SCP-8585

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アイテム番号: 8585
レベル2
収容クラス:
neutralized
副次クラス:
none
撹乱クラス:
dark
リスククラス:
notice

特別収容プロトコル: 夢界の分析と、失踪に先立つ数ヶ月間の健康診断結果を総合し、SCP-8585は2028年1月24日付で死亡したものと認定されました。更なる収容プロトコルは不要です。

説明: SCP-8585は大柄なスラヴ系高齢男性に似たヒト型実体です。最初に財団の注意を引いて以来、彼の身体的特徴は一貫していませんが、常に“輝いている”、もしくは頭部の周りに光輪が生じていると表現されています。

SCP-8585は典型的に太陽崇拝教団と強く関連付けられるスラヴ神話の神格、ダジボーグを自称しています。1 彼は外見よりも遥かに高齢で、複数の歴史的文献で言及されており、西暦940年まで遡る詳細な歴史の知識を示します。


補遺8585.1: 特筆すべきSCP-8585目撃事例の一部リスト

日付 場所 容姿 注記
西暦940年頃 キエフ大公国 ドレヴリャーネ族に夫を暗殺されたキエフ大公妃オリガの伝説的な復讐の際も含めて、スラヴの統治者たちの複数の凱旋式に現れた際、チュニックに太陽型の記章が“細密に刺繍されていた”と記録されている。 ダジボーグの出現は、キリスト教伝来以前のスラヴ史を記録した数少ない文献の1つ、“原初年代記” (別名“過ぎし年月の物語”)2 を転写した“ラヴレンチー写本”で詩的に暗示されているだけである。しかし、修道士ラヴレンチーが西暦11世紀に著した完全な原文だと推定されるSCP-7028-3実例では、ダジボーグの出現は明示されており、ウラジーミル1世がキリスト教に改宗する場に立ち会って以降、“数世代にわたって”キエフ大公国で目撃されなかったとしている。留意すべき点として、この一節は現存する全ての非異常な写本から完全に削除されているが、スラヴの宮殿に彫られた (つまり常に王宮に存在していた) 様々な彫像には、ダジボーグへの誌的な祈願文や記述が残されている。
西暦1569年1月 ポーランド共和国、ルブリン “光り輝く黄金色の髭を蓄え、太陽が鮮やかに織られたチュニックを身に着け、傍らに大振りの戦槌を携えた、聳え立つような男”と描写されている。 ミコワイ・ラジヴィウ3の個人秘書の私的な記録から特定された。秘書はSCP-8585との短い会話を交わし、彼の“風格と迫力”に強く感銘を受け、“例え一瞬と言えども、聖人か神の御前に居た”のだと信じていた。
西暦1917-22年頃 フランス、パリ 複数の東欧の言語に加えて、フランス語、英語、ドイツ語を流暢に話せる、著しく長身の丸太りした男性として描写されている。通常は控えめな態度だと報告されているが、しばしば“刺し貫くような眼差し”で一部の人々、特にロシア王室関係者を不安にさせたとも述べられている。 数年間にわたり、一部のエミグレ4が著した多様な書簡や回顧録において、大抵は“ホルス・スヴィトロ”5という偽名でパリの社交界に参加していたと記録されている。この期間、容姿は一貫していたが、1921年から1922年にかけて目撃例は激減した。亡命者コミュニティの特定の社交行事に招待されなくなったことが仄めかされているが、明確には述べられていない。
西暦1933年4月 アメリカ合衆国、ニューヨーク こめかみに白髪の兆候が初めて確認されたが、髭は鮮やかなオレンジ色のままである。人と会話していない時は、やや巻き肩で猫背に見えるが、話しかけられるとすぐに姿勢を正す。太い黒縁の度付き眼鏡をかけており、髭は過去の描写よりも整えられている。 財団とSCP-8585の最初の接触。ボルステッド法6廃止の祝賀パーティーに参加していたが、陰鬱な様子で他の参加者たちから距離を置いていたことが注目された。
西暦1967年6月 アメリカ合衆国、サンフランシスコ 頭髪と髭はどちらも“白髪交じり”という描写が相応しい状態だが、観察者たちはその特徴や言動を“活発で生気に溢れている”と表現した。生物化・理想化された太陽がサングラスをかけ、“サムズアップ”の身振りをしている絵柄の鮮やかな赤いシャツを着用している。 “サマー・オブ・ラブ”ムーブメント7の最中に複数の場所で目撃されており、とりわけトンプキンス・スクエア・パークで様々なコンサートに立ち会った他、ムーブメントの最盛期には無料診療所の運営を支援した。
西暦1991年12月 アメリカ合衆国、ニューヨーク 頭髪も髭も完全に白くなったことをSCP-8585自身が認めている。身長がやや縮んだように見えるが、肩幅はまだかなり広い。SCP-8585が理想化された太陽の図像を直接見える場所に帯びていない最初の事例だが、写真撮影用の背景ボードには類似の記章が幾つか描写されている。 SCP-8585はロード&テイラー百貨店で“サンタクロース”として働いていた。財団エージェントが接触した際、SCP-8585は“子供たちの笑顔を見るために”そうしており、それ以上は何も必要としていないと述べた。
西暦2025年2月 イギリス、ロンドン 姿勢はかなり猫背になり、巻き肩が目立ち、体重が著しく減少し、生え際が数インチ後退した額には加齢による染みが複数生じている。 SCP-8585の全般的な健康状態への懸念が高まったため、収容プロトコルは更新され、自由な移動範囲が縮小された (具体的にはサイト-58近郊のペンシルベニア州ナンティコーク地域内のみ) 。

補遺8585.2: 事件報告

2027年12月23日、SCP-8585が収容プロトコルの一環として定められた地理的境界を離れたことが判明しました。SCP-8585は追跡され、ペンシルベニア州ナンティコークから東に向かっていると報告されました。異常大使部門のエージェント バジル・サイアスが、SCP-8585を妨害し、可能であれば再収容するために派遣されました。エージェント サイアスはデラウェア川北岸の民間港で、ニューヨーク州ニューヨークへ向かう南行きの船に乗り込もうとしていたSCP-8585を発見することができました。以下はエージェント サイアスのボディカメラに記録された当時の交流です。

[記録開始]

エージェント サイアスが乗船券の購入を待つ民間人の列に近付く。SCP-8585は人混みの中からすぐに発見される。エージェント サイアスと目が合い、SCP-8585は顔をしかめる。エージェント サイアスは手を振って応じ、人混みに紛れてSCP-8585を脇に連れ出す。彼はSCP-8585を民間人から引き離し、造船所の人目に付かない場所へと案内する。

サイアス: まず最初に、君をあんな風に引きずり出したのを謝りたい。いつものプロトコルなのは分かってるんだが、毎回気分が悪くなる。

SCP-8585: いや… 別にいい。

SCP-8585は重苦しい溜め息を吐く。

SCP-8585: どっちみち無駄足なのは分かってた。君たちは遅かれ早かれ必ず追い付く。

サイアス: 家から少々離れたようだね、ダズ。どうしてわざわざここまで遠出したんだ?

SCP-8585は片方の袖をまくる。肩に位置する拳大の肉が歪曲し、薄れているように見える。

サイアス: ダズ…

SCP-8585: これが何を意味するかはお互い承知の通りさ、サイアスくん。

SCP-8585は桟橋の端へと歩いていき、座る。SCP-8585は隣の床を軽く叩く。エージェント サイアスが歩み寄って隣に座ると、SCP-8585はタバコを取り出して点火する。

SCP-8585: 吸うかい?

サイアス: いやいや。まぁ、子供の頃はちょっと手を出したけどね、今はもうやらないんだ。

SCP-8585は肩をすくめる。

SCP-8585: ご勝手に。

SCP-8585はタバコを深く一服し、煙を吐き出す。

SCP-8585: 昔はこうなったら怖がるだろうと思ってた。

SCP-8585は煙を手で払う。

SCP-8585: 今はもうそんなに怖くないんだよ。多分、しばらく前からこうなる予感がしてたおかげだな。

サイアス: 君のバイタルサインはここ何年も全て正常だと報告されている。どうしてそう言えるんだ?

SCP-8585は胸を叩く。

SCP-8585: 感じるのさ。内側に。神であることの一部は、自分を称え、何かを願ってくる沢山の人々のちっぽけな声が耳の中でこだまするのを聞くことだ。新参の神々は延々と続く囀りで気が狂いそうになるが、歳を取るとそれが慰めになっていく。自分は覚えられている、必要とされている!

SCP-8585は再びタバコを深く一服する。

SCP-8585: 囀りが消え始めても最初は気付かない。何しろあんまり声が多いから、一つ一つの音までは聞き分けられない。だが、年月が経つにつれて、合唱がだんだんと静かになっていくのに気付き始める。訊かせてくれ、サイアスくん、耳に全く声が届かなくなった神はどうなると思う?

エージェント サイアスは少しの間、無言で水平線を見つめている。

サイアス: …消滅する。

SCP-8585はエージェント サイアスの背中を手で叩き、危うく彼を川に叩き落としそうになる。

SCP-8585: その通り! そう、消滅するんだ。ポンッ!ってな感じで煙と灰が舞い散る。もはや望まれず、必要とされない。崇拝は神を生かす。崇拝こそが何かを神聖にする。

SCP-8585は再び重苦しい溜め息を吐く。

SCP-8585: 俺は15世紀からずっと合唱らしいもんを聞いてないんだ、サイアスくん。今じゃ声はますます小さくなって、俺のことをほんの束の間想起するごく一握りの連中の声しか聞こえない。

SCP-8585は含み笑いする。

SCP-8585: そんなことはあり得ないと考えてた時期もあった。消える? 俺が? 俺はダジボーグだぞ! 俺こそが陽の光だ! だが太陽さえもいずれは夜に消えるんだよ、サイアスくん。

SCP-8585は水平線に目をやり、太陽が沈むのを見つめる。

サイアス: じゃあ、どうするつもりだった?

SCP-8585: 昔の国に帰りたかったのさ、サイアスくん。どうせ死ぬなら、異国の地より故郷で死にたかった。自分自身を最後に労ってやろうと思ってな。人は俺を覚えていないかもしれないが、だからって俺があいつらを忘れたわけじゃない。

2人はしばらくの間、太陽が沈み切るまで無言で座っている。やがて、SCP-8585が上を見上げる。

SCP-8585: 星は好きかい、サイアスくん?

サイアス: ああ、好きだよ。昔の友達を思い出す。

SCP-8585: 若い頃の俺は気にも留めなかった。俺みたいに眩く光り輝こうとしやがって、なんて図々しい連中だ! それに月だってそうだ、俺の光を使って美貌をひけらかしやがって! ハッ、とんでもなく了見の狭い若造だったよ、俺は。今じゃ夜に星を見ることさえできない。人間の作る光にいずれどっちも凌駕されると分かってたら、もっと星を愛でていただろうな。

サイアス: 都会を離れれば、まだ星は見えるよ。父はよく、海の真ん中で見る空は美しいと言っていたし、田舎に行くと空の本来あるべき姿をほぼそのまま見られるんだ。君の若い頃と同じではないだろうが、それでも美しい。

SCP-8585は含み笑いする。

SCP-8585: 是非とも見てみたいもんだ。

SCP-8585は咳込んでタバコの火を消し、エージェント サイアスは立ち上がる。エージェント サイアスは手を差し伸べ、SCP-8585が立つのを助けようとする。SCP-8585は手を払いのける。

SCP-8585: ふん、自力で立てる。

SCP-8585は立ち上がるのに苦労している。しばらくして、エージェント サイアスは再び手を差し伸べる。SCP-8585は手を取る。

SCP-8585: 俺にも若い時期があったもんだ。屈強な肉体美を誇り、しかも男前だった! 頑固なプライドに別れを告げる時が来たらしいな、え?

SCP-8585は水平線を一瞥する。SCP-8585とエージェント サイアスはしばらく佇み、日没を眺める。

SCP-8585: じゃあ、そろそろ帰るか。

エージェント サイアスは身を屈め、SCP-8585の足首に装着されたGPS追跡装置に手を伸ばす。

SCP-8585: サイアスくん…?

エージェント サイアスは追跡装置を外す。

SCP-8585: いったいどうした?

サイアス: 君が消えるのを止められなかった時点で、財団は既に失敗した。君を生かし続けるためにもっとできることがあったのに、そうしなかった。今、私たちにできるのは、君に望み通りの死に方をさせることぐらいだ。

SCP-8585: …そうか。

SCP-8585とエージェント サイアスは頷き合う。

SCP-8585: …ありがとう、サイアスくん。君の親切がいつまでも記憶に留められますように。

サイアス: きっと忘れられるだろうが、それでいいんだ。さようなら、ダズ。故郷の星々が美しくありますように。

SCP-8585は微笑み、歩き去る。エージェント サイアスは車両に戻る。

[記録終了]

上記の記録から1ヶ月後、サイト-58に差出人住所の無い1通の封筒が届きました。中にはエージェント バジル・サイアス宛の葉書が封入されていました ー 表面には風景を広角撮影した写真が印刷され、裏面には“本当に美しかった”という手書きのメッセージが記されていました。

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サイト-58に送付された葉書の表面の画像。この写真はウクライナ領内のカルパティア山脈のどこかで撮影されたものと思われる。

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