SCP-844-JP
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アイテム番号: SCP-844-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-844-JPは内部への侵入口となる排気口を封鎖したうえで定期的な監視、観察を行ってください。SCP-844-JP内への侵入は現在凍結されています。内部探索の申請には指定の手続きを行ったうえで上級研究者3名以上の承認を受けてください。SCP-844-JP内部の探索において得られた情報から発展した、要注意団体あるいは異常現象の詳細は別ページを参照してください。

説明: SCP-844-JPは██県山中に存在する廃墟です。

SCP-844-JPは現在異常性に由来すると推測される不明な原理で封鎖されています。この封鎖は現在財団が所有するいかなる道具、方法を用いても突破が不可能であることが確認されています。また、内部の視認も不可能です。唯一、備え付けの排気口は上記の封鎖が行われていない為、SCP-844-JP内部への侵入はこの排気口を経由して行われます。

SCP-844-JP内部へ侵入した場合、侵入した対象の持つGPS装置及び通信機器は全て停止します。その為、内部の情報はSCP-844-JPより帰還した侵入者の記録及び証言に依存します。現在の帰還例は後述するA.水津を主体とする1チーム3人のみであり、他の人員は行方不明扱いとされています。

前述の記録、証言によりSCP-844-JP内部には海面が広がっている事が確認されます。回収されたサンプルから海水の組成は地球上におけるいずれの大洋とも一致せず、僅かにヒトの脳脊髄液を含んでいることが確認されています。海中には後述のSCP-844-JP-2を頂点とした生態系が広がっており、その生態系も同様に地球上において確認されていません。

SCP-844-JP-1はSCP-844-JP内の海面を航行する船舶群の総称です。SCP-844-JP-1の船種は葦船、三段櫂船からプレジャーボート、高速戦艦等多岐に渡ります。これらの船舶は多くの場合航行機能を失っている、あるいは著しく破損していることが確認されますが、その状態にも関わらず通常の船舶と同様の航海が可能です。SCP-844-JP-1にはSCP-844-JP-A等の一部を除き船員が存在しませんが、自律的に後述のSCP-844-JP-2を捕獲することが確認されています。SCP-844-JP内部に陸地は確認されず、これらSCP-844-JP-1が唯一の移動手段であると推測されます。

SCP-844-JP-2はSCP-844-JP内部に存在する頭足類と推測される生物の総称です。SCP-844-JP-2は多くの場合、海面上に触腕のみを伸ばし、胴部及び頭部は水上で確認することはできません。SCP-844-JP-2は実体を持ちますが、死亡する、あるいはSCP-844-JP-1に捕獲されることで非実体に変化することが確認されます。

SCP-844-JPは異常性発現以前は本来GoI-2722"鉄錆の果実教団"の関連施設であったことが確認されています。財団による第二次襲撃作戦の対象でしたが、作戦決行直前に異常性が発現、関連していた教団員の救助要請を受け財団の収容下に置かれました。この事案により、GoI-2722の関東地域における勢力は壊滅しています。

以下は収容時、確保された教団員への聴取記録です。

インタビュー記録844-JP-1

対象: 富士 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"の幹部信者)

インタビュアー: 護良研究員

<録音開始>

(前半部は事実確認のため省略)

護良研究員: では、あのオブジェクトの挙動はそちらの意図した事ではないという事でしょうか?

富士氏: そうです。ただ、俺自身は財政や事務担当だったんで、信者って言っても詳しい事は知らないんです。だから断片的な事になりますが

護良研究員: 構いません。知っている限りの情報をお話しいただければ

富士氏: 分かりました。まずあの建物ですけど、あれは俺たちの教団の研究所みたいな場所でした。教団はなんでも儀式のときに肉? よく分かりませんけどそういうもんが出てくるらしくって。それを何かしら使えないかってことになったらしいです。それで、それなら脳味噌を作ってみてはどうかってことになったらしくって

護良研究員: 脳を?

富士氏: はい、脳味噌です。俺も聞いただけですけど、有名な人の遺伝子を肉の中に取り込んで、その人の脳味噌を再現するとかなんとか。それを好事家に売って儲けようとしてたらしいです

護良研究員: 成程、確かに著名な人物の脳となれば高値で取引される可能性もありますね

富士氏: はい、で、そちらの襲撃があるって情報が伝わってきたときに丁度脳が1つ完成しそうだってんで、俺だけとりあえず一旦逃げる手段を整えようと建物から出たんですね。で、戻ったらもう入れなくなってて。慌ててるうちにそちらが来たもんで観念したって訳です

護良研究員: そうですか。脳が1つ、と言っていましたが、これ以前にも脳は完成していたのでしょうか?

富士氏: そうですね、それ以前にもいくつか有名な人の脳味噌を作ってたらしいです。だからなんでこんなことになったのか本当に分からないんですよ

護良研究員: 分かりました。その脳に関連した資料はありますか?

富士氏: 全部建物の中だと思います。研究してた信者もその脳味噌とか肉とかも全部。俺は金庫番みたいなもんなんで、口座の番号とかそういう事だったら分かるんですけど、正直教団の儀式とか何が起こってるのかとかはよく知りませんから

<録音終了>

この証言を受け、SCP-844-JPの異常性においてそれらの脳が何らかの関連性を持つものと推測されています。また、前後して上述の侵入口が発見されたことにより、Dクラス職員及びエージェントを主体とした特別調査部隊が複数回送り込まれました。以下は帰還したチームの記録した映像、音声ファイルの書き起こしです。

探査記録844-JP-008 日付 20██/██/██

SCP-844-JP探索映像ログ-008 #1(書き起こし抜粋)

日付: ████/██/██

探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)

対象: SCP-844-JP

目的: SCP-844-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査

«閲覧開始»

[アルファ、ベータ、ガンマの3人は海面に着水している。標準装備に備えられている簡易防水装備及び救命衣を使用し、記録用ドローンを射出。周囲の確認及び信号の発信を行う]

アルファ: これより撮影と記録を開始する。ベータ、ガンマ、撮影機器と録音機器は大丈夫か

ベータ: チェック、大丈夫そうですね。防水機能はしっかりしているみたいです。もっとも、あくまで雨水や漏水用ですから早めに上陸しておきたいですね

[高度からの映像。観測できる範囲は全て海面であり、上空には満月が確認される]

アルファ: …司令部からの応答はなし。一面の海だな。夜のようだが正確な時間は分かるか

ガンマ: 不明です、GPS等位置情報の取得も失敗しました。方位磁針はまともに動いているみたいですが

ベータ: 陸地は周辺に見えませんね。緊急信号も発信しましたが、そもそもこの場所に知性を持つ存在がいるのか分かりません

アルファ: 軽く海中を調査してみたが、何処の海域だかは分からない、という事が分かったな

ガンマ: 潮流も確認されません。どうやら自分で移動するより他に方法は無いようですね

ベータ: 困りましたね。流石に海洋への装備は持ってきていません。このままだと海の上でミイラになってしまいます

アルファ: とにかく何らかの方法で陸上に辿り着く必要があるわけだ

[ドローンを用い、周囲の陸地を捜索。確認できる範囲に陸地は存在せず。ほぼ同時に海面に3m程の巨大な触腕らしきものが出現、ベータが捕獲される]

アルファ: ベータ! 発砲許可を出す!

ベータ: 何だこれ!? 蛸か!? ミズダコにしてもデカすぎやしないか!?

[ベータが触腕に発砲するも、損傷は見られず。アルファ、ガンマも援護するが徐々にベータが海面へと引きずり込まれる。海中には約10m程の影が確認される]

ガンマ: 9時の方向より何かが接近してきます! 速度は約35ノット! まもなく目視できる範囲に…、見えました!

[西の方角より船影が確認される。船影は3名及び不明な巨大生物に接近、この時点で船影はキャッチャーボートであることが確認できる。キャッチャーボートは不明生物の約50m付近まで移動し、捕鯨砲を発射する。捕鯨砲は不明生物に命中。それに伴いベータは落下、衝撃により一時的に意識喪失したと見られる。不明生物は数秒体表を変色させ死亡。同時に消滅する。ベータをアルファが回収。3人に対し船上からの呼びかけが行われる]

不明な音声: 無事かしら? とりあえず上がってきて

アルファ: あなた達は

不明な音声: 私たちはヴィヴィアン・ガールズ。貴方達の魂を救いに来たわ

«閲覧停止»


ocean.jpg

回収された映像の1つ


SCP-844-JP探索映像ログ-008 #2(書き起こし抜粋)

日付: ████/██/██

探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)

対象: SCP-844-JP

目的: SCP-844-JP内部の探索

«閲覧開始»

[アルファ、ベータ、ガンマの3人が救出された数時間後、部隊員を救出した人型実体を暫定的にSCP-844-JP-A、船舶をSCP-844-JP-1-α、不明生物をSCP-844-JP-2と定義。SCP-844-JP-Aはヘンリー・ダーガーによる作品『非現実の王国で』に登場するキャラクターの姿を模している。SCP-844-JP-Aの1人(以下、ヴァイオレット)から現在状況の説明を受ける]

アルファ: ではヴァイオレット、説明をお願いできるだろうか。ここは何処なのか、何なのか、そしてあなた達、あの巨大な蛸は何なのかを

ヴァイオレット: そうね、まず分かってることから。といっても私たちのことだけだけど。私たちはヴィヴィアン・ガールズ。アビエニアの少女戦士、だと思うわ

ガンマ: ヴィヴィアン・ガールズ。アメリカの作家ヘンリー・ダーガーの『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』、通称『非現実の王国で』に登場するキャラクターですね。では貴女はその登場人物である、と?

ヴァイオレット: だと思うわ、でもそんな色眼鏡で見られるのは嫌。私たちはあくまで私たち、物語とかキャラクターがどうとか関係ないの。そんなことは些細な事じゃないかしら

アルファ: ではここは一体どこなのか分かるだろうか

ヴァイオレット: 分からないわ。でも多分あなた達のいるべき場所じゃないと思う。あなた達の言い分だと、私たちはキャラクターだし、あなた達は読者ね? それは同じ場所にいてはいけないわ。あの"octopus reed"とも違うみたいだし

アルファ: "octopus reed"? 蛸の葦、という意味か? あの巨大な蛸のことなのか? 何故その呼び名を?

ヴァイオレット: "takoashi"、面白い響きね。私たちがそう呼ぶのは、あれが"reed"に変化することがあるからよ

アルファ: 葦に?

ヴァイオレット: 全部じゃなくて一部だけどね。話を戻しましょうか。さっきここがどこか分からないって言ったけど、多分この海はあの蛸の海よ。私たちも、あなた達も、きっと異物なんだと思うわ。これは感覚的なもので、そういう物証や根拠があるわけじゃないけれども

ベータ: 異物か。確かにそういった感覚はあるよ。…そう言えばあなた達は何でSCP-844-JP-2、あの蛸を倒していたんだ?

ヴァイオレット: そうね、まず、この廃船はあの蛸葦を捕まえよう、もしくは殺そうとするの。私たちが動かさなくても。どうせ巻き込まれるのなら、能動的に動かした方が良いでしょう? それに加え、私たちは戦い続ける必要があるからかしら。終わりのない戦い、…一応完結はしていたけども、それは望まれなかった。そんな戦いこそが私たちの舞台だし、私たちはきっとずっとダーガーと戦い続けるんだと思う

ガンマ: ヘンリー・ダーガーを、あなた達の作者をご存じなのですか?

ヴァイオレット: もちろん。ダーガーは私たちに干渉していたし、ダーガーにとっては私たちに干渉されていたと思ってるでしょうね。私たちにとって境界は曖昧だし、どうでもいいこと。ダーガーが私たちを通じて何かを見ていたのかなんて知らないし。でも、そうね、あの蛸葦の影はどこかで見ていたような気もする。私たちはダーガーの現実を侵食し、ダーガーは私たちの世界を侵食したのだけど、あの蛸も似たようなものじゃないかしら

アルファ: …つまり、あの蛸たちは、私たちの現実を侵食するということだろうか?

ヴァイオレット: 私たちは学者様じゃないから何とも。それにしても、ダーガーは死んだのに、何故私たちはこの海にいるのかしらね。あら、デイジー、え? また蛸が? それじゃあ、行きましょうか。あなた達もちょっと付き合ってくれる? そして、終ったらあなた達のお話を聞かせてね

[約10分後、SCP-844-JP-1-αの捕鯨砲によりSCP-844-JP-2への攻撃に成功。SCP-844-JP-2は映像ログ-008-1と同様に消滅するも、約30秒間イネ科の植物と思われる葉が数枚出現。回収には失敗し、消滅する]

«閲覧停止»

後の映像解析により、上述の葉はヨシ(Phragmites australis)であることが判明。これ以降、約10%程の確率でSCP-844-JP-2死亡時、ヨシが発生することが確認される。

SCP-844-JP探索映像ログ-008 #3(書き起こし抜粋)

日付: ████/██/██

探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)

対象: SCP-844-JP

目的: SCP-844-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査

«閲覧開始»

[SCP-844-JP侵入から約1週間が経過。SCP-844-JP内の詳細調査内容を確認]

アルファ: この前の嵐はひどかったな。すっかり俺たちも海の人間だ。で、調査の結果だが、どうだ、ガンマ

ガンマ: まず、上空にドローンを飛ばしてみましたが、一定の距離で停止、その先は確認できません。簡易気球や小型機でも同様の状態でした

ベータ: 水は軽く調べただけですが、一般的な海水と組成はほぼ同じですね。ただ、生物の体液らしきものが含まれています

アルファ: その分析までは難しいか。生物はどうだ?

ベータ: 確認出来るかぎり、既存の海域における生態系とは逸していますね。赤道直下の熱帯魚と北極点付近の生物が同時に泳いでいるのが確認できました。また、これまでに確認されていない奇妙な生物もいくつか。加えて言えば、陸生の生物も確認されます

アルファ: それらの生物が生息する陸地がせめて見つかればな

ヴァイオレット: 私達もずっとこの海を進んでるけど、陸地は全く見たことないわね。陸地かと思ってもあの大きな蛸葦だったり、他の廃船だったり

アルファ: どこまで広がっているかも判別不可能。帰還の目途も立たないか。あのクラーケン、SCP-844-JP-2については何か分かったか?

ガンマ: 蛸自体は、生存している状態では実体が存在します。しかし、その実体を調査したところおおよそ生物とは呼べませんでした。ここから、何らかの固定化された概念、あるいはミーム実体ではないかと推測されますね。また、データベースを調べましたが、何件か蛸をイメージとして利用する不明な概念実体の存在が確認されています。共通点としては、創作に関連し、多くの場合7・7・7・5音または5・7・5音の音数律、前者は都都逸、後者は俳句が一般的でしょうか。それらが確認される傾向にあります。財団もまだこれらを同一の存在とは確定しかねているようですが

[ガンマがクローズ端末の映像を転送。SCP-1808-JPを初めとする数種類のオブジェクトが列記されている]

ヴァイオレット: 7・7・7・5? 5・7・5? そういったリズムなのね?

アルファ: 何か思い当たることがあるのか? あなた達は私たちよりおそらくはこちらに近い。何か気づいたことだけでもあれば嬉しいのだが

ヴァイオレット: …いえ、それは、その蛸は物語を媒介として出てくるのよね。なら、物語として、言葉としてしかそれらの信号を出せないのかしら? …4つのリズムでは通じず、3つのリズムで通じる? それが1つの意味を持つとすればどうかしら?

ベータ: これが何かのメッセージだと? ううん、俺にはどうにも安っぽい自己顕示欲に感じる。なんというか、苦しいんだけどそれを表現できてないというか

[SCP-844-JP-Aらが一瞬行動を停止し、互いに視線を交わし頷き合う]

ヴァイオレット: 苦しみ? そうか、苦しみなのよ。それを叫ぶのも下手糞って訳? 私たちは呼ばれたのね、この切り取られた海に

[強い衝撃により画面が激しくぶれる。SCP-844-JP-Aらの慌てる姿と船外に伸びる2mほどの触腕が確認される]

ベータ: SCP-844-JP-2です! 隊長! 避難を!

ヴァイオレット: 待って! 私に何か音の録れるものを貸してくれない!?

[ガンマがヴァイオレットへ録音機器を投げ渡す。ヴァイオレットが渡された録音機器を触腕へ投擲。SCP-844-JP-2はそれを掴み水中へ埋没]

アルファ: 何を!

ヴァイオレット: あなたの魂を救いにいくのよ! 総員、あの蛸葦を狙って! あの蛸葦は

[キャッチャーボートから捕鯨砲が発射。SCP-844-JP-2に命中する光景が確認される]

ヴァイオレット: 私たちなのだから! 

«閲覧停止»

SCP-844-JP探索映像ログ-008-3事案後、SCP-844-JP-2に奪取されていた録音機器が回収されました。以下はその録音機器に新しく追加された音声データです。

SCP-844-JP音声ログ

SCP-844-JP探索映像ログ-008 #4(書き起こし抜粋)

日付: ████/██/██

探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)

対象: SCP-844-JP

目的: SCP-844-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査

«閲覧開始»

[SCP-844-JP探索映像ログ-008-3事案後、音声ログを確認]

アルファ: モールス信号だな。それも一番有名な奴だ

ヴァイオレット: ええ、4つのリズムであればIWNIだけど、それでは決して伝わらない。これは3つのリズムでようやく意味を持つ

ガンマ: SOS、救難信号ですね。…しかし、何故SCP-844-JP-2が救難信号を?

ヴァイオレット: それはもちろん、魂を助けてほしいからよ。貴方達にとって此処を覆っているものはただの鉄筋コンクリートかもしれないけれど、その中に脳があれば頭蓋になる。私たちがダーガーの現実に干渉したように、私たちや蛸葦は頭蓋と脳の間で生まれ、そして、廃船にも捕まらなかった、救われなかった蛸がきっと干渉するんじゃないかしら

アルファ: …つまり、脳が施設の中に密閉されることで、施設が頭蓋骨と解釈された、と? ではこの海は特殊概念、あるいは攻撃的概念の存在する海というだけではなく、人体に起因するということか?

ヴァイオレット: 多分だけど、それを切り取った…、スナップ写真、コラージュみたいなものだと思うわ。でないと私たちもあの蛸になっているから。きっと貴方達の脳と頭蓋の間にもこの海は広がっている。でも、それはきっと違う海。もっと曖昧で、もっと捉えどころがない。ここはあくまで、誰かの解釈によるものだと思う

ガンマ: 無意識領域下、深層心理の海であり、そこに抑圧された存在がSCP-844-JP-2。それを1つの形にしているのがこの海であると? 葦に変化するのはパスカルの影響でしょうか? また、これまでの事案はSCP-844-JP-2がこの海に収まらなくなった結果? 少なくともこの異常な海面に起因するものであるという推測は可能かもしれません。もう少し正確な計測機器があればよかったのですが

ヴァイオレット: そこまでは分からないわ。でも、私たちはこの切り取られた海に迷い込んできた誰かの蛸を、沈めるのではなく、生き永らえさせるのではなく、倒す必要がある。救いを求める叫びさえ満足に出せない魂を救うためにここで戦っているんだわ。私たちやこの廃船もまた蛸なのだけど、私たちはこれ以上大きくならないから。そして、この切り取られた海なら、貴方達を抜け出させることが出来る

アルファ: つまり、帰還の方法があると?

ヴァイオレット: ええ、この海に浸る脳なら救えるわ。ブレンゲン!

[映像が激しく歪み、人型及びいくつかの生物実体と推測される存在が確認される。映像の著しい異常により以降、音声のみ]

ベータ: 何だこりゃ!? 化物!? 映像に映らないぞ

ガンマ: ブレンゲン、『非現実の王国で』に登場する生物ですね

ヴァイオレット: 貴方達は頭蓋の中に落ちた、ならばその孔があるはず。そこへ向かわせるわ

アルファ: しかし、これまでの調査でそんなものは

ヴァイオレット: ええ、これまではね。でも私たちはヴィヴィアン・ガールズ。ならばこの物語には私たちが干渉する。私たちが"ある"と言えば"ある"のよ。貴方達が観測してくれる以上。だから貴方達は帰らなくてはならないわ。ブレンゲン、ちゃんと送り届けてね

アルファ: 待て、貴女達は

ヴァイオレット: 私たちはこの海で戦い続ける。SOSに、"Save Our Soul"に応えるために

アルファ: 貴女達はそれでいいのか? この海の中で

[多数の笑い声が確認される。徐々にそれらが遠ざかる]

SCP-844-JP-A: ええ、構わないわ。何度だって立ち上がるし、何度だって戦ってみせる。私たちは現実の貴方達を救うことはできないけれど、応えることはできる。私たちは孤独の中に生み出されて、苦しみを糧に大きくなった。望まれずにいつまでも付け足し、書き続けられた。叫ぶために、今見ている世界をパッチワークのファンタジーに留めるために。でも、私たちは貴方達のヒロインじゃない。あの蛸も貴方達のヴィランじゃない。だからこそ、貴方達は、貴方達で救われるべきよ!

[風を切る音が響く]

SCP-844-JP-A: 私たちはヴィヴィアン・ガールズ! 貴方達の魂を救わせてあげるわ!

«閲覧停止»

████/██/██、上述の排気口より特別編成部隊が脱出に成功。上述の情報の回収に成功しました。これ以降の探索はいずれも人員の未帰還という結果に終わっています。

補遺: 上述の探査以降、財団の補足した人物において『非現実の王国で』に起因すると推測されるアイデア、イメージの観測例が僅かに上昇していることが確認されています。これらの創作者は多くの場合創作を行っており、これまでに確認された不明な概念実体の出現パターンと一致することが確認されています。これを受け、現在財団内では暫定的に"蛸葦廃船"の名称を用いこれらの概念実体群を定義しています。

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