Info
翻訳責任者: Tetsu1
翻訳年: 2024
著作権者: Ecronak
原題: R is for Reshape
作成年: 2022
初訳時参照リビジョン: 23
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7686
⚠️ コンテンツ警告: この記事には、親による精神的虐待、一方の親への疎外、化学物質の使用と乱用、ボディホラーといった深刻な主題が含まれます。読者による判断を推奨します。
SCP-7686-Aが発見された部屋の写真。
特別収容プロトコル: SCP-7686を所持していることが発見された民間人は、その起源を特定する試みとして尋問されます。その後、民間人には記憶処理を施し、発見された全てのSCP-7686実例は現地サイト管理官の裁量で処分されます。執筆時点で、SCP-7686の起源を特定し、その大量生産と配布を停止するための調査が進行中です。
SCP-7686-Aは植物状態のため、対象には手動で栄養を与え、静脈内(IV)ブドウ糖注射を行わなければなりません。SCP-7686-Aから生じた異常な脳活動は直ちに記録されます。ジェイムソン博士が現状から回復しつつあると判断された場合、ジェイムソン博士に苦痛を与えSCP-7686-Aに害を及ぼしうる過度の反応を防ぐため、研究主任の裁量で措置を講じなければなりません。
説明: SCP-7686は、口語的に "リシェイプReshape" として知られる、アメリカ合衆国全土で発見される、広く流通しているもののあまり理解されていない化学物質です。この物質は、少量摂取すると、大抵は長期間にわたり、使用者の肉体をその願望に従って変形させることが可能です。
この物質を摂取した場合の副作用には、発熱、全身の激しい痛み、悪寒が含まれます。SCP-7686を過剰摂取した場合には、副作用に発作、劇的かつ不随意の身体構造や皮膚色素の変化、唐突な骨の崩壊、身体の部分的または全体的な液状化が加わります。
この物質に中毒性はありませんが、その効果は長期間の使用と摂取量を増加させることでのみ維持可能です。これにより複数の注目すべき乱用が記録されており、その最たる例は、現状唯一の極度のSCP-7686乱用例であるSCP-7686-Aの発見です[発見ログを参照]。
SCP-7686-Aは、ジャレッド・ジェイムソン博士とその娘のリディア・ジェイムソンが頭蓋結合体1及び臍結合体2と同様の方法で結合した肉体からなる生命です。
現在、ジェイムソン博士の状況は、口と左目を含む顔の大部分が塞がれています。対象の呼吸は鼻を通してのみ可能ですが、それもリディア・ジェイムソンとの融合により部分的に妨げられています。頭部は別として、ジェイムソン博士はその腕と下半身で、抱擁と同様に解釈できる方法でリディア・ジェイムソンと結合されています。
加えて、リディア・ジェイムソンのジェイムソン博士との融合の性質上、彼女の顔はジェイムソン博士の首と肩に埋没しています。それゆえ、リディア・ジェイムソンは独立した呼吸と消化ができず、ジェイムソン博士への寄生関係を余儀なくされています。同様に、リディア・ジェイムソンの脳の50%近くがジェイムソン博士の身体に埋没しています。これにより、財団はリディア・ジェイムソンを脳死と結論付けました。現時点で、ジェイムソン博士は永続的な植物状態にあります。
補遺7686.1: 以下のログは、リディア・ジェイムソンのクラウドベースドライブから発見された "デジタルフォトアルバム" フォルダから内容を選択して転写したものです。フォルダの編成方法の都合上、この記録には各サブフォルダの要素がまとめて転写されています。
執筆時点で、ドライブは無効化され、内容の残りは財団の管理下に移されました。簡明化のため、各サブフォルダ名が転写の最上部に記載されています。
"1歳の誕生日スキャン写真"

Uncle_Charls_Cake.jpg
サブフォルダ内で発見された写真の多くには、25歳頃のジェイムソン博士を含む複数の人物が、ジェイムソン博士の自宅でリディア・ジェイムソンの1歳の誕生日を祝っているのが写っている。各人が集まりを楽しんでいるのが示されており、リディア・ジェイムソンは毎回父親に抱かれている。
写真がスナップ的に撮影されているにも拘らず、数枚の写真にはジェイムソン博士がカメラを見て話した状態で写っている。これは特に、他の様々な人物が同じような角度から、ジェイムソン博士を明らかに撮影している場合に顕著である。
"スキャン写真家族の"
bath_end.jpg
サブフォルダ内で発見された写真には、上位中産階級家庭の多種多様な被写体が写っている。各写真はジェイムソン博士とリディア・ジェイムソンを不明な人物の視点から撮影しており、撮影時点でリディア・ジェイムソンは2~5歳前後と推定される。
写真の被写体は以下を含む。
- ジェイムソン博士と考えられる不明な人物に入浴させられるリディア・ジェイムソン (bath.jpg)
- リディア・ジェイムソンの周りにタオルを当てるジェイムソン博士 (bath_end.jpg)
- ジェイムソン博士に歩行を補助されるリディア・ジェイムソン (First_Steps.jpg)
- 泣いているリディア・ジェイムソンと、そこに牛乳瓶を持って駆け寄るジェイムソン博士 (Run_Dad_Run!.jpg)
- ベビーベッドで眠っているリディア・ジェイムソン (Out_Cold.jpg)
- チャイルドシートに座り、下腹部にシートベルトを締めた3歳のリディア・ジェイムソン (First_Day_of_School.jpg)
- 高成績を示す賞状を持つ3歳のリディア・ジェイムソン (Preschool_Graduation.png)
- 小学校で行われた表彰式で、複数の実績で表彰される5歳のリディア・ジェイムソン (Kindergarten_1.jpg, Kindergarten_2.jpg, Kindergarten_5.jpg)
- 小学校に入学し、カメラの持ち主に別れを告げる6歳のリディア・ジェイムソン (1st_Grade_1st_Day.jpg)
- 州全体の「クイズ・ビー」3コンテストで優勝し、2000ドル相当の長さ1メートルの厚紙小切手を手にする6歳のリディア・ジェイムソン (Lydia_First_Contest.jpg)
- 州全体の「スペリング・ビー」4コンテストで優勝し、4000ドル相当の長さ0.75メートルの厚紙小切手を手にするリディア・ジェイムソン (Lydia_Young_Geniuses.jpg)
"ゴミ"
以下の写真は "デジタルフォトアルバム" フォルダに含まれていなかったが、"1歳の誕生日スキャン写真" サブフォルダに2016年5月28日ににアップロードされた後、2016年6月9日に削除された。
"Love_You_Too_Dad.jpg"
サブフォルダ内にまとめられていた他の写真と異なり、この写真は付随するサブフォルダに分類されず、最上位フォルダにアップロードされた。サブフォルダに含まれるものと同様、この写真もスキャンされている。
写真には、11歳のリディア・ジェイムソンとジェイムソン博士が写っている。2人は横並びになって微笑んでいるが、ジェイムソン博士の目の下には大きな涙袋があり、疲れているように見える。注目すべき点として、2人は一般的な親子の類似性の範疇以上に、多くの身体的特徴を共有しているように見える。これはリディア・ジェイムソンの茶髪と丸顔に顕著に表れている。これまでの写真と異なり、この写真は被写体自身が携帯電話のインカメラによって撮影したように、かなり近くから写っているようである。背景には、古く老朽化した家の外観が見える。リディア・ジェイムソンは、人気ゲーム番組 "ザ・ブライテスト"5 への招待が記された手紙を持って有頂天になっているのが見える。
写真には、「あの女は俺にとっての全てを奪うこともできたかもしれないが、俺はお前のために戦っただけだ。」という文言が黒のマーカーで書かれている。
補遺7686.2: 以下のログは、リディア・ジェイムソンのクラウドベースドライブから発見された "家族のビデオ" フォルダの内容を選択して転写したものです。各ビデオのファイル名と作成日が各転写の上部に示されています。
Dad_39th_Birthday_Surprise.mp4
2014年9月12日、19:56作成
ビデオは、狭く暗い室内空間、恐らくクローゼットの扉の隙間からリディア・ジェイムソンがカメラを向けている場面から始まる。隙間を通して小さな扉が見え、外につながっていると思われる。狭い室内空間の外に続く部屋は、ちらつくような蛍光灯により薄明るく照らされている。部屋の中央には剥き出しのダイニングテーブルと安物のプラスチックの椅子が見える。
リディア・ジェイムソンが携帯電話のカメラ表面を叩く音が聞こえ、ビデオの視点が即座に反転して彼女の姿を捉える。リディア・ジェイムソンは満面の笑みを浮かべているが、カメラの視点が遠すぎて左頬の一部しか映せていない。
リディア・ジェイムソン[興奮して]: 「オッケーパパ、パパは誕生日に何もいらないって言ってたけど、ほってかれたって感じてほしくないんだ」
リディア・ジェイムソンは首を張って、空間の扉の隙間を覗く。室内には数着の衣服だけがぶら下がっており、その中には1着のダークスーツ、2本のズボン、1枚のスカート、1着のピンクの子供サイズTシャツがある。
リディア・ジェイムソンはカメラに振り返り微笑む。
リディア・ジェイムソン: 「パパは土曜日に私のために何か準備してくれてるみたいだから、私もパパに何かしてあげたかったんだ」
外で足音が聞こえる。リディア・ジェイムソンは即座に話すのをやめる。携帯電話のカメラは下を向き、リディア・ジェイムソンの顎と顔の下部のみが見える。
扉が開く音が聞こえる。リディア・ジェイムソンは急いで携帯電話を持ち上げ、カメラの視点を正面に切り替える。ビデオを通して、ジェイムソン博士が家の扉を開けて入ってくるのが見える。彼の服は安物のスーツとネクタイ、黒いズボンからなり、皺だらけで乱れている。背中を丸めた様子からは疲れが見て取れる。彼は小さなバックパックを身に着けている。
ジェイムソン博士[疲れた様子で]: 「リディア? ただいま」
リディア・ジェイムソンが静かにくすくすと笑っているのが聞こえる。ジェイムソン博士は疲れた姿でバックパックを床の扉近くに降ろす。彼はスーツを脱いでダイニングテーブル横の椅子の一つに掛ける。
ジェイムソン博士: 「リディア? いるか?」
ジェイムソン博士はダイニングテーブルからゆっくりと離れ始める。携帯電話のカメラは、恐らくリディア・ジェイムソンがクローゼットから出る準備をしているかのように揺れる。
ジェイムソン博士が歩いていき、視点から出る。リディアは再度笑う。
リディア: 「行こう」
リディア・ジェイムソンはクローゼットから出て、テーブルに静かに近付く。左手には、小さな燃え尽きたキャンドルが乗った、小さなカップケーキを持っている。それを静かにテーブルに置く。
ジェイムソン博士: 「リディア、そこにい-」
ジェイムソン博士は怒った表情でダイニングルームに戻るが、テーブルの上のカップケーキを見ると表情が和らぐ。
リディア・ジェイムソン[歌う]: 「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー…」
ジェイムソン博士の表情は心配から喜びに変わる。その顔に笑顔が浮かび始める。
リディア・ジェイムソン[歌う]: 「ハッピーバースデー、ハッピーバースデー…」
ジェイムソン博士が鼻をすするのが聞こえる。満面の笑みを浮かべている。
リディア・ジェイムソン[歌う]: 「ハッピーバースデー、パパ!」
ジェイムソン博士は笑顔を浮かべ続けている。下唇が震えるのが見える。ゆっくりと目に涙をため始める。
リディア・ジェイムソンが携帯電話の画面をタップする音が聞こえる。ボブ・カーライルの "Butterfly Kisses" が再生され始める。
リディア・ジェイムソン: 「パパ?」
ジェイムソン博士はテーブルの方にゆっくりと歩いていく。目はリディア・ジェイムソンの方を向いている。彼はまだ笑顔を浮かべている。
ジェイムソン博士はゆっくりとカップケーキを持ち上げ、燃え尽きたキャンドルの芯に息を吹きかけ、テーブルの上に戻す。彼は物憂げな表情で話し始める。
ジェイムソン博士: 「こっちに来て」
リディア・ジェイムソンは携帯電話をテーブルに置き、カメラから様子がよく見えなくなる。足音が聞こえる。ジェイムソン博士が鼻をすする音がする。
ジェイムソン博士[促すように]: 「ハグしてくれないかな、ほら」
数秒間の静寂。ジェイムソン博士が涙を浮かべているかのように鼻をすする音だけが聞こえる。
ジェイムソン博士: 「今日は仕事で散々な一日だったんだ、だから本当にありがとう、リディー。これがどんなにパパにとって大切なものか、リディーにはわからないだろうけど」
ジェイムソン博士は再び鼻をすする。
ジェイムソン博士: 「上手くいくって言っただろ? ママがいなくても」
さらに数秒静寂が続く。
ジェイムソン博士: 「…ほら、さ。パパにくれたカップケーキを食べようじゃないか。明日も番組があるからさ、しっかり考えれるようにお腹いっぱいにしてから寝てほしいんだ」
足音が携帯電話のカメラに近付く音がする。リディア・ジェイムソンはそれを拾い上げる。その両目の下には涙の跡が線になっており、右手でそれを拭う。
ジェイムソン博士: 「それで、リディー」
リディア・ジェイムソンは左を向く。
ジェイムソン博士: 「何があってもリディーを誇りに思ってるからな、いいか?」
リディア・ジェイムソンはため息をつき、微笑む。
リディア・ジェイムソン: 「お金を勝ち取れなくても?」
ジェイムソン博士は数秒沈黙する。
ジェイムソン博士: 「ただパパのためだけに勝って、いいか? 何から何までリディーを信じてるから。お金のことは考えないで、優勝することを考えて」
新たにリディア・ジェイムソンの頬を涙が伝い、それを再び拭う。
リディア・ジェイムソン: 「ありがとう、パパ。優勝したらもっと大きなケーキを買ってあげるね」
ビデオが終了する。
Game_Show.mp4
2014年9月13日、16:46作成
ビデオには、スタジオセッティングステージのテーブル前に座る2人の生徒が映っている。2人に向かって審査員団が下に座っており、少なくとも200人がメインステージの左右の椅子に座っている。カメラの周囲に人々がいて、競争の様子を収めるため多数の携帯電話が掲げられている。
後に著名なゲーム番組司会者のローレンス・マンザーノと特定された司会者が、灰色のスーツを着てステージ下手側から現れる。手にはマイクを握っている。
マンザーノ: 「私たちはこの数日間で数多くの予選を開催し、そこではこの国でもとりわけ優秀な生徒たちの一人一人が頂点を目指し、互いに競い合ってきました。何度も言われた通り、50人の生徒が入ってきて……」
マンザーノは振り向いて、ステージ上の2人の生徒を開いた手で指す。
マンザーノ: 「抜けられるのは1人だけ」
カメラの保持者が恐らく群衆の上からよりよく見えるようにしたため、ビデオは不安定になる。その間に、マンザーノはポケットからキューカードを取り出して読み上げ始める。
マンザーノ: 「皆様、最後の2人の参加者をご紹介できることを光栄に思います。まずはこちら……」
マンザーノは伸ばした腕を左に動かす。カメラはステージ上の生徒にズームする。
マンザーノ: ジュールズ・バーンストン中学校より、リナ・タンさんです! 彼女に盛大な拍手を!
群衆の多くが拍手を始め、一部からは歓声も聞こえる。タンは立ち上がり、謙虚な姿勢で群衆に挨拶する。数秒後、拍手の音は小さくなる。
マンザーノ: 「そして、ジャン・マルヴィッチ中学校より、2人目の出場者、リディア・ジェイムソンさんです。もう一度、彼女にも盛大な拍手を」
群衆は再び拍手を始め、カメラが激しく揺れ始め、ジェイムソン博士と思われるその保持者は大きく歓声を上げる。ズームインされたカメラは、きまり悪そうに笑顔を浮かべたリディア・ジェイムソンが立ち上がり、群衆に挨拶する様子を捉えている。
数秒後拍手の音は小さくなり、カメラが安定し始めるとともにジェイムソン博士は歓声を止める。
マンザーノ: 「拍手をありがとうございます。出場者の方はお座りください」
カメラはリディア・ジェイムソンからズームアウトしてステージ全体に焦点を当てる。マンザーノが再度話し出す。
マンザーノ: 「ここからは、遂に最終戦に入ります。問題は3つの段階に分かれています。簡単、普通、難しい。これまでの予選と同じく、簡単な問題は1ポイント、普通の問題は2ポイント、難しい問題は4ポイントです。スコアは後ろに表示されます……」
審査員が話し続けている間、カメラの右上に「BATTERY LOW」の文字が点滅し始める。
ジェイムソン博士: 「クソ」
ジェイムソン博士はカメラを下ろし、ステージの様子が不明瞭になる。背後で審査員が競技のルールを説明し続けている。床と他の観客の足のみが見える。ジェイムソン博士が録画ボタンを押す音が聞こえる。
ビデオが終了する。
Game_Show_2.mp4
2014年9月13日、17:01作成
ビデオは、ステージの僅かに異なる視点から始まり、恐らくジェイムソン博士がスタジオの別の場所に移動したと思われる。先ほど撮影された通り、リディア・ジェイムソンとリナ・タンが低い位置にある審査員のパネルに向かい合うテーブル前に座っている。2人の出場者の背後には大きな画像が映されており、スコアを表示している。リディア・ジェイムソンが21ポイントに対し、リナ・タンが24ポイントで優勢である。ローレンス・マンザーノはキューカードを手にして、ステージ下の横にあるカメラの前に立っている。
マンザーノ: 「これが、この熱戦の、そして番組の最後の問題です……」
カメラは動いて、明らかに緊張しているリディア・ジェイムソンに焦点を当てる。彼女はそわそわと手をこすり合わせながら、最後の問題を待つ。
ジェイムソン博士[カメラの背後から]: 「頑張れ、リディア。やるんだ」
マンザーノ: 「前の問題で言った通り、天頂zenithとは観測者から真上の点を指します。では、地球上で天頂から180度正反対のところを何と言うでしょう?」
会場内には極度に張り詰めた静寂が漂う。リディア・ジェイムソンは目を見開いている。ビデオカメラの解像度が低いため不明瞭だが、彼女の顔は汗にまみれている。
両出場者が回答を思い付こうとして数秒の沈黙が続く。
マンザーノ: 「もう一度言います、地球上で天頂から180度正反対のところを何と言うでしょう?」
両出場者が回答を思いつけないまま30秒の沈黙が経過する。カメラは僅かに震え始める。
マンザーノ: 「答えがわかりましたら、出場者の方は手を挙げてください」
カメラはリディア・ジェイムソンの顔からズームアウトしてステージ全体を映す。リナ・タンは席上で震えているが、その手を挙げる。
マンザーノ: 「はい、リナ・タンさん?」
タン: 「その… ちへ… うーん……」
マンザーノ: 「今答えられないようでしたら、回答権はリディア・ジェイムソンさんに移ります」
リナ・タンは目を見開いてリディア・ジェイムソンを見る。リディア・ジェイムソンも席上で震えている。
数秒の後、リナ・タンは手を下ろす。
マンザーノ: 「わかりました。どうですか、ジェイムソンさん? あなたの答えは?」
リディア・ジェイムソンは立ち上がる。彼女は自信を見せようと笑顔を作っているように見える。
リディア・ジェイムソン: 「あ… あー… あ……」
カメラは揺れ始める。
ジェイムソン博士: 「見せてやれ、リディア」
リディア・ジェイムソン[小さな声で]: 「地平線horizon?」
会場のスピーカーから、リディア・ジェイムソンの不正解を表す否定的なトーンの音が流れる。彼女は僅かに体を縮める。
マンザーノ: 「チャンスを逃しましたね。タンさん、正解はわかりましたか?」
リナ・タンは立ち上がって咳払いする。
タン: 「て…… 天底nadir?」
スピーカーから肯定的な音が流れる。群衆はそれに反応して拍手を始める。
マンザーノ: 「28ポイントで、リナ・タンさんが今年の正式なブライテストに決まりました!」
カメラはリディア・ジェイムソンの顔にズームインする。彼女は泣きそうになっている。審査員がリナ・タンにメダルと金銭的褒賞を示す巨大な小切手の授与を促すと、リディア・ジェイムソンは敗れた様子で舞台裏に進む。
カメラが揺れ始め、ジェイムソン博士がそれを下ろす。鼻をすする音が聞こえる。
すぐにカメラはジェイムソン博士のバックパックに押し込まれる。急ぐような足音が聞こえ、ジェイムソン博士が走っているものと思われる。
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「もう無理だ。無理だ。駄目だ。これ以上落ち着いてられるか」
足音が続く。2分後、足音が止まる。
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「パパ?」
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「お前がやることは一つだった。一つ。たった一つだけだったのに」
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「パパ、ごめんなさい。でも何-」
ジェイムソン博士[声を抑えながらも強めて]: 「ごめんなさい?あとちょっとだったんだぞ、リディア、あとちょっと。金が必要だった、そうすれば…… また俺たちだけで生活できた。俺は…… 俺は…… お前を信じていた、リディア。俺は週6日犬のように働いて、これがお前の俺への仕打ちか?」
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「パパ、本当にごめんなさい、何か他にするから-」
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「駄目だ」
短い静寂。
リディア・ジェイムソン[声を抑えて、弱弱しく]: 「え?」
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「お前にできることなんてない。もう終わりだ」
20秒間の静寂が続く。
ジェイムソン博士[声を抑えて、静かに]: 「お前にはがっかりだ、リディア」
更に静寂が流れる。
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「パパ、約束してくれたよね。ずっと…… 誇りに思ってくれるって。まだ誇りに思ってるよね、ねえ?」
10秒の沈黙が続く。
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「パパ?」
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「外出禁止だ」
リディア・ジェイムソン[声を抑えて]: 「え? パ-パパ?」
ジェイムソン博士[声を抑えながらも叫んで]: 「お前は外出禁止だ、聞いてなかったのか!? 電話禁止、友達と遊びに行くの禁止、一切の外出禁止! これを取り消したいなら、取り消したいってんなら、それまでただ勉強してろ!」
30秒の沈黙が続く。恐らくリディア・ジェイムソンから、鼻をすする音が聞こえる。
ジェイムソン博士[声を抑えて、静かに]: 「お前は母親に似てきたなあ?」
すすり泣く音が聞こえる。ジェイムソン博士が恐らく歩き始める。
リディア・ジェイムソン[声を抑えて、懇願するように]: 「本当にごめんなさい、パパ。パパ、お願い、パパ」
ジェイムソン博士[声を抑えて、苛立って、諦めたように]: 「さっさと車に戻るぞ」
リディア・ジェイムソン[声を抑えて、懇願するように]: 「パパ。パパ、パパお願い」
ジェイムソン博士からの返事はない。
ビデオは数分続く。リディア・ジェイムソンは必死で父親の注意を引こうとし続ける。ジェイムソン博士は無言のままである。
カメラの右上に "BATTERY LOW" の文字が点滅し始める。
10分後、ビデオが終了しカメラが切れる。
補遺7686.3 以下のログは、"アーカイブ済みファイル" フォルダから内容を選択して転写したものです。このフォルダはリディア・ジェイムソンの電話から彼女のクラウドベースストレージに自動でアップロードされました。
"アーカイブ済みファイル" フォルダの内容が膨大なため、以下の転写には年ごと、適切な場合は月ごとの写真の概要が記されています。
2014
リディア・ジェイムソンが最初にスマートフォンを利用可能になったのが2014年9月のことだったため、この年にアップロードされたファイルはごく少数だった。写真の多くは、リディア・ジェイムソン自身が訪れた場所で撮影した "自撮り" だった。
2014年9月から12月まで、以下の場所で撮影された。
- ジャン・マルヴィッチ中学校の様々な場所(大部分は未特定の友人、クラスメイト、教師、職員と共に)
- ジェイムソン家(2014年9月には大抵ジャレッド・ジェイムソン博士が写っていたが、9月13日以降は写っていない)
- マクドナルド レゾナンス支点(この場所の写真は大抵放課後に撮影)
- ジャン・マルヴィッチ中学校の他の生徒の自宅
- チャンネル9スタジオ6
リディア・ジェイムソンが撮影した "自撮り" に加え、9月から12月にかけて撮影された写真の大部分には、大抵はメモ、教科書からの抜粋、課題など、学業に関する内容が写されている。加えて、この年のリディア・ジェイムソンの各テスト結果が撮影されている。ほとんどのテスト結果は満点であったが、そうでないものは紙に水滴による損傷の痕跡が見られた。7
記録の中で他に注目すべき点として、9月13日から10月1日までファイルのアップロードが中断された。この理由は現在のところ不明。
2015
2015年1月から2月まで、リディア・ジェイムソンのフォルダ内容は2014年とほとんど変わらない。しかし注目すべき点として、リディア・ジェイムソンのスマートフォンからの出力が2月3日8から6月26日9まで完全に停止していた。2014年の中断と同様、この出来事の発生理由は現在のところ不明。
6月26日以降、リディア・ジェイムソンのスマートフォンからの出力が再開する。しかし、電話により撮影された写真は、レゾナンス町の地方図書館、ジャン・マルヴィッチ中学校、ジェイムソン家のもののみに限られていた。この時期から "自撮り" も見られなくなり、2015年に作成された写真は純粋に学業に関する内容のものだった。この期間中、リディア・ジェイムソンは上記の3か所のみを頻繁に往復していたことが知られている。
9月15日、リディア・ジェイムソンは小さなケーキの上に、1と2の数字が示された写真を撮影した。このケーキを除き、他の写真は背が伸びて成熟したリディア・ジェイムソンと、隣に並ぶ疲れ果てて笑顔を浮かべていないジェイムソン博士が写されたもののみだった。注目すべき点として、これまでの写真と異なり、リディア・ジェイムソンはジェイムソン博士との類似性が大きく減少していた。彼女の紙は暗くなって暗褐色となり、顔の形はジェイムソン博士の丸みを帯びたものと対照的に、角ばってきている。
この日以降の他の写真は以前の写真から僅かに変化したもののみで、ジェイムソン博士がリディア・ジェイムソンを見つめている。彼の表情は嫌悪感を帯びて見える。
12月24日、学業に関連しないリディア・ジェイムソンの出力が増加する。この日の写真には、リディア・ジェイムソンが複数の友人と写っており、全員がジャン・マルヴィッチ中学校の生徒と特定された。続く画像では、会話したり笑ったり、更に集合写真でポーズをとったりする対象が写されている。注目すべき点として、写真の1枚には、前景でリディア・ジェイムソンと他の生徒が微笑んでいる一方で、後に13歳のジャスパー・ビーチャムと特定された友人が、背景で物質を腕に注射しているのが写されている。これがリディア・ジェイムソンのファイルにおけるSCP-7686の最初の登場と確認された。
12月24日以降、リディア・ジェイムソンのスマートフォンからの更なる出力が停止する。クリスマスと大晦日の写真は存在しない。
2016
1月から2月19日まで、一か月間リディア・ジェイムソンの電話からの出力は検出されない。2月19日以降は、通常の学業的内容の写真が再開するが、リディア・ジェイムソンが毎日鏡に映った自分自身の写真を撮影するという特異な内容がクラウドベースドライブにアップロードされ始め、6月28日まで続く。これらの新たな写真は毎日の始まり、大抵は午前7時30分に撮影され、完全に直立して携帯電話を掲げるリディア・ジェイムソンが写っている。2月19日からは、リディア・ジェイムソンがジャスパー・ビーチャムとテキストメッセージで連絡を取っているスクリーンショットもアップロードされ始め、大抵は金銭問題に関するものである。
注目すべき点として、2月20日に、前日は暗くなってほとんど黒髪となっていたリディア・ジェイムソンの髪色が、徐々に明るくなっていた。同様かつ微細な変化が、リディア・ジェイムソンの頬、顎、鼻にも見受けられる。これは数か月間続く。5月30日には、リディア・ジェイムソンの外見は再びジェイムソン博士に類似したものへと完全に変化している。変化が段階的なため、リディア・ジェイムソンの周囲の人々はそれを思春期の影響と考えていたと思われる。
前年までと異なり、リディア・ジェイムソンのスマートフォンからの出力が停止する期間はない。ジェイムソン博士の更なる写真には、幸せそうな様子が見て取れ、5月30日にはリディア・ジェイムソンとジェイムソン博士が地元の公園に出かけてさえいる。この日に撮影された写真では、リディア・ジェイムソンとジェイムソン博士が共に笑っているのが見られる。
6月5日、ジャスパー・ビーチャムとの連絡が停止する。これは、ビーチャムの少年非行事件に関する突然の失踪と一致する。10
6月6日、リディア・ジェイムソンの外見が変化し、元に戻り始める。6月8日には、彼女の髪は完全に黒くなり、顔の形状はより尖った、角ばったものとなっている。この時点で毎日の写真は停止する。
6月9日、リディア・ジェイムソンが失踪する。彼女はこの期間にジャスパー・ビーチャムを捜索しようと試みていたと思われる。この時の写真は彼女の帰宅後にアップロードされ、レゾナンス町を囲む森を写している。午後7時30分には、リディア・ジェイムソンは、恐らく周囲を照らすためにスマートフォンのフラッシュを使用して写真を撮影する。
午後7時40分、スマートフォンのカメラのフラッシュに照らされた、離れた位置にある木造小屋の写真が撮影された。その直後、午後7時42分にビデオが撮影された。
VIDEO_194206092016.mp4
ビデオは、小屋の木製の床と、横に置かれた透明な液体の入った1本のガラス瓶を映す。荒い呼吸音が聞こえ、恐らくスマートフォンの保持者が発していると思われる。恐らくスマートフォンを正しく保持しようとするために、前述の保持者の指がカメラの視界を何度も横切る。
数秒間カメラをいじった後、スマートフォンが掲げられ、疲れ切って息を切らすリディア・ジェイムソンを映す。手には木の板を用心深く掴んでいる。頬からは引っ掻き傷で出血しており、傷はまだ新しいものと思われる。彼女の服は乱れ、Tシャツが数か所裂けている。土が顔にこびりついている。一方、彼女の髪は、先端が明るい茶色をしているのに対し、頭皮付近は真っ黒へと色が急速に変化している。カメラが自分に向いているのに気付き、彼女は歯を食いしばる。絶望的な表情を浮かべている。
リディア・ジェイムソン[食いしばった歯から漏らすように]: 「ジャスパー、ちょっともらえないかな。少しでいいから。それがい-」
ジャスパー・ビーチャム: 「何の… 何のためにいるって? いきなり襲ってきて!」
リディア・ジェイムソン[声を上げて]: 「ちょっといるんだ。多くても瓶1本。あんまり時間がないんだよ」
ジャスパー・ビーチャム: 「何の時間がないって、リディア? 何の!?」
リディア・ジェイムソンは沈黙する。彼女はいくつか深呼吸して、唇を震わせる。
ジャスパー・ビーチャム: 「か-考えてもみろ。今は、俺がお前の電話を持ってる。このビデオを持ってる。これを警察に持っていったら、その瞬間お前の… お前の隠れ場所はなくなる」
リディア・ジェイムソンの表情は辛うじて怒りを抑えたものに変わる。彼女は震え始める。
リディア・ジェイムソン: 「顔を… 保っとくためにいる。そうしないと。お願い」
ジャスパー・ビーチャムの呼吸も遅くなり始める。彼は一歩後ずさる。
ジャスパー・ビーチャム: 「知るかよ。どっか行けよ」
リディア・ジェイムソン: 「どうか」
ジャスパー・ビーチャム: 「行けって!」
リディア・ジェイムソン: 「ジャスパー-」
ジャスパー・ビーチャム: 「黙れ!」
リディア・ジェイムソンは話すのを止める。
ジャスパー・ビーチャム: 「お前の頭ん中で何があってこんな風に俺を求めてたかなんて知るか。俺を捕まえて。俺を気絶させようとしやがって。俺はもう離れようとしてんだよ、わっかんねえかな!?」
リディア・ジェイムソン: 「それでも、ほんのちょっと-」
ジャスパー・ビーチャム: 「それにお前にくれてやる気はない!あんな風に襲われといて。やだよ。お前の不幸話なんかに興味ない。お前を取引に入れてやったけど、もう取引解消だな」
リディア・ジェイムソンは前に一歩踏み出す。頬をはっきりと涙が伝う。ジャスパー・ビーチャムは本能的に一歩下がる。
リディア・ジェイムソン[すすり泣きながら]: 「お願い、それが私の… 私の……」
リディア・ジェイムソンは苦痛に顔をしかめる。彼女は手に持っていた板を落として頭を抱え、うなり声をあげる。
リディア・ジェイムソン: 「そんな……」
リディア・ジェイムソンは苦痛に叫ぶ。
リディア・ジェイムソン: 「クソ、クソ、クソ、クソ……」
ジャスパー・ビーチャム: 「マジかよ。お前…. お前戻ってんぞ」
リディア・ジェイムソンは再び、先ほどよりも大きく苦痛に叫ぶ。
リディア・ジェイムソン: 「私… やらなきゃ……」
ジャスパー・ビーチャム: 「俺……」
瞬時にリディア・ジェイムソンの発声が止まる。彼女はその場にとどまる。
ジャスパー・ビーチャム: 「リ… リディア?」
リディア・ジェイムソンの手はまだ頭の上にあり、顔がよく見えなくなっている。彼女はゆっくりと手を顔からどけて、ビーチャムを見上げる。
リディア・ジェイムソン: 「ジャスパー……」
リディア・ジェイムソンはカメラに顔を見せ、外見に明確な変化が見える。彼女の頬は大きく尖っており、顎は丸くなっている。髪は完全に黒くなっている。
ジャスパー・ビーチャム: 「お前… 見た目… 違う」
リディア・ジェイムソンの表情は心配から恐怖へと変わる。
リディア・ジェイムソン: 「なんで…… パパ……」
ジャスパー・ビーチャム: 「お前のパパ? 一体何の話してんだよ?」
リディア・ジェイムソン: 「私… 私はただ… それをちょうだい。お返しはするから」
ジャスパー・ビーチャム: 「お前のパパのためか? あの糞野郎がお前に何したんだよ?」
リディア・ジェイムソンはジャスパー・ビーチャムを見つめる。涙が素早く頬を流れ落ちる。
リディア・ジェイムソン[静かに]: 「パパは… パパは私を愛してる」
ジャスパー・ビーチャム: 「あいつはお前を囚人みたいに扱ってんだぞ、リディア! 前のクリスマスに俺らと出てってから何日もお前を家に閉じ込めた!」
ジャスパー・ビーチャムは深呼吸する。
ジャスパー・ビーチャム: 「あいつは… お前のことなんて愛してねえんだよ」
リディア・ジェイムソンはジャスパー・ビーチャムを見つめ続ける。彼を見ながら、彼女はすすり泣き始める。
リディア・ジェイムソン: 「私……」
腕で涙を拭う。
リディア・ジェイムソン: 「私はただパパにハグしてもらいたいだけ。また….. 小っちゃい娘として見てほしいだけ」
リディア・ジェイムソンは素早く床から瓶を取り、脇の下に挟む。彼女は黙ったまま振り返り、小屋の扉に向かう。
ジャスパー・ビーチャム: 「待て… 待て… 待て、やめろ。止まれ。止まれ!」
ジャスパー・ビーチャムは瓶を奪おうと前に走り、その際に電話を落とす。カメラが直接地面と相対したことでビデオは暗くなる。
リディア・ジェイムソン: 「お願い、もう行かせてよ!」
ジャスパー・ビーチャム: 「俺に残ってるのはそれだけなんだ! 俺も自分のためにいるんだよ! だから、止まれよ、頼むから!」
リディア・ジェイムソン: 「いいから… もう… 行かせろって!」
恐らく人が後ずさりする音、それから鈍いドスンという大きな音が聞こえる。数秒後、更に重いゴツンという音が聞こえる。
リディア・ジェイムソン: 「私… 私…」
足音がスマートフォンに近付くのが聞こえる。
数秒後、足音は止まる。
リディア・ジェイムソン: 「ごめんなさい」
恐らくジャスパー・ビーチャムが発していると思われる、静かなうなり声が聞こえる。
ジャスパー・ビーチャム: 「リ……」
リディア・ジェイムソン: 「後で…… 後で戻ってくるから、いい? 家に着いてから。警察を呼ぶ。救急車も」
ジャスパー・ビーチャム: 「お願いだから……」
リディア・ジェイムソン: 「ごめんなさい」
また足音が聞こえ、スマートフォンが拾い上げられる。ビデオ映像は床のみを映した後、録画が終了する。
午後8時時点で、全ての画像とビデオがクラウドベースドライブにアップロードされ、リディア・ジェイムソンが帰宅したことを示している。
午後8時10分、リディア・ジェイムソンは自宅のトイレでビデオを録画する。ビデオの転写は以下に添付されている。
VIDEO_201006092016.mp4
ビデオはリディア・ジェイムソンがカメラから離れる場面から始まる。黒髪と衣服は乱れ、汚れている。赤いブランド物のTシャツは数か所裂けている。人の爪でつけられたと思われる頬の引っ掻き傷から出血している。土で顔が汚れている。
リディア・ジェイムソンはトイレの反対側の床に座る。息を切らしているのが見える。左手には部分的にSCP-7686で満たされた大きな瓶11を、右手には使い捨て注射器を持っている。
リディア・ジェイムソンは頬の傷に触れる。
リディア・ジェイムソン: 「クソ」
リディア・ジェイムソンはため息をつく。
リディア・ジェイムソン: 「私… おかしくなってる、パパ。ほんとおかしくなっちゃって、それで……」
リディア・ジェイムソンは瓶をカメラへと持ち上げる。
リディア・ジェイムソン: 「それで、これが上手くいってくれるかもわからない。ODしてここで死んじゃうか、それか……」
リディア・ジェイムソンは鼻をすする。明らかに涙をこらえようとしている。
リディア・ジェイムソン: 「許してもらえるよう沢山頑張ったんだよ、パパ。本当に本当に頑張った。わかってるよ…… 私はお金を手に入れられなかった。他に何もやれることはなかったって、私がパパにとってとてもがっかりだったって、もう何もかもわかってるんだよ」
リディア・ジェイムソンの目に涙が込み上がる。
リディア・ジェイムソン: 「それはだって… パパがただ私たちの生活のために一生懸命働いてくれてることを知ってる。知ってるよ… パパがブラックリストに載ってから、5時から8時まで働き続けてたこと」
リディア・ジェイムソンは深呼吸する。
リディア・ジェイムソン: 「全部知ってるよ、パパ。なんで電話を私から取ったかも、なんで成績が低いときに外出禁止にしたかも、なんで学校がないときに私を図書館に向かわせ続けてたかも- 私…… 私は全部知ってる」
リディア・ジェイムソンの声が上ずり始める。彼女はすすり泣きながら話す。
リディア・ジェイムソン: 「全部耐えてきた、だってパパがそうするのは理由があってのことだってわかってたから。だって私が不出来だったから。だって私ががっかりなものだったから。だって… だって……」
リディア・ジェイムソンは震えながら、顔の涙を拭う。彼女はカメラを見る。
リディア・ジェイムソン: 「私のこと… どんな風に見てたか知ってるよ、パパ。ただひたすら… 嫌悪感。私を軽蔑してた。その理由も知ってる」
リディア・ジェイムソンは深呼吸する。
リディア・ジェイムソン: 「今日パパが家に帰ってきたら、またママがダイニングテーブルで待ってるのを見せたくはないんだ。そんな仕打ちはさせたくない」
リディア・ジェイムソンは数秒沈黙を続ける。
彼女は頭を持ち上げる。無気力にカメラから目を逸らす。
リディア・ジェイムソン: 「パパ……」
彼女はカメラを見る。
リディア・ジェイムソン: 「何があっても。大好きだよ。パパを許すよ。パパがしたことは全部理解してるから」
リディア・ジェイムソンは注射器と瓶を手に取る。
SCP-7686-Aの側で発見された、瓶に入ったSCP-7686
リディア・ジェイムソン: 「全部パパのためにしてあげる。パパも私を許してくれたら嬉しいな」
リディア・ジェイムソンは瓶からSCP-7686を抽出し、腕に注射し始める。彼女はそうしながら顔をしかめる。
言葉を発しないまま、リディア・ジェイムソンは瓶からのSCP-7686の抽出とそれの腕への注射を続ける。回数を重ねるたびに、彼女は目に見えて顔をより強張らせていく。額に汗が浮かぶのが見える。
リディア・ジェイムソンが瓶から最後のSCP-7686を抽出すると、彼女は深呼吸する。彼女はカメラをまっすぐに見つめる。目には涙が溢れそうになっている。
リディア・ジェイムソン: 「本当にごめんね、パパ」
リディア・ジェイムソンは立ち上がろうとして、空の瓶を床に置く。しかしその時、彼女の脚の骨が体の下で折れる。リディア・ジェイムソンは痛みに大声で叫ぶ。
リディア・ジェイムソン: 「あぁ… どうして……」
話し終えた数秒後、リディア・ジェイムソンは地面を激しく掴み始める。彼女は四肢で床と壁を何度も打ち付ける。彼女の目は回転して頭の後ろを向く。
掴み始めてから30秒後、リディア・ジェイムソンの腕は再度付近の壁に激しく接触する。腕は即座に折れ曲がり、腕の骨が急速に脆くなっていることを示す。肌の色は所々で青白から漆黒へと変わり、即座に元に戻る。リディア・ジェイムソンは叫び始める。
1分後、トイレの外から急ぐような足音が聞こえる。2秒後、ドアが開く。
ジェイムソン博士: 「何だよこれ」
ジェイムソン博士が画面内に駆け込み、床に跪くのが見える。本能的に、彼はリディアの身体に腕を回そうとする。
ジェイムソン博士: 「何が起きてる? 教えろ、畜生、教えろ!」
リディア・ジェイムソンは話そうとするが、できない。彼女は恐らく液状化し始めた口内の肉で窒息し始める。
ジェイムソン博士: 「リディア、何なんだよ、教えてくれよ!」
ジェイムソン博士の腕の下で、リディア・ジェイムソンの肉が液状化するのが見える。生じた液体は恐らく液状化した皮膚、筋肉、血液の混合物であり、ピンク色をしている。四肢にはもう固形の骨があるようには見えない。髪は色あせて白くなっている。ジェイムソン博士は突然様子を変えてすすり泣き始める。
ジェイムソン博士: 「嫌だ、嫌だ… そんな…… そんな……」
リディア・ジェイムソンは床を掴むのをやめる。静かなガラガラという音を発しながら、液状化し続ける。
リディア・ジェイムソン: 「ご……」
ジェイムソン博士: 「何だ?」
リディア・ジェイムソン: 「ごめん…… ごめんなさい…… パパ」
リディア・ジェイムソンは再度喉を鳴らす。発声しようとしているのが聞こえるが、できない。この時点で、彼女の喉は液状化した肉により塞がれたと推定される。
ジェイムソン博士: 「嫌だ。リディア、リディア嫌だ」
ジェイムソン博士の表情は後悔から怒りへと変わり、声を張り上げ始める。
ジェイムソン博士: 「駄目だ!そんなこと許さん。何もかも犠牲にしたのに。あの女から遠ざけるために何もかもやったのに。駄目だ。今駄目なんだよ。こんなんじゃない。こんなんじゃないよ」
ジェイムソン博士は、ほぼ完全に身体が液状化したリディア・ジェイムソンを揺らそうとする。
ジェイムソン博士: 「止まってくれよ、おい! 何だよ… 何なんだよ畜生があ!」
ジェイムソン博士は泣き始める。彼はそうしながら激しく身体を震わせる。
リディア・ジェイムソンは発声しなくなる。
ジェイムソン博士は大声で叫ぶ。その声は途方もない憤懣と悲嘆を吐き出している。
長い沈黙が続く。
直後、ジェイムソン博士は壁にもたれかかる。目は上方を見つめている。
ジェイムソン博士[静かに]: 「これは… 俺のためにやったん、だよな?」
ジェイムソン博士は再度鼻をすする。
ジェイムソン博士[静かに]: 「リディア?」
リディア・ジェイムソンからの返事はない。
ジェイムソン博士[大きな泣き声を上げて]: 「リディア、答えてくれよ」
ジェイムソン博士は再度泣き始める。
ジェイムソン博士[泣きながら]: 「リディア、頼むよ……」
1分後、ジェイムソン博士は泣き止む。
彼はゆっくりと自分の腕を見て、震える。彼の腕はリディア・ジェイムソンの胴体と完全に融合している。下唇が震える。彼は現在の状況を処理できていないように見える。
ジェイムソン博士: 「とっても長い時間をかけた… でも… ごめん。本当にごめんよ。何もかも、リディア」
リディア・ジェイムソンの液状化がさらに進む中、ジェイムソン博士は彼女を抱きしめようとする。彼女の液状化した肉は、彼の皮膚と結合し、融合を始める。
ジェイムソン博士[声を抑えて]: 「ごめんなさい」
ジェイムソン博士は目を閉じる。リディア・ジェイムソンが固形化し、SCP-7686-Aが形成される。
発見記録: ジェイムソン家から発せられる大きな騒音のため、複数の近隣住民が911に援助要請を試みました。911コールセンター内に潜入していた財団職員が付近のサイト-19の上司に連絡しました。20分後に現場に収容チームが派遣され、SCP-7686-Aを回収し、情報抑制努力を開始しました。
更新7686 - 2017/6/16: ジェイムソン博士から特異な脳活動が検知されました。予備試験は承認待ちです。
更新7686 - 2017/6/17: ジェイムソン博士からより増大した脳活動が検知されました。予備試験は承認待ちです。鎮静剤は承認待ちです。
更新7686 - 2017/6/18: ジェイムソン博士から活発な脳活動が検知されました。しかし、対象は植物状態を脱する外的兆候を示していません。鎮静剤が緊急要請されていますが、現在承認待ちです。