SCP-7788
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SCP-7788に通じるドア。

アイテム番号:

SCP-7788

オブジェクトクラス:

THAUMIEL

特別収容プロトコル: SCP-7788の研究主任 デーン・ウォルターソンの提案を受けて、SCP-7788は現在、休憩室として利用されています。SCP-7788に通じるドアにはカードキー読み取り装置が設置され、サイト-188に勤務するレベル1以上の財団職員全員がアクセス可能になっています。このため、オブジェクトクラスはThaumielに改訂されました。

説明: SCP-7788はサイト-188の東棟地下2階に位置するタイプ-B2ポケットディメンションであり、かつて標準的な清掃用具を保管する収納クローゼットだった入口からアクセス可能です。SCP-7788は1998年8月12日、未知の状況下で自然発生しました。出現の要因に関する調査は低優先度と見做されています。現在のところ、SCP-7788の発生はサイト-188に多様な空間異常現象が密集していることによるものと考えられています。

SCP-7788は無限の面積を有すると思われる非ユークリッド幾何学的空間で、内部は広大な小麦畑に類似しています。この次元の内部からは、入場に用いられるものと同じドアが、ドア枠に嵌め込まれた状態で出口の役割を果たしているように見えます。内部環境に異常な要素はなく、時間の流れも同様にベースライン現実と適合しています。

SCP-7788内における気象活動の大半は快晴です。しかしながら、曇り空や強風もしばしば発生しており、ごく稀に雨天も確認されます。

遭難して帰路を見失い得るほど出口から遠ざかった人物は、極めて正確かつ生得的な方向感覚を獲得し始め、望むならばドアまで戻って退出することが可能になります。

補遺: 以下はSCP-7788の出入口付近に設置されたカメラで撮影された記録の書き起こしです。内容は、SCP-7788の研究を単独で担うデーン・ウォルターソン次席研究員による、当該アノマリーの最初の保養目的での利用例です。

< 記録開始 >

[映像の端に映っているドアが開き、ウォルターソンがSCP-7788に入場する。]

[彼はドアを閉め、白い折り畳み式の庭椅子を引きずりながら小麦畑を十数歩歩き、小さな空き地の中心で立ち止まる。]

[彼は椅子を置き、開く。]

[ウォルターソンは1分弱ほど立ったまま、湿った土と踏み荒らされた小麦の穂を眺め、やがて白衣のポケットからデジタルボイスレコーダーを取り出す。]

[彼は椅子に腰かけ、いったん前に屈んでから背もたれに寄りかかる。]

[彼は両手でボイスレコーダーを持ち、幾つかのボタンを押した後、右手にレコーダーを持ったまま両腕を地面に向かって垂らす。]

[ウォルターソンは頭をのけぞらせ、雲一つ無い青空をぼんやりと見つめ始める。]

[彼はレコーダーのボタンを1つ押す。]

[音声が再生され始める。]

おはよう、僕はデーン・ウォルターソン、ワン・エイト・エイトに勤める次席研究員だ!

今日、8月13日、僕はある研究プロジェクトの主任を任された。これから… 僕1人で、セブン・セブン・エイト・エイトの発生について調査を開始する。全てにおいて低予算だから、持ち合わせの物でやりくりして、労力も節約することになる。

[含み笑い。]

資料によるとただの小麦畑らしいけど、ほら、何かを発見すればある程度は評価してもらえるかもしれない。運が良ければ昇給か、さもなければ昇進に一歩近づくかもね。

この目でチェックしてはいない… 今はまだ。いずれ中に入ることになるだろうけど、用心は必要だ。新発見のアノマリーだし、リスクを冒したくない。

[ビープ音。]

[数秒後、次の録音が再生され始める。]

8月19日、これがセブン・セブン・エイト・エイト研究プロジェクトの最初の更新だ!

まぁとにかく、えー、僕は一番肝心な問題、用務員の調査から着手した。クローゼットを一番頻繁に使っていて、セブン・セブン・エイト・エイトの出現時に行方不明になった男だ。

名前はガブリエル・コール、31歳、両親はいない、働きぶりは優秀、あー、雇用されたのが5年前か。どうやらオー・シックスの最高幹部に親戚がいるらしく、その人物がワン・エイト・エイトにガブリエルの就職先を確保した可能性が高い。人事ファイルにレベル4クリアランス保護が掛けられているから、今のところ、この人物に関する情報は何も得られていない。

最後に目撃された時、この用務員はお察しの通り、クローゼットの中に入るところだった。それ以来見つかっていない。だから現状、先ほど言ったように、彼はセブン・セブン・エイト・エイトの発生と関連付けられる最大の容疑者だ。ああ、もちろん、数時間後にクローゼットに入って小麦畑を発見した別な用務員も外せないけどね。

僕は彼の家族について調べ始めた、もちろん例の親戚は除く。それで、えー、遠縁の従兄弟に軽微な現実改変能力があると分かった。低級現実改変者。ガブリエルには無自覚の潜在能力があった可能性がある。もしかしたら、それと知らずクローゼットに影響を及ぼしたのかもしれない。

ただ… この説明にはちょっと無理があるんだよな。この規模の隔離次元を閉鎖空間内に創造するのは、トップクラスの現実改変者でなければ難しい。崩落せずに長期間存続している点は言うまでもない。こういう空間は何処からともなく湧いて出るものじゃない。もうそうだとしたら僕たちが気付いたはずだ。

それと、さんざん色々調べた末に分かった些細なことがもう1つ。ガブリエルの父親は若い頃、田舎に小麦畑を所有していた。随分と昔の話だけど、数日以内に見に行くつもりだ。セブン・セブン・エイト・エイトと何か関係があるかもしれない。

あぁ、そうそう、中に入ったことも言っておかなきゃね。Dクラスを1人派遣して、ドアの向こう側を歩き回らせ、罠が仕掛けられてないかを確かめた。特に何も無かった。ドアから離れた場所にも送り込んでみたけど、どうもこの空間では精神的なコンパスみたいなものが働くらしくて、道に迷っても出口への戻り方が分かるようになっている。

今回の更新はそんなところかな。

[ビープ音。]

[合間。]

8月25日。

小麦畑は無くなっていた。今は駐車場がある。

ガブリエルの父親、フレデリック・コールは畑について書類も記録も一切残していない。見つかったのは古い写真だけだ。復元とデジタル化のために、ここのRAISAオフィスに送った。

写真の畑はセブン・セブン・エイト・エイトにかなり似ている気がする。でも、僕から見るとどの小麦畑も同じようなもんだからな。

調査が行き詰まってしまったようだから、別な切り口、別な手掛かりを探さなくちゃ…

[合間。]

カメラだ。

[ビープ音。]


[合間。]

8月29日、第4ログ。

コールが映っている監視カメラ映像には一つ残らず目を通した。彼の就職面接から、収容室の清掃、この階の床をくまなくモップ掛けしている様子まで、少しでも目を引きそうなものを探し回った。あぁ、今気絶したら1日ぶっ通しで寝ちゃいそうだ。

何時間も映像とにらめっこしたってのに、言及すべき発見はごく小さなものが1つだけだった。

1995年2月20日、ガブリエルはいつものように東棟のDクラス留置セクションに入った。初めのうちは変わった事は起きなかったけど、やがて1人のDクラスが独房から彼に話しかけた。彼は返事をして、そこから会話になった。彼は掃除を続けつつもお喋りを続けた。特に悪口を言い合うでもなく、他の人たちと話す時と変わらない、ごく普通の会話だったようだ。

それから3年間、2人は毎日会話している。

アノマリーとは関係ないかもしれない。映像の中で他に興味を引くものが無かったから触れただけかもしれない。

[合間。]

でも、何処かから着手しなきゃいけないじゃないか?

[ビープ音。]

[椅子が軋む。]

[ウォルターソンが溜め息を吐く。]

[彼は目を閉じる。]

8月30日。5回目の更新…

[合間。]

何だろうな、きっと他所のサイトでは、Dクラスが、あー、3年も生きることを期待するなんてのは冗談もいいところだろう。でもここは大きな施設じゃない、Dクラスは10人ちょっとしか割り当てられていないから、僕たちは理由も無く彼らを死地に放り込んだりはしない。

例のDクラス… そいつ — 彼女、名前はローレン・ベロ、33歳、IDは、えー、フィフティ・ナイン・セブンティ・エイトか。

[合間。]

昨日死んだ。

急性心停止。

それは… 異常じゃなかった。惨いものでさえなかった。ただの… 静かな、穏やかな死だった… 眠っている間に。

[合間。]

独房を見張っている警備員に、彼女について何か知らないかと訊いた。

わざわざ会話するほど気に掛けたことはないと言われた。

[合間。]

どうも宇宙は僕をからかっているようだよ。

そして宇宙は勝った。

[短い沈黙。]

[ビープ音。]

[ウォルターソンは身動きしない。]

[そよ風が畑を吹き抜け、ウォルターソンに当たる。彼の髪が顔にかかり、小麦の穂が揺れながらざわめく。]

[風は吹き過ぎてゆく。ざわめきが収まる。]

[数分が経過する。]

[ウォルターソンが目を開ける。彼は姿勢を正し、椅子に腰かけたまま背筋を伸ばし、髪を顔から後ろへ払いのける。]

[彼は再びレコーダーを両手で持ち、少しの間、真剣に見つめている。]

[彼はボタンを押す。赤い点滅光が見える。]

[ウォルターソンは深呼吸する。彼の口は半開きで、話す準備をしている。]

[彼は静かに息を吐き、唇をすぼめる。レコーダーを持つ力が緩む。]

[ウォルターソンは目線を上げ、地平線を見つめる。彼は立ち上がり、レコーダーをそっと椅子の座面に置く。彼は両手をポケットに入れると、周囲の小麦の穂を押し退け、根元を踏みしめながら、ゆっくりと前に歩く。]

[彼は立ち止まる。]

[彼は尻ポケットを探って、タバコのパックとライターを取り出す。彼はタバコを1本引き出し、それを唇でくわえたままパックをポケットに戻す。彼はライターでタバコに着火する。ウォルターソンは白衣のポケットにライターを投げ入れ、一服する。彼は息を吐く。]

[風が再び勢いを増す。小麦がまた動き出し、太陽の下で黄金色に輝く。灰が散り、風の方向へと煙が吹き流される。ウォルターソンが改めて歩き始める。]

[ウォルターソンがかなり遠ざかったため、彼の行動は明瞭に映らない。彼は小高い丘を登っており、歩調は坂で緩やかになっている。]

[彼は頂上に辿り着き、そのまま坂を下って地平線を越える。]

[ウォルターソンの姿はもう見えない。]

[レコーダーは点滅し続けている。]

[また、一陣の風が吹き渡ってゆく。]

< 記録終了 >








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