アイテム番号: SCP-796
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-796は一度に一人の人物にのみ感染するため、関連する情報抑制は地域レベルにおいてのみ行われます。臨床的、精神医学的記録にSCP-796の作用に関する言及が存在しないかスクリーニングを行ってください。罹患者はできる限り早く特定して確保してください。罹患者と確認された人物は強制的に封じ込め下に移されます。罹患者に対する武力の行使は致死的でないものも含めて認められません。
回収された罹患者は改造されたヒト型生物封じ込めチャンバーに収容されます。このチャンバーは低反発素材で裏打ちし、SCP-796の存在を確認するために少なくとも-35デシベルの感度のマイクロフォンを備え付けてください。さらに、罹患者の体表に新しい傷が生じているかどうか毎日検査しなければなりません。新しい傷が生じていない場合は封じ込め違反が発生している可能性があります。罹患者の傷は速やかに消毒して治療しなければなりません。同様に、SCP-796による封じ込めチャンバーへの損害もできる限り速やかに修復しなければなりません。重要な職員は事前承認なしに封じ込めチャンバーから100メートル内に接近してはならず、罹患者との接触は重要でないDクラス職員に限定されます。また、少なくとも1名のDクラス職員を常にこの立入禁止区域内に常駐させてください。
罹患者の死は封じ込め違反と見なすことが可能です。このため、罹患者の安全は常に保障されなければなりません。罹患者が死亡した場合、常駐するDクラス職員がSCP-796発症の兆候を示しているか検査され、その結果に応じて収容されます。
更新: 2005年2月1日現在、SCP-796は患者796-17に感染しています。患者796-17は6ヶ月以上SCP-796に罹患しているにもかかわらず死亡していないため、彼はより恒久的にSCP-796を収容する手段であると見なされます。
患者796-17はこれまでに以下の物品を要求しています。
- 精選された数冊のフィクション、なるべくなら恋愛小説 - 承認
- 携帯音楽プレーヤー - 拒否
- 通話 - 拒否
- キャットフード - 保留中
更新: 2006年3月23日、上記の封じ込め手順は廃止されました。患者796-17の所在をできる限り早く特定し捕獲してください。補遺796-03を参照してください。
説明: SCP-796は、罹患者が周辺視野に大型のネコ型実体を視認し始める現象です。実体の正確な外見は特定されておらず、その形状、正確な大きさ、身体構造に関する証言には食い違いが見られます。しかし罹患者の多くは、それが異常に大きく暗い色をしていることを報告しています。罹患者はしばしば強い妄想や恐怖感を経験し、これは主に実体が常に存在していることに起因すると推測されます。しかしこれまでに実体の側からの敵対的行動が報告されたことはなく、むしろ微小で概ね無害な、次のような物理現象として出現します。
- 罹患者の近くの物体に散発的に現れる軽い引っ掻き傷。時折、罹患者自身も未知の起源による引っ掻き傷を受けるようです。これまでのところ、これらの傷は単に表面的なものに留まっています。
- 罹患者の近傍から発せられる微かな低いゴロゴロ音。この作用は特殊な録音装置でなければ検出できませんが、ほとんどの罹患者はこの音が明瞭に聞こえると主張しています。
- 近くの柔らかな素材上に出現する、非常に大型のピューマのものと一致する足跡。
注目すべきこととして、罹患者の経験する視覚的幻覚は多くの場合、SCP-796の物理現象の出現に対応しています。
全ての罹患者は、SCP-796の作用を最初に経験してから1ヶ月以内に致命的な事態に遭遇しています。SCP-796がこのような事態を引き起こしているのか、そのような事態を経験する個人を識別して接近しているのかは不明です。研究により、罹患者の不運な事態や事故の発生確率増加は統計的に増加していないことが示されているため、罹患者による、SCP-796が「不運」を招いているとの主張は無視すべきです。しかしながら、SCP-796の罹患者は全て1ヶ月以内に死亡しています。罹患者の死後、SCP-796は最も近い個人に転移します。
SCP-796が最初に記録されたのはミシシッピ州ベイ・セントルイスで、マリーナ・イスキエルドという46歳の女性ホームレスが激しい腹痛によって地元の病院に入院した際のことです。腹痛は、誤って農薬を飲んだことが原因であると診断されました。彼女は治療の甲斐なく2日後に死亡しましたが、入院中には激しく興奮して妄想の兆候を見せていました。剖検では喉と腹部に多数の表面的な引っ掻き傷が発見されました。イスキエルド氏の担当医だったハンナ・マリアム医師は、後にSCP-796のものに一致する視聴覚的幻覚を報告しています。彼女は2週間後の帰宅途中、自動車同士の事故によって死亡しました。双方の車のハンドルからは未知の起源による真新しい複数の引っ掻き傷が発見されました。2001年9月9日に財団が介入して封じ込めがなされるまで、SCP-796は少なくとも27名の個人に感染したと推測されています。
補遺-796-01: 2004年1月27日、別のサイトに移送する準備中だったSCP-████が誤って活性化させられました。生じた爆発はサイト-32のヒト型生物封じ込め棟を損傷させて31名の死者を出し、その中には患者796-16も含まれていました。続いて発生した大規模封じ込め違反の混乱の中で、SCP-796の転移先は特定が不可能となりました。1年後、患者796-17が定期的な心理カウンセリング記録の調査により発見され財団の勾留下に移されました。この時点で彼は6ヶ月間、SCP-796の影響下にあり続けていると主張しています。
補遺-796-02: 2005年3月12日、サイト-32のヒト型生物封じ込め担当心理学者であるニコ・レイ博士が患者796-17に行ったインタビューの抜粋です。インタビューは人間とヒト型生物の対象に対する定期心理検査の一環として行われました。簡潔さのために余分な対話は削除されています。
<記録開始>
レイ博士: ええと、あなたがいつ、どのように自分の状態に気付いたのかについてもう少し詳しく説明できますか?
患者796-17: いつ、と言い切るのは難しいです。去年の私は良い状態ではありませんでしたから。同居者は4月に出て行ってしまったし、5月には仕事を辞めなければなりませんでした。そしてスーパーの外の事故です。ああ、あれは酷かった。最悪でした。それで、その後の私は、ええと、外出することすら難しくなってしまって。だから、もう外に出るのは諦めました。
患者796-17: あれが見えていることに気付き始めたのはそれからです。最初は影かと思いました。ご存知でしょうが、私のアパートはあまり明るくありません。でも、私は結局正しかったと分かりました。暗い場所を見てから目を逸らすと、それはそこにいて私を見ているでしょう。耳と尻尾をちらりと見たような気もしますが、それだけでした。
レイ博士: あなたはそれにどう反応しましたか?
患者796-17: 私は誰かが気にかけてくれているとは全く思っていなかったじゃないですか。あの時は重要なことなど何もなかったんです。引っ掻き傷が出現し始めたとしても、頭の中で唸り声が止まなかったとしても。誰もあなたに言葉をかけず、世界があなたの存在を忘れてしまったら、どのようなものも本当に……現実だと認識するのは難しくなるでしょう?
患者796-17: それで6月の晴れた朝、私は窓を閉めてテレビを消し、5シート分のアンビエン1を出して―あの爪が邪魔になってそれすら難しかったのですが、何とかしました―グラスに水を入れ、全てを口に含んで目を閉じて横たわりました。そして、ええと、あれは何の音も立てませんでしたが、私を見続けていることは感じることができました。私の眼が眼窩の中で裏返っても、私の喉がきつく閉じてしまっても、あれは何もしませんでした。その時に私は何かに気付いたんだと思います。
レイ博士: 何にですか?
患者796-17: 何が起ころうとも、あれはただそこに居続けるつもりだったということを。常に影の中に、耳の中に、皮膚の中に居て、常に見ています。私に何も残されていない時でさえも、私が世を去ろうとしている時でさえも。「猫には幽霊が見える」というのを聞いたことがありますか?あれは単に私を最後まで見届けたいのだと思います。
患者796-17: そして、なぜだか私は、それを私の人生で誰かがしてくれたことの中で最良のことだと思えるのです。私を見ていてくれることが。
レイ博士: ジェイコブ、これまでにあなたの状態に至った人々が全て死亡したことには気付いていますか?
患者796-17: はい。
レイ博士: では、なぜそのような考えを持っているのですか?
患者796-17はレイ博士の肩越しに何かを見て微笑む。
患者796-17: 分かりません。あれはただ……私が好き、というようなことなのだと思います。
<記録終了>
補遺-796-03: 2006年3月23日午前7時36分、SCP-796封じ込めチャンバーからの監視映像が途切れました。派遣された保安部隊によって、チャンバーは2日前に行方不明となったことが報告されていたニコ・レイ博士のキーカードによって外から手動で開放されていたことが判明しました。封じ込めチャンバー内に患者796-17とSCP-796は存在しませんでした。キーカード認証パネルからは爪痕が発見されました。また、患者796-17の枕の下から次のメモが発見されました。
あなた方が、「病気」と呼ぶのが耐え難いかのように「状況」とか「不幸の原因」とか呼び続けているものの実態に気付いてください。違うのです。病気ならば、あれは皮膚の中に、頭の中に潜り込み、あなたが死を願うほどにその爪と、心の中の爪で傷つけ続けるでしょう。あれは本当に危害を加えようとしたりはしません。確かに時々引っ掻き傷はできますが、それだけです。時々、あなた方は私をここに閉じ込める言い訳をしますよね。治療法を見つけるのだと。でも、あなた方も私もそんなことは起こらないだろうことを知っている。病気ではないのです。私はもう良くなってきているので、全く気にしていません。
ここを離れなければならないことについては謝罪します。4枚の白い壁と施錠されたドアは、私が今まで居た場所と大差ありません。でも、今の私にはやりたいことが沢山あるし、あの猫はいつまでもここに閉じ込めてはおけません。あいつは室内飼いできる猫じゃないんです。
- Jより