SCP-8586
評価: +29+x

アイテム番号: 8586
レベル4
収容クラス:
euclid
副次クラス:
{$secondary-class}
撹乱クラス:
vlam
リスククラス:
notice

cairn.jpg

1987年、8586-CHARONイベント直前のラックラン・ケアンズ博士。

特別収容プロトコル: SCP-8586はグレイブウォッチ・プロトコルに従って収容されています。グレイブウォッチの規定に基づき、ケアンズ博士は毎月の医療評価と、実行可能であれば転移現象の発生直後の追加分析の対象となります。現在まで、ケアンズ博士はこれらの評価に対して完全な協力的姿勢を示しています。

特権を撤回する必要が生じるまでは、ケアンズ博士はSCP財団内での職務を遂行し続けることを認められています。

説明: SCP-8586はSCP財団の人事部門長、ラックラン・“ラック”・ケアンズ博士です。ケアンズ博士は1980年に次席研究員として財団に勤務し始め、1981年に一般研究員、1983年に上席研究員、1986年に博士職員へと昇進しました。彼は故 アンセル・ケアンズ博士とリリアン・ブランド=ケアンズ博士の息子です。彼はまた、アイリーン・ラメント博士と結婚し、彼女が1987年に死亡するまで夫婦でした。

8586-CHARONイベントの結果、ケアンズ博士は機能的不死者になりました。宿っている肉体が死亡すると、ケアンズ博士の意識は短い移行期間の後、最も近い死体の中で再度覚醒します。この転移現象には距離の制限が無いようであり、死後24時間以内の哺乳類でさえあれば、新しい肉体の特殊性も考慮されません。ケアンズ博士は過去複数回、死後間もない人間の死体だけでなく、財団サイトで実験に使用されたウマ、類人猿、ネズミなどの動物の死骸にも転移しています。

特筆すべきことに、SCP-8586は生後33年244日 - 8586-CHARONイベント当時のケアンズ博士の年齢 - 未満の人間の死体や、人間換算で同等の年齢よりも若い動物の死骸には転移できないようです (しかしながら、この特性の詳細は十分に理解されていません) 。

SCP-8586の新しい宿主となった死体は蘇生し、再び活力を得て、死亡する直前までの容姿と健康状態を取り戻します。しかしながら、SCP-8586はこの活力を長期間保つことはできず、一定期間が経過すると肉体が急速に劣化し始めます。この現象はケアンズ博士に著しい苦痛を引き起こします。SCP-8586が蘇生後の肉体を維持できる期間は、死亡する以前の年齢や健康状態といった幾つかのファクターに依存するようです。SCP-8586が単一の肉体を自然に維持できた最長期間は86日です1

SCP-8586が宿った死体は、ケアンズ博士の意識によって動かされる点を除いて、本来の特徴を保持し続けます - ただし、唯一の例外として、肉体の右目が1枚のエフェソス起源のエレクトロン貨に置換されます。この硬貨はかつてSCP-███に指定されていましたが、8586-CHARONイベントに続いて無力化しました。この硬貨をSCP-8586個体の目から除去すると、SCP-8586の肉体は即座に腐敗し、硬貨は消失を経て次の肉体の右眼窩に再出現します。

補遺8586.1: SCP-███

coin.jpg

SCP-8586の眼窩にあるSCP-███に刻印されたルーン文字の解析。(A)は対話、(B)もやはり対話、(C1)と(C2)は長距離の移動(旅の始まりと終わり)、(D)は支払い、(E)は魂または自己を表す。(F)は未完成のルーン文字。

SCP-███2、コードネーム “渡し賃” は2枚のエレクトロン貨3であり、死後間もない人間の両目の上に置くと、硬貨が動かされない限り、一時的に死体を蘇生して発話能力を付与する異常性を帯びていました。SCP-███の本来の所有者 - マーシャル・カーター&ダーク社系列のクリアリングハウスと提携していた異常工芸品収集家、ヴラデク・モルジン - は、これらの硬貨が死者との会話を可能にすると信じていました。SCP-███の研究は8586-CHARONイベントで中断されたものの、初期の調査結果からは、死体の発話を引き起こす力は単純に故人の模造意識を生成しているだけだと示唆されていました4

ケアンズ博士はサイト-17の主任生物学者としてSCP-███へのアクセス権限を有し、SCP-███が蘇生した被検体の身体組織に及ぼす影響を研究していました。8586-CHARONイベント以前に、ケアンズ博士は幾度か、配偶者である異常古代遺物の専門家、ラメント博士の意見を仰いでいました。

サイト-17 異常生物学研究
テストケース 音声書き起こし


[記録開始]

ケアンズ: じゃあ始めるか。最初の被検体はD-21421、旧称 ダイアン・W・イェーツ - 成人女性、38歳。死因は頸部への鈍力外傷。

A. ラメント: 記録のため、被検体は既に死亡していることを述べておく。

ケアンズ: (笑う) ああ全く、そうでなきゃ困るよ。準備はいいか?

A. ラメント: 始めよう。

ケアンズ: 良し。今からコインを被検体の目の上に配置するぞ。

(短い沈黙。鋭く息を吸い込む音が聞こえる。)

D-21421: 何が起きた? ここはどこ?

ケアンズ: 君の名前を教えてくれるかな?

D-21421: あんた誰? これどういうこと?

ケアンズ: 君が少々動揺しているのは理解しているが、どうか落ち着いてもらいたい。名前を教えてくれ。

D-21421: お… 覚えてない。自分が今どこにいるか分からない。

ケアンズ: 思い出せる最後の記憶は?

D-21421: 私は… 暗かった。それから… 首、私の首はどうなってるの?

ケアンズ: 成程。死ぬ前に誰か、他人とやり取りしたのは覚えているか?

D-21421: なんにも見えない。目の上に乗ってるのは何? こいつらは何者?

ケアンズ: “こいつら”?

D-21421: お願い、これを外して! 外してよ! こんなのおかしい! 助けて! お願い、誰か助けて!

(ラメント博士がSCP-███を被検体の目の上から除去する。被検体は不活性化する。)

ケアンズ: おい、何のつもりだ?

A. ラメント: ちょっと、止しなよラック。君だって、彼女からこれ以上聞き出せないのは分かってたでしょ。他の連中とおんなじ。

ケアンズ: うぅーん。まぁその通りかもしれないよ。でも妙じゃないか。君はどう解釈する?

A. ラメント: 他の被検体と変わらない。身体のすぐ傍にある物や、明白な肉体の状態以外では、具体的な質問に全く答えられなかった。これは死者蘇生じゃなくて、別な現象だと思う。

ケアンズ: そうかな。何かを見落としてる気がするんだよ。とにかく何かが語ってはいるんだ。 (合間) ところで君が調べてたルーンはどうだった? 進捗はあったかい?

A. ラメント: 実はあった。これを見て - (書類をめくる音) - これは発話を示すルーン、この上のやつね、これは筋が通ってる。それからこっちのは“霊魂”か“自己”のどっちか。でも、これに着目してほしい。見覚えはある?

ケアンズ: どれどれ。 (合間) こりゃあ… “旅”かい?

A. ラメント: その通り。具体的には、ある場所から遠く離れた別な場所への旅だね。だけど厳密には、私たちが慣れ親しんだ類のルーンじゃない。これはただの単語で… まあ、古典的な意味で言うところの領収証レシートでよく見かけるけど、どこか遠くからその地域に運ばれてきた品物を表すときに使われていたんだ。

ケアンズ: 興味深いね。

A. ラメント: 他にもある。これは渡し守が関わるギリシャ神話よりも古代のコインだから、この“通行料”のルーンが何を意味していたにせよ、それは… 何か違うものを指していると思う。

ケアンズ: 或いは、誰か。

A. ラメント: そう。或いは誰か。

ケアンズ: じゃあ、この最後のはどうなんだ?

A. ラメント: これは… 私もお手上げ。細心の注意を払って彫り込まれたのはどう見ても明らかなのに、完成してない。面白いよね - まるでわざと作業の余地を残したみたいじゃない? コインの他の部分みたいに素材を削り取らないで、別のシンボルを刻み込む余白があるのに、作り手はそれを手付かずのままにした。

ケアンズ: 非常に興味深いね。

A. ラメント: もう1枚のコインに彫られたのと同じような若返りのルーンかとも思ったんだけどね、半分しか彫られてないんじゃ全く解読できない。ここに工具の跡があるから、作業を開始したけど終わらず仕舞いになったんじゃないかと思う。 (合間) 私のプロとしての見解をご所望かな、ケアンズ博士。

ケアンズ: 君を呼んだのは面白い談話のためだけじゃないんだよ、ラメント博士。

A. ラメント: 利口な子。さて。私のプロとしての見解では、これは未完の儀式だね。これらがそもそも何をする予定で、作り手が誰と交信するつもりだったのかはともかく、未完成。本来の目的は推量するしかないけど、正常に機能しているとは思えない。

ケアンズ: そして、俺たちと対話してるのが実際の死者だとも思わないってことか。

A. ラメント: その疑問は隠秘学オカルト研究部門に任せた方が良いね。チャールズと話してみた? 彼ならあの部門に顔が利くかもよ。

ケアンズ: あー、でもおっそろしく退屈な男なんだよな。あいつのオフィスに入るだけで3枚綴りの書類を書かなきゃいけない気分になるんだ。

A. ラメント: 可哀想に、こき使われちゃって。

ケアンズ: からかってるだろ、お嬢さん。

A. ラメント: お嬢さん? あのね、私には異常古代遺物学の博士号があるんだけど。お嬢さん博士って呼んでほしいかな。

ケアンズ: 忘れられるわけがない。

A. ラメント: こういうのはどうかな。来週、私はカナダに行って、アレクシーが湖の近場で発掘された遺物を評価するのを手伝う。戻ってきたら、一緒にチャールズとお喋りしに行く予定を組もう。

ケアンズ: 有難い。てっきりアルトと一緒に行けと言われるんじゃないかって心配してた。

A. ラメント: それでもいいけど。それとも私の弟にする?

ケアンズ: アルトとトロイのどっちかが同行者で、相手はチャールズ? 自殺って選択肢はあるかな?

A. ラメント: その必要は無いよ、ツイてるね。ところで、そのレコーダーは切った方がいいんじゃない。死体の横で雑談してたなんて知られたら面倒だよ。

ケアンズ: おっと、全く -

[記録終了]

補遺8586.2: 8586-CHARONイベントの背景

8586-CHARONイベントは1987年12月21日、ケアンズ博士が前述したSCP-███を使用し、死後間もないアイリーン・ラメント博士の蘇生を意図したと思しき無許可の実験を行った後に発生した事件です。ラメント博士は事件発生の10日前にSCP-354の予期せぬ活性化によって死亡し、彼女の死はケアンズ博士に重大な影響を及ぼしました。

監視カメラ映像は、ラメント博士の死から8586-CHARONイベントまでの間に、ケアンズ博士が記録を付けずにSCP-███を複数回持ち出していたことを示します。当時まだ小規模だったサイト-17では比較的緩い保安プロトコルがまかり通っており、これらの行動が即時の保安職員の介入を招くことはありませんでした、唯一の例外は、ケアンズ博士と、機動部隊イプシロン-11 “九尾狐” 隊長 トロイ・ラメント - アイリーン・ラメント博士の弟であり、ケアンズ博士の義弟 - の会話記録 (後日回収) です。この会話は8586-CHARONイベントの終了後、サイト-17の全ての監視カメラ映像の徹底的な検証が行われるまでは表沙汰になっていませんでした。

サイト-17 保安端末
回収された映像記録 書き起こし


[記録開始]

T. ラメント: - ここに居ちゃダメだって言ったじゃないか。健康に差し支えるぞ。

ケアンズ: 放っておいてくれないか? 俺は仕事をしてるだけだ。

T. ラメント: 冗談は止せ、ラック。君がこれを記録してないのも、そのオブジェクトの能力も分かってる。

ケアンズ: 書類を提出しないから俺に説教するのか? もっとマシな時間の使い方があるんじゃないのか?

T. ラメント: なあ。これが何なのか、僕が理解してないように振る舞うのは止せ。

ケアンズ: これが何か? これは俺たちの仕事だ、トロイ。俺たちが取り組む業務だよ。俺はこのブツが… 財団が追求すべき現象を起こすのをこの目で見てきた。それこそが仕事だろ?

T. ラメント: 厳格に監督された制御下の環境でなら、そうさ。でもそれは君が今やろうとしてることじゃない。

ケアンズ: いちいち監督者に弁明なんか -

T. ラメント: 監督者に弁明しなければ、いずれ -

ケアンズ: (突然激昂する) 彼女は俺に話しかけたんだ、トロイ。俺の名前を呼んだ。今までそんなことをやってのけた被検体はただの1体もいなかった。分かるか? 何か違うことが起きてるんだ、そしてもし変化があったのなら理由を知りたい。俺は科学者だぞ、クソッたれ、彼女が -

T. ラメント: (話を遮る) 君は -

ケアンズ: (話し続ける) - 土の下で朽ち果ててる間、この組織のメカニズムが、仲間内でも最高の科学者の1人を生き返らせるべきかどうかを決めるっていう基本的な尊厳を -

T. ラメント: ラック。

ケアンズ: (話し続ける) - 恐れ多くも俺たちに与えてくださるのをじっと座って待つなんてことは絶対にしない!

T. ラメント: 姉さんは逝ってしまったんだ。

ケアンズ: 彼女はどこにも逝っていない、トロイ。もし俺が正しけりゃ、誰もどこにも逝っていない。分からないのか? 俺が正しけりゃ、俺たちはもう誰一人失わずに済む。この組織はひたすら奪って奪って奪い続けて、誰一人として返しちゃくれないと、これまで俺たちはそう信じてた。でも俺の確信はもうそれほど強くない。

T. ラメント: それは僕たちの仕事じゃない。

ケアンズ: じゃあ俺たちの仕事は何だ? 暗闇の中で死ぬことか? 死ななくてもいいなら、なぜ死ぬ必要がある? 今やっている作業を続けた方が、俺たちにとっては良いんじゃないのか? 彼女が… もし… もし彼女が…

T. ラメント: ラック。

ケアンズ: (合間) 別れを告げる機会すらなかった。彼女が氷の上で死んで、怪物どもが身体の中に巣食っていた時、俺は… 俺はのんきに朝飯を食ってたんだ。こんな人生は続けられないよ、トロイ、俺はこのままじゃ満たされない。このコインを作った奴は何かを知ってたに違いない、ただ方程式を完成させられなかっただけだ。俺は完成させられる。完成させてみせる。

T. ラメント: 誰も永遠には生きられない。

ケアンズ: それはどうかな。

T. ラメント: 厳しい処罰を受けることになるぞ。

ケアンズ: (合間) もし俺が正しけりゃ、それだけの価値がある。

[記録終了]

1987年12月21日の夜、サイト-17の遺体安置所で、葬祭主任 ウェンデル・バーンズ博士が警報を鳴らしました。保安チームが警報に対応したところ、遺体安置所に保管されていた39体の死体が突如として一斉に蘇生し、叫びながら暴力的な自傷行為や他の死体への攻撃を開始したことが判明しました。アーカイブ映像はこれらの死体が全てSCP-8586個体だったことを示しており、その証拠として各死体の右目にSCP-███が存在しました。

保安チームはSCP-8586個体群に発砲し、問題なく短時間で排除に成功しました。8586-CHARONイベントの後、遺体安置所からラメント博士の死体が紛失していることが確認されました。ラメント博士と共にSCP-354の研究に取り組んでいた上席研究員 アレクシエン・コンドラキは通知を受け、エージェント トロイ・ラメント及びケアンズ博士との連絡を試みました。エージェント ラメントは当時サイト内にいましたが、ケアンズ博士が電話に出ないことを受けて、エージェント ラメントとコンドラキ博士の2人が保安チームを引き連れ、サイト-17生物学棟の地下へ向かいました。

地下のバイオマター処理研究室の施錠されたドアを強引に突破した後、対応チームは著しく腐敗したケアンズ博士の死体と、極度の精神的苦痛を示しているSCP-8586個体 - 蘇生したラメント博士の肉体 - を発見しました。

サイト-17 保安端末
回収された映像記録 書き起こし


[記録開始]

コンドラキ: 一寸先も見えねえぞクソ、誰か電気点けてくれねえか? あの音は何だ? ガス漏れか?

(室内が点灯される。)

コンドラキ: ありがとよ、じゃ - なんてこったい。

保安主任 フィールズ: まず室内の安全を確保する。ほら、ボーっと見てないで動け

T. ラメント: アイリーン?

コンドラキ: 生きてる? どうしてこんなことが? ラックに何が起こった?

SCP-8586: トロイ、すまない -

コンドラキ: 誰か医療班をここに呼んでくれねえか? ヤバいぞ!

T. ラメント: …ラック?

コンドラキ: (合間) ラック? なんで… (合間) お前、何をした?

SCP-8586: ダメだ… 無理だった… 頑張ったのに…

保安職員 デイヴィス: おい、戻ってこい!

保安主任 フィールズ: 誰かそいつを捕まえろ!

SCP-8586がバイオマター焼却炉に足を踏み入れる。

コンドラキ: トロイ、引き留めろ!

ラメント: あ…

SCP-8586: すまなかった。すまなかった。

職員らが取り押さえる前に、SCP-8586がドアを閉鎖し、焼却炉が直ちに施錠・起動する。大勢の声が同時に話している間、SCP-8586のくぐもった叫び声が聞こえる。

[記録終了]

10分後、保安チームはサイト-17医療棟の死体保管クローゼットから、新たなSCP-8586個体を回収しました。SCP-8586は評価に先立ち、臨時収容ユニットに拘留されました。

補遺8586.3: 8586-CHARON 事後報告書

以下は、8586-CHARONイベントに関与した人々への一連のインタビューの抜粋であり、元々は8586-CHARON事後報告書にまとめられたものです。

質問者: アガサ・ライツ博士
回答者: 保安主任 ジェフリー・フィールズ


ライツ: あなたのチームが最初に警報に応じた時のことを教えて。

フィールズ: 21:10頃に遺体安置所から連絡を受けて、6分程度でそこに到着しました。着いた時は既に血の海でした。私が発砲命令を下しましたが、一部の職員にとっては辛いことでした。数週間前の058の収容違反で殉職した隊員が2名、あそこに安置されていましたからね。彼らをもう一度死なせるのはかなり難しかったと思います。

ライツ: どうして分かったの、あれが全て、その…

フィールズ: ケアンズ博士だったかを? いいえ、事後まで何も知りませんでした。しかし、彼らが死んでいたことは知っていました。私はこの職務をしばらく前から続けています - 死んだものは死んだままであるべきです。死をごまかそうとしても、ろくな結果にはなりませんよ。


質問者: アガサ・ライツ博士
回答者: アレクシエン・コンドラキ博士


ライツ: あなたはどうしてケアンズ博士の居場所が分かったの?

コンドラキ: 俺は分からなかった。トロイが知ってたんだ。前にもラックとあの件を話してたんじゃねえかな。もちろん取り乱してたが、何かが起きたこと自体に驚いたというより、その深刻さに肝を潰したようだった。自動車事故の後でアスファルトにへばり付いた死体を見るような感じだな。事故は嫌なもんだが、肉で出来たクレヨンみたいにズタズタに裂けた人体はまた別の -

ライツ: アレクシー、止めて。これは記録に残るのよ。

コンドラキ: つまり俺が言いたいのは、トロイは裏事情を知ってたはずだってことさ。ラックのオフィスに向かうのかと思いきや、地下室に直行だぜ。あいつが真っ先にドアをくぐったんだ。

ライツ: 現場の状況を説明してもらえるかしら?

コンドラキ: 現場? 凄惨だった。いやその、お前も遺体安置所の死体は見たよな? あれをラックラン・ケアンズの姿で想像してみろよ。死体を消耗し尽くした後に例のコインがやることは、お世辞にも綺麗とは言えねえ。ドロッドロの肉と腐った骨と -

ライツ: アレクシー。

コンドラキ: 何だよ? お前が訊いたんだぞ。

ライツ: まあ、そうだけど… 普通、同僚をそこまで言う? 私たちの友人よ。

コンドラキ: 俺は正直、どうして皆がここまで大騒ぎしてるか分からないね。誰も怪我しなかっただろ? アイリーンはとっくに死んでる、遺体安置所の奴らも全部死体だ。実際に死んだのはラックだけで、奴はそれを平然と受け入れてるように見える。

ライツ: ラックは大丈夫だと思う? トロイは?

コンドラキ: いや、大丈夫ではねえだろうな。でもそういう時こそ、穀物アルコールとクラスB記憶処理薬の出番だろ? 二人ともいずれ乗り越えるだろうよ。


質問者: アガサ・ライツ博士
回答者: サイモン・グラス博士


ライツ: あなたはあの夜のSCP-8586の挙動をどう解釈する?

グラス: あの夜の最も興味深い一面は、遺体安置所の事件です。断定できた物事から判断する限りでは、ケアンズ博士がコインのルーン文字を調整しようとし始めた時に、儀式が発動したのではないかと思います。彼の肉体は即座に破壊され、SCP-8586は彼の意識を一番近くの死体に押し込もうとした。

ライツ: つまり… ラメント博士の死体。

グラス: その通りです。私見ですが、ケアンズ博士はあの晩ほぼ確実に動揺していたものの、感情をとても強く制御できていました… 亡くなった妻の肉体の中で目覚めようとしているのに気付くまでは。それは恐らく、彼にとってあまりに受け入れがたい概念であり、拒絶の念が非常に強かったので、儀式は一時的に抑えが利かなくなった - そして彼の意識、或いはその断片を、近場のありとあらゆる死体に投射したのです。だから遺体安置所であのような騒ぎが起きたのでしょう。それらの死体が全て破壊されると、彼の意識はコインの在処で再び凝固し、彼には抵抗する術が無かった。 (合間) もう1枚のコインが見つかったかどうか、ご存知ですか?

ライツ: えっ?

グラス: SCP-███は2枚1組のコインでした。片方は彼の右目があるべき場所にめり込んでいますが、元々は2枚あったはずです。

ライツ: (書類をめくる) いいえ、それらしい記載は無い。

グラス: 興味深い。 (合間) 1つの仮説があります。私が思うに、ケアンズ博士はコインをラメント博士の遺体の目の中に入れようと考えてはいなかったはずです。その時点まで、儀式はコインを目の上に置くだけでした。だとすると、なぜコインは目の中に入ったのか。もし遺体安置所の映像記録をご覧になれば、あなたも非常に奇妙なことに気付くはずですよ - 暴れていた死体たちのコインは、本来の儀式で意図されていた通り、目の中ではなく上にありました。

ライツ: つまり何が言いたいの?

グラス: テープをもっと詳しく見直さないと確実なことは言えませんが、もしかしたら、遺体安置所に現れたコインは、当初ラメント博士の肉体を拒絶したのと同じ反発力によって、どういうわけかケアンズ博士の意識と同様に砕け散ったのではないでしょうか。無傷で残ったのは、今ケアンズ博士の右目にある片割れだけだったとしたら。もう一枚のコインの断片は、遺体安置所の死体群と一緒に破壊されてしまったとしたら。それでもやはり、疑問は残ります - なぜ残ったコインは目の中に入り込んだのでしょう? もしケアンズ博士でなければ、誰かが入れたはずです。保安チームが到着する前に、地下の研究室に他に誰かがいたかどうか、分かっていますか?

ライツ: 私たちが知る限りはいなかった。彼とラメント博士の遺体だけ。

グラス: 実に興味深いですね。


質問者: アガサ・ライツ博士
回答者: エージェント トロイ・ラメント


troyandaileen.jpg

アイリーン・ラメント博士(右)とエージェント トロイ・ラメント(左)。ラメント博士とケアンズ博士の結婚式で撮影。

ライツ: 本当に残念に思うわ、トロイ。

T. ラメント: 残念って、何がです?

ライツ: その、やっぱり今回の件に向き合うのは難しいことなんじゃないかと思って。

T. ラメント: うーん。 (合間) 初めて出会った日の話をしましたっけ?

ライツ: あなたとラックランが?

T. ラメント: ええ。あれは… 11年、いや12年前かな? 僕は士官学校を卒業したばかりで、ラックはケンブリッジ大で博士号の取得を目指していました。あいつとアイリーン姉さんがちょうど付き合い始めた頃に、僕が合衆国ステーツから姉さんの顔を見に行ったんですよ。あいつは… いや、あなたもラックの人となりは知ってるでしょう。本当に粗野なくせに、やたら聡明で、面白みがあって、呆れるほど誠実な奴です。何より、あいつは姉さんを笑わせることができました - 僕にはとても無理です。こりゃ一生の伴侶になるな、ってすぐ分かりました。それぐらい馬の合う二人でした。

(沈黙)

T. ラメント: 兄さんはまだ僕が幼い頃に死にました。自分が兄さんの死と折り合いを付けられたかどうか、よく分かりません。母さんもその後すぐ死んで、父さんは家出して、僕とアイリーン姉さんだけの暮らしになりました。ラックが傍にいると、兄さんが戻ってきたような気分になりました。 (笑う) 姉さんは少し違った見方をしていたと思いますよ。少なくとも、そうであってほしいと思います。

(沈黙)

ライツ: 大丈夫?

T. ラメント: ええ。 (合間) ラックの行いは… 愚かで、無責任でしたし、あんなことが起きたんだからあいつを憎んで当然だと誰もが言っています、でも… 僕はもう、きょうだいを2人亡くしました。3人目まで失わなくて済むのは本当に嬉しいんです。 (合間) いや、まあ、これから何度も繰り返し失うことになるでしょうが、言いたいことはお分かりでしょう。 (笑う)

ライツ: トロイ!

T. ラメント: 分かってます、すみません。 (合間) もう涙は十分に流しました。いつか、僕も死んで、こんな苦しみは全て暗闇に消えていきます。でも、ラックは… どうしてあいつに腹を立てることができます? ラックは永遠にこれを背負って生きなければいけないんですよ。

補遺8586.4: 懲戒委員会審査

以下は、ラックラン・ケアンズ博士の行動と8586-CHARONイベントに関して、SCP財団内部懲戒委員会が実施した審査の結果です。

SCP財団

内部懲戒委員会

人事審査


ラックラン・アンドリュー・ケアンズ博士、

ご存知の通り、あなたの状況を付託された収容審査委員会は、あなたに現時点で標準的な収容プロトコルを適用するのは不適切であると判断しました。従って、本件は審査のため、内部懲戒委員会に移管されました。

以下、本件に関する事実を端的に記述します。

1987年12月21日の夜、あなたはSafeクラス分類の異常アーティファクト SCP-███ を故意に無断で持ち出しました。あなたは8586-CHARONイベントの夜以前にも幾度か同様の行為に及んだ可能性があり、またあなたには、同クラスの異常アーティファクトの許容可能な安全取扱規則に従わない形でそれを使用する意図がありました。

1987年12月21日の夜、あなたはサイト-17遺体安置所から、人間の死体 (故 アイリーン・キャサリン・ラメント博士) を故意に無断で持ち出しました。

1987年12月21日の夜、あなたは、既知の異常アーティファクトの特性を制御できるという仮定の下、問題のアノマリーに対する奇跡術的改変を故意に無断で実行しました。

上述の事実の結果として、あなたの肉体は破壊され、あなたの意識は現在SCP-8586と指定されるアノマリーに変異しました。あなたが現在の状態から回復する可能性は低いと考えられます。

結論として、内部懲戒委員会は、あなたを1988年2月8日から1ヶ月間の無給停職処分とすることを決定しました。あなたは1988年3月8日から職務への復帰を認められます。あなたの現在の状態を考慮し、委員会は追加の懲罰措置は不要であると判断しました。

ご多幸をお祈り申し上げます。

ハリー・ケンジントン博士
SCP財団 内部懲戒委員会 委員長

補遺8586.5: SCP-8586 定期評価インタビュー

以下の評価インタビューは、2007年8月28日、エヴァレット・マン博士によって行われました。

cairn3.jpg

2006年、インタビュー中のケアンズ博士。

マン: ちょっと待てよ、もうすぐ…

ケアンズ: 俺が甥っ子くんに手伝いをお願いしに行こうか、おじいちゃん。

マン: うるさいな、あとちょっとで… よし、録音できてるぞ。

ケアンズ: この手のレコーダーは年々小型化してる気がするなぁ。

マン: ところが操作するのが酷く手間なんだ。近頃は針先ぐらいのボタンが付いたちっぽけな電話を支給される。全く、車載電話が恋しくなるよ。

ケアンズ: 車載電話! 歳がバレちまうぞYou're dating yourself

マン: 誰かがそうしてやらなきゃな。

ケアンズ: (笑う) 素早い返しだ。

マン: たっぷり練習済みだ。早いと言えば、今回のもさっさと済ませよう。

ケアンズ: ああ、そうするか。

マン: 記録のため、これはSCP-8586の月例評価インタビューであることをここに述べる。担当者は私 - エヴァレット・マン博士、サイト-19。まずは名前から頼む。

ケアンズ: 名前はラックラン・ケアンズ、同じくサイト-19。

マン: 誕生日はいつだ、ケアンズ博士?

ケアンズ: 1954年4月21日。

マン: ここでの役職は?

ケアンズ: 人事部門長だ。

マン: 宜しい。今回と先月の評価の間で、体調に顕著な変化はあったか?

ケアンズ: いや、無い。同じ片目だけの視界、同じ両膝のかゆみ。俺の他の部分がどう変化しようと、変わらないものもある。

マン: 現在宿っている肉体だが、どれくらい維持できている?

ケアンズ: あー、ちょっと考えさせてくれ。ジャーナリストが6月に例の落盤で死んだだろ、それから数週間はあの親指が変な形してるスノーボーダーの中にいた。それから… あれは8月の初めだよな? 細胞生物学会議があって、俺をトイレの個室からショベルで掻き出さなきゃいけなかったのはさ。

マン: その通り。とんだ迷惑だった。

ケアンズ: ああ、改めて謝るよ。直に腐り始めるのは分かってたんだが、週末はどうにか乗り切れると思ったんだ。髪質の良い身体だったから、あのままの方がステージ映えするかなって。

マン: じゃあ、睡眠について話そう。今年初めの顔合わせの時に処方された薬の効果はあったか?

ケアンズ: ああ、そう思う。状況によるけどな。

マン: 状況による?

ケアンズ: ほら、みんな別人だろ。それぞれ反応も違うんだ。薬を飲んだ途端にトラックにぶつけられたような勢いで意識が遠のく時もあれば、ほとんど効き目を実感できない時もある。でも、平均値としちゃ、間違いなくよく眠れるようになったね。

マン: 君が希望するなら、新しい肉体に合わせて量を調節することも検討しよう。

ケアンズ: いや。これ以上予約を入れるほど困っちゃいない。大方、近頃色々と考え続けてたのが堪えたんだろう。

マン: 確かにな。もう20年になるか?

ケアンズ: そうだ。

沈黙。

マン: 悩んでいるようだな。

ケアンズ: ハ! そんなのは明々白々だろ。

マン: 私の言いたいことは分かるはずだ。

ケアンズ: 分かってる、すまない。何かと手を焼かせちまって。 (合間) この前、ソフィアと話したんだ。向こうから電話を掛けてきて、それで… ちょっとおかしな話なんだがな。目が覚めたら鏡に赤の他人が写ってるのには、俺はもう慣れた。それはもう幾度となく違う姿のになってきたからさ、どれだけの俺がまだここに残ってるんだろうってのを時々考えるんだ。俺が… そう、最初の俺だった頃は小さな変化にもすぐ気付けた。俺の大部分はそのままで、ニキビやほつれ毛は目立ってたからだ。でも今じゃ、俺の身体の唯一の共通点は、これだ。 (右目を指で叩く) だからどうしても疑問に思っちまう。こいつが俺なのか?

マン: コインが君の中心であるように感じるのか?

ケアンズ: まあ、そんなことはない。俺はまだ、自分自身が… この辺のどこか、頭の中にいるように感じてる。腕が重く感じたり、足が小さくなったりしても、やっぱり… 俺はまだここにいる気がする。

マン: それなら多少は安心できるだろう。

ケアンズ: ソフィアもそう言った。俺の正体がただのコインだなんて、そんな馬鹿な話があってたまるかってな。

マン: 寄生能力のあるコイン、だろう。

ケアンズ: 俺たちはもっと奇妙な事物も見てきた。

マン: 確かにそうだ。 (合間) さて、重要事項にはもう触れたと思う。お開きにしようか。

ケアンズ: そりゃ良かった。後でトロイと一緒に晩飯を食うつもりだったんだ。劇場公開が終わる前にトランスフォーマーの映画を見に行こうと思ってる。

マン: ちょっと露骨すぎやしないか?

ケアンズ: ハッハッハ。ウケる。

マン: 私なりに力を尽くしてるよ。本当に診察を受けて睡眠薬を調整するつもりは無いんだな?

ケアンズ: ああ、大丈夫さ。昔ほどは悪くない。

マン: それと、悪夢は治まったか?

ケアンズ: (合間) いや、あんまり。ただ… 静かになってきてる。

マン: どういう意味だ?

ケアンズ: 夢の中で、彼らが… まだ彼らの声が聞こえる。寝てる間にな。今、君と話してるのと同じように、彼らの姿が見える。いつもじゃないし、薬は確かに助けになってる。でも折に触れて… 彼らの居場所がどこにせよ、俺はそこに現れるんだ。最初のうち、彼らは怒ってて、騒々しくて… それで時々、俺は自分が夢を見てるのか、何か他の現象なのかが分からなくなったりもした。彼らは一度たりとも口を利いたことは無い、それでも… 分かる。たまに、未だに怒ってるのが伝わってくる。俺には彼ら全員の顔、俺が為った一人ひとりの顔が見える。そして彼らは… 俺には答えられない答えを求めてる。

マン: どういう答えだ?

ケアンズ: 分からん。どうしてこんなことが起きたのか。どうして自分たちはまだここに存在するのか。そもそも自分たちは存在しているのか。

マン: アイリーンは?

ケアンズ: (合間) うん。彼女も、やっぱりそこにいる。

マン: 彼女は… 怒っているように見えるか?

ケアンズ: いや、怒ってはいない。彼女は一度も怒った様子を見せなかった。初めのうちは… 悲しんでいたのかな。こう… 見ていると胸が張り裂けそうになる表情でこっちを見ていた。でもあれから20年近く経つ。彼らの中で、多分アイリーンは一番… 当惑してる。なんとなく、面白がってるような気がする。

マン: 成程ね。

ケアンズ: でも、数値化できるようなもんじゃないしな。事によると、夢に出てくる顔は全部、潜在意識が俺を弄んでるだけかもしれない。

マン: 数を覚えてるか?

ケアンズ: 何の数だ?

マン: 今まで幾つの異なる姿になってきた?

ケアンズ: (合間) 471だ。

マン: 確かなのか?

ケアンズ: ああ。人間が418人 - 念のため言っとくが、現職のアメリカ大統領も込みでだぞ - 類人猿26頭、イヌ12匹、ネコ8匹、モルモットと実験用のマウスが2匹ずつ、ウマ2頭、そしてラバ1頭だ。トロイは最後のを滑稽だと思った。アイリーンもな。

マン: ちょっと面白いね。

ケアンズ: (笑う) とっても面白いさ。 (合間) 実は、彼ら全員の名前を知ってる。アイリーンだけじゃない - 知り合いじゃなかった連中も含めて、一人残らずだ。スノーボーダーはリン・サイモン - 休暇中の写真の背景に映り込んだ096を偶然チラ見して死んだ。ジャーナリストはパク・ソヨン - あいつは最初かなりキレてた。Dクラスも大勢いる。同僚も大勢いる。みんなあそこにいる。その一人ひとりの顔が分かる。 (合間) 彼らはみんな、俺だったのかもな。俺は彼ら全員なんだよ。

[記録終了]


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/*-----------------------------------*/
 
/* CONTAINMENT, DISRUPTION, RISK CLASSES */
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