クレジット
タイトル: SCP-8262 - もしも私が若くして死ぬのなら
翻訳責任者: walksoldi
翻訳年: 2026
原題: SCP-8262 - If I Die Young
著作権者: OriTiefling、
Queerious
作成年: 2025
初訳時参照リビジョン: 6
元記事リンク: SCP-8262
特別収容プロトコル: SCP-8262によるものと識別された死体は全て墓から掘り起こされ、財団冷凍保管サイト-86に埋葬されました。現状では、追加の収容プロトコルは不要と見なされています。
旧アンドーバー高等学校は閉鎖の上で取り壊され、その跡地は未開発のまま放置されています。元職員はいずれも近隣の学校に再配置されました。
財団の非営利支部による資金は、将来的なアンドーバー地区の生徒に奨学金を提供するための、アンドーバー記念奨学金の創設に充てられます1。
説明: SCP-8262は、2023年3月18日から25日にかけて、アンドーバー高等学校の全生徒1,245名が死亡した事象です。
補遺8262.1: アンドーバー高等学校の元養護教諭、アリッサ・ローズフォールへのインタビュー。
SCP-8262が報告された後、調査の実施と (必要であれば) 今後のSCP-8262インシデントの防止を目的として、財団職員がアンドーバーの町に派遣されました。一般的か異常かを問わず、SCP-8262の原因が医学的なものである可能性を除外するため、アンドーバー高等学校の元養護教諭であるアリッサ・ローズフォールに対して、ミリー・トンプソン財団エージェントがインタビューを実施しました。
«ログ開始»
トンプソン: 面談に応じていただき誠にありがとうございます、ローズフォールさん。調査へのご協力に感謝します。
ローズフォール: もちろん応じますとも。どんな形でもお役に立てるのは嬉しいです、ただ…… その、FERPA2の関係で、私がここでお話しできることは限られています。できる限りお役に立ちたいと、心からそう願っているのですが……
トンプソン: FERPAの制約については十分に把握しています。特定の生徒について質問はしませんし、可能な限り一般的なお話に留めますので、ご安心ください。
ローズフォール: それはありがたいですね。私は…… 新天地への異動を申請したばかりですから。
トンプソン: そうなのですか? 最近になって決心されたのでしょうか?
ローズフォールが膝に視線を向け、両手をそわそわとさせる。
ローズフォール: 私は…… これまでずっと、そうするべきか思い悩んでいました。あの…… あの事件から、ずっと。私にとって、アンドーバー高校はとても、とても特別な場所でした。何年も、20年間もずっと。信じられますか? 一つの学校に20年も勤めていたんですよ。アンドーバー高校には、何か…… 言葉では言い表せない何かがありました。長年腰を落ち着けていた場所を離れるのは辛いことです、でも……
ローズフォールがすすり泣き始める。トンプソンがローズフォールの肩にそっと手を置く。
トンプソン: 説明の必要はありません。お気持ちは分かります。よろしければ、また別の日にお伺いしましょうか?
ローズフォールがため息を吐いて首を横に振り、テーブルにそっと両手を置く。
ローズフォール: いえ、今話さなかったら、今後また話せるかどうか分かりません。
トンプソン: 分かりました。いつでも中断できますので、それを心に留めておいてください。いいですね?
ローズフォールが頷く。
トンプソン: よし、ではまず…… 2023年3月より前に、生徒たちの間で何か異常な健康問題が相次いでいませんでしたか? どんなことでも構いません。
ローズフォール: いいえ。あいにくですが、特に異常はありませんでした。あったのはせいぜい、予想がつくような普通の症状 — 咳とか、嘔吐とか、あとは授業を抜け出すための仮病くらいです。私もいつも通りに振る舞いました。子供たちが必要な治療を受けられるようにして、病気の子は家に帰して、仮病の子は授業に帰しました。
ローズフォールが遠くを見つめる。眼が焦点を失っている。
ローズフォール: これは本当に、普通とは到底言えないものだったんです。
トンプソン: 本当に具合の悪い子と、そうでない子の見分けが上手くなるものなんですね?
ローズフォールが瞬きをした後、くすくすと笑う。
ローズフォール: ええ。同時に、誰が仮病を使っているのか見分けるのも上手くなりますよ。問題は身体ではなく、心の方にあるのですから。そういう子たちはとにかく休ませてあげます。ただひと息つきたいかどうか、私には分かるんです。何もかもから離れて、休みたいかどうかが。あの…… あれが起こる数日前には、生徒会のみんなは実質的に私の仕事場で過ごしているようなものでした。彼らが最も休息を必要としてましたから。
トンプソン: 生徒会がですか? そういう子たちは授業から抜け出すことを最も嫌がりそうなものだと思っていました。
ローズフォール: いいえ、彼らには必要だったんです。特にオリヴィアには — あの可哀そうな子には。
トンプソン: その子に何があったのですか?
ローズフォール: あの子は本当に苦心していた、それだけのことです。彼らはみんなそうでしたが、あの子が最も深刻だったと思います。実際、今思い返すと、亡くなったのはあの子が2人目でした。2人目で…… それから、SCA3の他の子たちが一人、また一人と。
ローズフォールが身体を強張らせ、泣き始める。ローズフォールの手の上にトンプソンが手を重ね、ゆっくりと円を描くように親指で手の甲を撫でる。数分後、ローズフォールが落ち着きを取り戻す。
トンプソン: 彼らがあなたのところに来るようになった理由と関係があるように思いますか?
ローズフォールが首を横に振る。
ローズフォール: いいえ。もしそうだとしたら、死因は…… 故意によるものだったはずです。彼らは…… 自分からそうしたのはないのですよね? そうではなかったのですよね?
トンプソン: ここで何が起こったのか我々もまだ十分には分かっていませんが、その通りです。これが集団自殺でなかったことはほぼ間違いないでしょう。
ローズフォールがネックレスを握る。
ローズフォール: その言葉は口にしないでください。お願いします。
トンプソン: 申し訳ありません、ローズフォールさん。他に何かお伝えしたいことがなければ、この辺りでインタビューを終了してもよろしいでしょうか。
ローズフォールが首にかけた十字架のペンダントに親指を押し当てる。
ローズフォール: まるで、ある種の罰であるかのようにも思えてきます。
トンプソン: 罰というのは、何に対してですか?
ローズフォール: それが何か言えたらいいのに。私たちが何をしてこんな残酷な罰を受けることになったのか、私には分かりません。
インタビューメモ: インタビューの後、ローズフォールさんは一緒に祈りを捧げてほしいと私に頼んできました。共にしばらく俯いた後、私は彼女に先導を任せました。彼女は神に捧げようとしている祈りの言葉を見つけるのに苦心しているようでした。その時、涙が自然と沸き上がったように見えました。私は座って彼女の手を握りしめ、そうしてようやく、彼女はただ "私たちの罪をお許しください" と神に願いました。祈りを終えると、彼女は私に礼を述べました。
これを行う前に、私は記録を停止する選択を取りました。一生分の悲嘆をカメラに収めることになってしまうでしょうから。一つの場所で苦しみに囚われ続けていては、私たちに残された生気すらも失われていくだけです。
~ エージェント・トンプソン
補遺8262.2: アンドーバー高等学校SCA会長 オリヴィア・ジョーンズの母親、ヒライ・ジョーンズへのインタビュー。
«ログ開始»
エージェント・トンプソンがジョーンズの自宅に向かい、玄関をノックする。玄関ドアが僅かに開くと、その後ろにヒライ・ジョーンズの姿が見える。
トンプソン: ジョーンズさんですね? 私はエージェント・トンプソンと申します。マサチューセッツ州医療サービス委員会を代表して参りました4。いくつか質問に応じていただきたいのですが、お時間はありますか?
ジョーンズは明らかに緊張している。
ジョーンズ: もうやめてください。どうか……
トンプソン: ジョーンズさん、この町の皆さんが非常に辛い思いをされているのは分かっています。もし私たちが —
ジョーンズ: いいえ、あなたには分かりませんよ。どうして分かるっていうんですか? あなたも、これまでやってきた人たちも、毎日毎日続けざまに質問しにきては5薄っぺらい決まり文句を並び立てるだけの部外者です。みんな口を揃えて言うんですよ。ここで何があったのか理解する手助けがしたい、私が理解する手助けをしたいって。
ジョーンズが話を続けている間、トンプソンは玄関前の階段に立っている。
ジョーンズ: 何を理解しろっていうんですか? どうしてみんな、これに筋が通ってなきゃいけないって信じて疑わないんですか? 私は健康そのものだった娘が、元気いっぱいだった娘が、あんな死体に変わってしまったのをこの目で見ました。次に気付いた時には、私や他のみんながあなたみたいな連中に追い立てられて、続けざまに質問やくだらない非難を浴びせられてたんです。
ジョーンズが家の中から足を踏み出す。彼女は明らかに震えており、ドアフレームを強く握りしめている。
ジョーンズ: それで、あなたも私を責め立てに来たんですか? あなたは何か新しいことを言ってくれたらいいですね。手間を省いてあげますよ、見出しはこうです —「血も涙もない教育ママが、無垢な娘を破滅へと追いやった」。私は育児放棄をしたと言われました。虐待者、怪物、他にも色んなふうに言われました。アンドーバーで私や他のみんなについて書いた新聞記事は全部見ました。私はあなたの見出しでもスケープゴートでもない、ただの母親です。でもどうぞ、また一つ積み上げてればいいですよ、この血も涙もないビッチが。私は —
ジョーンズがドアフレームにもたれかかり、顔を手で覆ってすすり泣く。
ジョーンズ: ……出て行ってください。お願いです。私は…… 私はもう、耐えられないんです。
トンプソンがポケットからハンカチを取り出し、ジョーンズに手渡す。ジョーンズが涙を拭い、鼻をかむ。
トンプソン: あなたの言う通りです。あなたを含めたアンドーバーの皆様がどのような気持ちでいらっしゃるのか、私にはとても分かりません。他の人たちの行いを謝罪することはできますが…… それであなたの気持ちが変わることはないでしょう。ですが、私はその人たちとは違います、あなたのお話を伺いたいのです。私は…… 私にも小さな娘がいますから、想像はつきます。しかし、それを分かることはできません。
ジョーンズが頭を上げ、トンプソンと目を合わせる。
トンプソン: この町で日々を過ごす中で、自分だったらどうしただろうかと考えを巡らせてきました。ですから、私がここに来た理由は違います。あなたを責め立てたりとか、どのような心持ちでいるべきかを説いたりとか…… そんなことをしに来たのではありません。何が起こったのかを追究し、このようなことが二度と誰の身にも起こらないようにするために、お話を伺いに来たのです。あなたが受けた苦しみを、どの母親にも受けさせないようにするために。<トンプソンが目から涙を拭う。> よろしければ、あなたの娘さんについていくつか質問させてください。お答えできなくとも、あるいはしたくなくとも、それは当然の反応だと理解しています。あなたの答えで私の見方が変わることはありません。我々はあなたが話したいと思うことしかお聞きしませんし、いつでも中断して構いません。もし私に出て行ってほしいのであれば、すぐに立ち去ります。そしてもう二度と、誰にもあなたに迷惑をかけさせないと誓います。
ジョーンズ: 何歳ですか?
トンプソン: はい?
ジョーンズ: あ — あなたの娘さんです。その子は何歳なんですか?
トンプソン: <静かに。> 9歳です。9月生まれなので、もうすぐ10歳になります。
ジョーンズが軽く微笑む。
ジョーンズ: 私たちが初めてアンドーバーに引っ越した時、オリヴィアもそのくらいでした。
トンプソン: まだ幼い頃だったのですね。大きな引っ越しだったのですか?
ジョーンズ: 私にとっては違います。私たちはバージニア州で数年間暮らしていました。ノーフォークという都市です。夫がそこに駐在してまして、ちょうど退職したばかりだったんです。私たちはどこか別の場所での新生活を望みました。オリヴィアにとっては…… 自分の世界が崩れ落ちたようなものでした。新しい都市、新しい学校…… 小さな女の子には辛いことです、特にあの年頃の子にとっては。あの子がひどく内気だったのも拍車を掛けました。
トンプソン: 想像がつきます。
ジョーンズ: あの子に友達ができた時は、本当にうれしかったです。スージー・アンダーソンという子でした。彼女の魂に安らぎがあらんことを。2人はほとんどすぐに意気投合して、あの子は…… リヴィはまるで、一夜にして別人になったかのようでした。
トンプソン: 良い意味で、ですよね?
ジョーンズが軽く微笑みを浮かべて頷く。
ジョーンズ: 最良の意味で、です。スージーはいつも社交的な子で、できることは何だってやるタイプでした。リヴィはその全てを一緒にやったわけではありませんが、いつも観に出かけていました。こういうのを英語で何と表現するのでしょう?「共犯者のように親しいThick as thieves」? あの子たちはまさにそんな関係でした。ついこの間まで2人の子供を見守っていたのに、気付いたら2人とも高校生になっていて、プロムの計画を一緒に立ててたんですよ。
トンプソン: プロムのシーズンですね? オリヴィアはSCA会長でしたから、さぞかし忙しかったのでしょう。
ジョーンズ: ええ、とても。ですが良い意味での忙しさでしたよ。あの子は毎晩ミーティングから帰ってきて、プロムに向けて検討しているアイデアを私に話してくれました。スージーは教会での活動を通じて地域との素敵な繋がりを築いてましたから、絶品のケータリングだとかを計画していたんです。
トンプソン: テーマは何に決まったのですか?
ジョーンズ: 『アンダー・ザ・シー』です。
トンプソンが含み笑いをし、とっさに手で口元を隠そうとする。
ジョーンズ: ええ、分かりますよ。みんなが選ぶようなものを選んだのねとは、とても言う気にはなれませんでした。2人はとっても楽しみにしていて、同じドレスまで買っていたほどでした。シークインの付いた青緑の美しいドレスに身を包んで、まるで人魚のように見えました。
ジョーンズの声が次第に小さくなり、ぼんやりと遠くを見つめる。
トンプソン: ジョーンズさん? 大丈夫ですか?
ジョーンズ: 大丈夫なものですか? スージーは…… 私にとって、2人目の娘のようだったんです。もう何年も、ずっと長い時間をこの我が家で過ごしてきました。洗濯のような単純作業をしながら、隣の部屋で一緒に遊ぶあの子たちの笑い声を聞いたあの時間を、私は決して忘れません。
風鈴が鳴り、ジョーンズが微笑みながら振り返る。
ジョーンズ: <静かに。> 今でも、あの子たちの声が聞こえます。
トンプソン: 先ほど、「彼女の魂に安らぎがあらんことを」とおっしゃっていましたね。改めて、負担になるのであれば無理に話す必要はありませんが、スージーに何があったのですか?
ジョーンズが身を強張らせ、左腕で身体を抱く。
ジョーンズ: 自動車事故です。ひどい自動車事故です。あれは…… 3月17日のことでした。その日の夜は雨が降っていて、スージーはほんの少しだけスピードを出しすぎていたのだと。そう言われました。彼女の母親から聞いた限りでは、車がカーブで横転して、彼女は車から放り出されてしまったようです。
トンプソン: それはひどい。
ジョーンズ: ええ。ひどいでしょう。私たちもそう感じました。あの子は地域のあらゆることをこなしてたんです。彼女が亡くなったとき、私たちはひどく悲しみました。リヴィは…… 中でも特に。ちょうど大学の合格通知をもらったばかりなのに、あまりのショックで祝う気持ちにはとてもなれませんでした。あの子はただ自分の部屋に閉じこもって、食事の時にしか出てきませんでした。そして — そして次は、リヴィが……
ジョーンズの目に涙がにじり始める。
ジョーンズ: もっと時間があれば、もっと話し合っていればよかった。何でも話していいよって、あの子に伝わっていれば。ただ娘ともう一日だけ過ごしたかった。
彼女が泣き始める。
ジョーンズ: ああ…… すみません。ここで止めてもよろしいですか?
トンプソン: もちろんです、ジョーンズさん。お時間いただき誠にありがとうございました。
ジョーンズ: トンプソンさん?
トンプソン: 何でしょう?
ジョーンズ: 次に娘さんに会ったら、その子を抱きしめてやってください。できるだけ強く抱きしめて、決して手を離さないように。
トンプソン: ……ええ、ジョーンズさん。約束します。
インタビューメモ: その場では彼女に伝えませんでしたが、彼女の娘とスザンヌ・アンダーソンがプロムで同じドレスを着ていたのは、恐らく別の理由があったのでしょう。ソーシャルメディアの調査結果のうち何件かで、オリヴィア・ジョーンズの非公開のInstagramアカウントが発見され、そこで彼女がとりわけスザンヌと非常に親密な関係にあったことが示されていました。
いずれにせよ、それは私が明かすべき秘密ではありませんでした。
2人のためにも、彼女が弔っている娘と、彼女が授かったお子さんが同一人物であったことを願うばかりです。
~ エージェント・トンプソン
補遺8262.3: 死亡記録の抜粋
2023年8月25日までに、財団職員はアンドーバー高等学校の生徒の死亡に関する調査を完了させ、それをタイムラインに纏めました。特筆すべき点として、生徒の死因はいずれも非異常な方法によるものでした。記録の抜粋を以下に提示します (時系列順)。完全な記録は文書8262.43を参照してください。
| 人物 | 死亡時刻とその内容 | 備考 |
|---|---|---|
| スザンヌ・アンダーソン | 3月17日午後8時13分 (米国東部標準時)。車両から投げ出された際の負傷によるもの。 | SCP-8262現象に関連する最初の死亡事例と考えられている。当該生徒は学校と地域の両方のコミュニティで非常に活発的であった。死亡時刻は病院の報告から取得。 |
| オリヴィア・ジョーンズ | 3月18日午後7時頃 (米国東部標準時)。突如として心停止を発症。 | 事前の健康問題は報告されていない。アンドーバー高等学校のSCA会長。 |
| ジャクソン・ペリー | 3月18日午後7時9分 (米国東部標準時)。てんかん発作により自身の舌で窒息。 | 当該生徒に発作の既往歴は存在しなかった。アンドーバー高等学校のSCA年代記編者。 |
| ジョサイア・ネルソン | 3月18日午後7時15分~午後8時 (米国東部標準時)。ウェイトトレーニング中の事故により負傷、当初は脳震盪と診断されたものの、のちに脳出血であることが判明した。 | アンドーバー高等学校のフットボールチームメンバー。また、アンドーバー・コミュニティ・バプテスト教会でも非常に活発的であった。 |
| モニカ・クルーズ | 3月18日午後8時16分 (米国東部標準時)。道中でイヌとの衝突を避けようとしてハンドルを切ったことによるもの。 | アンドーバー地区で突如として大量の911コールが為されたため、当該生徒は事故発生から相当な時間が経過するまで適切な手当てを受けることができなかった。実際の死亡時刻は、第一対応者が報告した時刻の約30分前であったと推定される。アンドーバー高等学校のチアリーディングキャプテン。 |
補遺8262.4: スザンヌ・アンダーソンの母親、レイチェル・アンダーソンへのインタビュー。
«ログ開始»
アンダーソン家のリビングルームで、エージェント・トンプソンとレイチェル・アンダーソンが座っている。トンプソンがグラスを一口すする。
トンプソン: お話に応じていただきありがとうございます、アンダーソンさん。それにレモネードまで。ここまでする必要はなかったのですよ。
アンダーソン: お出しした以上は無駄にするわけにはいかないでしょう? おかわりが欲しいのでしたら、私に言ってくださいね。
彼女が軽く微笑み、深呼吸をする。
アンダーソン: 質問があるのでしたら、既に準備はできています。
エージェント・トンプソンが小休止を挟む。
アンダーソン: 何のお話かは存じています、エージェント・トンプソンさん。遠回しに言う必要も、表現を柔らかくしようとする必要もありませんよ。
エージェント・トンプソンが頷き、話し始める。
トンプソン: 分かりました。あなたの娘さんについてお話しください。
アンダーソン: スージーは…… あの子の人柄を的確に表現するのは難しいですね。母親としてバイアスが掛かっているのは承知の上ですが、私はこの世で最も思いやりのある子を授かるという、他の母親とは比べ物にならないほどの幸運に恵まれました。
トンプソン: 私がお聞きした通りですね。アンダーソンさん、私はこのアンドーバーで起こった出来事について、これまで多くの方々にインタビューを実施してきました。そしてどのインタビューでも、直接的あるいは間接的な形で、あなたの娘さんの話が出てきたのです。
アンダーソン: そうでしょうね。スージーはできることを全部やるんだって言い張ってましたから。
トンプソン: 生来の頑張り屋さんだったのですか?
アンダーソン: 彼女なりに言えばそうでしょうが、それが理由ではありません。スージーは幼い頃から後世に名を残すことに関心を持っていました。何かで記憶に残るようになりたいと言い出したのは、ほんの6歳くらいの頃だったはずです。
トンプソン: 小さい子が考えるにしては大きな夢ですね。何か特別なきっかけでもあったのでしょうか?
アンダーソンがしばし思案する。
アンダーソン: いつだったかの夜に、悪夢を見たそうです。あの子が泣き叫びながら起きてきて、私にこう言いました。「ママ、私ママみたいに皺ができるまで生きてたいよ!」って。
アンダーソンとトンプソンが含み笑いをする。
アンダーソン: もちろん心の中では「えっ?! 私に皺なんて無いでしょ!」って思いましたよ。ですが、あの時はそういうことではありませんでした。私はただあの子を寝かしつけて、そんなことは心配しなくていいのよと伝えました。
トンプソン: 私の娘も数週間前に似たようなことを言ってきて、打ちのめされましたよ。私の顔の皺をなぞりながら、いつか自分にも皺ができるのかと聞いてきました。私がそうだよと言うと、泣き出してしまいまして。
アンダーソン: 神がお望みならば、エージェント・トンプソンさん、きっとそうなるでしょうね。
アンダーソンが近くのテーブルに置かれたスザンヌの額入り写真に目を向ける。オリヴィア・ジョーンズとジャクソン・ペリーの側にスザンヌが写っている。3人は笑顔を浮かべている。
アンダーソン: あの子に最初に皺ができるとしたら、それはきっと、ああいう素敵な笑い皺だったのでしょう。
アンダーソンが独りでほほ笑み、窓の外を見つめ始める。しばらくして、彼女が我に返る。
アンダーソン: ……ですが、そうですね。悪夢を見てから、あの子はますます人に忘れられることを心配するようになりました。私はもう一度、そんなに心配しなくていいって伝えようとしましたが、それでもあの子を止めることはほとんどできませんでした。
トンプソン: 娘さんは活動を本当に楽しんでいるように見えましたか?
アンダーソン: ええ、それも理由の一つでしたよ。スージーはとても多くのことに関わっていましたが、何をするにも心から楽しんでいるように見えました。
トンプソン: 不安は解消されたのでしょうか?
アンダーソン: 不安についてはそうですね、ただ考え自体は残ったままでした。あの子はもう後世に何かを残せるかどうかを心配してはいませんでしたが、それでも何かを残すことを強く望んでいました。それは恐怖心からではなく、むしろ…… 当たり前のこと、でしょうか? 説明が難しいですね。2年ほど前、どうしてそんなに責任とかを背負うのかと尋ねたことがあります。あの子は私の目を見て、こう言いました。「お母さん、私、若くして死ぬから」って。
アンダーソンが沈黙する。
アンダーソン: 会話はそこで終わりました。あの子は確信に満ちた口調でそう言ってました、ただ何かを知っていたかのような口調で。ですが、聞いていただけますか、エージェント・トンプソンさん?
トンプソン: 何でしょう?
アンダーソン: こうなってしまっても、私は嬉しく思うのです。あの子は深く関わりを持っていて、深く愛されていた。たとえ…… たとえあの子の友達もみんな亡くなってしまったとしても、あの子が忘れ去られることはないでしょう。
トンプソン: おっしゃる通りです、アンダーソンさん。きっと、そうでしょうね。
インタビューメモ: 上記インタビューと、当該アノマリーに関する財団の広範な調査を経て、私はSCP-8262現象の起源はスザンヌ・アンダーソンにあると考えています。SCP-8262の具体的な理由について、これ以上合理的に断定することはできません。断定できるのは、SCP-8262が再び発生する可能性は低く、当該アノマリーは現時点で無力化したと宣言して差し支えないということです。
私は財団に対し、アンドーバー市の記憶処理に関する現状の提案措置を再検討するよう謹んで要請いたします。私たちはここで失われたものを十分に見てきました。残ったものまで削り取る必要はありません。
~ エージェント・トンプソン



