クレジット
タイトル: のスリッパ
著者:trianglebacteria
原題: 의 슬리퍼
作成年: 2019
翻訳者:Amplifier
翻訳年: 2024
初訳時参照リビジョン: 12
元記事リンク: http://scpko.wikidot.com/scp-830-ko
アイテム番号: SCP-830-KO
オブジェクトクラス: Safe Keter
特別収容プロトコル: SCP-830-KOは標準的な植物型オブジェクト収容室に収容します。対象には1日1回、散水機を使用して十分な量の水を供給しなければなりません。
SCP-830-KO-1はSafeクラスSCPオブジェクト収容金庫または小規模物品保管庫に収容します。対象を用いた実験を行うにはセキュリティクリアランス3以上を持つ職員の承認が必要であり、実験終了後、被験者にCクラス記憶処理剤を投与することが推奨されます。
SCP-830-KO-1は箱に入れ、収容中であるサイトの休憩室に保管します。サイト内の職員は誰でも自由にSCP-830-KO-1を使用することが出来ます。 (補遺3参照)
説明: SCP-830-KOは一般的なリンゴの木(Malus pumila)と遺伝的、外観的に同一の個体です。対象の果実(以下、SCP-830-KO-1と呼称)は一般的なスリッパに似た形をしており、材質や触感も類似しています。SCP-830-KO-1は炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、水を約1gずつ含み、磨り下ろして摂取することが出来ます。
既存のSCP-830-KO-1が持つ異常性は実験830/K-04以降、全て変化しました。
補遺1: 実験記録
実験記録830/K-01
担当者: スプリンガー博士
被験者: D-8871
備考: D-8871は財団に収容される以前、果樹園で4年間働いていた経験と5件の放火歴を持つ27歳の白人女性である。実験は対象を最初に確保したサイト-██にある空の収容室で行われ、全過程は収容室内のカメラで記録された。D-8871はSCP-830-KOについての予備知識はなかった。実験が行われた当時は、SCP-830-KOがまだSCPオブジェクトとして分類される前であった。<記録開始>
スプリンガー博士: おい、D-8871聞こえるか?
D-8871: はい、聞こえるかどうかを聞いたんですよね?
スプリンガー博士: そうだ。自分の年齢と誕生日を言ってみろ。
D-8871: 27歳、█月█日。そういえばもうすぐ誕生日なんですけど、ここはケーキとか出てくるんですか?
スプリンガー博士: 質問にだけ答えてくれ。さあ、収容室の真ん中のテーブルの上にある果物の種類を言ってみろ。
D-8871: わかりました。あれは普通のみかん…いや、リンゴ?あれは一体何ですか?
スプリンガー博士: どのように見えるか説明してくれ。
D-8871: あれはただの…普通のリンゴのような形をしています。 赤くて、丸くて、上にヘタがついていて、葉っぱはありませんけど。
スプリンガー博士: みかんだと思った理由は?
D-8871: 分かりません。何となくでしょうか? 今でもあれはみかんみたいな感じがしますね。頭では分かってるけど、心では分からないってあるじゃないですか。ちょっと混乱しますね。
スプリンガー博士: 今回は近寄って触ってみて、感触を説明してもらおう。
D-8871: はい、わかりました。[D-8871がSCP-830-KO-1に近づいて触れる]なんだ、これ。
スプリンガー博士: どんな感じだ?
D-8871: リンゴだから当然滑らかな感じのはずなんですが、えーと…でもメロンみたいな感じです。もう訳が分からない、何がどうなってるんですか?
スプリンガー博士: 他の感覚も試してもらえるかな?
D-8871: わかりました、まずは匂いを嗅いでみます。 この匂いは何だろう…あ、そうだ!桃の匂いですね。いやちょっと待てよ、リンゴの匂いがするはずなのに…これって…
スプリンガー博士: 他のも早くやってくれ。
D-8871: 聴覚もやってみます。はい、これはスイカの音ですね。なぜこうなるのかはまだ分かりませんが、取り合えず受け入れます。後はもう食べればいいんですよね?どんな味か気になりますね。
話し終わるとすぐに、D-8871はSCP-830-KO-1を食べた。.
スプリンガー博士: いや、まだ毒性についての実験は…クソ。
D-8871: (呟きながら)そうなんですか?これ食べたらダメだったんですか?もうすでに少し飲み込んでしまったんですけど。あ、ちょっと待ってください。待って。
D-8871はすぐにSCP-830-KO-1を吐き出す。
D-8871: クソ、レモンの味でした。
スプリンガー博士: お疲れ様。さあ、もう出てくれ。
<記録終了>
注釈: E-██████-1の感覚に関する特性は非常に異質なものであり、これについては十分に研究する必要があると判断する。そのため、対象はまもなくSCPオブジェクトに分類されるだろう。また、D-8871が対象を問題なく消化したことから、毒性はないようである。— スプリンガー博士
実験記録830/K-04
担当者: スプリンガー博士
被験者: D-8874
備考: D-8874は32歳の黒人男性であり、2件の殺人歴がある。D-8874はAWCYの小規模展示会で逮捕され、異常なオブジェクトを作り出す能力はないことが確認された。実験はSCP-830-KOの収容室で行われ、全ての過程は収容室内のカメラで記録された。D-8874は、SCP-830-KOについて何の予備知識も持っていなかった。<記録開始>
スプリンガー博士: D-8874、聞こえるか?
D-8874: ああ、聞こえる。今度は何だ?
スプリンガー博士: 大したことはない。ただ、あれを見て説明するだけでいい。
D-8874がSCP-830-KO-1に近づく。
D-8874: これはただの…(5秒間沈黙)
スプリンガー博士: 言ってみろ。
D-8874: ちょっと待て。(3秒間沈黙)なあ、この木から枝を1本だけ取ってもいいか?(呟きながら)これをああすれば…
スプリンガー博士: 構わない。やってみろ。
D-8874がSCP-830-KOの枝を折ってSCP-830-KO-1に投げるが外れる。
D-8874: えーっと。
スプリンガー博士: 何をしてるんだ?
D-8874: 待ってくれ。 俺は何かを作ることは苦手だが、観察は得意なんだ。
D-8874が再び木の枝を掴み、水平に投げる。今度はSCP-830-KO-1に命中するが、枝はそのままSCP-830-KO-1を通過する。
D-8874: やった。
スプリンガー博士: 今のは…
D-8874: ほら、見ただろ?観察は得意なんだよ。
D-8874がSCP-830-KO-1に指を差し込んで持ち、地面に置いて履く。この時点から、全てのSCP-830-KO-1の外観がスリッパとして認識されるようになった。これは以前の写真や映像記録においても同様であった。
D-8874: スリッパだ。
スプリンガー博士: 今、いったい何をしたんだ?
D-8874: それは後で説明するから、もう出てもいいか?
スプリンガー博士: (3秒間沈黙)そうしてくれ。
<記録終了>
注釈: 当該実験の後、全ての写真/映像記録を調べたが、いずれもSCP-830-KO-1の外見はスリッパであることが観察された。また、現実改変の可能性に基づく調査では何の結果も得られなかった。D-8874にインタビューを行った後、SCP-830-KOの再分類を検討する予定である。— スプリンガー博士
補遺2: インタビュー記録
実験記録830/K-a
担当者: スプリンガー博士
インタビュー対象: D-8874
備考: このインタビューは、D-8874に実験830/K-04に関連する内容を尋ねる目的で行われ、実験が終了してから約17時間後に行われた。D-8874は19日後、月末処分の記憶処理後に再配置される予定であったが、担当者の薬物誤用により死亡した。<記録開始>
スプリンガー博士: 今から先程の実験記録についてのインタビューを行う。
D-8874: どうせ俺が話しても博士には分からないだろうが、それでもやってみるか。
スプリンガー博士: まず、先ほどの行動について説明してくれ。
D-8874: トリックを解く簡単な方法だった。それ以上でも以下でもない。
スプリンガー博士: トリック?そのトリックについて簡単に説明してくれるか?
D-8874: まあ、そんなに難しい内容でもないしいいか。とりあえず、アートっていうのは昔、人前でパフォーマンスアートだかなんだかで粗雑なパフォーマンスをしていたやつが最初に作ったらしい。そいつの名前は分からないが、とにかく作品だからと言い張り、白いキャンバス一枚を自分の前に置いて、「欲しいものを言ってみて下さい」みたいなことを言って、本人はキャンバスの後ろに座って見ていたそうだ。
スプリンガー博士: 君が直接経験したことではないのか?
D-8874: そんなわけない。とりあえず、話を最後まで聞いてくれ。それで、それを見ていた観客の一人が「お金」と言ったら、いきなりキャンバスがお金の絵で埋め尽くされたそうだ。それで、その観客がキャンバスに音声認識機能でもついているのかと思って探してみたら、実は芸術家が後ろで瞬時に絵を描いて、何らかの能力を使ってキャンバスに写したことが判明した。
スプリンガー博士: 興味深い話だな。
D-8874: とにかくそれ以来、芸術家が作品に干渉する作品が増えて、より多様に、より巧妙になっていった。代表的な作品のひとつに「猫か犬を撫でる」という彫刻があるんだが、彫刻家が何か手を加えてどちらか好きな動物に感じるようにした作品だった。そして、実際の彫刻には針がぎっしり刺さっていて、観客はこの針を触ってるのに猫か犬を撫でているように感じた。とにかく俺は芸術作品をよく見るから、そういうトリックはよく見抜けるんだ。今回も同じさ。あ、ちなみにその作品では彫刻の台座の中に芸術家が隠れていた。
スプリンガー博士: では、これもAWCYのアート作品ということなのか?
D-8874: いや。ここまで出来るやつはいない。芸術家の中でも。万が一、そんなことが出来るやつがいたとしても、芸術なんかしてないだろ。
スプリンガー博士: じゃあ、これは何だ?
D-8874: つまり、簡単に言うと、(5秒間沈黙)分かったか?
スプリンガー博士: 全然分からない。
D-8874: そうだろうな、期待なんかしてなかったよ。だから(5秒間沈黙)全然分かっていないようだな。じゃあ、もう少し説明しようか。
スプリンガー博士: 説明してくれ。
D-8874が立ち上がって歌を歌う。歌は約3分間ほど続いた。
D-8874: どうだ?
スプリンガー博士: 歌は上手いが。でも、それがこれと何の関係があるんだ?
D-8874: 歌か!(溜め息)そうか、まあそもそも期待してなかったが。何をやっても理解出来ないだろうから、もうここでインタビューはやめよう。拷問しようが自白剤を使おうが、欲しい情報は一生得られない。たまたま気づく可能性はあるかもしれんが。
スプリンガー博士: それでも、もう一回説明してもらえないか?
D-8874: (溜め息)まあ、やってみるか。
D-8874は再び立ち上がって歌い始める。 これは20秒間続いた後、スプリンガー博士に制止される。
スプリンガー博士: もういい、インタビューを終了する。
D-8874: 最初から期待してなかったさ。
<記録終了>
注釈: このインタビューの後、数回のインタビューが行われたが、D-8874から有用な情報を得ようとする試みは全て失敗した。既存のインタビュー記録を元に、有用な情報を得ようと試みる予定である。— スプリンガー博士
補遺3:
SCP-830-KOは (SCP-830-KO-2)
そのため、対象のオブジェクトクラスはKeterに再分類されました。 —