SCP-8121

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発信中メッセージ転写

ペンシルベニア州フィラデルフィア、次元研究サイト-98


アニェッリ研究員: サイト-98の状況を報告します。こちらは上級研究員のエリザ・アニェッリです。世界が終焉を迎えてから38日が経過しました。

アニェッリ研究員: 生活はこれまでと大して変わっていません。<休止>いえ、違いますね。えーと—

アニェッリ研究員: あの、えーと、都市プロヴィデンスの跡地は急速に都市とは思えなくなっています。連中は長期間をかけ、アイツの近場 — リフトの近場に監視施設を私達に建てさせています。

アニェッリ研究員: 施設周囲の空気が帯電していて、私達が日々をどう過ごしているのか、自分たちに出来ることはないかと尋ねてくる、か細い囁き声が至る所で聞こえてきています。総じて、声の主らは一連の事態に対して大変誠実です。

アニェッリ研究員: けれども、死して夢見る宇宙的悪夢を現実化させている、頭上の不快臭を放つ死体The Acrid Corpse由来の憎悪を私は感じ取れています。あの男は毎日、正午頃に活動を休止し、論じるには甚だ知識不足なトピックをネタにした病的な不満を精神感応力でぶち撒けています。今日の罵詈雑言の内容は世界が終焉を迎えて以降の交通状況についてでした。

アニェッリ研究員: 果てしないループと交差点があって、文化が混じり混ざり合っていて、人々が自由にアイデアを共有し、海産物が実存的恐怖を抱かれずに享受されている世界への純然たる怪異がある。そんな現代世界をアイツは嫌悪しています。

アニェッリ研究員: その一方、I-95に野営地を構えた深きものどもは事態を悪化させています。輸送部門曰く、集団を一網打尽にすべくクルー1名を派遣したものの、オフィスは先週の時点で高次元領域へと移転していたとのことです。

アニェッリ研究員: ああ、それと誰かさんが財団ギフトショップにラヴクラフトのぬいぐるみを置いています。くしゃくしゃにすると叫び声を発するんです。子供達にはウケています。その子供の両親も受け入れました。





SCP- 8121
レベル:1
Unrestricted
収容クラス:
Tiamat
副次クラス:
Megiddo
攪乱クラス:
Amida
リスククラス:
Critical
アイテム番号: {$item-number}
レベル5
収容クラス:
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副次クラス:
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撹乱クラス:
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リスククラス:
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SCP-8121顕現後の、かつてロードアイランド州プロヴィデンスだった陸地上空。最頂部中央におけるSCP-8121-Aの存在に注意。




未送信メール - 受信者不明

ナラガンセット湾沿岸にて発見された私物の内から回収


件名: [なし]

海岸沿いでまた魚人共を目にした。巡礼者の集まりだ。目は虚ろで、口を音も立てずにパクパクさせ、男の背後を歩いて行くものども。彼奴等は手を振っていた。イカした光景だ。

今日は私の兄弟が彼奴等の仲間に加わった。私が駆け寄り、いの一番に朝食にするかどうか聞いた際、アイツは血塗れで腐敗した何かを抱えていた。

曰く森羅万象の終焉を導くのに忙しいとのことだ。5時以降は暇かどうか聞いてみた。予定を確認してみると答えが返ってきた。大宇宙の筆舌に尽くしがたき怪異が業務時間までに待ち構えている。

空が瞬いた。瞬き返してみた。正しい行いをしたかのような気分だ。






特別収容プロトコル






財団のリソースはダメージコントロールと状況の安定化に割り当て直されます。現在の情勢に端を発するコラテラルダメージを軽減する目的で、世界オカルト連合並びに世界各国政府との積極的な協力体制が維持されます。

発生場所の立地上、SCP-8121-Aは目下未収容です。無力化作戦は保留されています。更なる指示に従ってください。

旧来の指令に基づき、財団の作戦は継続されます。合意的現実は維持されます。




説明






SCP-8121は2010年3月11日、アメリカ合衆国ロードアイランド州ナラガンセットのロジャー・ウィラービーチ州立公園沿岸に出現した巨大霊長類型実体です。SCP-8121のサイズは全高300m以上と推測されているものの、正確な測定値は不明です。SCP-8121は概ね人型で、鉤爪のある肢と矮小な翼に加えて、胴体には不釣り合いで数多の頭足類の触手が生えた巨大な頭を有しています。SCP-8121は口語的に"歓迎の宴"と称される上級オカルト儀式の実践が確認された数百人もの人間の集結後、ナラガンセット湾の水域から顕現しました。顕現後、SCP-8121はナラガンセット湾を緩慢に北上し、13日早朝にプロヴィデンスに上陸しました。以降、夥しい数の現実変異が発生し始めて現在に至ります。

SCP-8121の顔はデラポーア級視覚的認識災害1の媒介として作用し、典型的な"終末論者"、"プレッパー的"、もしくは"陰謀論的"思想と自己整合している人物の心情に強く影響を及ぼします。SCP-8121の影響を受けた人物全員が実体からの意志を受信可能な能力を持っていると主張していますが、これらの主張は裏付けられていません。

SCP-8121-Aはアメリカ人作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの遺体であり、目下ロードアイランド州プロヴィデンスの都市跡地の高度約100m地点に浮かんでいます。SCP-8121-Aは絶えず様々な敵対的概念を放出しているだけでなく、目下継続中のCK-クラス"現実再構築イベント"の中心にもなってなり、少なくとも旧ロードアイランド全域を影響下に収めています。SCP-8121-Aの数㎞圏内にいる人物は主にSCP-8121-Aの主観に由来する"侵入思考"の大幅な増加を証言しており、ある証言においては「突然心中に生じた圧倒的な憎悪と邪悪」が語られています。この侵入思考と関連する行動の実行に対応する衝動は一切検知されていないものの、行動を実行に移すか、該当する人物が影響圏内から離脱しない限り上記の思考や感覚は消え失せないと報告されています。

SCP-8121及びSCP-8121-Aはロードアイランド州の海洋と海岸地形の変容、そして同地域と周辺地域の擬似中世ヨーロッパ様式建築物化の原因になっています。城郭、尖塔、道路、水道橋その他の大規模建造物が確認されています。目下の推定では、州沿岸の大半のエリアが完全もしくは部分的に影響下にあります。

SCP-8121の州への進路から回収された粘液排出物への遺伝子検査からは、同サンプルがハワード・フィリップス・ラヴクラフトの遺伝子と完全に一致することが分かっています。



全自動監視カメラ映像記録 - [日時不詳],

カメラ37 - ブレントン・ポイント州立公園 - ロードアイランド州ニューポート


表示対象: プロヴィデンスの地平線

23:15:04 - タワーが移動し、引き延ばされ、それまで見られなかったアーチを形成する。地元民は無関心である。現場の目撃者は目の前の光景を受け入れられずにいる。「アレより怖いものを目にしてるんだ」、男はそう言って、近場の公園のベンチにてコーヒーを啜っている。

23:16:12 - 実体SCP-8121-Aが活性化する。実体の姿を見えなくしていた雲がバラバラに崩れ、周囲に上下逆のサイクロンを形成する。「そう、その通りだよ。」

23:17:45 - 光景を目の当たりにしていた市民がSCP-8121-Aの足元に跪く。死体は5日間に渡って遺棄されるが、新たに貸し与えられた生命とホウレン草キッシュの名レシピによって息を吹き返す。しかしながら、レシピを見せるように頼まれると、振る舞いは不安定さを増していく。対象は低アクロ語で喋り始め、その発せられた言葉の翻訳によって3名の財団職員が大爆発を引き起こし、赤みがかかって、紫がかって、ピンクがかかった青色の炎を燃やしている。後日、3人が犠牲になった場所にて、大量のホウレン草の苗が著しく成長していることが分かる。

23:19:00 かすかに現実が明滅する。同時刻、ロードアイランド大学構内の自動販売機が崩壊してブラックホールと化す。特筆すべき事柄として、この現象の影響を10パック余りのSwedish Fish2は受けずにいる。

23:21:09 - かつてプロヴィデンスとして知られていた地は最早プロヴィデンスのとは呼べなくなっている。この時点で新しい名称は決まっていない。目撃者は言う。「どの道、我等は沈黙を好む。」

24:00:01 - ログ破損。データ読み取り不可能。






補遺8121.01: 顕現






3月11日付のナラガンセット灯台からの報告では、顕現の刻限に先立つ大規模集会が触れられていました。"追憶Anamnesis"3を名乗る同団体は大声での歌唱と上級キネトグリフの実践を行いながら、昼過ぎに沿岸を襲撃しましたが、この時にアメリカ国立気象局が沿岸部での激しい揺れを検知しました。オカルト活動の第一報を受け、初期対応に当たる財団機動部隊が到着しました。午後1時13分、浜辺を臨む海からSCP-8121が出現し、同時に周辺地域でマグニチュード4.3の地震が発生しました。財団と合衆国政府は共同でVK-クラス"極度ヴェール崩壊"シナリオと緊急事態を宣言しました。

SCP-8121の北上によって発生した氾濫を受けて、避難命令が隣接する全ての地域に発令されました。午後1時50分、SCP-8121-Aが高度約400m地点に浮かんでいるとの目撃情報が複数のプロヴィデンス市民から寄せられました。顕現して間もない段階で、4000人以上がSCP-8121の精神作用に曝露し、同地域での敵対的行動や治安の不安定性を招いたと推定されています。本件は避難命令と財団の活動の双方への悪影響を招いています。

午後3時11分、SCP-8121を不活性化させる作戦は目ぼしい戦果を全く上げられずにいます。緊急脅威戦術対応機関Emergency Threat Tactical Response Authority(ETTRA)管理官のダン・███████博士と世界オカルト連合のD・C・アル=フィーネとの間で緊急会談が開かれました。会談中、連合は統合攻撃部隊編成による財団の非常時対応への協力に同意しました。

2010年3月20日、SCP-8121不活性化の全ての試みは失敗しました。




補遺8121.02: SCP-8121-Aの精神作用

財団超常心理学者レイヴン・ロークスキッド博士著『クトゥルー復活の心理学的影響について』からの引用。


更に、都市上空に浮かぶH・P・ラヴクラフトの遺体そのものが難航を極めさせられる事態を招いている。同オブジェクトに接触した人々の証言から明らかなように、遺体は腐敗の兆候を示しているのに、精神面では著しい活性状態にある。そればかりか財団が対処可能な水準以上に活性化していると物語っている。1杯のカップから水が溢れ出て、周囲のテーブルを濡らすかの如く、SCP-8121-Aの精神は本人の能力を上回るほど膨大な喜怒哀楽を処理し、不幸にも近場にいた人間に投射している。これは我々が対処してきた他の超能力的異常とは一線を画しているが、本稿で取り上げる重要かつ唯一無二の側面3点のせいで、更に状況は複雑化している。

1点目だが、SCP-8121は深く考えているわけではないように思える。本人の思考、というよりも本人の喜怒哀楽を投射しているように見える。受信側の精神は唐突な喜怒哀楽の流入に対して、意味が通じると解釈できるものにするための術として、思考を張り巡らす。これは精神が異なれば異なる形になるが、根底にある概念は変わらない。人間の精神は理解できない事物に対する合理化の面で著しく優秀なのである。暴力、不信の傾向を示す侵入思考。これらは人々の間に不和の種を播かんと目論む仇敵の気まぐれではない。そればかりか、SCP-8121-Aは行動を起こさんとしているわけでもないので、宿した猛烈な精神に打ってつけの居場所を作らなかっただけである。いや、これら影響は上記のような異常感情に何らかの存在意義を見出そうと試みる精神にしか及ばない。未熟な精神はこの手の経験に直面する構造ではないがゆえ、際立った異常を前にして尋常でない狂気に陥る結果となる。

2点目は喜怒哀楽そのものである。SCP-8121-Aは単に喜怒哀楽をオーバーフローさせているのではない。そこで溢れ出ているのは憎悪と苦悩である。このため、同オブジェクトへの暴力的反応を引き起こしている。SCP-8121-Aは否定的思考の飛瀑として作用し、付近のあらゆる脆弱な精神を暴力的行動と嚇怒という感情で圧倒する。SCP-8121-Aは財団観測史上最高密度となる人間の生々しい感情の巣窟であり、その力の全てが激情、嫉妬、自己陶酔、苦痛、自己憐憫に注がれている。致命傷に施された包帯の如く、プロヴィデンスという都市はこれら負の精神エネルギーに浸食されつつある。到底1人の人間の力で対処できる代物ではない。

3点目は、SCP-8121-Aの死亡が挙げられる。死体は感情面での特異性を除けば、生命活動の兆候を一切示していない。その精神は異常な活性化状態にあるものの、脳組織本体は崩壊している。ラヴクラフトが世を去ってから100年近くが経過しており、その間遺体はまともな状態ではなかった。この状況を説明可能な唯一の解釈は死亡当時の彼の精神が著しく顕出しており、今や再生を果たし何千倍にも強化されているというものだ。これ自体は全般的に唯一無二の現象ではないが、宿っている肉体の復活を起こさない上での精神の増強は過去にも確認されている。神格化アポセオシスである。

唯一の違いは、本来の神格化アポセオシスイベントにおいては肉体が完全に消費され、実体の新しき巨大精神体に引き継がれている点が挙げられる。宙に浮かぶラヴクラフトの肉体の存在は神格化アポセオシスという解釈への否定材料と化している。この世界へと彼をテザリングしている何かが存在しない限り、これは彼の消失を妨げている。神格化アポセオシスを外科手術として想像してほしい。始終眠っている間、何も感じないまま、1人の人間の肉体が傷付けられている。ラヴクラフトの身に起きているのは復活ではなく、麻酔抜きでの外科手術と言った方がより正確である。神格化アポセオシス未遂なのである。ラヴクラフトは制御下のハードウェアが手元にないまま、希釈されても都市全域では濃密なままという、途轍もなく強力な心理的オーバーロードを強いられている。何の信仰心も宿さぬままに尋常ならざる苦痛を味わっているのだ。

そして神の実体なき意志ソフトウェアが人間の肉体という器ハードウェアに組み込まれたのならば、ここでの光景を正確に理解できるようになる。あるのは果てしなく稼働を続ける憎悪の狼煙に他ならない。





公報メッセージ、世界オカルト連合、優先事項アルファ


自動音声によるメッセージをお送りしております。もしこれを耳にしているのなら、初期の再構築イベントを生き延びたことになります。おめでとうございます!

ロードアイランド州は現実から切り離されました。残念ですが厳然たる事実であります。もしこのメッセージをロードアイランド州以外で耳にしているのなら、もう一度祝しましょう。あなたは死なずにいます。

大型現実改変歪曲、三次元より上の次元を有する空間、ロードアイランド州を今でも現存する地域だと主張する一方的な試みはおやめください。そのような発言をする者は嘘を吐いています。

このメッセージを再度冒頭から流します。

[…]






補遺8121.03: 回収された文書

以下はハワード・フィリップス・ラヴクラフトの手による未発表作品や私信より削除された私文書の引用集です。ブラウン大学ジョン・ヘイ図書館のコレクションに含まれていた、これら文書にはSCP-8121及びSCP-8121-Aに酷似した現象と関連する記述の存在が判明しました。

日付なし、水濡れと著しい塩水臭を放つ日誌の殴り書きより見出された文章


ある朝目を覚ますと、更なる深みに軽く転倒した。

巨大で忌まわしき怪物がいた。その貌は原初の粘体の恐るべきものを備え、その眼球は盲目にして全視であり、恐るべき付属器官は単なる物質を超越し、着実に前進しながら底無しの深みへと沈んでいた。後年幻夢を視ていなかったのなら、迷走する病んだ想像力の産物と退けていただろうが、そいつに呼ばれたのだ。

プロヴィデンスは変わりつつある。毎時、何時であれ、外出中は今の庶民が気付かぬ新たに生じた差異との遭遇を、私は余儀なくされている。毎晩、壁は高さを増し、尖塔は鋭利さを増し、路地はいかなる地図製作者にも分からぬ在り方の捻じ曲がりようだ。月光に照らされた通りを眺め、あるべきではない輪郭との邂逅を夢想する夜が何度もあった。私が大いなる監視者the great overseerたる月を見上げたが、無気力に瞬くだけだった。昨晩は、とある知人の男に連れ出され、彼のジプシーの友人と会った後、体感で12時間もの時間をかけて、家までの帰路を見つけ出そうとしたが、間違いなく彼奴等がこの件の元凶に他ならないのは分かっている。

そうでなければ、その起源はより優れたものに違いない。それ以上だ。闇に囁くものの声、人ならざるものにして古ぶるしきもの、待ち続けるもののリズムを耳にした。そして私の頭の中には、私以外のものの思考が存在している。誰が囁いているのだ?誰が幻夢を視るのか?私か、さもなくば私の眼を越えたすぐ先に潜み棲む不可視の怪異なのか?




幻島Phantom Island』と題された未発表作品からの引用。


今や島が間違っても本当の陸地でもないし、死すべき定めの人間が歩むべき場所ではないのは分かっていた。樹々は樹々ではなく、黒ずんだ皮を身に着けた歪んだ骨の並びであり、さながら見えざる支配者への祈祷するように、それらの枝は空に向かって延びていた。毎晩、海岸は後退し、目覚めの世界においては不相応な怪構造物の並びが明らかになる。潮が密やかに引くと、古ぶるしき捻じ曲がった土台を有する巨大な塔が深みより聳え立ち、我等人間以外のものの手で築かれた都邑が見えるようになるのだろう。

私は孤独の身であるが、孤独ではなかった。断崖から、深みから、頭の片隅から視線を常に感じていた。視線の主は絶対に動こうとしなかったが、近づいてきていた。言葉を発さないが、囁き声を私は耳にした。その囁き声を聞くまいと努めた。島の上空を占有し、その姿形が分厚く、泡立つ霧で姿を隠されている怪物を見るまいと努めた。だが私の眼はその意志に背き、煌めきを放ち、巨大で、あり得ざる角度を有し、顔貌そのものではなく顔貌だったものの顔貌を見せつけてきた。その瞬間、私は理解した。私は間違っても島に迷い込んだのではなかった。呼ばれてきたのだ。

私が探し続けるべきだったのは祈りを捧げるための神ではなく、脱出策だった。




以下の1934年4月3日付書簡は、ロードアイランド州プロヴィデンスにおける蛇の手の既知のアジトと化していた文書庫で発見されました。


神秘家より構成されし無名結社、雑多な陰謀論者衆、そして厚顔無恥にも小生に接触してきて下さった口にするのも憚られる退廃者どもに宛てて

努々、貴殿等の洗練されて追従的な虚飾のメッセージにも、貴殿らの堕落した関心で飾り立てられた見せかけの同朋愛に小生が惑わされたと考えぬように。貴殿等の言葉は"知識"、"類似性"、"黙示録"と囁く、甘言に頼った奸知が混じっております。斯様な言葉であれば容易く誘惑に乗ってくれようとでも言うかの如くです。

貴殿等は小生が馬鹿正直であるとお思いなのでしょうか?叡智が汚濁の婉曲表現に過ぎず、啓蒙が人間の熟考に向かぬ知識の重みの下での精神の緩慢な崩壊に過ぎないと小生は存じ上げております。

貴殿等は小生の困難を、この荒廃した邸宅の壁の内に長きに渡って留まっている声を理解していると言明しておりましたな。更には、あらゆる潜み棲む妖魅が世に知られていないという例に漏れず、名を持たない貴殿等は手を差し出してきました。こうも仰っておりましたね、手の同胞団と。されど、小生は貴殿等が考えておられるような馬鹿正直な人物ではございませぬ。

小生は今や貴殿等の正体を看破しております。

貴殿等は後援者でも、学者でも、崇高な啓蒙の探求者でもありません。貴殿等はそれよりも酷く、小生の発想以上の悪党です。この腐敗しつつある都市という狭き隠れ家に小生を置き去りにし、己の野望を果たさんと、小生の精神を苛む病を利用する腹積もりなのでしょう。小生は貴殿等が斯様な"癒し"や"祝福"を信じておらず、いや、そればかりか、小生の才能を渇望しているに過ぎず、小生の一切を奪い取り海へと落とさんと望んでいると存じ上げております。

小生は目覚めの幻夢と苦悩という困難に十分苛まれております。されど呪われた身であるやもしれぬとしても、貴殿等の階級制度に属してその一員を自称するくらいなら、悲惨な孤独を味わいましょう。

斯様な甘言を囁いてきたのは貴殿等が最初で最後というわけではありません。不可視の怪物どもが窓辺で低いひっかき音を立てて、請い願いの声音を発し、この手元に残されたわずかな事物を捧げよと命じてくる、そんな夜を幾晩も過ごしてまいりました。

小生は間違ってもその話には乗ることはありません。


文書の続きは様々な民族差別や判読不能な文章の羅列となっています。




旧ハワード・フィリップス・ラヴクラフト邸にて回収された文書。大半が判読不能となっています。


だというのに、日々が経つにつれて、あの爬虫類じみた亡霊の忌まわしき顔貌が頭の中で鮮明になっていく。その顔貌が獣そのものであるのは勿論だが、前兆の核心でもあった。ソイツが近づいてくるのが分かるし、「助けてくれ」と訴えてくる者共それぞれが、忌まわしき策謀における兵駒に過ぎず、私を誘き寄せんとする愚者に過ぎないのも分かっている。

少しずつ、少しずつ、変容は続いている。にもかかわらず、私以外の誰一人として気付けずにいる。

プロヴィデンスは私が初めて来た時とは異なる都市と化している。それを認識できている人物は私以外にいない。なんとなれば、脳に忍び込んできたものを恐れているために。

往古のもの、古きものだ。

心中にて、感じ取っている。所詮、私は決して人間を歓迎することのない土地にいる闖入者に過ぎないという恐るべき確信だ。

四肢が日に日に衰弱している。ある晩、目を覚ますと我が家の頂に何も身に着けていないまま置き去りにされ、一匹のワタリガラスに腹部を啄まれていた。惨めな嘴が深々と肉体に突き刺さっている光景を前に震え上がるより他はなかった。

紙に記した文章の半分さえも思い出せずにいる。

文章はもはや物語を紡いでいない、決して物語にはならない。

恐怖の余り、これ以上は人が読めるような文章を書けずにいる。

なんとなれば私の抱く恐怖とは、何十年にも渡って心中に宿り続けているものが今にも復活するのではというものなのだから。





非合法広告、観光局『ロードアイランド州』


今度の休暇をどうするか考えていますか?ロードアイランドへの旅をご検討ください!

歴史ある海岸地区を見にお越しください。時間が最早無意味になったからには、滞在してみましょう。

美しき玉砂利舗装の通りをぶらついて、長期休暇と参りましょう。世界的に有名な反菜食主義者のレストランにご来店ください。魚の注文はなさらぬように。提供は行っておりません

光を追って、歓迎の宴にご参加ください。

ロードアイランド、「我等は常にここに在り。」





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