クレジット
翻訳責任者: Tetsu1
翻訳年: 2024
著作権者: Dino--Draws
原題: Submechanophobia: I Miss You
作成年: 2024
初訳時参照リビジョン: 6
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-8770
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警告
以下のファイルは現状未確定なレベルのデータ破損を受けています。
ミーム影響が検出されました。
注意して進行してください
特別収容プロトコル: 衛星データはSCP-8770の存在を隠蔽するよう改変されます。周囲に孤立した危険ブイをアノマリーの外周に複数配置し、固定することで船舶の通行は迂回させられます。これらのブイは財団チームによって毎月検査され、配置が変化していないか確認されます。
ブイの配置が変化していた場合、潜水チームがSCP-8770に派遣されてその構造の変化をモニターし、その変化に応じてブイを調整します。
そうでない場合、アノマリーは放置されます。
SCP-8770に居住してはなりません。
説明: SCP-8770は不規則な構造流動状態にある船舶で、██°██'███.█''N, -██°██'██.█''Wの大西洋海底に位置しています。SCP-8770の外観は、人工で平均して長さ約355メートルの沈没船に類似している場合が大半です。
SCP-8770の外観変化は一見ランダムな間隔で発生しますが、以下のような注目すべきまたは一貫した変化が見られます。
- 外部構造を構成する物質の変化 — 金属が木材に、木材が金属、石、布、ガラスに、など。
- 新たな壁の発生、追加で内部に部屋が作成されていることが示唆される。
- 海底に向かって下方に突き出た金属梁の大きな接合部
- 上部もしくは形成されたバルコニーに沿った不明瞭な手すり
- 一貫性のない年代の船舶に見られるものに類似した操舵装置
- 無意味な方向案内
- モーターボートや潜水艦のものと同一のエンジン構造やプロペラ
- ワイヤー
- 住宅のものに似た屋根や外壁
- 住宅のものに似た窓
- 住宅のものに似た扉
全ての構造は多くの場合、激しい腐朽や水損の状態にあります。SCP-8770周辺の海中エリアはほぼ完全な生態学的デッドゾーンであり、SCP-8770の構造上で成長したいくつかのサンゴを除いて海洋生物は存在しません。
初期分析の際に、SCP-8770は周囲に微弱なミーム影響を与え、その外部から5メートル以内の人物の不安感と不快感を増大させることが発見されました。
無人潜水艇によってSCP-8770の内部にアクセスする試みは、いずれも侵入時にあらゆる技術的機能が完全に停止する結果に終わりました。約3隻の潜水艇が失われた後に、有人調査が提案され、その後承認されました。
補遺8770: SCP-8770の内寸を断定するため、まずSCP-8770に4回の有人探査が実施されました。チームは周辺に留まり、可能な限り外壁に沿った位置に滞在するよう指示されました。これらの探査を経て、以下のことが判明しました。
- 内部には、その性質上構造に予想される水損は一切見られなかった
- 廊下、扉、窓がランダムに出現・消失する
- SCP-8770の内寸は外周遠征ごとに異なって記録されている
- 外部の変化にも拘わらず、SCP-8770の内部は外寸と一致しない
SCP-8770の中心を発見するために第五次探査が試みられました。
探査ログ8770.5:
前記: 機動部隊ガンマ-6 ("大食らい")の隊員3名 — コードネーム ブラックカーペット、ニンゲン、マタギの死骸 — がSCP-8770の中心を発見するために展開された。
SCP-8770のミーム性質が内部への近接性によって強化されるか判断するため、全参加者の心拍数が監視・記録された。
司令部: ガンマ-6、聞こえるか?
マタギの死骸: 聞こえる、司令部。
[マタギの死骸の心拍数は安定している]
ブラックカーペット: はっきりと。
[ブラックカーペットの心拍数は安定している]
ニンゲン: 聞こえている。
[ニンゲンの心拍数は安定している]
司令部: よし。SCP-8770に進んでくれ。
チームはSCP-8770の上部に接近する。この部分の外観は商業漁船の上部デッキに見える。壊れた柱や腐った樽がある。船体の一部から2つの外輪が現れ、その下半分は錆びた金属へと融合しているように見える。このような旧式の部品が時代や場所を無視して現れる。
SCP-8770は目に見えて全方向に約30メートル伸びており、アノマリーの他の部分は水が濁っていて隠されている。遠方にそびえたつシルエットと、青色の影のみが見える。
水は静止しており、接近するガンマ-6以外に動くものや生命はない。デッキの高さに達すると、彼らが泳ぐと塵や破片が舞い上がる。
ニンゲン: 前方の船体の床に開口部がある。入りやすくした方がいいか。
マタギの死骸: こっちも見えた。
3人は船体の隙間へと泳ぐ。藻やフジツボに覆われた梯子が内部空間に下がっている。チームは中に入る。
内部は標準的な潜水艦のように見えるが、日光が一層薄れるため、ガンマ-6の三人全員がヘッドライトを点ける。三人の人工呼吸器を除いて音は検出されない。
ニンゲンは反射性の防水テープをひと巻取り、それを梯子の横木に巻き付ける。
ニンゲン: これを使って行き先の記録をつける。ここは迷宮だ。
ブラックカーペット: いい考え。[沈黙]ミノタウロスがいないことを祈りましょう。
チーム内で小さな笑いが起きる。
マタギの死骸: でも本当に使えるの? ここの中身はシャッフルするみたいだけど。
ニンゲン: 幸いにも、シャッフルするにしても多少の道理はある。マーキングが見つかれば、まだ戻れるかもしれない。特に出口のすぐ近くのなら。
ニンゲンはオレンジ色のテープが横木に固定された梯子を軽く叩く。
ブラックカーペット: それに、何もしないよりはいいでしょ。
マタギの死骸は頷く。
マタギの死骸: 何か見つけることを期待されてるかな?
ブラックカーペット: 他のチームは外周に何も見つからなかったから、こいつに中心があるかどうか知りたがってる。これにそれが存在してるかってだけ知りたいの、わかる? 根源。こいつの周りにはちゃんとした生命の痕跡らしきものはなくて、動けるものは疫病でもあるみたいにこれを避けてく。
マタギの死骸: [再び頷く]まぁ、私たちにとってはいいことかな。
ニンゲンはテープを切って引き離す。これ以降、ブラックカーペットは重い任務用コンパスを取り出す。
ニンゲン: よし、では進もう。
2人は頷き、彼を追って廊下を泳ぎ始める。視認性は著しく低く、およそ1メートル前方までしか見えない。約十秒泳いだ後、廊下の突き当りにハッチが見える。
マタギの死骸: …ここは軍艦の廊下みたい、手つかずの。
ニンゲン: ハッチを開ける。
ニンゲンはハンドルに手を伸ばすが、掴む前にハンドルが回転する。大きなシューッという音が聞こえ、ニンゲンは人工呼吸器を通して息を呑む。
[ニンゲンの心拍数は上昇する]
ニンゲン: 何が—?
ハッチのハンドルが一周回転し、ハッチ自体が 触れられることなく内側に開く。マタギの死骸とブラックカーペットはニンゲンの背後で止まる。
ブラックカーペット: …流れを感じる。
マタギの死骸: こっちも。
ニンゲン: 司令部? ドアが勝手に開いた。
司令部: 記録した。進みなさい、ただし要警戒。
ハッチの向こうに開けた部屋がある。
リビングルーム。
複数の家具があちこちに配置されており、全て稼働していないテレビの方を向いている。数枚のコースターと空のグラスが置かれたコーヒーテーブル。床にはカーペットが敷いてある。本棚が奥の壁を背にして置かれている。ブラックカーペットはそれに近付く。
マタギの死骸: [部屋の中心に泳ぎ、小さな円を描いて向きを変える]これは…… 腐ってない。サンゴもない、錆もない — 何も。少なくともそれは…… 一貫してる?
ニンゲン: 外から見た感じは何十年も水中にあったようだが。[カーペットに手を掠めるが、破片は舞い上がらない]ふむ。
チームに沈黙が広がる。
マタギの死骸: あそこのランプはテープ付けるのにいいんじゃない?
ニンゲン: あぁ、俺もそう思う。
ニンゲンはハッチを振り返る。まだ開いている。彼は隅のランプへ泳いでいき、反射テープを巻き始める。
[マタギの死骸の心拍数は安定している]
[ニンゲンの心拍数は安定する]
[ブラックカーペットの心拍数は上昇する]
ブラックカーペット: 誰か来て、私の目が狂ってないことを確かめさせて。
マタギの死骸とニンゲンは彼女の方を向く。ニンゲンが近付く。
ブラックカーペットは棚から本を一冊掴んでいる。水中にあるにも拘わらず、損傷も影響も受けていない。振り向いてそれをニンゲンに見せる。
合理性なくランダムに配置された単語や文字がページを埋め尽くしている。ブラックカーペットがページをめくり始めると、いくつかのページは空白になっている。
ニンゲン: あぁ、確かにそれを見てる。これはまた…… [ページに指を添えてなぞる]ちんぷんかんぷんだ。
ブラックカーペット: 全部こんな感じ。
マタギの死骸は部屋の他の部分に目を向ける。ソファとランプの向こうには、キッチンへの開けた入口がある。彼女は調査のために中に入る。
中にはダイニングテーブルと、その周りに4つの座席がある。リビングルームと同じく、この場所に腐朽、錆、その他水損の痕跡はない。テーブルの上には、プレースマット、皿、銀製食器がいずれも整理されて並べられている。空のコップ。模様のちりばめられたシンクがあるカウンターの上に並んだ食器棚。同じ壁に沿って冷蔵庫とオーブンがあり、冷蔵庫の配線が床全体に延びている。いずれも稼働していないようである。
ニンゲンとブラックカーペットもキッチンに入る。
ニンゲン: これは…… みんなが出ていった後みたいだ。テーブルには夕飯とかその他全部のセットがある。
ブラックカーペット: この部屋に実際に人が住んでたような痕跡はある?
マタギの死骸は食器棚の一つを開ける。空である。別の棚を開ける。空である。冷蔵庫を開けるが、これも空である。中の電気は点灯しない。
マタギの死骸: …なさそう。全部空っぽ。
ニンゲンが息を吐き、人工呼吸器が音を立てる。
ニンゲン: 司令部? 空っぽのリビングルームとキッチンを見つけた。以前の居住者や生命の痕跡はない。
司令部: 了解。他に道はあるか?
ブラックカーペットは実験的にオーブンのつまみを回す。上に回すと、バーナーの一つが穏やかな赤色に光りだす。彼女はすぐにそれを切り、振り向きざまにニンゲンを一目見る。
ブラックカーペット: 本棚の向こうに別の道が見えた。
ニンゲン: そちらに向かう。
司令部: わかった。進んでくれ。
チームはグループでキッチンを出て、ブラックカーペットが先導する。
廊下の奥には子供の寝室がある。
リビングルームと同様、水没しているにも拘らず内部の状態は整っている。向こうの壁には小さなベッドがあり、そのそばにはナイトスタンドがある。数メートル先に箪笥があり、その上にはランプが乗っている。全て手つかずで損傷がない。壁は青白く見えるが、水のせいで実際の色は識別が困難。
マタギの死骸は箪笥の中が子供服で満たされているのを見つける。着用された跡はない。服が浮き上がらないよう、すぐに箪笥を閉じる。
テディベアが床に背を向けて天井から吊るされている。
ニンゲンは上に泳いでそれを回収する。彼は手にクマを持ってその正面を調べる。
その顔と正面はカビと腐食に覆われている。腐敗し、黒く染みついている。サンゴの破片。
彼は人工呼吸器を鳴らしてそれを手放す。
[ニンゲンの心拍数は上昇する]
[ブラックカーペットの心拍数は上昇する]
[マタギの死骸の心拍数は上昇する]
ニンゲン: ジーザス—!
マタギの死骸: ニンゲン、何が—?
ニンゲン: その— クソ。こん中で最初の — 水損の痕跡を見つけた。
ブラックカーペットは泳いでいき、クマを手に取る。彼女はそれを調べる。
ブラックカーペット: 確かに…… これは天井にぶつかってたってことでいい?
ニンゲン: あぁ— そうなってた。
マタギの死骸は上に向かって泳ぎ、天井に手を当てる。彼女はそれを押して脆弱性や損傷がないかテストするが、そのようなものは見当たらない。
マタギの死骸: …やっぱりここはかなりしっかりしてる。天井自体は損傷を受けてない。
ニンゲン: …はぁ。じゃあどうしてそれはあんななんだろうか。
マタギの死骸: さっぱりわからないけど - 何か意味はあるかもしれない。
マタギの死骸が動きを止めて考える中、ブラックカーペットは手の中のクマに注意を向ける。
ブラックカーペット: これはここに置いていこうと思うけど、ぐるっと戻ってきたら持っていって…… 特におかしなところがないか見てみる。
ニンゲン: それが良さそうだ。
彼女はそれを手放す。クマは天井まで浮き上がる。腐敗した顔は、今度は床を見下ろす。
チームは静かに部屋を出る。
左の廊下に新しい扉がある。少し開いている。
ブラックカーペット: あぁ。
ニンゲン: うん、ここに来てから初めて見る構造変化だ。
ブラックカーペット: このアノマリーで珍しいものではないけど、注意に越したことはない。
マタギの死骸: こっちに進んだ方がいいかな?
一瞬の沈黙の後、ニンゲンが扉の出現を司令部に伝える。
司令部: 奥に進んでくれ。
ニンゲン: 了解した。
ニンゲンがテープで扉に印をつけてから、彼らは扉を通って新しい廊下に出る。簡潔化のため、続く一時間半の会話は削除済み。
この間に、チームは44の寝室、18のキッチン、26のバスルーム、14のリビングルームを通過する。家具の年代の幅はかなり大きく、現代のものと一世紀以上前のものが混在しており、一貫性はほとんどない。
チームは定期的に蛍光テープで経路の印を残す。
廊下を次々と進んでいく間に、チームは水損や錆が所々で目立っていることに気付く。いくつかの壁には穴が空き、その中に配管が見える。不調和な金属棒や、腐った木や家具がそれ以外はきれいな中に散在している。
チームは15部屋目のリビングルームで小休憩を取るが、そこに入るには船のハッチを開けなければならなかった。彼らの後ろではハッチが半開きになっている。部屋の奥の壁には窓がある。ニンゲンはタンク内の酸素レベルの確認に移る。
ブラックカーペットはコンパスを掲げて窓を一目見る。彼女が南を向いていることを示す。理論上は、この窓の位置はSCP-8770の他の部分との関係上ありえない。
その先には水が広がっている。ブラックカーペットのライトはワイヤーと配管の巨大なもつれを照らす。その向こうには動いているように見える不明瞭なシルエットがある。ボディカメラはぼやけた映像のみを映す。僅かに流れがある。
[ブラックカーペットの心拍数は上昇する]
一方マタギの死骸は廊下に繋がる壁を調べ、部屋を見回している。
マタギの死骸: なんだか…… 意図的なものを感じる。
ニンゲン: 意図的?
マタギの死骸: 最初の部屋から考えてたんだけど。全部まるで…… まるで何かのために仕組まれてるような。
ブラックカーペットは窓に背を向ける。
ブラックカーペット: それか、誰かの。
マタギの死骸: …うん。
ブラックカーペット: もしそういうことだったとしても、今は違うと思う。
ブラックカーペットは窓に振り返る。それはもうない。
ブラックカーペット: 家主が木の腐ったとこを隠すために壁を塗るみたいに。
彼女は片手で壁になった場所をなぞり、水損した金属と乾いた壁の上を滑らせる。錆の破片が水中に浮かぶ。
ニンゲン: それなら…… 覆い隠しができてないところまで潜ってきたと思っているのか?
ブラックカーペット: [頷く]塗装を剥がして。
マタギの死骸: 進み続ければ、この正体がわかるかもしれない。壁の向こうに潜って、心臓部を見つける — そういうこと?
チームは頷く。ニンゲンは10分間の休憩後に更に奥に進む計画を司令部に伝える。
司令部: そちらの酸素タンクはあとおよそ五時間は保つ量の空気が入っている。無事を祈る。
機動部隊ガンマ-6は前に進む。時折壁紙が完全に剝がれて、金属やワイヤー、木の板が露出している。
[ニンゲンの心拍数は安定している]
[ブラックカーペットの心拍数は安定する]
[マタギの死骸の心拍数は安定している]
30分移動する。
31分後、マタギの死骸は床に沿った腐った板の一枚が移動していることに気付く。彼女は下に手を伸ばしてそれを持ち上げる。
床板の下には一匹の魚がいる。ワイヤーとケーブルに包まれている。配管が突き刺さっている。
違う。突き刺さっていない。配管に鋭利な場所や先端はない。それは魚の間を縫うように前に伸びている。突き刺さっている訳がない。
魚はまだ生きている。
えらは痙攣する側面ではためき、目には生気がなく寄生されている。全身が寄生されている。機能していない電気配線がその肉と鱗を編み込み、魚をきつく保持している。ひれは腐った木の中に溶けてしまっている。
ここに生きている。ここに生きている。
ここを愛している。
[マタギの死骸の心拍数は著しく上昇する]
マタギの死骸: 司令部、これは— これは見えてる?
司令部: 見えている。
沈黙。
ニンゲン: す…… 進んだ方がいいか —
彼女は床板を戻す。身を悶えさせるものを 天に返す。
司令部: 沈没船は死体の一種だ。
マタギの死骸: …いい考え。
チームは進む。
[マタギの死骸の心拍数は上昇する]
[ブラックカーペットの心拍数は上昇する]
[ニンゲンの心拍数は上昇する]
廊下が広くなり、チームが横並びで泳げるようになる。壁紙は美しい。黄色い花が描かれている。それは崩壊しつつある。天井は上昇し、チームの上におよそ10フィートの空間ができる。
チームは巨大な開けた部屋に入る。柱は天井まで延びる。床は磨かれた石でできている。何か壮大なものへの入口のようだ。壁一面に明るく生き生きとした色彩の模様が踊っている。
ニンゲン: あの音は何だ?
ブラックカーペット: 参った、ここは視界がクソ。
マタギの死骸: 全部配管、だと— もっと強いライトを持ってる、ちょっと待って。[マタギの死骸は重い任務用ランプを腰から取り外し、点灯させて持ち上げる。]
ニンゲンは通ってきた戸口にテープを巻きつける。彼は床板が動くのを見下ろす。
[マタギの死骸の心拍数は上昇する]
[ブラックカーペットの心拍数は上昇する]
[ニンゲンの心拍数は上昇する]
光を増やすと、部屋を見回して移動しやすくなる。ガンマ-6はさらに前進を開始する。水中に大きなハム音があり、水が振動する。壁が歌っている。
ブラックカーペット: ワイヤーに注意して、通電してるかどうか見分けがつかない。ここは全体が電気が通ってるのとないのでバラバラ。
これは安全。
マタギの死骸: だね。ここのはちょっとぐちゃぐちゃにもつれてる。
部屋は広大である。開けている。チームは各人三本の配管を身体を押し込んで通り抜け、錆とサンゴを水中に払い落とす。
ニンゲン: 家よりも船に近い見た目になってきた。潜水艦の機関室が爆発したみたいな感じだ。
マタギの死骸: こんなにうるさい音がしてて本当に機関室なのかどうか。
チームはワイヤーと配管のもつれを越えて移動する。ニンゲンは廊下を泳ぎ、遊ぶ二匹の魚を垣間見る。
天井に埋め込まれた円形の構造物が錆びた鉄骨フレームの中で回転する。その向こうには、金属の羽をもつ巨大なファンが回転する。構造の音量は不明な発生源からの騒音も相俟って、機動部隊ガンマ-6の発言を全てかき消す。マタギの死骸は側頭部に手を当てている。
チームはやがて部屋の中にハッチを見つけ、それを引いて開ける。彼らは廊下に出て、16部屋目のリビングルームに入る。ここの方がいい。静かだ。腐敗や苦痛はない。痛みはここの方が少ない。ごめんなさい。
更におよそ10分間廊下を移動し、追加で寝室と生活空間を見つける。それらは深刻に損傷しており、倒れた家具が散乱している。扉は腐敗した蝶番に引っかかっている。
マタギの死骸: ねぇ、ニンゲン? タンクは今どの状態?
ニンゲンは動いて確認する。
ニンゲン: 4時間。
マタギの死骸とブラックカーペットは彼に顔を向ける。
ブラックカーペット: …ふーむ、ここに来るのに2時間ちょっとかかったのか。ここで安全策を取って引き返すのが賢明かもしれない。
ニンゲン: [頷く]司令部、空気が減り始めてきた — 引き返してアノマリーから出てよいだろうか? 別の日にもっとタンクを持って戻ってくるというのは?
司令部: バラバラになるというのがどのような感覚か知っているか? 腐るというのが?
痛い。苦しい。海水が1秒 — 1分 — 1日 — 1年、が経つごとに自分を喰らうのを感じられる。何十年。何十年も過ぎた。腐食した。焼かれた。冷たい水は私を救ってはくれない。
マタギの死骸: 聞こえた、司令部。出発する。
チームは彼らが来た道を戻る。角を曲がる。廊下の端に到達する。
ハッチはなくなっている。
[マタギの死骸の心拍数は著しく上昇する]
[ブラックカーペットの心拍数は著しく上昇する]
[ニンゲンの心拍数は著しく上昇する]
ニンゲン: マジでふざけやがって。
ニンゲンは壁に手を当てる。壁は錆びた金属で、その上に小さなサンゴが生えている。しっかりとした、一枚の壁である。何十年も触れられていなかったように見える。
ガンマ-6はおよそ10分を費やし水中往復のこぎりを使用して壁を切断しようと試みる。それは失敗に終わる。のこぎりは金属に十分深く刺さらない。
マタギの死骸: 別の廊下が — 通ってない道が別にあった。何かがループして戻ってるのかな? 他に道がないといけないよね?
ニンゲンの手は震えている。
司令部: 何が起きている?
ブラックカーペット: 前の入口が消えた。新しく戻るルートを見つけないとならない。
きっと大丈夫。
司令部: 了解。幸運を祈る、くれぐれも注意深く。
ブラックカーペットは他の二人を見る。
ブラックカーペット: 安定した呼吸を — 酸素を使いつくす訳にはいかない。まだ4時間くらいある。他の廊下も試してみよう。[後ろを手振りで示し、他に広がっている部屋や廊下を指す。]
中に入って。
マタギの死骸: わかった、うん、よし — [首を振って泳ぎ始める。]
お願い。
ニンゲンはしばらく壁に手を当てたままにしてから、息を吐いてそれを押し、二人の後について泳ぐ。床の角度のため、彼らはより深く下降しているように見える。
無関係な映像は削除済み。
ガンマ-6は30分かけて出口を探す。 彼らはこれが美しいってわかってくれる。ドアはずっと閉じられていたの。
ガンマ-6は2時間かけて出口を探す。
ニンゲン: これじゃ上手くいかない — 何一つ見つけられてない。畜生— 辛うじて見えるくらいだ。
マタギの死骸: 諦めるわけにはいかない— 諦めちゃ—
ブラックカーペット: 諦めてはいない。来て—
とてもたくさんの部屋がある。それはあなたのため。
そこにいて。
ニンゲン: ふざけんじゃねぇ — 酸素がつきそうだ、エイヴリー。前よりも深くなっててギリ2時間しかない。何も上手くいかない。
マタギの死骸: そんなこと言わないで — お願い —
ニンゲン: じゃあ何て言ってほしいんだよ!? 迷子になって、囚われて、時間を使い果たして—
ブラックカーペットは腐ってうごめく壁に手を当てる。それを素早く引っ張る。呼吸は荒い。
水は土、破片、藻で満たされている。
ニンゲン: いったいこれは何だ—
それは聞かないで。見ないで。
大丈夫だよ。
ニンゲン: ブラックカーペ— エイヴリー?クソ、マタギは見たか—?
マタギの死骸: いや— 見てないどこに行ったのかわからないついさっきまでここにいた—
ニンゲン: この— オーケー。オーケー。クソ—
ニンゲンは長い廊下を泳ぎ始め、マタギの死骸は大きく人工呼吸器の音を立てて続く。
マタギの死骸: どこに行ってるん—
ニンゲン: どこかここから出られる場所へ。
マタギの死骸: 彼女は置いていくの?
ニンゲン: もう時間がないんだよ! あいつを捜すのにこっちまで時間をかけて全員溺れ死ぬか、一人だけ溺れ死ぬかだ。あいつは賢いから — もしかしたら — 別の道を見つけられるかもしれない。
司令部: ニンゲン、マタギの死骸、二人とも落ち着きなさい。
ニンゲン: 言う分には簡単だ—
マタギの死骸: 司令部、彼女から伝わってくるものはある?
司令部: 心臓はまだ動いているが、視覚は全てロストしている。
マタギの死骸は沈黙する。ニンゲンは低く強調された音を立てる。
ニンゲン:. …とりあえず行こう。来い—
壁の後ろは見ないで。
愛してる。
この壁はあなたを愛してる。
ニンゲンとマタギの死骸は10分間泳ぎ続けている。
二人はリビングルームに入る。家具はひっくり返り、水損している。ランプがあるが、曲がっている。
ニンゲンは息を吐き、人工呼吸器が大きく音を立てる。彼は部屋を見回し、枠のついた窓に近付く。それを開けたり割ったりしようととするが、効果はない。
彼は頭を垂れる。
マタギの死骸は広がる廊下を見下ろす。3つ目に目を向けたとき、何かが目に留まる。
マタギの死骸: 待って— あれ私たちの印じゃない?
ニンゲンが素早く頭を振る。
ニンゲン: 何? オレンジ色か—?
マタギの死骸: そう! 確かにそう、ちょっと待って。
ニンゲンは息を切らした笑いを漏らし、二人は素早く廊下を進む。配管にオレンジ色の反射テープが取り付けられており、光を受けて蛍光を発している。
ニンゲン: なんてこった、見つけたぞ— マジかよ、来いよ—
マタギの死骸は来た道を僅かに振り返り、一瞬ためらった様子を見せてからニンゲンの後に続いて扉を抜ける。
一連の部屋を更に越えると、以前の印がもう一つ見つかる。
司令部: そちら進展はどうだ?
マタギの死骸: …上向いてる。付けておいた印を見つけた。
司令部: よし、それに従い続けなさい。回収船が上で待っている。
ニンゲンの人工呼吸器は吐息で音を立てる。彼は一瞬目をギュッと閉じてから、ペースを速める。
続く15分間印に従い、二人はリビングルームを通過する。
ランプがあるが、曲がっている。
[マタギの死骸の心拍数は上昇する]
[ニンゲンの心拍数は上昇する]
[ブラックカーペットの心拍数は安定している]
やめて。
見ようとするのをやめて。
ランプがあるが、曲がっている。4回それを通り過ぎた後、マタギの死骸は止まる。
マタギの死骸: …前もここに来た。
ニンゲン: 何?
マタギの死骸: このランプ。この部屋。同じやつ — 私たちは…… ぐるぐる回ってる。
ニンゲン: そんなはずはない。同じ廊下なら気付いたはずだろ!
マタギの死骸: 試せるかも—
ニンゲンは困惑の音を立てる。マタギの死骸は震えながら二つ目の懐中電灯を取り外す。彼女はそれを点け、光らせた状態で損傷したソファの上に置く。
ニンゲン: ……オーケー。よし— わかった、行こう。
二人はテープの印を追って戻る。ニンゲンは明らかに壁や床をちらりと見回し、呼吸のペースが速くなる。
ニンゲン: 酸素はどれくらい—?
マタギの死骸: 2時間ちょっと。
ニンゲンの声と泳ぎは目に見えて揺らぐ。
ニンゲン: こ…… こん畜生。
二人はテープを追って4度通ってきた一連の廊下と部屋を通り過ぎ、5度目に至る。
ランプがあるが、曲がっている。ソファの上には懐中電灯がある。
ニンゲンとマタギの死骸は黙って見つめる。
中に入ってきて。
あなたの暖かさを持ってきて。
壁は暖かさが恋しい。私は暖かさが恋しい。
壁はうごめいている。木はきしみ、裂ける。
ニンゲンとマタギの死骸は再びリビングルームの中にいる。家具は腐っている。曲がったランプがスクラップの山の床に置かれている。けいれんしている。
以前のループにはなかった新しい廊下を進むと、新たにテープの印がある。
ニンゲンはうつろな表情でそれを見つめる。
残った二人のメンバーは言葉を発せずに新しい廊下を、一連の印に従って進む。
マタギの死骸: …これは前に見た機関室みたい。
ニンゲン: だな。
マタギの死骸: 何か意味があるかもしれない。多分…… 多分—
二人は部屋の角を曲がる。
ガタガタと音を立てる配管に結ばれ、何百もの蛍光テープが天井からぶら下がっている。
部屋は袋小路になっている。
ニンゲン: [つぶやく]そんな— 違う違う違う—
彼は必死に頭を振り、手を持ち上げて人工呼吸器を握る。呼吸は震えており、振動する水の中で泡が激しく破裂する。
マタギの死骸は静止している。泳ぎはためらいがちになり、天井を見上げる。波打つようなテープの印を。
マタギの死骸: …これに馬鹿にされてるの?
ニンゲン: これって言えるものがあるかもわからねぇよ! ただ見失うだけなんだよ! クソ地獄で迷子なんだ! ここを出られる気配もない— 出られな—
ニンゲンは後方に泳ぎ、目は天井に釘付けになる。背中と腕が壁に触れる。彼は叫び始める。
マタギの死骸は叫び声を上げて勢いよく向きを変え、泳いで彼を掴もうとする。彼は手足をバタバタさせ、土、錆、藻が水を濁らせる。
マタギの死骸: 司令部! 司令部どうか—
彼女は今にも泣きそうに聞こえる。ニンゲンのすすり泣く声が聞こえる。
マタギの死骸: 何とかしてください— こんなとこで死にたくない—
司令部は応答しない。
あなたがいないと私のいる意味がないの。あなたが必要。私のもとに来て。
海岸線に行って。波を見て。あなたを招き寄せてる。靴を脱いで、砂の上に足を乗せて。水に入って。水に入ったら潜って。深く。深く下に潜って、私を見つけて。見つけたら中に入ってきて。中は安全だよ。ドアはあなたのために開いてるはず。あなたのために開けておくね。あなたが入ってこれるように。腐敗と痛みから私を救って。あなたの暖かさをこの廊下に伝えて。
あなたのために作られてるんだよ。だって、あなたを愛してるから。
あなたが恋しい。
マタギの死骸は独りである。人工呼吸器の中で苦しそうに呼吸する。水かきが床に触れると、彼女は抱きしめられる。
また別の魚が壁に融合している。その尾と頭はけいれんし、悶えている。別条はない。幸せだ。
魚は頭を、もがく彼女へと向ける。
魚: ここが家だ。
マタギの死骸は涙を流し始める、 喜びがすぐ先にあるから。
中に入って。あなたもたどり着けるから。
[マタギの死骸の心拍数は著しく上昇する]
[ニンゲンの心拍数は安定している]
[ブラックカーペットの心拍数は安定している]
見ようとするのをやめて。
司令部: ガンマ-6、誰か聞こえるか?
みんななら大丈夫。
誓って言うよ。
みんなは私のもとにいる。
[マタギの死骸の心拍数は安定している]
[ブラックカーペットの心拍数は安定している]
[ニンゲンの心拍数は安定している]
手を放しはしないよ。
全部、大丈夫になる。
やめられるよ。
…
ガンマ-6は去ることはなかった。
決して去れなかった。彼らはここで、フレームの中に横たわり、痙攣して身を悶えさせる。この場所はきつく、きつく掴んで離さない。
孤独だ。
そうでないはずなどあろうか?
ワイヤーが肉に巻き付き、海にむしばまれた金属や腐った木へと引っ張る。絶望的で、致命的な抱擁。木はウェットスーツへと溶け込み、彼らを壁へと融合させる。司令部は故障した通信を通して大声で叫ぶが、それを聞く者はもはや言葉を返すことはない。圧倒的な力で取り囲む、どこまでも深く轟く水に貪り喰われる。彼らは横たわって口を大きく開け、指を引きつらせる。まるで死にかけの魚のように。だがしかし、彼らが死ぬことはない。まだ死なない。それは彼らを放さない。彼らの暖かさを、もう一度その中で生きるものの暖かさを欲している。その暖かさが水の中の血を通して伝わるというなら、そうさせる。
家は、中に人がいなければ住まいとは呼べない。操舵手がいなければ船に意味はない。沈没船は死体の一種だ。
今や、ワイヤーは臓器にまで入っている。それは掴むことのできる全てに広がっていく。赤いワイヤーは血液を模倣するかのように動脈を通り、青いワイヤーは灰白質を通って — どこもかしこも掴んでいく。フェイスマスクのガラスがひび割れ、人工呼吸器が勢いよく息を吐きだすとともに、喉は音を鳴らさなくなる。タンクはもう2時間もつ。
船殻が — 壁が — 家がきしむ。その基礎は固まる。
ワイヤーは彼らの目にある。頭蓋は金属へと溶け込んでいる。彼らはやっと、安らかになる。
SCP-8770は今、居住されている。
最後に回収されたガンマ-6の画像。