?割とあるらしいぞ。幾らか聞いたことがある。
エージェント・キャメロン: 俺はよく知らんな。後、なんであのオフィスで名前があったのが2人だけなんだ?そいつがどうにも引っ掛かる。
エージェント・ブレンドン: 最初の奴は、写真を見る限りじゃ人生を楽しんでる感じだったな。誰か17で「ロナルド・クリスチャン」って奴のこと言ってなかったのか?
エージェント・キャメロン: さあ。はっきりとは分からん。ただ、ちょっと思い浮かんできたもんはある。「思い浮かぶ」ってのが合ってるか知らんが、誰かがサイト-17を歩き回ってるのが想像できるんだよ…。あらゆる重要で専門的な…碌に家族と過ごせない。だから他の写真じゃ1人だったんだ。あいつがここへの異動のことを話したら、奥さんは結局あいつを置いて子供を連れてった。その後、サイトの責任者がとんでもないものを見つけて、あいつを特別なプロジェクトに呼んで、埋めておくべきだったデカいもんに取り憑かれるようになったが、ウィリアム・デブリ管理官が日頃からあいつに何かを発見するためだと言っていたからそいつらはプロジェクトをこなしたが最終的にりょうほうともこうきしんにまけてさいとぜんたいでだいきぼしゅうよ-
エージェント・ポールソン: キャメロン…キャメロン!ちょっと!
突如エージェント・キャメロンが体を震わせ、正気を取り戻す。
エージェント・キャメロン: うぅん…クソ、何だ今のは?
エージェント・リチャーズ: 話の途中からおかしくなってったんだ。体調に問題はねえか?
エージェント・キャメロン: ああ。大丈夫だと思う。一体どうなってんだ?
トロッコが停車し、チームは降りる。エージェント達の前には金属製の扉があり、その奥からアラームの音が聞こえる。エージェント達は互いに頷きあい、扉を開く。内側からのアラーム音が明瞭になる。中の通路は暗闇に覆われており、赤い警報器の点滅しか確認できない。チームは複数の部屋の横を通過する。部屋の内部には様々な赤い光に照らされた巨大なコンピューターが存在し、大半が煙やスパークを発生させている。異常な機械音が通路に響き渡り、後ろの部屋から爆発音が聞こえる中を、チームは何とか通り抜ける。ある部屋の中に巨大なモニターがあり、「収容違反発生」と表示されている。
エージェント達は別の通路の端にあった扉に辿り着き、内部に進入する。
エージェント達は小さな部屋に足を踏み入れる。壁と天井は金属、床はコンクリートで作られている。入り口の反対側の壁には金属製の扉が1つ存在し、その左側に付けられたプレートには「SCP-XXXX」と書かれている。他の部屋の音は聞こえない。
エージェント・キャメロン: 助かった。
エージェント・ポールソンが「SCP-XXXX」の収容チャンバーに近づき、小窓から内部を覗く。チャンバー内には何も見られない。
エージェント・リチャーズ: 何が見える?
エージェント・ポールソン: こちらへ見に来てください。
エージェント達が集まり、順番に中を覗く。
エージェント・リチャーズ ありゃ…いや、待て…元の塊に戻ってってんな…また別のやつが出てきてやがる、大量の目ん玉みてえな…
エージェント・ブレンドン: いや、尻尾があるぞ。ツノもだ。クモの長い足まであるぞ、気味悪りぃ。
エージェント・キャメロン: 全体的に半透明だな。輪郭は何となく分かるが。
エージェント・ポールソン: 司令部、そちらからは何か見えますか?
司令部: いや。こちらからは何も。君達にはどんなものが見えているんだ?
エージェント・ポールソンは他のメンバーに視線を戻す。
エージェント・ポールソン: 何かの塊です。半透明で、常に姿を変化させています。ただ、全員異なる姿を視認しているようです。一定の形態を取ろうとしています-いえ、というよりは、それに抵抗して、元の不定形な姿に戻ろうとしています。さながら、何かに引っ張られて、粘土のように変形させられているかのようです。キャメロン、どうかしました?
エージェント・キャメロン: 多分、何というか…こいつは間違いなくバケモンなんだと思う。今まで大量に見てきたやつらと似てるんだ。デカい1つ目の灯台がいた。赤い炎に沈む骸骨の淑女に、先月はデカいクモも相手にした…こいつに目を向けたら、数秒の間だけだが、そういうやつらになったんだ。多分、こいつはクリスチャンって男が収容に携わってたやつで、そいつにはこれを外に出す理由が滅茶苦茶にあったから、デブリ管理官を騙したんだろう。さっき言った通り、そいつは自分の生きがいを無くしてたんだと俺は思う。だが-
エージェント・キャメロンが扉のドアノブに手を伸ばす。この時、エージェント達が述べていた現象がカメラの映像に映るようになる。その後、エージェント・キャメロンが腕を下ろすと共に、SCP-XXXXは再び確認されなくなる。
エージェント・ポールソン: 何ですか?
エージェント・キャメロン: まるで実感がないんだ。こいつはそんなバケモンじゃない、少なくとも今は。不完全なんだと思う。何かに変わろうとするとバケモンになっちまうのかもしれんが、だとしてもそれだけだ。多分、こいつはそんなのになりたがってない。だが、もしも俺達が調査のためにこのドアを開けて、収容違反を引き起こしたら、こいつはそうなっちまう。もう耐えきれなくなって、この場所が望む姿に、何だろうとなっちまうんだ。
カメラはチャンバー内部の何もない空間を映し続けている。
エージェント・リチャーズ: こいつが何なのかきっちり分かるまでは、これ以上何もしねえ方がよさそうだな。
エージェント・ブレンドン: それか、さっさと出ていくべきかもな。チャンバーの敷居を跨ぐ前に、誰かにテストさせよう。
エージェント・ポールソン: 確かに。司令部、帰還の用意はできています。
司令部: よろしい。拠点に帰還せよ。
エージェント・ポールソン: 行きましょう。
エージェント達は空の収容チャンバーを残して部屋を退出する。
[不要なデータを削除]
エージェント・リチャーズ: ちょっと待て。あの銃の所に戻った方がいいんじゃねえか?
エージェント・ポールソン: いえ。重要ではないので。
[ログ終了]
注記: その後の調査により、探査当時にサイト-17で勤務していた、または過去にその経験のあった数多くの財団職員の間で、突如としてSCP-7537が財団の公式な収容サイトであるという記憶が発生し、とりわけそこが「ロナルド・クリスチャン」の勤務地であったとの認識が広がっていたことが判明した。この現象はエージェント・キャメロンがSCP-XXXXのチャンバーからの解放を拒絶した後に消失した。影響を受けた全ての職員は、KeterもしくはApollyonクラスの異常実体により、SCP-7537でサイト規模の収容違反が起きるところだったように感じられると主張した。