SCP-8111

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Magic for Liars

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特別収容プロトコル: 監督評議会指令に則り、全てのSCP財団職員はSCP-8111に干渉しないものとします。


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SCP-8111。

説明: SCP-8111は“フリル・ウィザード”を自称するクラスXヒト型現実改変実体であり、認定を受けた大奇跡術師です。SCP-8111は外見上、灰色の頭髪と髭を有する高齢・長身の人間男性です。SCP-8111は全ての言語と大半の既知の死語を流暢に話すことができます。

SCP-8111は紀元前900年以前と推定される不明な時期に誕生しました。SCP-8111は直接的にも間接的にも、複数のSCPオブジェクト、異常な実体、要注意団体の創造に関わっています。

補遺: 財団が1998年に壊された虚構シナリオの発生を宣言した4年後、SCP-8111は財団の要職を辞任し、“ステージング・ハッツ”の名称で知られる新たに結成された要注意団体に加入しました。それ以来、SCP-8111による現実改変能力や奇跡術の行使は確認されていません。

インタビューログ


[SCP-8111が杖をついて、インド、チェンナイの通りを歩いているのが見える。彼はシルクハットを被り、食料雑貨が入ったバッグを持ち、激しい雨にも拘らず微笑んでいる。]

[傘を差したもう1人の男性が反対方向から歩いてくる。彼は若々しく、黒いビジネススーツを着ている。彼はSCP-8111の前で立ち止まり、SCP-8111もそうする。]

不明: 調子はどうですか?

SCP-8111: どうにか持ち堪えている。君は?

[沈黙。雨が激しくなる。]

不明: どうして?

SCP-8111: 身体が濡れてきた。もっと乾いた場所に行こうじゃないか。

[男性は片手を上げ、空に向かって特定の身振りをする。雨が突然止み、2人の周囲に乾いた円を形成する。]

不明: 話をしましょう。

SCP-8111: 君が望むならば。

[2人は、2脚の木製椅子とテーブルが用意された小さな喫茶店の正面に座る。バリスタがやって来ると、SCP-8111はヒンディー語でコーヒーを注文する。]

SCP-8111: この店はカーピ豆を置いている。もう飲んでみたかね? 私は昨日知ったばかりなのだよ、嬉しい驚きだった。

不明: どうして財団を去ったのですか?

SCP-8111: 本当にその話を蒸し返すつもりか? 私の意志はあのファイルではっきりさせたつもりだったのだが。

不明: ご自分の姿を見てください。あなたは杖をついて歩いている。それを解消する簡単な呪文が山ほどあるのは、お互い知っての通りです。

SCP-8111: 私は能率を高めるために腕を1本余計に生やした人々を見てきた。3本目の脚があってもそう悪くはなかろう。

不明: 身なりに構わなくなりましたね。1年足らず前まで、10歳は若く見えた。

SCP-8111: ようやく実際の年齢に合った身体になれて、多少はしっくりきている。

不明: 遠からず、あなたは老いさらばえて朽ちていくんですよ。

SCP-8111: まぁ、それもそんなに悪くない。

[沈黙。バリスタがインディアンコーヒーを持って戻り、2人の前のテーブルにそれを置く。]

不明: どうしてですか。

SCP-8111: 疲れたのさ。それ以上の理由が必要かね?

不明: あなたは私にとって憧れでした。あなたは-

SCP-8111: 嗚呼、もうそんなくだらん話は止してくれ。なんかよりも誇るべき人物は歴史上にもっと沢山いるだろうに。

不明: なのに、あなたは我々を捨てた… あんなことのために? 私にはあの団体の意義さえ分からない。

SCP-8111: 彼らは奇術師マジシャンだ。

不明: 手品師イリュージョニストです。ヴェールの崩壊から間もなくして現れた、奇跡術の行使を自分たちのマジックに対する“インチキ”だと考えている手品師の集まり。自分たちの仕事が真の魔法の影に隠れてしまうことへの苛立ちで動いている連中です。

SCP-8111: 唯一の非異常なGoIだ。彼らは自分たちの卓越した技能と独創性を発揮して、もう一度脚光を浴びようと意気込んでいる。素晴らしい話じゃないか?

不明: 馬鹿げています。

SCP-8111: そうかもしれない。しかし、自分の仕事がほんの数年で取って代わられてしまえば、君だって腹が立つだろう?

不明: 私の質問をはぐらかしていますね。またしても。

[沈黙。SCP-8111はコーヒーを一口すする。]

SCP-8111: ある物語を聞いてはくれないか?

不明: それは私の質問に答えてくれますか?

SCP-8111: 多分な。君次第だ。

不明: いいでしょう。

SCP-8111: ずっとずっと昔、私がまだ幼くて好奇心旺盛な少年だった頃、見知らぬ男が村を訪れた。男は灰色のローブを身に纏い、それまで見た中で一番長い髭を生やしていて、思わず私は笑ってしまったほどだ。私が近寄ると、彼は「お前は何を望む」と訊ねた。私の単純な子供心では、その時の頭を満たしていた最も根本的な欲求以上のものは考えつかなかったので「食べ物」と答えた。何処からともなく、見たこともないほど赤々としたリンゴが男の掌に現れた。一口かじってみると、実に美味しかった。どうやってあんなことをやってのけたのかと訊ねると、男はただ微笑んで姿を消した。どうやらそのまま去ったようだ。二度とその男の姿を見ることはなかった。

SCP-8111: その時、私は初めて魔術の存在を知った。それ以降の人生については、君も知っての通りだ。私は知識を渇望するあまり、小さな村を飛び出し、家族を捨てて、この世の不思議を見つける旅に出た。この世界で新たなものを見出せなくなるまで旅を止めないと自分に誓った。私に問いを投げかける全ての現象を目撃し、研究した。深妙な知識を秘めた本を、無限の智慧が満ちる無限の図書館を発見した。筆舌に尽くし難い姿の生物を見つけ、その中には我々の種族より賢いものもいた。私と同じような能力と好奇心を持つ人々とも出会った、善人もいれば悪人もいた。そして、長年にわたって獲得したこれら全ての知識を携えて、私はこの叡智を更に膨らませる助けとなる集団に参加しようと決めた。やがて、そこを離れ、別な集団に加わった。そしてまた同じことをした。そしてもう一度。私自身の、真に誇りに思える組織が見つかるまでそれを続けた。

[SCP-8111はコーヒーをまた一口すする。]

SCP-8111: しかし、最近になって、その組織の方向性を変える出来事があった。彼らは私がそれまで発見した不思議のほとんどを世界中に公開した。それで私が思い悩むことはなかった。どちらにせよ私の目標は変わらない。ある日、私は久々にオフィスの外へ出てみようと思い立った。世界がどうなっているのか見てみたくなった。そこで適当な道を散歩しに行った。驚いたことに、大した変化は起きていなかった。私が隠蔽してきた闇の世界は、光の世界と完璧に溶け合っていた。子供たちは有害な呪文で遊び回り、収容すると誓った生き物たちは人類と団結していた。

SCP-8111: ふと、小さな人だかりが、私には見えないものを取り囲んでいるのに気が付いた。何を見ているのだろうと近付いてみると、そこではシルクハットを被り、赤いマントを羽織った若者が手品系の大道芸を披露していた。彼はちょうどカードトリックの最中で、どうやら1人の少女が引いたカードの絵柄を当てたようだった。少女は明らかに無関心だったが、彼は明るい笑顔を絶やさなかった。その後、彼は別の観客を選び始め、私を指差した。私が歩み寄ると、彼は「お腹は空いていませんか」と訊ねた。どうするつもりなのか興味が湧いて、私は空腹だと答えた。するとどうだろう、彼は手から青リンゴを取り出し、私に手渡した。彼が別なトリックに移ろうと歩き去った時、私の中で幼い頃の思い出が蘇った。私が一番驚いたのは何だと思う?

不明: …何ですか?

SCP-8111: タネが分からなかったのだよ。魔術に関しては数十世紀にわたって学んだ知識があるにも拘らず、私はその手法を見抜けなかった。奇跡術の放射も、変則的なヒューム値も、異常なアーティファクトもなかった。彼はただそれをやってのけたのだ!

[沈黙。]

不明: それだけですか? 男が袖口に隠した果物を取り出してみせた。それだけのことで、世界一強大な組織を去ったのですか?

SCP-8111: あのリンゴは袖口に収まるような大きさでは-

不明: 信じられない! 隠す方法なんて幾らでもありますよ! もう少し注意深く観察していれば、その男のトリックを見破れたはずです!

SCP-8111: まさにそれが肝心なのさ。見破れなかった。私は隠されしものに気を取られ過ぎて、現実との接点を失っていた。

[沈黙。]

SCP-8111: 実のところ、あの団体は大いに私を驚かせてくれるのだ。私は専門知識を最大限に活用し、団員たちが異常な力に頼ることなく己の技芸を重んじているかを判断する手助けをしている。

不明: じゃあ、そういうことなんですね。その力を行使すれば、あなたは大規模で有益な物事に貢献することもできた。しかし、その代わりに、あなたは今後数年で忘れ去られるであろう小さな要注意団体のコーチになることを選んだ。

SCP-8111: 私はこれまでずっと善いと思えることをしてきた。せめて今回だけ、やりたいようにやらせてもらえないか?

[SCP-8111はコーヒーを飲み終える。彼は椅子から立ち上がる。]

SCP-8111: もう行かなければ。そう遠くない所でマジックの発表会があってね、それを見届けなければいけない。もし望むなら、一緒に行こう。

[SCP-8111は杖を手に取り、喫茶店から歩き出す。彼は男性を軽く振り返り、シルクハットを被り直す。]

SCP-8111: そうでなければ、また君に会えて嬉しかった。

[SCP-8111は乾いた円から雨の中へと出ていく。]

[乾いた円はゆっくりと狭まっていく。監督者は動かない。]

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