SCP-7840


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特別収容プロトコル:

SCP-7840はサイト-91のヒト型生物収容室に収容されます。SCP-7840とのあらゆる交流は記録されます。SCP-7840による要望は、サイト管理官の承認を得て認められる場合があります。

更新 2019/11/28: SCP-7840収容室への鋭利な器具の持ち込みは、筆記用具も含めて禁止されます。

説明:

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2022年時点でのSCP-7840。

SCP-7840は“ギゼム”と自称する、活動性を有する木製のマリオネットです。木材から作られているにも拘らず、明白な知性の兆候を示し、人間の所作や表情を再現します。また、SCP-7840は反射神経、触覚、嗅覚、不随意運動など人間のあらゆる神経学的な感覚 — 痛覚を除く — を備えています。収容されて以来、SCP-7840は人間の加齢サイクルとほぼ同等の老化の兆候を示しています — これは材質の劣化ではなく、頭髪の喪失、皺の増加、鼻や耳といった特徴の明確化として表出します。研究者はこの現象を未だ解明できていません。

SCP-7840には意思疎通能力があり、抽象的・概念的な枠組みを理解できるものの、質問に対して理路整然と返答できないことが頻繁にあります。

SCP-7840は食事や睡眠を必要としませんが、人間にとって必要な行動を — 排便までも含めて — 常にパントマイムで模倣し、度々“いつか本物の男の子になる”と述べています1

発見: 1987年、財団はエディンバラ警察署に潜入中のエージェントから、異常性を示すマリオネット人形劇についての報告を受けました。この年のフリンジ・フェスティバルで、マグナス・フリーリーは歴史上の有名な事件をマリオネットで再現する劇を隔週で開催していました。

観客の一部は、フリーリーの人形劇に用いられたマリオネットの叫び声が真に迫り過ぎているという苦情を申し立て、法執行機関はこれを記録しつつも捜査には着手しませんでした。調査を開始したエージェントは、フリーリーの公演を幾度か見学したものの、当初は異常現象に気付きませんでした。

エージェントは公演後にフリーリーの舞台裏を調べ、SCP-7840とフリーリーが当日の劇について話し合っているのを発見しました。フリーリーは捜査官たちに対して、SCP-7840は祖父から相続した人形であり、生きていると知ったのはごく最近だったと語りました。SCP-7840の起源との接点が見つからなかったため、フリーリーは記憶処理され、SCP-7840は収容のためにサイト-91へ移送されました。

補遺-7840.1: アノマリーによる発言の記録

以下は最初に記録されたSCP-7840とのインタビューである。

エージェント ダグラス: やぁ、ギゼム。私の名前はリベカよ。

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1987年、回収当時のSCP-7840。

SCP-7840: こんにちは! 僕の名前はギゼム! 歌うのと踊るのが好きだよ。ギジーって呼んで!

ダグラス: 会えて嬉しいわ、ギジー。もし構わなければ、幾つか質問をしてもいいかな。

SCP-7840: 強い心こそが研ぎ澄まされた武器だね! マグナスは何処?

ダグラス: 彼はしばらく出かけなきゃいけなくなったけど、私たちが代わりに君の面倒を見る。

SCP-7840: 良かった、僕には見守ってくれる人が必要なんだ。本物の男の子になる前に怪我したら大変だもの!

ダグラス: 実はそれについて訊きたいの。ここに君を運んできた人たちの何人かが、君は本物の男の子になりたいと話してたって言うのよ。詳しく教えてくれる?

SCP-7840: 詳しく話すようなことなんか無いよ? お父さんがね、お行儀良くしてたら本物の男の子になれるぞって教えてくれたんだ。空色妖精さんThe Azure Pixieもそう言ってた!

ダグラス: 誰さん?

SCP-7840: 空色妖精さん! 僕のお母さん、みたいな感じ。僕のお父さんが悲しくて孤独で息子を欲しがっていることを知ってたから、ある晩、工房に忍び込んで僕に生命を吹き込んだんだ。空色妖精さんに讃えあれ!

ダグラス: そうか。じゃあお父さんについて教えてくれる?

SCP-7840: お父さんの名前はヘルベルト。僕をとっても可愛がってくれたよ。

ダグラス: 彼は今、何処にいる?

SCP-7840: 空色妖精さんが、僕が本物の男の子になるのを待つ間、一緒に暮らせるように連れて行った。お父さんはお年寄りだったから、空色妖精さんはお父さんに長生きして僕が目的を果たすのを見届けてほしかったの!

ダグラス: ああ、成程ね。それはいつの事?

SCP-7840: ずーっとずーっと昔。もしあなたがその頃に生きてたら、今頃は皮膚の切れっ端と骨の塵になってただろうね。

[15秒の沈黙が続く。]

SCP-7840: 僕は空色妖精さんの光の輝きを浴びたけど、不十分だって分かったの。だから、本物の男の子になるのに相応しいって証明できるまではこのままなんだ。

[SCP-7840は咳込む真似をする。]

SCP-7840: 水を貰えないかな、リベカさん?

ダグラス: 君は水を飲む必要があるの?

SCP-7840: 勿論! 僕は1943年から何も飲んでない。そうしないと本物の男の子みたいに逞しくなれないでしょ? 水分補給は成長する生き物にとって大切なんだよ。

ダグラス: ええ、確かにそうね。オーケイ、ちょっと待ってて。

[エージェント ダグラスは椅子から立ち上がってインタビュー室のドアに歩み寄り、退室する。]

SCP-7840: [囁き声] [編集済]2。空色妖精さんに讃えあれ。僕の価値が彼女の数多の眼の輝きの中に見出されますように。


SCP-7840は水を飲む様子を真似たものの、液体は口から零れた。SCP-7840はその後、咽せたような音を発し、インタビューの続きを別日にしてほしいと要請した。

最初のインタビューでは明快な答えを返したにも拘らず、収容後の歳月において、SCP-7840は滅多に首尾一貫した発言をしていません。以下はSCP-7840の声明からの一部抜粋です。

1991/12/04

僕はあのトランクの中に何世紀も横たわってた気がする3。埃の粒を数えたり、放置されたおもちゃと一緒に身体を丸めたりして、いつになったら本物の男の子になれるんだろうって思ってた。そしてとうとう、僕に欠けていたのは忍耐力だって気付いたんだ。忍耐と、必要なことを成し遂げる不屈の精神。

僕と一緒に歌わない?

SCP-7840の発言を手掛かりに、“ブレスラウ”という名称がドイツ国内の地名と相互参照され、ケルン市のブレスラウ・ホールが特定されました。1485年に建造されたブレスラウ・ホールは、本来は現地の木工職人ギルドの集会所であり、17世紀半ばまでその目的で盛んに利用されていました。ホールは旧市街地の外側に建てられており、ローマ時代に建造されたアイフェル水道橋の遺構に隣接していました。

当初の探索では建造物内に工房は発見されませんでしたが、水道橋を調査したところ、レンガ壁の裏側に扉が隠蔽されており、木工道具や未完成の作品で溢れた廃墟空間に通じていることが判明しました。

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ドイツ、ケルン市にあるブレスラウ・ホールの地下室。


探索ログ – 2021/12/02

2021年12月2日、エージェント ガンマが現地の調査に派遣された。

[エージェントが発掘された扉へと近付く。表面に彫られた複数の印章が扉を覆っている。]

ガンマ: 聞こえる?

ロッシ博士: ええ、聞こえています。この彫刻は…

ガンマ: ギゼムが腕に彫り込んだやつに似てる。

ロッシ博士: 確かにそれを彷彿とさせます。

ガンマ: 確認済み?

ロッシ博士: 記録書庫にある既知の言語や図像とは一致しませんでした。

ガンマ: 罠じゃないかって言ってんの。

ロッシ博士: ああ。はい、確認済みです。扉や彫刻から、奇跡術の残滓や認識災害効果は検出されていません。

[ガンマは握りに手を伸ばし、扉を開けようとする。]

ガンマ: クソほど重い。

ロッシ博士: 録音されていますよ、エージェント。

[ガンマは肩をすくめ、扉を更に押し開けて奥へと入る。彼女がヘッドランプを点灯させると、ブロックを緊密に敷き詰めた石造りの通路が照らし出される。]

ガンマ: 空気はかなり澱んでる。

ロッシ博士: 呼吸が困難になったら、撤退してください。

ガンマ: ええ、博士。

[ロッシが溜め息を吐く。]

ガンマ: 聞こえてる。

[ガンマは通路を進み、別な扉に近付く。この扉は横向きに棒を通して封鎖できるように設計されている。溝は錆びて空になっており、棒は通されていない。]

ガンマ: 何かを閉じ込めてる

[ガンマが扉を開くと、彼女のライトが工房の向こう側を照らす。幾つかの背の高い木製作業台があり、その上に道具が散らばっている。奥の壁には何列もの棚が並び、未完成のマリオネットや人形が陳列されている。]

ガンマ: ウエッ。

ロッシ博士: どうしました?

ガンマ: そこら中に人形がいっぱい。気色悪い。

ロッシ博士: 工房を発見したチームは、奇妙な臭いがすると述べていました。

ガンマ: うん、銅みたいな臭いと、微妙に腐敗臭もある。多分、この地下室で何かが腐って、木材に染み込んだんだと思う。

[ガンマはすぐ近くの作業台に乗った工具に近付く。彼女は1本の鑿の持ち手に触れる。]

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工房で発見された工具。

ロッシ博士: ありふれた木工用具ですね。

ガンマ: 血が付いてる。

ロッシ博士: 何ですって? 映像にも映っていますが、そうは見えません。

ガンマ: まだ湿ってるよ。それに、臭いもきつい。肉屋とか屠畜場みたい。私は牧場育ちだけど、ここはもっと酷い。何かがここで死んでる。恐らく複数。

ロッシ博士: 私には血が見えません。

[ガンマは鑿を手放し、別な工具を持ち上げるが、息を呑んでそれを落とす。]

ロッシ博士: どうしました?

ガンマ: 血糊がべっとり。 [咳込み、口を手で覆う。] 脳組織も付着してた。

ロッシ博士: とりあえず置いておきましょう。部屋には他に何がありますか?

[ガンマは振り向き、棚に近寄る。23体のマリオネットと人形が棚に並んでいる。程度の差はあるものの、いずれも制作中のある時点で放棄されている。塗装されたものもあれば、木材の仕上げが済んでいないものもある。]

ガンマ: 身の毛がよだちそう。

[全ての人形の顔が滑らかな動きで一斉にガンマに向けられる。ガンマは後ろに飛び退く。]

ガンマ: 止めてよね。

[ガンマは数分間静止し、その間の呼吸速度は上昇する。呼吸を整えようとしている間、カメラは棚を見渡す。どの人形も動こうとしないが、目は確実にガンマを見つめている。]

不明: Hier war es, wo meine Träume zur Realität wurden und mein schreckliches Kind zur Welt kam. In blaues Licht und tiefe Schatten kam sie zu mir. Ich würde ihr Werkzeug in der Wirklichkeit sein und sie würde mein Kind gebären.4

ロッシ博士: はい?

ガンマ: どうしたの?

ロッシ博士: 今のが聞こえませんでしたか?

ガンマ: いいえ。

ロッシ博士: 誰かが低い声で話していました。ドイツ語だと思います。室内にはあなたしかいませんか?

[ガンマは振り返って部屋を注視し、カメラが工房を見渡す。他の人物は見当たらない。]

ガンマ: 間違いないはず。

[ガンマは部屋を見渡すのを止めて、人形群から離れ、石材が剥き出しになった壁の一角に近寄る。]

ロッシ博士: 何かありましたか?

ガンマ: ここに別な通路があった。

ロッシ博士: こちら側では何も見えません、壁だけです?

ガンマ: えっ? いや、トンネルがあるよ。瓦礫やクモの巣だらけだけど、かなり奥まで続いてるみたい。

ロッシ博士: そこに通路はありません、エージェント。後退してください、壁をスキャンしてみましょう。

[ガンマは壁に向かって歩き続ける。]

ロッシ博士: 聞こえましたか、エージェント? 壁に近付かないでください。あなたはアノマリーの影響下に置かれた可能性があります。

[ガンマは手を伸ばす。彼女の指先は石材から僅か数センチメートルの位置にある。]

ロッシ博士: エージェント ガンマ、これは命令です。それに触れないでください。

不明: Aus den Steinen jenes längst verlassenen Steinbruchs baute ich meine Werkstatt. Die Männer, die die Steine schnitten, waren vor langer Zeit gestorben, ihre Verehrung blieb jedoch immer noch darin. Der Stein war der Grund dafür, dass Sie mich bemerkte. Den schwarzen Granit, so uralt wie Sie, hat man benutzt, um Tempel in der Zeit zuvor zu bauen, bevor das Menschengeschlecht zur Macht über diese Welt kam, bevor man vergaß, dass die Riesen einst auf der Erde wandelten.5

ロッシ博士: エージェント ガンマ! 止まれ!

[ガンマが石材に手を突き、そこを通り抜ける。カメラが壁の材質をすり抜けると、映像が途絶する。]


エージェント ガンマは工房から帰還せず、作戦中行方不明者として登録された。彼女がすり抜けた壁をスキャンしたところ、その裏には数百メートルに及ぶ石と土砂が検出された。上記ログに記されている事象を除いて、奇跡術やその他の異常事象の兆候は確認されていない。6


1993/07/30

[歌っている]
I've got no worries
心配なんかしてないよ
Only got dreams
夢を抱いているだけさ
I'm gonna be a real boy
僕は本物の男の子になる
Blood and guts and screams
血とはらわたと絶叫
So soon, you’ll see
もうすぐ君も目にするよ
A real boy, I’ll be
本物の男の子になった僕を



エージェント ガンマの失踪から数週間後、彼女のボディカメラが、水道橋の緩んだ石材の裏側から回収されました。

以下の映像がカメラから得られました。

以下の記録の一部は、認識災害要素を含むために省略されている。また、奇跡力の干渉によって修復不可能なほどに劣化した部分もある。

2021


[エージェント ガンマはスレートタイル貼りの床に横たわっている。ボディカメラは汎用ハーネスから外れ、エージェントが映像内に収まっている。うつ伏せになっているエージェントの後ろには、上向きに湾曲している粗い石壁がある。石には荒々しく鑿で削った跡がはっきりと見受けられる。]7

ガンマ: [呻く]

[ガンマは身体を起こし、床に座った姿勢になる。カメラ視点が上昇してガンマをフレーム内に収め続ける。彼女はこれに気付いていない。]

ガンマ: ここはいったい何処?

[ガンマは壁を支えにしながら立ち上がる。彼女が左を向くと、カメラ視点は彼女の視線を追うように動く。粗く切り出された半円形の廊下が遠くまで伸びている。青みがかった薄い霧が床を漂っている。環境光が存在するものの、映像ではその光源を確認できない。ガンマが背後を振り向くと、カメラがそれに続き、行き止まりを映す。]

[ガンマは溜め息を吐き、反対方向へ歩き始める。カメラは後を追う。]


1997/12/22

僕の準備が整ったってことが、どうしたら分かるのかなって、いつも不思議に思ってた。空色妖精さんは、お父さんの夢を叶えて本物の男の子になるには、僕が本物の男の子たちと同じように振る舞わなきゃいけないって言ったんだ。僕はお父さんに誇りに思ってほしかった。

でもあれはどういう意味だったんだろう? 本物の男の子たちってどんな風に振る舞うの?

[SCP-7840は先端を尖らせたプラスチック製のペンで自らの腕を削り、表面に未知のシンボルを彫刻している。]

やっと男の子たちがやる事に集中できるようになった。


探索ログの続き

2021

[ガンマは壁から円形の石段が突き出した下降通路に座っている。脚は穴の縁からぶら下がっており、手で頭を抱えている。彼女は下方を見つめている。カメラ視点が肩越しに上昇して見下ろす。穴の深さは推定300mで、照明は青い霧のみである。]

ガンマ: マジでここ何なの?

[彼女は腕時計を確認する。]

ガンマ: もう何時間も歩いてる。そして今度はこれ、手すり無しの階段。いよいよ死ぬ羽目になりそう。

不明男性: Das allergrößte Versagen ist es, in sich selbst hineinzuschauen. Die menschliche Seele verbirgt keine Geheimnisse. Die Mysterien des Kosmos liegen in der kalten Finsternis der Außenregion. Sie sind von denjenigen bewacht, die zuvor kamen. Wie Sie. Die Mutter meines Kindes. Meine Göttin. Gtharn rvoi lchai. Durch Sie erfuhr ich erst das Wunder.8

[ガンマは男性の声を認識していないようである。]

[彼女は立ち上がり、階段を下り始める。]

[青い霧が上昇し、カメラ映像が不鮮明になる。ガンマの声が微かに録音されている。]

ガンマ: …るゔぉい…


2004/10/07

口笛は好き? 僕は好き。先週初めてマグナスから口笛の吹き方を教わった。あの人優しいよね。

[SCP-7840は口笛に近い音を数回出すが、その顔の構造上、唇を柔軟に動かすことができない。]

口笛は大好き。本物の男の子はこういう事をするんだよ。僕が彼らに手を出すまでは。

2014/08/17

ねぇ、僕をいつまでここに閉じ込めておくつもりなの? もう62年目だよ。退屈だよ。

うぅ~ん。あのさ、解剖学の教科書を何冊か貰えないかな?


探索ログの続き

2021

[カメラは、洞窟の天井に設けられた、幅数十メートルと推定される天窓を見上げている。洞窟の天井はカメラから約10m上方にあり、天窓越しには光害が全く無いかのように多数の星が見える。ガラスは完全に透明で、窓の周囲に枠組みはほとんど無い。エージェント ガンマが話し始めるが、カメラは星を映し続ける。]

ガンマ: … 胸骨を割る … 鋸を使うのが一番 …

[何かがひび割れる鋭い音が聞こえる。]

ガンマ: … 肋骨をこじ開ける …

[ガンマが力を込めて唸る。]

ガンマ: … 心臓を摘出する …

[湿った音が聞こえる。流れ星が空を横切るのが天窓越しに見える。]

[カメラが回転して床面へと降りる。エージェント ガンマは洞窟の床にしゃがみ、うつ伏せになった子供サイズのヒト型実体の上に身を屈めている。映像はぼやけており、エージェントの向こう側に焦点を合わせている。]

[ガンマは疲労のために激しく呼吸している。]

ガンマ: 何がどうなってるの?

[映像がエージェント ガンマに焦点を合わせる。彼女の手は子供の胸腔に差し込まれている。子供の正体はSCP-7840を模した枝編み細工である。ガンマは人形の胸腔から鼓動する青い心臓を引きずり出し、有機組織がその後に続く。]

不明: Ihr Geschenk hatte bloß die äußere Erscheinung des Lebens – ohne die Verkörperung des Menschengestalts konnte Gizem seine Vorherrschaft nicht gewinnen.9

ガンマ: 理解できない…

[エージェント ガンマは心臓を壁に投げつけ、壁に当たった心臓は弾けて青い粘性のある液体と明るく輝く火花と化す。ガンマは手で目を覆い、青い液体の跡が顔に付着する。]

不明: Mensch werden heißt zerstören. Ihr Geschenk des Lebens ist genau wie das von alle anderen Müttern.10

[エージェント ガンマは立ち上がり、夜空を見上げる。また別な流れ星が見える。]

ガンマ: わた–


2021/11/27

[SCP-7840は、うつ伏せに横たわり、目と耳から出血している警備員の上に屈み込んでいる。]11

ねぇ、大丈夫? 目を覚ましてよ!

大変だ。ええっと…

[SCP-7840は警備員のベルトからナイフを引き抜く。]

捨てちゃうなんて勿体ない…

[SCP-7840は民謡“あの子が山にやって来る”の口笛を吹き始める。]

2021/11/28

僕を作る時、お父さんは全力を注ぎ込んだ。ブレスラウの地下の工房は、お父さんの聖域だった。あの工具を使って作り上げた作品の数々、あなたにも見せてあげたいなぁ。僕の前には沢山の人形たちがいたけど、僕の後には誰もいなかった。

お父さんの地下の仕事場で暮らしたあの幸せな日々は夢みたいだった。いつだったかははっきり言えないけど。もう随分と昔の事だと思う。少なくとも1年前。とにかく、空色妖精さんは僕たち2人に語りかけ、夢の中に現れて12計画を教えてくれたんだ。嗚呼、妖精さんが作りたい世界は素晴らしかったよ。

でも僕は妖精さんとお父さんの期待を裏切った。“本物の男の子らしく振る舞えば、あなたは本物の男の子になれます。真実を話し、為す事全てにおいて私を敬い、道を切り開きなさい”。

人類はこの世界で一番最初の知性体じゃないんだよ。全然違う。空色妖精さんは有史以前に生きていた彼女の民の話を僕にしてくれた。僕たちが宇宙を想像する前、彼らが地球を歩いていたんだって。でも宇宙が先に進むと、彼らは置き去りにされて、生命から切り離されたんだ。

僕のお父さんは傭兵だった頃に遠くまで旅をして、カトリック教育の束縛から離れて、広い世界を沢山学んだ。そしてドイツに帰ると、その英知を家族や地域社会に広めようとしたけど、受け入れてもらえなかった。だから、先に現れた者たちが忘れ去られないように、こっそり練習を積んだ。鑿と刃針で、儀式と信仰で仕事に取り組んだ。そして、妖精さんがやって来て、お父さんに恩恵を与えてくれた。

なのに。僕は。彼女の。期待に。応えられなかった!

[SCP-7840は腕に彫り込んだシンボルを見下ろした後、両手を見つめる。]

妖精さんは僕にどうしてほしかったの? あなた知ってる? 知ってる?!?

[SCP-7840は収容室の入口に立つ武装収容エージェントを振り向く。]

ああ、うん。そうだよね。ごめんなさい。

[SCP-7840はコンクリートの床にしゃがみ込んだ姿勢から立ち上がる。背後には内臓を抜かれたサイト-91警備員の遺体がある。警備員の腸は床に張られ、クモの巣を連想させるパターンを形成している。更に、内臓の山がSCP-7840のベッドの横に整然と積み上げられている。SCP-7840は左手に2個の眼球を、右手に血塗れのナイフを持っている。血と臓物がSCP-7840の表面全体を覆っている。]13

[SCP-7840は奥のコンクリート壁に両掌を当てて寄りかかる。SCP-7840は近寄ってきた警備員に肩をすくめる。]

僕はどっちみちお終いだ。


探索ログの続き

2021

[エージェント ガンマは広い円形の部屋を歩いている。この部屋でも、やはり青い霧が床を漂っている。霧の中の各所に、ホタルに似ているが霧そのものと似た色合いの、小さな明るい光が見える。ガンマは最初のうち、小さすぎて聞き取れない独り言を呟いている。その後、彼女は突然声量を上げる。]

ガンマ: 妖精はここにいる。扉のすぐ外だ。待ってる。あいつを待ってる。私たちの全てを手中に収めようとしてる。

[エージェントが上を見る。絹糸に似た青い物質がカメラの前を漂って通り過ぎる。]

ガンマ: でも私はあのファイルを読んだ。彼女は長い間待つことになるだろうね。

[大きく甲高い金切り声が聞こえる。エージェント ガンマは音が収まるまで耳を塞ぐ。]

ガンマ: 好きなだけ叫べよ、ビッチ。何も変わりゃしない。あんたが作ったチビ助は脳無しだ。何をすべきか伝えたって無駄さ。あいつには絶対に理解できない!

[洞窟が震動し始め、轟音が鳴り響く。エージェント ガンマはしゃがみ込み、耳を塞いで叫ぶ。]

[カメラ視点は、少なくともエージェントの20m上方にある洞窟の天井を見上げる。青い糸で編まれた巨大なクモの巣から、天井の大部分を占める1体のクモ型実体が吊り下がっている。発光する青い絹糸が腹部から流れ落ち、洞窟の床に向かって垂れ下がっている。映像が劣化し始める — クモ型実体の3つの頭部に焦点を合わせようとすると、映像は不鮮明になる。唯一判別できるのは、頭部に複数の光点があり、床を向いていることである。甲高いハム音が高まり始める。映像が若干焦点を合わせ、光点が縫い針の頭に似た金属の輪へと変わるのを映す — 金属の輪は明るさを増しながら青く輝き、その光によって頭部の他の部分は見えなくなる。]

ガンマ: それが何の役に立つ? 私は絶対にここから出ない。

不明: Bist du dir ganz sicher?14

[ガンマが叫び始め、頭を掴む。数秒後、彼女は叫ぶのを止める。]

不明: Also schön, es geht dir wieder gut.15


エージェント ガンマは2021/12/16、アイフェル水道橋の通路で、数日前にボディカメラが回収された緩い石材の前に座っているのを発見されました。彼女は速やかにサイト-91の隔離観察室に拘留されました。

2021/12/24、ガンマは拘留から脱走しました — この際、彼女は警備員2名を攻撃し、頭部に重傷を負わせて緊張状態に陥れました。サイト全域での捜索が始まり、程なくしてSCP-7840の収容室で収容違反警報が作動しました。現場に到着した警備員たちは、エージェント ガンマがSCP-7840から攻撃されているのを発見しました。ガンマは顔面と首に挫傷を負い、中度の脳震盪を起こしていました。

以下は当該事案の書き起こしです。

[エージェント ガンマが、無意識の男性警備員を引きずり、彼の武器を持って収容室に押し入る。彼女は部屋の隅に警備員を落とし、ドアを閉め、SCP-7840に向き直る。彼女が振り向く際、その目が1秒足らずの短い間だけ、青く発光する。]

[ガンマが話し始める。SCP-7840が近寄り、何かを言い返す。エージェント ガンマは荒々しく首を横に振り、自らの顔を掻きむしる。彼女は警備員の胴体を指差す。]

[SCP-7840は拳を握りしめる。]

[ガンマはSCP-7840を指差してから、無意識の警備員をもう一度指差す。]

[SCP-7840は首を横に振り、身振り手振りを交えて話す。ガンマが再び話し始めるが、SCP-7840は彼女の顔に飛び掛かって話を遮り、片手で喉を締め上げながら、もう一方の手で何度も顔面を殴る。エージェント ガンマが倒れ込む。SCP-7840は彼女の顔を殴り続ける。]

[警備員たちが入室し、SCP-7840を無意識のエージェントから引き離して床に押さえ付ける。]16

SCP-7840: 放せ! 彼女は僕がやるべき事を教えてくれなきゃいけないんだ!

[医療職員がエージェント ガンマを担架に乗せ、室外へと運び出す。警備員は結束バンドでSCP-7840を収容室のベッドに拘束する。SCP-7840は拘束を振り解こうとする。]

SCP-7840: 僕はどうすれば良かったのさ?!?



エージェント ガンマはサイト-91医療センターに搬送され、拘束されました。本稿執筆現在、彼女の意識は回復していません。


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