SCP-8185
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食材を探す最中のSCP-8185

アイテム番号: SCP-8185

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-8185は、サイト-54の適切なサイズのキッチンを備え付けた標準的な小型哺乳類収容チャンバーに収容されます。

SCP-8185には料理用の食材と複数個のタッパーウェア社製のタッパー型容器が日次で供給されます。

説明: SCP-8185は知性を呈する1個体のキタアライグマ (Procyon lotor) であり、人間による料理に匹敵するクオリティの仕込・調理が可能です。SCP-8185は英語の理解・英語でのコミュニケーションが可能です。

発見経緯: SCP-8185はニューヨーク州クーパーズタウン1のクーパー公園の公共に開放されたグリルエリアより発見されました。当該エリアにおいては、SCP-8185を中心にアライグマたちの集会が行われており、当該実体により腐った生ゴミや残飯をグリルした料理が非異常のアライグマたちに分け与えられる様子がクーパーズタウンの住民の多数により目撃されていました。

SCP-8185の初期確保の最中、財団職員はアライグマの大群に包囲されました。アライグマたちは腕を伸ばしてSCP-8185の後肢にしがみ付き、下に引っ張ることで当該実体の解放を試みました。また、SCP-8185の首筋を掴んでいたスキナー・フィールドエージェントに対して、一部のアライグマが爪で引っ掻いて攻撃したり噛みつく様子を呈しました。サイト-54への移送の最中、以下に示すSCP-8185とエージェント・スキナーとの遣り取りがボディカメラに録画されました。

映像記録


[録画開始]

[当該インシデント以前の不必要な情報は削除済み]

SCP-8185: アンタ、いったい全体何が不満だってんだよ、なあ?

突如としてスキナーのカメラが上下に揺れる。直後、スキナーのボディカメラがSCP-8185を中心に捉える。SCP-8185がネコ用のキャリーケージから鼻を突き出している。

スキナー: えぇ?

SCP-8185: アンタ、タフガイじゃねぇな?返答もままならないってか?

スキナー: あー、オッケー… 君、会話できるってわけね、なるほどね、こりゃあ…

SCP-8185: おうよ、喋れるさ。そりゃ率直に喋ることもできやがるぜ。ここから抜け出して、公園でオレは自分の仕事に専念してたんだ。家族のためにグレートなバーベキューを催してた最中だってんだ、だってのになんなんだよ?それを知ったアンタはいきなりやってきて、パットの叔父貴とオレを不意打ちしくさって、そんで更にはぶん投げやがって。オレが臨戦状態じゃなくて運が良かったな、こんにゃろ。さもなきゃ、そりゃ酷い目に合ってただろうぜ。

ケージの中のSCP-8185が鼻で笑う。ケージの側面を軽く叩く音が聞こえる。

SCP-8185: ワン、ツー、フーッ、シューッ。

SCP-8185が収容ケージ内部で身を左右に振っている様子が確認できる。

スキナー: 何をやってんだ?

SCP-8185: オレのこの体さばきを見せてやってるってだけだが。もしもオレとアンタでサシのステゴロしてたなら、今のこの車に載せられてる状況もありえなかっただろうからね。けどまぁ、道を引き返すようなら腰抜けのアンタを見逃してやってもいい。お互い、この煩わしい出会いの頭から尻まで全部無かったことにしないかってことだよ、どうよ?

スキナー: 確かに、君たちはサシで私と戦おうとしてなかったけどね。リングの上なら私が君をブチのめすことになるだろうから、その口閉じてなよ。それに、君は何か要求できるような立場じゃないと私には思えるけどね。

SCP-8185: いーや違うね。この状況が理解できてきた。おそらくだがアンタはこの場を取り仕切るご身分じゃない、だろ?運転手に指示することもできないんだろ?ガキの使いっパシりか何かか?

スキナー: いやいやいや違うね。念の為言っておくけどね、私は特殊エージェントであって、事実、最も重要な回収任務に任用されてる。でもって重要なことは君は元の場所に戻れないということだよ、おチビさん。私が君を運ぶ手筈となってる。万が一にもキャリーケージから君が逃げ出さないようにね。で、誰がガキの使いっパシりだって?

SCP-8185がキャリーケージの格子から顔を引く。

スキナー: そんなところだと思ってたんだ。

移送中の車内のSCP-8185は無言を貫く。時折、微かな引っ掻き音と散発的なすすり泣きの声が確認できる。キャリーケージの格子から、SCP-8185の尾がだらりと垂れ下がっているのが見える。

[録画終了]


補遺SCP-8185-A: 初期インタビュー

インタビュー転写


[転写開始]

SCP-8185はデスク上に置かれて頭をデスクに当てるよう伏せている。グストー博士が小さなマニラ紙の書類フォルダー1綴じを把持したまま入室してくるのに合わせ、SCP-8185の両耳がピクリと反応する。

グストー博士: おはよう!グストー博士だ、主任を担当してる、あのー… 君の研究役の主任だ。

SCP-8185: カミサマありがとう、ようやっと誰か寄越してくれたか。アンタがここのボスに違いないな?だよな?白衣を着てて、博士を名乗ってるんだもんな。うん、アンタがボスだろ。助けてくれ。故郷の家族が、みんなが心配してるに違いねぇんだ。おふくろの毛並みなんか岩みたいに白くなっちまってるはずだ。

SCP-8185が後肢で耳の後ろを掻く。爪の間に一房の毛が付着している。

グストー博士: 申し訳ない、それはできないんだ。我々が考えるに君は正常性を盛んに脅かす存在だ。仮に我々が君を解放したとしても、あの人たちにより哀れなフィールドエージェントが何名か送り込まれて君は再び収容されることになるだろう。君はある種の特別な存在だ、君のありとあらゆる要望に我々で応えることを約束しよう。

SCP-8185が肩をすくめる。

SCP-8185: なら、オレがただ求めるのは、家へ帰—

グストー博士: 道理をわきまえた要望に限るよ。

SCP-8185: まぁ聞けよ、そりゃ理解してるっての。アライグマについて話してやるよ、あのグリルに跨る1匹のアライグマについてさ。すんげぇパティメルト2を作るヤツのことだよ。トロフィーを得ることで大層な称賛がもたらされるって、アンタはそんな考えに随分と感銘してるな。けど、アンタがここのボスその人なんだろ。なら何の称賛が必要だってんだよ?そんなもの、いまここで問題になってることに比べちゃあ、塩のひと舐めほどの価値もありゃしない。オレは何も要らない、唯一望むのは家族のみんなにもう一度会うことだ。

グストー博士が書類フォルダーをテーブルに置いて「発見レポート」と記載された表紙のページに目をやる。静かな笑みを僅かに浮かべた後にSCP-8185へ視線を戻す。

グストー博士: まず第一に、私はボスではないよ。グストーというただの博士の1人に過ぎないのさ。このサイトに置かれた大勢のうちの1人だよ。

少しの間を置いてグストー博士が首を振る。

グストー博士: それから第二に、今回の件に関して君は喋ることも口答えすることも許されない。プロトコルってやつだ。この街一番に愛される魅力的なアライグマになったとしてもこの考えは翻ることはない。だがね、私から提案できることもある。料理するための材料を何か持ってきてやろうか?それこそパティメルトを作るのはどうかね?

グストー博士が笑みを浮かべ、同時にSCP-8185が鼻先を舐める。

SCP-8185: まぁ、料理ってのはクールな案だな、うん。けどな…

再び耳の後ろを痒がりだしたSCP-8185が言い淀む。複数の毛束が大量に抜け落ち、毛の1本1本がテーブルの上に落ちる。

SCP-8185: いくつかタッパーもいいか?外の町は荒れている。ドブネズミたちは質の良いゴミを全てぶんどって、奴らの小さな巣穴に運び上げてる。オレらのデブった体じゃもはや届きやしない。この街のゴミ箱全部に鍵をかける決まりが発布されたってアンタ知ってるか?アライグマ恐怖症の協議会、連中の仕業だよ。

グストー博士: そうだな、そいつに関してはうちの監督官の範疇になるな。このサイトから出るようなことは絶対に許可されないのが常だが、君のために何ができるか私の方でも考えてみよう。せめてもの施しとして、まずは君のために食材をいくつか用意しよう、いいかね?

SCP-8185がグストー博士に目を合わせ、左前肢を伸ばす。

SCP-8185: そいつはマジに大事なんだよ、頼むよ。約束する、変なことは絶対しでかさない。オレはまだいるぞってことをみんなに知らせてやりたいってだけなんだ。

グストー博士がSCP-8185の左前肢を軽い力で握り上下に動かそうと試みる。SCP-8185が低い唸り声を上げるが、僅かに動かすのが確認される。

グストー博士: 強いな君は。方々に掛け合ってみる、約束するよ。


インタビューの後、SCP-8185へ適切な食材を提供するようグストー博士からの要求がなされました。この要求は受理されました。

補遺SCP-8185-B: 映像記録

前記: SCP-8185の収容チャンバーへ食材を分配することが承認された後、当該実体の反応・行動を監視するためのカメラが設置されました。


映像記録

[録画開始]

SCP-8185の収容チャンバーの東側壁面内側に設けられたシュートに大きな段ボール箱が落とされる。段ボール箱が騒音を立てて落下してきたため、SCP-8185が体を強張らせながら不快気な声を漏らす。段ボール箱はダクトテープでぐるぐる巻きに包装されている。シャーピーペンで書かれた「SCP-8185用の食材」の文字がダクトテープに確認できる。

数分後、緩慢な動作のSCP-8185が段ボール箱に近づき始める。段ボール箱の縁の匂いを嗅ぎ、箱の側面を前肢で叩く。さらに段ボール箱の周囲に向かって息を吹きかけてようやく段ボール箱を開封する。頭から飛び込む。唯一、SCP-8185の尻尾だけがカメラ画角に収まっている。声を上げて笑いながら尻尾がぴくぴくと動き回っている。

SCP-8185: 大鉱脈を引き当てちまった…

段ボール箱が傾き始め、SCP-8185の姿が現れる。SCP-8185が金属製の床に頭をぶつけ、食材が床一面に散乱する。後肢で立ち上がったSCP-8185が頭を振る。

SCP-8185: 腐ってもなけりゃ、カビも生えちゃいない。おまけに色まで残っていやがる!

SCP-8185が自身の匂いを嗅ぎ、複数の食材を手に取って小さなテーブルに向かって歩きだす。SCP-8185は食材をテーブルに置くとともに首を片方に傾げる。すぐに逆側に首を傾げる。ひき肉のパッケージを掴み、プラスチックのカバーを齧って剥がし始める。

SCP-8185: 北区にいるミセス・サリヴァンがこのブランドの肉を買ってたのを前に見たことがある。こんな質のいいヤツはどこのゴミ箱でもこれまでお目にかかれたことないぞ、金持ちたちがゴミ箱に鍵をかけ忘れたいつぞの時にもな。

テーブルの上に飛び乗ったSCP-8185がパッケージを逆さまにすると、灰白色のひき肉がゆっくりとバラけながら、音を立ててSCP-8185の手前に落ちる。SCP-8185が牛の生ひき肉1粒1粒を広げ始める。ひき肉はおおよそ円形を成し、指を舐めてはひき肉を広げる作業を繰り返して肉の小山に形成され直される。SCP-8185はそこから大きな塊を手掴みし、自身の口の奥深くに詰め込む。数回噛んでから、突如として咀嚼物を吐き出す。

SCP-8185: オレはいったい何やってんだか。いいねぇ、結構なお味で。質の良い肉がたくさん残ってるんだ、口に入れちまうのは止めとこう。こいつは誰にも食べさせらんね。

SCP-8185が最後に残った牛肉の欠片を形成し終える。コンロに向かい、フライパンを手に取って電気バーナーにセットする。SCP-8185がパテを1つ1つフライパンに置いて前肢で押しつぶす。ゆっくりと、薄灰色やピンク色をしたパテがくすんだ灰色に変化していく。SCP-8185がパテを熱したフライパンから皿に装う。

SCP-8185: ったく、クソみたいだなこりゃ。これ食った奴は死んじまうことになるかもな、ドブネズミが食うかすらも自信がない。あいつらだってこんなゴミよりかは良いものを食ってるはずだぞ。バカかオレは。

SCP-8185がオーブンの方へ振り返り、尻尾で皿を床に叩きつける。陶器の破片が床面を滑り、擦れる僅かな音が収容チャンバー内に響く。ひき肉の塊は大部分が飛散せずにそのままの形を維持している。SCP-8185がテーブルを降り、残されたパテ全てを食べると丸まって入眠する。睡眠中のSCP-8185は頻繁に体をくねらせたり寝返ったりしながら、囁き声で様々な寝言を漏らす。マイクで録音できた音声は以下のみである。

SCP-8185: もっと上手くやるんだ。もっと上手くやらなきゃ。オレの料理をみんながまた口につけてくれるなんてラッキーなのに、オレのバカ。忘れるな、全部みんなのためだ。全部みんなのため。上手くやれ。

[録画終了]


注記: 追加的に送られた食材は、その大半が不適当に使用されるか即座にSCP-8185に消費される。体サイズが大きくなる一方で、目に見えてSCP-8185の体表の脱毛斑が大きくなっているのが確認された。清掃・管理スタッフの大多数から清掃作業中に被害を受けた報告が上がっている。SCP-8185への食材供給はサイト管理官の命令により停止された。グストー博士はこの決定に抗議して不服を申し立てた。グストー博士は、仮に申し立てが受理され、なおかつ供給された食材をSCP-8185が浪費し続ける場合、それに伴う損失費用を自身が補填する意思を表明した。

補遺SCP-8185-C: 追跡調査インタビュー

インタビュー転写


[転写開始]

サイトへの初期移送に使用されたキャリーケージにSCP-8185は収容されている。明らかに凹みが確認できる。SCP-8185が調理を試みている様子を捉えた写真を多数携えたグストー博士が入室する。そのうちの1枚を除き、グストー博士は写真を全てテーブルの上に整然と並べる。残った最後の1枚を一瞥する。グストー博士は頭を振って静かな笑みを浮かべ、SCP-8185のキャリーケージの格子に写真を注意深く差し入れる。

グストー博士: おはよう、また会えて嬉しいよ、相棒さん。

SCP-8185: オレはアンタの相棒じゃない。

グストー博士: そうだな。

グストー博士が咳をし、左腕を掻く。

グストー博士: 財団での生活に… 適応するのに苦労しているのは私も理解しているよ。そして、それは全く以て正常なことだ、信じてくれ。そちらに渡した写真を、そいつを一目見てくれたらと思う。

キャリーケージの内部でガサガサと動くような音がすると紙の束がグストー博士の頭目掛けて投げつけられる。鼻を直撃する。

SCP-8185: オレを笑いに来たんだろ?それほどにアンタは強いってか?打ちのめされたアライグマを笑ってやろうじゃないか、なあ?

グストー博士: いや、君を笑うためにここまで来たわけじゃない。実際はその逆さ。その写真を見せたのは最初に君が言ってたことを思い出してほしいからだ。君は自分のことを「グリルに跨る1匹のすごいアライグマ」と言ったよな。それを私ははっきりと思い出すんだ、このとおり。この写真はそのとおり示してる。確かに調理スキルは… 独特なものだが、私が投げ落とした全ての食材で何とか調理できている。

SCP-8185: アンタが寄越したのか?

グストー博士: もう沢山だと、サイト管理官はそう判断したんだ、率直に言ってしまうとね。何週間も前に君の料理への資金分配を打ち切った。この写真は全て…

格子から前肢を伸ばすSCP-8185へ、グストー博士が残りの写真を手渡す。SCP-8185の両前肢には切り傷と火傷がうっすらと確認できる。

グストー博士: 全てが私が用意した食材を使ったときのものだ。店まで私が買いに行ったものなんだ、こんなかわいいメモ帳まで買ってしまったりして…

縁に沿って黒色と灰色の縞々模様をしたメモ帳をグストー博士が胸ポケットから取り出す。

グストー博士: 全て、君のことを思い出させてくれる。SCP-8185買い物リストだよ。毎週行ってるんだ。

SCP-8185: なるほど、ようやく把握した。ここまでやって来て、アンタがオレに買って寄越した質の良い食材全部思い起こさせてやろうってことか、オレがゴミ箱の肥やしにしちまったものだって。本当にお優しいことだな。けどな、そんなの要らねえよ。

グストー博士: 違うさ。また誤解しているよ。ここに来て伝えたかったのは、君が放り捨てたものはそれが何であれ、全て私が取っておいてるということだよ。床にキスしてるものと、君の鼻の穴を通ったものと、文字通りに君の口の中へ入ったものを除いて全てね。それを私が食べるもんだから同僚には狂ってると思われてる。"ラカックーン博士"Dr. Racuckoo-n3 なんてあだ名まで付けられてしまってね。

グストー博士が人差し指を時計回りに動かしながらカッコウ時計の音をふざけて真似する。声を出して笑い、キャリーケージの中へ視線を向けようとする。

SCP-8185: そう呼ばれるのも当然だろ、オレが作ったゴミ食ってんなら。ルーの奴だってあんなの食いやしないさ、マジだぜ、下水道暮らしのアライグマだ。嗅ごうと思って頑張れば、もしかしたらここまでルーたちの匂いが漂ってるのが分かるかもしれない。

グストー博士: 聞いてくれ、君は新しいコンロに、新しい場所に適応しようとしてる。これまでにコンロを使った経験があったか?諦めるな、私はまだ諦めてないからね。だから、君も諦めるんじゃないぞ。

SCP-8185が格子に顔を押しつける。グストー博士が振り返ると素早く顔を引き離す。

グストー博士: この場所は経験もないものだし、それは酷くおっかないことだと理解してる。家族から何千マイルも離れた場所だ。だがね、この戦いは君ひとりのものじゃない。君のために、私の身はカフェテリアのゴシップの集中砲火を直に浴びる状態に置かれてる。それを知っておいて欲しかったんだよ、相棒さん。

SCP-8185: フランク。オレの名前はフランクだ。けど、相棒呼びも悪かないね。

SCP-8185が前肢を格子から出し、ゆっくりと上下に動かす。グストー博士が前足を握り、そのまま穏やかに上下に揺する。

SCP-8185: 強いやつだな、博士、アンタの名は?

グストー博士: ジーンと呼んでくれ、相棒。

SCP-8185がクスリと笑い、写真の束をグストー博士に手渡す。最後の1枚を返すのを躊躇う。

グストー博士: 持っておきなさい、大丈夫だから。

[転写終了]

補遺SCP-8185-D: インタビュー後の記録

映像記録

[録画開始]

SCP-8185が冷蔵庫の扉に向かい、粘着テープで緩く貼り付けられた1枚の写真を凝視している様子が確認できる。写真に向かって一度だけ頷き、SCP-8185は冷蔵庫に手を突っ込んで大量の肉と野菜を引っ張り出す。

SCP-8185: 戻ってきたぞ。

前肢一杯に食材を抱えたSCP-8185がコンロに向かってよたよたと歩く。木製のまな板の上に食材を置き、ニンジン・セロリ・タマネギを慎重に切り始める。タマネギの根を切り落とす際に、引いた包丁をまな板に打ち落としてSCP-8185がたじろぐ。前肢の毛が僅かにピンク色に染まっている。

SCP-8185: クソったれめ…

SCP-8185が冷蔵庫に向き直る。

SCP-8185: 大丈夫。大丈夫だから。

SCP-8185が前肢を洗い、開いた傷口から水が流れ落ちて顔をしかめる。収容セル西側の壁に取り付けられた監視カメラを見上げて、首を一度縦に振る。ソフリット4の下拵えを続け、残りの食材を素早く正確に切る。

SCP-8185: しっかりしろ、アイツが腹空かしてんだぞ。

SCP-8185が鍋に少量の油を注ぎ、さいの目に切った野菜を入れて非常に緩慢な動作でかき混ぜる。数分後、トマトペーストと牛ひき肉が加えられる。熱した油の上で牛ひき肉が焼ける大きな音にも臆せずにSCP-8185は平静を保っている。SCP-8185は1カップのビーフストックと赤ワインを用いてデグラッセ5する。ボトルに少し残ったワインを嗅ぐ。

SCP-8185: うーん、もう少しお高めなワインにしてくれてもよかったかな、相棒。

料理の最中、SCP-8185は出来上がったラグーソースを味見して調えたり、冷蔵庫に戻って扉の上に剥がれかかっている写真を見つめる。調理開始から数時間後、出来上がった料理の最後の味見をSCP-8185が行う。目を閉じて、ゆっくりと首を縦に振る。指を舐め回し、付着したソースの1つ1つを舌で掬って口に入れる。

SCP-8185が鍋の中身の一部をボウルへ慎重に移し、つま先で歩いて収容セル西側に移動する。1歩1歩進むがボウルは完全に静止したままである。長い時間を経てSCP-8185が落ち着きを取り戻し、監視カメラを見上げる。勢いよく首を振り、コンロに駆けて戻る。数秒後、SCP-8185が鍋の一部をピンク色のタッパー容器に掬い、元の位置に急いで戻る。スプーン一杯のラグソースを頬張りながら、SCP-8185は容器を差し出すようにスライドさせ、最後にもう一度カメラを見上げる。

SCP-8185: こいつはアンタの分だ、相棒。戻ってきたぜ、ベイビー!

[録画終了]

補遺.SCP-8185-E : グストー博士のメモ書き

親愛なる私の相棒へ

君に懺悔することがある。バターチキンカレーからグーラッシュ・ボロネーゼまで、最近君が私に宛てて作ってくれた料理を平らげられてないんだ。とはいえ、タッパーいっぱいに何個も詰めてくれるものだから、私を責めはできないんじゃないかなと思っている!どれもオフィス内を駆け巡ってる。君が手掛けた料理はスマッシュヒットをかましている!

そしてお願いがあるんだ、相棒。もうすぐ私の誕生日なんだが、仲間うちでのパーティを主催しなきゃいけない。そいつがここの文化でね。後ろ足で履くにはブーツは随分と大きいだろうけど、料理の仕出しを手伝ってもらえたらと思ってる。このことを管理官に相談してみるつもりだ、もしも君の料理を私以外にシェアしても構わないならね。とはいえ、ある意味では既にシェアされてしまってるんだけども。重ね重ね申し訳ない!

私たちは白黒つけ難く、ゴミ箱を漁ることもそれほどないと思う。だが、クーパーズタウンの一端を、君が少しでもサイト-54で感じてくれたら嬉しく思うよ。

君の相棒

ジーン

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