SCP-866-KO
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Ingoma_Ezulwini.jpg

インゴマ・エズルウィニ。南アフリカ共和国ウルンディにて、1974年4月5日撮影。

アイテム番号: SCP-866-KO

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 南アフリカ共和国が1990年代初頭にアパルトヘイト政策を撤廃して以降、SCP-866-KOの発生は報告されていません。SCP-866-KOの収容クラスをNeutralizedに再分類する提言が議論されています。

説明: SCP-866-KOは異常芸術家インゴマ・エズルウィニの死が他者によって再現される現象です。インゴマ・エズルウィニは南アフリカ共和国国籍のズールー人男性であり、異常な技術を積極的に活動に利用したアフリカ人権利団体“イクロ・ラボクメラナ”1の創始者でした。

20世紀半ばから後半にかけての南アフリカ共和国では、インゴマをはじめとする多数の黒人奇跡術師が、同国政府の抑圧に対抗するために異常な能力の活用法を模索していました。1962年、ネルソン・マンデラの収監から間もなくして結成されたイクロ・ラボクメラナ (以下“IL”) は、インゴマ、その息子のインカニェジ・エズルウィニ、トーマス・マーラング、マリア・ノムブイセロ・ソントンガなど、様々な部族出身の奇跡術師20名からなる小規模な団体でした。彼らの主な活動は、異常技術を使用し、通常ならば実行できない規模の街頭抗議運動やデモ行進を組織するというものでした。ILが主導した中で最もよく知られている反アパルトヘイト抗議運動は、バントゥースタンの解体を訴えるデモ行進であり、2万人以上に及ぶ大群衆が30日かけてウムグングンドロヴ2からプレトリアまでの480kmを行進した後、翌日にはウムグングンドロヴに帰還していました。

南アフリカ警察は、インゴマとその仲間が異常技術を活動に用いているのを認識していましたが、ILが独立団体ではなく国際NGOの下位組織であったため、IL所属の奇跡術師を逮捕することには消極的でした。その一方で、アパルトヘイト政策下における黒人の生活は過酷であり、絶望のあまり反アパルトヘイト運動そのものを放棄する、もしくは過激化して武力闘争へと方針転換する奇跡術師が現れ始めました。インゴマは生涯を通じて平和的な方針に徹したものの、若い息子のインカニェジは父のやり方に懐疑的になり、ILの方向性を巡る不和が生じました。

エズルウィニ父子の対立は1974年4月5日、ウルンディで開かれたズールー族デモに参加していたインゴマが、インカニェジによって散弾銃で射殺されたことで終結しました。指導者不在となったILはやがて解散し、奇跡術師たちは各々の道を歩み始めました。解散後、マリア・N・ソントンガなどの一部の奇跡術師は、様々な理由で、しかしいずれもインゴマと同じく親しい関係の人物によって殺害されました。インカニェジ・エズルウィニは事件当日、南アフリカ警察に逮捕されましたが、数ヶ月後に仮釈放されました。その後、彼は全ての対外活動を放棄し、ウルンディ郊外の小さな家に引きこもりました。

1979年11月2日、最初のSCP-866-KO発生事例が観測されました。南アフリカ警察の記録によると、ズールー人居住地域に派遣された警察の諜報員のうち数名が、インカニェジの家からさほど離れていない場所で、外見上インゴマ・エズルウィニと同一のズールー人男性を目撃したと報告しました。警察当局がこの報告の信憑性を疑ったために対応が遅れている間に、当該人物はインカニェジの家に近付き、周囲をうろついていましたが、やがて突然塀を飛び越えてドアをこじ開け、インカニェジを抑えつけました。

当時、インカニェジは散弾銃による自殺を図っていましたが、銃を奪われ制圧されたことで未遂に終わりました。インカニェジは即座に侵入者をインゴマ・エズルウィニと特定し、インゴマは息子と約30分間対話してから消失しました。翌日、インカニェジ・エズルウィニは失踪し、1週間後に900km以上離れたウムタタ3で、ネルソン・マンデラの釈放を求める小規模集会に出席しているのを目撃されました。彼はこの集会でILの再結成を宣言し、間もなく元IL構成員の子供たちを主軸とする新生ILを立ち上げると、平和的な手法による反アパルトヘイト運動を継続しました。

インカニェジ・エズルウィニは1982年6月2日、警察が仕掛けた爆弾によって死亡しました。しかしながら、彼の死後、SCP-866-KOは南アフリカ共和国全域で発現し始めました。この過程で、マリア・N・ソントンガなどの死亡した奇跡術師たちが再び生前の姿で目撃され、警察当局を著しく混乱させました。財団はこの時点でSCP-866-KOの調査を開始し、インゴマ・エズルウィニの死後に発生した異常事象が、他の奇跡術師によって再現されていることを突き止めました。SCP-866-KOの対象は、インゴマ・エズルウィニも含めて、次の基準を満たしていました。

  • 故人は生前、奇跡術や現実改変などの異常な能力を先天的/後天的に獲得していた。
  • 故人との強い精神的な絆を形成していた“ターゲット”が存命である。
  • ターゲットは肉体的に健康だが、故人以外の肉体的・精神的な拠り所が無い。
  • 故人はターゲットによって意図的かつ直接的に殺害された。

SCP-866-KOの対象となった奇跡術師は、いずれもターゲットの現在地付近に出現した後、ターゲットとの交流を試み、20分から3時間ほどで消失しました。観測されたどのSCP-866-KO発生事例でも、蘇生した奇跡術師はターゲットへの敵意や憎悪を示さず、むしろ和解、平凡な会話、助言などの前向きな相互作用を行いました。

1990年代半ばに南アフリカ共和国政府がアパルトヘイト政策を事実上廃止するまでに、34件のSCP-866-KO発生事例が観測されました。2019/02/27にネルソン・マンデラが大統領に就任して以来、更なるSCP-866-KOの発生は報告されていません。

補遺: SCP-866-KOのターゲットとなった人物のうち、財団が接触できたのは23名で、その全員がSCP-866-KO発生の数時間前に何らかの幻聴を経験したと報告しました。幻聴の内容は証言者ごとに細部が異なっていますが、ズールー人の伝統民謡 “トゥーラ・ババ” を歌う男性の声だったという点では共通しています。生前のインカニェジ・エズルウィニと面識があった人物は、幻聴はインカニェジの声であったと証言しました。

以下は“トゥーラ・ババ”の歌詞と翻訳です。

Thula thul, thula baba, thula sana
おやすみ おやすみ小さな子 泣かないで赤ちゃん

Thul'ubab uzofika ekuseni
泣かないで お父さんは朝には帰ってくるよ

Thula thul, thula baba, thula sana
おやすみ おやすみ小さな子 泣かないで赤ちゃん

Thul'ubab uzofika ekuseni
泣かないで お父さんは朝には帰ってくるよ

Kukh'inkhanyezi zi-holel'ubaba
星がお父さんを家まで導いてくれるから

Zimkhanyisela indlel'e ziyakhaya
星が私たちの家までの帰り道を照らしてくれるから

Sobe sikhona, ka bonke bashoyo
きっと帰って来るってみんな言ってるよ

Bayathi buyela, ubuye le khaya
お父さんは家に帰って来るよ

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