SCP-811-JP
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アイテム番号: SCP-811-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-811-JPは、サイト-81██の低脅威度物品保管ロッカーに、密封機構の付いたポリエチレン袋に入れた状態で収容します。ロッカーの周囲及び内部は、冷暗状態を保って下さい。実験の際はDクラス職員を用いて行って下さい。また実験後のDクラス職員(SCP-811-JP-1)は、特別な事由のない限り終了措置などは必要としないため、他のDクラス職員と同様の生活及び職務を行わせて構いません。ただし、他のSCPオブジェクトの実験などに関わる場合、それが歯や口腔内への特別な影響がないものであることを確認した上で参加させて下さい。
(201█/7/██追記): 収容以前にSCP-811-JPを摂食しSCP-811-JP-1と化した一般人には継続的な監視を行い、歯に関する異常があったという動きが見られたら直ちに研究チームへの通報と当該人物の確保を実施して下さい。また、実験に参加したDクラス職員は実験後、SCP-811-JP摂取から28時間が経過するまで簡易的拘束を行い、歯のブラッシングをさせないよう監視して下さい。その後、当該職員に総入れ歯を支給し、監視を続けつつ通常業務に復帰させて下さい。

説明: SCP-811-JPは、一般的な銀紙と、それを更に覆う紙製の帯によって包装された、板状のチューイングガムです。見た目は一般的に市販されているチューイングガムと同様の形状及び大きさで、合計117枚が現在、サイト-81██に収容されています。10枚入りパックの紙容器には『歯を鍛える!スパルタガム』と印刷されており、別の面には『歯の健康を守りたい、丈夫な歯を手に入れたいあなたへぴったりのガムです。100歳まで自分の歯で食べましょう!』『歯の健康のコツは、自分の歯について知ることと、必ず毎日歯磨きすること!』などといった文章が確認されています。個々の包装紙は全て水色の無地であり、SCP-811-JPを直接包む銀紙も同様に無地です。これらの包装用材に異常な点は見られません。

SCP-811-JPの特異性は、これを口腔内に入れ、板状であった形状を完全に留めなくなるまで咀嚼した人物(以下、被験者と表記)に発生します。ほんの僅かでも元の形状を残す部分があったまま口腔内から出したり、そのまま飲み込んだ場合、異常性は発揮されません。
被験者が完全に原型を留めなくなるまでSCP-811-JPを咀嚼し、それを吐き出す、または飲み込むなどして口腔内から取り除いてから1分後、被験者の口腔内から全ての歯が瞬時に消失し、それと同時に『被験者が本来持っていた、通常の歯の最大本数』と同じ数のヒトの歯が、全て抜け落ちた状態で口腔内に出現します。これらの歯は同一の物ではなく、ヒトの口腔内に生えている、全ての種類の歯が必要な数だけ存在します。被験者が虫歯や外的要因によって歯を失っていたとしても、口腔内には失われた分も含めた本数の歯が出現します。さらに、被験者にいわゆる『親知らず』があった場合は、親知らずに当たる歯は出現せず、完全に消失します。これは歯茎上に露出せず、完全に歯茎の中に埋没していた場合でも同様です。
また、被験者の歯茎には、歯の生えていた部分に、歯の埋まっていた部分と同等の大きさの空洞が発生します。そのため、当オブジェクトを摂取した被験者は、あたかも被験者の歯がその場で全て抜け落ちたかのように錯覚しますが、出血や痛みなどは発生しません。被験者が虫歯や外的要因によって歯を失ってから時間が経過しており、既に歯茎が再生され空洞が存在していなかったとしても、この空洞は新たに発生することが確認されていますが、親知らずが生えていた部分には空洞は発生しません。
発生した歯及び空洞は時間が経過しても消失、復元されることはなく、その組成は通常のものと変わりありません。

歯茎に発生する空洞は全て、その位置に生えて然るべき種類の歯が、過不足なく挿し込める大きさです。口腔内に発生した歯を、正しい位置の空洞に、正しい向きで挿し込むと、微かな手応えと共に歯が完全に固定されます。間違った歯を挿し込む、または向きを間違えたまま挿し込むことを試みると、被験者は痛みを訴えますが、これは硬質な異物を歯茎に挿し込んだことに起因するものです。ただし、挿し込む歯や向きを一度間違えると、それまでに固定されていた全ての歯が歯茎に押し戻され、抜け落ちます。再挿入は可能です。

全ての歯を正しい位置及び向きで挿し込み終えた被験者を、SCP-811-JP-1と呼称します。
SCP-811-JP-1となった被験者は歯が異常強化され、物理的衝撃による破損や化学薬品による腐食といった、歯の損傷やそれに伴う痛みを一切受けなくなります。また、本来であれば歯に損傷を負う程の物理的衝撃を加えられた場合も、衝撃は感じるものの幾分緩和された状態になると報告されています。さらに、歯で舌や口腔内の粘膜を噛む、他者に顔を殴られた際に歯が口腔内の粘膜に強くぶつかるといった、SCP-811-JP-1の歯による二次的な損傷や痛みも一切受け付けなくなります。
被験者がSCP-811-JP-1となってから時間が経過しても、これらの歯には歯垢、歯石の発生や変色などが見られません。また、SCP-811-JP-1に新たな親知らずが生えてきた事例は報告されていません。

以下は、SCP-811-JP-1となった被験者の詳細な特異性を究明するために行われた実験の記録です。

実験記録811-JP-1 - 日付201█/6/██

対象: D-811-JP-1(予めSCP-811-JPを摂食させ、SCP-811-JP-1へと変化させてある)

実施方法: 歯が露出するように口を開かせた対象の前歯にマイナスドライバーをあてがい、ドライバーの先端を金属製のハンマーで叩き、歯に強い衝撃を与える。

結果: 硬質な物体同士を打ち付けるような音はしたものの、歯には一切の損傷が見られなかった。D-811-JP-1は上から衝撃を加えられたことに起因する多少の物理的衝撃を受けたものの、表情などを見る限り苦痛を感じた様子はない。

分析: 実験後、D-811-JP-1にインタビューを行ったところ、『爪で叩いたような、軽くカツンと叩かれる衝撃はあったが、全然痛くなかった』という証言が得られた。実験時に与えた衝撃に対し、明らかにD-811-JP-1が受けた衝撃は小さいように見える。 痛みを感じないだけでなく、単純な物理衝撃を大幅に緩和する効果もあるようだ。

実験記録811-JP-2 - 日付201█/6/██

対象: D-811-JP-1

実施方法: 歯の表面に濃硫酸(質量パーセント濃度96%)を塗布する。実験に際しては、歯以外の部分(歯茎、舌など)に付着しないよう留意する。塗布してから数分後、歯の表面を観察。

結果: 塗布から3分後に付着した濃硫酸を除去し、歯の表面を観察したところ、酸による腐食、分解などの影響は一切見られなかった。拡大観察しても塗布前後での違いは一切見られない。

分析: 物理衝撃に留まらず、化学的損傷にも耐性を持つようだ。

実験記録811-JP-3 - 日付201█/6/██

対象: D-811-JP-1

実施方法: 滑り止め加工を施したペンチで対象の歯を挟み、抜歯を試みる。

結果: 30分以上に渡り歯を引き抜くべく力を加え続けたものの、対象の歯は全く動かなかった。D-811-JP-1からは『軽く引っ張られるのは感じるが、やっぱり痛くない』という証言が得られた。

分析: 代わる代わる職員を交代しながら抜歯を試みたが、抜けるどころかびくともしない。歯茎が損傷した様子もないところを見るに、オブジェクトの影響は歯のみではなく、歯と繋がる歯茎の部分にも及んでいるようだ。

実験記録811-JP-4 - 日付201█/7/█

対象: D-811-JP-1

実施方法: D-811-JP-1に対し、自らの舌を歯で上下に挟み、噛むように少しずつ力を加えていくよう指示。

結果: 痛みが耐え難い程になったら中止して良い、と予め伝えてあったにも拘らず、D-811-JP-1は力を加え続けていた。中断させてインタビューすると、『いつまで経っても、どんなに強い力で噛んでも全然痛くなくて、逆に怖い』と証言した。実験後、D-811-JP-1の舌を観察してみたが、外傷はおろか歯型すらついていなかった。

分析: 歯による二次的な傷害も起こらなくするらしい。うっかり口の裏を噛んでも安心というのは、少しだけ羨ましいかも知れない。

SCP-811-JPは、201█/6/██、██県██市にて、『路上でいきなり大量の歯を吐き出した人がいる』という通報により存在が発覚しました。現場は██市で最も大きな繁華街の路上であり、被害人数は██人に上りました。被害に遭った人物には財団病院施設で暫しの入院措置がとられた後、調査により上記の復元方法が発覚すると共に、復元措置の実行とBクラス記憶処理が施され、解放されました。解放前のインタビューにより、当該の繁華街にて謎の白衣を着た年齢不詳の男性が『新製品の試供品』という名目で配っていたSCP-811-JPの存在が発覚。被害者が全員『配られたガムを食べたあとに歯が全部抜け落ちた』と証言したため原因と断定され、収容されました。その後、目撃者への記憶処理と共にカバーストーリー『行き過ぎた歯の健康キャンペーン』および『品質不良による試供品回収』が適応され、騒動の混乱は鎮静を見ました。
その後も調査と追跡が行われ、多数のSCP-811-JPを回収出来ましたが、残存したSCP-811-JPの存在、ならびに新たにSCP-811-JPが配られるケースが懸念され、現在も██市を中心に各地への監視が続けられています。

補遺: D-811-JP-1の経過観察を続ける中で、SCP-811-JP-1となった人物には歯垢や歯の変色などが発生しないことが判明しました。D-811-JP-1が食事を終えた後、歯を磨かせずに数時間放置した後に歯の観察を行ったところ、歯の表面は清潔な状態が保たれており、食べかすなども付着していませんでした。また、D-811-JP-1は元々あまり歯磨きを丁寧に行っていなかった人物であることが周知されていましたが、上記実験から2週間が経過しても、D-811-JP-1の歯には変色や歯石の発生などが見られませんでした。

補遺2: 201█/7/██、収容房にて待機していたD-811-JP-1が突如口から大量の歯を吐き出した、という看守からの報告がありました。担当研究員が調査したところ、D-811-JP-1の口腔内及び周囲に散らばっていた歯は全てD-811-JP-1のものであることが判明し、それらは全て2~5個程度の破片になるように折れ、または砕けていました。これらの歯は全て損傷などを負わないという性質を失っており、またD-811-JP-1の口腔内を観察した結果、D-811-JP-1は歯を全て失っており、歯茎は完全に再生されている状態でした。
その後のD-811-JP-1に対するインタビューにより、D-811-JP-1は前日の朝(およそ28時間ほど前)より、面倒に思ったため歯を磨いていなかったことが判明しました。別のDクラス職員を用いた追調査を行ったところ、SCP-811-JP-1となった人物が、前回歯を磨いてから28時間の間歯を磨かないでいると、全ての歯が折れ砕けて抜け落ちるという事実が発覚しました。更にその翌日である201█/7/██、██市の病院に『いきなり歯が全部折れてしまった』という男性が搬送され、調査及び病院に潜伏していたエージェントからのインタビューにより、SCP-811-JPを摂取した人物であることが確実とされました。これにより特別収容プロトコルの一部が改定されました。搬送された男性は財団病院施設へ移送され、Bクラス記憶処理と、カバーストーリー『不幸な交通事故』が適応、暫しの入院の後に再度開放されました。
D-811-JP-1には総入れ歯が支給され、職務に復帰しました。

D-811-JP-1が歯磨きを丁寧にやらないのは知っていたが、それでも丸一日サボるまで歯が砕けなかったということは、歯磨きの判定はあまり厳しくないようだ。しかし、何故24時間ではなく、28時間なんだ?   ――██博士

人間、いつも決まった時間に歯を磨けるわけじゃないですからね。猶予時間、ということなのかも知れません。   ――██研究員

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