アイテム番号: SCP-7860
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 火星の高軌道上にSCP-7860をとどめます。一般の天文学の趨勢を火星の高軌道の研究からそらします。万が一SCP-7860の軌道が不安定になった場合、FSSキム・スタンリー・ロビンソンが再安定させます。
説明: SCP-7860はソ連のデルタII型原子力潜水艦の改造型であり、K-2961と呼称されていました。現在、当該オブジェクトは火星周回軌道上に位置しています。艦内には乗組員だった130人の死体が存在しています。うち112人の頭部に(自傷によるものらしき)銃創があります。残り18人の死因は不明ですが、自殺か窒息死と推定されています。ある乗組員は背後から射殺されたと考えられています。
SCP-7860-1はSCP-7860に装備されている機能が特定できない装置です。現地で収集した証拠(補遺7860-2を参照)によると、この装置はもともと核弾頭のテレポートを目的としていましたが、試験中に誤作動し、潜水艦全体を火星周回軌道に送りました。失敗の正確な状況は不明ですが、装置は機能していません。
補遺7860-1: 発見と調査
2021年4月17日、惑星全体にまたがる人工衛星ネットワークの定期点検中だった火星表面の地球外サイト-301の職員がSCP-7860を発見しました。発見当時、当該オブジェクトは長楕円軌道を描いていました。2021年5月8日、調査のためFSSキム・スタンリー・ロビンソンとクルー3名がサイト-301から打ち上げられました。
2021年5月10日、調査チームがSCP-7860に到達し、艦内に進入しました。潜水艦艦長の日記を回収したことを除けば、活動中に特筆すべきことは発生しませんでした。映像記録の全編は申請すれば視聴可能です。
2021年6月中にSCP-7860の軌道は安定円軌道に変換されました。
補遺7860-2: 回収された文書
以下はK-296艦長アレクサンドル・ソボルの日記にみられる最後の数日分の記録です。文はもとのロシア語から翻訳されています。
1976年8月12日
モスクワからの命令だ。「実験装置」がK-296に配備される。私はそれを海に持っていく。GRUがそれの試験をして、我々は帰還する。装置は兵器だとモスクワは言うが、それ以外についてはだんまりだ。
乗組員130名全員が帰艦する。「そんなに要らない、数週間航海するだけだ」とモスクワに伝えると、引っこんでいろと言われたので、私の潜水艦なんだから私の出る幕だと言い返した。しかし、降任してやってもいいぞと言い返されたから、引き下がることにした。
帰艦は20日だ。GRUの将校が乗り組んで装置を操作し、モスクワに連絡する。
1976年8月20日
なぜ総員帰艦なのかいまだに理解できない。兵器の試験をするのであって、哨戒するんじゃない! しかし党の求めには従わねばならない。何事も規則通りにだ。
「あれは兵器だ」ということ以外、なんの装置なのか、なにをする予定なのかまだ知らされていない。モスクワは必要なら知らせると言っている。明日装置を起動する。
1976年8月21日
今日、最初の起動試験があった。被験体はコンクリート100キログラム。モスクワは目標から200メートル以内に落ちたと言っている。大成功だという。意味が分からない。
乗組員が浮足立っている。艦内にGRUと計画への全面的な不信感があるとミハイル・ヴォルコフ副長が報告してきた。まったく驚かないが、それでも留意せねば。
1976年8月22日
今朝、GRU将校のニコラエフがなんの装置か教えてくれた。弾道ミサイルに代わるべく設計されたテレポーターだという。不可能だと言うと、彼は同意した。不可能なことも専門なのだと言っている。
正直、この装置は信用できない。アメリカ人が入手したらどうなる? 誤作動したらどうなる? これらの問いに答えを出せる知識も政治的影響力もない以上、黙っているべきだろう。
次の起動試験は明日だ。今度はコンクリートの塊を宇宙に飛ばし、シベリアのどこかに落としたがっている。理由は神のみぞ知る。
1976年8月23日
サターンVを忘れよ、ソユーズを忘れよ! この装置で1人を月に送り、1時間たってから無事故郷に帰還させられた。そして軍事利用もしている。飛ばしたコンクリート「爆弾」はまったく無傷で高度200キロメートルに達した。人も飛ばせると信じたいとニコラエフ自身が言っている。
私は軍人だ。アメリカ人やほかの西側列強から我々の手で祖国を守らねばと思ってはいるが、ほかの全人類を絶滅させるほどの防衛とは? 馬鹿げてる。人間の暴力性がときどき恐ろしくなる。
3回目(最後)の起動試験は8月25日だ。モスクワは限界を「知る必要がある」そうだ。なんにせよ我々がその機密に触れることはないだろう。
1976年8月25日
起動試験に失敗した。ニコラエフが装置を起動したとたん無重力状態になった。モスクワへの無線通信はすぐに切れた。修理を試みている間、彼は我々全員を追い出した。
1時間後、火星周回軌道上にいるとミハイルが知らせてくれた。嘘つけと言った。ミハイルは私をセイルへと案内した。すると確かに真っ赤な惑星が目の前にあった。これを書いているとき、これまで故郷を離れた全人類のなかで最も遠くに来たのが我々なのだ。
ともかく、我々は火星をこの目で間近に見た初の人類になったのだ。いつか誰かがここを見つけるかどうか分からないが、望みはある。
1976年8月26日
誰かがニコラエフを射殺した。装置が誤作動したときから乗組員数名が殺害をくわだてていたと分かった。
帰還させてくれそうな唯一の人間だったのに。
だんだん息苦しくなっている。予備酸素が減るにつれ士気も下がっている。さっき銃声を何度か聞いたが、調べる力がない。乗組員が何人か楽な道をとったのだろうと推測できるだけだ。
凍てつく虚空で死にゆく130人。なんのせいで? すてきなテレポーターの起動試験3回。